裁判の記録 line
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2009年
(平成21年)
[1月〜6月]
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1月9日 廃墟写真の模倣事件
   東京地裁/提訴
 廃墟写真の草分けとして知られる丸田祥三さんが、同業の小林伸一郎さんを、廃墟を題材にした写真を模倣されたとして、5点の写真について、写真集の差止や損害賠償を求めて東京地裁に訴えを起こした。
 小林さんの写真には、同じ被写体を似た角度で撮影した写真があると主張。

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1月27日 商標“つつみのおひなっこや”侵害事件(2)
   知財高裁/判決・請求棄却
 被告商標「つつみのおひなっこや」について、原告が無効審判を請求したが、特許庁が請求不成立の審決をしたため、原告がその取消を求めて提訴した事案。
 差戻前一審裁判所(知財高裁)は、商標法4条1項十一号の他人の登録商標に類似する商標に該当するとして審決を取消す旨の判決をしたところ、最高裁(二小)は十一号に該当しないとして一審判決を破棄し、知財高裁に差戻した。本事件はその差戻し審である。
 知財高裁は、十一号以外の登録無効事由の存否を検討した。「つつみのおひなっこや」は、原告の愛称ないしは略称であるとする原告の主張に対し、「仙台市堤町で製造された土人形は、昭和初期以降は『堤人形』と呼称されたもので、……一般的に表した歴史的呼称として存在して来たに過ぎないものであり、この呼称が原告を表す略称として……使用されていたものとまでは認められない」等として同項八号該当性を否定し、他人の周知商標該当性や他人の登録商標の使用についてもこれを否定し、審決取消理由は失当であるとして、請求を棄却した。
判例全文
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1月27日 テレビ番組送信サービス事件(ロクラクU)(2)
   知財高裁/判決・取消、附帯控訴棄却(上告)
 「ロクラクU」と呼ばれる2台の機器を利用者に貸与し、1台を日本国内に録画・送信機器、もう一方を海外に受信機器として置いてインターネットで結び、日本のTV番組を海外で視聴できるサービスの運営会社「日本デジタル家電」(浜松市)のサービスは、TV局が持つ著作権を侵害していると、NHKと民放9社が提訴した事件で、一審の東京地裁判決で敗訴したサービス運営会社がこれを不服として控訴したものである。
 一審は、「親機ロクラクの設置場所を提供して管理支配することで、国外の利用者が格段に利用しやすい仕組みを構築し、いまだ、大多数の利用者の利用に係る親機ロクラクを、東京都内や静岡県内において管理支配しているものということができる」として、私的使用に当たらず、運営会社は、TV番組の複製行為を行っており、複製権、著作隣接権としての複製権を侵害しているとした。
 知財高裁は、「利用者が親子ロクラクを設置・管理し、番組を受信・録画し、これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為」であり、運営会社のサービスは「利用者の自由な意志に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境、条件を提供しているにすぎない」として、録画・送信サービスの差止めと損害賠償を命じた一審判決の、サービス会社の敗訴部分を取り消し、TV局側の付帯控訴請求を棄却した。
判例全文
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1月29日 類似ホームページ事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 原告は、「消費者金融ナビ」というホームページを管理、運営し、「Mobiledoor」の営業表示を用いているが、被告が原告ホームページと外観が全く同一のホームページ(本件ホームページ)を作成して、原告の周知の営業表示「Mobiledoor」を自己の営業表示として使用しており、不正競争防止法第2条1項一号の周知の「商品等表示」に当たるとして、使用の禁止、損害賠償などを求めて提訴した。
 知財高裁は、一般消費者の間で広く知れ渡っている営業表示とまでは言えないとして、周知性を否定した。また、被告は、本件ホームページの開設、運営の事実を否定しており、原告ドメイン名と一部一致するドメイン名の登録についても関与していないと主張しており、ドメイン名登録手続会社は登録者の身元の確認をしておらず、第三者によって、被告代表と同姓同名名義によって登録される可能性もあったなどとして、請求を棄却した。
判例全文
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1月29日 黒澤作品のDVD化事件(松竹作品)(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却、附帯控訴一部認容、一部棄却(上告)
 東京地裁の判決に対する控訴審判決。一審原告である映画会社「松竹」が黒澤明監督の劇場用映画「醜聞」(1950年公開)、「白痴」(1951年公開)2作品について、その著作権譲渡を受けているとして、廉価版DVDを海外において製造させ、輸入・販売しているコスモ・コーディネート(一審被告)を著作権を侵害するとして、複製、輸入、販売の差止めを求めた事件。
 一審は、黒澤は「本件映画作品の著作者の1人であり」、「黒澤は松竹に対して本件両作品の著作権を譲渡していたと推認できる」とし、旧著作権法の保護期間は著作者の死後38年の2036年12月31日であるとして、被告にDVD輸入・頒布の禁止、在庫品・録画原版の破棄を命じた。
 一審被告が一審判決を不服としての控訴。控訴審の争点は、本件両作品は旧著作権法6条にいう団体著作物かどうかという点と、一審原告に生じた損害額の2点であった。
 知財高裁は、「本件両作品が団体名義ないし法人名義で上映されたのであれば旧著作権法6条により30年間の保護期間に服し、一方、同作品が自然人の実名で上映されたのであれば旧著作権法3条により著作者の生存中及び死後30年間継続する」ことを前提に、両作品の冒頭部分には、「松竹映画」の表示、「脚本黒澤明、菊島隆三」「監督黒澤明」などと表示され、また、両作品のポスターの「監督黒澤明・脚本黒澤明・菊島隆三」などの表示があるところから、両作品は「社会一般の者としては、黒澤明が監督を務めた映画であると受け止め、『松竹映画』の部分はあくまでも製作者ないし配給元を表示したに過ぎないと認めるのが相当である」として、両映画の著作者は、自然人である黒澤明ほかの著作者名を表示した実名著作物であって、旧著作権法6条にいう団体著作物ではないと判断し、控訴請求を棄却した。
 付帯控訴による一審原告の損害賠償請求については、「一審被告には著作権侵害につき過失があることは明らか」であるとして、これを認めた。
判例全文
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1月30日 ネット掲示板の中傷事件(ラーメンチェーン)(刑)(2)
   東京高裁/判決・破棄自判(上告)
 ホームページに、ラーメンチェーン店を経営する企業がカルト集団と関係があるかのような書き込みをし、企業の名誉を傷つけたとして名誉毀損の罪に問われた事件の控訴審。
 東京高裁は、一審の東京地裁の無罪判決を破棄し、検察の求刑どおり罰金30万円の有罪判決を言い渡した。
 一審は、インターネット上の書き込みに関して、名誉毀損罪が成立するか否かを検討し、「ネットでは利用者が互いに反論できる上、情報の信頼性が低いため、従来の基準は当てはまらない」と指摘し、「真実でないと知りながら発信した場合か、インターネット個人利用者に要求される水準の事実確認を行わずに発信した場合に、名誉毀損罪が成立する」との新たな基準を示していたが、控訴審で東京高裁は、「名誉毀損の危険性はマスコミなど従来のメディアと異ならない」などとして、名誉毀損罪の成立を認めた。

