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【事件名】仕入価格分析ソフトとデータベースの翻案権侵害事件
【年月日】平成28年10月27日
 東京地裁 平成27年(ワ)第24340号 不正競争行為等差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成28年8月23日)

判決
原告 株式会社ジヤコス
同訴訟代理人弁護士 師子角允彬
被告 株式会社ロウィンズ
同訴訟代理人弁護士 杉本憲昭


主文
1 原告の訴えのうち、別紙却下請求目録記載の各請求に係る訴えを却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙事業目録記載の事業を営んではならない。
2 被告は、別紙営業秘密目録記載の情報を利用して、小売業者に対し、仕入効率の良否を判定するための情報が記載された文書を配布してはならない。
3 被告は、別紙営業秘密目録記載の情報の全部又は一部を記載した書面、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
4 被告は、別紙ソースコード1及び2のソフトウェアを使用してはならない。
5 被告は、別紙ソースコード1及び2のソフトウェアが収納されたCD−ROM、MO、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
6 被告は、別紙データベース目録記載のデータベースを使用してはならない。
7 被告は、別紙データベース目録記載のデータベースを収納したCD−ROM、MO、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、@原被告間において「被告が別紙事業目録記載の事業(以下「本件事業」という。)を行わない」旨の競業禁止合意があるところ、被告は同合意に反して同事業を行っているとして、同合意に基づき、被告が同事業を行うことの差止めを(上記第1、1)、A別紙営業秘密目録記載の情報(以下「本件情報」という。)が原告の有する営業秘密に該当するところ、被告がこれを原告から開示された上で不正に使用していることが不正競争防止法2条1項7号に該当するとして、同法3条1項及び2項に基づき、本件情報を利用して小売業者に対し仕入効率の良否を判定するための情報が記載された文書を配布することの差止め、及び本件情報が記載された書面や記憶媒体の廃棄を(上記第1、2及び3)、B本件事業に係るソフトウェア及びデータベースにつき原告が著作権を有するところ、被告がこれらを無断で改変し、自らの本件事業のために使用したことが、原告の上記著作権(翻案権)を侵害するとともに、原被告間における「被告が原告の本件事業拡大のためにこれらのソフトウェア等を利用する」旨の合意にも反するとして、著作権法112条1項及び2項並びに同合意に基づき、同ソフトウェア及び別紙データベース目録記載のデータベース(以下「本件データベース」という。)の使用の差止め、並びに同ソフトウェア及びデータベースが収納された記憶媒体の廃棄を(上記第1、4ないし7)、それぞれ求める事案である。
1 前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、付加価値通信網「ヴァン」(VAN)による情報伝送及び情報処理業等を行う株式会社であり、本件事業を行っている。
イ 被告は、平成23年8月2日に設立され、インターネット、その他通信網を利用する情報提供及び処理業務等を行う株式会社である(甲3)。
 なお、被告代表者のA(以下「A」という。)は、平成22年4月1日から平成25年10月1日に辞任するまで、原告の取締役でもあった(乙3、4)。
 被告の設立当初、被告代表者であるAが被告の株式の6割を保有し、原告が、別人名義で、被告の株式の4割を実質的に保有していた。
(2) 原告による原価等の比較書面の作成
 原告は、本件事業を行うに当たり、別紙ソースコード1、2のソフトウェア(以下、それぞれ「本件ソフトウェア1」、「本件ソフトウェア2」といい、これらを「本件ソフトウェア」と総称する。)を利用して、特定の小売業者と他社の原価を比較することで当該業者の仕入効率の良否を判定するための文書(以下「本件診断書」という。甲4の1の1〜7、甲4の2の1〜6参照)を作成し、これを当該小売業者に対して交付するなどしていた。
(3) 被告による原価等の比較書面の作成
 被告は、原告が「仕入会分析ソフト」と称するソフトウェア(以下「被告ソフトウェア」という。)を使用して、「仕入会」という組織に参加している小売業者と、同じく「仕入会」に参加している他の業者の仕入原価を比較すること等を目的とする書面(以下「本件分析書面」という。甲5参照)を作成している。
 なお、被告は、乙7のソースコードが被告ソフトウェアに対応すると主張するのに対し、原告は、被告ソフトウェアは本件ソフトウェアを翻案したものではあるが、乙7のソースコード自体には対応しないと主張する。
2 争点
(1) 被告が本件事業を行っているか。また、原被告間において、被告が本件事業を行わない旨の合意(競業禁止合意)があったか。
(2) 本件情報は特定されているか。また、本件情報は、原告が保有する営業秘密に該当するか。さらに、被告は、原告から本件情報の開示を受けた上で、これを不正に使用したか。
