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【事件名】ライブハウス生演奏事件(2) 【年月日】平成28年10月19日 知財高裁 平成28年(ネ)第10041号 著作権侵害差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成25年(ワ)第28704号) (口頭弁論終結日 平成28年9月12日 判決 控訴人兼被控訴人 一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「1審原告」という。) 同訴訟代理人弁護士 田中豊 同 小川まゆみ 同 中野雅也 被控訴人兼控訴人 Y1(以下「1審被告Y1」という。) 被控訴人兼控訴人 Y2(以下「1審被告Y2」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 鈴木仁志 同 神村大輔 同 海宝三敬 主文 1 1審原告の控訴に基づき、原判決主文2ないし4項を次のとおり変更する。 (1) 平成28年9月13日以降に生ずべき損害賠償金又は不当利得金の支払を求める訴えを却下する。 (2) 1審被告らは、1審原告に対し、連帯して546万5101円及びうち本判決別紙4の使用料相当損害金欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各日から、うち50万円に対する平成28年4月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 1審原告のその余の金員支払請求を棄却する。 2 1審被告らの控訴をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを5分し、その1を1審原告の負担とし、その余を1審被告らの連帯負担とする。 4 この判決は、1項(2)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 1審原告 (1) 原判決主文2ないし4項を次のとおり変更する。 (2) 1審被告らは、1審原告に対し、連帯して651万2336円及びうち本判決別紙1の元本欄記載の各金額に対する起算日欄記載の各日から、うち59万2029円に対する平成28年4月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(1審原告は、当審において、このように請求を拡張した。)。 (3) 1審被告らは、1審原告に対し、連帯して、平成28年4月1日から原判決別紙1店舗目録記載(1)の店舗において、同2「楽曲リスト(2008年4月1日発行)」及び同3「楽曲リスト(追録)」記載の音楽著作物の使用終了に至るまで、1か月6万3504円の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は、第1、2審とも1審被告らの負担とする。 2 1審被告ら (1) 原判決中、1審被告ら敗訴部分を取り消す。 (2) 上記取消部分に係る1審原告の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも1審原告の負担とする。 第2 事案の概要(略称は、特に断らない限り、原判決に従う。) 1 本件は、著作権等管理事業者である1審原告が、1審被告らに対し、原判決別紙1店舗目録記載の店舗(本件店舗。なお、同目録(1)の店舗は本件店舗6階部分であり、同目録(2)の店舗は本件店舗5階部分である。)を1審被告らが共同経営しているところ、1審被告らが1審原告との間で利用許諾契約を締結しないまま同店内でライブを開催し、1審原告が管理する著作物を演奏(歌唱を含む。)させていることが、1審原告の有する著作権(演奏権)侵害に当たると主張して、@上記著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを求め、A主位的に著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として、予備的に悪意の受益者に対する不当利得返還請求として、連帯して、i)平成21年5月23日(本件店舗の開設日)から平成27年10月31日までの使用料相当額560万2787円、A)弁護士費用56万0277円及びB)上記使用料相当額について平成27年10月31日までに生じた確定遅延損害金又は利息金87万455円の合計703万5519円及びうち616万3064円(上記i)とA)の合計額)に対する同年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息金の支払を求めるとともに、C)平成27年11月1日から上記著作物の使用終了に至るまで、連帯して、使用料相当額月6万3504円の支払を求めた事案である。 原判決は、1審被告らが1審原告の管理する著作物の演奏主体に当たると判断して、@上記著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを認め、A著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求又は悪意の受益者に対する不当利得返還請求について、1審被告らに対し、連帯して、i)平成21年5月23日から平成27年10月31日までの使用料相当損害金又は不当利得金203万0513円、A)弁護士費用40万円、B)上記i)の使用料相当額について平成27年10月31日までに生じた確定遅延損害金又は利息金30万6858円、C)上記i)とA)の合計額243万0513円に対する同年11月1日以降の遅延損害金又は利息金、v)同日から平成28年2月10日(原審口頭弁論終結日)までの使用料相当損害金又は不当利得金9万3899円の支払を求める限度で認容し、平成28年2月10日までのその余の請求を棄却するとともに、B同月11日以降の使用料相当損害金等請求は、将来請求の訴えの要件を欠くとして、却下した。 そこで、1審原告及び1審被告らが、それぞれ敗訴部分を不服として控訴したものである。なお、1審原告は、当審における金員支払請求において弁護士費用相当額の請求を拡張し、1審被告らに対し、連帯して、i)平成21年5月23日(本件店舗の開設日)から平成28年3月31日までの使用料相当額592万0307円及び本判決別紙1の元本欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息の、A)弁護士費用59万2029円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、B)平成28年4月1日から上記著作物の使用終了に至るまで、連帯して、使用料相当額月6万3504円の支払を求めるものである。 2 争いのない事実等 以下のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決3頁22行目の「別紙2」を「原判決別紙2」と、「別紙3」を「原判決別紙3」とそれぞれ改め、以下も同様とする。 (2) 原判決4頁16行目の末尾に「なお、平成28年4月以降の営業形態については、後記のとおり争いがある。」を加える。 (3) 原判決4頁17行目の「別紙4」を「原判決別紙4」と、18行目の「別紙5」を「原判決別紙5」とそれぞれ改める。 (4) 原判決5頁9行目の「6月10」を「6月10日」と改め、10行目の末尾に「平成24年6月10日に利用許諾契約が成立したかについては、後記のとおり争いがある。」を加える。 (5) 原判決5頁18行目の「第1回弁論準備手続期日」を「原審第1回弁論準備手続期日」と改める。 3 争点 原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから、これを引用する。 第3 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は、後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における主張を追加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の1ないし8記載のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決の訂正 (1) 原判決12頁10行目の「知りえない」を「知り得ない」と改める。 (2) 原判決16頁19行目の「申し込み」を「申込み」と改める。 (3) 原判決20頁12行目の冒頭から21頁4行目の末尾までを以下のとおり改める。 「(4) 平成28年3月31日までに生じた不法行為に基づく損害額 1審被告らは、平成25年10月から平成27年10月31日までの間は、本件店舗5階部分と同6階部分において、同年11月1日以降は本件店舗6階部分において、平成25年9月までと同様の1審原告管理著作物の利用を継続した。そうすると、平成21年5月から平成28年3月31日までの間の1審被告らの著作権侵害行為により生じた使用料相当損害金は、本判決別紙1の元本合計欄記載のとおり、592万0307円である。 加えて、1審原告は、本訴提起のため弁護士に依頼せざるを得なかったから、1審被告らの不法行為により弁護士費用59万2029円の損害が生じた。 