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【事件名】ポスターのホームページ掲載事件 【年月日】平成28年7月19日 東京地裁 平成27年(ワ)第28598号 著作権侵害等損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成28年6月2日) 判決 原告 有限会社ADEL(以下「原告会社」という。) 原告 A(以下「原告A」という。) 被告 豊橋信用金庫 同訴訟代理人弁護士 渡邉淳 同 粕谷誠 同 門林俊夫 同 西村和晃 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告会社に対し、1082万9174円及びうち150万4426円に対する平成19年11月18日から、うち167万7166円に対する平成20年11月15日から、うち169万7166円に対する平成21年11月7日から、うち169万7166円に対する平成22年11月20日から、うち425万3250円に対する平成23年11月5日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Aに対し、100万円及びこれに対する平成27年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、被告から被告主催のクラシックコンサートの企画・制作等を受託していた原告会社(下記(1)ないし(3))ないし同社の代表取締役である原告A(下記(4))が、被告に対し、次の各請求をする事案である。 (1) コンサートの告知に係る債務不履行ないし不法行為に基づく請求 原告会社は、平成19年から平成23年までに開催されたコンサート(以下「本件コンサート等」と総称する。)に係る業務を原告会社が受託するに際し、原告会社・被告間で、本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに、原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(以下「本件合意1」という。)にもかかわらず、被告が上記各コンサート開催についてホームページ上に掲載したこと等が上記合意に反する(債務不履行)のに加え、被告が当初からホームページ掲載等を行う意図を有していたにもかかわらず、これを隠して原告会社に業務を委託したのであれば、不法行為にも該当するとして、被告に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償金合計1002万9174円(公開のコンサートにおける通常料金と、「内輪の催事」ないし「非公開」であるとして合意された現実の代金の差額)及びこれに対する遅延損害金(上記損害賠償金のうち平成19年分の差額150万4426円に対する同コンサート開催日である平成19年11月18日から、うち平成20年分の差額167万7166円に対するコンサート開催日である平成20年11月15日から、うち平成21年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成21年11月7日から、うち平成22年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成22年11月20日から、うち平成23年分の差額345万3250円に対するコンサート開催日である平成23年11月5日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める。(上記第1の1) (2) ポスターに係る著作権侵害に基づく請求 原告会社は、平成23年11月5日開催のコンサート(以下「本件コンサート」という。)に係るポスター(以下「本件ポスター」という。甲4の3参照)について原告会社が著作権を有するところ、被告が無断でこれを自らのホームページ上に掲載したことが上記著作権(公衆送信権)侵害に当たるとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金30万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。(上記第1の1) (3) 写真に係る債務不履行ないし著作権侵害に基づく請求 原告会社は、原告会社・被告間で本件コンサート中の演奏場面を撮影した写真の取扱いについて平成23年11月5日に合意をした(甲7の書面に基づく合意であり、以下「本件合意2」という。)にもかかわらず、被告が同合意に従った処理をせず、原告会社に無断で被告発行の雑誌に本件コンサートの舞台写真(以下「本件写真」という。甲9の3、甲19の3参照)を掲載したこと等が債務不履行に当たり、また、原告会社が有する上記写真についての著作権(複製権、公衆送信権と解される。)を侵害するとして、被告に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償金50万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。(上記第1の1) (4) 原告Aに対する不法行為に基づく請求 原告Aは、@原告会社・被告間での本訴以前の調停手続等における被告の不誠実な対応等、A原告Aがデザインした本件ポスターを被告に無断で使用されたこと、B被告の対応等による原告Aの心労から、原告Aの個人会社である原告会社が営業活動をすることができず損害が累積したこと等により、原告Aが精神的苦痛を被った旨主張して、不法行為に基づき、損害賠償金(慰謝料)合計100万円及びこれに対する原告会社・被告間の調停が不成立となった日である平成27年9月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。(上記第1の2) 2 前提事実(証拠を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者等 ア 原告会社は、広報広告代理店として、クラシックコンサートを主体とする文化芸術イベントの業務代行一括請負等を目的とする有限会社であり、原告Aは、原告会社の代表者である。 イ 被告は、金融業等を営むことを目的とする信用金庫である。 ウ 被告は、平成8年から平成23年まで、地域の文化貢献活動の一環として、毎年、クラシックコンサートを開催しており、同コンサートの実施に当たって、原告会社が、平成8年当初から企画、運営等を行ってきた。 (2) 本件コンサートの開催 原告会社と被告は、平成23年10月26日、被告を委託者、原告会社を受託者として、本件コンサート(とよしん「ふれあいコンサート」)の会場手配(会場使用料の支払を含む。)