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【事件名】“ゴーストライター騒動”公演中止事件
【年月日】平成28年12月15日
 大阪地裁 平成26年(ワ)第9552号 損害賠償請求事件(本訴)、平成27年(ワ)第6107号 著作権使用料請求事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 平成28年10月13日)

判決
本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。) 株式会社サモンプロモーション
同訴訟代理人弁護士 宮岡寛
同 宮岡恒子
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。) P1
同訴訟代理人弁護士 秋山亘
同 山縣敦彦


主文
1 被告は、原告に対し、5677万8421円及びこれに対する平成26年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は、被告に対し、410万6459円及びこれに対する平成27年6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、本訴・反訴を通じてこれを10分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
 被告は、原告に対し、6131万0956円及びこれに対する平成26年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
 原告は、被告に対し、730万8955円及びこれに対する平成26年2月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1) 本訴
 原告が、被告に対し、被告が、全ろうの中自ら作曲したと発表していた楽曲につき、被告の説明が真実であると誤信して当該楽曲を利用する全国公演の実施を求めた原告に対してその実施を許可し、さらに、その後も、被告の説明が虚偽であることを隠して多数回の実施を強く申し入れたことにより、原告が多数の全国公演を実施することとなったが、被告の虚偽説明等が公となり原告が上記公演を実施できなくなったことにより多額の損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金6131万0956円及びこれに対する不法行為日後の平成26年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 反訴
 被告が、原告に対し、原告が企画・実施した全国公演において被告が著作権を有する楽曲を利用したのであるから、その利用の対価を支払う義務があることを当然に知りながらこれを支払わないでその使用料相当額の利得を得ており、これにより著作権者である被告が同額の損失を被ったとして、民法704条に基づく不当利得返還請求権として、使用料相当額730万8955円の返還及びこれに対する平成26年2月3日(最終公演日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、以下、証拠については、枝番号の全てを含むときは、その記載を省略する。)
(1) 当事者
 原告は、国内外音楽の普及及び振興、外国及び国内芸能家の演奏会の企画、立案、構成、演出、音楽関係書籍の出版、販売等を目的とする株式会社である。
 被告は、作曲家として、原告に対し、その作曲したとする楽曲について利用許諾をしていた者である。
(2) 本件に至る経緯
ア 被告は、平成20年頃から、聴力を失いながら作品を生み出した作曲家として新聞、雑誌、テレビ等に取り上げられるようになり、平成23年、被告が作曲したとする交響曲第1番「HIROSHIMA」(以下「本件交響曲」という。)のCDが発売された。本件交響曲のCDは、その後もテレビ等で取り上げられるなどして、クラシック音楽としては異例の枚数を売り上げる大ヒットとなった。
イ 原告は、被告及び本件交響曲の評判を聞き、平成25年3月頃、同曲の全国ツアー等を手掛けたいと考え、被告に対し、これを提案した(甲1)。その後、原告及び被告間での交渉を経て、原告は、本件交響曲の全国ツアー(以下「本件交響曲公演」という。)として、同年6月から平成26年にかけての別紙公演目録記載1の公演を企画し、そのうち同年2月2日までの、別紙公演目録記載1(1)の14公演を実施した。
ウ 原告は、平成25年5月頃以降、被告が作曲したとするピアノ・ソナタ第1番及び同第2番(以下「本件ピアノソナタ」という。)の別紙公演目録記載2の公演(以下「本件ピアノ公演」といい、本件交響曲公演と併せて「本件公演」という。)を企画し、開催が予定されていた同年9月から平成26年にかけての公演のうち、平成25年10月26日までの、別紙公演目録記載2(1)の3公演を実施した。
エ 被告は、平成26年2月2日夕方頃、原告に対し、P2が被告のゴーストライターを18年間やっていたことを告白しているなどの内容を記載した、週刊文春の記者から被告宛てのメールを転送した(甲30)。
 被告は、翌3日、原告に対し、上記メールの内容が真実であり、迷惑をかけたことをわびる旨のメールを送った(甲31)。
 原告は、同日、文藝春秋「週刊文春」編集部から、被告が、本件交響曲を含む楽曲を別の作曲家であるP2に作曲を依頼していたのに、自ら作曲したと偽って発表していること、作曲はおろか譜面すら読むことができないこと、全ろうではなく聞こえているのではないかとの疑いがあること等が記載され、これらについての原告の認識を問いただす内容の「取材のお願い」と題する書面をファックスで受け取った(甲33)。
オ 被告は、同月5日未明、弁護士を通じ、別の人物に作曲をさせていたことを認める文書を報道機関にファックスで送付した。これを受けて、日本放送協会(NHK)は、同日朝のニュース番組等で、被告が別の人物に曲を作らせていたことを伝え、これまでの同社の番組の制作過程において被告が作曲していないことに気付くことができなかったことについて視聴者等に対しておわびをするなどした。(甲35)
 P2も、報道各社に対し、被告のゴーストライターを18年間やっていたことを認め、これをわびる書面を送付し、同月6日には、会見を開いた。被告の楽曲を別人が作曲していた事実が同日の全国紙でも報道され、同日に発売された週刊文春には、ノンフィクション作家P3及び同誌取材班による「全聾の作曲家はペテン師だった!ゴーストライター懺悔実名告白」と題する記事が掲載された。(甲36、甲37、甲171)
 また、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)は、同月5日、著作権の帰属が明確になるまで、被告の著作物となっている作品の利用許諾を保留するとの声明を出した。また、楽譜管理会社は、同月8日頃までに、本件交響曲の楽譜の貸出しを中止した。(甲36、甲137、甲181、甲182)
カ 原告による本件公演の中止
 原告は、本件公演を実施できないと判断し、その後に予定していた別紙公演目録記載1(2)の本件交響曲公演10公演及び同記載2(2)の本件ピアノ公演4公演を全て中止し、販売済みチケットの払戻しをすることとした(甲137)。
(3) 著作物の使用料の支払
 原告は、実施済みの本件公演における本件交響曲及び本件ピアノソナタ(以下「本件楽曲」という。)の演奏に関し、その使用料を支払っていない。
(4) 本件本訴の提訴と訴訟告知
 原告は、平成26年10月6日に本件本訴を提起し、被告は、平成27年2月16日、P2に対する訴訟告知を申し立て、同訴訟告知書は、同月20日にP2に送達された。
3 争点
(本訴)
(1) 被告による不法行為の成否(争点1)
(2) 原告の損害額(争点2)
(反訴)
(3) 被告には本件楽曲に係る損失があるか(争点3)
(4) 原告の利得額(争点4)
4 争点についての当事者の主張
(1) 争点1 被告による不法行為の成否)について
【原告の主張】
ア 被告は、本件楽曲を自らが作曲した作品であると偽って発表し、また、その作曲に至る経緯について、被告が平成11年頃に全ろうとなり、その後、抑うつ神経症、不安神経症、頭鳴症、耳鳴り発作、重度の腱鞘炎などに苦しみつつ、絶対音感を頼りに作曲活動をして、これらの曲を完成させたとの虚偽説明をしていた。そして、原告は、このような被告の虚偽説明等を真実であると誤信して、被告作曲の本件楽曲の各全国ツアーの許可を求めたところ、被告は、原告がそのような誤信をしていることを知りながら、上記の被告の説明が虚偽であることを隠して、本件交響曲公演の実施を許可し、さらに、その後、被告は、上記の被告の説明が虚偽であることを隠して、本件交響曲公演を30公演実施するように強く申し入れて原告に実施を約束させた。また、被告は、本件ピアノ公演を50公演実施するよう強く申し入れて原告に実施を約束させ、本件ピアノ公演の実施に深く関与し続けた。
 以上の被告の行為は、明らかに不法行為を構成する。
イ 被告の聴覚障害については、不知。P2は、聞こえないと感じたことはないと述べている(甲171・2枚目)。
 被告に絶対音感がなかったことは被告自身が認めているところ(甲172・2、7頁)、絶対音感なくして被告が主張するような作曲活動はありえない。
ウ 本件楽曲が共同著作物であるとの主張について
(ア) 被告は、自らが書いたという「指示書」(乙6、乙9)を図形楽譜に相当するものであるなどとして、本件楽曲が被告とP2との共同著作であると主張する。