(3) 原告は、本件ソフトウェアにつき著作権を有するか。また、被告は、原告の同著作権(翻案権)を侵害したか。さらに、被告は、「被告が原告の本件事業拡大のためにソフトウェア等を利用する」旨の合意に違反して本件ソフトウェアを利用したか。
(4) 本件データベースは特定されているか。また、原告は、本件データベースにつき著作権を有するか。さらに、被告は、原告の同著作権(翻案権)を侵害したか。また、被告は、「被告が原告の本件事業拡大のためにソフトウェア等を利用する」旨の合意に違反して本件データベースを利用したか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(競業禁止合意違反の有無)について
ア 原告の主張
(ア) 被告による本件事業の実施
a 本件事業は、小売業者からの受注を効率的かつ迅速に取り次ぐ事業である。小売業者から商品の発注を受けた本件事業者は、卸売業者別・商品別に注文を振り分け、発注データを卸売業者に送信する。卸売業者は本件事業者から受信したデータをもとに効率的かつ迅速に小売業者に商品を納入する。
 本件事業者を介在させることにより、小売業者は、各卸売業者と個別に受発注データを送受信する煩を削減することができるほか、データの送受信を効率的に行うことで、必要な商品を必要な数だけ常時確保しておくことが可能になる。
 また、卸売業者も、受注・納品業務の簡素化を図ることができるほか、受発注データの分析が容易になる。
 そして、原告の本件事業は、小売業者に対して本件診断書を発行している点に特徴がある。すなわち、原告は、つながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報を体系的に構成した本件データベースを作成・保有している。そして、本件診断書は、エクセルを利用した専用の本件ソフトウェアを用いて本件データベースに一定の処理を行うことで作成される。
b 被告のホームページには、事業内容として「仕入会運営」「小売業向けEDIシステム・POSシステム提供」と記載されているところ、EDIとは、小売業者と卸売業者ないし製造業者との間で規格化された電子データの交換を意味し、これは本件事業そのものである。また、POS(販売時点情報管理システム)はEDIを構成する主要なシステムであり、POSを提供することは、本件事業の前提を構成するシステムを提供することを意味する。
 使用する通信方法が公衆回線からインターネット回線に移行するにつれて従前VANと呼ばれていた事業をEDIと呼ぶことが多くなっただけであり、VANとEDIとは、いずれも受発注データを電子化して小売業者と卸売業者・製造業者とを取り次ぐことを本質とする事業であり、本件事業者とEDI事業を標榜する者とが競業関係にあることは明らかである。
 そして、被告は、平成25年冬頃から、仕入会の会員を対象に本件事業を開始し、現在では、原告の顧客である小売業者にも営業をかけている。
(イ) 競業禁止合意の存在
a 原告は、被告代表者であるAからの提案を受け、Aが60%、原告が40%の出資比率で、本件診断書を活用して小売業者とのネットワークを築き上げるための新会社を設立することを合意した(以下「本件合意1」という。)。
 また、原告は、自らの本件事業の拡大に寄与することを条件に、Aとの間で、@原告社屋に設置された情報端末、A本件ソフトウェア、本件情報ないし本件データベースを無償で利用させることを合意した(以下「本件合意2」という。)。
 なお、本件合意1、2とも口頭での合意であり、契約書は存在しない。
 被告は、会社設立以降、小売業者による「仕入会」の組織に着手した。原告は、核になる初期の会員を紹介したが、初期の会員のほとんどは原告の本件診断書を現在ないし過去に利用している者であった。
 そして、資金的、技術的、経営的な援助を受けるに当たっては競業をしないことが当然の前提となるから、本件合意1及び2がされた際には、競業をしないことが当然の前提として合意されていたと解すべきである。
b 原告は、現在に至るまで一貫して本件診断書を継続的に使用している。また、原告の前代表者であるB(以下「B」という。)がAに対して本件診断書の利用を許諾したことは認めるが、これは、原告の本件事業の拡大に資するためであり、原告への顧客の紹介を前提としたものであった。
 原告が、何の見返りもなしに、経営資源の利用を許諾することはなく、AがBの義理の息子であることは、原告の経営上の意思決定とは関係がない。
イ 被告の主張
(ア) 被告による本件事業の不実施
a 本件事業の概略に関する原告の主張は特に争わないが、本件診断書は、原告が一時期発行していたものにすぎず、本件事業の特徴といえるものではなく、また、原告のデータベースに価格は含まれていない。このほか、「卸売業者が受注・納品業務の簡素化を図ることができることや、受発注データの分析が容易になること」は、本件事業とは特に関係がなく、小売業者及び卸売業者間の取決めによるものである。
b 本件事業は、「小売業者から商品の発注データを預かり、それをメーカー等に送り届ける」という、いわば「運び屋」的な内容であり、原告が行っている本件事業も、正に上記の意味での本件事業にほかならない。
