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【事件名】通販管理システムの利用契約事件
【年月日】平成28年9月29日
 東京地裁 平成27年(ワ)第5619号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成28年8月16日)

判決
原告 株式会社カーネルコンセプト
同訴訟代理人弁護士 森田辰彦
同 生田晃生
被告 ナチュラルメディスン株式会社
同訴訟代理人弁護士 伊藤雅浩
同 高瀬亜富
同訴訟復代理人弁護士 山本真祐子


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、1896万4000円及びこれに対する平成27年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、通販管理システムの作成を被告から委託されて、同システムを機能させるためのコンピュータプログラムを作成し、被告に利用させていたところ、被告が利用契約の終了後も、上記プログラムを違法に複製し上記システムの利用を継続している旨主張して、被告に対し、上記プログラムの著作権(複製権)侵害に基づき、損害賠償金1896万4000円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成27年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、コンピュータシステム、コンピュータソフトウェアの開発、製造、販売等を業とする株式会社である。
イ 被告は、世界75か国以上において医薬品の承認を受けているイチョウの葉抽出物を原料としたサプリメントの製造、流通、販売等を業とする株式会社である。
 なお、被告は、イチョウの葉の抽出物を原材料とした「ナチュラルメディスンギンコ」という商品(以下「本件商品」という。)を登録会員向けに販売しており、新規の登録会員は既存の登録会員の下位の会員として増えていく親子ネットワークのシステムを採用している。そして、登録会員は、下位の登録会員の購入実績等に応じてランク付けされ、それに応じてボーナスが支払われる。
(2) 原被告間における利用契約の締結、更新及び終了
ア 原告と被告は、平成20年5月1日、「通販管理システム利用の覚書」(甲1。以下「本件覚書」という。)を取り交わした(これにより原被告間で締結された契約を「本件契約」という。)。本件覚書には、以下の定めがある。
(ア) システムの範囲(1項)
 別紙、通販管理システム仕様書(以下「仕様書」と言う)に記載された項目、およびポイント計算・ボーナス計算。(一般人が閲覧するホームページは範囲に属さない)
(イ) システム利用開始後のメンテナンス範囲(3項)
 仕様書記載内容の微細な修正。ポイント計算・ボーナス計算の微細な修正。(仕様の追加と考えられる内容は、別途開発費用が発生する場合がある)
(ウ) システム利用料金の内訳(6項)
 登録会員1名につき300円を毎月被告が原告に支払うものとする。但し、金額の見直しを1年ごとに行う。(以下略)
(エ) システムの所有権は原告に属するものとする。(7項)
(オ) システムの利用中に発生するデータは被告に属するものとする。(8項)
(カ) 日常のデータ入力や作業等は被告が行うものとする。(9項)
イ 本件契約は、平成21年10月23日付け「通販管理システム継続利用に関する覚書」(甲2)により更新された。上記覚書には、以下の定めがある。
(ア) 「利用期間」(1項)
 利用期間は2年単位とする。最初の2年間は、平成21年11月1日から平成23年10月31日までとする。(以下略)
(イ) 「以降 継続利用するための条件の確認」(2項)
 継続利用するための機能上の改善や利用上の制約があれば、利用期間満了の3ヶ月前までに文書で両者要望を上げ実施可能か、スケジュールも含め検討する。設定利用料金の範囲内で実施ができない時には原告は被告に見積書を提示し、有償で実施する。(以下略)
(ウ) 「以降の利用発注」(3項)
 上記継続利用の条件を両者検討の結果、継続利用更新の意志がない場合は、その旨を利用期間満了の1ヶ月前までに互いに文書で伝えるものとする。利用期間満了の1ヶ月前までに当該文書の提示がない場合は更に単位利用期間の継続利用を自動更新する。(以下略)
(エ) 「利用期間中の機能追加」(4項)
 利用期間前に取り決めた機能改善以外に発生した追加機能で利用期間内に対応が必要なものは個別対応で有償とする。ただし、軽微な修正や改善については無償で行う。