 しかし、図形楽譜とは、20世紀のいわゆる前衛的な作曲技法の一つであり、伝統的な記譜法(五線譜)には収まりきらない音楽創作の手段の一つとして考案されたもので、その演奏には、演奏家の解釈が深く関与し、一回性の即興的要素を大きく伴うものである。
 したがって、図形楽譜の表現内容を、伝統的な五線譜を用いて著作者の意図を正しく表現できるのであれば、わざわざ図形楽譜という不確定な要素を含む手段をとる必要性がなく、初めから著作者が五線譜で作曲すればよいのであり、また、本件楽曲が、被告の図形楽譜を忠実に譜面化して創作されたものという被告の主張は、図形楽譜という作曲技法が内包する不確実性と大きく矛盾するもので、そもそも失当である。
(イ) また、「指示書」が、被告の著作物(図形楽譜)であるならば、P2の「仕事」は、「解釈の一つ」として公開すべきであるが、そのような主張はこれまで一切聞かれない。そもそも、被告は、いわゆる前衛的な「現代音楽」に反旗を翻し、古典派からロマン派に至る伝統的な調性音楽の復権を度々主張し、本件楽曲もそれに基づいていると述べているところ、そのような主張と、前衛的作曲技法である図形楽譜は全く相容れないもので、被告の作曲家としての芸術性の根幹に関わる大きな矛盾である。このことは、被告が、自らが本件楽曲の共同著作者であるとの主張をするために、そもそも作曲行為とはいえない「指示書」を、今になって、著作物性のある図形楽譜であると強引に主張しているものにすぎないことを示すものである。
(ウ) さらに、被告によると、「指示書」はP2に手渡され、被告の手元には残っていないとのことであるが、作曲家が、自分の作品とする図形楽譜を管理不十分なままにすることなど到底考えられず、被告が「指示書」を「作品」であると認識していなかったことを示すものである。また、被告は、楽譜の読み書きができないのであるから、P2が「指示書」を忠実に譜面化したと主張する本件楽曲を、楽譜が納品された段階では全くチェックできないし、仮に、被告が主張するような耳の不自由な状態が続いていたならば、演奏された音を聴いてのチェックすら、できなかったことになる。
(エ) 以上から、本件楽曲の「指示書」が図形楽譜であり、著作物性があるという被告の主張は、何ら根拠がなく、到底認められない。
 被告の本件楽曲に対する関与は、せいぜい音楽プロデュースというべき範疇にすぎない。作曲家の自由な芸術的発露としての創作活動とは異なり、プロデューサーからの委嘱による作曲の場合(多くは商業音楽)、言葉や図形を使って、プロデューサーが、発注者の立場として、作曲家に求める音楽のイメージを伝えるのは、日常の姿である。本件楽曲の「指示書」は、プロデュースの範囲に含まれることはあっても、断じて作曲とはいえない。
【被告の主張】
ア 原告の主張する、本件楽曲の作曲者の表示に偽りがあること及び本件楽曲の作曲に至る経緯につき虚偽説明をしたことは、いずれも否認する。
イ 被告は、原告に対して本件楽曲の利用を許可した事実はないが、原告の主張によったとしても、本件楽曲の利用許可という点以外、本件楽曲の利用の対価としての使用料、本件楽曲の利用条件等について何ら具体的な取り決めもなく、原告が主張する不法行為の前提状況に関して、被告の真実保証の表明など合意されていない。原告と被告との間では、本件楽曲に関する明確な著作物利用契約まで成立したとはいえないような状況にあったのであるから、契約上の義務としての告知義務を導くことはできず、あるとしても、例えば、被告が本件楽曲の著作権を有していないなど、本件楽曲を利用する上で必要不可欠な事項に限られるというべきである。実際、原告においても、被告に対し、何らかの事実確認をしたということもないのであるから、被告において、何らの告知義務違反もない。
 被告が原告との間の契約書(乙1、乙2)に署名押印しなかったのは、原告が被告に対し、JASRACと原告の間の包括的利用許諾契約において著作物の利用に関する報告書提出等の義務があるところ、JASRACに対する使用届を提出せずに被告との間で別途著作物の使用料の支払をするなどといった提案に不信感を抱いたためである。原告側の負担である著作物の使用料については被告との間で何らの合意もできていなかった。
ウ 被告の聴覚障害
 被告は、平成11年頃、ほぼ全ろうに近い状態となり(乙10)、その後、少しずつ聴力が戻ってきたものの、聴覚障害者であったという状況に変わりはなく、そのような状況の中で作曲活動も行っていた。原告から本件楽曲の利用許可を求められた平成25年当時も、中等度以上の感音性難聴であった(乙11)。
 いずれにしても、聴覚障害のレベルに変化があったとしても、本件楽曲の利用許可とは何ら関係のない事柄であるから、被告において積極的に原告に話さなかったとしても、そのこと自体が不法行為法上の告知義務違反を構成し、原告に対する違法行為になるなどとは到底いえない。
エ 本件楽曲が共同著作物であること
 本件楽曲は、以下のとおり、被告とP2が共同して創作活動を行ったことにより制作された共同著作物である。
 したがって、共同著作物である本件楽曲につき、被告とP2の合意の下、被告を作曲者として表示したことは何ら違法なことではない(著作権法64条3項)。著作者人格権としての氏名表示権についても、著作者がその氏名を表示しない権利も含まれており、このような合意は有効であり、被告は、P2との合意に基づきP2の氏名を表示しなかっただけのことである。
(ア) 本件交響曲
 本件交響曲について、被告は、「図形楽譜」に相当する本件交響曲の構造図を作成し、P2は、当該構造図による具体的な指示を忠実に再現するなどして、本件交響曲を譜面化したものである(乙6、乙7)。この構造図は、単に抽象的な曲風を指示したものではなく、本件交響曲の全体構想、各場面に関する全体の時間配分、各場面に関する抑揚、主調、時間等に関する詳細な図形指示、各場面に関するテーマ別の曲調、主題の指示、各場面に関する調性音楽・現代音楽の比率、協和音・不協和音の割合などの曲風、曲調に関する具体的指示及び当該楽曲に付ける曲名について、具体的かつ詳細な指示がなされているものである。
 被告は、それだけでなく、本件交響曲の一部についてシンセサイザーでメロディーを作成してこれをMDに録音し、P2に提供もしており、さらに、本件交響曲が完成するまでの間に、被告は、P2との間で制作に関して詳細なメールのやり取りもしていた。
(イ) 本件ピアノソナタ
 本件ピアノソナタについても、全体構造、曲調・主題、時間配分等に関して被告が作成した詳細な指示書に基づき作成されたものである(乙9)。したがって、本件ピアノソナタについても、被告とP2が共同で創作したものであることは明らかである。
オ 以上から、被告が、原告の求めに応じて本件楽曲の利用を許可しようとした行為に違法性はない。
(2) 争点2(原告の損害額)について
【原告の主張】
ア 被告の不法行為によって原告が被った損害は、次のとおりである。
(ア) 公演中止による逸失利益 3751万3060円
(イ) プログラム販売不能による逸失利益 262万0800円
(ウ) 返金したチケット返送料 5万8560円
(エ) (ウ)を返金する際の振込手数料 2万0300円
(オ) プレイガイドへ支払った手数料等 270万6243円
(カ) (オ)を返金する際の振込手数料 6988円
(キ) 公演中止広告費 21万0000円
(ク) 会場費 279万3040円
(ケ) 広告費 935万2687円
(コ) 印刷費 39万1072円
(サ) デザイン費 3万8206円
(シ) 弁護士費用 560万0000円
(ス) 合計 6131万0956円
イ 原告は、マスコミ、お客様の反応、商道徳、社会通念等に照らして本件公演を中止するしかない状況となったために、中止したものである。原告の中止決定と相前後して、JASRACから被告の作品の利用許諾を保留するとの声明が出され、また、楽譜管理会社からも楽譜の貸出しを禁止するとの措置がされた。したがって、いずれにしても、本件公演の開催は不可能であったものである。
ウ 実施済みの本件公演による利益は、原告が本件楽曲の全国公演を企画し、指揮者・オーケストラ・会場の手配、リハーサルの手配、宣伝広告、プログラムの作成、チケットの販売等その他全ての業務に全社挙げて取り組んだ結果として得たものであり、被告の不法行為により得たものではなく、損益相殺が認められる余地はない。
【被告の主張】
ア 原告の主張は否認ないし争う。
イ 原告は、本件楽曲の著作権者から本件楽曲の利用を許可されたものとして、本件公演を実施することが可能な状態であったにもかかわらず、原告の経営判断において本件公演を実施せず、それにより損害を被ったとしても被告の不法行為との間に相当因果関係を認めることはできない。
 また、原告の「逸失利益」に関する主張は失当である。原告の主張は、将来において公演が実施されていたら原告が得られたであろう予想利益、すなわち契約上の債務の履行利益であり、原告が求める不法行為に基づく損害賠償請求における損害ではない。被告は、原告との間で本件公演の実施についての合意はしておらず、債務不履行責任を負うものでもない。
 そして、他の損害については、原告提出の書面の信用性を争い、また、広告費及び印刷費については、実施された本件公演で十分まかなわれているもので、相当因果関係のある損害であることを争う。
ウ 損益相殺(予備的抗弁)
 仮に、被告の行為が不法行為を構成するとしても、被告の不法行為によって原告が得た利益である6599万3440円(実施した本件公演の総売上げ1億6424万4500円に原告が主張する利益率40.18%を乗じた額)は、被告の不法行為がなければ、得られなかった利益であるから、損益相殺されるべきである。
(3) 争点3(被告には本件楽曲に係る損失があるか)について
【被告の主張】