、企画・制作及びコンサート当日の舞台運営の代行業務の委託契約(以下「本件契約」という。甲1)を締結した。本件契約上、委託料は一式654万6750円(消費税込み)とされていた。 本件コンサートは、同年11月5日、アイプラザ豊橋(豊橋勤労福祉会館)にて開催された。 (3) 本件ポスターの被告のホームページへの掲載 被告のホームページ(甲4の1)のトピックス欄の「2011/09/12」(平成23年9月12日を意味するものと解される。)の欄に、本件コンサートについての項目があり、ここをクリックすると、本件コンサートの開催に関する告知(甲4の2)、及び本件コンサートに係る本件ポスター(甲4の3)が掲載されていた。 同ポスターには、本件コンサートの開催日、時刻、場所、演奏者、曲目、入場方法、問合せ先などの情報が文字で記載されているほか、中央部には演奏者等の写真が大きく掲載されていた。 (4) 本件コンサート撮影写真についての合意内容 ア 本件契約には、「ラジオ・テレビの放送権は一切原告会社に帰属する。演奏中の写真撮影並びに録音、録画は書面による原告会社の同意を要する」旨の定めがある(同契約8条)。 イ 被告は、平成23年10月28日付けで、原告会社に対し、本件コンサートの写真撮影について同意するよう求めた(甲5)。 これに対し、原告会社は、同年11月1日付け書面(甲6)で、被告の理事長あてに、同人名義での写真撮影願を作成・送付するよう求め、さらに、被告に対し、「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」と題する同年11月4日付け書面(甲7)を交付し、記載された条件(下記ウのとおり)に従って写真撮影するように求めた。 被告の担当者であったB(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)は、「上記、了解・承諾の上で11月5日の写真撮影を行います。」と記載した上で、同書面に署名した(これによって原告会社・被告間で成立した合意が本件合意2である。)。 ウ 上記書面(甲7)には、以下の各記載がある。 「平成23年11月5日(土)に開催の『とよしん“ふれあいコンサート”』の写真撮影については、貴金庫が下記事項を全部、確実に履行することを条件に同意します。」 記 ・「撮影者は、貴金庫総合企画部C様1名のみとする。」 ・「演奏中の舞台写真は、客席からではなく、会館指定の場所のみとする。」 ・「撮影者は、この催事の記録写真用のメモリーカードとは別に、演奏中の舞台写真用専用のメモリーカードを用意し、これを使用すること」 ・「演奏中の舞台写真は、15点以内とすること、またフラッシュは使用しないこととする。」 ・「終演後、直ちに撮影者は、(有)ADELとの間で、データ(撮影した写真の)を確認した後、その場でこの舞台写真撮影専用のメモリーカードを(有)ADELに譲渡(無償で)することとする。 なお、(有)ADELの過失によらないデータの消失については、何らの請求もしないこと」 ・「撮影した写真の使用は、貴金庫ディスクロージャー誌への掲載のみとする。」 ・「撮影した写真および写真データは(有)ADELが保管・管理することとする。」 ・「貴金庫ディスクロージャー誌に掲載の際には、事前に(有)ADELへの使用写真の通知と掲載原稿の内容通知をし、校正の了解を得た後にすることとする。」 (5) 本件写真の雑誌掲載 ア Cは、本件コンサート当日、同コンサートの舞台写真等を撮影した。 原告Aは、本件コンサート終了後に、被告の担当者であるBとともに、Cが撮影した舞台写真15枚のデータを全て確認した上で、同写真15枚が記録されたメモリーカードを持ち帰った。 被告は、その後、原告会社に対し、本件コンサートの舞台写真を送付するよう求めたが、原告会社はこれに応じなかった。 イ 被告が平成24年に発行した、被告の現況を記載したディスクロージャー誌(以下「本件雑誌」という。)には、本件コンサートの舞台写真(本件写真)が掲載されていた(甲9の3、19の3)。 (6) 本件訴訟以前の原告会社・被告間での交渉経過 ア 原告会社は、平成24年12月28日付け書面(甲10)を被告に送付し、本件写真が原告会社に無断で本件雑誌に掲載されたことがコンプライアンス違反であるとして、本件写真の入手先を明らかにするよう求めた。 イ 原告会社は、被告に対し、本訴での本件コンサートに係る主張とほぼ同内容の主張をして、損害賠償金の支払を求める旨の平成26年10月23日付け催告書(甲11の1)を送付した。 ウ 原告会社は、平成27年4月6日頃、豊橋簡易裁判所において、被告を相手方として、上記損害賠償金の支払を求める旨の調停を申し立てた(甲14)が、同調停は、同年9月30日に不成立となった(甲15)。 3 争点 (1) 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否 原告会社・被告間において、平成19年以降、本件コンサート等に係る業務を原告会社が受託するに際し、本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに、原告会社が低価格で業務を受託する旨の合意(本件合意1)が存在したか。被告は、本件コンサート等に関する記事等をホームページ上に掲載することにより、同合意に違反し(債務不履行)、また自らの意図を隠して原告会社を騙し、同社と契約を締結するという不法行為を行ったか。 (2) 本件ポスターに係る著作権侵害の成否 原告会社は、本件ポスターにつき著作権を有するか。また、被告は、本件ポスターを、著作権者である原告会社に無断でホームページ上に掲載し、同著作権(公衆送信権)を侵害したか。 (3) 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否 被告は、本件コンサート中の演奏場面を撮影した写真の取扱いについての原告会社・被告間の合意(本件合意2)に違反して、本件写真を本件雑誌に掲載したか(債務不履行)。また、原告会社は、本件写真について著作権を有し、被告は同著作権を侵害したか。 (4) 原告会社の損害額 (5) 原告Aの慰謝料請求の成否及びその慰謝料額 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否)について ア 原告会社の主張 (ア) 原告会社・被告間において、平成19年以降は、被告開催のコンサートを地元の顧客及び取引先を対象にした内輪の催事とし、その告知方法も地元新聞紙2紙のみを除いて広告宣伝は一切せず、被告の本支店の店頭でポスターを掲示し、チラシを置き、チラシを得意先に配布するなど、ごく限られた告知方法とすること、それにより原告会社は特別に低料金とする旨を合意したものである(本件合意1)。 