裁判の記録 line
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2016年
(平成28年)
[7月〜12月]
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7月7日 業務用スライサーのプログラムと取説事件
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 パン切断装置の特許権を有し、装置のついた製品を製造販売する原告会社が、同様の切断装置を製造販売する被告会社に対して、特許権に基づく被告製品の製造販売の差止と廃棄、原告製品にインストールされたプログラムの著作権を侵害されたとして著作権に基づく被告製品の製造販売の差止と廃棄、原告製品の取扱説明書の著作権を同様の被告切断機取扱説明書により侵害されたとして被告取扱説明書の作成頒布の差止と廃棄、さらにそれらを原因とする不法行為による損害賠償金8千万円の支払いを求めた事件。
 裁判所は、本件特許は進歩性を欠くから特許無効審判により無効にされるべきと判断、またプログラムの創作性を否定してプログラム著作権に基づく請求を認めず、取扱説明書における図面と写真の複製権侵害だけを認めて、その作成頒布の差止と廃棄、損害賠償金6万2500円の支払いを命じた。
判例全文
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7月19日 舞妓写真の“日本画”モデル事件
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 日本画家である原告が、同人の撮影した舞妓の写真を利用して日本画を制作し展覧会に出展した別の日本画家である被告に対して、著作権及び著作者人格権侵害を理由として、損害行為の禁止等(翻案の差止、展示譲渡の差止及び廃棄)と損害賠償金1980万円の支払いを求めた事件。原告は目を患っていた別の日本画家Pのために本件写真を含む舞妓の写真を提供し、Pはそれらを被告に提供した。いずれも未公開の写真である。
 裁判所は本件写真の著作物性、原告が著作者人格権及び著作権を有すること、被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害を認め、被告に損害行為の禁止と、損害賠償金40万円の支払いを命じた。
判例全文
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7月19日 朝日ネットへの発信者情報開示請求事件
   東京地裁/判決・請求認容
 レコード会社である原告らが、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告・朝日ネットに対し、氏名不詳者が原告らのレコードに収録された楽曲を被告の提供するネット接続サービスを利用して自動公衆送信しうるようにした行為が原告らの著作権を侵害するとして、プロバイダ責任制限法に基づき、被告の有する氏名不詳者の発信者情報を開示するよう求めた事件。
 裁判所は、氏名不詳者の原告らに対する著作権侵害は明らかであるとして、原告らの主張を認め、被告に発信者情報の開示を命じた。
判例全文
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7月19日 ポスターのホームページ掲載事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 クラシックコンサートの企画制作会社である原告会社は、(1)平成19年から23年までに開催されたコンサートに係る業務を受けるに際し、信用金庫である被告との間で、これらコンサートを内輪の催事ないし非公開とする代わりに原告会社が低価格で受託する旨合意したにもかかわらず、被告がコンサート開催をホームページに掲載したのは合意に反し、不法行為にもあたるとして、被告に対して1002万円余の損害賠償金を求め、(2)原告会社が著作権を有する平成23年11月25日開催のコンサートに係るポスターを被告が無断でホームページに掲載したのは著作権侵害にあたるとして30万円の損害賠償金を求め、(3)同コンサートの演奏場面を撮影した写真を合意に従った処理をせずに被告発行の雑誌に掲載したことに関して50万円の損害賠償金支払いを求め、(4)原告会社代表原告Aに対する慰謝料合計100万円の支払いを求めた事件。
 裁判所は、(1)の合意を認めず、(2)のポスターは原告Aと被告の従業員の共同著作物であるとして侵害に当たらないと判断、(3)は侵害の成立を否定、(4)は理由がないとして、共に主張を退け、原告らの請求を棄却した。
判例全文
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7月27日 輸入代理店vs直輸入店 取扱説明書事件 
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 「スイマーバ」という商品名の乳幼児用浮き輪の日本における総代理店である原告が、本件商品を販売する際に同封している説明書中の説明文及び挿絵は原告が著作権を有する法人著作物であるところ、直輸入品の販売を営む被告が本件商品を販売する際に同封した説明書の説明文及び挿絵は、原告著作物を複製したものであり、原告の著作権及び著作者人格権を侵害しているとして、被告説明書の複製・譲渡の差止め、廃棄及びデータの消去、損害賠償金127万円の支払いを求めた事件。