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2月4日 貴乃花親方夫妻への名誉棄損事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 大相撲の故二子山親方の相続問題に関し、貴乃花親方夫妻が、二子山の相続財産を独占しようとしたなどとする『週刊新潮』の記事で、名誉を傷つけられたとして、貴乃花親方が新潮社、新潮社社長、『週刊新潮』編集長らに損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟で、東京地裁は、社長ら被告の過失を認定し、計375万円の損害賠償の支払いを命じた。
 今回の判決では、「出版社の代表取締役には、名誉毀損の権利侵害を防止する有効な体制を作っておく義務や責任がある」として社長の過失を認定し、「名誉毀損の権利侵害を防止するための体制を整備する義務は、『編集権の独立』と必ずしも対立しない」とした。

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2月9日 オバマ大統領の選挙ポスター事件
   米ニューヨーク州連邦地裁/提訴
 アメリカのオバマ大統領が、選挙キャンペーンに使ったポスターの肖像イラスト(シェパード・フェアリーの作品)が、作品の基になった写真(AP通信が撮影・配信)の著作権を侵害しているとの疑義が持たれている問題で、フェアリー氏は、9日、ポスターのイラストがAP通信の著作権を侵害していないとの確認を求める訴えをニューヨークの連邦地裁に起こした。
 フェアリー氏は、写真を基に創作したことは認めているが、その使用は「公正利用(フェアユース)」に当たるとしている。

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2月12日 刑事事件容疑者の実名報道事件(3)
   最高裁(一小)/決定・上告棄却
 中学生の少女にみだらな行為をしたとして、沖縄県青少年保護育成条例違反容疑で逮捕され、2007年11月に不起訴(起訴猶予)となった沖縄県の公立中学校の男性教諭が、逮捕時、実名報道したNHKと民放3社に対して名誉棄損による損害賠償を求めた裁判の上告審で、最高裁第一小法廷は、「上告できる理由に当たらない」として、上告を退ける決定をした。
 この裁判では、福岡高裁那覇支部は、一審判決を支持し、報道での実名の必要性を認めたが、一方、「逮捕後、不起訴にいたった経過を報道しない姿勢にも考えるべき点がある」と、報道のあり方に異例の付言をして注目された。

