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【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件C
【年月日】平成28年8月30日
 東京地裁 平成28年(ワ)第16352号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成28年8月19日)

判決 
原告 エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社
原告 ユニバーサルミュージック合同会社 
原告  株式会社トイズファクトリー 
上記3名訴訟代理人弁護士 尋木浩司
同 林幸平
同 亀井英樹
同 塚本智康
同 笠島祐輝
同 吉田修一郎
同 松木信行
同 石坂大輔
同 前田哲男
同 中川達也
同 福田祐実
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 五島丈裕


主文 
1 被告は、原告エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社に対し、平成27年11月17日1時23分8秒ころに「〈省略〉」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
2 被告は、原告ユニバーサルミュージック合同会社に対し、平成27年11月20日8時48分46秒ころに「〈省略〉」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
3 被告は、原告株式会社トイズファクトリーに対し、平成27年11月16日14時26分22秒ころに「〈省略〉」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文1ないし3項同旨
第2 事案の概要
 本件は、レコード制作会社である原告らが、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告に対し、原告らが送信可能化権を有するレコードに収録された楽曲を氏名不詳者が無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置し、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動的に送信し得る状態にして、原告らの送信可能化権を侵害したと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記氏名不詳者に係る発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告らはいずれも、大手レコード会社であり、多数のレコードを製作し、これらを複製してCD等として発売する株式会社又は合同会社である。
 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行う株式会社である。
(2) 原告らの送信可能化権(甲3、7〜9(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)、弁論の全趣旨)
ア エイベックス・エンタテインメント株式会社(以下「エンタテインメント社」という。)は、実演家・Aが歌唱する楽曲「Always」を録音したレコード(以下「本件レコード1」という。)を製作し、平成23年6月1日、原告エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社(当時の商号はエイベックス・マーケティング株式会社。以下、商号変更の前後を問わず「原告エイベックス」という。)が、「B」との名称の商業用12センチ音楽CD(商品番号:RZCD-46781)の7曲目に上記「Always」を収録して日本全国で発売した。原告エイベックスは、平成26年7月1日、本件レコード1のレコード製作者であるエンタテインメント社を吸収合併して本件レコード1に係るレコード製作者の送信可能化権(著作権法96条の2)を承継したから、レコード1についての送信可能化権を有する。
イ 原告ユニバーサルミュージック合同会社(以下「原告ユニバーサル」という。)は、実演家であるCが歌唱する楽曲「刹那」を録音したレコード(以下「本件レコード2」という。)を製作の上、平成21年3月11日、 「D」との名称の商業用12センチ音楽CD(商品番号:UPCH-80115)の1曲目に収録して日本全国で発売した。原告ユニバーサルは、本件レコード2のレコード製作者であるから、本件レコード2についての送信可能化権を有する。
ウ 原告株式会社トイズファクトリー(以下「原告トイズ」という。)は、実演家・Eが歌唱する楽曲「春風」を録音したレコード(以下「本件レコード3」という。)を製作の上、平成26年2月26日、「F」との名称の商業用12センチ音楽CD(商品番号:TFCC-89480)の1曲目に収録して日本全国で発売した。原告トイズは、本件レコード3のレコード製作者であるから、本件レコード3についての送信可能化権を有する。
(3) 被告が提供するインターネット接続サービスの利用者による行為
 被告が提供するインターネット接続サービスの利用者3名(以下「本件利用者1」〜「本件利用者3」といい、3名を総称して「本件各利用者」という。)は、以下のア〜ウの各送信行為を行った。
ア 本件利用者1は、被告からIPアドレス「〈省略〉」の割当てを受けてコンピュータをインターネットに接続し、平成27年11月17日1時23分8秒ころ、データを送信した。
イ 本件利用者2は、被告からIPアドレス「〈省略〉」の割当てを受けてコンピュータをインターネットに接続し、平成27年11月20日8時48分46秒ころ、データを送信した。
ウ 本件利用者3は、被告からIPアドレス「〈省略〉」の割当てを受けてコンピュータをインターネットに接続し、平成27年11月16日14時26分22秒ころ、データを送信した。
(4) 被告の「開示関係役務提供者」該当性
 被告は、本件各利用者による本件レコード1〜3の送信可能化権侵害との関係において、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか否か