 裁判所は、説明文については原文が英語文でその部分に原告に著作権がなく、日本語説明文で新たに加えられた部分はわずかである上ありふれた表現で創作性がないと判断、乳幼児が浮き輪を使用している挿絵について被告による著作権侵害を認めて、被告に対し、その挿絵の記載を含む説明書の複製・譲渡の差止め、廃棄・抹消と、損害賠償金13万円の支払いを命じた。
判例全文
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8月3日 ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件B
   東京地裁/判決・請求認容
 レコード製作者である6社(原告ら)が、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告・ソフトバンクに対し、氏名不詳者が原告らのレコードに収録された楽曲を被告の提供するネット接続サービスを利用して自動公衆送信しうるようにした行為が原告らの著作権を侵害するとして、プロバイダ責任制限法に基づき、被告の有する氏名不詳者の発信者情報を開示するよう求めた事件。
 裁判所は、氏名不詳者の原告らに対する著作権侵害は明らかであり、原告らは発信者情報を受けるべき正当な理由があるとして、被告に発信者情報の開示を命じた。
判例全文
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8月3日 ビジネスソフトの譲渡・貸与権事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 「顧客・販売管理システム」「派遣スタッフ出勤管理システム」「電話通信連携ソフトウェア」等のプログラムを作成し、著作権を有するとするソフト製作会社(原告)が、通信機器販売会社(被告)が原告プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバにインストールした行為は、原告の有する譲渡権を侵害する行為であり、また原告プログラムをレンタルサーバ上に設置して被告の顧客に使用させた行為は、原告の有する貸与権を侵害する行為だとして、被告に対し損害賠償金201万円余の支払を求めた事件。
 裁判所は、被告の行為はそれぞれ「譲渡」「貸与」に当たらないとして、侵害を否定、原告の請求を棄却した。
判例全文
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8月19日 “映画村”記事の類似事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 映画プロデューサーである原告は雑誌「プレジデント」に東京国際映画祭についての文章を執筆したが、同映画祭について書かれた被告・朝日新聞社の運営するウェブサイトの英文記事により、著作権(翻案権)及び著作者人格権を侵害されたとして、被告に対して、損害賠償金340万円の支払いと謝罪文の掲載を求めた事件。
 裁判所は原告と被告の具体的な表現について比較検討し、いずれも創作性のない部分において同一性を有するにすぎず、著作権侵害とは言えないと判断、著作者人格権侵害も否定して、原告の請求を棄却した。
判例全文
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8月30日 NTTコムへの発信者情報開示請求事件C
   東京地裁/判決・請求認容
 レコード製作者である3社(原告ら)が、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告・エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズに対し、氏名不詳者が原告らのレコードに収録された楽曲を被告の提供するネット接続サービスを利用して自動公衆送信しうるようにした行為が原告らの著作権を侵害するとして、プロバイダ責任制限法に基づき、被告の有する氏名不詳者の発信者情報を開示するよう求めた事件。
 裁判所は、氏名不詳者の原告らに対する著作権侵害は明らかであり、原告らは発信者情報を受けるべき正当な理由があるとして、被告に発信者情報の開示を命じた。
判例全文
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9月15日 ツイッターへの発信者情報開示請求事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 プロカメラマンである原告が、インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、原告の著作物である写真を (1)氏名不詳者により無断でプロフィール画像として用いられ、その後タイムライン及びツイート(投稿)にも用いられたこと、(2)画像つきツイートの一部としても用いられタイムラインにも表示されたこと、(3)(2)のツイートのリツイートがされてタイムラインに表示されたことにより、原告の著作権及び著作者人格権が侵害されたとして、プロバイダ責任制限法に基づき、被告ツイッタージャパンと被告米国ツイッター社に対して、発信者情報の開示を求めた事件。