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2月19日 NPO法人の海外調査報告書無断転用事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 首都高速道路に勤務する原告Aは、海外レポート「フランスの運河を巡って」と題する紀行文を、季刊『道路と自然』に寄稿するとともに、それに補筆したもの(原告著作物)を自ら開設するインターネットホームページに公開している。
 被告東洋建設(株)の執行取締役副社長である被告Bは、環境の保全に関する事業を行うNPO法人被告リサイクルソリューションが主宰したフランスの運河を巡る研修調査に参加し、帰国後、研修調査報告書(被告著作物)を被告リサイクルソリューションに寄稿し、被告リサイクルソリューションはそれを自ら開設するホームページに公表した。
 原告Aは、被告らの行為は著作権(複製権、翻案権、譲渡権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たり、被告東洋建設は、被用者である被告Bに関して使用者責任を負うなどとして、複製、公衆送信の差止め、データの廃棄、謝罪文の掲載等を求めて提訴した。
 東京地裁は、被告の表現は、「原告著作物における表現の一部をそのまま引き移したが、語尾を伝聞形式に修正したり、一部を削って要約したものにすぎない」もので、「被告Bの行為は原告著作物に対する著作権(複製権又は翻案権)の侵害行為に当たる」と認定し、また、公衆送信に関しては被告リサイクルソリューションと被告Bは共同不法行為責任を負うなどとして損害賠償等々を命じた。また、被告リサイクルソリューションには、ホームページに謝罪文を30日間掲載することを命じたが、被告東洋建設に関しては、「紀行文」の作成、提出行為が被告東洋建設の業務と密接に関連するとは言い難いとして、使用者責任を認めなかった。
判例全文
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2月24日 「地下鉄路線案内図」の著作物性事件
   大阪地裁/判決・主意的請求棄却、予備的請求棄却
 原告Xは、小冊子「交通ガイド革命(交通ガイド自由自在システム)」と「大阪市地下鉄デジタルインフォメーションシステム(計画案)1997」(本件システム)の著作者として、被告の大阪市が作成した「大阪市営地下鉄路線案内図」は、上記原告の著作物に依拠しこれを模倣したもので、原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権)を侵害するとして、上記行為の差止を求めるとともに、著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づき、実施料相当額(著作権法114条3項)の支払いを求めて提訴した。
 判決は、原告が著作物だと主張する「全バス・鉄道路線の各路線に番号を付ける、全停車場に一定の関連性を持った独自記号を付けて停車場名と併用する方法(本システム)」自体はアイディアであって、著作権法の保護対象ではないとして著作物性を否定し、“著作権侵害と認められないとしても原告が考案したシステムは原告の知的財産であり、また、被告の行為は民法の不法行為に相当する”とする不当利得返還請求や慰謝料請求等の予備的請求については、「特許権や実用新案権等の知的財産権と離れて、不法行為法上法的保護に値するものとは言い難い」などとしてこれを退け、請求を棄却した。
判例全文
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2月24日 商標“おおたかの森”侵害事件B(2)
   知財高裁/判決・請求棄却
 ふるさと産品として「自然が美しい流山おおたかの森」と称する酒の製造販売を始めた会社が、特許庁に不使用を理由とする取消審判請求を行い、酒類の商品については登録取消の審決が行われた。「おおたかの森」を出願登録して環境ビジネスを企画していた研究者は、商標不使用の理由書を提出したが、その事情に正当性があるかが問われた事件。研究者は「ハワイ大学で博士号取得のための研究、論文執筆に努めた国外在住」を説いたが、商標法上の規定の根拠とはならないと、裁判所は研究者の審決取消請求を棄却した。
判例全文
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2月24日 商標“ELLE”侵害事件(ロックバンド)B(2)
   知財高裁/判決・請求認容
 ロックバンド「ELLEGARDEN(エルレガーデン)」が所属する会社が出願登録した商標に対して、雑誌『ELLE』をはじめ250種類ものライセンス商品を販売しているアシェット フィリパキ プレス ソシエテ アノニム社が取消審判請求を行い、特許庁はこれを認めていた。これを不服とした商標出願登録者である会社がその審決取消しを求めた事件。裁判所は、CDのバンド名表示とブランド商標との類似は認めたが、アシェット社業務の商品と混同を招くおそれはないとして、特許庁の審決判断を誤りとして取り消した。
判例全文
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2月26日 自動連結システムの著作権確認事件
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 原告セプロ(株)は、被告のJFEスチール(株)やJFE物流(株)に対し、被告JFEスチールが使用する装置に組み込まれたプログラム(本件プログラム)の著作権が原告に帰属することの確認、本件プログラムの使用料支払契約に基づく使用料ないし不当利得相当額の支払いを求めて提訴した。
 この裁判では、本件プログラムの著作物性、プログラム著作権承継の有無、使用料支払契約の成否、不当利得の成否等々が争われた。
 大阪地裁は、本件プログラムは全体として新規な表現であり、選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものであり、作成者の個性が表れているとして著作物性を認め、著作権の帰属については、昭和61年当時、プログラムは湯浅通信機の法人著作物であったが、少なくとも平成11年ころまでには原告に譲渡されており、著作権は原告が承継し原告に帰属するとしたが、金銭支払請求については、使用料支払契約の合意が確認できない等として、原告の請求を棄却した。
判例全文
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2月26日 キャノン元社員の“発明の対価”請求事件(2)
   知財高裁/判決・A事件控訴棄却、B事件変更
 キヤノン(原審被告)の元社員(原審原告)がレーザービームプリンターの製造技術の「ゴースト線を除去する走査光学系」の職務発明対価として、同社に10億円の支払いを求めて提訴した事件で、一審で3352万円の支払を命じられたキヤノンが控訴したが、知財高裁は、一審同様、対価を受け取る原告の権利を認めた上で、支払額を約6956万円に増額、変更した。
 この発明による特許で得た同社の利益を10億7000万円と算定、原審原告の元社員の発明による貢献度を一審の3%から6%に変更した。
判例全文
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2月27日 ニンテンドーDSソフトのコピー機(マジコン)事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 任天堂及びゲームソフトメーカー54社は、「ニンテンドーDS」用ソフトを不正コピーしてDS本体で使用することを可能にする「マジコン」の輸入販売業者5社に対して、「マジコン」の輸入販売は、「技術的制限手段を無効化するための専用機器等を販売する行為」にあたり、不正競争防止法2条1項十号の不正競争行為にあたるとして、被告装置の輸入・販売の差止め、在庫の廃棄を求めて提訴した。
 不競法2条1項十号は、「技術的制限手段」を回避するための機能「のみ」を有する装置の輸出入、販売等を不正競争行為と規定しており、原告仕組みはこの「技術的制限手段」にあたるか、「マジコン」の装置は技術的制限手段を無効化する機能「のみ」を有すると言えるかなどが争われた。
 東京地裁は、立法趣旨及び立法経緯に照らして、原告仕組みは「技術的制限手段」にあたるとし、同号の「のみ」とは、「必要最小限の規制という観点から……管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し、別の目的で製造され提供されている装置が偶然『妨げる機能』を有している場合を除外していると解釈できる」とし、被告装置は「のみ」の要件を満たしているとして、営業利益の侵害を認め、輸入販売の差止め、所持する装置の廃棄を命じた。
判例全文
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2月27日 復刻版歴史資料の編集著作権事件
   東京地裁/判決・第1事件請求棄却、第2事件請求一部認容、一部棄却
 被告・不二出版が出版した、公文書である歴史資料の復刻本に関わる不二出版の発言及びファックス送信が高麗書林の名誉及び信用を毀損したとして、原告・高麗書林(第二事件では被告。以下、原告高麗書林という)が被告・不二出版(第二事件の原告)と不二出版の代理人弁護士B(以下、被告らという)に対し、謝罪広告と損害賠償の支払いを求めた第一事件と、被告・不二出版が、原告高麗書林とA(高麗書林の代表取締役、退任後会長の名義、以下原告という)に対し、著作権侵害の不法行為に基づき損害賠償を求めた第二事件が併合されて審理された。
 第一事件は、被告らが弁護士会館で報道関係者に、韓国で無断複製された本件韓国書籍を日本国内に輸入し、日本国内の大学図書館などに販売した高麗書林の行為は著作権侵害行為である旨発言し、また、警視庁に告訴状を提出したことを記者会見に出席した報道各社に送信したことは、高麗書林の名誉及び信用を毀損したとして、被告らに謝罪広告と損害賠償の支払いを求めたもの。裁判所は、「本件発言及び本件ファックス送信は、公共の利害に関する事実であり、……摘示事実の重要な部分は真実であることの証明があったから、…不法行為法上違法であると認めることはできない。」と判断し、請求を棄却した。
 第二事件は、不二出版が出版し、韓国で無断複製された、(1)『特高警察関係資料集成』(編・解題者 荻野富士夫)等6タイトルの海賊版を輸入し、日本国内の大学図書館などに販売した原告・高麗書林の行為は著作権侵害行為であるとして、被告・不二出版が高麗書林に対し、損害賠償を求めた。
 判決は、原告らは、(1)『特高警察関係資料集成』の編集著作権と、6冊に付されている解説、解題等の著作権(各執筆者から出版社に譲渡されていると認定)を侵害したもの(113条1項二号)として、被告らに計144万円の損害賠償を命じた。
 なお、予備的に請求された「版面権」侵害について判決は、「他の出版社の版面をそのまま複写して出版物を製作する行為は、出版業に携わる者として道義にもとるものであることは明らかである。しかし、法はそのような場合でもこれを直ちに違法なものと評価しているわけではなく、著作権等の存在を前提に、かつ、一定の範囲の類型に限って違法であると明示的に規定しているものであり(著作権法113条参照)、著作権法で違法とされていない行為を一般不法行為により違法と判断することは、謙抑的にされるべきである。」と判示している。
判例全文
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2月27日 JASRAC「包括利用許諾契約」事件
   公正取引委員会/排除命令
 公正取引委員会は、テレビやラジオなどで放送される音楽の著作権使用料について、(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)と放送局の間で結ばれている「包括利用許諾契約」は、同業者の新規参入を拒んでいるとして、(社)日本音楽著作権協会に対し、独占禁止法に基づく排除命令を出した。