それにもかかわらず、被告は、平成19年から早くも、コンサートについてインターネット告知を行ったものであり、平成20年から平成22年にかけても、同様にインターネット告知を行ったものと合理的に解される。 被告は、平成23年の本件コンサートについても、原告会社に無断で、被告のホームページ上に「トピックス」として「本件コンサートの開催について」という項目を掲載し、そこに、原告会社の著作に係る本件ポスターを無断で掲載して広告していた。 ホームページ上に掲載することは、不特定多数者に宣伝広告をすることにほかならず、それでは、当初の打合せとは全く異なるものとなる。被告が当初から低料金で原告会社に受託させる計画であったなら、明らかに詐欺行為(不法行為)であり、結果的に合意した告知方法を逸脱したというならば、契約違反(債務不履行)である。 (イ) 原告会社は、イベントの一括業務代行を請け負う広報広告代理店であり、単に出演依頼を受ける音楽事務所とは異なるため、委託料の中で、出演に関わる費用よりも、その他の費用(企画費等)が大きな割合を占めるものである。 そして、委託料の多寡は、労力や出演者の著名性等ではなく、請け負ったイベントがどの程度宣伝効果を上げられるかによって決まる部分が多い。 そもそも、被告自身が、平成19年のイベント計画段階で、告知方法を限定する代わりに委託料を安くしてほしいと提案したものであり、本件コンサートのスケジュール表(甲3の2、3)には、ポスターとチラシ以外の告知方法が記載されておらず、平成23年春頃にも、原告Aが被告の担当部長に、将来のイベントについてのネット掲載が許されないことを伝えた際に、同部長がその点を理解している旨答えていたことからすれば、被告も、平成19年以降の本件コンサート等は内輪の催事であって、インターネット告知の有無で委託料が変わることを認識していたことが明らかである。 (ウ) 原告らが、被告がホームページ上でコンサートの告知をしてきたことを問題にしなかったのは、平成23年11月まで同事実を知らなかったためにすぎない。 イ 被告の主張 (ア) 被告は、原告会社とポスターの掲示方法等について話し合ったことさえなく、ポスターの掲示方法を限定的にすること(「内輪の催事」にすること)を合意していない。現に、被告は、平成19年以降、地元新聞2社にコンサート開催の告知を掲載し、広く地域市民にコンサート開催を周知していた上、原告会社了解の下、ホームページにてコンサート開催の報告を掲載するとともに、コンサートの事前告知さえ行っており、平成19年以降のコンサートが原告会社主張の「内輪の催事」でないことは明らかである。 また、被告は、原告会社から、委託料の価額が告知方法で異なるなど聞いたことがない。実質的にみても、コンサートの告知は主催者である被告が行うものであり、告知方法を限定するか否かによって原告会社の労力に差異は生じず、告知方法によって原告会社の委託料に影響を及ぼすものではない。 このほか、被告が原告らを欺いて委託料を減額させた事実も存在せず、被告が不法行為責任を負うものでもない。 (イ) 平成19年から平成22年までのコンサートは、概ね300万円の委託料で行われているが、これは、被告が原告会社に対し、平成19年以降は概ね300万円の予算でコンサートを実施するよう要請した結果であり、コンサート形式を変更する際に、被告から原告会社に対し、コンサートを無償化し、チケット販売をやめることを伝えたが、被告が「内輪の催事」とするので委託料を安くしてほしいとの提案をしたことはない。 委託料を抑制できた理由は、出演者を国内演奏家に限定し、またコンサートの規模を縮小したほか、印刷物作成費等の諸経費を被告負担としたこと等によるものと思料される。 (ウ) 原告会社は、遅くとも平成23年11月1日には、被告のホームページ上にコンサート告知がされた事実を知りながら、平成26年10月23日付けの催告書(甲11の1)作成時までは、被告のホームページ掲載を全く問題視していなかったものである。 (2) 争点(2)(本件ポスターに係る著作権侵害の成否)について ア 原告会社の主張 (ア) 本件ポスターは、製作者の思想や感情を創作的に表現したものであり、これが著作物であることは明らかである。 そして、原告会社は被告に対し、本件コンサートの印刷物(チラシ、ポスター、プログラム)全てについて内容(原稿)、レイアウト、写真の配置及び寸法(甲12の2)、写真のトリミング(甲12の3、4)などにわたって詳細な指示をし、その後の校正、最終チェックも原告会社が行ったものであるから、本件ポスターの著作権は原告会社にある。 被告は、平成23年11月頃、原告会社に無断で本件ポスターをホームページ上に掲載し、これによって原告会社の著作権(公衆送信権)を侵害した。 (イ) 平成8年から平成18年までは、原告会社がチラシやポスターを作成してきたが、平成19年以降の契約では、印刷物製作費は委託料に含まれておらず、原告会社は、チラシやポスターの作成には関与しなかった。 しかし、被告が、平成19年に、非常識なチラシやポスターを作成したので、原告Aが、平成20年に、チラシ、ポスターともデザインを起こし、その後も同デザインを使用し、細部に至るまで細かな指図をし、ポスターを完成させたものである。 このように、平成20年から平成23年までの間は、原告会社が原稿データを完成させた。 平成20年以降は、ポスターを刷るという作業のみ、印刷会社にさせたものであるが、被告は、平成23年には、既にこのようなやり方で慣れてきたので、原告会社が被告に対し、過去のチラシに準じてチラシ、ポスターのレイアウトをするように口頭で指示を出すとともに、写真の寸法を指示し、曲目等の項目を通知した。 被告が提示してきた書面(乙32)は、原告会社が著作権を持つチラシに準じて作業をした結果であって、被告がレイアウトを構築したものとはいえない。 (ウ) 原告会社が被告のホームページ上の掲載に気付いたのは平成23年11月1日であって、その後、書面(甲8)にて被告のコンプライアンス違反を追及しており、原告会社が被告に対し、黙示の承諾をしたことはない。 また、ポスターの掲示方法については、被告の裁量に委ねられていたものではなく、「被告の本支店店頭のみ」と申合せがされていた。 イ 被告の主張 (ア) 本件ポスターは、単にコンサートの開催日時、開催場所、出演者、曲目、入場方法及び問合せ先等の事実を羅列するだけのものであり、その表現方法は平凡かつありふれたものであるため、思想又は感情を創作的に表現したものではなく、著作権法2条1項1号に規定する著作物ではない。 (イ) 本件ポスターの作成に際しては、以下のとおり、被告が、共和印刷株式会社との打合せを経て、ポスターのレイアウト等を構築したものであり、同構築過程において、原告会社から一切指図を受けていないから、仮に本件ポスターが著作物に当たる場合、本件ポスターの著作権は被告に帰属する。 