ア 被告は、本件楽曲をP2と共同して創作したものであり、被告とP2との間では、本件楽曲の著作権は、被告とP2とがどの程度創作に関与したかを問わず、楽曲完成時において、P2が原始的に取得した著作権持分を全て被告に譲渡し、その結果、被告のみが楽曲の完全な著作権者になることで合意がされており、本件楽曲についても、P2の著作権持分は被告に譲渡された。両者間ではその確認もされている(乙4)。
 被告は、JASRACとの間の著作権信託契約に基づき、JASRACに対し、本件楽曲の著作権を信託した上で、著作物の使用料の徴収業務等を委託していた。しかし、JASRACは、平成26年12月31日をもって、被告との間の上記契約を解除したため、平成27年1月1日以降、本件楽曲の著作権は被告の下に完全に復帰した。
 したがって、被告は、原告が本件公演につき支払うべき本件楽曲に係る使用料を支払わず利得を得ているのに対し、被告はこれにより同額の損失を受けている。
イ 原告は、被告とP2との間の著作権譲渡がゴーストライター契約であるとして無効であると主張するが、被告とP2との間の契約は、著作権の譲渡を合意しただけのものであり、法的には、P2の氏名表示権の行使(実名を出さない権利の行使)と氏名表示権の代表行使者の合意(著作権法64条3項)にすぎない。
【原告の主張】
ア 被告が本件楽曲の共同著作者の一人であることは否認する。そもそも被告は本件楽曲の著作権者ではない。被告とJASRACとの契約及び同契約の解除については認める。
イ 著作権の譲渡について
 本件は、P2が本件楽曲を作曲し、被告に対してその著作権を譲渡し、その際、被告の名義のみで本件楽曲を公表し、P2は著作者人格権を行使しないことを約し、被告がP2に対価を支払ったというもので、いわゆるゴーストライター契約である。当該契約は、単なる著作権の譲渡とは異なり、著作者名の詐称を含むもので、著作権法121条において、罰則規定が設けられているような明らかな違法行為である。また、被告は、作曲に至る経緯についての虚偽説明を行い、CDの販売や公演の実施により違法な利益を得ようと考え、これを実行したものである。このような被告の行為は、犯罪に関する行為であり、公序良俗に反し無効であり、したがって、被告が主張する著作権譲渡は無効であるから、被告に何ら損失はない。
(4) 争点4(原告の利得額)について
【被告の主張】
ア 原告は、本件楽曲に係る全国公演を企画し、別紙公演目録記載1(1)及び2(1)のとおり、これを実施した。
 原告は、平成26年12月31日まではJASRACに対し、少なくともJASRACが定めた著作物の使用料の算定基準(乙5)に従って算定した金員を著作物の使用料として支払う義務を負っていたところ、原告が支払うべき使用料額は、17公演分合計730万8955円である。
イ 被告と原告との間で、著作物の使用料についての合意は特になく、JASRACの定めに従った額を支払うべきものであるが、当該額からJASRACの管理手数料30%を控除するのは誤りである。JASRACはもはや著作物の使用料を収受する権限はなく、管理手数料相当額も受け取る権利はない。
 また、JASRACとの包括的利用許諾契約を前提とした算定方法を用いることも誤りである。原告は、同契約を意図的に無視し、被告に対してより高額な著作物の使用料を直接支払うことを持ちかけるとともに同契約に基づくJASRACへの本件楽曲利用に関する事前報告及び使用料の支払のいずれをも行わなかったものであるところ、このような原告が今になって同契約による優遇措置の適用を主張することは禁反言の法理に反する。さらに、そもそも、同契約は、演奏会等を継続的に開催する事業者等において楽曲の利用申請を簡便にすることで著作物の管理コスト及び使用料の請求・回収コストを抑える代わりに使用料の優遇措置を受けられるようにするものにすぎず、著作権者が収受する著作物の使用料の金額に直接影響するものではない。同契約の優遇措置は、JASRACと原告との個別契約上の優遇措置にすぎないのであるから、それを一般的な著作物の使用料相場の算定に用いることが誤りであることは明らかである。
 なお、同契約を前提とした場合に、本件公演における本件楽曲に係る使用料の合計額が410万6459円になることは積極的に争わない。
【原告の主張】
ア 原告は、被告と協議した結果、本件公演については、時期をみてJASRACと交渉し、原告が被告に直接著作物の使用料を支払うこととし、本件楽曲に係る支払額については、JASRACからの支払額より高額にすることで合意し、具体的には後日協議することとなった。しかし、原告と被告との間で実際の支払額については合意が成立しないうちに、本件楽曲がゴーストライターにより作曲されたものであることが発覚したため、原告は、被告に対しても本件楽曲に係る使用料を支払うことなく今日に至った。
イ 被告が主張するJASRACの使用料規程に基づく金額は誤りであり、正しくは、別紙著作物使用料算定表のとおりである。
 具体的な算定方法は、次のとおりである。
 まず、入場料単価(税抜き)の平均額を算出し、これに全座席数を乗じて1公演合計額を算出する。
 次に、総入場料算定基準額を算定する。原告は、JASRACと包括的利用許諾契約を締結しているから、その場合は、1公演合計額のうち800万円までは50%の金額、800万円を超える金額については25%の金額となる。その金額に使用料率5%を乗じ、さらに消費税5%を加えて使用料(別紙著作物使用料算定表「Z税込み(5%)」欄記載の額)が算出される(その合計額は410万6459円になる。)。
 そして、JASRACの管理手数料規程によると、管理手数料は30%となっているから、著作権者への分配金は70%となる。
 以上から、仮に被告に何らかの損失が生じるとしても、その金額は、1公演当たり6から7万円であり、仮にそうでなくとも、別紙著作物使用料算定表「分配金(Z×70%)」欄記載の合計287万4521円を上回るものではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(前提事実を含む。)。
(1) 本件楽曲の作曲に至る経緯及び被告をめぐる諸状況
ア 被告は、平成8年に映画音楽制作のため紹介を受けたP2と知り合い、その後、P2に対し、楽曲の作曲を依頼するようになった。
 当初の映画音楽については、被告がオルゴール音を使ったメロディーをテープに録音してP2に渡し、P2がこれをベースに編曲するなどして作られた。
 被告は、平成10年にゲームソフト「バイオハザード」の音楽を担当し、その後、平成11年には同じくゲームソフト「鬼武者」の音楽を担当することとなり、P2に対し、20分ほどの交響曲の作曲を依頼した。P2は、被告が作成したファンファーレ部分やメロディーをアレンジし、P2自身の作曲したものも加え、同交響曲を完成した。
 平成13年9月頃、アメリカの「TIME」誌が、被告が聴覚障害を抱えながら、「鬼武者」を作曲したことを紹介する記事を載せた。
(甲183・5頁、20から21頁)
イ 被告は、平成13年、P2に対し、本件交響曲の作曲を依頼し、平成15年9月、P2は、本件交響曲を完成させ、被告は、P2に対し、報酬として200万円を交付した。
 被告は、P2が作曲するに際し、P2に対して被告が作成した「交響曲第1番『現代典礼』(無調−ニ短調)」という曲名が記載された図表(乙6、以下「本件指示書」という。)を渡した。本件指示書には、グレゴリオ聖歌からバッハまでの宗教音楽の技法の全てを、作曲家独自の現代語法により同化統合させるなどとされ、楽章ごとの時間、合計74分の曲とすること、祈り・啓示・受難・混沌という4つの主題を設定しそれを各楽章でどのような順番で組み合わせるか、音量や時間配分などが図示され、各主題の協和、不協和の度合い、調性音楽部分と現代音楽部分の割合の指示もあった。
(甲183・22から24頁、乙6)
ウ 被告は、平成19年10月、自らを著者とする自伝である「交響曲第一番」(以下「被告自伝」という。)を出版し、同書の帯には、被告が被爆二世として生まれた作曲家であること、突然すべての聴力を失った後に、心身の苦痛に耐えながら孤高の闘いを続けている旨が記載されていた。被告自伝には、被告が、「鬼武者」の音楽制作をしている頃に、全ろうとなったが、よく演奏していた名曲を記譜することにより、自身には絶対音感が備わっていることを確認して作曲活動を継続することとし、当時、耳鳴りや偏頭痛、さらに頭の中で轟音が鳴り響くような頭鳴症に耐えながら、記譜することにより作曲していた状況が記載されている。(甲173)
エ 平成20年に入ってから、全国紙や雑誌等が、聴力を失ってから作品を生み出した作曲家などとして、被告についての記事を掲載するようになった。同年9月にはTBSテレビが「NEWS23」において、被告を取り上げた「音をなくした作曲家 その闇と旋律」と題する特集を放映し、被告が頭鳴症に苦しめられながら、明るい光を見ると発作を起こすため、暗い室内で机に向かい、楽器に触れることなく頭の中だけで音符を組み上げていくという作曲方法が紹介された(甲183・6頁)。
 その後も、総合雑誌や全国紙(地方版)において被告を取り上げる報道がされ、平成21年8月にはテレビ新広島が、「いま、ヒロシマが聴こえる・・・〜全聾作曲家・P1が紡ぐ闇からの音〜」と題する番組を放映した(同7から8頁)。
オ 平成22年には東京芸術劇場で本件交響曲が演奏され、その後、日本コロンビアからCD販売の申出がされ、テレビ朝日の番組でも被告が取り上げられた。
 平成23年には、本件交響曲のCDが発売され、そのことが報道されるなどし、その後も音楽雑誌が被告を取り上げる記事を掲載するなどした。
 平成24年には、NHKやテレビ朝日の情報番組で相当時間を割いて被告が取り上げられ、NHKの番組では、被告が「TIME」誌において現代のベートーベンと讃えられているなどとして紹介され、被爆二世として生まれた後の生い立ちや、本件交響曲を作曲するまでの経緯等が詳しく紹介された。