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3月3日 「恵庭OL殺人事件」の名誉毀損事件(3)
   最高裁(三小)/決定・上告棄却(確定)
 2003年3月、北海道恵庭市の路上で絞殺された上灯油で焼かれた苫小牧在住の女性会社員の遺体が発見された「恵庭OL殺人事件」。恋愛問題のもつれによる犯行として同僚の大越美菜子容疑者が逮捕され、懲役16年の実刑が確定した。服役中の大越美菜子受刑者が、月刊誌『新潮45』(2002年2月号)の「恵庭美人OL社内恋愛殺人事件」の記事とそれを再録した新潮文庫『殺ったのはおまえだ―修羅となりし者たち、宿命の9事件』の虚偽の記載で名誉を傷つけられたとして発行元の新潮社を名誉毀損で提訴した。
 一審は、大越美菜子容疑者が勤務先で窃盗や放火をしたなどと示唆した内容は、「警察や被害者にも取材しておらず、信じるに足りる相当な理由があったとは認められない」として、記載を残したままの増刷・販売の差し止め、慰謝料220万円の賠償を命じた。判決を不服とし新潮社が控訴。第二審(2007年10月18日)は、出版差止めを取り消し、賠償額を半分の110万円とした。今回、最高裁第三小法廷は原告、被告双方の上告を棄却する決定をした。これで、新潮社に110万円の賠償を命じた東京高裁判決が確定した。

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3月13日 貴乃花親方夫妻への名誉棄損事件(フライデー)
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴・変更、上告)
 講談社発行の写真週刊誌『フライデー』が、2005年に掲載した、貴乃花夫妻が父親の故二子山親方の財産を無断で処分したなどと報じた一連の記事で、また、新幹線車内で眠る貴乃花親方の写真を掲載したことで名誉を傷つけられたとして、貴乃花親方が講談社などに3750万円の賠償などを求めた訴訟で、東京地裁は、440万円の賠償と謝罪広告の掲載を命じた。判決は、「財産を処分しようとした証拠はなく、列車の座席で眠る行為は私生活上のもので、撮影を好まない状態は明らか」と指摘。名誉毀損を防ぐ対策を怠ったとする、社長に対する損害賠償請求は、「編集次長、編集長が原稿をチェックする体制をとっている」として、認めなかった。

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3月17日 3セク開発公社への名誉棄損事件(刑)
   札幌地裁/判決・有罪
 
判例全文
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3月25日 ロックバンド“BRAHMAN”の著作隣接権侵害事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 レコードに固定された演奏を行った「BRAHMAN」の名で音楽活動をしている4人の被控訴人(一審原告、以下原告)が、本件レコードを製造、販売している控訴人「(有)イレブンサーティエイト」(一審被告、以下被告)に対して、被告の同行為は、原告らが有している実演家の権利としての録音権、譲渡権(著作権法91条1項、95条の2第1項)を侵害するとして、本件レコードの製造、販売の差止めを求めたところ、原審は原告の請求を認容したので、被告が控訴した事案。
 争点は3つあり、争点(1)は、「原告らと被告との間で、原告らが本件レコードに対する実演家の著作隣接権を譲渡又は放棄することを内容とする合意が成立したか」であった。この争点について裁判所は、控訴審で提出された被告側の幾つかの陳述書、「原盤製作契約書」と題する書面等を精査し、本件レコードの著作隣接権を譲渡又は放棄する旨の合意が成立したと認める余地はなく、これを認定する証拠もないとした。争点(2)「著作権者の意向に反して、著作隣接権に基づく差止めは認められないか」については、「演奏したことにより有する演奏家の著作隣接権と著作したことにより有する著作権とは、それぞれ別個独立の権利であるから、演奏家の著作隣接権が、当該レコードに係る楽曲の著作権によって、制約を受けることはない」とした。また、争点(3)「権利濫用」についても被告主張を退け控訴を棄却した。
判例全文
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3月25日 総社市長への名誉毀損事件(読売新聞)
   岡山地裁倉敷支部/判決・請求棄却
 岡山県総社市の竹内洋二前市長が、市の発注工事の業者選定に介入した、と報じた『読売新聞』(平成19年4月17日付)の記事で名誉を毀損されたとして、読売新聞大阪本社に損害賠償を求めた訴訟で、岡山地裁倉敷支部は、請求を棄却した。当時の市議会の百条委員会が、市長の関与があったと結論付けていることなどから、記事の重要部分で真実性の証明があった、などが理由。

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3月26日 広告冊子のイラスト事件
   大阪地裁/判決・請求棄却(控訴)
 原告Xは、『独り暮らしをつくる100』と題する書籍の著者であり、本書の中のイラストを著作した。被告は、大和ハウスと、大和ハウスグループの一員である広告代理業、一般旅行業を営む伸和エージェンシーである。
 被告大和ハウスが被告の伸和エージェンシーに制作を依頼した冊子『マンション読本』等の中のイラストは、『独り暮らしをつくる100』に収められている原告の著作したイラスト等を複製又は翻案したもので、被告の行為は、原告の持つ複製権、翻案権、公衆送信権(送信可能化権)を侵害し、また、同一性保持権、氏名表示権を侵害すると主張して、被告イラストの使用、『マンション読本』の印刷、出版等々の差止、著作者人格権侵害等に基づき損害賠償の支払いを求めた事案である。
 この訴訟の最も重要な争点は、「被告各イラストは原告各イラストを複製し又は翻案したものであるか」であった。
 裁判所は、原告が依拠したと主張する被告のイラスト39点を個々に詳細に検討した結果、個々の被告各イラストは、個々の原告各イラストを複製又は翻案したものとは認められないと結論付け、原告の請求を棄却した。
 裁判所は、判決の結論で異例の付言をしている。「被告らの行為は、原告各イラストの著作権又は著作者人格権を侵害するものではなく、法的責任を負うものではない。しかし、被告らがイラスト作成を依頼したAにおいて原告イラストに依拠し、これを参考にして被告各イラストを作成したことは前示のとおりであり、被告各イラストが、一見すると原告各イラストによく似ているところがあることは否定できない。……被告らは原告に対し……道義上の責任を負うことは否定できない。……当裁判所としては、上記の事情にかんがみ、当事者双方において上訴審の審理の過程その他の適当な機会をとらえて、本件を適切に解決するよう努力されることを期待するものである。」
判例全文
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3月26日 大相撲「八百長疑惑」報道事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 大相撲の八百長疑惑を報じた講談社発行の『週刊現代』(2007年2月3日号以降3号)の「横綱朝青龍の八百長を告発する!」などと題する記事で名誉が傷つけられたとして、日本相撲協会と横綱朝青龍ら力士30名が発行元の講談社や記事を執筆したフリーライターらに6億1600万円の損害賠償を求めた裁判の判決があり、裁判所は、「記事が真実との証拠はない」として、日本相撲協会に660万円、朝青龍ら力士30名に総額3630万円の支払いと記事を取り消す広告の掲載を命じた。