これらを合計すると、平成28年3月31日までに1審原告が被った損害額は、651万2336円である。 (5) 平成28年4月1日以降の不法行為に基づく損害額 1審被告らは、平成28年4月1日以降も、本件店舗6階部分における1審原告管理著作物の無断利用を継続しており、今後も、同一の態様で著作権侵害行為を継続することが確実に予測される。これによる1審原告の損害は、1月当たり6万3504円である。」 (4) 原判決21頁7行目から8行目にかけての「平成27年10月31日まで、別紙6「損害金請求一覧表」」を「平成28年3月31日まで、本判決別紙1」と改める。 (5) 原判決21頁9行目を「651万2336円の損失を被った(弁護士費用を含む。)。」と改める。 (6) 原判決21頁10行目の「同年11月1日」を「平成28年4月1日」と改める。 (7) 原判決22頁9行目の「別紙7」を「原判決別紙7」と改める。 2 当審における当事者の主張 〔1審被告らの主張〕 (1) 争点1(1審被告らの演奏主体性)について ア 最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁は、本件と事案を異にする。最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁の一般的法命題からすれば、1審被告らが著作権の侵害主体であるかを判断するに当たっては、演奏の対象、方法を特定して具体的に検討し、演奏への関与の内容、程度について、出演者の演奏行為が著作権法上の規律の観点から1審被告らによる演奏と同視し得るか否か、自己の手足として利用してその行為を行わせていると評価し得る程度に、その行為を管理・支配しているという関係が認められるか否かを具体的に検討した上、大阪高裁平成20年9月17日判決・判例時報2031号132頁の結論命題を参考にライブの主催者を認定して、1審被告らが演奏を行っているといえるかどうかを判断するのが相当である。 上記判断基準によれば、単に出演者の環境を整備し、演奏の場を提供しているにすぎない1審被告らが、著作権の侵害主体に当たらないことは明らかである。 イ 仮に、原判決の判断基準によって侵害主体性を判断するとしても、1審原告管理著作物の演奏の実現における枢要な行為は、@1審原告管理著作物の選定及びA選定された1審原告管理著作物の実演であって、1審被告らは、いずれもこれらの行為を行っておらず、単に出演者の環境を整備し、出演者に演奏の場を提供しているにすぎないから、1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たらない。 (2) 争点2(オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否)について ア 信託制度及び著作権信託契約の趣旨からすれば、1審原告において、信託を受けた形式的権利を委託者本人に向けて行使し、委託者本人による自由演奏を「不法行為」として委託者に賠償金の支払を求めることは、委託者の合理的意思に反し、「管理委託者の保護」(著作権等管理事業法1条)と(委託者自身)の「円滑な利用」(著作権信託契約約款1条)のいずれにも反するものであり、著作権等管理事業法の理念及び信託の目的に適合しない。 イ オリジナル曲の演奏について不法行為の各成立要件をみると、@信託上の受益者には固有の経済的利益がないから、委託者が自作曲を演奏しても、1審原告には被侵害利益が存せず、A無断で著作物が利用された場合の被害者は委託者本人でしかあり得ないことから、被害者の承諾があり、B委託者の自曲演奏について、1審原告が委託者本人からその曲の使用料を徴収してそれを本人に返すことはおよそ無意味であり、かかる無意味なプロセスを行わなければ、1審原告に事務手数料の発生する余地はないから、損害は観念し得ない。 ウ 1審原告は、著作者自身が自作曲をライブハウスで演奏しようとしても、その許諾申請を受理しないという違法な運用を行っている。 したがって、著作者自身の演奏申込みも認めない違法な運用を行いながら、無許諾を理由に著作者自身の演奏の不法行為責任を追及することは、管理委託契約の趣旨に反するものであり、許されない。 エ 出演者自身が作詞・作曲を行った1審原告管理著作物を調査すると、容易に特定できたものだけで、本判決別紙2「オリジナル曲演奏一覧表」及び同3「五星旗関連ライブ演奏曲検討表」記載のとおりである。したがって、少なくともこれらの著作物の演奏については、損害賠償請求することができない。 (3) 争点3(1審被告らの故意又は過失の有無)について ア 1審被告らは、自らが演奏をしているとは考えていなかったのであるから、他人が演奏権を有する著作物を無許諾で演奏することの認識ないし認容のなかったことは明らかである。 イ 1審原告の主張する不法行為は、個々の財産権(楽曲)ごとに別個の侵害が各演奏時に成立する個別的不法行為の集積に他ならない。したがって、著作権侵害の故意は、直接主体たる出演者の各演奏行為時に存在していなければならず、その内容は、当該出演者が他人の著作物を無許諾で演奏していること及び場の提供によって1審被告らも共同で当該楽曲を演奏していることの各認識ないし認容でなければならない。1審被告らにかかる故意は存しない。 ウ 1審原告は、ライブハウスのカテゴリーにおいて、直接主体である出演者からの利用許諾申請を一般的に受け付けないとの違法な運用を行っている。したがって、出演者が許諾を個別に得ることは不可能であるから、1審被告らについて、1審原告から個別の許諾を得るよう各出演者に促す注意義務を観念する余地はない。 (4) 争点4(1審原告による許諾の有無)について 調停における1審原告の代理人(1審原告のA職員)は、第2回調停期日(平成24年6月11日)において、1審被告Y2が本件店舗のブログに貼り付けた出演者用の利用楽曲報告書の記入例を見ながら、その記入の仕方を自ら指導していたこと、第2回期日から第3回期日までの期間において、1審原告から何らの異議も留保もなしに本件店舗での演奏が行われ、1審原告の代理人は、第3回期日において、本件店舗の出演者が記入した利用楽曲報告書を異議なく受領していること、1曲当たり140円で積算した月額を1審原告に支払うという契約の重要部分については双方の意思が合致していたことからすれば、平成24年6月11日、明示又は黙示の許諾が成立したことは明らかである。 (5) 争点5(権利濫用等の抗弁の成否)について ア 権利濫用について 1審原告は、ライブハウスのカテゴリーにおいて、著作権等管理事業法16条に違反し、ライブハウスの出演者からの許諾申請(ライブごとの曲別申請)を一律に拒否する違法な運用を行い、許諾申請を行える者をライブハウスの経営者に不当に限定した上、ライブハウスの経営者の選択できる契約方式を「包括」、「積算包括」、「曲別事前申請」の3種に限定し、ライブハウスの経営者に一律に包括契約の申込書のみを送付してこれに誘導し、例外的に曲別報告を受ける取扱いを行う場合であっても、原権利者への分配割合(規則性)すら開示せず、曲別分配システムの構築は容易であるにもかかわらず、出演者による曲別申請の手続を構築しないままに放置している。 このように、1審原告は、実際に使用された楽曲の原権利者に分配するという管理事業者としての本旨に反し、曲別申請・曲別分配を行わない運用を多用しているのであって、本件においても、濫用的な請求を行っているというべきである。 イ 信義則違反について 1審被告Y2は、1審原告の運用のもとでは実際に使用された楽曲の原権利者のもとに使用料が正しく分配されないことから、1審被告Y1とともに、正しく分配される運用を行うよう求めた。 しかし、1審原告は、1審被告らに対し、演奏された楽曲の原権利者に分配されない賠償金の支払を請求し、本件店舗の実態からかい離した不当に高額な使用料相当額を要求し、調停での和解提案で分配に係る条項を自ら提案しながら、分配の規則についての説明は拒否し、不当に高額な言い値の支払に応じない限り和解も許諾も行わないとの理由で調停を不成立とさせた。そして、第2回調停期日の席上で行われた申合せ(1曲当たり140円の積算金額を支払う。)に基づき、1審被告らを指導して、本件店舗の出演者らをして、楽曲利用報告書に記入させ、申合せにしたがった演奏が行われていることを当然の前提として、利用楽曲報告書の一部を受け取りながら、上記申合せも反故にして、現在に至るまで、演奏された楽曲の原権利者に分配する意思のない金銭の請求を続けている。 したがって、1審原告の請求は、多くても原判決の認容する額に限られ、1審被告Y1の供託している金銭と同程度しか認められないのであるから、楽曲名を付して提供している供託金を受領しない1審原告に対し、供託金とほぼ同額の濫用的な賠償請求を認める必要はない。 上記経緯に鑑みても、原権利者に正しく分配されることのない賠償金の請求を認めることは、著しく信義に反し、相当でない。 (6) 争点6(差止請求の適法性及び差止めの必要性)について 1審被告Y1は、本件店舗の入居する建物全体の解体撤去(予定)に伴い、本件店舗の閉店準備に向け、1審原告との間で無用のトラブルを避けるため、現在、本件店舗の営業について、バー営業を主とする運営方針を定めており、ライブは原則としてオリジナル曲(1審原告の非管理著作物)のみのものに限定し、ライブの出演者が1審原告管理著作物の演奏を希望する場合には、出演者自身に1審原告への許諾申請を行ってもらい、許諾を得てもらうこととし、その旨を予約希望者及び出演者に告知している。