すなわち、まず原告会社から被告に対して出演者及び曲目の情報が提供され、被告が、同情報に基づいてチラシのレイアウトを構築し、レイアウト図を作成した上で、ポスター作成のために共和印刷株式会社との打合せを行い、上記チラシのレイアウトを前提にして、ポスターのレイアウトを構築した。その後、原告会社から被告に対して送付された出演者の写真やサブタイトル等を、被告が作成したチラシ及びポスターのレイアウト図の空欄部分に挿入し、被告によってチラシ及びポスターの原案が作成された。さらに、被告は、上記手順で作成したチラシ及びポスターの原案を、原告会社に対して送付し、同社の確認を経て、チラシ及びポスターを完成させた。 (ウ) 仮に、ポスター作成に係る原告会社の関与のため、ポスターの著作権が被告に単独帰属しないとしても、ポスター作成に係る被告の創作的関与の度合いからすれば、ポスターは被告と原告会社の共同著作物であると解すべきである。 そして、共同著作物の共有者は、正当な理由のない限り、他の共有者による共有著作権の行使を妨げることはできない(著作権法65条2項、3項)ところ、イベント主催者である被告が自社ホームページ内にポスターを掲載してイベント告知をすることは極めて妥当な告知方法であり、これを原告会社が妨げることはできない。 (エ) 仮に、本件ポスターが著作物に当たるとしても、原告会社は、被告に対し、本件ポスターを被告のホームページ上に掲載することを許諾していた。 そもそも、平成8年当初から、被告と原告会社との間で、ポスターの掲示方法について話し合われたことはない。 そして、ポスターに係る費用は全て被告が負担する代わりに、完成したポスターの掲示方法は、コンサートの告知に必要な範囲で被告の裁量に委ねられており、被告のホームページへのポスター掲載について原告会社の許諾があったといえる。 現に、被告が原告会社からポスターの複製枚数や掲示場所の指図を受けたり、制限を課されたりしたこともない。 仮に、明示の許諾がなかったとしても、原告会社は、被告がホームページ上でポスター等を用いてコンサートの告知を行っていることを知っていたにもかかわらず、これを漫然と放置していた。以上からすれば、ホームページへのポスター掲示について原告会社の黙示の許諾があったというべきである。 (オ) よって、本件ポスターに係る著作権侵害は成立しない。 (3) 争点(3)(本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否)について ア 原告会社の主張 (ア) 原告会社は、被告が無断で本件ポスターを被告のホームページ上に掲載したため、不信感を抱き、被告に対し、本件コンサート当日の舞台写真を一切送付しなかった。また、原告Aは、平成24年1月、被告のBに電話し、話合いに応じなければ写真は一切提供できないと伝えた。その後、被告からは一切の連絡がなく、原告会社は、被告が本件雑誌への写真掲載を断念したものと考えていたが、同年秋頃、本件雑誌に本件写真が掲載されていることを知った。 被告は、本件雑誌上に、有していないはずの舞台写真(本件写真)を原告会社に無断で掲載した(甲9の1ないし3)ことになるが、これは、明らかに本件合意2に違反する。 なお、原告会社が被告に対して書面(甲8)をファックスして以降、被告から写真送付の要請は一切なく、原告会社が写真送付の要請を拒み続けたことはない。 また、原告会社が、被告理事長に対して面会を求めたのは、平成24年度のコンサート開催を要請する目的ではなく、被告のコンプライアンス違反の問題のためである。 (イ) 本件雑誌に掲載された本件写真は、そのアングル等からして、被告のCが撮影したものと解される。 そして、本件合意2により、Cが撮影した写真は、原告会社に著作権を譲渡することになっている。 原告会社と被告の間で、わざわざ合意書面(甲7)を作成したのは、撮影した写真の著作物性に着目したためであり、本件合意2によってメモリーカードの所有権のみが移転するものではない。 また、本件合意2の趣旨は、被告が指定された場所で撮影した本件コンサートの写真の著作権について、一切、原告会社に譲渡するというものであり、たとえ被告が15点以上の写真を撮影した場合でも、15点を超える写真も、原告会社にその著作権が譲渡されなければ、その趣旨が実現できないのである。 したがって、被告が、本件コンサート当日に撮影した写真を原告会社に譲渡したことにより、原告会社がコンサート会場を撮影した写真全ての著作権を有することになる。 しかるに、被告は、平成24年4月頃、本件雑誌に本件写真を無断で掲載する(甲9の3)とともに、同じ頃、本件雑誌中の本件写真を無断で被告のホームページ上に掲載し、これを不特定多数の公衆が受信できる状態にし、だれでもインターネット画面から印刷できるようにして、原告会社の上記著作権(複製権、公衆送信権)を侵害した(甲19の1ないし3)。 (ウ) なお、原告会社が用意した舞台は、背景に金屏風を用意し、コンサートの奏者のうち4名を中央の平台の上に乗せ、コンサート要員の位置を「5cm右へ」「10cm奥へ」等その配列の調和を考えて設定したものである。この意味で、舞台それ自体が、その創作者の思想・感情の現れであって、独自の芸術性が認められ、舞台自体が芸術性を有する著作物である。 そして、「舞台上の表現」を撮影するのは、単なる風景を撮影することとは異なり、被写体が芸術性、独自性を有するものであるから、それを撮影した写真の著作物性を基礎付けるものである。 イ 被告の主張 (ア)a ディスクロージャー誌(本件雑誌)は、信用金庫が事業年度ごとに作成及び公開を義務付けられる事業及び財産状況に関する報告であり、被告は、平成8年から毎年、コンサート写真とともにコンサート開催記事を掲載していた。 被告は、当然ながら、本件コンサートについても本件雑誌に掲載する予定であり、これは原告会社も了解していた。 しかるに、被告が原告会社に対し、約束どおり本件雑誌用の写真を提供するよう求めたものの、原告会社は、これに応じなかった。他方で、原告会社からは、同誌への本件コンサート記事の掲載について禁止するとの連絡もなく、また法令で定められた本件雑誌の作成期限が迫ったため、被告は、当時所持していた写真(入手経路は不明)を用いて同誌を作成したものである。 このように、本件雑誌へのコンサート記事の掲載について予め了解していた原告会社が、本件雑誌への本件コンサート記事の掲載を禁止しなかったことからすれば、原告会社が被告に対し、本件雑誌への本件写真の掲載に黙示の承諾を与えたものといえる。 b なお、平成23年までコンサート会場として使用してきたアイプラザ豊橋が、耐震改修工事のため平成24年には使用できないことが判明したこともあり、被告は、原告会社に対し、平成24年にはコンサートを開催しないことを伝えた。