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3月27日 公明党議員メモ持去り報道事件(2)
   東京高裁/判決・取消(上告)
 公明党の衆議院議員、参議院議員の3名が、矢野絢也・元公明党委員長の自宅から、矢野絢也氏のメモを持ち去ったと報じた講談社発行の『週刊現代』に2005年7月から8月にかけて掲載した記事で、名誉を傷つけられたとして、損害賠償を求めた裁判の控訴審で、東京高裁は、発行元の講談社などに計660万円の支払いを命じた一審判決を取り消し、3人の請求を棄却した。
 公明党議員らは、同日、上告した。

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3月27日 盗撮アダルトDVD事件
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 
判例全文
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3月30日 “催告書”のHP公開事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 原告は読売新聞西部本社法務室長の甲。原告が被告にメールで送った催告書(以下、本件催告書)を被告は自らのサイトに掲載したが、原告は自らの持つ公表権及び複製権の侵害であるとして、被告サイトからの削除を求めた事案である。
 原告が勤務する読売新聞西部本社は、「押し紙」に異を唱える訴外・同新聞販売店・丁と係争中(以下、丁訴訟)であったが、同訴訟の判決(福岡高裁、平成19年6月19日判決)で、読売新聞西部本社の販売政策が優越的地位利用の濫用として厳しく断罪されたことから、丁に対し、業務上の打ち合わせ等を意味する「訪店」を再開したい旨申し入れた。丁訴訟の丁の代理人丙弁護士は、読売新聞西部本社に訪店再開の真意を確認する書面を送ったところ、原告から回答書(以下、本件回答書)がFAXで送られてきた。
 フリージャーナリストで自らのサイトを主宰する被告・乙は、新聞社の「押し紙」問題を自らのサイトでも発信し、丁訴訟を追い続けていた。西部本社の「訪店再開」の方針は、丁訴訟の報道に重要な意味を持つ情報として被告は本件回答書を自らのサイトに全文掲載した。上記の経緯の中で、本件回答書の全文掲載という被告の報道方法に対し、原告は抗議として本催告書を電子メールに添付する形で送付した。
 原告が公表権を有しているというためには、原告が本催告書の作成者(著作者)であり、本催告書が著作物であり、未公表である必要がある。
 東京地裁は、原告甲の経歴、原告と原告代理人弁護士とのやり取り等を検討し、「その実質的な作成者は原告とは認められず、原告代理人の可能性が高い」として、原告が作成したことを否定した。
 また、「仮に、本件催告書を作成したのが原告である」としても、本催告書は、「事実を表現したもの」であり、「平凡な表現方法によっており」、「ありふれた表現であり」等々として創作的に表現されたものでないとして著作物性を否定し、請求を棄却した。
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3月31日 総務大臣の“要請放送”事件
   大阪地裁/判決・請求一部棄却、一部却下(控訴)
 
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4月8日 商標“ガールズウォーカー”侵害事件(2)
   知財高裁/判決・請求棄却
 「東京ウォーカー/Tokyo Walker」を始めとする雑誌、ムック、書籍など多数の出版物を有する角川メディアマネジメント(原告)は、「girls walker/ガールズウォーカー」と2段書きにした被告商標について「本件商標の登録を、指定商品中第16類『印刷物』について無効にする」とした審判請求が「請求不成立」との審決を得たために提訴した。
 「『情報を示す語』+『ウォーカー/Walker』の商標を使用した雑誌等は、『東京ウォーカー/Tokyo Walker』等を発行する角川グループの代表的識別表示」であり、取引者及び需要者にとって周知著名であるなどと主張したが、知財高裁は、「東京ウォーカー/Tokyo Walker」を始めとする、「都市名又は地域名+ウォーカー/Walker」という都市情報誌は全国で周知著名と認められるが、これら以外にも「ゲームウォーカー/Game Walker」「マンスリーウォーカー/MONTHLY WALKER」等々の情報誌を発行しており、平均発行部数、情報内容、対象読者層等はそれぞれ異なり、多種多様であって、「必ずしも統一的に理解されるものではなく……『○○+ウォーカー/Walker』との名称一般につき取引者又は需要者が原告又はその関連する会社が発行する雑誌に付される商標と考えたとは認めがたい」などとし、類否判断においても外観、称呼、観念に置いて非類似であり、出所混同のおそれはないなどとして、原告の取消請求を棄却した。
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4月8日 商標“ランキングウォーカー”侵害事件(2)
   知財高裁/判決・請求棄却
 
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4月8日 商標“ボーイズウォーカー”侵害事件(2)
   知財高裁/判決・請求棄却
 
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4月8日 商標“ミュージックウォーカー”侵害事件(2)
   知財高裁/判決・請求棄却
 
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4月8日 商標“ショッピングウォーカー”侵害事件(2)
   知財高裁/判決・請求棄却
 
