判例全文 | ||
【事件名】ビジネスソフトの譲渡・貸与権事件 【年月日】平成28年8月3日 東京地裁 平成27年(ワ)第29129号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成28年6月30日) 判決 原告 株式会社ブールソフトウェア 被告 トラムシステム株式会社 同訴訟代理人弁護士 鬼頭治雄 同 竹内裕美 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(原告の求めた裁判) (1) 被告は、原告に対し、201万4200円を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 請求の趣旨に対する答弁(被告の求めた裁判) (1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 請求原因(原告の主張) 1 原告の有する著作権(プログラムの著作権) 原告の代表者及び従業員は、原告の発意に基づき、原告の職務上、別紙プログラム目録記載の各ソフトウェアプログラム(以下、同目録の番号に対応して「本件プログラム1」などといい、本件プログラム1ないし同3を併せて「本件各プログラム」という。)を作成した。 2 被告による著作権侵害行為 (1) 譲渡権(著作権法26条の2)の侵害行為 ア 被告は、平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に、次のとおり、本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールした。
イ 上記アの行為は、本件各プログラムをその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供するものであり、原告が有する本件各プログラムの譲渡権を侵害する行為に当たる。 (2) 貸与権(著作権法26条の3)の侵害行為 ア 被告は、平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に、次のとおり、本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上、被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させた。
また、上記番号Dに関し、甲第1号証によれば、現在も、有限会社チアが本件プログラム2を使用していることが認められるから、被告による貸与の事実が推認されるというべきである。 イ 上記アの行為は、本件各プログラムをその複製物の貸与により公衆に提供するものであり、原告が有する本件各プログラムの貸与権を侵害する行為である。なお、ここにいう「複製物」とは、被告の顧客のパソコンを指すものである。 3 被告の故意又は過失 被告は、原告の有する本件各プログラムの譲渡権又は貸与権を侵害することにつき、故意又は過失があった。 4 原告が受けた損害の額 本件各プログラムの著作権の行使につき原告が受けるべき金銭の額は、プログラムの個数、譲渡又は貸与先の数を問わず、1か月につき16万2000円(消費税を含む。)である。 したがって、平成26年9月18日から平成27年9月30日までの被告の行為により原告が受けた損害の額は、201万4200円と計算される。 5 よって、原告は、著作権(譲渡権又は貸与権)侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告に対し、損害賠償金201万4200円の支払を求める。 第3 請求原因に対する認否(被告の主張) 請求原因2(被告による著作権侵害行為)について、「複製物」とは、有形的に再製された有体物を指すところ、被告が、被告の顧客に対し、このような本件各プログラムの「複製物」を譲渡又は貸与した事実はない。また、被告が、本件各プログラムの原作品を譲渡した事実もない。 第4 抗弁(被告の主張) 本件各プログラムは、原告、被告及び被告の顧客が個別に打合せをして、特定の顧客のためにカスタマイズしたものとして製作され、原告は、その製作について被告から対価又は日当を受けていたものである。このような製作経緯からすれば、原告は、本件各プログラムについて、被告の顧客が利用し続けることを許諾したとみるべきである。 第5 抗弁に対する認否(原告の主張) 抗弁事実は否認する。被告は、本件各プログラムを使用する権原を有しているが、本件各プログラムの著作権を利用する権原を有するものではない。 理由 1 請求原因2(1)(譲渡権〔著作権法26条の2〕の侵害行為)について 原告は、被告が平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールした行為が、原告が有する本件各プログラムの譲渡権を侵害する行為に当たると主張する。 しかしながら、著作権法上、譲渡権とは、「その著作物・・・をその原作品又は複製物・・・の譲渡により公衆に提供する権利」(同法26条の2)とされ、ここにいう「譲渡」とは、目的物の所有権を移転させる行為をいうものと解されるところ、被告が本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールする行為は、本件各プログラムの「原作品」や「複製物」の所有権を移転させるものではなく、そもそも上記意味における「譲渡」に当たらないから、同行為が、原告の有する本件各プログラムの譲渡権を侵害するということはできない。 2 請求原因2(2)(貸与権〔著作権法26条の3の侵害行為〕)について 原告は、被告が平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上、被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させた行為が、原告が有する本件各プログラムの貸与権を侵害する行為に当たると主張する。 しかしながら、著作権法上、貸与権とは、「著作物・・・をその複製物・・・の貸与により公衆に提供する権利」(同法26条の3)とされ、「貸与」とは、使用期間を限った上で複製物を占有して使用する権原を取得させる行為をいうものと解されるところ(同法2条8項参照)、被告が本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上、被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させる行為は、使用期間を限った上で本件各プログラムの「複製物」を占有して使用する権原を取得させるものではなく(原告は、被告の顧客のパソコンを「複製物」と主張するところ、被告が同パソコンを顧客に「貸与」していないことは明らかである。仮に、本件各プログラムが設置されたレンタルサーバを「複製物」と解したとしても、インターネットを通じてレンタルサーバ上のプログラムを提供する行為は、同レンタルサーバを顧客の占有下に置くものではないから、やはり複製物を「貸与」するものと解することはできない。)、そもそも上記意味における「貸与」に当たらないから、同行為が、原告の有する本件各プログラムの貸与権を侵害するということはできない。 3 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 笹本哲朗 裁判官 天野研司 (別紙)プログラム目録 1「WEB版顧客・販売管理システム」 種類 企業向け事務用ソフトウェア 機能 顧客及び販売案件を一元管理する。顧客情報、受注情報を入力し、発注書・請求書を計算・印刷する。案件の開始から完了までの進行状況を管理し、案件ごとの状態の一覧検索機能によって事務作業を効率化する。WEBサーバーに配置し、遠隔地からブラウザによって操作する。 システム名 TRAM SYSTEM 作成者 原告(担当者:原告代表者A) 完成時期 平成23年5月 使用機種 Windowsパソコン 言語 ASP.NET(VB.NET) 2「WEB版派遣スタッフ出勤管理システム」 種類 派遣会社向けスタッフ管理ソフトウェア 機能 アルバイト・パートなどの出勤予定・出勤状況を管理する。派遣スタッフの出勤時間前にメールを送り出勤を促す。派遣スタッフから出勤通知を受け取り完了する。派遣スタッフから出勤通知がない場合、派遣スタッフに自動で電話をかける。WEBサーバーに配置し、遠隔地からブラウザによって操作する。 システム名 コールメイト 作成者 原告(担当者:原告代表者A、従業員B) 完成時期 平成24年1月 使用機種 Windowsパソコン 言語 ASP.NET(VB.NET) 3「電話通信連携ソフトウェア」 種類 電話通信連携ソフトウェア 機能 メーカー提供の「NECビジネスフォンAspireX 電話・PC間連携ソフトウェア」を内部でハンドリングし、受信した電話番号及び内線番号を別システムに通知する。単独システムとして、又は他システムと連携して動作する。 システム名 なし 作成者 原告(担当者:原告代表者A、従業員C) 完成時期 平成24年5月 使用機種 Windowsパソコン 言語 VB.NET 以上 |
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