(甲183・9ないし11頁)
カ 被告は、平成24年、ピアノの作品集のCDを作りたいと考え、P2に対して作曲を依頼した。被告は、P2が録音していた10のモチーフから二つのモチーフを選び、その順序等を提案した。
 被告は、同年12月末頃、NHKのディレクターから被災者のための鎮魂曲(レクイエム)を作曲する過程を描く「NHKスペシャル」の提案を受け、P2に対し、同番組でピアニストが被災地で演奏するピアノ曲を作るよう依頼した。被告とP2は、話合いの上、上記の二つのモチーフを使うこととし、被告が、P2に対し、被災地のための鎮魂曲(レクイエム)とすること、イ短調でバロックの主題でソナタ形式にすること、二つのモチーフの順序、最後はピアノの最低音のイ音を鳴らすこと等を希望した。P2は、「ピアノのためのレクイエム・イ短調」を作曲し、平成25年2月18日、被告に譜面とともに、被告の要望により何も書き込まれていない五線紙を渡した。同年3月、宮城県石巻市の小学校の体育館で被災者を前に「ピアノのためのレクイエム・イ短調」が演奏された。
 その後、P2は、被告の、調性音楽で超絶技巧を織り交ぜて重厚荘厳壮麗なレクイエムを36分間の長さで作ること、上記ピアノ曲で用いた二つのモチーフを使用しながら、全体としては異なる印象の曲にしてほしいといった希望を受け、「ピアノ・ソナタ第2番」を作曲し、同年5月頃に被告に譜面を渡した。
(甲183・25から26頁、乙9)
キ 平成25年3月31日、NHKは「NHKスペシャル 魂の旋律 音を失った作曲家」と題する番組を放映し、35歳で聴力を失い、絶対音感により、音を五線紙に記載することで作曲したことが紹介された。
 同年4月には本件交響曲のCD売上げは急上昇し、異例のヒットとなった。
 その後も多数のテレビ局で被告を取り上げた番組が放映され、その中では本件交響曲やピアノ・ソナタ第2番が演奏されるなどした。被告自伝は、同年6月に文庫化され、被告の半生や作曲過程を描いた書籍も同年10月に刊行された。さらに週刊誌や全国紙が被告や被告の楽曲についての報道をした。
(甲183・11ないし13頁)
ク 被告は、複数のテレビ局の番組において、記譜する場面の撮影を依頼されたが、何も書いていない五線紙に向かう様子や完成した楽譜を前にした様子の撮影を除き、全て断った(甲183・36から37頁)。
(2) 本件公演に至る経緯
ア 本件交響曲公演
 原告は、平成25年3月頃から、被告に対して本件交響曲の全国ツアーを提案してその了承を求めていたところ、被告は、コンサート会場、出演オーケストラや指揮者等について希望を述べ、原告がこれに対応して、被告が強く希望する指揮者が本件交響曲公演の多くを指揮する方向となったことから、被告は、同年3月24日、原告に対し、「これで、晴れてP1 交響曲第1番《HIROSHIMA》全国ツアー2013スタート決定ですね!!!」とのメールを送信した。さらに、同月27日には、被告の希望する指揮者が原告の所属となることを受け、本件交響曲公演の回数を増やすことを了承する意向を示すメールを送信した。(甲1ないし甲17、甲21)。
 原告は、同月28日、被告に対し、本件交響曲公演の日程(決定済み8、調整中7、その他最低5公演の調整中)や、新聞・雑誌における広告予定や内容等について報告した(甲23、甲24)。
 被告は、同年5月から6月にかけて、原告に対し、「交響曲第1番《HIROSHIMA》全国ツアー残り19都市の決定ですがなにをモタモタしてるんですか?つぎから次に決めて公表できないの?21都市でずっと止まったままじゃない!30都市のやる気を疑うよ!」などとして、本件交響曲公演の追加を強く要求し、最終的には30回の公演を要求するなどした(甲145の1、甲147、甲148、甲158)。
イ 本件ピアノ公演
 原告は、被告の依頼により原告が紹介したピアニストのうち、被告が希望する女性ピアニストによる公演を組むこととなり、平成25年5月2日、被告に対し、同年8月から10月にかけて本件ピアノソナタを含む楽曲を演目とする4回の本件ピアノ公演を提案した(甲139ないし甲142)。
 被告は、同年5月から7月にかけて、原告に対し、「今日からチケット売り出し新聞掲載日まで40日もある。これだけの余りある期間の中で新聞掲載日に20都市の決定発表ができないなら無能と見なされてもやむなし。そう思って下さい!」などとして、本件ピアノ公演の回数を増やすように強く要求し、最終的には50回の公演を要求するなどした(甲29の2、甲145、甲148、甲158、甲162ないし甲164)。
ウ 本件交響曲公演は、平成25年6月から平成26年にわたって開催が予定され、本件ピアノ公演は、平成25年9月から平成26年にわたって開催が予定されていたが、その後も本件交響曲公演は全国30公演、本件ピアノ公演は全国50公演まで順次増やしていくこととなった(甲116の7、甲158ないし甲161)。
エ 本件公演の広告等
 原告は、本件交響曲公演の広告に、「現代のベートーヴェン」「孤高の作曲家が凄絶な闘いを経てたどりついた世界 深い闇の彼方に希望の曙光が降り注ぐ 奇跡の大シンフォニー」などの言葉とともに、被告の顔写真を掲載し、また一部には、被告の紹介として、被告自伝に記載されたと同様の被告の生い立ちから本件交響曲を作曲した状況までを詳しく記載していた(甲116の3及び7、甲123の3、甲125の3、甲126の3、甲127の3、甲129の3、甲132の5、甲135の3、甲136の7)。
 また、本件交響曲公演のプログラムには、被告の顔写真と本件交響曲の譜面を想起させる手書きの五線譜の写真が多数掲載され、被告自伝と同様の生い立ちや本件交響曲を作曲した状況を記載した作曲者紹介だけでなく、作曲者へのインタビュー形式で、被告が35歳の時に全ての音を無くし、絶対音感はあっても耳鳴りという大きな壁を乗り越え、内側から生まれる音だけで作曲した旨の記載などがあった(甲79の2)。
 原告は、本件ピアノ公演の広告に、「『NHKスペシャル』で大反響を呼んだあのピアノ曲『レクイエム』が、壮大なピアノ・ソナタに生まれ変わり」などの言葉とともに、被告や女性ピアニストの写真を掲載した(甲128の3、甲130の3)。
オ 本件公演の実施
 本件公演は、別紙公演目録記載1(1)及び2(1)のとおり、平成25年6月以降順次開催され、平成26年2月2日までのものが実施された。
(3) 本件公演中止に至る経緯
ア 被告は、平成26年2月2日夕方頃、原告に対し、P2が被告のゴーストライターを18年間やっていたことを告白しているなどの内容を記載した、週刊文春の記者から被告宛てのメールを転送した(甲30)。
 被告は、翌3日、原告に対し、「文春の記者からの転送メールは全て真実です。私は人間のクズです。どれだけ詫びても詫び切れません。償い切れないほどの裏切りをしてしまいました。本当に本当に申し訳ございません。多大なご迷惑をおかけしてしまいました。死ぬ覚悟は前から出来ています。大変な損失を与えてしまいました。如何なる形でも私を制裁ください!」などと記載されたメールを送った(甲31)。
 原告は、同日、文藝春秋「週刊文春」編集部から、「取材のお願い」と題する書面をファックスで受け取った。同書面には、「P1氏は、代表曲『交響曲第一番 HIROSHIMA』など1996年以降に発表した楽曲の全てを、別の作曲家・P2氏に作曲を依頼し、自分が作曲したと偽って発表しています。P1氏は、作曲はおろか譜面すら読むことが出来ません。貴社は、この事実をご存知でしたか。」、「このような聴き手やファンを欺くP1氏の行為は詐欺≠ノ等しいものですが、P1氏を礼賛し世に広め、現在全国ツアーを組んで観客から入場料を取っているサモンプロモーションも結果として、彼の詐欺の片棒を担いだ≠アとになりませんか。この責任をどのようにお考えですか。」、「P1氏は全聾という事になっておりますが、小誌は『P1氏は、耳が聞こえているのではないか』という証言を多数得ております。貴社及び代表のP4氏には『彼は耳が聞こえている』という認識はございましたか。」等の質問が記載されていた。(甲33)
イ 被告は、同月5日未明、弁護士を通じ、別の人物に作曲をさせていたことを認める文書を報道機関に送付した。これを受けて、NHKは、同日朝のニュース番組等で、被告が別の人物に曲を作らせていたことを伝え、これまでの同社の番組の制作過程において被告が作曲していないことに気付くことができなかったことについて視聴者等に対しておわびをするなどした。(甲35)
 JASRACは、同日、著作権の帰属が明確になるまで、被告の著作物となっている作品の利用許諾を保留するとの声明を出し、楽譜管理会社も、同月8日頃までには本件交響曲の楽譜の貸出しを中止した。(甲36、甲137、甲181、甲182)
ウ P2が同月6日に開いた会見には100名以上の記者やカメラマンが集まり、P2は、18年間、被告に依頼されて曲を書いていたことなどを述べて謝罪した。P2は、本件交響曲の作曲を依頼された時に交付された本件指示書について、「あの図表は実際の作品の曲の成りゆきとはまったく異なりますけれども、ただ、あの表を私が机の横に置くということで、それをある種のヒントとして、私が作曲する上では必要なものだったとは思います。」と述べた。また、ピアノの鎮魂曲については、P2がいくつかの音のモチーフを譜面に書きピアノで弾いて録音したものを被告が聞き、被告が選んだいくつかの断片を基にP2が作曲するという方法であったとの説明を行った。さらに、被告について、「彼は実質的にはプロデューサーだったと思います。彼のアイデアを自分が実現するということです。彼が自分のキャラクターを作り、世に出したということで、彼のイメージを作るために私は協力をしたということだと思うんです。」などと述べ、また、被告の聴力に関し、被告の耳が聞こえないということを感じたことは18年間1度もないなどと述べた。そして、P2は、被告に提供した楽曲の著作権については、全て放棄したいと思っている旨述べた。(甲171)