 裁判所は被告ツイッタージャパンは利用者の特定に関する情報の保有や情報開示権限を有しているとは伺えないとし、またリツイート行為はそれ自体として送信・送信可能化していないから(3)による著作権等の侵害は成立しないとした。その上で氏名不詳者による(1)(2)の行為は侵害にあたるから、原告による氏名不詳者のメールアドレス情報開示請求は理由があるが、請求されたそれ以外の情報は被告米国ツイッター社が保有していない、あるいは侵害情報が発信された行為と無関係であるとして、被告米国ツイッター社に対し(1)(2)のアカウントの発信者メールアドレスの開示を命じ、その余の原告の請求は棄却した。
判例全文
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9月28日 スマホケースの独占的利用許諾事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 スマホ用ケース販売会社(原告会社)とアーティスト4人(原告ら)が、日用品販売会社(被告)に対し、被告の販売するスマホ用ケースに使われ、その写真がウェブサイトにも載せられた絵画は、原告らの絵画を無断で使用したものであり、原告らの著作権及び著作者人格権を侵害し、原告会社の独占使用権を侵害するとして、商品やデータの廃棄、送信可能化の差し止め、および原告らへの合計570万円余、原告会社への113万円余の賠償金支払いを求めた事件。
 裁判所は同一性保持権侵害以外の侵害行為を認め、廃棄と差し止め、原告らへの合計30万円余、原告会社への59万円余の支払いを命じた。
判例全文
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9月29日 通販管理システムの利用契約事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 サプリ製造販売会社(被告)から通販管理システムを機能させるプログラムの作成を委託され、作成して被告に利用させていたソフト開発会社(原告)が、利用契約終了後も被告が同プログラムを複製利用しているのは原告の著作権を侵害するものであるとして、被告に対し、損害賠償金1896万円余の支払いを請求した事件。原告は原告の従業員が創作性を発揮して本件プログラムのHTMLを制作したと主張した。
 裁判所は、本件HTMLに関しての原告従業員の役割は、被告従業員に指示された通りの内容形式で、外部システム制作会社から送信されたデザイン等を用いて本件HTMLを制作することであったに過ぎないと判断し、原告が本件HTMLの著作者であるとは言えないとして、原告の請求を棄却した。
判例全文
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10月13日 幼児用箸のデザイン画事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 「エジソンのお箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している会社(一審原告)が、「デラックストレーニング箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している会社(一審被告)に対し、被告商品は原告商品の著作権(複製権・翻案権)を侵害するとして、製造販売の差止・廃棄および2400万円の損害賠償金支払いを求めた事件の控訴審。一審東京地裁は原告商品の著作物性を否定し、原告の請求を棄却したが原告が控訴した。
 知財高裁も原審の判断を維持、原告商品の表現は美的鑑賞の対象になるような創作的なものではないし、実用的観点からの工夫はあったとしても創作的工夫は認められないとして、控訴を棄却した。
判例全文
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10月13日 メイク専門学校のリーフレット写真事件
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 カメラマン(原告)が撮影して、メイク専門学校運営会社(被告)が経営する結婚式場のリーフレット用に提供した写真を、被告が使用期間を超えて使用し、被告会社や関連会社のホームページで使用するなど、許諾の範囲を超えて使用したとして、原告が被告に対し、1600万円の損害賠償金支払いを求めた事件。
 裁判所は、被告が適式の呼び出しを受けながら口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないことから、擬制自白を認め、原告の写真を保管する被告の著作権侵害を認定して、損害額を算定、被告に対して790万円の支払いを命じた。
判例全文
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10月19日 ライブハウス生演奏事件(2)
   知財高裁/判決・変更