 これに対し、被告が行うEDI事業とは、単なる「運び屋」ではなく、小売業者の「基幹処理」(商品の発注、受領、支払、在庫管理等、小売業者の販売全てに関わる管理処理)を全般的に受託することで、いわば小売業者と同等の当事者的立場で、各メーカーに発注を行うものである。
 VANは、「商品にまつわる情報データを伝達するだけにすぎない」という意味で、EDIやEOSとは明確に一線を画するものであり、被告は本件事業を営んでいない。
(イ) 競業禁止合意の不存在
a 仮に、被告が行う業務が、原告主張の本件事業に含まれるとしても、原告が主張するような原被告間での競業禁止合意は、明示的にも黙示的にも一切存在しない。
 このほか、原被告間において、本件合意1及び2も存在しない。
b 原告は、平成22年初め頃には本件診断書を利用しておらず、またAがBの義理の息子に当たる存在であったこともあり、Bは、特定の見返りを求めることなく、Aに対して本件診断書の利用を快諾したものであって、「原告の本件事業を拡大するため」等の条件は一切存在しない。
(2) 争点(2)(被告による本件情報の不正使用の有無等)について
ア 原告の主張
(ア) 原告において、本件情報は、小売業者との信頼関係があるため厳重な企業秘密として管理されている。また、原価を他社と比較するためのサービスは、本件事業に欠かせない小売業者とのつながりを構築するに当たり、非常に有用である。さらに、統計処理を施した本件診断書を外部に提供することはあっても、本件情報それ自体は非公知の情報である。
 したがって、本件情報は明らかに不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当する。
 本件情報の核心部分は仕入価格であるが、それ以外にも、価格に重要な影響を与える数量なども重要な営業秘密である。
 なお、訴状附属書類6記載のものは、本件情報の保管様式に関する参考例である。
(イ) 原告は、本件合意1ないし2に基づいて、被告に対し、本件情報を開示した。
 しかし、被告は、平成25年8月頃から、被告の本店所在地で被告ソフトウェアを使用して本件診断書類似の資料を配布するようになった。
 このように、被告は、開示を受けた趣旨に反し、本件情報を基に本件診断書類似の書面を作成し、それを活用することで仕入会の会員小売業者を増やすとともに、仕入会で得られたつながりを足掛かりに、本件事業に進出し、原告の顧客に営業をかけている。
 上記諸事情に加え、被告の本件事業が原告の事業と競争関係にあること、被告による本件情報の利用は営業秘密の開示を受けた趣旨に反していることからすれば、被告には、不正の利益を得る目的があると認められる。
 さらに、被告の競業、顧客奪取行為は、原告の収益を阻害する関係にあるから、被告には、営業秘密の保有者である原告に損害を加える目的も認められる。
 以上のとおり、被告は、原告から開示を受けた本件情報を不正に用いることにより、不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争を行ったものである。
(ウ) 甲11の1(被告ソフトウェアの開発者であるCからAらに送られたメールであり、以下「本件メール」という。)に記載されている「株式会社ナンバ」(以下「ナンバ社」という。)は、原告の取引先であるところ、同メールが送信された平成25年9月25日時点で、被告とナンバ社との間で取引関係はなかった。本件メールには、ナンバ社向けの資料として仕入金額が記入されているが、これは本件情報を流用していなければ被告には作成できないものである。
 なお、原告ないしBには、Aに対してナンバ社との関係の仲介を依頼する理由はない。また、原告ないしBは、被告からナンバ社の件での報告を受けたことは一度もない。以上からすれば、被告はナンバ社の仕入価格等の情報を不正入手して使用しており、他の顧客企業の情報に関しても同様に不正入手して使用していたというべきである。
イ 被告の主張
(ア) 原告が想定する「営業秘密」が、仕入価格(及びその数量)を意味することは理解できるが、その余の内容は不明である。
(イ) 被告は、そもそも本件情報を用いていない。確かに、被告は、原告からの承諾を得た上で、原告が把握している商品のJANコード(商品に付された13桁又は8桁のバーコードから成るもの)から「メーカー名」を参考にしたことはあるが、「メーカーコード」は、インターネットで検索すれば、すぐに取得できるものであり、単なる「メーカー名」は原告のいう営業秘密に該当しない。
 このほか、被告が使用しているのは、あくまで同意を得ている参加企業が自ら任意的に開示した仕入価格のみであり、被告は、原告が保有している「仕入価格・販売価格」を使用してはいない。
(ウ) 被告がナンバ社向けの分析を行ったのは、同社が平成25年9月25日当時原告の大事な顧客であったにもかかわらず、原告との取引を終了させようとしていたため、BがAに対し、ナンバ社との取引を継続できるようにしてほしい、と懇願したからにほかならない。このように、被告がナンバ社の仕入価格を本件情報から流用した事実はなく、その他の会社についても同様である。
(3) 争点(3)(被告による本件ソフトウェアの著作権侵害等の有無)について
ア 原告の主張
(ア) 著作権侵害について
a 本件ソフトウェア1(甲4の1の1〜7に対応)は、本件ソフトウェア2(甲4の2の1〜6に対応)をバージョンアップさせたものであり、いずれも、原告の発意のもと、原告の従業員に職務として作成させたプログラムであり、その著作権は原告に帰属している。
