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【事件名】バイクレースの記念写真事件 【年月日】平成21年6月26日 水戸地裁龍ヶ崎支部 平成20年(ワ)第52号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成21年4月10日) 判決 原告 X 同訴訟代理人弁護士 尾池誠司 被告 有限会社東洋コムテック 同訴訟代理人弁護士 蓮見和也 同 堀川敦 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、506万円及びこれに対する平成20年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告に対し、著作権(複製権、譲渡権)の侵害に基づく使用料相当額の損害賠償として356万円、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)の侵害に基づく慰謝料として150万円の合計506万円と、これに対する不法行為の後である本訴状送達の日の翌日(平成20年4月5日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める事案である。 2 前提となる事実(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。) (1) 原告は、フリーのカメラマンであり、個人で写真事務所を経営している。(甲6、7、12) 被告は、電気工事業のほか、写真の撮影、加工及び販売並びにオートバイ及び商品、付属品の販売等を目的とする有限会社(平成18年5月1日以後は特例有限会社)であり、A(以下「A」という。)は、同会社の代表者取締役である。 株式会社ライダーズ・サポート・カンパニー(以下「ライコランド社」という。)は、オートバイ用品等の販売店「ライコランド」を展開し、「ライコランドサーキットスマイル」と称するオートバイ走行会(ライコランド走行会)を主催している。(甲2) アップデザインズ社は、ライコランド走行会の司会業務や広告ポスター制作を担当している。 (2) 被告は、平成17年2月ころ、オートバイレース参加者の走行中の写真を撮影し、それをレース終了後即時に販売する事業(以下「本件写真販売事業」という。)を企画した。Aは、同年3月上旬ころ、原告に対し、同事業の内容を説明して参加を持ち掛け、原告が本件写真販売事業の写真撮影を行うことで合意した(以下「平成17年3月の合意」という。)。被告は、平成17年5月から平成18年5月まで、オートボーイ杯及びオートボーイ走行会と称するオートバイレース等で本件写真販売事業を催し、原告の撮影した走行中のオートバイを被写体とする写真を販売した。(乙24) (3) 被告は、ライコランド社の主催する平成18年7月13日開催の第1回ライコランド走行会及び同年9月21日開催の第2回ライコランド走行会(以下、それぞれ「本件第1回走行会」、「本件第2回走行会」といい、これらを併せて「本件各走行会」という。)において、本件写真販売事業を行った。原告は、被告の発意に基づき、本件各走行会において、走行中のオートバイを被写体とする写真を撮影した上(以下、「本件撮影」といい、写真を「本件写真」という。)、この電子データを記録した媒体を本件各走行会中にAらに交付し、被告は、同データを印刷して参加者に販売した。 (4) 原告が本件第1回走行会に おいて撮影した本件写真のうち、498点がライコランド社のホームページに走行会の模様を伝える写真として掲載され、9点が本件第2回走行会の広告ポスターに掲載された。 (5) 原告が本件第2回走行会において撮影した本件写真のうち、203点がライコランド社のホームページに走行会の模様を伝える写真として掲載され、2点が同ホームページに第3回ライコランド走行会の告知のため掲載された。 (6) 本件写真の作成時において、原告と被告との間の契約及び被告の勤務規則等に、本件写真を原告の著作物とする旨の別段の定めはなかった。 第3 争点 1 職務著作(著作権法(以下「法」という。)15条1項)の成否 (被告の主張) (1) 原告が被告の業務に従事する者であること 本件写真販売事業における業務態様、被告の指揮監督の状況、被告が原告に支払った対価の額及び支払方法等を総合すると、原告は被告の指揮監督の下で労務を提供していて、被告の支払った金銭は原告の労務提供の対価と評価することができるから、原告は被告の業務に従事する者である。 ア 業務態様 被告は、平成17年3月の合意のとき、原告に対し、オートバイレースの当日のみ原告が撮影その他販売用テントの設営、後片付けの労務に従事すること及びその対価として被告が原告に日当を支払うことを約した。 本件写真販売事業における具体的な業務(以下「本件業務」という。)は、次のようなものである。 (ア) 被告は、主催者及びサーキット側に本件写真販売事業の企画を説明し、会場内での出店、車両の持込み、撮影目的でのサーキットコース内への立入りについて許可を得る。 (イ) 被告は、撮影を担当するスタッフを雇用し、あらかじめ、撮影場所、撮影アングル、被写体のイメージ、撮影サイズ、撮影枚数等を指示し、その他、写真データの受渡方法、受渡しのタイミング、タイムスケジュール、休憩時間等も指示する。撮影担当スタッフは、その指示に従い、サーキットコース内に入り、参加者の走行写真を撮影する。 (ウ) 撮影後、被告は、撮影担当スタッフから写真の電子データが記録された媒体(コンパクトフラッシュカード)を受け取り、これを被告の車両内で被告のパソコンに読み取らせた上、インデックス写真としてインクジェットプリンタでA4の用紙に15枚の写真を縮小印刷し、また、「本日のベストショット」と称して販売用写真と同じく昇華型プリンタで数枚の見本写真を印刷する。