 JASRAC(一審原告)が、ライブハウス経営者とロックバンドドラマー(一審被告ら)に対し、ライブバー「X.Y.Z→A」を被告らが共同経営しているところ、被告らが原告との間で利用許諾契約を締結しないまま同店内でライブを開催し、原告が管理する著作物を演奏させていることは著作権侵害に当たるとして、著作物使用の差し止めと、損害賠償請求ないし不当利得返還請求として703万円余の支払い、更に将来も被告らの不法行為が継続することは明らかだとして、口頭弁論終結以降使用終了まで月6万円余の使用料相当額の支払いを求めた事件の控訴審。被告らは、演奏主体は出演者であってライブハウス側ではない等と主張したが、一審東京地裁は被告らを演奏主体と認め、その他の被告らの主張も退けたが、原告の将来請求は却下して、被告らに対し、著作物使用の差し止めと、損害額または不当利得額283万円余の支払を命じた。これに対し、双方が敗訴部分を不服として控訴した。
 知財高裁は、演奏主体、著作権侵害の当否等については原審判決を維持し、損害賠償請求に関しては、将来請求は原審同様に却下したが、それ以前のものについては原告側の資料を重視して賠償額を増額、被告側に546万円余の支払いを命じた。
判例全文
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10月19日 「中日英ビジネス用語辞典」の増刷印税未払い事件(2)
   知財高裁/判決・変更
 一審被告である出版社ジャパンタイムズ社から出版された『中日英ビジネス用語辞典 会計・金融・法律』の編著者である一審原告が、被告との間で締結した本件書籍の出版契約に基づく印税が未払いであるなどと主張して、被告に対し、契約に基づく印税140万円の支払いと不法行為に基づく損害賠償金1080万円の支払い、その余の請求をした事件の控訴審。
 一審東京地裁はその余の請求は却下し、印税支払い請求については、増刷を裏付ける証拠は見当たらないので支払い時期は平成28年5月16日になるとし、損害賠償金については、本件書籍の印刷部数ないし実売部数を実際よりも低く伝えたことを認めるに足る証拠はないとして、原告の請求を棄却したが、原告が印税140万円および不法行為に基づく損害賠償金500万円の支払いを求める限度において控訴した。
 知財高裁は、原審判決を変更し、増刷分は認めないながらも、28年5月16日に支払われるべき発行2年後以前の出荷数に応じた印税55万円余と、それ以降7月22日までに出荷された10冊分の印税を合わせた56万8400円の支払いを原告に命じた。また不法行為に関する原告の主張は退けた。
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10月21日 会員情報管理システム「知らせますケン」事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 コンピュータ関連機器販売会社(被告)にかつて雇用されていた原告が、原告が被告の従業員として開発に従事したコンピュータシステムないしプログラムである「知らせますケン」及び「会員情報管理システム」について、(1)被告が納入先から得た請負代金及び保守代金を原告に分配していないことが不当利得に当たると主張して、原告の寄与分1938万円余の支払い、(2)原告が加重労働を原因とするうつ病を発症し後遺障害を生じて退職・休業を余儀なくされた損害賠償として6286万円余の支払い、(3)原告が制作に従事した「会員情報管理システム」は権利濫用ないし公序良俗違反に当たるから職務著作とは認められないとして、原告が著作権者であることの確認と、著作者人格権に基づく目録記載文言の使用禁止、(4)原告が受領すべき保険金少なくとも8万1千円の返還、(5)原告の照会に対し被告が書面開示を拒否した不法行為に基づく損害賠償金6866円の支払い、を求めた事件。
 裁判所は(1)被告による不当利得を認めず、(3)「会員情報管理システム」は職務著作であると認め、その他の原告の主張も理由がないとして、請求を棄却した。
判例全文
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10月25日 総合業務管理ソフトの譲渡契約事件
   東京地裁/判決・第1事件請求棄却、第2事件請求棄却(控訴)
 第1事件は、ソフトウェア開発販売会社(原告)が、コンピュータ情報処理サービス会社(被告)に対して、総合業務管理ソフトウェアパッケージである新旧のBSS―PACKに含まれる本件営業秘密部プログラムは、原告の営業秘密に当たるが、被告がこれを取得し使用して被告製品を製造販売したことは、不正競争行為だと主張して、被告製品の販売差し止めと廃棄を求めるとともに、継承参加人ら(同じくソフトウェア開発販売会社やその代表者たち)が継承参加を申し出て同趣旨の請求をした事件。第2事件は第1事件原告と継承参加人らを合わせた原告らが、被告に対し、新旧BSS―PACKの本件先行ソフトウェア部品プログラムの著作権を有することの確認を求めた事件。原告は第三者に著作権を譲渡、第三者は被告に譲渡していた。
 裁判所は、本件譲渡契約によって第三者を挟み被告に譲渡されたのは、新旧BSS―PACKに関するプログラム著作物のすべてであると解するのが相当であるとして、原告らの第1事件第2事件の請求は理由がないと判断し、請求を棄却した。
