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【事件名】宇多田ヒカルの歌詞共同著作事件(2)
【年月日】平成28年12月22日
 知財高裁 平成28年(ネ)第10057号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成27年(ワ)第28086号)
 (口頭弁論終結日 平成28年9月13日)

判決
控訴人 X
被控訴人 Y
訴訟代理人弁護士 前田哲男


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 別紙控訴人請求目録記載の各請求を求める。
第2 事案の概要
 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、控訴人がAOLのチャット機能又はメール機能を使用して被控訴人のスクリーンネームであるA又は同人のメールアドレスであるA@aol.comに文章を伝達するなどして被控訴人の創作に関与したとして、控訴人は宇多田ヒカル名義の編集著作物(CDアルバム「First Love」)及び「誰かの願いが叶うころ」と題する楽曲の歌詞の共同著作者であると主張し、また、控訴人が「B&C」、「はやとちり」及び「Wait & See〜リスク〜」と題する各楽曲の歌
詞につき、被控訴人の創作に関与したものの被控訴人が控訴人の氏名を表示せず被控訴人のみが著作者として利益を得るなどしたと主張して、著作権法115条、民法709条等に基づき、別紙控訴人請求目録記載の各請求(当審第1回口頭弁論調書参照)を求めた事案である。
 原審は、控訴人において主張する伝達内容が被控訴人に伝えられたものとは認められないとして、控訴人の各請求をいずれも棄却した。控訴人がこれを不服として控訴した。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の各請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、後記2において当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1及び2(原判決2頁19行目から4頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決3頁20行目の「具体的な表現」を「創作的な表現」に改める。
2 当審における控訴人の主張について
 控訴人は、当審においても、控訴人がAOLのチャット機能又はメール機能を使用して被控訴人のスクリーンネームであるA又は同人のメールアドレスであるA@aol.comに文章を伝達した旨主張する。しかしながら、仮に控訴人がA又はA@aol.comに対し文章を伝達したことまで認められるとしても、被控訴人がA又はA@aol.comを使用していたことを認めるに足りる証拠がないのであるから、控訴人が被控訴人に対し文章を伝達したものと認めることはできない。そのほかに控訴人の当審における主張及び証拠を改めて検討しても、上記判断を左右するに至らない。したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
 なお、控訴人は、本件口頭弁論終結後に、平成28年9月24日付け口頭弁論再開申立書及び同年10月17日付け上申書を提出した上、口頭弁論の再開の申立てをした。しかしながら、当該申立書における控訴人の主張を改めて十分検討しても、上記判断を左右するものではなく、口頭弁論を再開しなければ手続的正義の要求に反するということはできない。したがって、当裁判所は、口頭弁論の再開は命じないこととした。
第4 結論
 以上によれば、控訴人の各請求はいずれも理由がなく、控訴人の各請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 中島基至
 裁判官 岡田慎吾


(別紙)控訴人請求目録
1 被控訴人は、平成11年3月に発売された、被控訴人が実演する商業用レコードの中の編集著作物である「First Love」に、控訴人が著作権を有するにもかかわらず氏名表示がなされていないため、著作者と推定されていない状態であることを認め、その声望を回復するため、平成11年1月12日に被控訴人から控訴人に宛てた電子メールを倣った上で、被控訴人自らの文体を用い、同年1月の被控訴人の誕生日頃、AOL上で、控訴人とママごとのようなチャットをするさなか、上記商業用レコードを被控訴人が創作するに至った要旨、控訴人への謝辞及び共同著作者として明記の上控訴人の氏名を、被控訴人の変名である宇多田ヒカルの著作物を出版するユニバーサルミュージック合同会社が発行するホームページからのリンクで閲覧できる被控訴人の創作活動等を広報するホームページ(http://www.utadahikaru.jp/)において、明瞭に表示させ、かつ、被控訴人は、平成16年4月頃に発売された音楽の著作物である「誰かの願いが叶うころ」作詞部分に控訴人が著作権を有するにもかかわらず氏名表示がなされていないため、著作者と推定されていない状態であることを認め、その声望を回復するため、上記ホームページにおいて、控訴人への謝罪及び共同著作者として控訴人の氏名を明瞭に表示させよ。
2 被控訴人は、控訴人が表意する文言並びに発案などを被控訴人が創作また実演する営利を目的とした著作物に用いる場合は、その長短、程度にかかわらず、その著作物を発表する以前に控訴人に通知し、双方協議の上、双方の合意をもって発表すること、及び、被控訴人から控訴人に対する伝達、並びに、控訴人から被控訴人に伝達がある場合の応答は、手段として商業用レコード、放送、公衆送信を用いず、面会、電話、電子メール、チャット、郵便とすることを控訴人に約束すること。これについては、法律上の根拠として、民法1条、90条、91条をもって、控訴人、被控訴人双方の合意を形成するものとする。
3 被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が関与した著作物から本来受領すべき金員及び本日までの金利分を含めた額の支払をせよ。
4 被控訴人は、控訴人が被った精神的苦痛に対し慰謝料300万円の支払をするとともに、控訴人の機会損失分として1039万1000円を賠償せよ。
5 控訴人が被控訴人の著作物創作に関わった事実を公表せよ。
6 本裁判確定まで新規の被控訴人による著作物販売の一切を停止せよ。
7 訴訟費用は被控訴人の負担とする。
8 仮執行宣言
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