そのため、本件店舗では、現在、1審原告の非管理著作物のみを演奏する出演者のライブのみが行われている。 なお、1審原告管理著作物の演奏を希望する複数の音楽家は、上記告知に応じて、1審原告に対して許諾申請手続を行ったが、1審原告は、本件店舗による無許諾利用期間の使用料相当額の清算が未了であることを理由に、許諾をいずれも拒否している。 したがって、本件店舗では、現在、1審原告管理著作物の演奏を希望する音楽家は出演することができず、1審原告管理著作物の演奏は完全に行われない状態になっているのであって、今後も1審原告の許諾なしに1審原告管理著作物の演奏が行われるおそれはないのであるから、差止めの必要性はない。 (7) 争点8(損害ないし損失発生の有無及びその額)について ア 1審原告は、特定が可能であるにもかかわらず、被侵害楽曲を特定した主張立証を一切行っておらず、損害賠償請求は主張自体失当である。1審原告は、現実に使用された楽曲の原権利者に分配することを予定しない金銭の請求をしているのであって、不当である。 イ 出演者がオリジナル曲を演奏した場合、出演者に不法行為は成立せず、1審被告らにも不法行為責任は成立しない。本件店舗で演奏された1審原告管理著作物のうちオリジナル曲は、少なくとも本判決別紙2「オリジナル曲演奏一覧表」及び同3「五星旗関連ライブ演奏曲検討表」記載のとおりである。少なくともこれらの著作物に係る使用料請求は、理由がない。 ウ 本件店舗5階部分での演奏については、ドラムセットの振動に対する苦情があったことから、原則としてドラムを使わないライブのみが行われてきた。本件店舗5階部分におけるライブの開催頻度は月3回程度であり、1ライブ当たりの来客数も平均で11.8人程度にとどまっている。 したがって、本件店舗5階部分におけるライブで演奏された1審原告管理著作物に係る使用料については、原判決は、実態を反映しない過大な評価をしているのであって、相当でない。 〔1審原告の主張〕 (1) 争点6(差止請求の適法性及び差止めの必要性)について 本件店舗6階部分においては、原判決言渡後も、1審原告管理著作物の無許諾演奏が行われているのであるから、差止めの必要性が認められる。 (2) 争点7(将来請求の可否)について 本件は、著作権を侵害するという単純な不法行為又は不当利得の事案であり、1審被告らの行為が違法性を帯びるか否かが複雑多様な因子によって左右されることはない。そして、1審原告は、過去分と同様、実態調査結果の8割を請求するにすぎないから、損害の額はあらかじめ明確に予測し得るといえる。 また、1審被告らの支配する領域における侵害行為の縮小という変動事由は、1審被告らに主張立証責任を負わせることが、むしろ公平といえる。 したがって、最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁に照らし、将来請求の訴えの要件を満たすというべきである。 (3) 争点8(損害ないし損失発生の有無及びその額)について ア ライブハウスという権利侵害者の支配する空間における演奏権侵害の調査が「調査員の権利侵害店舗への客としての入店→演奏録音→再生しての侵害著作物の特定等の調査→その結果の書面化」という手順を必要とするものであって、大きな費用と労力を要するものであることからすれば、5年9か月間に25回にわたってした実態調査は、必要にして十分といえる。原判決は、平成22年9月24日から平成23年8月11日までに実施した18回に上る実態調査の結果について、信用できないとの説示をするでもなく、損害額の認定に全く反映させておらず、不当である。また、平成25年2月20日から同年9月20日までに実施した7回の実態調査の結果は、1審被告らが調査結果を争わなかった(ただし、演奏時間が5分超の場合の算定曲数については争いがある。)ことから、結果的に損害額の認定に反映させている。このように、原判決は、実態調査の結果を侵害楽曲数及び損害額認定の証拠とするかどうかを、1審被告らの主張によって決しているのであって、整合性に欠ける。 イ 1審原告は、25回もの実態調査の結果を平均して1ライブごとの利用楽曲数を算出し、さらに保守的に安全を見込んで0.8を乗じ、月間のライブ回数についても音楽著作物が利用されないと推測される催物の数を除外した上で平均回数を算出し、小数点以下を切り捨てるなどして、控えめな請求をしているのであるから、1審原告主張の損害額は十分に採用できる。 ウ 1審被告ら提出の利用楽曲報告書には虚偽が多く、信用性を備えていない。したがって、かかる利用楽曲報告書に基づいて侵害楽曲数及び損害額の認定をすることはできない。 エ 5分超の演奏による著作権侵害の場合、これを2曲分として損害を算定するのが相当である。すなわち、@1審原告管理著作物の中にもともと5分超の演奏時間を要するものがあること、A最初にレコード等の形で公表された1審原告管理著作物の演奏時間が5分以内である場合であっても、テンポのとり方やフレーズの繰り返し等によって、ライブ演奏等における当該管理著作物の演奏時間が5分超になることは日常茶飯事であること、Bいわゆるアドリブ演奏であっても、もともとの楽曲に依拠したものであることからすれば、5分超の演奏を2曲分として算定することには合理性がある。 オ 著作権法114条の5は、損害額についての証明度を軽減する規定である。本件店舗の営業開始後8か月間について実態調査はされていないが、1審原告においては、店舗経営者が著作権侵害をすることを前提として、営業開始の当初から法的措置を執ることを想定した証拠収集である実態調査に着手するという業務遂行方法は採用していない。上記8か月間について著作権法114条の5を適用すべきであり、これ以外の期間においても同様である。 第4 当裁判所の判断 当裁判所も、1審被告らは、1審原告管理著作物の著作権侵害の主体であるから、1審被告らに対する差止請求を認容すべきであると判断する。そして、損害賠償請求に関しては、当審口頭弁論終結時以降の将来請求については訴えの利益に欠けるから却下すべきであり、それ以前の損害賠償請求については、原審の認容額を増額すべきものと判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 認定事実 以下のとおり補正するほかは、原判決23頁26行目の冒頭から40頁15行目の末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決26頁18行目の「申し込み」を「申込み」と改める。 (2) 原判決27頁22行目の「すべて」を「全て」と改める。 (3) 原判決28頁11行目の「手続き」を「手続」と改める。 (4) 原判決28頁24行目の「話し合い」を「話合い」と改める。 (5) 原判決31頁5行目の「とりたい」を「採りたい」と改める。 (6) 原判決32頁8行目の「わからない」を「分からない」と改める。 (7) 原判決34頁4行目の「挙げ足」を「揚げ足」と改める。 (8) 原判決36頁9行目の「別紙8」を「原判決別紙8」と改める。 (9) 原判決36頁17行目の末尾を改行して以下のとおり加える。 「さらに、1審被告Y1は、平成28年5月30日、平成27年11月1日から平成28年3月31日までの使用料として、合計12万9900円を供託した(乙96の1〜5)。」 (10) 原判決37頁13行目の末尾を改行して以下のとおり加える。 「(第11条) 「委託者(音楽出版者を除く。)は、第3条1項、第4条、第5条及び第10条の規定により定める信託著作権の管理委託の範囲について、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号に掲げる留保又は制限をすることができる。 (1) 委託者が、著作物の関係権利者(著作物使用料分配規程第2条第1号の関係権利者をいう。以下同じ。)全員の同意を得て、その利用開発を図るため、日本国内において、著作物(前条第2号の規定により音楽出版者に譲渡した著作物を含む。)を自ら使用すること。ただし、委託者が、著作物の提示につき対価を得るときは、この限りでない。」」 (11) 原判決39頁4行目の「別紙9」を「原判決別紙9」と、5行目の「別紙10」を「原判決別紙10」とそれぞれ改める。 (12) 原判決39頁19行目の「あたり」を「当たり」と改める。 (13) 原判決40頁7行目の「なお」から8行目の「である。」までを削る。 2 争点1(1審被告らの演奏主体性)について (1) 著作権の利用主体について 本件店舗において、1審原告管理著作物を演奏(楽器を用いて行う演奏、歌唱)をしているのは、その多くの場合出演者であることから、このような場合誰が著作物の利用主体に当たるかを判断するに当たっては、利用される著作物の対象、方法、著作物の利用への関与の内容、程度等の諸要素を考慮し、仮に著作物を直接演奏する者でなくても、ライブハウスを経営するに際して、単に第三者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、演奏の実現における枢要な行為をしているか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁、最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁等参照)。 (2) 1審被告らの演奏主体性について 前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3))のとおり、本件店舗は、ライブの開催を伴わずにバーとして営業する場合もあるものの、ライブの開催を主な目的として開設されたライブハウスであり、本件店舗の出演者は、1審被告Y2も含め、1審原告管理著作物を演奏することが相当程度あり、本件店舗においては、1審原告管理著作物の演奏が日常的に行われている(なお、1審被告らは、平成28年4月8日、本件店舗の運営方針をバー営業を主とするものに改めたとして、今後は、演奏者が1審原告との間で個別の許諾を得ない限り、1審原告管理著作物の演奏を認めない方針である旨出演予定者に告知しているが、後記7(2)のとおり、同日以降も、1審原告管理著作物の演奏がされている。)。 また、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3))のとおり、1審被告らは、共同して、ミュージシャンが自由に演奏する機会を提供するために本件店舗を設置、開店したこと、本件店舗にはステージや演奏用機材等が設置されており、出演者が希望すればドラムセットやアンプなどの設置された機材等を使用することができること、本件店舗が、出演者から会場使用料を徴収しておらず、ライブを開催することで集客を図り、ライブを聴くために来場した客から飲食代として最低1000円を徴収していることからすれば、本件店舗は、1審原告管理著作物の演奏につき、単に出演者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまるものではないというべきである。 そして、1審被告Y1は、本件店舗の経営者である。また、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3)及び(5))のとおり、1審被告Y2は、自らを本件店舗の経営者と認識しているものではないものの、@本件店舗の開店・運営のための資金を提供し、本件店舗の賃貸借契約の連帯保証人となり、本件店舗に自らを契約者とする固定電話を設置し、自らのバンド名を本件店舗の名称として使用することを決定し、ミュージシャン仲間らとともに、本件店舗に無償で、ライブに不可欠な音響設備等を提供するなど、本件店舗の開店に積極的に関与したこと、Aまた、本件店舗の開店前には20組ほどのバンドやグループなどのミュージシャン仲間にライブバーが開店することを伝えて出演するよう声をかけ、本件店舗開店当初は単独でブッキング(電子メール等で出演申込みを受け付ける業務)を行っていたこともあり、さらに、自らのブログ等において本件店舗や本件店舗のライブの宣伝活動をし、本件店舗のアルバイト募集の記事、本件店舗におけるライブの様子を紹介する記事等を掲載するなどしているほか、本件店舗のチラシを1審被告Y2の所属するロックバンドの所属事務所が印刷しているのであって、本件店舗の経営に積極的に関与していること、B本件店舗が、出演者に自由に演奏させるという1審被告Y2の意思に沿った運営をしていること、Cさらには、本件調停において、1審被告Y2は、平成24年6月11日以降の使用料については演奏した作品に分配される仕組みを採りたいと述べ、「社交場利用楽曲報告書」に記載をして演奏楽曲を報告すること及び「積算算定額による包括許諾契約」によって支払をする旨述べたり、「社交場利用楽曲報告書」への記載のあり方について1審原告と折衝したりするなど、自ら本件店舗のライブを主催する者として振る舞っていたことからすれば、1審被告Y2においても、1審被告Y1とともに、本件店舗の共同経営者としてその経営に深く関わっていることが認められる。 これらの事実を総合すると、1審被告らは、いずれも、本件店舗における1審原告管理著作物の演奏を管理・支配し、演奏の実現における枢要な行為を行い、それによって利益を得ていると認められるから、1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たると認めるのが相当である。 (3) 1審被告らの主張について ア 1審被告らは、著作権の侵害主体に関する原判決の判断基準は、本件とは事案を異にする最高裁判決を参照し、また、最高裁判決の一般的法命題を正解しないものであって、不当であると主張する。 しかし、著作権の侵害主体性を判断するに当たっては、物理的、自然的には行為の主体といえない者について、規範的な観点から行為の主体性を検討判断するのが相当であって、このことは、上記最高裁判決の趣旨とするところである。そして、かかる観点からすれば、上記のとおり判断するのが相当であり、1審被告らの主張は理由がない。 イ 1審被告らは、本件店舗におけるライブの主催者は、本件店舗以外の第三者であり、1審被告らは単にライブの場を提供しているのみであって、演奏曲目やミュージックチャージの額を決定していないから、演奏主体に当たらないと主張する。 しかし、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3))のとおり、そもそも本件店舗にはステージや演奏用機材等が設置されており、出演者が希望すればドラムセットやアンプなどの設置された機材等を使用することができ、本件店舗が、1審原告管理著作物の演奏が想定されるライブハウスであること、本件店舗のスタッフは、出演者からライブの名称や宣伝文、写真等のデータを受領すると、それを本件店舗のホームページに掲載し、また、本件店舗のライブスケジュールが印刷されたチラシを本件店舗に置いたり、配布していること、本件店舗では、出演者から会場使用料を徴収しておらず、ライブを開催することで集客を図り、ライブを聴くために来場した客から飲食代を徴収していることからすると、たとえ各ライブに出演する者や演奏曲目、ミュージックチャージの額などを、1審被告ら又は本件店舗のスタッフではなく出演者自らが決定していたとしても、そのような事実は上記(2)の認定を妨げるものとはいえない。よって、1審被告らの上記主張は採用することができない。 ウ さらに、1審被告らは、1審原告管理著作物の演奏の実現における枢要な行為は、@1審原告管理著作物の選定及びA選定された1審原告管理著作物の実演であるところ、1審被告らは、いずれもこれらの行為を行っていないので、1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たらないと主張する。 しかし、前示のとおり、著作権の侵害主体性を判断するに当たっては、物理的、自然的な観点にとどまらず、規範的な観点から行為の主体性を検討判断するのが相当であるところ、そもそも本件店舗が、1審原告管理著作物の演奏が想定されるライブハウスであり、ライブを開催することで集客を図り、客から飲食代を徴収していること、本件店舗にアンプ、スピーカー、ドラムセットなどの音響設備等が備え付けられていることからすれば、1審被告らが現に演奏楽曲を選定せず、また、実演を行っていないとしても、1審原告管理楽曲の演奏の実現における枢要な行為を行っているものと評価するのが相当である。 エ また、1審被告らは、1審被告らを演奏主体と認めると、出演者と1審被告らのいずれもが演奏主体に当たることになるから、二重取りを許すことになって相当でない旨主張する。 しかし、利用許諾を得ることなく出演者が本件店舗において楽器の演奏や歌唱をした場合、出演者と1審被告らは、1審原告に対し、共同不法行為者として不真正連帯債務を負うと考えられるから、1審原告管理著作物の使用料相当額の賠償金が二重に徴収されることにはならない。よって、1審被告らの上記主張も採用することができない。 オ なお、1審被告らは、原判決言渡後の平成28年4月、本件店舗の営業形態を変更し、1審原告管理著作物の演奏はされなくなったと主張するが、後記7(2)のとおり、その後も1審原告管理著作物の演奏は現に行われているのであって、営業形態を真に変更したのか疑問の残るところであるから、1審被告らが1審原告管理著作物の侵害主体である旨の上記判断を左右するものではない。 (4) 小括 よって、1審被告らは、本件店舗における1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)であると認められる。 3 争点2(オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否)について (1) 1審被告らは、自ら制作したオリジナル曲を演奏することは、1審原告に著作権管理を信託している著作者自身が許諾しているのであるから、不法行為に当たらないと主張する。 しかし、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(7)イ)のとおり、1審原告と著作権信託契約を締結した委託者は、その契約期間中、全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を、信託財産として1審原告に移転しているから、1審原告管理著作物の著作権者は、1審原告である。そうすると、利用者が誰であっても、1審原告の許諾を得ずに1審原告管理著作物を利用した場合には、当該利用行為は著作権侵害に当たるといわざるを得ない。 