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10月25日 著作権の法定相続事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 故人であるノンフィクション作家Aは自分の財産を「知と文明のフォーラム」に寄付すると書いた文書を遺した。この裁判は、一般財団法人となった「知と文明のフォーラム」(原告)が、Aの著作物の著作権を含む財産を法定相続により取得したとするAの夫(被告)に対して、主位的に自筆証書による遺言に基づいて原告が遺贈を受けたこと、予備的に死因贈与を受けたことを主張して、不当利得(主位的)または死因贈与契約(予備的)に基づく3000万円の支払いと、原告が本件各著作物の著作権を有することの確認を求めた事件。
 裁判所は黒インクと鉛筆で遺言を記した本件文書について、多数の加筆訂正が遺言書に求められる方式によらずになされており、作成の時点で記載内容が確定していなかったと考えられること、Aの書斎に置いてあった書類に紛れる形で保管されており、遺言書という重要な書類の保管方法としては不自然であること、作成直後からAは複数の弁護士に遺言書の作成について相談しており、本件文書はその下書きないし草案と考えられることなどから、本件文書は遺言書として確定したものとは認められず、自筆証書遺言としての効力を有しないと判断した。またAと原告との間に死因贈与契約が締結されていたことも認められないと判断、原告の請求を棄却した。
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10月27日 仕入価格分析ソフトとデータベースの翻案権侵害事件
   東京地裁/判決・請求一部却下、一部棄却(控訴)
 ネットを利用しての小売業者からの商品発注を取り次ぐ事業を行っている会社(原告)が、同じくネット利用の情報提供や処理業務を行う会社(被告)に対して、原被告間の競合禁止合意に基づく事業の差止め、原告の有する情報を記載した文書の配布の差止め、原告が著作権を有する本件事業に係るソフトウェアおよびデータベースの使用の差止め並びにそれが収納された媒体の廃棄等を請求した事件。原告は、特定の小売業者と他社の原価を比較することで当該業者の仕入効率の良否を判定する文書を作成し当該業者に配布していたが、被告の代表者はかつて原告の取締役を勤めており、原告の元代表者の承諾のもと、その文書を利用していた。
 裁判所は、原被告間の競合禁止合意の成立および被告による文書の不正使用の事実を認めず、また原告が主張する著作物性はソフトウェアのどの部分に創作性があるのか特定できないから著作権侵害を前提とした請求は成り立たないとして、文書配布差止め請求、データベース使用差止めと廃棄請求等を却下し、その余の請求は棄却した。
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11月2日 ジャズCDの委託契約事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却、附帯控訴一部認容、一部棄却、拡張請求棄却
 ジャズのCDをめぐって、そのレコード製作者である一審原告会社及び収録楽曲の実演家であり原告会社の代表でもある一審原告が、本件CDの製造販売を行った一審被告会社2社及びその代表や従業員に対して、被告らが契約外のレンタルや配信業務を行ったこと等による債務不履行や著作隣接権侵害に基づく損害賠償請求した事件の控訴審。一審東京地裁は被告1社に50万円の賠償金支払いと2社連帯しての賠償金7077円の賠償金支払いを命じたが、被告1社が控訴し、原告会社は著作隣接権侵害の賠償請求額を拡大して附帯控訴した。その結果二審は(1)原告が有する著作隣接権を侵害したことを理由とする損害賠償金722万円余の支払い、(2)本件CDを廃盤にして原告の所有権を侵害したことを理由とする損害賠償金839万円余の支払い、以上2件の弁護士相談料に関わる賠償金113万円余の合計1674万円余の支払いを求めた事件となり、その余の一審判決は確定した。
 知財高裁は基本的に原審の判断を維持し、損害額については、配信部分について増額の認定がされた。
判例全文
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11月10日 朝日新聞のブログ記事参考事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 有用微生物群(EM菌)の研究者である大学名誉教授(一審原告)が、朝日新聞社(一審被告)に対し、被告の発行する新聞の記事に原告の執筆したブログの一部を引用したことは原告の複製権及び同一性保持権の侵害に当たる等として、損害賠償金352万円の支払いと謝罪広告の掲載を求めた事件の控訴審。一審東京地裁は、ブログと記事とで表現上共通する部分は原告の思想そのものということができ、著作権法において保護の対象となる著作物に当たらないとして請求を棄却したが、原告が控訴した。
 知財高裁は原審の判断を維持、控訴を棄却した。
判例全文
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11月11日 「著作権判例百選」の編集著作権事件(2)
   知財高裁/決定・取消(特別抗告)