 被告の楽曲を別人が作曲していた事実は、同日の全国紙等で報道されるなどした。(甲36、甲37)
エ 被告は、同月7日、謝罪会見を開き、自身の聴力について、3年前くらいから言葉が聞き取れることもあるまで聴力が回復したが、音声がゆがんで聞こえるため手話通訳を必要としていると説明し、被告には絶対音感はなく、相対的な音程の聞き分けはできるが、複雑な和声なども全くわからないこと、オーケストラにあこがれがあったものの自分では書けないことから、自分の希望を伝えてアレンジや編曲をP2に依頼し始めた旨を述べた。また、本件交響曲に関し、被告は、現代音楽については肯定的でなく、調整音楽を希望しており、自身が全体の設計図、内部の事細かな構成を作って、P2というゴーストライターにお金を支払い、音符を書いてもらい完成させたものであると説明した。(甲172)
オ P2は、後に、本件交響曲に関し、P2がシンセサイザーで弾き録音したものを聞いて、被告が鐘の音を入れるアイデアを出し、また、その箇所を指示したとし、これが、被告が本件交響曲において唯一作成したといえる部分である旨、ピアノ・ソナタ第2番に関し、使用したモチーフはP2自身が作曲したものを録音して被告に渡したとし、被告がプロデューサー、P2が作曲者と、役割が分かれていたと思う旨述べた。被告は、ピアノ・ソナタ第2番のモチーフは自分が歌ってみせたメロディーをP2が記憶していて楽譜にしたとしている。(甲183・23、25頁)
 また、P2は、平成27年に出版した著書において、本件交響曲につき、「『HIROSHIMA』は、彼と私の組み合わせでなければ完成しなかった作品ですが、作品についてのお互いの捉え方はまったく異なっていました。」、「ただ、私の書いたものではあっても、彼がいたからこそ成立したものでもあります。あのフォーマットは彼を必要とするんです。」などと記載している(乙16)。
(4) 被告の身体状況等
ア 診断書
 被告の平成14年1月21日付けの「身体障害者診断書・意見書(聴覚障害用)」(以下「平成14年診断書」という。)には、障害名を「聴覚障害」、原因となった疾病・外傷名として「感音性難聴」、疾病・外傷発生年月日として「左昭和60年、右平成9年」、参考となる経過・現症として、「24才時左聴力低下34才時右聴力低下、大学病院で加療するが改善なし」、総合所見として、「右101.3dB、左115dBで身障2級に該当する」と記載されている(乙10)。
 被告の平成26年2月21日付けの「身体障害者診断書・意見書(聴覚障害用)」(以下「平成26年診断書」という。)には、障害名を「聴覚障害」、原因となった疾病・外傷名は「不明」、参考となる経過・現症として、「純音聴力検査:右48.8dB、左51.3dB、語音聴力検査(最高明瞭度:右71%、左29%)」、「ABR域値:右40dB、左60dBにおいてV波確認、DPOAE:両側とも反応良好」などの記載があり、総合所見として、「聴覚障害に該当しない」とされ、身体障害者福祉法第15条第3項の意見として、障害の程度は同法別表に掲げる障害に該当しないと記載されている(乙11)。
イ 放送倫理・番組向上機構の放送倫理委員会による耳鼻咽喉科専門医からの聞き取りやこれまでの事実関係を踏まえての報告書には次のような記載がされている。
(ア) 専門医の意見
 両耳が純音聴力検査で100デシベルを超えるような高度の感音難聴は、内耳の有毛細胞(物理的な振動を電気的な神経の信号に変換する細胞)の破壊がないと起こり得ないものであり、有毛細胞は自然に再生することはあり得ないから、このような高度の感音難聴が自然に改善することは、現在の医学的知見ではまずあり得ない。平成14年診断書において、100デシベル以上の結果が出ている理由としては、軽度から中等度の感音難聴に加え、機能性難聴(心因性難聴又は難聴であることを偽る詐聴)を合併したものと考えられる。平成26年診断書においては、自覚的な検査のほかに、他覚的な検査が行われており、耳と頭部等に電極を取り付け、ヘッドホンからの音による脳波の変化(聞こえると脳が反応して脳波に変化が生じる)により聴力を検査するABR(聴性脳幹反応検査)では、右40デシベル、左60デシベルで、脳幹の下丘における反応を示すV波が確認できており、これは、2000から4000Hz領域において右30デシベル、左50デシベル程度の聴力があることを示している。また、DPOAE(歪成分耳音響放射)では、反応良好となっているが、40デシベル以上の難聴の場合、一般に反応は減弱又は反応欠如となる。このような検査結果を総合すると、被告は、現在、軽度から中等度の難聴があると考えられる。(甲183・30頁)。
(イ) 文献の記載
 平成11年8月に発行された雑誌「放送技術」において、被告が明らかに聞こえていることを前提としたマスタリング作業時に視聴している姿、打合せの様子、マスタリング後の楽曲を視聴している姿等の写真が掲載されており、急性難聴になった後の状況について、被告は、悪い時もあるが大分いいと述べており、補聴器や筆談によるインタビューをうかがわせるような記載がない(甲183・31頁)。
(ウ) 結論
 上記の結果から、平成11年8月頃に被告に聴力があった時期があることは明らかで、また、専門医の意見によれば、被告に高度の感音難聴があったとは認められず、平成14年当時の診断結果が、軽度から中等度の難聴に加えて機能性難聴(心因性難聴又は難聴であることを偽る詐聴)を合併したものと考えられるとのことからすれば、平成11年以降被告がずっと全ろうのまま作曲をしていたことは虚偽の事実である(甲183・31から32頁)。
(5) 本件楽曲の著作権
ア 被告とP2は、JASRACに対し、被告を作曲者として作曲届を提出した全ての楽曲について、それらの著作権ないしその持分権(著作権法27条及び同法28条に規定する権利を含む。)がP2から被告に譲渡済みであり、著作権が全て被告に帰属していることを相互に確認するとの平成26年12月11日付け確認書(以下「本件確認書」という。)を作成した(乙4)。
イ JASRACは、同月31日付けで、被告との間の著作権信託契約を解除した(甲184)。
2 争点1(被告による不法行為の成否)について
(1) 原告は、被告が公表していた、本件楽曲が被告自ら作曲した作品であること、被告が全ろうの中、苦労をして絶対音感を頼りに作曲した状況がいずれも虚偽であり、このような虚偽の説明を前提に原告に本件公演の実施を許可し、さらには公演を増やすよう申し入れるなどして本件公演の実施に深く関与した行為が、不法行為である旨主張し、被告は、原告が主張するいずれの事実も虚偽ではないし、そもそも本件楽曲に関する明確な著作物利用契約まで成立したとはいえないまま本件公演が行われたのであるから被告に告知義務違反もないなどとしてこれを争っている。
(2) そこでまず、本件公演を行うに当たっての原告及び被告の認識を検討するに、前記認定事実によれば、原告が被告に対して本件交響曲公演の提案をした平成25年3月頃までに、被告が平成11年頃に全ろうとなり、耳鳴り、偏頭痛、頭鳴症等に悩まされながら、内側からの音を記譜することにより作曲活動を行ったという経緯が、全国紙や雑誌、全国放送のテレビ番組等で度々取り上げられるなどしたことから、そのような被告の作曲家としての人物像や作曲の状況が公衆にも相当知られるところとなり、それとともに、著名レコード会社から発売されている本件交響曲のCDもクラシック音楽においては異例の売上げとなっていたことが認められる。このような経緯に加え、本件公演の広告の内容からすると、国内外の音楽家の演奏会の企画・主催等を行うことを業とする原告が、全国で30回以上の本件楽曲の演奏会を企画するに当たっては、作曲者とされていた被告のこのような人物像や作曲状況を前提とし、この点が広く知られていることが重要な事情となっていたものと認められ、仮にこれらの事情が事実でなかった場合には、本件公演を企画しなかったであろうと認められる。そして、被告においても、自らが多数のメディアに取り上げられていた状況等を認識した上で、原告に対して公演回数の増加を強く要求したことからして、原告からの本件交響曲公演の提案が、被告が公表していた被告の人物像や作曲状況を前提とし、それを重視していたものであることについて、当然承知していたものと認められる。
 なお、被告は、本件公演に関して原告が作成して記名押印の上で被告に交付した契約書(乙1、乙2)に被告が署名押印をしていない点を指摘して、本件楽曲についての著作物利用契約が成立していないまま本件公演が行われたと主張する。しかし、前記認定事実のとおり、被告は、原告からの本件交響曲公演の提案に対し、指揮者等について希望を伝えてその交渉に応じ、平成25年3月24日には、原告に対し、本件交響曲公演の開催が決定である旨のメールを送信して本件交響曲公演の実施に同意することを明確に示している上、同月28日に本件交響曲公演の日程、広告予定等を受け取り、同年5月には本件ピアノ公演の企画が追加されたのに対し、同月から同年7月にかけて、本件ピアノ公演及び本件交響曲公演の回数をいずれも増やすよう、原告に強く要請し、原告はこの要請に応じて本件公演を実施していき、被告から特段の異議が出された形跡もないのであるから、被告は、本件楽曲の作曲者として、原告に対し、本件公演における本件楽曲の利用を許諾し、本件公演の実施を了承していたと認めることができ、被告の上記主張は採用できない。
(3) 次に、前記(2)の前提とされた状況について検討する。