b 本件ソフトウェアと被告ソフトウェアとは、他の事業者と比較して仕入効率の良否を判定するという着想や、趣旨・目的が全く同じであり、画面構成、表示項目も似通っており、コンピュータ言語もデータベース様式も基本構造も同じである。
 以上のほか、被告が、あえて原告で稼働していたベトナム人プログラマーに被告ソフトウェアの作成を依頼したという同ソフトウェアの作成経緯、同ソフトウェアにおける原告の知的成果物流用の痕跡(後記cの「ジャコスモード」)、被告による証拠改ざん(乙7からの「ジャコスモード」の除去)、被告による立証妨害(ソースコードの電子媒体の提出拒否等)に鑑みれば、被告ソフトウェアが本件ソフトウェアを翻案したものであることは明白である。
 そして、被告は、被告ソフトウェアを利用して本件診断書に類似する本件分析書面(甲5)を作成しているところ、原告が被告に対し、本件ソフトウェアの翻案を許諾した事実はなく、被告による本件ソフトウェアの翻案・利用は「許諾に係る利用方法及び条件の範囲」を逸脱して原告の翻案権を侵害する行為である。
c 本件メール添付の被告ソフトウェアの起動画面(甲11の2)のうち、「Data」のタブ画面(甲11の9)には「ジャコスモード」「Jacos」との記載がある。また、甲10の1(第三者に営業をかける際に作成された被告ソフトウェアのサンプル等)添付の被告ソフトウェアの起動画面の「Data」タブにも、同様の「ジャコスモード」「Jacos」といった記載があるところ、「ジャコスモード」はJICFSコード(JANコード及びこれに付随する商品情報を一元的に管理するデータベース)と同義ではなく、JICFS分類を下敷きにはしているが、改良を重ねて構築した表示区分である。このほか、被告ソフトウェアにおいては、原告が独自に割り振った数字と一致した商品分類が用いられている。これらの事情は、被告ソ
フトウェアが本件ソフトウェアを翻案したものであることを裏付ける。
(イ) 本件合意2違反について
 本件合意2に際しては、本件ソフトウェアの使用を許諾する範囲を書面で合意していたわけではないが、本件合意2には、顧客奪取の手段として本件ソフトウェアを利用しないことが当然の前提として含まれていたというべきであり、被告は同合意に違反した。
イ 被告の主張
(ア) 著作権侵害について
a 本件ソフトウェアの著作権の帰属については不知。
 Aは、当初、原告に本件診断書を作成してもらっていたが、データが正しくないためトラブルが多かったこともあり、被告設立後は、被告独自のシステムを構築した方が良いと考え、新たにプログラマーを雇用して、平成24年初め頃に、被告ソフトウェアを独自に完成させた。被告は、その後、原告から本件診断書を作成してもらうのではなく、被告ソフトウェアを用いるようにした。
b 被告が被告ソフトウェアを用いて作成した本件分析書面も、本件診断書も、その性質上、例えば「売価」、「原価」、「粗利」等の用語を用いざるを得ず、その表現等が似通ったものになることはやむを得ない。
 しかし、本件診断書は、原告が、本件事業の顧客全ての情報を勝手に使用して、商品ごとの仕入価格平均を出して、それを対象会社の仕入価格と比較するものであるのに対し、本件分析書面による分析は、あくまで仕入会参加企業の全ての同意を得た上で、そのうち対象会社が任意で選択した6社の仕入価格とを比較するものであり、前提となる基盤が全く異なっている。
 このほか、本件診断書ではJICFSコード(JANコード及びこれに付随する商品情報を一元的に管理するデータベース)にしか対応しないのに対し、本件分析書面では対象会社の商品分類にも対応している。また、本件診断書では、「ワースト種類」として「品揃え」や「死に筋」というものがあるが、本件分析書面による分析ではそのようなものはない。さらに、本件分析書面では、その対象会社の改善結果に関する分析もされているが、本件診断書にはそのようなものは存在しない。
 また、本件診断書は、原告が過去に一時的に使用していたにすぎず、現在使用していないのに対し、本件分析書面は、あくまで会員サービスの一環ではあるものの、被告が継続的に使用しているものであり、両者のプログラムも全く異なっている。
 以上の事情からすれば、本件診断書と本件分析書面とは、表現等が多少似通っていたとしても、基本的には別物であり、後者が前者を冒用したという関係にはなく、被告が本件ソフトウェアに関する原告の翻案権を侵害したこともない。
c 原告が指摘する「ジャコスモード」との記載は、単に、JICFSコードによる商品分類を指すものにすぎず、「Jacos」との記載も上記「ジャコスモード」、すなわちJICFSコードを指すものである。
 被告は、当初は原告から了承を得て本件診断書を利用していたところ、その本件診断書ではJICFSコードを前提とした商品分類にしか対応していなかったため、被告は被告ソフトウェアの作成に当たって「御社モード」を創設し、その顧客独自の商品分類(JICFSコードによらない分類)にも対応するようにした。そして、原告(ジャコス)の本件診断書においてはJICFSコードのみに対応していたことから、被告ソフトウェアをプログラムしたCは、JICFSコードでの商品分類については「ジャコスモード」と表現したにすぎない。
(イ) 本件合意2違反について
