判例全文 | ||
【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件B 【年月日】平成28年8月3日 東京地裁 平成28年(ワ)第15218号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成28年6月22日) 判決 原告 株式会社トイズファクトリー 原告 エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社 原告 株式会社ポニーキャニオン 原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ 原告 株式会社バップ 原告 日本コロムビア株式会社 上記六名訴訟代理人弁護士 尋木浩司 同 林幸平 同 亀井英樹 同 塚本智康 同 笠島祐輝 同 吉田修一郎 同 松木伸行 同 石坂大輔 同 前田哲男 同 中川達也 同 福田祐実 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦 同 梶原圭 同 寺門峻佑 同 田中真人 同 小塩康祐 同 丸住憲司 同 稲葉大輔 同 中山祥 同 藤井康太 主文 1 被告は、別紙対象目録の「原告」欄記載の各原告に対し、それぞれ対応する同目録の「日時」欄記載の日時頃に「IPアドレス」欄記載のインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の「発信者情報」欄記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文第1項と同旨 第2 事案の概要 1 本件は、別紙対象目録の「CD(商品番号)」欄に各記載のレコードの送信可能化権を有すると主張する原告らが、氏名不詳者が上記レコードに収録された楽曲を複製してコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置し、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動公衆送信し得る状態にした行為により上記送信可能化権を侵害されたことが明らかであり、権利の侵害に係る発信者情報の開示を受ける正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、単に「法」という。)4条1項に基づき、経由プロバイダである被告に対し、上記発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等。なお、書証の枝番号の標記は省略した。) (1) 別紙対象目録の「レコード製作者」欄記載の者は、それぞれ対応する同目録の「実演家」欄記載の実演家が歌唱する「楽曲」欄記載の楽曲を録音したレコード(以下「本件各レコード」と総称する。)を製作し、「発売年月日」欄記載の日に「CD(商品番号)」欄記載の商業用12センチ音楽CDに収録して日本全国で発売した(甲3)。 (2) 原告エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社(従前の商号はエイベックス・マーケティング株式会社)は、平成26年7月1日、エイベックス・エンタテインメント株式会社から、別紙対象目録2の「CD(商品番号)」欄記載のレコードの送信可能化権を含む音楽事業の権利義務の承継を受けた(甲9ないし11)。 (3) 原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズは、平成26年4月1日、株式会社エピックレコードジャパン及び株式会社デフスターレコーズを吸収合併した(甲12)。 (4) 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。 3 争点 (1) 本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか(法4条1項1号該当性。争点1) (2) 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(法4条1項2号該当性。争点2) 4 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)について 【原告らの主張】 氏名不詳者(1名に限られない。)は、別紙対象目録の「CD(商品番号)」欄記載のレコードに収録された楽曲をmp3方式により圧縮して複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置した上、被告の提供するインターネット接続サービスを利用して、それぞれ対応する同目録の「IPアドレス」の割当てを受けてインターネットに接続し、「日時」記載の日時頃、ファイル共有ソフトウェアであるGnutellaと互換性のあるソフトウェアを用いて上記複製に係るファイルを不特定の他の上記ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置き、もって、本件各レコードの送信可能化権を侵害した。 【被告の主張】 送信可能化されたファイルが本件各レコードの複製物であるかは明らかではない。また、原告らが主張するIPアドレス及びタイムスタンプの正確性も明らかではない。 なお、別紙対象目録の「日時」欄記載の日時頃に、それぞれ対応する同目録の「IPアドレス」欄記載のIPアドレスの割当てを受けてインターネット接続をした者は、被告からの照会に対し、本件各レコードの送信可能化権を侵害する行為をした覚えはないなどと回答している。 (2) 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について 【原告らの主張】 原告らは、本件各レコードの送信可能化権を侵害した氏名不詳者に対して、損害賠償請求や差止請求権を行使する必要があり、氏名不詳者を特定する必要があるほか、権利行使の過程で電子メールを用いた交渉等を行うこともあるから、別紙対象目録の「日時」欄記載の各日時頃に、それぞれ対応する同目録の「IPアドレス」欄記載のIPアドレスの割当てを受けてインターネット接続をした者の「発信者情報」欄記載の各情報(以下「本件各発信者情報」と総称する。)の開示を受ける正当な理由がある。 【被告の主張】 損害賠償請求権や差止請求権を行使するのに、電子メールアドレスの開示を受ける必要はないから、電子メールアドレス(別紙対象目録の「番号」欄記載の「1」ないし「3」、「10」及び「11」にそれぞれ対応する同目録の「発信者情報」欄記載のもの)については正当な理由は認められないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)について 証拠(甲2、3、13)及び弁論の全趣旨によれば、氏名不詳者(1名に限られない。)は、別紙対象目録の「CD(商品番号)」欄記載のレコードに収録された楽曲をmp3方式により圧縮して複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置した上、被告の提供するインターネット接続サービスを利用して、それぞれ対応する同目録の「IPアドレス」欄記載のインターネットプロトコルアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、「日時」欄記載の日時頃、ファイル共有ソフトウェアであるGnutellaと互換性のあるソフトウェアを用いて上記複製に係るファイルを不特定の他の上記ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いた事実が認められる(被告は、上記ファイルが本件各レコードの複製物であるか明らかでないとか、IPアドレス及びタイムスタンプの正確性が明らかでないなどと主張するが、上記認定に係る証拠とした陳述書〔甲2、3〕の信用性に特段疑いを差し挟むべき事情はうかがわれない。)。 そして、上記送信可能化行為について、著作隣接権の権利制限事由(著作権法102条1項が準用する同法30条以下)があるとはうかがわれないから、同行為により、原告らが有する本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであると認められる。 2 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか) 証拠(甲4)によれば、被告は、本件各発信者情報を保有しているものと認められるところ、前記1に認定した事実関係からすれば、本件各発信者情報は、いずれも法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり、本件各発信者情報に関し、被告は同条項にいう「開示関係役務提供者」に当たるといえる。 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、前記1に認定した送信可能化行為により自らが有するレコードの送信可能化権が侵害されたことを原因として、同行為を行った者に対して損害賠償請求権及び差止請求権を行使することを目的に、本件各発信者情報の開示を求めているものと認められるところ、同権利行使の相手方を特定し、また、権利行使の一環としての裁判外の交渉等を行うためには、電子メールアドレス(別紙対象目録の「番号」欄記載の「1」ないし「3」、「10」及び「11」にそれぞれ対応する同目録の「発信者情報」欄記載のもの)を含む本件各発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。よって、原告らには、各送信可能化権の侵害行為に対応する本件各発信者情報の開示を求める正当な理由があるというべきである。 3 結論 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 笹本哲朗 裁判官 天野研司 (別紙)対象目録
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