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4月14日 「みのもんたの朝ズバッ!」プライバシー侵害事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 殺人事件現場からの生中継中に、たまたま現場近くで作業中だった清掃員の男性に対して、撮影を拒否したにもかかわらず、司会者の指示で強引にインタビューを行ったアナウンサーの行為は、男性の肖像及びプライバシー権の侵害だとして、男性が放送を行ったTBSと番組の司会者であるみのもんたに対して損害賠償を求めた事案。
 東京地裁は「何人も、みだりに他者からその容貌を撮影されたり、職業等の個人情報を公表されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益を有するというべきである。」とし、「原告が収集車の運転手をしていることを広く社会一般に報道して公開したものであるから(中略)、原告の肖像権を侵害しただけではなく、原告のプライバシーをも侵害したものというべきである。」として、男性の請求を一部認めた。
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4月15日 少年供述調書の流出事件(刑)
   奈良地裁/判決・有罪(控訴・控訴棄却、上告)
 奈良県の母子3人放火殺人事件を題材にした、草薙厚子さんの単行本『僕はパパを殺すことに決めた』(講談社刊)を巡って、自宅に放火した当時高校1年生の長男の精神鑑定を担当した精神科医・浜崎盛三被告が、供述調書を漏洩したとして、刑法の秘密漏示罪に問われた事件の判決があった。
 弁護側は (1)鑑定は治療目的がないので、秘密漏示罪の対象となる「医師」に当たらない、(2)長男に殺意がないことを明らかにするという「正当な理由」があったなどと、無罪を主張した。
 しかし、判決では、精神科医であることを前提に選任されており、法に定める「医師」であり、精神鑑定書や供述書などは、「業務上知りえた秘密」に当たるとして、懲役4ヶ月、執行猶予3年の判決を言い渡した。

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4月20日 「北海道警裏金疑惑」名誉棄損事件
   札幌地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 北海道警察の裏金疑惑を題材にした書籍『追求・北海道警「裏金」疑惑』(北海道新聞取材班著、講談社刊・講談社文庫)と『警察幹部を逮捕せよ! 泥沼の裏金作り』(北海道新聞取材班らの共著、旬報社刊)で名誉を傷つけられたとして、佐々木友善・北海道警察元総務部長が計600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が札幌地裁であった。
 判決は、原告が捏造と指摘した個所について真実と認めるには足りず、原告の社会的評価を低下させたとして、北海道新聞社と記者2人、発行元の講談社と旬報社に、計72万円の損害賠償の支払いを命じた。

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4月27日 黒澤作品のDVD化事件(大映作品)B
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 黒澤明が監督した劇場用映画「静かなる決闘」(1949年[昭和24]公表)、「羅生門」(1950年[昭和25]公表)[以上、本件映画]の著作権を有すると主張する原告・角川映画が、同映画を収録・複製したDVDを海外で製造し、輸入・販売した被告・コスモ・コーディネートに対し、被告の輸入行為は原告の著作権(複製権)を侵害する行為とみなされる(第113条1項一号)として損害賠償3760万円を請求した事案。
 主な争点は、(1)本件映画の著作者は誰で、著作権の存続期間はいつまでか、(2)原告は本件映画の著作権を有するか、であった。本件映画は旧著作権法下で公表されているので、旧法が適用される。旧著作権法は、映画の著作物の保護期間は、独創性の有無(22条の3後段)及び著作名義の実名(3条)、無名・変名(5条)、団体(6条)の別によって異なり、本件映画は独創性を有する著作物であるから、その保護期間は、著作名義が監督等の自然人の場合は、死後38年間(3条、52条1項)、団体の場合は公表後33年間(6条、52条3項)である。
 映画の著作物の保護期間は、1971年(昭和46)1月1日施行の新著作権法で公表後50年に、2004年(平成16年)1月1日施行の改正法で公表後70年に改正されたが、それぞれ、附則で改正時点で保護期間内にあり、かつ、旧著作権法の保護期間が長い場合は旧著作権法が適用される。
 本件映画の著作者に関しては、「監督・黒澤明」の実名表示があること等から、著作者は黒澤明であり、「大映映画製作」の表示があるからといって、旧著作権法6条に規定する団体名義の著作物ではないと認定した。従って、本件映画の保護期間は、黒澤明監督の死亡(1998年[平成10年])後38年の2036年12月31日となり、改正法の公表後70年の保護期間より長いため、旧著作権法が適用される。
 また、本件映画の著作権者は、著作者の黒澤明監督から製作した旧大映に譲渡され、旧大映倒産後は新大映等を経て角川映画が著作権を全部取得していると認定した。判決は、以上の理由によって、原告の請求を容認し、被告に72万円の損害賠償の支払いを命じた。
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4月27日 「アルゼ王国の闇」不競法違反事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 パチスロ遊技機メーカーのアルゼ(原告)は、競合関係にあるSNK(被告)とサミー(被告)が原告の営業上の信用を害する虚偽の内容を掲載した「アルゼ王国の闇 巨大アミューズメント事業の裏側」等4点の書籍を鹿砦社に出版させ、これを多数買い上げて、鹿砦社に全国のパチンコ店等に頒布させた行為は不正競争防止法に定める不正行為であるとして、損害賠償を求めた事件。
 出版行為に関して、本件の4点の書籍の出版行為の主体は鹿砦社で、被告らの行為は鹿砦社の出版行為を幇助したにすぎず、書籍の内容を提供したこと自体は不正競争行為とは認められない。
 また、幇助者は、法律上共同行為者とみなされるが、出版行為の主体である鹿砦社は原告との間に競争関係はなく、同社に不競法違反が成立しない以上、被告に共同不法行為は成立しないと判断した。
 また、頒布行為に関しても、被告らは、鹿砦社に対し、発送名簿を提供して発送先を指示したのであるから共同して行ったと認められるが、実際に頒布行為を行った鹿砦社に不競法違反を理由に不法行為は成立せず、被告らは、不競法違反にならない鹿砦社の行為を共同して行ったに過ぎないから、不競法違反を理由に共同不法行為は成立しないなどとして請求を棄却した。
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4月27日 「文藝春秋」の日本道路公団財務諸表事件B(3)
   最高裁(二小)/決定・上告棄却(確定)
 旧・道路公団の藤井治芳・元総裁が月刊『文藝春秋』(平成15年8月号)の「道路公団藤井総裁のうそと専横を暴く」と題する記事で名誉を傷つけられたとして損害賠償などを求めた訴訟の上告審で、最高裁第二小法廷は27日、元総裁の上告を退ける決定をした。
 これで、元総裁側敗訴の一、二審判決が確定した。