 原被告間においては、本件合意2は存在せず、被告が同合意に違反したこともない。
(4) 争点(4)(被告による本件データベースの著作権侵害等の有無)について
ア 原告の主張
(ア) 著作権侵害について
a 本件データベースは、原告の発意のもと、原告の従業員に職務として作成させたデータベースであり、その著作権は原告に帰属している。
 なお、訴状附属書類6記載のものは、本件データベースの参考例である。
b 被告は、本件データベースに、原告との決別後に入手したデータを付加したデータベースを利用して本件診断書類似の本件分析書面(甲5)を作成している。
 本件データベースは、原告が著作権を有するデータベース著作物であるところ、既存のデータベースに新たな仕入価格・販売価格を逐次追加していくことも「翻案」の一態様にほかならず、被告による本件データベースの翻案・利用は「許諾に係る利用方法及び条件の範囲」を逸脱して原告の翻案権を侵害する行為である。
 また、顧客奪取の手段として利用するか否かを問わず、原告が被告に対して本件データベースを翻案することを許諾した事実はない。
(イ) 本件合意2違反について
 本件合意2に際しては、本件データベースの使用が許される範囲を書面で明確に合意していたわけではない。しかし、本件合意2には、顧客奪取の手段として本件データベースを利用しないことが当然の前提として含まれていたというべきであり、被告による本件データベースの利用は本件合意2に違反するものである。
イ 被告の主張
(ア) 著作権侵害について
a 原告は、本件情報を体系的に構成したものを本件データベースとするが、前記のとおり、本件情報は特定されていない。
b 本件データベースの著作権の帰属については不知。
c 被告は、本件データベースを使用しておらず、原告の著作権(翻案権)を侵害していない。
 被告は、過去、一時的に、インターネットを介して、原告が把握している商品のJANコードから「メーカー名」を参考にしたことはあるが、これは原告の承諾を得た上での行為である。
(イ) 本件合意2違反について
 原被告間において本件合意2は存在せず、被告が同合意に違反したこともない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 証拠(甲1、9、11の1ないし3・6・9、12、乙3、4、8、10、11)(ただし、甲12については後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和44年8月19日に設立された後、小売業者からの注文を卸売業者に取り次ぐという本件事業を営んでおり、その際に、本件ソフトウェアを用いて本件診断書を作成し、これを小売業者に無償で配布するなどしていた。
(2) Aは、もともと実家の植木卸業を引き継いでいたが、そこに原告の前代表者であるBが客として訪れ、知り合いになった。
 BとAは、平成11年頃、株式会社フォーラスホームという会社を共に設立した。
 また、Bは、平成13年頃、Aに対し、原告の仕事を手伝うよう依頼し、Aも、原告との間で業務委託契約を締結し、原告の営業を担当することになった。
(3) Aは、平成18年8月頃、Bの娘と結婚した。
(4) 原告とAとの間の業務委託契約は、平成19年5月頃、終了した。同契約の終了に伴い、Aは、再び実家の植木卸業を行うようになったが、その後も、引き続き、原告の事務所やBの家を訪れていた。
(5) Aは、平成21年末頃、知り合いの小売業者の社長から、小売の仕入れの共同体を作りたいとの相談を受けたため、小売業者を会員として、共同仕入れを目的とする「仕入会」を発足しようと考えた。
 Aは、平成22年初め頃、Bに対し、仕入会について説明するとともに、原告が使用していた本件診断書を仕入会で利用したい旨伝えたところ、Bはこれを承諾した。
 Aは、その後、仕入会を設立し、共同仕入れの準備にかかるとともに、原告に本件診断書を作成してもらい、それを「仕入会」の参加会社に配布していた。
(6) Aは、平成22年4月、原告の取締役に就任し、その旨の登記も経由した。
 これは、原告で取締役を務めていた者が同年2月頃に死亡して欠員が生じたためであり、Aは、平成25年10月に取締役を退任するまで、原告から役員報酬の支払を受けていた。
(7) Aは、平成23年7月頃、被告の設立を検討し、Bにも提案したところ、Bもこれを承諾し、被告の設立に際しては、Aが6割、原告が4割を出資した。なお、原告は、実際には、第三者の名義で株式を引き受けた。
 被告は、「仕入会」を運営し、「仕入会」参加企業に対して仕入れサポートソフトを提供したり、共同仕入れを行うほか、小売業向けEDIシステムやPOSシステムを提供しており、その際、インターネットを利用している。
(8) 原告から受領した本件診断書には不具合があったため、Aは、被告の設立を機に、被告独自の本件分析書面を作成しようと考えた。
 Aは、ベトナム人プログラマーであるCに対し、仕入会の仕組みや、仕入会の参加企業が希望する6社間での仕入原価の比較を行うことを説明した上で、エクセルの表におけるメーカーや商品名、仕入原価等の表示箇所について随時指示を出し、最終的に本件分析書面を作成するための被告ソフトウェアを完成させた。
 もっとも、被告ソフトウェアの内容は、一般的に使用されている表計算ソフトであるエクセルを使用して、仕入原価を比較できるようにしたものにすぎず、被告からCに対し、プログラムに関する特別な指示等を与えるような提案依頼書類似のものはなかった。