ア まず、被告の聴力については、本件交響曲が作曲された時期に作成された 平成14年診断書では、感音性難聴を原因とする聴覚障害により身体障害2級に該当するとされている。しかし、脳波の反応による客観的な検査が行われた平成26年診断書においては、右が40デシベル、左が60デシベルで脳波の反応が確認されているところ、専門医の意見によれば、これは、ある領域においては右が30デシベル、左が50デシベル程度の聴力があることを示しているものであること、被告自身も3年前から聴力が戻っていると述べていることから、平成26年2月頃において、被告は軽度から中等度の難聴にあったが、全ろうといえるような状況ではなかったと認められる。このような被告の状態に加えて、平成14年診断書に記載されているような100デシベルを超えるような感音性難聴の場合、自然に改善することは現在の医学的知見ではあり得ないとの専門医の意見や、平成11年8月頃に聞こえない状況になかったことがうかがえることからすると、平成14年診断書の記載はこれを採用することができず、平成14年当時、高度の感音性難聴が被告にあったとは認められない。また、平成14年診断書の結果は、軽度から中等度の難聴に加え機能性難聴(心因性難聴又は難聴であることを偽る詐聴)を合併したものと考えられるとの専門医の意見からしても、平成11年以降、被告が全ろうの状態で作曲していたという事実を認めることはできない。この点について、被告の妻である証人P5は、平成13年末頃までに被告は全ろうに近い状態となったと証言するが、上記に照らし、採用できない。
 したがって、平成11年以降、被告が軽度から中等度の難聴であったことは事実であるといえても、全ろうの音が聞こえない状態であった点は事実でなかったといえる。
イ また、被告は、全ろうの状態で、耳鳴り、偏頭痛、頭鳴症等に耐えながら被告自身が内から聞こえる音を記譜して本件交響曲を作曲したと公表していたが、前記認定事実によれば、被告が本件交響曲について関与したのは、本件指示書を渡すなどしてP2に指示を与え、また、被告が本件交響曲における鐘の音を入れたことにとどまる。また、ピアノ・ソナタ第2番についても、モチーフの選択やその順序等について指示をしていたにとどまる。したがって、被告が上記の状況で本件楽曲を自ら作曲したとの点も、事実でなかったといえる。
 この点について、証人P5は、被告は平成15年に完成した本件交響曲についてもシンセサイザーでメロディーを作りオーケストレーションもしており、それを録音したものを聴いたことがあるなどと証言し、陳述(乙22)している。しかし、被告がP2に作曲を依頼したことを発表した直後の会見において被告が述べていたのは、本件指示書等による指示をしたことのみであり、シンセサイザーによる作曲については何ら触れられておらず(甲172)、むしろ、被告には絶対音感がなく、オーケストラ曲を作ることができなかったことから設計図を示してP2に音符を書いてもらった旨を述べていたことからすると、証人P5の上記証言は直ちにこれを採用することはできず、その他、本件楽曲につき、鐘の音以外のメロディー等を被告が作成してP2に提供したことを裏付ける証拠は提出されておらず、そのような事実を認めることはできない。
 また、同証人は、近年のドキュメンタリー映画の中で被告が自ら新曲を作曲する過程が描かれたと陳述し(乙22)、その楽曲の「音楽著作権使用料支払いに関する覚書」も提出されている(乙23)。しかし、それは、当該楽曲についてのことであるにとどまり、それをもって本件楽曲の作曲過程についての前記の認定判断が左右されるものではない。
(4) 以上のとおり、被告が公表し、多数のメディアで紹介されていた被告の人物像や作曲状況は、原告が本件公演を企画するに当たっての重要な前提事情であり、それが事実でない場合には、原告が本件公演を企画・実施することはなかったものであるが、被告は、そのような事情を知りながら、本件公演を実施することを了承したにとどまらず、特定の指揮者の選定や公演回数の増加を強く要求するなど、本件公演の企画に積極的に関与したといえる。これに加え、上記の前提事情が事実でないことが公となった場合には、それまでの新聞や雑誌の掲載、テレビの番組放映等の数、これらに対する反響の大きさからして公演を実施することができなくなり、予定公演数の多さから原告に多大な損害が発生するであろうことは、容易に思い至ることができたものであったといえることを併せ考慮すると、本件公演の企画に対する上記のような関与をするに当たり、被告において、これまで公表していた被告の人物像や作曲状況が事実とは異なることを原告にあらかじめ伝え、その内包されるリスクを告知する義務があったものというべきである。したがって、被告がこの義務に反して事実を告げず、原告が多額の費用をかけ、多数の人が携わることとなる全国公演を行うことを了承し、さらには公演数を増やすように強く申し入れるなどして本件公演の企画に積極的に関与し、それにより原告に本件公演を企画・実施するに至らせた行為は、原告に対する不法行為を構成すると評価するのが相当である。
(5) これに対し、被告は、原告が本件楽曲の利用許可を求めたという平成25年においても中等度以上の感音性難聴であり、聴覚障害のレベルに変化があったとしてもこれを積極的に話す必要はなく、また、被告は本件交響曲の共同著作者であるから、P2と合意の下で被告を作曲者として表示することは何ら違法ではないなどとして、被告の行為が不法行為に当たらない旨主張する。
 しかし、被告は、そもそも、調性音楽を目指し、全ろうの状態で、外からの音が聞こえない状態にあることを前提に、内からの音を絶対音感を頼りに記譜という方法で作曲したと説明し、テレビ番組においても、白い五線紙を前にした姿や、出来上がった楽譜を前にする姿等を撮影させていることからすれば、被告は、それらに接した者に、聴力を失ったにもかかわらず、各種の作曲技法を用いて自ら楽曲を創作し、本件楽曲の記譜も被告自身が行っていたとの意味で、全ろうの作曲者であると理解させ、また、各種メディアもその感動性に着目して広く取り上げていたものと認められる。
 それが、実際に作曲技法を用いて楽曲を具体的に創作し、記譜までしたのは別人のP2であり、被告が行ったという本件指示書等による関与は、楽曲の創作であるかどうかを争われるような指示にすぎず、しかも、全ろうといえるような状態にもなかったのであるから、作曲されたとされる当時に被告が軽度から中等度の難聴であり、また、仮に被告の関与が本件楽曲につき著作権法上の創作行為として肯定され、共同著作者とされることがあったとしても、被告の行為が不法行為を構成するものであることに変わりはないというべきである。
3 争点2(原告の損害額)について
(1) 本件における損害の枠組みについて
ア 前記のとおり、本件公演は、平成26年2月2日までのものが実施され、同月23日以降のものは中止された。このことから、原告は、被告の不法行為により被った損害として、平成26年2月23日以降中止した本件公演に係る損害を主張している。
 しかし、本件において被告の原告に対する不法行為として捉えられるのは、被告が、告知義務に違反して、原告が多額の費用をかけ、多数の人が携わることとなる全国公演を行うことを了承し、さらには公演数を増やすように強く申し入れるなどして本件公演の企画に積極的に関与し、それにより原告に本件公演を企画・実施するに至らせた行為であり、このような被告の行為がなければ、原告はそもそも本件公演を企画・実施しなかったと認められるものである。このような不法行為の内容からすると、原告の損害として捉えるべきは、本件公演を企画・実施しなかった場合と比べて、本件公演を企画・実施したことの全体によって生じた損害(実施分も含めて損益通算した損害)であると解するべきであって、中止された公演のみに着目し、その中止による損害のみを損害として主張する原告の上記主張は採用できない。他方、被告は、公演中止によって生じた損害と実施された公演から生じた利益の損益相殺を主張するところ、上記のとおり、原告の損害としては本件公演の企画・実施の全体から生じた損害を通算して把握すべきであるから、被告の損益相殺の主張自体は採用できないが、この主張は、実質的には上記で述べたのと同趣旨をいうものと解される。
 もっとも、原告は、各種の公演を企画・主催することを事業内容としているから、仮に本件公演を企画しなかったとしても、同じ時期に他の公演を企画・実施していたはずであり、それにより通常生じる利益を得ていたはずであると考えられる。そうすると、上記の損害として損益通算すべきは、@実施された公演については、通常得られる利益を超過して得られた利益を通算対象とすべきであり、A中止された公演については、売上げがない反面、経費は支出しており、また、同時期に他の公演を企画・実施する機会を逸し、突然の中止であったために他の公演で代替する余裕もなかったと認められるから、(a)純粋支出となった経費に加え、(b)他の公演を実施していれば通常得られたであろう利益を損害として通算対象とすべきである。
イ 他方、被告は、本件公演は著作権者から本件楽曲の利用許諾がされ実施可能であったにもかかわらず、原告の経営判断において実施しなかったものであるとして、上記Aの本件公演の中止による損害は、被告の行為との間に相当因果関係はない旨主張してこれを争っている。
 しかし、前記1(3)イのとおり、平成26年2月5日に被告がP2に作曲を依頼していた事実を公表して以後、JASRACは本件楽曲の利用許諾を保留することを表明し、また、本件交響曲の楽譜管理会社においても、貸出しを中止することを発表していたのであるから、原告としては、楽譜の使用ができない上に、本件楽曲の著作権者が誰であるかについてさえ確たる認識を持つことは困難であったものといえ、実際、作曲行為をしたことが明らかなP2の許諾を受けていたわけでもない。また、本件公演は、上記認定事実のとおり、その広告やプログラムにおいて、従前から被告が公表していた全ろうによる作曲状況等を強調して実施されていたもので、それらが事実でないことが公に明らかとなった以上、本件公演の実施を継続することは、事実に反する宣伝に基づく公演を継続することを意味し、社会常識として許されることではなかったといえる。