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4月28日 JASRAC「包括利用許諾契約」事件
   公正取引委員会/審判手続開始請求
 公正取引委員会は、2月27日、テレビやラジオなどで放送される音楽の著作権使用料について、(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)と放送局の間で結ばれている「包括利用許諾契約」は、同業者の新規参入を拒んでいるとして、JASRACに対し、独占禁止法に基づく排除措置命令を出した。
 JASRACは、この命令を不服とし、事実認定と法令適用の両面において誤っているとして、審判手続開始を請求した。

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4月30日 中国ドラマ「苦菜花」放送事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 中国法人の北京赤東文化伝播有限公司(原告)が著作権を有すると主張するTVドラマ「苦菜花」(本件ドラマ)を、被告で放送事業者の「亜太メディアジャパン」(以下、亜太)と「スカパーJSAT」に侵害されたとして、被告に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償と放送の差止を求めた事案。
 本件ドラマは、「北京華録百納影視有限公司」(以下、北京華録)と「世紀英雄電影投資有限公司」とで共同制作され、北京華録が単独で著作権を有していた。
 原告は、北京華録から著作権の譲渡を受けたと主張し、被告の亜太は、中国法人・湖南影視と「番組提携契約書」を交わし、放送権を取得していて、原告は北京華録から非独占的利用権の「譲渡」を受けたに過ぎないなどと主張した。
 主な争点は、(1)北京華録の原告に対する本件著作権の譲渡の有無、(2)被告・亜太が、原告主張の本件著作権の譲渡(移転)につき、登録による対抗要件が欠落していることを主張して、原告の請求を拒否できるか、(3)スカパーの過失責任等々であった。
 本件は中国法人の原告と日本法人の被告の争いであるが、中国はベルヌ条約加盟国であり、日本の著作権法の保護を受け、日本法が適用されることを前提に、(1)の北京華録の原告に対する本件著作権の譲渡の有無については、両者間の譲渡契約書を仔細に検討し、原告は北京華録が有する本件ドラマの日本における著作権の譲渡を受けたと認定した。また、(2)の対抗要件の欠缺の抗弁の成否については、湖南影視は「湖南地区」の放送権を得ていたに過ぎず、したがって、被告亜太は日本における放送権を有していないのであるから、原告は、本件著作権の登録なくして対抗できるとし、被告の著作権侵害を認めた。
 なお、スカパーに対する請求については、本件放送による著作権侵害について過失がなかったとして退けた。
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5月11日 音楽プロデューサーの著作権二重譲渡事件(刑)
   大阪地裁/判決・有罪(確定)
 2006年7月末、自ら作曲した楽曲806曲の著作権をすべて自ら保有していると装い、男性投資家に10億円で譲渡すると持ちかけ、翌月、前払い金として5億円を詐取したとして、大阪地裁は、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。
 5月25日、大阪地検は控訴しないことを決め、被告・弁護側も控訴期限の同日までに控訴せず、判決が確定した。
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5月15日 同志社大教授名誉毀損事件(週刊文春)(2)
   大阪高裁/判決・変更(上告)
 同志社大の浅野健一教授が、セクハラ行為をしたなどと、事実無根の記事を「週刊文春」(2005年11月24日号)に掲載され、名誉を毀損されたとして、発行元の文藝春秋と記者3名に1億1000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決。
 被告側に275万円の支払いを命じた一審判決を変更、真実と認められない記事の範囲を広げ、賠償額を550万円に増額した。

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5月28日 駒込大観音の頭部すげ替え事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 仏師一家の三男で原告の西山三郎氏は、亡父・西山如拙氏、亡長兄・西山如雲氏(長男)、次兄(二男)とともに、光源寺(東京文京区)に納めた木彫十一面観音菩薩立像(高さ3.63m、本件原観音像)を制作した共同著作者であると主張し、その仏頭部を無断ですげ替えられたことに対し、被告・光源寺と、仏頭を作り直した被告・岩淵俊享氏(亡父・西山如拙氏の弟子)を相手取り、“原告の著作者人格権(同一性保持権)及び著作権(展示権)の侵害又は原告の名誉若しくは声望を害する方法による著作物の利用行為(著作者人格権のみなし侵害)に当たり、かつ、亡父及び亡長兄・西山如雲が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為に当たる”旨主張し、原状回復、原状回復までの観覧の差止め、損害賠償や謝罪広告を求めた事案である。
 浄土宗・光源寺には、江戸時代から「駒込大観音」として知られる十一面観音菩薩立像があったが、戦災で焼失し、平成5年、本件原観音像が再建された。
 しかし、本件原観音像は、参拝場所から見上げると、睨みつけるような表情になり、また、檀家からも慈悲深い表情になるように善処を求められていたため、被告・光源寺は被告・岩淵俊享氏に仏頭部の制作を依頼、本件観音像の仏頭部とすげ替えたという。
 争点の一つである、原告が共同著作者であるかという点について、東京地裁は、創作の過程を詳細に検証し、著作者は亡長兄・西村如雲氏であって、原告は創作的には関与しておらず、共同著作者とは認められないとし、原告が著作権を有することを前提にした請求には理由がないとした。
 しかし仏頭部のすげ替えは、西村如雲氏が存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条本文)に当たり、被告の主張である「意を害しないと認められる場合(同条ただし書き)」には当たらず、「やむを得ないと認められる改変」にも当たらないとした。
 原告は、亡・西村如雲氏の弟で「遺族」に当たるから(116条1項)、現作品の改変に対して同法115条(名誉回復等の措置)の請求をすることができるとし、名誉等回復の措置として当時の仏頭部への原状回復を限度として、原告の請求を認容し、一般観覧禁止や謝罪広告など、その余の請求を棄却した。
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6月10日 矢野絢也元公明党委員長への名誉毀損事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 矢野絢也元公明党委員長が、月刊誌「リベラルタイム」(リベラルタイム出版社発行)の記事で名誉を傷つけられたとして、発行元に2200万円の損害賠償と謝罪広告掲載を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、220万円の支払いを命じた。謝罪広告掲載要求は棄却した。
 平成18年から19年にかけて、「リベラルタイム」誌が元委員長に関し、「企業創業者一族の課税逃れに絡んで多額の報酬を得た」などと報じた。
 判決は、「いずれも元委員長の社会的信用を低下させ、名誉毀損に当たるのは明らかであり、内容も真実と認める証拠はない」と判示した。

