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【事件名】朝日ネットへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成28年7月19日
 東京地裁 平成28年(ワ)第14508号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成28年6月21日)

判決
原告 株式会社ポニーキャニオン
原告 エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 尋木浩司
同 林幸平
同 塚本智康
同 吉田修一郎
同 前田哲男
同 福田祐実
被告 株式会社朝日ネット
同訴訟代理人弁護士 福本悟


主文
1 被告は、原告株式会社ポニーキャニオンに対し、平成27年8月13日10時12分30秒頃に「(省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
2 被告は、原告エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社に対し、平成27年8月13日10時33分3秒頃に「(省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、レコード会社である原告らが、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている被告に対し、氏名不詳者が原告らのレコードに収録された楽曲を複製した音楽ファイルを被告の提供するインターネット接続サービスを利用して自動公衆送信し得るようにした行為が原告らの送信可能化権の侵害に当たると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する上記送信可能化権侵害に係る発信者情報の開示を求める事案である。
 原告らの被告に対する発信者情報開示請求の当否に関する当事者の主張は次のとおりである。
1 原告らの主張
(1)ア 原告株式会社ポニーキャニオンは、実演家であるaikoが歌唱する楽曲「ひとりよがり」(以下「原告楽曲1」という。)を録音したレコード(以下「原告レコード1」という。)を製作の上、平成18年8月23日、「彼女」との名称の商業用12センチ音楽CD(商品番号:PCCA−02315)に収録して日本全国で発売した。
イ エイベックス・エンタテインメント株式会社は実演家である安室奈美恵が歌唱する楽曲「Hello」(以下「原告楽曲2」という。)を録音したレコード(以下「原告レコード2」という。)を製作し、エイベックス・マーケティング株式会社が平成19年6月27日に上記楽曲を「Play」との名称の商業用12センチ音楽CD(商品番号:AVCD−23343)に収録して日本全国で発売した。
 エイベックス・エンタテインメント株式会社は、平成26年7月1日に原告エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社(当時の商号はエイベックス・マーケティング株式会社)に吸収分割して、原告レコード2に係る送信可能化権を含む音楽事業に係る権利義務を承継させた。
(2) 氏名不詳者は、被告からインターネットプロトコル(IP)アドレス「(省略)」(以下「本件IPアドレス」という。)の割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換共有ソフトウェアであるGunutellaと互換性のあるソフトウェアを用いて、原告楽曲1をmp3方式により圧縮して複製したファイルを平成27年8月13日午前10時12分30秒頃に、インターネットに接続している不特定の他の上記ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いた。
(3) 氏名不詳者は、被告から本件IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換共有ソフトウェアであるGunutellaと互換性のあるソフトウェアを用いて、原告楽曲2を同方式により圧縮して複製したファイルを同日午前10時33分3秒頃に、インターネットに接続している不特定の他の上記ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いた。
(4) 被告は上記(2)及び(3)の各氏名不詳者(以下「本件各利用者」という。)に対してインターネット接続サービスを提供していたから、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
(5) 被告は、上記送信可能化権侵害に係る本件各利用者についての氏名、住所及び電子メールアドレスの各情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。
(6) 原告らは本件各利用者に対し原告レコード1及び2に係る送信可能化権侵害に基づく損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ、本件各利用者の氏名、住所等が不明であり、これらの請求を行うことが実際上困難であるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(7) よって、原告らは、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める。
2 被告の主張
 原告らの主張(1)は不知、同(2)及び(3)のうち原告らが主張する日時において本件IPアドレスを用いて被告の提供する接続サービスを通じてインターネットが利用されたことは認め、その余は不知、同(4)及び(5)は認め、同(6)は不知。
第3 当裁判所の判断
1 プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求の当否について
(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、前記第2の1の原告らの主張(1)ア(甲3の1)及びイ(甲3の2、9〜11)、同(2)(甲2の1、3の1、8)並びに同(3)(甲2の2、3の2、8)の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件各利用者が原告楽曲1及び2に係るファイルについてインターネット回線を経由して不特定多数の者に自動的に送信し得る状態に置いた行為は原告レコード1及び2の送信可能化に当たるものと認められる。また、本件の関係各証拠上、原告レコード1及び2に係る送信可能化権(著作権法96条の2)の制限事由が存在することはうかがわれないから、本件各利用者が原告らの送信可能化権を侵害したことは明らかである。
(2) そうすると、原告らは本件各利用者に対して送信可能化権侵害を理由として損害賠償請求権等を行使することができることになるところ、原告らが本件各利用者の氏名や住所等を知り得ることは困難であると考えられるから、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(前記第2の1(6))があるというべきである。
 そして、被告は本件発信者情報を保有し、プロバイダ責任制限法4条1項の開示関係役務提供者に当たるから(当事者間に争いがない。前記第2の1(4)及び(5))、原告らは被告に対して同項に基づいて原告らの送信可能化権侵害に係る本件発信者情報の開示を求めることができる。
2 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 長谷川浩二
 裁判官 萩原孝基
 裁判官 中嶋邦人
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