 相手方(大学教授、原審債権者)は、「相手方は編集著作物である著作権判例百選(第4版)の共同著作権者の1人であるところ、抗告人(出版社・有斐閣、原審債務者)が発行しようとしている著作権判例百選(第5版)は第4版を翻案したものであるから、第4版の著作権を侵害する」などと主張して、抗告人による第5版の複製・頒布を差し止める仮処分命令を求める申し立てをした。東京地裁はこの申し立てを認める仮処分決定をした。これを不服とした抗告人が異議を申し立てたが、東京地裁は本件仮処分決定を認可した。この原決定を不服とした抗告人が、原決定及び本件仮処分決定の取り消し並びに本件仮処分申し立ての却下を求めた抗告審。
 知財高裁は、第4版に相手方の氏名が編集著作者名として表示されていることから、著作者の推定が及ぶとしたうえで、その推定の覆滅の可否を検討し、編集行為の具体的内容や背景事情などを踏まえ、結論として相手方はアドバイザーの地位に過ぎないと認定して、著作者の推定にもかかわらず相手方を第4版の著作者ということはできないと判断、相手方の差し止め請求権は認められず、仮処分申し立ては却下、これを認めた本件仮処分決定及びこれを認可した原決定は取り消された。
判例全文
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11月17日 雑誌標章“HEART nursing”事件B
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 判決確定した「雑誌標章“HEART nursing”事件」(原審大阪地裁・2012年6月7日判決、控訴審大阪高裁・2014年1月17日判決)の原告・被控訴人であった医学出版社(原告)が、同事件の被告・控訴人であった医学出版社(被告会社)と、それに加えて新らたに被告会社の代表取締役(被告P1)と取締役(被告P2)に対して、被告会社が前件判決確定後も原告雑誌の題号に類似する題号の被告雑誌の出版を継続していることから、下記要求をした事件。被告会社に対して、当該雑誌出版行為が不正競争に当たることを理由とする1872万円の損害賠償金支払い。被告P1及びP2に対して、これと同額の賠償金に加えて前件判決の対象となった期間の賠償金等を含む4628万円の損害賠償金の支払い。
 裁判所は被告会社及び被告P1の不正競争行為を認め、損害額を算出して、被告会社に105万円余、被告P1に352万円余の支払いを命じたが、被告P2に対する請求は理由がないとして棄却した。
判例全文
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11月28日 カーナビ地図データの使用許諾契約事件
   大阪地裁/判決・第1事件請求一部認容、一部棄却、第2事件請求棄却
 カーナビゲーションシステム制作会社(原告)と自動車用品製造販売会社(被告)は、原告が使用権あるいは著作権を有する地図データについて、有償使用許諾契約を結んでいたが、被告が原告に1億円の使用権料を支払ったのちに、原告がデータの提供を中途で拒絶したことから、被告が残金の支払いを拒否し、契約解消を通知した。第1事件は、原告が被告に対し、契約に基づき残金5940万円の支払いを求めた事件であり、第2事件は被告が原告に対し、契約解除に基づき原状回復請求権として支払い済み使用権料の返還を求めた事件である。
 裁判所は、原被告間により基本使用権料を1億5500万円で合意したものと認めるのが相当であると認定した上で、原告が中途で本件データの提供を拒絶したことは原告の責めに帰すべき債務不履行であり、被告の契約解除意思表示は有効と判断、本件契約解除による使用権料の支払い義務を、被告が使用許諾の利益を享受したと認められる期間として、その額を算出、被告が既に支払った額を超える分の1445万円の支払いを被告に命じ、その余の原告の請求を棄却、第2事件における被告の請求は棄却した。
判例全文
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11月30日 類似“加湿器”の不正競争事件(2)
   知財高裁/判決・変更
 加湿器の開発者であるプロダクトデザイナー(一審原告ら)が、家電輸入卸会社と雑貨店(一審被告ら)に対して、被告商品の形態は原告加湿器の形態に依拠しこれを模倣したものであるとして、被告らによる被告商品の輸入及び販売は著作権侵害および不正競争に当たるとして、輸入等の差し止めと損害賠償金各120万円の支払いを求めた事件の控訴審。当該加湿器はスティック型をしており、原告作品は試作品として展覧会に出展された。一審東京地裁は原告加湿器は不正競争防止法にいう「商品」に当たらないと判断し、またその著作物性を認めることはできないとして、原告の請求を棄却したが、原告が控訴した。
 知財高裁は不正競争防止法の「他人の商品」について言及した上で、原告加湿器は開発・商品化を完了しており「他人の商品」に当たるとし、被告商品は原告加湿器を模倣したものと判断した。加湿器の著作物性は原審同様に認めず、また保護期間終了により輸入の差し止めも認めなかったが、損害賠償請求の当否判断のため被告の過失の有無を検討し、これを認めて損害額を各94万円余と算出し、被告に支払いを命じた。
判例全文