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6月17日 邦画3作品の格安DVD事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 東宝が、成瀬巳喜男監督(1969年没)の「おかあさん」(1952年公開)、谷口千吉監督(2007年没)の「暁の脱走」(1950年公開)、今井正監督(1991年没)の「また逢う日まで」(1950年公開)の3邦画作品を格安DVDとして販売しているのは著作権侵害であるとして、都内のビデオ販売会社に1350万円の賠償支払いや販売差止め等を求め提訴した。
 東京地裁は、いずれも著作権の保護期間内であるとして、108万円の賠償支払い、販売差止め、原版廃棄などを命じた。
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6月19日 アダルトゲームの著作権帰属事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 パソコン用ゲームソフト(プログラムの著作物、以下、本件ソフト1、2)の著作権者を主張する原告は、被告・オークスとオークスの代表取締役Aが上記ソフトを家庭用ゲームソフト機用ソフト(以下、ソフト3、4)に移植して複製・販売し、原告の持つ著作権(翻案権、二次的著作物に係る複製権)を侵害したとして、本件ソフト3、4の販売、頒布の差止め、廃棄、不法行為に基づく損害賠償請求として1879万円余の支払いを求めた事案。
 争点は、本件ソフト1、2の著作者は誰か、被告らによる著作権侵害行為の有無などであった。
 被告と原告はともに、アダルトゲームに関するビジネスを行うこととした。しかし、アダルトゲームソフトを発売するには、ソフ倫に加盟し、「ソフ倫シール」を貼らなければならないが、原告がソフ倫に加盟していたことから、協議の結果、被告オークスがアダルトゲームソフトを制作し、原告がその発売元となり、販売会社ワンピースが原告からソフトを一括して仕入れて販売するという枠組みで事業を展開することが取り決められた。
 裁判所は、本件ソフト1、2は、被告オークスの発意に基づき、プログラマーとして開発作業を担当した被告オークスの代表取締役Cが、職務として作成した著作物であると認定した。著作権法15条2項の「法人等の業務に従事する者」には代表取締役も含まれる、したがって、被告オークスが本件ソフト1及び2の著作者であり、著作権を原始的に取得していると判示した。
 したがって、原告は本件ソフトの著作権者であると認めることは出来ないから、被告の行為が原告の著作権を侵害したとすることは出来ないとして、原告の請求を棄却した。
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6月25日 経済学論文の共同著作事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 原告・千葉大学教授Aと被告・早稲田大学教授Bは、経済学に関する論文(以下、本件原著)を共同執筆した。被告が原告に無断で、本件原著の一部を使用した論文1、2、3(以下、被告論文)を作成し、これらを含む論文(以下、博士論文)を経済学博士の学位請求のため、一橋大学に提出した。この被告の行為は、共同著作物につき原告の持つ著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権及び公表権)を侵害しているとして、原告は、被告に対し、(1)被告論文の発行差止め、(2)国立国会図書館及び一橋大学に対する被告各論文閲覧禁止の措置の申し出、全国紙への謝罪広告の掲載、不法行為による損害賠償として、弁護士費用相当額50万円の支払いを求めた事例である。
 裁判所は、本件各原著が原告と被告の共同著作物であり、博士論文に収録されたことは複製に当たると認定したうえで、被告の博士論文への複製行為が原告の著作権(複製権)を侵害するものかどうか、原告の承諾の有無について、まず、判断した。
 被告は、原告が原著作の1及び2の利用の承諾をした旨主張したが、原告は、その承認は原著作1に限られ、かつ、その利用態様も「著作権法が規定する方法、すなわち公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内」に限るものであると主張した。
 裁判所は、本件原著作1と2は、「相互に関連を有する研究に関する論文であって、本件原著2を本件原著1と別異に取り扱うべき合理的な理由も見当たらない」、「原告は被告に対し、特に対象を本件原著1に限定することなく、……本件博士論文への利用を承諾し、その利用態様についても、特に著作権法の規定する引用の要件を充足する態様に限定することなく、収録(複製)を含め、博士論文における共同研究論文の利用として一般に行われる方法での利用を承諾したものと推認することができる」として、被告の著作権侵害を否認し、また、本件博士論文の作成及び一橋大学への提出行為は、原告の承諾の範囲内の行為と認定し、その余の請求も棄却した。
判例全文
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6月25日 NHKスペシャル「アジアの一等国」集団提訴事件
   東京地裁/提訴(請求棄却、控訴・一部変更、上告)
 2009年4月5日放送されたNHKスペシャル「シリーズJAPANデビュー」の第1回「アジアの“一等国”」の番組に関し、全国の視聴者約8400人が「事実と異なる偏向報道があった」として、1人当たり1万円の慰謝料を求める訴えを起こした。

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6月26日 バイクレースの記念写真事件
   水戸地裁龍ヶ崎支部/判決・請求棄却(控訴)
 バイクレースの撮影を依頼されたフリーカメラマンが、レース参加者への写真販売にとどまらず、写真データがレース主催者に提供され、ホームページやポスターに広く掲載されたことを、著作権及び著作者人格権の侵害だとして、依頼者の法人を訴えた事件。裁判所は企画書や当日の作業の従事体制の実態から、請負契約による写真ではなく、写真は職務著作物であると判断して著作権侵害の訴えを斥けた。写真家名ではなく、依頼した法人の名前を表示したことに対しても、対外的な責任の所在を記したもので人格権侵害には当たらないとして請求を棄却した。
判例全文
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6月29日 美容外科広告事件(2)
   知財高裁/判決・変更
 女優・タレントの原告は、「コムロ美容外科・歯科」のホームページを管理運営する被告に、氏名及び顔写真等を無断で掲載されて、氏名権、肖像権及びパブリシティ権を侵害されたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、財産的損害506万6301円及び精神的損害100万円を求めた控訴審。
 財産的損害賠償の算定方法や精神的損害賠償として慰謝料請求の可否が争われた一審は、無断で氏名、肖像等を広告に使用された場合には、主観的利益が侵害されたものであり、これによる精神的苦痛は、慰謝料によって慰謝されるべきものであり、財産的損害額として115万余円、精神的損害額として30万円の支払いを命じたが、この判決を不服として、原告が控訴したものである。
 知財高裁は、被告は掲載中止要求以前からホームページへの掲載事実を認識しており、原告との契約内容について調査することにより、掲載中止要求以前に中止することが可能であったとして、原判決中、財産的損害額を173万余円に、精神的損害額を50万円に増額変更し、その余の請求を棄却した。
判例全文
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