 このような事情からすれば、原告が本件公演を実施することは社会通念上不可能であったといえ、本件公演の中止により被った損害は被告の不法行為と相当因果関係にあるといえる。
(2) 本件公演中止による損害(前記A)について
ア 本件公演中止による逸失利益(前記A(b)) 4284万0846円
(ア) 原告は、この損害項目について、中止された本件公演を実施していれば原告が得られたであろう利益であるとの趣旨の主張をするが、それは、契約上の履行利益の賠償を求めるものであるから、被告が主張するとおり、不法行為による損害賠償における損害としては請求できない。しかし、同じ逸失利益であっても、前記のとおり、原告が同時期に他の公演を企画・実施していれば通常得られたであろう利益であれば、不法行為に基づく損害賠償として請求することができると解され、原告の主張はこの趣旨を含むものと解される。
(イ) そして、原告が実施した本件公演により得た利益は、本件公演における販売実績が、近年原告が手掛けてきた音楽公演における販売実績を特に上回るものでないと認められること(甲175ないし甲180)からすれば、原告が通常行ってきた業務により得ていた利益と同視し得るものといえる。
 この点について、被告は、上記の近年の販売実績は著名なピアニストの公演であって、それのみによって通常の販売利益性を基礎付けることができない旨の主張をする。しかし、上記音楽公演は、中止された本件公演が予定していた時期の前年同時期である平成24年の3月から5月に原告が企画したコンサートであり、季節的な要素も考慮されている上、被告が指摘するピアニスト以外のアーティストの音楽公演も含まれており(甲180)、そもそも原告は従前より人気の高いアーティストのコンサートを企画してきたことがうかがわれること(甲1)からすれば、上記の前年同時期の公演によるチケットの販売実績が特別なものではないといえ、被告の上記主張は採用できない。
(ウ) そうすると、本件公演により、他の公演を行う機会を逸したことにより原告が被った損害は、本件公演の予想利益の額とするのが相当であり、その額としては、次のとおり算定した金額を認めるのが相当である。
a 売上予定額
(a) 中止された本件公演に係る売上予定額を算定するに、それらのうち、別紙公演目録記載1(2)及び2(2)の本件交響曲公演2回分と本件ピアノ公演3回分は、公演を販売して一定額を得る形での契約になっており、これらについては当初の販売額が売上予定額といえる。
(b) これに対し、その余のものは、チケットを販売する形による公演であることから、その売上予定額は、中止された本件公演に係る配券チケット売上高(チケットが完売した場合に得られる売上額)に、既に実施された本件公演に係る平均チケット売上率を乗じて算定するのが合理的である。
 そして、配券チケット売上高については、別紙売上予定額算定表の配券チケット売上高欄のとおりと認められ(小数点以下切捨て。甲39の2)、平均チケット売上率については、実施された本件公演の実績値に基づき、実際のチケット売上合計額から販売手数料を控除した金額を、配券チケット数に各販売額を乗じた配券チケット売上高で除することにより算出すると、本件交響曲公演においては73.78%、本件ピアノ公演においては49.38%であることが認められる(甲55ないし甲70、以上の説明として甲138)。
(c) 以上に基づき算定すると、売上予定額は、別紙売上予定額算定表のとおり、合計9337万1860円(小数点以下切捨て)となる。
b 経費
 本件交響曲公演における必要経費として予定されていたのは、指揮者の出演料、オーケストラ出演料(公演販売形式のものは除く。)、楽譜借上げ費及び会場費であり、これらについては前例及び見積額による額を必要経費として認め、それ以外に原告従業員が公演に赴くための交通費等の経費が必要と認められ、これらの額は、証拠(甲39の3、甲40ないし甲52、以上の説明として甲138)によれば、別紙経費額算定表のとおり、合計で4433万6655円と認められる。
 また、本件ピアノ公演における必要経費として予定されていたのは、ピアニストの出演料、会場費、原告従業員が公演に赴くための交通費等の経費(「いずみホール」の公演についてはケータリング費)であり、これらの額は、証拠(甲71ないし甲74、甲75の1、以上の説明として甲138)によれば、別紙経費額算定表のとおり、合計で159万8380円と認められる。
 さらに、中止した本件公演に必要であったと認められる後記ケの広告費132万2718円、本件ピアノソナタ公演の出演者の交通費(国際航空券代)として13万3720円(甲75の2、甲138)が必要であったと認められる。また、後記5のとおり、本件公演の実施には、本件楽曲の利用の対価を支払う必要があるから、その額は、後記5のとおりの、JASRACの使用料規程(甲165)により算定するのが相当であり、各公演の入場料(税込み)、座席数及び予定日は別紙売上予定額算定表に記載のとおりと認められるから(甲39の2)、各公演の本件楽曲に係る使用料は、別紙中止公演著作物使用料のとおり、入場料(税抜き)の平均額に「定員数」を乗じて得た額から定められる「総入場料算定基準額」の5%に消費税を加えた「Z税込み」欄記載の額となり(平成26年3月までは消費税5%、同年4月以降は同8%として、いずれも小数点以下切捨て)、公演を販売しているものについては、後記5で認定する実施した本件公演における使用料の平均額である、本件交響曲公演については1公演26万0535円、本件ピアノ公演については1公演15万2989円を認めるのが相当であるから(別紙著作物使用料算定表参照)、これらの合計は、別紙中止公演著作物使用料のとおり、320万5128円となる。
 そうすると、必要と認められる経費額は、別紙経費額算定表のとおり、合計5059万6601円と認められる。
c 以上から、本件公演の中止による逸失利益として、上記9337万1860円から上記経費額の合計5059万6601円を控除した4277万5259円を損害と認める。
イ 本件交響曲公演のプログラムの販売不能による逸失利益(前記A(b)) 188万5313円
 原告は、本件交響曲公演のプログラム(甲79の2)を、本件公演の会場にて販売していたところ、本件公演の中止により同プログラムを販売する機会を逸したのであるが、原告が特別な公演を多く手掛けているとうかがわれること(甲1)からすると、公演に係るプログラムを公演会場で販売することは通常なされることであると推認されるから、その逸失利益は、上記ア同様、原告の損害と認めるのが相当である。
 そこで、まず、中止された本件交響曲公演で販売されたと見込まれる冊数について見ると、中止された本件交響曲公演の規模は現に実施されたものとさほど変わりないと認められるから(甲39の2)、実施された本件交響曲公演における販売実績と同様の販売があったものと認めるのが相当である。そして、実施された14の本件交響曲公演において販売されたプログラムは、合計3520冊であることが認められるから(甲79の1、甲80ないし甲87、甲91の1、甲92ないし甲97)、1回の本件交響曲公演における平均販売冊数は251冊であり、中止された10公演で販売されたはずの冊数は2510冊といえる。
 次に、中止された本件ピアノ公演において販売されたと見込まれる冊数について見ると、実施された3公演で販売された冊数は合計29冊と僅かであり(甲79の1、甲88ないし甲90)、1回の平均販売冊数は9冊(小数点以下切捨て)であるから、中止の4公演で販売されたはずのプログラムは36冊であるといえる。
 そして、販売単価は1冊1000円であり、原告も認めるとおり、プログラム販売手数料を1割(100円)を差し引いて算定するのが相当であり、また、製作原価は1冊当たり159.5円であるから(甲79の1)、損害額は、上記販売数2546冊分についての売上予定額からその販売手数料及び製作原価を差し引いた、合計188万5313円となる。
(1000円−259.5円)×2546冊=188万5313円
ウ 返金したチケット返送料(前記A(a)) 5万8560円
 返金したチケット返送料は、原告が、本件公演が中止されたことにより支出した経費であることから、被告の不法行為と相当因果関係ある損害といえ、上記金額を損害と認める(甲38、甲103ないし甲106、以上の説明として甲138)。
エ ウを返金する際の振込手数料(前記A(a)) 2万0300円
 上記ウと同様の証拠により、ウを返金する際の振込手数料として上記金額を原告が支出したことが認められ、上記ウと同様、同額を損害と認める。
オ プレイガイドへ支払った手数料等(前記A(a)) 270万6243円
 中止となった本件公演について、原告は、各プレイガイドに対し、販売手数料、発券用紙代、払戻手数料の合計から、各プレイガイドにおける払戻未了金額を控除した上記金額を支出したことが認められ(甲38、甲107、以上の説明として甲138)、同額を被告の不法行為と相当因果関係ある損害と認める。
カ オを返金する際の振込手数料(前記A(a)) 6988円
 上記オを返金する際の振込手数料として上記金額を原告が支出したことが認められ(甲107)、上記オと同様の証拠により、同額を損害と認める。
キ 公演中止広告費(前記A(a)) 21万0000円