(9) 原告の本件診断書における商品分類は、JICFSコード(JANコード及びこれに付随する商品情報を一元的に管理するデータベース)により行われていた。他方、被告は、本件分析書面において、JICFSコードによる分類だけでなく、各会社独自の商品分類にも対応させることにした。
 Cは、原告にも一時期稼働し、原告のプログラム作成等を担当していたこともあったところ、原告の本件診断書におけるJICFSコードに相当するものを、被告の本件分析書面において「ジャコスモード」と命名した。
(10) 原告は、ナンバ社との間で取引をしていたが、同社が、平成25年9月頃、原告との契約関係を解消しようとしていたため、BはAに対し、原告とナンバ社との契約関係をつなぎとめるための協力を依頼した。そこで、被告は、ナンバ社に対し、原告との契約関係を維持するよう説得するなどした。
 なお、上記の過程で、原告の担当者が、平成25年9月から10月にかけて、被告に対し、ナンバ社のデータ(仕入価格を含む。)を送信するなどしていた。
2 争点(1)(競業禁止合意違反の有無)について
(1) 前記1(7)のとおり、被告は、「仕入会」という組織を運営するほか、小売業向けEDIシステムやPOSシステムを提供している。
 この点に関し、被告は、被告が行うEDI事業とは、単なるデータの運び屋ではなく、小売業者の基幹処理(商品の発注、受領、支払、在庫管理等、小売業者の販売全てに関わる管理処理)を全般的に受託することであるから、本件事業とは異なる旨主張する。
 しかし、被告の上記主張からすれば、被告が行うEDI事業においても、少なくとも「小売業者からの商品の発注を取り次ぐ」ことは行っているものと解され、また被告自身が同事業においてインターネット(「電気通信回線」に含まれる。)を利用していることを認めている(被告準備書面(3)別紙参照)。
 以上からすれば、仮に被告が、本件事業よりも進んで、小売業者の基幹処理全般を行っているとしても、被告が行っているEDI事業は、本件事業を包含するものと認められるから、被告は本件事業を行っているものといえる。
(2) しかるところ、原告は、原被告間において、本件合意1及び2、並びにこれらに伴って競業禁止合意が成立した旨(概略、原告の本件事業拡大という目的のために被告を設立し、その後も、被告が、原告の本件事業拡大という目的のためにのみ、原告が提供する本件情報等を利用し、原告とは競業をしない旨の合意が成立した旨)主張し、Bの陳述書(甲12)にはこれに沿う内容の陳述記載もある。
 しかし、原告の主張するような合意内容は、被告の事業活動の内容を大きく制約するものであるから、当事者間でこのように重要な合意が真に成立したのであれば、当然に、書面を作成して、同合意の成立を明確化するのが自然であるところ、本件においてそのような書面は一切存在しない。
 また、前記1のとおり、本件では、被告代表者であるAが、平成13年頃から平成19年5月頃まで原告から業務委託を受けていたり、平成22年4月から平成25年10月頃まで原告の取締役であったなど、BとAとが原告の事業に関して長期間に渡る協力関係を有していたほか、被告設立に際しても、原告が被告の株式の4割を実質的に引き受けたほか、Bの娘とAとが夫婦であったという事情が存在する。
 このように、原告の前代表者のBと被告代表者のAとが極めて親しい関係にあり、原告と被告も、少なくとも被告設立当初は、協力的な関係にあったといえることからすれば、原告が被告に対し、特段の条件なく、原告の情報やソフトウェア等の利用を許諾することは必ずしも不合理ではない。
 これらの事情に加えて、被告は、本件合意1及び2並びにこれらに伴う競業禁止合意の成立を否認しており、Aの陳述書(乙11)にもそれに沿う内容の陳述記載があることも考慮すれば、原被告間において、本件合意1、2及び競業禁止合意が成立したとは認められず、したがって、これらの合意を前提とする、原告の被告に対する本件事業の差止めを求める請求は理由がない。
3 争点(2)(被告による本件情報の不正使用の有無等)について
(1) 原告は、本件情報は不正競争防止法2条6項所定の営業秘密に該当するところ、被告が原告から同情報の開示を受けた後に、これを不正に利用した旨主張し、同営業秘密を利用して作成した文書の小売業者への配布や、営業秘密を記載した書面及び記憶媒体の廃棄を求める。
(2) しかし、まず本件において原告が営業秘密であると主張する本件情報の内容は、十分特定されていない。すなわち、原告は、本件情報を「原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報」と定義するが、このうち「原告とつながりのある各小売業者」が具体的に誰を指すのかは明らかでないし、仕入価格・販売価格「に関する情報」の外延も明らかでない(なお、原告は、訴状附属書類6記載のものを本件情報の保管様式に関する参考例とするが、同書面の記載内容は意味不明であり、これをもって「営業秘密」の内容が特定されたとは到底いえない。)。
 したがって、原告が主張する本件情報は特定されておらず、ひいては(本件情報を利用して)仕入効率の良否を判定するための情報が記載された文書の配布の差止めや、本件情報の全部又は一部を記載した書面その他記憶媒体の廃棄を求める請求に係る訴えは、不適法として却下すべきである。