すると、原告会社は、執拗に被告理事長との面会を求めるとともに、本件雑誌用の写真を被告には送付しないとの態度を示し、それ以降、被告からの写真送付の要請を拒み続けた。 以上からすれば、原告会社の真意は、平成25年以降のコンサート開催の要請であったものと解される。 原告会社は、ことさら被告の合意違反だけ主張するが、被告が原告会社の承諾なく本件雑誌に写真を掲載せざるを得なかった専らの原因は、原告会社が正当な理由なく本件雑誌用の写真提供を怠ったことにある。原告会社が自らの責任を棚に上げ、被告の責任だけを追及する姿勢は、社会正義にも悖るものであり、権利の濫用と評価されるべきである。 (イ) 写真の著作権は、被写体の選択、構図等において独自の創意と工夫を施した撮影者に帰属するところ、本件写真の撮影者は不明であるが、原告会社側の者が本件写真を撮影したものでないことは明らかであるから、本件写真の著作権が原告会社に帰属することはなく、著作権侵害の主張は理由がない。 また、本件合意2に基づき、写真データを記録したメモリーカードの所有権が原告会社に移転するとしても、本件合意2は、写真の著作権を被告から原告会社に譲渡する内容ではない。 (ウ) 単に舞台上の背景として金屏風を設置した行為をもって「思想又は感情」の表現とは解し得ず、かかる行為を「個性の発現」したものと解することもできない。 したがって、上記行為は著作物たる要件を充足せず、「舞台上の表現」が著作物に当たるものではない。 (4) 争点(4)(原告会社の損害額)について ア 原告会社の主張 (ア) 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為による損害 原告会社は、平成23年開催の本件コンサートに関し、被告の本件合意1違反(債務不履行)ないし不法行為により、一般の公開イベントの契約の場合に得られるべき利益約1000万円と、「内輪のイベント」で得られるべき契約金654万6750円との差額約345万3250円の利益を侵害されたことになる。 また、平成14年から16年までのコンサートの委託料に関して、原告会社は、通常料金(公開のもの)としては平均487万8666円で契約していたところ、平成19年分のコンサート料金と上記通常料金との差額は150万4426円、平成20年分のコンサート料金と上記通常料金との差額は167万7166円、平成21年分のコンサート料金と上記通常料金との差額は169万7166円、平成22年分のコンサート料金と上記通常料金との差額は169万7166円であり、これらも原告会社の損害となる。 以上の損害の合計額は1002万9174円となる。 (イ) 本件ポスターに係る著作権侵害による損害 被告が、本件ポスターを無断で使用し、原告会社の著作権を侵害したことによる損害額としては、著作権法114条3項に基づき、30万円が相当である。 (ウ) 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害による損害 被告が、本件写真を無断で本件雑誌に掲載したことは本件合意2違反である上、原告会社の著作権をも侵害するものであり、その損害額としては50万円が相当である(著作権侵害に基づく主張については著作権法114条3項に基づく主張である。)。 イ 被告の主張 いずれも争う。 なお、原告会社が著作権侵害の損害額の根拠として提出する甲18は、原告会社の請求内容に適合するように事後的に作成された可能性が極めて高く、証拠価値は皆無である。 (5) 争点(5)(原告Aの慰謝料請求の成否及びその慰謝料額)について ア 原告Aの主張 (ア) 原告Aは、平成23年秋以降、被告に対して何度も話合いを呼びかけたが、被告はこれを無視した。原告Aは、被告の上記対応により、打ちひしがれて何もできなくなり、カウンセリングに通うようになったほか、平成27年2月からは心療内科に通院し、投薬治療を受けた。また、原告Aは、その後、豊橋簡易裁判所において調停を申し立てたが、被告は、判決でなければ金銭は一切支払わないと述べるなど、話合いの意思は全くなく、調停は不成立に終わった。原告Aは、被告の上記一連の行為により、精神的苦痛を受けた。 (イ) 原告Aは、自らがデザインした本件ポスターを無断でネット掲載され、これにより著作者としての感情を害され、精神的苦痛を受けた。 (ウ) 原告Aは、平成24年以降、被告の対応等による心労から、原告会社の営業活動ができなくなった。そして、原告会社は実質的に原告Aの個人会社であるところ、原告Aが営業活動をすることができないために原告会社も開店休業状態となり、同社の累積赤字が4000万円に達した。このように、同社が多大な損害を被ったことについて、原告Aは心を痛めた。 (エ) これらの原告Aの精神的苦痛を金銭に見積もると、合計100万円を下ることはなく、その内訳は、上記(ア)による慰謝料額が34万円、上記(イ)及び(ウ)による慰謝料額がそれぞれ33万円である。 イ 被告の主張 いずれも争う。なお、上記ア(ア)に関して、被告は、調停手続において、判決でなければ金銭を一切支払わないなどと主張してはおらず、原告会社の請求内容及び損害について根拠を明らかにするよう求めたにすぎない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 証拠(甲5、7、9の1ないし3、12の1ないし4、21、28ないし31、42、50、51、乙1ないし15、21ないし24、29ないし35、46ないし48)(ただし、甲21、50及び51については、後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1) 被告は、地域の文化振興を目的として、平成8年から毎年、クラシックコンサートを主催しており、その際、原告会社に対し、コンサートの企画、制作、会場の手配、コンサート当日の舞台運営等の代行業務を委託してきた。 (2) 被告では、平成17年頃、同コンサートが10回目を迎えたことを契機として、それまでのコンサートの形式の見直しが検討され、費用の抑制や入場料の無料化などが決定された。 もっとも、結果的にコンサート形式は変更されず、逆に、平成18年には、被告が85周年を迎え、また豊橋市制100周年の記念であるとして、コンサートを盛大に行うことになった。 しかし、原告会社は、平成18年には940万円の代金で契約したにもかかわらず、経費が予定よりもかかったとして1027万円に増額させるなど、被告の意向に沿わないコンサート運営をした。そこで、被告では、やはりコンサート形式の見直しが必要であると考えた。 (3) 被告は、原告会社との協議を経て、平成19年以降は、コンサートの委託費用は300万円程度、入場料は無料とし、予算の抑制のためにポスターやチラシ、プログラムを被告自身で作成し、出演者は国内演奏家を中心とすることとし、コンサートの名称についても、とよしん「ふれあいコンサート」と変更した。 