このことは、著作権信託契約約款11条が、自作曲の自己利用に関し、著作物の関係権利者の全員の同意を得た自己利用(委託者がその提示につき対価を得る場合を除く。)については、あらかじめ受託者の承諾を得て、管理委託の範囲についての留保又は制限をすることができると定めていることからも、裏付けられるところである。 以上のとおり、演奏者が1審原告に著作権管理を信託した楽曲を演奏する場合であっても、1審原告の許諾を得ない楽曲の演奏が、1審原告の著作権侵害に当たることは明らかであり、1審原告には使用料相当額の損害の発生が認められるから、著作権侵害の不法行為が成立する。 (2) 1審被告らは、1審原告が著作者自身の演奏申込みも認めない違法な運用を行いながら、無許諾を理由に著作者自身の演奏の不法行為責任を追及することは、管理委託契約の趣旨に反するものであり、許されないと主張する。 しかし、著作者が自ら演奏することを許諾している場合であっても、著作物についてのその余の関係権利者の得るべき使用料を分配する必要があることからすれば、著作者自身の演奏行為について演奏の不法行為責任を追及して使用料相当額を徴収することが、管理委託契約の趣旨に反するとはいえず、1審被告らの主張は理由がない。 (3) したがって、1審被告らの上記主張は採用することができない。 4 争点3(1審被告らの故意又は過失の有無)について (1) 1審被告らは、前記2(2)の各事実を認識していた上に、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(4)ア)のとおり、1審被告らは、本件店舗を開いた後は、1審原告に著作権料を支払わなければならないことを認識していたのであるから、著作権侵害主体であることの認識があったことは明らかであり、1審被告らには著作権侵害の故意又は過失があったというほかない。 (2) 1審被告らは、本件店舗における演奏曲目や出演者が権利者から許諾を得たかどうかを知らないから故意がない旨主張する。 しかし、著作権侵害の故意の有無の判断に当たっては、他人が権利を有する楽曲を利用していることの認識があれば足り、具体的な楽曲名や権利者の認識までは要しない。また、1審被告らが1審原告管理著作物の利用許諾契約を締結していないこと及び本件店舗における多くのライブにおいて、具体的な数はともかく、1審原告管理著作物が演奏されていることについては当事者間に争いがないところ、ライブハウスの出演者自らが1審原告から許諾を得ることは一般的ではなく、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(4)ア)のとおり、1審被告Y2も、本件店舗以外のライブハウスに出演したことがありながら、1審原告から許諾を得たことはなかったことに照らすと、本件店舗における演奏曲目や出演者が権利者から許諾を得たかどうかの認識は、本件における1審被告らの主観的要件の判断を左右するものではない。 (3) また、1審被告らは、著作権侵害の故意は、直接主体たる出演者の各演奏行為時に存在していなければならず、その内容は、当該出演者が他人の著作物を無許諾で演奏していること及び場の提供によって1審被告らも共同で当該楽曲を演奏していることの各認識ないし認容でなければならないと主張する。 しかし、1審被告らは、各出演者による演奏行為当時、著作権侵害主体であることを基礎付ける事実を認識し、1審被告ら又は本件店舗は1審原告との間で1審原告管理著作物の利用許諾契約を締結することなく、当該出演者が他人の著作物を演奏していたのであるから、規範的な侵害主体としての故意に欠けるところはないというべきである。 (4) したがって、1審被告らの上記主張は採用することができない。 5 争点4(1審原告による許諾の有無)について (1) 1審被告らは、平成24年6月11日の本件調停の第2回調停期日において、1審原告と1審被告らとの間で、1審被告ら又は1審被告Y1が、1審原告に対し、1曲当たり140円の使用料を支払うという内容で合意が成立したとか、1審原告が1審被告らに対し、1審原告管理著作物の利用を許諾する旨の意思表示をしたなどと主張する。 確かに、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(5))のとおり、第2回調停期日において、1審被告Y2が、将来分については、「社交場利用楽曲報告書」に記載をして演奏楽曲を報告すること及び「積算算定額による包括許諾契約」によって使用料を支払う旨述べたこと並びに1審原告の職員が、1曲当たりの使用料は140円である旨述べたことが認められる。 しかし、前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(5))のとおり、@その後の第3回調停期日において、1審被告Y2代理人の鈴木弁護士が、将来の1審原告管理著作物の利用については、包括的な許諾をした上で使用料については曲別の事後清算をするという方式の利用許諾契約を提案したこと、A第5回調停期日において、1審原告が、包括的利用許諾契約の締結を内容とする調停案を提出し、鈴木弁護士が、第2回調停期日における事実上の申合せを踏まえて契約条件について詰めの作業を行う必要がある旨記載した準備書面を提出したこと、B第6回調停期日において、鈴木弁護士が、「社交場利用楽曲報告書」に基づいて1審原告が使用料を分配する旨の合意が平成24年6月11日に成立したことを当事者双方が確認するという内容の調停条項案を提出したものの、1審原告はこれに同意しなかったこと、C第7回調停期日において、結局、本件調停が不成立に終わったことなどを総合すると、本件調停の過程のいずれの時点においても、1審原告と1審被告ら又は1審被告Y1との間で、1審原告管理著作物の利用に関し、利用条件等の契約の重要部分について意思が合致したとはいえず、また、1審原告及び1審被告らが、平成24年6月11日当時、契約が成立した旨認識していたと認めることもできない。よって、1審原告と1審被告ら又は1審被告Y1との間で、同日に1審原告管理著作物に係る利用許諾契約が成立したと認めることはできない。 (2) 1審被告らは、本件では、1審原告の単独行為である許諾の意思表示の有無が問題であるなどとも主張する。 しかし、1審原告による1審原告管理著作物の利用許諾は、無条件ではなく、許諾を受けた者は少なくとも使用料を支払う義務を負うのであるから、1審原告による利用許諾は、1審被告らとの間の双務契約によりされるものである。よって、1審原告の利用許諾の成立には双方の意思の合致を要するというべきであるから、1審被告らの上記主張は理由がない。 (3) また、1審被告らは、第2回調停期日から第3回調停期日までの1審原告の対応からすれば、第2回調停期日(平成24年6月11日)に明示又は黙示の許諾が成立したことは明らかであると主張する。 しかし、前記調停は結局のところ不成立によって終了していること、1審原告において、内部的決裁を経ずに著作権使用許諾契約を締結できる権限が代理人に授与されていたとは考え難いことからすれば、1審被告ら主張の点を考慮しても、1審原告と1審被告らの間において、明示又は黙示の著作権使用許諾契約が成立したと認めることはできない。 6 争点5(権利濫用等の抗弁の成否)について (1) 1審被告らは、1審原告が、独占禁止法に反する違法な包括的契約を強要し、背信的な交渉を行ったこと等を理由として、1審原告の各請求は権利の濫用及び(又は)信義則違反に該当すると主張する。 しかし、そもそも本件全証拠を精査しても、1審原告が1審被告らに対し包括的契約の締結を強要した事実を認めるに足りない。 前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(4)及び(5))の経緯に照らすと、1審被告らが、使用料が権利者に正確に分配されるものではない包括的契約が不適切であると考えたり、1審原告が1審被告らに包括的契約の締結を強要していると感じたり、過去の演奏楽曲についておよそ困難な「社交場利用楽曲報告書」の作成を強いられた上に、揚げ足を取るような指摘をされたと感じて、1審原告に対し不信感を抱くことは理解できないわけではないものの、1審原告は、1審被告らに対し、本件調停前の交渉過程及び本件調停において、包括的契約以外の契約方法があることも説明しており、また、包括的契約以外の方法で契約する場合に必要となる「社交場楽曲利用報告書」の書式を交付するなどしているのであるから、1審原告が、1審被告らに対し、包括的契約の締結を強要したとは到底認めることはできない。そして、1審原告は、著作権等管理事業法により、文化庁長官に届出をした使用料規程に基づいて使用料の徴収をするものとされているのであるから、1審原告管理著作物の利用者に対し、使用料規程に記載された方法での契約を促すことは決して不当なことではない。 仮に、1審原告が1審被告らに対し締結を求めていた包括的契約が違法なものであると認められたとしても、これをもって1審被告らの無許諾での1審原告管理著作物の利用行為が適法な行為に転化するということはできず、無許諾での利用に対する使用料相当損害金の請求や差止請求を制限すべき理由に当たるということもできない。 