[原告らの主張]
 本件各利用者は、いずれも他のGnutella互換ソフトウェアからの求めに応じて原告レコード1ないし3をファイル圧縮方式の一つであるmp3方式により圧縮して複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置して送信可能な状態にすることにより、原告らの送信可能化権を侵害したことが明らかである。
[被告の主張]
 プロバイダ責任制限法4条1項による請求が認められるためには、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」必要があるところ(同項1号)、「明らか」とは、権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味し、その主張立証責任は開示請求者にある。しかるに、原告らが本件各利用者による公衆送信権侵害を裏付けるものであると指摘する著作権侵害検出システムについては、その性能やシステムを利用した当時の状況等が何ら立証されていないのであって、本件各利用者によって原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(2) 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか否か
[原告らの主張]
 原告らは、本件各利用者に対し、本件レコード1〜3の送信可能化権侵害に基づき、損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ、本件各利用者の氏名・住所等が不明であるため、本件各利用者に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
[被告の主張]
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 証拠(甲2、3、5、6)によれば、以下の事実が認められる。
ア 株式会社クロスワープ(以下「クロスワープ」という。)は、一般社団法人日本レコード協会の委託を受け、「P2P FINDER」というインターネット上の著作権侵害検出システム(以下「本件システム」という。)を使用して、Gnutellaネットワーク等のネットワークのユーザーらによるファイル共有ソフトを用いた楽曲の著作権侵害を監視するサービスを行っている。
 なお、Gnutellaネットワークとは、Gnutella又はこれと共通するプロトコルを持つファイル共有ソフトのユーザーらが情報を相互に共有するネットワークであり、同ネットワークには多数のユーザーがパソコンを相互に接続している。同ネットワークにパソコンを接続したユーザーが、検索キーワードを入力すると、同検索キーワードをファイル名に含むファイルを保有しているパソコンのIPアドレス等に関する情報(キー情報)を取得することができ、同ユーザーは、同ファイルを保有しているパソコンに対してダウンロード要求を行うことによって当該ファイルを自動的にダウンロードすることができる。
 また、本件システムは、設定されたキーワードに基づき、市販の音楽CDの音源がGnutellaネットワーク等上で公開されていないかを監視し、キーワードを含むファイルが検出された場合には、ダウンロード先のIPアドレス等の当該ファイルに関する情報を自動的に取得してダウンロード要求を行い、当該ファイルを自動的にダウンロードするシステムである。
イ クロスワープは、原告らの各担当者に対し、本件システムによって、別紙記載1〜3の各「DL日時」欄記載の日時に、各「IP」欄記載のIPアドレスから、各「ファイル名」及び「ファイルサイズ」欄記載の各音楽ファイル(以下「本件各ファイル」という。)がダウンロードされた旨を報告した。
 本件各ファイルに係るデータは、原告らの各担当者により、それぞれ本件レコード1〜3を複製したものであることが確認された。
(2) 前記前提事実に上記(1)認定事実を併せれば、本件各利用者は、被告のインターネット接続サービスを利用して被告からIPアドレスの割り当てを受けてインターネットに接続し、Gnutella互換ソフトウェアにより、本件各ファイルを公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことによって、原告らの本件レコード1〜3の送信可能化権を侵害したことが明らかに認められる。
 これに対し、被告は本件システムの性能や本件システムを利用した当時の情況等について立証がされていない旨主張するが、本件各利用者によって、別紙1〜3記載の各「DL日時」欄記載の日時に、各「IP」欄記載のIPアドレスからデータの送信が行われたことは被告も自認するところである上、クロスワープが実施した実験結果(甲5)によれば、本件システムはGnutellaネットワーク上に公開されたファイルを記録している端末のIPアドレスを検出して当該IPアドレスのみからファイルをダウンロードするものと認められるのであって、同実験結果の信ぴょう性を疑わせる証拠は見当たらない(なお、本件システムは、信頼性が認められるシステムとしてプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会による認定を受けている(甲10)。)。したがって、被告の主張を採用することはできない。
2 争点(2)について
 上記のとおり、本件各利用者において原告らの本件レコード1〜3の送信可能化権を侵害したことが明らかであるところ、原告らが同侵害に基づく損害賠償請求権等を行使するためには、本件各利用者に係る発信者情報の開示を受ける必要があり、原告らには発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
3 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとして主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 矢口俊哉
 裁判官  廣瀬達人


(別紙) <省略>
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