(オ) 「システム利用料金の計算の変更」(6項)
 毎月の通販管理システムの利用料金は、販売個数1個につき300円(消費税は別途)と(中略)する。
ウ 被告は、平成20年11月頃以降、本件契約に基づき原告が作成したシステム(以下「本件システム」といい、それを機能させるためのプログラムを「本件プログラム」という。)を利用していた。
エ 被告は、平成25年7月31日付け文書をもって、同年11月1日以降、契約の更新をする意思がない旨を原告に通告し(甲3)、これにより、同年10月31日をもって、原被告間の本件契約は終了した。
(3) 被告・有限会社ライオンハート間における契約締結
 被告は、平成23年1月頃、有限会社ライオンハート(以下「ライオンハート」という。同社は、現在は「株式会社ライオンハート」に組織変更した。)に対し、被告のサイトのリニューアルやデザイン・システムの制作を委託し、この頃、ライオンハートに対して委託料130万円を支払った(乙15)。
(4) 被告の新規被告の新規会員登録に関するホームページ
 当初、被告が営む連鎖販売取引に係る会員登録は、書類を用いる方式で行われており、オンラインでの会員登録は行われていなかったが、平成23年1ないし2月頃、オンラインで会員登録を行うシステムの開発が開始された。
 被告の新規会員登録に関するホームページ(平成27年11月頃までのもの)においては、「新規会員登録」(乙7の1)、「登録申請時確認テスト」(乙7の2)、「登録申請時確認テスト解説」(乙7の3)、「基礎情報登録」(乙7の4)、「基礎情報登録の確認」(乙7の5)の順に画面が遷移し(以下、これらの画面を「本件画面」と総称する。)、これらの画面に対応する構成を記述したHTMLが甲6の1ないし5記載のもの(以下「本件HTML」と総称する。)である。
 なお、HTMLとは、ウェブページの画面を記述するためのプログラム言語であるが、同言語で記述されたプログラムもHTMLと呼ばれている(以下では、上記言語を「HTML(言語)」といい、同言語により記載されたプログラムを単に「HTML」という。)。
2 争点
(1) 本件プログラムの著作物性及び著作者
(2) 被告による本件プログラムの著作権(複製権)侵害の有無
(3) 原告の損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1) (本件プログラムの著作物性及び著作者)について
ア 原告の主張
(ア) 本件プログラムは、電子計算機を機能させて一定の結果を得ることを目的として作成されたものであるから、著作権法2条1項10号の2、10条1項9号の著作物に該当する。
 本件HTMLは、本件プログラムの一部である。原告は、本件プログラムのうち本件HTMLの著作権侵害についてのみ具体的に主張立証する。
 もっとも、原告は、被告が営む連鎖販売取引の複雑な仕組みを理解して、その会員の報酬等を管理する制御プログラム(本件プログラム)を作成したのであり、本件HTMLもその一環である。したがって、本件HTMLのみを単独で取り上げてその創作性について評価の対象とすべきではない。
(イ) 本件プログラムは、平成20年10月頃、原告の発意に基づき、原告が自社の業務に従事する従業員を使用して、これを作成したものであるから、著作権法15条2項に基づき、本件プログラムの著作者は原告である。
 なお、被告指摘に係る株式会社ビッズアイの以前開発したシステムは、使用継続が困難なものであったため、原告が新たなシステムを作り直したものである。
(ウ) 本件HTMLを作成したのは、原告の従業員であるA(以下「A」という。)である。具体的には、原告は、会員登録用のページを作成するに当たり、ライオンハートが作成する一般向けのホームページとデザインを統一する必要があったため、ライオンハートのB(以下「B」という。)から画像や文字制御用コードを送付してもらったが、Aは、Bから送付されたデータを参照しながら、本件HTMLの全部を、自らキーボードをたたいて作成した。
 甲19(本件画面と本件HTMLのファイルを対比したもの)の表の左側の本件画面のうち青枠で囲った部分が、Aが考案した部分であり、青枠で囲っていない部分は、Aが、ライオンハートの作成した一般向けのホームページのデザインに合わせて作成した部分である。また、表の右側のHTML自体は全部Aが作成したものであるが、このうち、Aの考案した部分に対応する部分のみを青枠で囲っている。このように、甲19の左側の本件画面のうち、青枠で囲った部分のデザイン、すなわち、文字の太さ、大きさ、配列、背景色等はAが考案したものであり、それに基づいてAが本件HTMLを作成したのであるから、この部分には創作性が認められる。