この点に関し、1審被告らは、最高裁平成26年(行ヒ)第75号同27年4月28日第三小法廷判決・民集69巻3号518頁を引用して、上記判示は、ライブハウスにも当てはまるものであり、1審原告が、1審被告らに締結を求めていた包括的契約は独占禁止法に違反する違法なものであるから、本件各請求は権利濫用に当たり許されないと主張する。 しかし、独占禁止法違反であるからといって、直ちに私法上の効力が無効であると解すべきではないし(最高裁昭和48年(オ)第1113号同52年6月20日第二小法廷判決・民集31巻4号449頁参照)、1審被告ら引用の上記判決は、1審原告が、ほとんど全ての放送事業者との間で、音楽著作物について包括許諾による利用許諾契約を締結し、その金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法により放送使用料を徴収する行為が、他の著作権等管理事業者の事業活動を排除するものであると認めたものであって、同判決は、ライブハウスに対する包括的利用許諾契約がおよそ違法であると判断したものではないから、本件とは事案を異にし、同判決の判旨が本件に影響するものでないことは明らかである。 したがって、1審被告らの上記主張は採用することができない。 (2) また、1審被告らは、1審原告が、本件店舗における過去の演奏利用に対する使用料の受領を拒否したとして、1審原告の請求が信義則違反である旨主張する。 しかし、1審原告と1審被告らとの間で、過去の使用料相当損害金の額について争いがある以上、1審原告が、1審被告Y1による弁済が本旨弁済に当たらないと考えて受領を拒否したとしても、1審原告の態度が極めて不誠実であり本件請求が信義則違反に当たるとまでいうことはできない。 (3) 1審被告らは、1審原告が、委託者に対する分配額や分配率を回答しなかったとして、1審原告の請求が信義則違反である旨主張する。 しかし、このような1審原告の態度が、利用許諾契約を締結しようとする権利者である1審原告と利用者である1審被告らとの間の関係において、1審被告らに対する信義則違反に当たるということはできない。 (4) 1審被告らは、1審原告が、徴収した使用料を実際に使用された楽曲の原権利者に分配するという管理事業者としての本旨に反し、曲別申請・曲別分配を行わない運用を多用しているのであって、本件においても、濫用的な請求を行っていると主張する。 しかし、1審原告は、管理著作物を使用する者から使用料を徴収して原権利者に分配する必要があるから、1審原告の原権利者への分配に関し1審被告らが問題視するような運用があるとしても、そのことをもって、管理著作物の使用者に対する請求が権利の濫用として許されないということはできない。 (5) 1審被告らは、調停手続において、1審原告に対し、実際に使用された楽曲の原権利者のもとに使用料を正しく分配する運用を行うよう求めたところ、1審原告は、不当にも調停を成立させず、原権利者に正しく分配されることのない過大な賠償金の請求を行っているのであって、著しく信義に反し、相当でない、などと主張する。 しかし、1審原告が1審被告らの提示した調停案に応じなかったことが違法不当であるということはできない。また、1審原告の原権利者への分配に関し1審被告らが問題視するような運用があるとしても、1審被告らが無許諾で管理著作物を使用している以上、1審被告らに対する使用料相当損害金の請求が信義則違反として許されないということはできない。 (6) 以上のとおり、1審被告らの権利濫用及び信義則違反に係る主張は、いずれも理由がない。 7 争点6(差止請求の適法性及び差止めの必要性)について (1) 1審被告らは、請求の趣旨に「〜させる」や「使用する」などの文言が使用されていることを理由として差止請求の対象が特定されていない、1審原告の求める差止請求は、請求原因が主張されておらず、演奏権の侵害の停止又は予防を求めるものとはいえない、などと主張する。 しかし、1審原告が、請求の趣旨第1項により、本件店舗における現在の1審原告管理著作物の利用態様を前提として、1審被告らによる1審原告管理著作物の利用の差止めを求めていることは、1審原告の請求原因事実の主張から明らかであるから、差止請求の対象が特定されていないということはできず、また、請求原因の主張が欠けているともいえない。 (2) 1審被告らは、平成28年4月、本件店舗の営業について、バー営業を主とする運営方針に改め、ライブは原則としてオリジナル曲(1審原告の非管理著作物)のみのものに限定し、ライブの出演者が1審原告管理著作物の演奏を希望する場合には、出演者自身に1審原告への許諾申請を行ってもらい、許諾を得てもらうことにしたので、1審原告管理著作物の演奏は完全に行われない状態となり、今後も1審原告の許諾なしに1審原告管理著作物の演奏が行われるおそれはないのであるから、差止めの必要性はないと主張する。 この点に関し、証拠(乙94、95)によれば、1審被告らは、原判決言渡しの後の平成28年4月8日、本件店舗のホームページ及び各出演者に宛てたメールにおいて、本件店舗は、店舗ビル取壊し予定のため、平成29年4月頃に閉店する予定であること、今後はバー営業を主として運営することとし、オリジナル曲(1審原告管理著作物を除く。)のみを演奏する出演者は、今までどおり変わらず出演してもらうことを告知したことが認められる。また、証拠(乙87、89〜92。各枝番号を含む。)によれば、1審原告は、1審被告らとの係争中は演奏者からの個別の許諾申請に応じない方針であることがうかがわれ、1審原告の許諾が得られなかったために、本件店舗におけるライブを中止した演奏者もいることが認められる。一方、証拠(甲75)によれば、平成28年4月10日と同年5月8日、本件店舗6階部分において、1審原告管理著作物を演奏したライブが開催されたことが認められる。 前示のとおり、本件店舗では、平成21年5月23日の営業開始以降、繰り返し1審原告管理著作物の著作権侵害が行われていたのであって、1審被告らが営業形態を変更したとする平成28年4月8日以降も、現に本件店舗において開催されたライブにおいて、1審原告管理著作物の侵害行為が行われたのであるから、差止めの必要性がなくなったとはいえない。 (3) 1審被告らは、1審原告による利用許諾の拒否を前提とする差止請求には理由がない旨主張する。 しかし、本件の差止請求は、1審原告と1審被告らとの間で1審原告管理著作物に係る利用許諾契約が締結されていないことを前提としており(なお、1審原告による利用許諾が双務契約によりされるものであり、契約の成立には当事者双方の意思の合致を要することは、前記5のとおりである。)、1審原告による利用許諾の拒否を前提としているものではない。 もっとも、著作権等管理事業法16条には「著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」と規定されていることからすると、1審原告は、利用者からの利用許諾の申入れを正当な理由なく拒否できないから、1審被告らが、使用料規程に定められた方法において許諾の申込みをした場合には1審原告はこれを拒否することができないというべきであって、1審被告らは、1審原告との間で、容易に、1審原告管理著作物に係る利用許諾契約を締結することができ、契約締結後は、同契約に従って1審原告管理著作物を利用できるはずである。 ところで、1審被告らは、1審原告が、「1審原告管理著作物1曲の使用につき140円を1審被告Y1が本件店舗におけるライブの出演者から徴収してその積算額を1審原告に支払い、1審原告がこれを正当な著作権者に分配する」という内容の許諾の申入れに応じなかったことをもって、1審原告が利用許諾を拒否していると主張しているものと解されるが、上記方法は、使用料規程に定められていない方法であるところ、1審原告が、文化庁長官に届け出た使用料規程に定められた方法以外の方法による契約の締結に応じないことは、事務処理の煩雑性を回避して手数料を低廉に保つために必要な合理的な措置であると考えられるから、1審原告には、許諾の申入れを拒否する正当な理由があるといえる。 1審被告らは、使用料規程に「社交場における演奏等のうち、利用の態様に鑑み本規定により難い場合の使用料は、利用者と協議のうえ、本規定の額の範囲内で決定する。」(甲3・42頁)という記載があることから、1審原告は、使用料規程によらない方法での申込みも受諾すべきである旨の主張もしているが、上記規定の文言に照らすと、同規定は、1審原告管理著作物の「利用の態様」が、通常の社交場等における利用の態様とは異なるために、使用料規程に定められた方法を適用することが相当ではない場合に対応するための例外的な規定であると考えられるから、同規定が存在することをもって、1審原告が利用者に対し、当該利用者が希望する使用料規程に規定される方法以外の方法において、利用許諾をすべき義務があるということはできない。 (4) したがって、1審原告の1審被告らに対する差止請求は、理由がある。 8 争点7(将来請求の可否)について (1) 1審原告は、本件口頭弁論終結以後も、1審被告らの不法行為が継続することが確実であると主張して、将来の不法行為に基づく損害賠償を請求している。 