もっとも、原告会社・被告間で、被告のホームページ上でコンサートの告知をしないなどとの合意がされたこともなく、コンサートを非公開とすることを条件に委託料を30〜35%減額するなどの話もなかった。 現に、原告会社・被告間で平成19年から平成22年までに締結された各委託契約に係る契約書(甲28ないし31)においても、コンサートの委託料は300万円程度とされているが(具体的には、平成19年が337万4240円(税込)、平成20年から平成22年までが各315万円(税込))、コンサートを非公開の行事とすることや、それと引き換えに委託料を減額することは何ら記載されていない。 (4) 被告は、平成8年から平成18年までのコンサートについては、チラシやポスターの作成も含めて原告会社に委託しており、原告会社がデザインから印刷物の完成まで行っていたが、上記(3)のとおり、平成19年以降は、予算の抑制のため、これらを委託の対象から外し、被告自身が行うことにした。 しかし、原告Aは、被告が平成19年に独自に作成したチラシ(甲42)について、主役よりも脇役が強調されており、不適切であると考えて、平成20年以降は、委託業務の対象外ではあるものの、写真の大きさやトリミング、文字の配列等に関して被告に指示するようになり、被告も同指示に従って、チラシやポスターを作成するようになった。 被告では、このように完成したポスターにつき、自ら印刷会社に対して印刷費用を支払い、必要枚数分を印刷させた上で、被告会社の本店や支店に配布し、掲示を行っていた。 (5) 平成23年の本件コンサートのための本件ポスターについては、平成23年に被告の総合企画部次長であったBは、本件コンサートの運営業務を担当し、原告会社との交渉に当たっており、同年に使用するチラシ(原告Aの指示を受けつつ被告が作成したもの)を前提に、印刷会社の担当者と打合せを行ってポスターのレイアウトを完成させ、そこに写真やサブタイトルをはめ込んで、ポスター原案を完成させた。その後、被告は、ポスター原案を原告会社に送付して、同社がこれに若干の修正を加え、最終的に本件ポスターを完成させた。 一方、原告Aは、本件ポスターの作成に当たって、従前と同様の指示を行い、とりわけ、同ポスター内の写真の配列や大きさ、奏者の体をどの範囲で載せるか(各写真のトリミングの範囲)に関して、被告に細かい指示を出した。 被告は、前記第2、2(3)のとおり、完成した本件ポスターを、被告のホームページの平成23年9月12日付けトピックス欄に掲載した。 (6) 原告会社と被告は、前記第2、2(2)のとおり、平成23年10月26日、本件コンサートに係る業務委託契約(本件契約)を締結した。委託料は654万6750円(消費税込み)であった。本件コンサートは、同年11月5日、開催された。 (7) 被告は、毎年、被告の現況を記載したディスクロージャー誌(乙1ないし15)を発行しているところ、同雑誌上にコンサートの演奏風景を撮影した写真を掲載しており、原告会社も同事実を認識していた。 (8) 本件コンサートの写真撮影については、前記第2、2(4)のとおりの経過を経て、原告会社と被告間において、本件コンサート当日である平成23年11月5日、本件合意2が成立した。 同日、被告の社員であるC(平成23年4月以降は被告総合企画部情報課で勤務していた。)は、午前中から、カメラで、コンサート会場の様子を撮影しており、その際、Bが、原告Aを紹介した。 その後、B及びCは、原告Aの求めに応じて、「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」と題する書面(甲7)に署名した(本件合意2の成立)。 Cは、署名の前から、既にコンサート会場の様子を撮影していたが、その時点でカメラに挿入されていたSDカードを記録写真用SDカードとし、予備で持参していた別のSDカードを舞台写真用SDカードとすることにした。その後、Cは、開演時刻である同日午後3時頃、舞台写真用SDカードに入れ替えた上で、指示された撮影場所で演奏風景を撮影した。 Cは、本件コンサート終了後、写真データを確認しながら、半数以上の写真データを削除して、最終的に15枚の写真データを舞台写真用SDカードに残した。その後、Cは、原告Aに対し、カメラ画面で舞台写真用SDカードに記録された写真データ15枚を全て確認させ、その場で、原告Aに対し、舞台写真用SDカードを渡した。 (9) Bは、本件コンサートの終了直後頃から、原告Aに対し、本件雑誌用の写真を提供するよう依頼したが、原告Aは「少し待ってほしい」などと回答するだけで、写真を被告に送付しなかった。 その後、被告が、平成24年にはコンサートを開催しない旨決定し、これを原告会社に告げると、この頃から、原告Aは、被告の理事長との面会を繰り返し求めるようになり、理事長との面会ができない限り、本件雑誌用の写真を被告に送付しないとの態度を示していた。 そこで、被告では、やむを得ず、手持ちの本件写真(本件コンサートの演奏風景を撮影したもの)を本件雑誌に掲載することにした。 2 争点(1)(本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否)について (1) 原告会社は、原告会社・被告間で、平成19年以降、本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに、原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(本件合意1)と主張するところ、原告会社が主張する「内輪の催事」ないし「非公開」の意味は必ずしも明確ではないが、これらが、インターネット等で本件コンサート等の告知をしないという意味であると解してもなお、前記1認定事実からすれば、原告会社・被告間において、そのような内容の本件合意1が成立したとは認められない。 (2) この点に関し、原告会社は、被告が自ら、コンサートを非公開にする代わりに委託料を減額するよう求めてきたと主張するが、同事実を認めるに足りる証拠はない。そもそも、本件合意1は、平成19年以降の原告会社・被告間の契約書(甲1、28ないし31)にも一切記載されていない。また、本件において、コンサートを被告のホームページ上などで広告する主体は原告会社ではなく被告であるため、広告の有無によって原告会社の作業量に何ら変わりはないにもかかわらず、広告の有無に応じて原告会社への委託料が大幅に変動するということの合理性自体が理解し難い。むしろ、平成19年以降の本件コンサート等においては、ポスターやチラシ、プログラムを被告自身が作成することとし、出演者も国内の演奏家を中心とするなどして、費用を節約したことによって委託料の引下げが実現されたものと考えるのが自然である。 