 また、甲25(ライオンハートのBから送付されたHTMLとAが作成したHTMLとを対比したもの)のうち、1頁目がBから送付されたHTMLであり、2ないし4頁目はAが作成したものである。甲25において青枠で囲った部分は、誰が作成しても同じになる部分や、デザインの統一のために同じにした部分であるが、その他の部分はAの創作に係る部分である。
(エ) 本件プログラムのユーザーである被告が、画面に表示する文章自体を指定するのは当然であり、同事実は、本件プログラムの著作権の帰属とは関係がない。確かに、原告は、コンテンツの概要については、クライアントである被告の指示に従ったが、具体的な表現、すなわち字体、字の大きさ、レイアウト、細かい表現については、専ら原告のAが考案したものである。コンテンツの概要について、システムの開発者がクライアントの要望を忠実に反映させるべきは当然であり、それをもって原告の創作性を否定することはできない。
(オ) 単なるホームページはHTMLのみでできるが、オンラインで会員登録をするシステムは、データベースとの情報のやり取りのあるシステムである。会員登録しようとする者が自分の情報をデータベースに書き込むためには制御用のプログラムが必要であり、原告は、その制御用のプログラムをphpで開発したものである。
 このように、本件HTMLは、phpプログラム(本件HTML等を制御するプログラム)と連動するものであり、phpプログラムは原告の創作物であるから、本件HTMLには当然に原告の創作性が認められる。
(カ) なお、会員登録に関わる本件HTMLは、正に被告が営む連鎖販売取引に参加しようとする者が、オンラインで会員登録するためのものであり、単に広く一般公衆に被告とその商品を宣伝する媒体とは本質的に異なるから、本件覚書によって原告の開発範囲から除外された「一般人が閲覧するホームページ」には該当しない。
 原告とライオンハートとの間では、原告が被告の営む連鎖販売取引に参加する会員管理のためのシステムを作成し、ライオンハートは一般向けのホームページを作成する、という明確な役割分担がされている。そもそも、ライオンハートは、ホームページの作成を業としており、本件プログラムのごとき複雑な会員登録に関するプログラムを作成するのは原告の役割である。
イ 被告の主張
(ア) 原告は、本件プログラムの著作物性を十分に主張していない。また、本件HTMLの創作性は、「画面」を表示するためのプログラムの記述について論じられるべきところ、原告は、この点について何も主張していない。
(イ) 著作者とは、著作物の創作性ある表現部分の創作行為を行った者をいうところ、原告は、本件プログラムの創作的表現について十分な主張を行っていないし、原告(の従業員)が本件HTMLの創作性ある表現部分の創作行為を行ったことを何ら主張していない。なお、原告は、株式会社ビッズアイが開発したシステムに手を加えて、HTMLを除く本件システムを開発したにすぎない。
(ウ) 本件HTMLは、被告の通販管理システムにおいて新規会員登録をする際のページを表示するためのものであるところ、どのような者について会員登録を認めるかは被告が決すべきことであるから、本件HTMLのうち日本語表現(コンテンツ部分)について、被告の思想又は感情を表現することによって作成するのは当然である。
 そして、本件HTMLは、被告が作成した文章、並びに被告及びライオンハートが共同して作成した画面デザインを、ライオンハートがコンピュータのブラウザで表示できる形式に変換することにより作成されたにすぎない。
 すなわち、被告は、被告システムのうち画面のデザインについてはライオンハートへ別途その作成を委託しており、その際、被告は、ライオンハートに画面に表示すべき文章を提供するとともに、ライオンハートと適宜協議を行いながら画面のデザインを作成した。そして、原告は、ライオンハートから画面のデザイン及びこれをウェブサーバで表示するためにHTMLに変換したものの提供を受けて、これを本件システムの中に組み込んだ。
 したがって、仮に本件HTMLがプログラムの著作物に該当するとしても、原告はその著作者ではない。
(エ) 仮に、Aが実際にキーボードを打ち込んで本件HTMLを作成していたとしても、被告やライオンハートが作成した画面デザインに基づき、当該画面デザインとほぼ一対一で対応する(画面デザインが決まればほぼ自動的にその内容が決まる)HTMLを作成したにすぎない。
 このように、予めデザインされた画面を表示させるというHTMLプログラムの性質上、その表現の選択の幅は極めて狭く、制作者の個性が発揮される余地はほとんどない。