(3) なお、仮に、本件情報の特定の点を措いても、原告は、本件情報が不正競争防止法2条6項所定の営業秘密に該当することについては、具体的な主張がないし、特段の立証もないから、本件情報が営業秘密に該当すること(とりわけ、秘密管理性や非公知性があること)を認めるに足りない。
(4) さらに、仮に、本件情報の営業秘密該当性の点を措いても、原告が、被告に対し、本件情報等を無償で使用させることを承諾した点については、当事者間に争いがなく、また、被告は、原告から、商品のJANコードにおける「メーカー名」について情報提供を受けたことは認めているが、それ以上に、原告が保有する仕入価格や販売価格に関する情報を利用したことは否認しているところ、被告が原告保有の仕入価格や販売価格等の情報を取得した事実を認めるに足りる証拠はない。
 なお、原告は、ナンバ社における仕入価格は原告の営業秘密に該当するところ、被告は上記情報を不正に入手・使用したと主張するが、この点については、前記1(10)のとおり、被告は、原告の前代表者のBからの依頼を受けて、ナンバ社に原告との契約関係を維持するように説得するなどする過程で、原告の担当者が、平成25年9月から10月にかけて、被告に対してナンバ社のデータ(仕入価格を含む。)等をメールで送信していたことが認められるから、同事実によれば、被告がナンバ社の仕入価格を不正に入手・使用したとは認められない。
 以上のとおり、被告が、原告が保有する営業秘密(本件情報)を、原告から開示を受けた上で不正に使用した等の事実を認めるに足りない。
4 争点(3)(被告による本件ソフトウェアの著作権侵害等の有無)について
(1) 原告は、原告が本件ソフトウェアの著作権を有するところ、被告が同著作権(翻案権)を侵害して被告ソフトウェアを作成した旨主張する。
 しかし、原告は、被告が被告ソフトウェアのソースコード(乙7)を任意に証拠提出したにもかかわらず、同ソースコードと本件ソフトウェアのソースコード(訴状添付のもの)を対比して、被告ソフトウェアと本件ソフトウェアのソースコードの記述内容が共通しているか、ひいては被告が本件ソフトウェアを翻案したといえるかを何ら具体的に主張立証しない。
 原告によれば、本件診断書は、小売業者の仕入効率の良否を判定することを目的とした書面であるが、仮に上記判定というアイデア自体が斬新なものであったとしても、同アイデアを前提として具体的に表現すると、概ね、どの業者がどの商品をどの程度の価格で仕入れてどの程度の価格で売却し、どれだけ利益が出たか等を記載した上で、各業者の数値を比較するための表形式のものとなり、誰が作成しても大差ないものと解される。
 そして、原告は、被告ソフトウェアと本件ソフトウェアのソースコードの記述内容が共通しているかにつき、ソースコードの対比によって具体的に主張しておらず、被告ソフトウェアのどの部分に、誰が作成しても同じにならない程度の創作性があるかは不明であって、結局、被告による著作権侵害を認めることはできない。
(2) この点に関し、原告は、被告ソフトウェアのソースコード(乙7)に係る電子データが収納された記録媒体の提出を求めて文書提出命令の申立てをしている(平成28年4月13日付けのもの)が、既に紙媒体で提出されたものについて、重ねて電子データの提出の必要があるとはいえない。原告は、紙ではソースコードの連続性がないため、重要部分の抜き取りや隠ぺいが容易であるなどとも主張するが、被告がこのような行為を行ったと疑うに足る特段の事情は存在しない。被告は、被告ソフトウェアから後述の「ジャコスモード」を除去した点についても、「被告の仕入会参加企業が、いずれもJICFSコードではなく、各企業独自の商品分類に従った分析のみを希望し、JICFSコードを用いる必要性がなくなったためである」旨説明しているところ、この説明内容には相当程度の合理性があり、被告が上記除去によって何らかの隠ぺいを図ったものとは認められない。
 以上の事情から、当裁判所は原告の上記申立てを却下したものである。
 このほか、原告は、@被告ソフトウェアが収納されたCD、及びA同ソフトウェアの製造委託に当たり作成された提案依頼書、システム提案書、契約書、要求仕様書、要件定義書、基本設計書(外部設計書)ないしこれらと同様の機能を果たす文書についても提出を求めて文書提出命令の申立てをしている(同月19日付けのもの)。しかし、上記@のCDについても、前記のとおり、被告が既に被告ソフトウェアのソースコードを紙媒体(乙7)で提出した以上、重ねて同ソフトウェアが収納されたCDを被告に提出させる必要性はない。また、被告は、上記Aの各文書はいずれも存在しない旨主張しているところ、原告は、これらの文書の存在を窺わせるに足りる事情を指摘していない。
 以上の次第で、当裁判所は、原告による上記文書提出命令の申立てについても却下したものである。
(3) なお、前記1(8)のとおり、被告は、原告作成の本件診断書には不具合があるとして、自らベトナム人プログラマーであるCに対し、被告ソフトウェアを作成させたことが認められる。この点に関し、原告は、被告が、原告の元従業員であったCを通じて、原告の本件ソフトウェアを冒用し、被告ソフトウェアを作成したものである旨主張する。しかしながら、原告の元従業員が被告ソフトウェアを作成したという事実のみによっては、被告が原告の本件ソフトウェアを翻案したとは認めるに足りない。