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12月8日 「バシッと!キメたいそう」事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 音声映像ソフト企画制作会社(一審被告SME)の従業員(一審被告Z)による楽曲募集に応募した作曲家(一審原告)が、被告作曲家(一審被告Y)、被告Z、被告SMEが、原告の応募曲(原告楽曲)に依拠してこれに類似した被告楽曲を創作し、被告テレビ会社(一審被告TSC)がこれを番組内で放送し、被告音声映像商品販売会社(一審被告SMD)がこれを収録したDVD等を販売したことが、原告の著作権及び著作者人格権を侵害しているとして、被告らに対し、被告楽曲の録音、演奏、収録DVDの販売等の差し止めと損害賠償金合計2億2000万円(被告Y、被告Z及び被告SMEに9000万円、被告TSCに7000万円、被告SMDに6000万円)の支払いを要求した事件の控訴審。一審東京地裁は、いずれも募集条件に合致するように作曲されている原告楽曲と被告楽曲の各楽譜について検討を加え、被告楽曲が原告楽曲の複製または翻案に当たると評価することはできないと判断し、請求を棄却したが、原告は差し止め請求棄却の部分を不服として控訴した。
 知財高裁は原審の判断を維持、被告らによる複製・翻案を認めず、控訴を棄却した。
判例全文
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12月15日 講演会の無断ライブ配信事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 宗教法人の元職員ら4人(原告ら)による講演を、戦後史全般をテーマとする著述家(被告)がインターネット上で配信したことに関して、原告らが被告に対し、著作者人格権(公表権)及び著作権(公衆送信権)が侵害されたとして、原告X1、X2につき各550万円、X3、X4につき各110万円の損害賠償金支払いを求め、また原告X1が被告に対し、X1の名誉声望を害する方法で行われたとして謝罪広告の掲載を求めた事件。
 裁判所は、公表権侵害については、本件公演は不特定または多数の者に対して行われており「未公表」ではないとして認めなかったが、公衆送信権侵害は被告による「時事の事件の報道」主張を退けて認定し、原告X1、X2に対し各7万円、X3に対し1万2千円、X4に対し4千円の支払いを原告に命じた。謝罪広告の掲載請求は認めなかった。
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12月15日 “ゴーストライター騒動”公演中止事件
   大阪地裁/判決・本訴請求一部認容、一部棄却、
            反訴請求一部認容、一部棄却(控訴)
 全聾の作曲家として活躍していた音楽家が、実は18年にわたってゴーストライターに作曲させていたことが発覚した。それにより、実施中だった全国公演は、中止を余儀なくされた。【本訴】全国公演のイベントプロモーターが音楽家に対して、全聾の中で作曲したという説明が虚偽であることを隠して公演実施を許可したこと、更にその後もより多くの公演実施を強く申し入れたことにより多数の全国公演を行ったが、虚偽説明が公になり、多額の損害を被ったとして、損害金6131万円余の支払いを求めた事件。【反訴】音楽家がプロモーターに対して、音楽家が著作権を有する楽曲を使用しながら使用料を支払わないで使用料相当額の利得を得ているとして、不当利得730万円余の返還請求をした事件。
 裁判所は、【本訴】全聾という事情がなければ原告は本件公演を実施しなかったであろうから、被告には原告に事実を告げる義務があり、その義務に反してそれを伝えずに多額の費用を要する全国公演の実施を了承し、更に公演数を増やすよう強く要望して積極的に企画に関与した行為は原告に対する不法行為を構成すると判断、損害額を5677万円余と算出して、被告に支払いを命じた。【反訴】ゴーストライターから原告(音楽家)への著作権譲渡を認定して、原告には本件楽曲に係る使用料相当額の損失があるとして、被告(プロモーター)にJASRACに支払うべき使用料相当額410万円余の支払いを命じた。
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12月20日 カラオケ動画の“YouTube”公開事件
   東京地裁/判決・請求認容
 カラオケ店舗においてカラオケ機器を利用して歌唱する様を自撮りしてYouTubeに載せた被告に対して、原告であるカラオケ機器製造販売会社が、被告の行為は音源の著作権侵害であり、また本件動画は既にYouTube上から削除されているとしても、被告による送信可能化権侵害を防ぐためには本件動画のデータを消去する必要があるとして、送信可能化の差止めと記録媒体からのデータの削除を求めた事件。
 裁判所は原告の主張を認め差し止めとデータの削除を命じた。
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12月20日 NTTコムへの発信者情報開示請求事件D
   東京地裁/判決・請求認容
 アニメ映画「ヱヴァンゲリヲン」の予告映像を氏名不詳者により無断でYouTube上に配信され、著作権が侵害されたとして、当該映画の制作会社(原告)が、インターネット接続サービスを提供するNTTコミュニケーションズ(被告)に対して、プロバイダ責任制限法に基づき、発信者の情報を開示するよう求めた事件。