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められるところ(民事訴訟法135条)、継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については、たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ、かつ、その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁、最高裁平成18年(受)第882号同19年5月29日第三小法廷判決・裁判集民事224号391頁等参照)。 (2) 本件についてみると、本件店舗においては、ライブの出演者自らが演奏曲目を決定しており、1審被告らによる1審原告著作物の利用楽曲数は毎日変動するものであり、その損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することはできず、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるものである。1審被告らは、平成28年4月以降、本件店舗の営業形態を変更し、平成29年春頃には閉店予定であると主張し、現に本件店舗の貸借契約が平成29年5月31日に終了すること(乙98)に照らすと、口頭弁論終結日以降の損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することは、なおのこと困難である。さらに、権利の成立要件の具備については権利者である1審原告が主張立証責任を負うべきものである。 そうすると、本件の損害賠償請求権は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有さないから、1審被告らに対する金員支払請求のうち、口頭弁論終結日の翌日である平成28年9月13日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分は不適法であるといわざるを得ない。そして、このことは、1審原告の請求が、将来の不当利得返還請求であると解した場合も、同様である。 したがって、上記部分に関する訴えは、いずれも却下を免れない。 9 争点8(損害ないし損失発生の有無及びその額)について (1) 演奏回数について、 ア 1審原告は、1審被告らが、@平成21年5月23日から平成22年1月31日までは、本件店舗5階部分において、1月当たり28日、1日当たり15曲の1審原告管理著作物を利用し、A平成22年2月1日から平成27年10月31日までは、本件店舗5階部分において、1月当たり6日、1日当たり13曲の1審原告管理著作物を利用し、本件店舗6階部分において、1月当たり28日、1日当たり15曲の1審原告管理著作物を利用し、B平成27年11月1日以降、本件店舗6階部分において、1月当たり28日、1日当たり15曲の1審原告管理著作物を利用したと主張し、使用料相当損害金の額については、本判決別紙1のとおり、@の期間について、平成21年5月分が1万7924円、同年6月から平成22年1月までの分が月6万1740円の合計51万1844円、Aの期間について、平成22年2月分から平成26年3月までの分が月7万3206円(本件店舗6階部分につき月6万1740円、本件店舗5階部分につき月1万1466円)、同年4月から平成27年10月までの分が月7万5297円(本件店舗6階部分につき月6万3504円、本件店舗5階部分につき月1万1793円)の合計509万0943円(本件店舗6階部分につき小計429万3576円、本件店舗5階部分につき小計79万7367円)、Bの期間について、月6万3504円であると主張している。 これに対し、1審被告らは、1審原告は、特定が可能であるにもかかわらず、被侵害楽曲を特定した主張立証を一切行っておらず、損害賠償請求は主張自体失当であると主張する。 しかし、本件のように、特定の場所において繰り返し行われる著作権侵害行為について損害賠償を求める場合に、被侵害楽曲を個別具体的に特定しなければ損害賠償請求ができないとはいえず、1審被告らの主張は理由がない。 また、演奏者がオリジナル曲を演奏した場合であっても、著作権侵害の不法行為が成立することは、前記3のとおりである。 イ 1審原告は、平成22年9月24日から同年12月14日までの間に10回、平成23年6月9日から同年8月11日までの間に8回、平成25年2月20日から同年9月20日までの間に7回の本件店舗の実態調査を実施したところ(甲15、36の別紙A・D)、各実態調査の方法(甲55)に照らし、各実態調査の結果の信用性を具体的に疑わせる事情は特にうかがわれない。 これに対し、1審被告らは、演奏者の自己申告資料があると主張して、「社交場利用楽曲報告書」を提出する(乙18、23、97)。 しかし、上記「社交場利用楽曲報告書」は、@平成23年7月21日分については1審原告調査結果28曲(ただし、演奏時間5分超の場合も1曲として算定する。この項において以下同じ。)に対し4曲、平成25年3月8日分については1審原告調査結果18曲に対し10曲、同年7月10日分については1審原告調査結果15曲に対し5曲と大きくかい離していること、A自己申告資料と演奏者等やファンのブログを対比すると、演奏楽曲数が大きくかい離するものが相当程度含まれていること(甲36の別紙B)、B1審被告Y2自身、平成24年7月から平成25年7月にかけて行った合計6回のライブにおいて、音楽出版者と契約している1審原告管理著作物について、使用料の支払の対象とはならないとの誤った申告を行っていること(甲68の1)からすれば、過少申告も相当程度含まれていると推認され、演奏者の自己申告のとおりの利用があったとは認め難い。 ウ 上記の1審原告による25回の実態調査によれば、1回のライブにおける1審原告管理著作物の平均演奏曲数(ただし、演奏時間5分超の場合も1曲として算定する。この項において以下同じ。)は14.4曲であるが、その内訳は、10曲未満が2回、10曲から14曲が14回、15曲から19曲が7回、20曲以上が2回とかなりばらつきがある。そして、本件店舗においては、多数のバンドがライブを行っているので、出演するバンドによって1審原告管理著作物を演奏する割合は異なっていると考えられる。現に、1審被告ら提出の「社交場利用楽曲報告書」によれば、演奏された全ての曲数(1審原告管理著作物でない曲も含まれる。また、1審原告の実態調査結果によって修正した日もある。)が、平成25年2月は246曲(ライブ数25)、同年3月は327曲(ライブ数29)、同年7月は267曲(ライブ数23)、同年9月は311曲(ライブ数28)であり、その平均は1ライブ当たり10.9曲にとどまる。 したがって、上記「社交場利用楽曲報告書」に過少申告が相当程度含まれているとしても、1審原告管理著作物が、1回のライブ当たり、1審原告の行った実態調査の結果の平均値である14.4曲演奏されたと推認することは困難であるといわざるを得ない。 エ また、1審原告は、1審原告管理著作物の利用時間が5分を超える場合の使用料は、5分を超えるごとに1曲分ずつ加算するものと定めている。したがって、1審原告は、上記定めに従って、使用料を請求することができる(著作権法114条3項参照)。 1審原告の実態調査においては、上記定めに従って曲数が算定されているところ、加算の対象となった曲は、いずれも1審原告管理著作物と推認され、オリジナルのとおりの演奏がされず、アドリブ若しくはアレンジ演奏が行われたとしても、一体のものとして1審原告管理著作物を利用したことに変わりはないから(甲75)、上記定めに従った加算をするのが相当である。 オ そうすると、1審原告の行った調査結果を基に1審原告管理著作物の演奏回数を推認することは相当であるものの(なお、1審原告の行った実態調査の回数が推認の基礎として少なすぎるということはできない。)、ライブごとに1審原告管理著作物の利用割合が相当程度異なることを十分に考慮すべきである。 かかる観点からすれば、1ライブ当たりの平均演奏曲数に0.7を乗じた曲数によって使用料を定めるのが相当である。そして、1ライブ当たりの平均演奏曲数は、1審原告による実態調査結果(甲15)を基に、演奏時間が5分を超えるごとに1曲加算する算定方法によれば、本件店舗の5階部分と6階部分の双方を利用している場合の5階部分につき17.3曲、主たる演奏会場(上記場合の6階部分又はいずれか一方のみを利用している場合)につき19.0曲と認められる。これに0.7を乗じると、本件店舗の5階部分と6階部分の双方を利用している場合の5階部分につき12曲、主たる演奏会場につき13曲(いずれも小数点以下切捨て)となる。 カ 以上のとおり、1ライブ当たりの1審原告管理著作物の演奏曲数は、本件店舗の5階部分と6階部分の双方を利用している場合の5階部分については12曲、主たる演奏会場(上記場合の6階部分又はいずれか一方のみを利用している場合)については13曲と推認するのが相当である。 (2) 使用料について 1曲当たりの使用料については、1審原告の使用料規程によれば、店舗の客観的な座席数及び平均的な標準単位料金を基に算定することとされ、ミュージックチャージ及び飲食代を加算した額を標準単位料金とすることは、1審被告らと出演者のいずれもが1審原告管理著作物の利用主体に当たる本件においては、実態を反映したものであって合理的といえることからすれば、140円(税抜)と認めるのが相当である。 これに対し、1審被告らは、本件店舗5階部分は客が少なく(乙32)、単価は140円を下回る旨主張するが、上記判断を左右するものではない。 (3) 各期間における使用料相当額について ア 平成21年5月23日から平成22年1月31日までの期間 (ア) 1審原告は、平成22年7月以降のライブ開催回数の調査結果に基づき、この調査によって明らかになったライブ開催回数と同様の頻度で上記期間の損害額を推認すべきであると主張する。 しかし、本件店舗の開店当初は、ライブの開催数が少なかったというのであるから、実態調査のされた期間と同程度の頻度でライブが開催されていたとは認め難い。もっとも、証拠(甲74、乙23)によれば、平成21年6月の平日に2回、同年7月の平日に4回、8月の平日に6回、9月1日から14日の平日に2回のライブが開催されたこと、同月15日から30日の間に13回(週末も含む。以下この項において同じ。)、同年10月に16回、11月に14回、12月に17回、平成22年1月に20回のライブが開催されたことが認められる。また、平成21年10月から同年12月にかけての週末(土日)には、月平均4回程度ライブが開催されたことに照らすと、それ以前の期間も同程度の頻度で週末にライブが開催されたものと推認することができる。これらの事実を総合すれば、平成21年5月に2回、6月に6回、7月に8回、8月に10回、9月に16回(1日から14日の間に3回、15日から30日の間に13回)、10月に16回、11月に14回、12月に17回、平成22年1月に20回のライブが開催されたものと認められる。 そして、ライブ1回当たりの演奏曲数は、この期間においては本件店舗5階部分のみで営業していたのであるから、本件店舗5階部分が主なライブ開催場所であるといえ、実態調査期間における主なライブ開催場所である本件店舗6階部分と同程度の曲数(13曲)が演奏されていたものと推認できる。 (イ) したがって、上記期間における損害額は、次のとおり認められる(なお、下記認定額の中には原判決認容額を下回る月があるが、1審被告らは敗訴部分について控訴していること、原判決認容額は1審被告らの推測主張に基づくものであるが、1審被告らが損害額について上記推測額のとおりであることを自認した趣旨とは解されないことから、下記のとおり判断するのが相当である。)。
(ア) 上記期間は、本件店舗5階部分と本件店舗6階部分において、ライブが開催されている。そして、証拠(甲15)によれば、上記期間における1か月当たりライブ開催日数は、本件店舗5階部分において6日、本件店舗6階部分において28日と推認される。 (イ) したがって、1か月当たりの損害は以下のとおりである。 a 平成22年2月1日から平成26年3月31日まで (140円×12曲×6日×1.05)+(140円×13曲×28日×1.05)=(1万0080円×1.05)+(5万0960円×1.05)=1万0584円+5万3508円=6万4092円 b 平成26年4月1日から平成27年10月31日まで (140円×12曲×6日×1.08)+(140円×13曲×28日×1.08)=(1万0080円×1.08)+(5万0960円×1.08)=1万0886円+5万5036円=6万5922円(小数点以下切捨て。以下同じ) ウ 平成27年11月1日から平成28年4月8日まで (ア) 上記期間は、本件店舗6階部分のみでライブが開催されている。 (イ) したがって、1か月当たりの損害は、以下のとおりである。 140円×13曲×28日×1.08=5万5036円 そして、4月1日から8日までの分は1万4676円である。 5万5036円÷30日×8日=1万4676円 エ 平成28年4月9日から同年9月12日まで (ア) 前記7(2)のとおり、1審被告らは、平成28年4月8日、本件店舗の出演者らに対し、営業形態の変更と、1審原告の個別の許諾を得ない限り、オリジナル曲(1審原告管理著作物を除く。)のみを演奏してもらうことを告知し、1審原告の許諾が得られなかったために、本件店舗におけるライブを中止した演奏者もいた。 したがって、平成28年4月9日以降も、それ以前と同様の頻度で1審原告管理著作物を演奏するライブが開催されたとは認め難い。そして、平成28年4月10日と同年5月8日、本件店舗6階部分において、1審原告管理著作物を演奏したライブが開催されたことが認められること(甲75)からすれば、平成28年4月8日から同年9月12日までの間に、月1回程度、合計5回、1審原告管理著作物を演奏するライブが開催されたものと推認される。 (イ) したがって、損害は以下のとおりである。 140円×13曲×5日×1.08=9100円×1.08=9828円 オ 平成28年9月13日以降 前記8のとおり、事実審口頭弁論終結日以降の将来請求はその要件を欠くので、却下を免れない。 (4) 消滅時効について 1審被告らは、1審原告に対し、平成26年2月24日の原審弁論準備手続期日において、平成21年5月23日(本件店舗開店日)から平成22年10月30日までに生じた不法行為に基づく損害賠償請求権について、消滅時効を援用した。よって、上記請求権は時効により消滅したものと認められる。 もっとも、1審被告らは、1審原告管理著作物の演奏主体として、1審原告に対し使用料を支払う義務を負っており、当該義務を認識していたにもかかわらず、その支払をしていないから、1審被告らには使用料相当額の不当利得があり、かつ、これについて悪意であるというべきである。そうすると、1審被告らは、1審原告に対し、平成21年5月23日から平成22年10月30日までの1審原告管理著作物の利用に関し、不法行為に基づく損害賠償債務と同額の不当利得返還債務を負い、不当利得返還金に対する1審原告管理著作物を利用した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息金の支払義務を負うと認めるのが相当である。そして、この不当利得金返還債務が時効消滅していないことは明らかである。 なお、1審被告らは、ミュージックチャージを受領していないから利得がない旨主張するが、1審被告らの利得は、上記のとおり1審原告管理著作物の利用に係る使用料の支払をしていないことにあるから、ミュージックチャージの全額を出演者が得ているという事実は、上記判断を左右しない。 (5) 供託について 1審被告Y1は、合計119万9120円を供託しているが、その原因は、1審原告と1審被告Y1との間で平成24年6月11日付け合意に基づく支払の受領を1審原告が拒否したこと(乙58、59、弁論の全趣旨)というのであるから、上記供託をもって本件の損害賠償債務の履行に当たるということはできず、上記供託の事実は不法行為に基づく損害賠償金に対する遅延損害金の発生を妨げない。 また、1審被告らは、真の権利者に正しく分配されることが担保されるよう、真の権利者に渡すべき金銭を1審原告に引き渡すことを留保する正当な権利があるから遅延損害金が発生しない旨主張する。しかし、1審原告による委託者に対する分配方法が極めて不合理であるために権利行使が違法というほかないような場合であればともかく、本件において、1審原告は、文化庁長官に届け出た著作権信託契約約款及び使用料規程に基づいて1審原告管理著作物の利用者である1審被告らに対して権利行使をしようとしているにすぎず、その余の事情を考慮しても、1審被告らが1審原告に対する使用料の支払を留保する正当な理由があると認めることはできない。 (6) 小括 以上のとおりであるから、1審原告は、1審被告らに対し、以下の金銭の支払を求めることができる。 ア 使用料相当損害金又は不当利得金 平成21年5月23日から平成28年9月12日までの1審原告管理著作物の利用に係る使用料相当損害金又は不当利得金の合計額は、本判決別紙4の使用料相当損害金欄記載のとおり、496万5101円である。 イ 弁護士費用 本件の著作権侵害による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、不法行為に係る認容額、差止請求が認容されていること、本件訴訟の経緯その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、これを50万円と認めるのが相当である。 ウ まとめ したがって、1審原告の1審被告らに対する金員支払請求は、1審被告らに対し、連帯して546万5101円及びうち本判決別紙4の使用料相当損害金欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各日から、うち50万円に対する平成28年4月1日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息の支払を求める限度において理由がある。 10 結論 したがって、1審原告の控訴は一部理由があるので、原判決主文2ないし4項を変更し、1審被告らの控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却するのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 部眞規子 裁判官 古河謙一 裁判官 鈴木わかな 別紙1<省略> 別紙2 オリジナル曲演奏一覧<省略> 別紙3 五星旗関連ライブ演奏曲検討表<省略> 別紙4 使用料相当損害金一覧<省略> |
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