 このほか、原告は、本件メール添付の被告ソフトウェアの起動画面(甲11の2)等のうち、「Data」のタブ画面に「ジャコスモード」「Jacos」との記載があることを指摘するが、前記1(9)のとおり、「ジャコスモード」はJICFSコードを意味するものと認められ、原告指摘の上記各記載によって、被告による本件ソフトウェアの翻案の事実が認められるものでもない。
 以上のとおり、被告が本件ソフトウェアの著作権(翻案権)を侵害したことを前提とする、本件ソフトウェアの使用の差止め、及びその記憶媒体の廃棄を求める旨の請求はいずれも理由がない。
(4) このほか、前記2のとおり、原被告間において本件合意2が存在したことを認めるに足りる証拠もないから、被告が同合意に違反したとも認められない。
5 争点(4)(被告による本件データベースの著作権侵害等の有無)について
(1) 原告は、原告が本件データベースの著作権を有するところ、被告が本件データベースを利用して被告ソフトウェアを作成することにより、原告の著作権(翻案権)を侵害した旨主張する。
(2) しかし、原告は、本件データベースを「原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報を体系的に構成したデータベース」と定義するが、前記のとおり、本件情報(原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報)が特定されていないのであるから、本件データベースも同様に十分特定されていないというべきであり、ひいては使用の差止め及びその記憶媒体の廃棄を求める対象も不特定である。この点に関し、原告は、訴状附属書類6記載のものを参考例とするが、これをもって、本件データベースの内容が特定されたとは到底いえない。
 このように、被告が本件データベースの著作権(翻案権)を侵害したことを前提とする、本件データベースの使用の差止め、及びその記憶媒体の廃棄を求める旨の請求は、対象の特定を欠き、不適法であるから、同請求に係る訴えは却下を免れない。
(3) なお、仮に本件データベースの内容の特定の点を措いても、原告は、本件データベースが、著作権法12条の2第1項所定の「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」に該当することについて具体的に主張せず、またこの点についての立証もないため、本件データベースが「データベースの著作物」に当たるとは認めるに足りない。
 また、仮に本件データベースの著作物性の点を措いても、原告は、本件データベースにおける情報の選択又はコンピュータ検索のための体系的構成における創作的表現が、被告のデータベースにおいて無断で利用され、同創作的表現が再現されているといえるのかについて、何ら具体的に主張立証していないため、本件データベースの著作権侵害は認められない。
 以上からすれば、本件データベースに関し、被告による著作権(翻案権)侵害があったことを前提とする原告の請求は、いずれにしても理由がない。
(4) このほか、前記2のとおり、原被告間において本件合意2があったとは認められないため、被告が同合意に違反したとも認められない。
6 結論
 以上によれば、原告の請求のうち、別紙却下請求目録記載の請求に係る部分は、対象の特定を欠き、不適法であるから、同請求に係る訴えをいずれも却下し、原告のその余の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 矢口俊哉
 裁判官 村井美喜子


別紙 却下請求目録
1 被告は、別紙営業秘密目録記載の情報を利用して、小売業者に対し、仕入効率の良否を判定するための情報が記載された文書を配布してはならない。
2 被告は、別紙営業秘密目録記載の情報の全部又は一部を記載した書面、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
3 被告は、別紙データベース目録記載のデータベースを使用してはならない。
4 被告は、別紙データベース目録記載のデータベースを収納したCD−ROM、MO、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。

別紙 事業目録
 VAN(Value Added Network)事業こと、電気通信回線を利用して小売業者からの商品の発注を卸売業者ないし製造業者に取り次ぐ事業

別紙 営業秘密目録
 原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報(なお、訴状附属書類6は、情報の保管様式に関する参考例としてJCA(通信制御手順の一つ)で平成27年8月1日に収集された情報を示したものである。)

別紙 データベース目録
 原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報を体系的に構成したデータベース(なお、訴状附属書類6はデータベースの参考例としてJCA(通信制御手順の一つ)で平成27年8月1日に構成された情報を示したものである。)

(別紙ソースコード1、2省略)
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