 裁判所は、原告が本件予告映像の著作権者であること、本件動画はその複製であり、投稿配信は著作権侵害であること、原告には本件発信者情報の開示を受ける正当な理由のあることを認め、被告に対して、発信者の氏名、住所、メールアドレス等の情報を開示するよう命じた。
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12月21日 ゴルフシャフトのデザイン画事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 グラフィックデザイナーである一審原告がゴルフ用品製造販売会社である一審被告に対して、被告の販売するシャフトは、原告が著作権を有するゴルフクラブのデザイン及びその原画の著作権と著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、また被告の頒布するカタログは原告のカタログの同一性保持権を侵害しているとして、被告に対し、不当利得金および慰謝料合計5825万円の支払いと、製造・頒布の差し止めと廃棄、謝罪広告の掲載を求めた事件の控訴審。一審東京地裁はゴルフクラブのシャフトというような実用品のいわば応用美術の著作権について触れた上で、本件シャフトデザインおよび原画は著作権法上の著作物に当たらないとして原告の主張を認めず、請求を棄却したが、原告が控訴した。
 二審も原審の判断を維持し、その著作物性を認めず、控訴を棄却した。
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12月22日 コミュニティFMのサイマル配信事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 コミュニティ放送を行う29のラジオ局運営会社(一審原告ら)が、日本レコード協会(一審被告)による契約更新拒絶(原告らがサイマル放送でザッピング機能を提供したことは被告との間の利用許諾契約に違反しているとする契約自動更新の拒絶)は著作権等管理事業法もしくは独占禁止法により禁止されている行為に該当し、私法上無効であると主張して、使用料を支払うことにより原告らが被告管理のレコードを利用できる契約上の地位にあることの確認を求めた事件の控訴審。一審東京地裁は原告らの主張を退け、本件更新拒絶は無効とはいえないと判断して、請求を棄却したが原告が控訴した。
 知財高裁も原審の判断を維持して控訴人の主張を認めず、控訴を棄却した。
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12月22日 宇多田ヒカルの歌詞共同著作事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 一審原告が、原告は宇多田ヒカル名義の編集著作物であるCDアルバム「First Love」等の楽曲の歌詞の共同著作者であり、「B&C」はじめ数楽曲の歌詞の一審被告による創作に関与したが、被告が原告の氏名を表示せず、被告のみが著作者として利益を得ており損害を被ったとして、被告に対して、原告の氏名表示、著作物発表前の原告への通知、損害賠償金の支払い等を求めた事件の控訴審。一審東京地裁は、被告の創作に際して原告の伝達内容が被告に伝えられたとする原告の主張は認め難い上、仮に認められたとしてもその内容は創作のための着想に過ぎないとして退け、請求を棄却したが原告が控訴した。
 知財高裁は、控訴人の主張は改めて検討しても採用できず、当裁判所も各請求はいずれも理由のないものと判断するとして、原審の判断を維持、控訴を棄却した。
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12月26日 「性犯罪被害にあうということ」映画化事件(2)
   知財高裁/判決・変更
 ノンフィクション作品『性犯罪被害にあうということ』及び『性犯罪被害とたたかうということ』の著者である一審原告が、テレビディレクター兼プロデューサーである一審被告に対して、被告の作った映画は原告のこれらの書籍の複製物又は二次的著作物であるとして、著作権及び著作者人格権の侵害を主張、本件映画の上映等の差し止めと本件映画のマスターテープ等の廃棄、損害賠償金合計500万円の支払いを求めた事件。一審東京地裁は、エピソード別対比表の各エピソードを検討して侵害部分を認定、また被告は性犯罪被害をテーマにした映画を製作するに際しての原被告間の本件各著作物不使用合意に違反して本件映画を製作したとして、被告に対し、侵害部分を含む映画の上映等の差し止め、マスターテープ等の廃棄、並びに損害賠償金55万円の支払いを命じたが、被告が控訴した。
 知財高裁は、差し止めの対象となる表現などの違いを除いて大筋で原審の判断を維持する、原判決変更の判決を下した。公開された判決文には、詳細な「エピソード別対比表」「翻案権侵害認定表現目録」「人格権侵害認定表現目録」「控訴人確定稿対比表」「合意に基づく差止一覧」「合意に基づく差止一覧についての補足説明」が付されている。
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