 本件HTMLは、プログラムの作成者が内容の決定に関知しないコンテンツ(テキスト等)と、画面のデザイン・構造が決まればほぼ一義的に定まるタグの集合であるから、いずれにしろ、本件HTMLの著作者は原告ではない。
(オ) 原告は、本件HTMLが、原告の創作したphpプログラムと連動するものであるから、創作性が認められると主張するが、本件HTMLの創作性は、本件HTML中の表現に作成者の個性が表れているか否かにより判断されるべきであり、本件HTMLとは動作する環境も機能も文法も異なり、全く別個のプログラムであるphpプログラムをもって本件HTMLの創作性を判断することはできない。
(カ) 本件HTMLは会員登録ページを表示するためのものであり、会員登録していない一般のインターネット利用者が閲覧するページに関するものであるから、本件覚書によって原告の開発範囲から除外された「一般人が閲覧するホームページ」に関するプログラムに当たる。
 このような除外がされたのは、本件HTML等の被告ウェブサイトの訪問者が目にする画面のHTMLについては、被告及びライオンハートが作成することとされていたためである。
 実際に、被告は、ライオンハートに対し、被告ウェブサイトの開発を委託したが、単にデザインの作成のみならず、HTMLの作成が作業範囲とされていた(乙15における「システム制作費」との記載参照)。
(2) 争点(2)(被告による本件プログラムの著作権(複製権)侵害の有無)について
ア 原告の主張
(ア) 被告は、平成25年10月31日をもって本件契約が終了したにもかかわらず、同年11月1日以降、本件プログラムを不正に複製し、本件プログラムの利用を継続している。
 甲6と甲7を比較すれば、被告が現在使用しているプログラムが本件プログラムと同一であることは明らかである。
 このほか、被告の元取締役であるCが、被告の代表取締役の指示に基づいて、本件プログラムの削除前にこれを不正に複製し、それを解読した上で新たなシステムを作成した旨、平成25年11月1日以降、システムの一部は、原告作成に係る本件プログラムの複製物をそのまま使っている旨を認める書面(甲9)を作成し、原告に交付した。以上からすれば、被告が、本件プログラムを不正に複製し、現在まで使用していることは明らかである。
(イ) 被告は、本件プログラムの所有者ではないので、著作権法47条の3第1項の適用はない。また、本件契約における「日常のデータ入力や作業等」を被告が行う旨の規定は、被告による複製を許容するものではない。そもそも、日常のデータ入力と作業等のためにバックアップを取る必要性は全くない。
イ 被告の主張
(ア) 被告は、本件プログラムを違法に複製していない。なお、被告は、本件契約終了後は、本件プログラムを使用していない。
(イ) 仮に、被告による本件プログラムの複製行為があったとしても、これは、原被告間での本件契約(甲1、2)の有効期間中に、バックアップ目的で行われたものである。同契約上も、被告が「日常のデータ入力や作業等」を行うものと規定され(同契約9項)、被告が本件システムのバックアップを作成することは当然に予定されていた。このように、被告による上記複製は、同契約及び著作権法47条の3第1項によって許容された範囲で行われたものであるため、複製権侵害とはならない。
(3) 争点(3)(原告の損害額)について
ア 原告の主張
(ア) 本件契約によれば、本件システムの利用料金は販売個数1個当たり月額300円(消費税は別途)とされており、平成25年11月以降の被告の販売個数は毎月4000個以上であるから、被告による本件プログラムの使用につき、著作権法114条3項により原告が受けるべき金銭の額は、月額300円に4000を乗じた額に消費税額を加算した額となり、具体的には、平成25年11月分から平成26年3月分までが月額126万円(合計630万円)であり、平成26年4月分から同年12月分までが月額129万6000円(合計1166万4000円)であり、上記合計額は1796万4000円である。
(イ) 原告は、被告の著作権侵害行為によって、本訴提起を余儀なくされ、弁護士費用として100万円相当額の損害を被った。
(ウ) 以上の原告の損害を合計すると1896万4000円となる。
イ 被告の主張
 いずれも争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件プログラムの著作物性及び著作者)について
(1) 各当事者の主張の骨子