また、原告会社は、被告のホームページ上での記事掲載等が本件コンサートのスケジュール表(甲3の2ないし3)には記載されていない旨主張するが、同ホームページ上での記事掲載等が同スケジュール表に記載されていないからといって、それが直ちに禁止されていることにはならない。 このほか、原告会社は、被告も本件コンサート等を非公開とすることを認識していたとして、証拠(甲24、25、27、33ないし36、52)を多数提出する。これらのうち甲24、33、34及び36は被告が作成したものであり、甲24には「@コンサートのお客様/対象者 基本的に当金庫のお客様」「A募集方法 当金庫お客様に対し案内をして募集(公募及びチケットの販売はしない)」との記載が、甲33には「従来の『とよしんクラシックコンサート』は開催せず、形を変えて、…クラシックのコンサートを開催する方針となりました…」との記載が、甲34には「開催曜日・開催時間・入場料無料など、従来のクラシックコンサートから変更して開催したが、入場整理券を当金庫の営業店窓口で直接お客様の顔を見る形で配布することができ、来場者数も取引先を中心に従来と同等以上のお客様が来場された」との記載が、甲36には「対象者 当金庫の取引先」「募集方法 ポスター(165枚)、チラシ(8100枚)、入場整理券(1500枚)を各店に配布して、店頭、得意先係によりお客様へお知らせ」「招待券の配布方法 入場整理券を営業店にて希望者に配布」「募集以外の告知 東愛知新聞、東海日日新聞」との記載がある。 これらの記載からすれば、本件コンサート等の対象者は、基本的に被告の取引先とされ、被告が取引先以外の者を積極的に募集等することは想定されていなかったとはいえるが、コンサートを「非公開」とする旨や、ホームページ上で同コンサートを告知しないなどとの合意が存在したとは認められない上(かえって、甲36には「募集以外の告知 東愛知新聞、東海日日新聞」との記載もある。)、いずれにしても、被告がこれらの書面に記載された以外の方法を採ってはならないとか、上記方法に限定する代わりに原告会社への委託料を減額するといった趣旨を読み取ることは不可能であり、本件合意1が原告会社・被告間で成立したことを認めるに足りるものではない。 他方、甲25、27、35及び52は原告会社が作成したものであって、そのうち甲52は被告に交付されたものですらなく、また甲25(平成19年3月6日作成)には「非公開の催事、会場のイベントカレンダーにも載せない」、甲27(平成20年4月頃作成)には「原則インターネット上では告知しない」、甲35(平成20年5月1日作成)には「非公開のコンサート」との各記載があるが、それらより後に作成された原告会社・被告間の契約書(甲1、29ないし31)に本件合意1の内容が一切記載されていないことを考慮すると、原告会社が一方的に作成した書面に上記のような記載があるからといって、本件合意1の成立を認めるには到底足りない。 以上からすれば、本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とすることが原告会社・被告間で合意されたとか、「非公開」にすることが委託料減額の条件であったなどとは到底認められない。 (3) 以上のとおり、本件合意1が存在したとは認められないから、被告において同合意違反(債務不履行)はなく、また被告が原告会社を欺罔して委託料を減額させたなどとも認められないから、不法行為が成立することもない。したがって、原告会社の上記債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。 3 争点(2)(本件ポスターに係る著作権侵害の成否)について (1) 前記第2、2(3)のとおり、本件ポスターには、本件コンサートの開催日、時刻、場所、演奏者、曲目、入場方法、問合せ先などの情報が文字で記載されているほか、中央部には演奏者等の写真が大きく掲載されている。そして、このような本件ポスター全体の表現をみれば、たとえ同様の内容を含む表現であっても、その具体的表現には一定の選択の幅があるといえるから、本件ポスターを全体としてみると、創作的表現として著作物性が認められるというべきである。 (2) そして、前記1(5)のとおり、本件ポスターの制作過程は、被告の総合企画部次長であったBにおいて、平成23年に使用するチラシ(原告Aの指示を受けつつ被告が作成したもの)を前提に、印刷会社の担当者と打合せを行ってポスターのレイアウトを完成させ、そこに写真やサブタイトルをはめ込んで、ポスター原案を完成させ、その後、被告は、ポスター原案を原告会社に送付して、同社がこれに若干の修正を加え、最終的に本件ポスターを完成させた、というものである。このような経緯に鑑みれば、本件ポスターの作成に当たって、被告側従業員の創作的寄与があったと認められる。 一方で、本件ポスターの作成に当たっては、原告Aが、同ポスター内の写真の配列や大きさ、奏者の体をどの範囲で載せるか(各写真のトリミングの範囲)に関して細かい指示を出していること(甲12の1ないし4、甲49)等からすれば、本件ポスターの表現に関する原告Aの創作的寄与も認められる。 以上によれば、本件ポスターは、二人以上の者(被告側従業員と原告A)が共同して創作した著作物であり、著作権法2条1項12号所定の共同著作物に当たると認められる。 (3) そして、共同著作物の著作権等の共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ行使することができないが(著作権法65条2項)、各共有者は、正当な理由がない限り、上記合意の成立を妨げることができない(同条3項)ものである。 しかるところ、ポスターを自らのホームページ上に掲載することは、インターネットが広く普及した時代における通常の広告宣伝方法にすぎないから、被告が主催する本件コンサートに係る本件ポスターを被告自らのホームページ上に掲載することは、ごく一般的な事柄といえることに加え、本件ポスターの作成は、本来、原告会社への委託の対象になってもおらず、被告が自らポスターを作成することになっており、現に被告はポスター作成費用を印刷会社に支払っていて、原告Aがいわば自主的にこれに関与していたにすぎないこと(前記1(4)のとおり)を総合すれば、原告会社が著作権侵害を主張してこれを妨げることは、正当な理由を欠くものとして許されないというべきである(なお、そもそも、上記のとおり、本件ポスター制作に創作的寄与をしたと認められるのは、原告Aであって、原告会社ではないところ、原告会社への著作権の帰属原因事実の主張もないから、そのこと自体からも、原告会社の本件ポスターに係る著作権侵害に基づく請求は既に理由がない。)。 (4) 被告は、仮に本件ポスターの著作権者が原告会社であるとしても、被告は同ポスターの使用につき(黙示の)許諾を受けた旨主張する。 