 原告は、本件公演の中止に伴い公演中止の広告を掲載したことにより上記金額を支出したことが認められ(甲38、甲108、以上の説明として甲138)、同額を被告の不法行為と相当因果関係ある損害と認める。
ク 会場費(前記A(a)) 279万3040円
 証拠(甲38、甲46、甲47、甲49ないし甲52、甲74、甲75、甲109ないし甲112、以上の説明として甲138)によれば、原告は、本件公演実施のために契約していた公演会場について、公演の中止により既に支払って返済されなかった費用、あるいはキャンセル料として、合計279万3040円を支出したことが認められ、同額を被告の不法行為と相当因果関係ある損害と認める。
ケ 広告費(前記A(a)) 132万2718円
 原告は、本件公演のために広告費を支出したことが認められる(説明として甲138)が、ほとんどの広告は実施された公演を含む広告であることから、本件公演の中止による損害といえるものではなく、中止された本件公演のみのために追加的に支出したことが証拠により明らかな(甲117ないし甲122)、別紙損害算定表の「ケ 広告費」に記載の広告について損害と認めるのが相当である(なお、原告が指摘する全国紙の地域別広告については、原告従業員の陳述書(甲138)に記載されているものが中止された本件公演のみのために支出したものと認めるに足りない。)。
コ 印刷費、デザイン費(前記A(a))
 原告は、印刷費及びデザイン費についても損害である旨主張するが、証拠(甲124ないし甲136)によれば、原告の主張する印刷費及びデザイン費は、いずれも実施した本件公演と共通するものであることが認められ、中止されたもののみのために追加的に支出したものではないから、被告の不法行為と相当因果関係ある損害とは認められない。
サ 本件公演中止による損害合計 5177万8421円
(3) 実施された公演による利益(前記@)について
 先に述べたとおり、実施された公演については、通常得られる利益を超過して得られた利益を通算対象とすべきであるところ、前記のとおり、原告が実施した本件公演により得た利益は、本件公演における販売実績が、近年原告が手掛けてきた音楽公演における販売実績を特に上回るものでないと認められることから、原告が通常行ってきた業務により得ていた利益と同視し得るものといえる。したがって、実施された公演から得られた上記超過的利益があるとは認められないから、通算対象とすべき利益は存しない。
(4) 弁護士費用 500万0000円
 本件事案の内容等を考慮すると、上記額を認めるのが相当である。
(5) 小括
 以上から、原告が被告の不法行為により被った損害額は、(2)及び(4)の合計額の5677万8421円と認められる。
4 争点3(被告には本件楽曲に係る損失があるか)について
(1) 本件で、被告は、原告が、本件楽曲に係る使用料を支払うことなく、実施された本件公演において本件楽曲を演奏させたことについて、使用料相当額の不当利得が成立すると主張していることから、これが認められるためには、まず、被告が本件楽曲の著作権を有していたことが必要となるところ、P2は、会見において、本件楽曲を含む被告の作品として発表されている楽曲については、その著作権を放棄したいと述べ、被告との間で本件確認書を作成していることからすれば、P2において、少なくとも、本件楽曲の財産的な著作権を被告に対して譲渡したものと解するのが相当である。
 これに対し、原告は、仮に譲渡契約があるとしても、その実質はゴーストライター契約であるから、著作権法121条に反する、あるいは公序良俗に反するもので無効である旨主張する。しかし、本件確認書に係る著作権譲渡合意が、それ自体としてゴーストライター契約であるとは認められない。また、本件楽曲に関して、被告とP2との間で、著作権譲渡合意とともに、原告主張のような趣旨の合意がされたとしても、本件確認書が、真の作曲過程の発覚後に、なお著作権の譲渡だけを特に確認することを対象として作成されていることからすると、被告とP2との間で、著作権譲渡合意が上記の本件楽曲に関する合意と不可分一体のものとされていたとまでは認められず、また、性質上不可分一体のものとも認められない。そして、著作権法121条は、著作者名を詐称して複製物を頒布する行為を処罰の対象とするにすぎず、著作権を譲渡することを何ら制約するものではないから、本件確認書自体が同条に反するものではなく、また、そのことは公序良俗違反についても同様であるから、被告とP2との間における本件楽曲の著作権譲渡合意は無効とはいえない。
(2) そうすると、被告は、本件楽曲についての著作権を有するものであるから、本件公演における本件楽曲の演奏について、本件楽曲利用の対価である使用料を取得する権利を有するところ、その支払を受けていないのであるから、被告には、本件楽曲に係る使用料相当額の損失があると認められる。なお、先に述べたとおり、被告は、原告に対し、本件公演における本件楽曲の利用を許諾していたとは認められるが、弁論の全趣旨によれば、本件公演に当たり、原告と被告は、使用料の支払について協議をしようとしていたものの、結局、協議が具体化しないまま本件公演が実施され、その後も協議がされないままとなっていると認められ、無償で利用させる旨が合意されていたわけではないから、原告による本件楽曲の利用利益の享受という利得は、なお法律上の原因を欠くものというべきである。
5 争点4(原告の利得額)について
(1) 原告が、本件公演における演奏に関し、本件楽曲に係る使用料として支払うべき額については、原告が主張するような、被告との間の合意を認めるに足るものはなく、平成26年12月にJASRACが被告との間の著作権信託契約を解除するまでは、本件楽曲はJASRACにより管理されており、原被告間で使用料が合意されなければ、原告は、JASRACに対して所定の使用料を支払うことで足りたはずであるから、本件における原告の利得額としての使用料相当額は、原告がJASRACに対して支払うべき使用料の額と認めるのが相当である。
 この点、原告は、被告が受け取るのはJASRACの管理料を除いた金額である旨主張するが、原告が本来支払うべき使用料相当額を定める場合に考慮すべき事由ではない。
(2) そして、原告は、本件公演の実施当時、JASRACとの間で年間の包括的利用許諾契約を締結していたと認められるところ(乙3の2)、JASRACの使用料規程によれば、年間の包括的利用許諾契約を前提とする場合、平均入場料額(税抜き)を算出し、これに、定員数を乗じて得た額が800万円以下の場合は、その50%、同額が800万円を超える場合に、800万円を超える額の25%に400万円を加算した額を総入場料算定基準額とし、同額の5%の額に消費税相当額を加算した額と定められている(甲165・4、21頁)。
 そして、実施された本件公演について、弁論の全趣旨によれば、包括的利用許諾契約を前提とする場合のJASRAC所定の使用料額が別紙著作物使用料算定表のとおり410万6459円となることが認められ、同額が原告の利得と認められる。
 これに対し、被告は、原告は包括的利用許諾契約を無視して使用料を直接被告に支払うことを持ちかけていたとして、原告が包括的利用許諾契約を前提とする使用料額を主張することは禁反言に反する、あるいは、不当利得における一般的な使用料相当額については妥当しない旨主張し、使用料の額を争う。しかし、前記のとおり、本件公演の実施当時、本件楽曲はJASRACにより管理されており、原被告間で使用料が合意されなければ、原告は、JASRACに対して所定の使用料を支払うことで足りたはずであるから、JASRACにおいて、原告が包括的利用許諾契約を前提とすることを否定したような事情がない以上、包括的利用許諾契約を前提として算定した額が、原告が支払を免れた額であるといえ、被告の主張は理由がない。
 なお、被告は、原告は民法704条の悪意の受益者であるとして、最終公演日の翌日からの遅延損害金の支払を請求するところ、不当利得返還義務は期限の定めのない債務と解されるから、原告が遅滞の責任を負うのは、悪意か否かにかかわらず、反訴状が原告に送達された日の翌日である平成27年6月23日からであると認められる。
 また、被告は、商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求するが、反訴請求に係る不当利得返還請求権が商行為によって生じた債権であるとはいえないし、それに準じる債権とも認められないから、被告は、民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し得るにとどまると解するのが相当である。
第4 結論
1 以上からすると、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、5677万8421円及びこれに対する不法行為日後の平成26年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 また、被告の原告に対する不当利得返還請求は、410万6459円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成27年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2 よって、原告の被告に対する本訴請求、被告の原告に対する反訴請求は、いずれも上記1の限度においてこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 松宏之
 裁判官 田原美奈子
 裁判官 林啓治郎


(各別紙添付省略)
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