 原告は、本件プログラムのうち本件HTMLの著作権侵害についてのみ具体的に主張するとしているところ、本件HTMLについては、原告は、被告から本件HTMLの制作を委託されて、原告の担当者であるAが創作性を発揮して本件HTMLを制作したと主張する一方、被告は、そもそも原告に対して本件HTMLの制作を委託してはおらず、被告ないしライオンハートが本件HTMLを制作したものであるが、仮にAが同HTMLに対応する言語を入力したとしても、同作業に創作性はないと主張する。
(2) 本件HTML制作に際しての原告の役割
 前記第2、1(前提事実)(3)(4)のとおり、平成23年1ないし2月頃、オンラインで被告が営む連鎖販売取引に係る会員登録を行うシステムの開発が開始されると共に、同年1月頃、被告はライオンハートに対し、被告のサイトのリニューアルやデザイン・システムの制作を委託したものである。
 そして、証拠(甲14の1ないし9、15の1ないし5、18、乙6の1及び2、25、28ないし34)によれば、原告担当者であるAが、平成23年2月頃以降、実際に本件HTMLの制作に関して、被告の担当者であるD(以下「D」という。)やライオンハートの担当者であるBと頻繁に連絡をとって、被告ホームページにおける新規会員登録の画面(本件画面)に関する作業等を行っていたことが認められ、また、証拠(甲20、乙17)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、本件画面の裏側で働くphpプログラム(本件HTML等を制御するプログラム)を制作したことが認められるから、以上の事実によれば、被告は、更新後の覚書(甲2)4項所定の「利用期間中の機能追加」として、phpプログラムの制作のほか、これに付随して、本件HTMLの制作に関する作業の少なくとも一部を原告に委託したものと認められる。
 しかしながら、被告の新規会員登録に関するホームページにおける記載内容は、被告の事業運営の一環として当然に被告が自ら決定したものと認められるし、そこにおける文字の大きさ、配列や図柄などについても、証拠(乙6の1及び2、17、28ないし34)によれば、被告従業員のDがAに対して、本件画面に記載すべき文章の内容や文字の大きさ、配列等について細かく指示していたこと、ライオンハートが原告に対してデザインのデータ等をメールで送信していたことが認められる。
 そうすると、本件HTML制作に際しての原告(従業員A)の役割は、基本的に、被告に指示されたとおりの内容・形式で、かつライオンハートから送信されたデザイン等を用いて、本件HTMLを制作することであったと認められる。
(3) Aの作業内容
ア 証拠(乙18ないし24)によれば、HTML(言語)に関しては、教科書や辞典(乙19ないし20、22ないし24)が多数存在し、多くの約束ごとが定められていること、HTML(言語)は、プログラミング言語ではあるが、集計・演算等の処理をするためのものではなく、ブラウザの表示、装飾をするための言語であり、ウェブ画面のレイアウトと記載内容が定まっているときは、HTMLの表現もほぼ同様となり、誰が作成しても似たようなものになることが認められる。
イ それにもかかわらず、本件において、原告は、甲19の表の右側(本件HTML)のうち青色で囲った部分はAが創作性を発揮して制作した部分であると主張した後、主張を若干変遷させて、甲25の2ないし4頁において青枠部分を除いた部分が、Aが創作性を発揮した部分である旨主張したものの、いずれにしても、以上のような抽象的な主張をするにとどまり、本件HTMLにおいて、誰が作成しても同様の表現になるとはいえない程度に創作性のある表現(表現者の個性が何らかの形で表れている部分)があるかについて個別具体的な主張立証をしていない。
ウ かえって、本件HTMLの具体的表現をみると、HTML(言語)を用いて具体的な画面を制作する際の決まりに従って定型的に制作された表現が多く含まれていることが認められる。
 すなわち、証拠(乙18ないし24)によれば、HTML(言語)を用いて具体的な画面を制作するに際しては、@文書の先頭にDOCTYPE宣言(XHTMLにおいてはXML宣言)を配置し、2行目以降は、「タグ」といわれるマーク(文章のレイアウトや装飾を決定するもの)を用いて要素を書き込むこと、A2行目以降の構造としては、html要素という一番大きな要素の中にhead要素とbody要素があり、それぞれの中にWebページの内容となる要素が入ること、B「表」にはtable要素を使用し、その基本的な構造は、<table>〜</table>の中にtr要素で横一行を定義し、さらにその中にth要素で見出しセルを、td要素でデータセルをそれぞれ定義すること、C改行の際には<br>というタグを用い、文字を太字にするには<b>というタグを用い、表を文書中の左、右、中央のいずれに配置するかを指定する際には<align>タグを用い、ページのタイトルを定める際には<title>というタグを用いること、D文書を他の外部リソースと関連付ける際には<link>タグを用い、リンク先のURLを指定するためには<href>タグを用い、1つ上のフォルダ階層を示すには<..