確かに、仮に本件ポスター(写真部分)の著作権が原告会社に帰属するとしても、本件において、原告会社は、平成23年11月1日頃には、既に被告のホームページ上での本件ポスターの掲載を認識し(訴状2頁参照)、本件写真の本件雑誌への掲載については平成24年12月時点で問題としていた(甲10、乙45)ものの、平成26年10月23日付け催告書(甲11の1)を被告に送付するまでは、被告による本件ポスターの掲載について特段問題にしていたとは認められない。また、平成19年以降は、ポスターの作成に関しては、本来、原告会社への委託の対象になってもおらず、被告が自らポスターを作成することになっており、現に被告はポスター作成費用を印刷会社に支払っていて、平成20年以降は、原告Aないし原告会社が、いわば自主的にこれらに関与していたにすぎない。 以上の事情に加え、ポスターを自らのホームページ上で掲載することは、インターネットが広く普及した時代における通常の広告宣伝方法にすぎないことも考慮すれば、原告会社は、原告Aが作成に関与した本件ポスターにつき、被告が通常の方法で使用することを当然許諾していたとみるべきである。 (5) なお、原告会社は、被告との間で、本件コンサートについて「内輪の催事」ないし「非公開」とする旨の本件合意1をしたと主張していることから、それ故に著作権法65条3項所定の正当な理由があるとか、本件ポスターのホームページ掲載について許諾するはずがないとの主張が予想される。 しかし、前記2のとおり、原告会社・被告間において本件合意1が存在したとは認められないから、上記のような主張があっても、その前提を欠くものとして失当である。 (6) 以上によれば、被告が本件ポスターに係る原告会社の著作権(公衆送信権)を侵害したものとはいえない。 4 争点(3)(本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否)について (1) 原告会社は、被告が本件コンサートの写真撮影や同写真の使用に関して本件合意2に定められた条件に従わずに本件写真を本件雑誌に掲載した点は上記合意に違反する上、原告会社の著作権をも侵害するものであると主張する。 (2)ア しかし、まず著作権侵害の主張について検討すると、本件写真を撮影した者を具体的に特定することはできないものの、少なくとも原告Aや原告会社の従業員が同写真を撮影した事実は認められないから、原告会社が本件写真の著作権を有するとは認められない。 この点に関し、原告会社は、本件合意2においてCが撮影した写真の著作権は原告会社に譲渡されたと主張する。しかし、撮影者の点を措いても、本件合意2において、「撮影者は、…舞台写真撮影専用のメモリーカードを原告会社に譲渡すること」とされるのみで、写真の著作権が原告会社に譲渡されることは定められていないから、原告会社が本件写真の著作権を譲り受けたとは認められない。 イ このほか、原告会社は、自らが用意した舞台は、それ自体に独自の芸術性が認められ、著作物性があるから、それを撮影した写真の著作物性を基礎付けるとも主張する。 しかし、コンサート会場の舞台上の演奏者や物の配置は、ある程度似通ったものにならざるを得ず、いかに原告会社が金屏風を用意し、コンサートの奏者の配置を考えたとしても、このような抽象的な配置自体に著作物性があるとはいえず、原告会社の上記主張は採用できない。 ウ 以上によれば、原告会社の本件写真に係る著作権侵害の主張は理由がない。 (3) 一方、債務不履行(合意違反)の主張については、被告が、本件合意2において定められた手順(本件雑誌に写真を掲載する際には、事前に原告会社への使用写真の通知と掲載原稿の内容通知をし、校正の了解を得た上で雑誌に掲載すること)を踏まなかったことは争いがなく、被告は本件合意2に違反したものである。 しかし、上記違反に至った理由は、前記1(9)のとおり、被告が、原告会社に対して、本件雑誌用の写真を提供するよう依頼したにもかかわらず、原告会社がこれに応じなかったためである。前記1(7)のとおり、本件コンサートの演奏風景を撮影した写真は、例年、ディスクロージャー誌(乙1ないし15)に掲載されており、原告会社もこのことを認識していたものであることに加えて、前記第2、2(4)のとおり、本件合意2においては「撮影した写真の使用は本件雑誌への掲載のみとする」旨の定めもあることからも明らかなように、本件合意2においては、被告からの本件雑誌掲載用写真の提供依頼について、原告会社が正当な理由もないのにこれに応じないというような事態は想定されていかったというべきである。 このように、被告は形式的には本件合意2に違反したものであるが、これは原告会社が同合意の想定しないような不合理な行動を採ったことを原因とするものであるから、そうであれば、原告会社が被告に対して、本件合意2違反に基づく損害賠償を求めることは、権利の濫用として許されないというべきである。 なお、この点につき、原告会社は、被告が無断で本件ポスターを被告のホームページ上に掲載したため不信感を抱き、写真を被告に提供しなかったと主張するが、被告が本件ポスターを被告のホームページに掲載したことに原告会社が主張するような法律上の問題がないことについては前記3のとおりであるから、上記掲載に原告会社が不信感を抱いたとしても、そのことは合理的とはいえず、上記説示を左右しない。 5 争点(4)(原告会社の損害額)について 前記2ないし4からすれば、被告は、原告会社に対し、損害賠償責任を一切負わないことになる。 6 争点(5)(原告Aの慰謝料請求の当否及び慰謝料額) (1) 原告Aは、平成23年秋以降被告に話合いを求めたが被告がこれに応じなかったこと(調停手続での対応を含む。)等に基づく慰謝料請求をするが、被告の平成23年秋以降の対応(調停手続での対応も含む。)等において何らかの違法行為があったことを認めるに足りる証拠はないから、同請求は理由がない。 また、原告Aは、本件ポスターの被告のホームページへの掲載に基づく慰謝料請求をするが、上記掲載に原告会社が主張するような法律上の問題がないことについては前記3のとおりであるから、同請求も理由がない。 このほか、原告Aは、被告の対応等による心労から原告Aの個人会社である原告会社の営業ができなくなったこと等に基づく慰謝料請求をするが、これまで説示したところから明らかなとおり、被告に何らかの違法行為があったと認めるに足りる証拠はないから、同請求も理由がない。 (2) 以上のとおり、原告Aの慰謝料請求は、いずれも理由がない。 7 結論 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 沖中康人 裁判官 矢口俊哉 裁判官 村井美喜子 |
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