>を用いること、E<div>と<div>に囲まれた部分(区画)が何らかのデザインやレイアウトを示し、<div>に続く表示で、特定の区画に名前を付けることができること、Fborderで枠線の幅、widthで表の幅を指定すること、といった多くの決まりがあるところ、本件HTMLの具体的表現も、これらの決まりに従って定型的に制作されたものであることが認められる。
 以上の事情によれば、本件HTMLにつき、原告が、Aが制作したと主張する部分の多くは、他のプログラマーが作成してもほぼ同様の表現になるものというべきである。
エ このように、本件において、原告の従業員であるAが、本件HTML制作に一定程度関与した事実は認められるものの、基本的には、被告に指示されたとおりの内容・形式の文章を挿入し、かつライオンハートから送信されたデザイン等を利用した上で、ほぼ一義的に定まるタグを用いてHTMLを作成したにすぎないと認められ、それ以上に、Aがどのように創作性を発揮したかについては具体的主張もないし、そのような事実を認めるに足りる証拠もない。
 以上によれば、本件HTMLについて、原告の従業員であるAが創作的表現を作成したことを認めるに足りない。
(4) 原告の主張等について
ア 原告は、本件HTMLを制御するphpプログラムは原告の創作物であるから、同phpプログラムと一体をなす本件HTMLについても原告の創作性が認められる旨主張する。
 しかし、本件HTMLとphpプログラムとは別個のものであって、これらが一体をなすことを認めるに足りる証拠はない。そして、本件HTMLとは別個のプログラムであるphpプログラムをもって、本件HTMLの創作性の有無や、その著作者が誰であるかを判断することはできない。したがって、原告の上記主張は採用できない。
イ Aは、例えば「会員番号を入力すると、自動的に氏名が表示されます」との文章は開発者である自分しか書けない旨述べる(甲26)が、この文は、そもそも被告従業員のDからAへのメール(乙32)に記載されていた内容である。また、Aは、本件HTMLのヘッダーとフッターの部分を除き、会員登録に関する文章のデザインを行ったとも述べる(甲26)が、前述のとおり、証拠(甲14の1ないし9、甲16、乙6の1及び2、16、17)によれば、被告従業員のDがAに対して文章に関して細かい指示を出していたこと、ライオンハートが原告に対し、本件HTMLに係る画像等をメールで直送していたことが認められ、以上からすれば、Aが本件HTMLのデザインを行ったとは認められない。
ウ このほか、原告は、Aが本件HTMLを(創作的に)制作したことの根拠として、Aが作成したとする本件システムの仕様書(甲11、12)及び詳細設計書(甲13)を提出する。
 しかし、仕様書(甲11、12)については、いずれも平成20年5月に作成されたものであって、この当時、被告の新規会員登録は書類を用いて行われる方式であったため、上記仕様書には本件HTMLと関係する記載はない。このほか、詳細設計書(甲13)にも、新規会員登録に関する特段の記載はない。このように、これらの証拠は、Aが本件HTML制作において何らかの創作性を発揮したことを認めるに足りるものではない。
エ その他、原告がるる主張する点を考慮しても、Aが本件HTML制作において何らかの創作性を発揮したことを認めるに足りない。
(5) 小括
 以上のとおり、本件HTMLについて、原告の従業員であるAが創作的表現を作成したことを認めるに足りない。そして、原告は、本件プログラムのうち本件HTMLの著作権侵害についてのみ具体的に主張するとしているところ、本件プログラムについても、原告の従業員が創作的表現を作成したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、仮に、本件HTMLや本件プログラムの一部に創作的表現が含まれるとしても、原告が本件HTMLや本件プログラムの著作者であるとはいえない。
2 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 矢口俊哉
 裁判官 村井美喜子
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