被告は、これらの写真を被告の設置した販売テント前に展示し、参加者の購入申込みを募る。 (エ) 写真の購入を希望する参加者は、上記インデックス写真を見て、申込用封筒に必要事項を記載して購入を申し込み、受付担当の被告従業員は代金と引換に印刷された販売用写真を交付する。 (オ) 後日、被告は、撮影した写真を記録した媒体を主催者側に郵送する。 撮影場所について、原告は、被告が事前に主催者側から許可を得たことで、一般人が自由に立ち入ることのできない場所での撮影が可能となった。 撮影機材について、カメラは原告が持参したものであるが、その他の印刷に使用するパソコン、昇華型プリンタ、販売用のテント等はすべて被告が準備したものである。 以上のとおり、原告の本件撮影は、被告が事業として行っていた本件業務に組み込まれていて、被告の存在と関与の下、被告の人的物的資源が導入されて運営されていた組織的業務の一部としてなされたものである。 イ 指揮監督 被告は、創作行為である本件撮影についてもそれ以外の業務についても原告を指揮監督していた。 被告は、本件各走行会の前に、原告に対し、撮影場所、アングル、被写体のイメージ等を指示した。本件各走行会当日、被告は、原告に対し、これらの指示事項を再度確認するとともに、撮影した写真データの受渡しのタイミング、タイムスケジュール、休憩時間、データの形式、撮影サイズ等の詳細な事項について指示を出した。本件各走行会開催中も、被告は、原告に対し、上記のような撮影に関する事項や写真データの受渡方法について、トランシーバーや他の被告スタッフを通じて、随時指示を出した。 被告は、同様の走行会で雇用した別の撮影担当スタッフにも同様の詳細な指示をしており、その結果、本件写真と他の撮影担当スタッフが撮影した同種の写真とは、撮影場所、構図等において極めて類似していて、撮影者の個性を見出せないものとなっている。 原告は、撮影以外にも、テントの後片付け、混雑時の他のスタッフの手伝い等の作業を事前に被告から割り振られて担当していた。 撮影機材であるカメラについても、被告の指揮監督は及んでいた。被告は、カメラについて、デジタル一眼レフのカメラであること、データサイズは昇華型プリンタで販売用サイズに拡大して印刷することのできるように設定すること、被告が実際に当該カメラで撮影し昇華型プリンタで印刷した写真を見てその品質を確認することといった条件を付し、現実に、データサイズの条件について原告に変更を指示したことがある。 ウ 対価の額及び支払方法 被告は、平成17年3月の合意のとき、原告に対し、本件業務に従事する対価として1回につき2万円を支払う旨約した。その後、被告は、6回のオートボーイ杯において同種業務に従事した原告に対し一律2万円を支払い、拘束時間の短かった1回のオートボーイ走行会においては1万2000円を支払った。この対価は、原告が撮影した写真の内容や枚数、その写真が販売されたかどうかにかかわりなく支払われた。 このように、被告は、原告の出来高にかかわらず、拘束時間を基準にして一律定額の金銭を原告に支払っているから、これは原告が本件業務に従事して労務を提供した対価であるといえる。 エ 原被告間の契約類型について 原被告間の契約は、上記ウのとおり、出来高に関係なく一定時間の労務提供に対して金銭を支払うものであって、いわゆる日雇い雇用に該当し、少なくとも雇用類似の指揮監督関係は存在する。請負であれば、撮影枚数や内容に応じた報酬基準の取決めがあるはずであるが、原被告間の契約にはこのような取決めは存在しない。原告が個人事業主として普段独立して仕事をしているからといって、他人から雇われて働くことがないとはいえない。Aが原告に送信した電子メールの中で請負という言葉を用いたことはあるが、それは単に仕事を引き受けるという意味にすぎないし、雇用という言葉と並列して用いているものもある。そもそも、雇用か請負かは、当事者の認識ではなく業務の実態を重視して決定すべきである。 (2) 原告が本件写真を職務上作成したこと 本件写真は、原告が、被告から撮影担当スタッフという職務を任され、これを遂行して作成したものである。 (3) 本件写真が被告の著作の名義の下に公表するものであること ア 本件写真は、被告の著作名義での公表が予定されていたものであり、実際にも被告の著作名義によって公表されている。 本件写真は、印刷後、販売用テント前において展示されるから、この時点で「公表」(法4条1項)されたものとなる。法4条1項によれば、展示の方法で公衆に提示されれば「公表」に当たるとされていて、販売目的であるからといって「公表」に当たらないとはいえない。 被告は、本件写真を展示して販売するに当たり、パンフレット、写真の印刷作業をする車両、販売用テントの前に設置された看板、販売用テント前のインデックス写真を貼り付ける場所、封筒及び会場内の案内放送において、被告会社名や本件写真販売事業の名称である「Quick Photo Service」、「Q! photo」の表示をしていた。走行写真の即時プリント販売という被告の事業は画期的で独自性があり、走行会への来訪者は、サービス名の表示を見れば、被告の提供するサービスであると連想することができる。一方、原告の氏名は、本件写真の公表時点で一切表示されていない。 イ 本件写真は、被告が企画し運営してきた本件写真販売事業の業務過程で撮影されたものであるから、主体的にこれを行ってきた被告が、その責任と信頼において自らの著作名義により公表することが予定されていた。 ウ 原被告間で原告の著作名義を表示することについて事前に話し合われたことはなく、本件写真を原告の著作名義の下で公表する旨の合意は存しない。このことは、平成17年3月の合意以後、オートボーイ杯等において原告が同種業務に従事したときも含めて、本件各走行会に至るまで変更はなく、原告が、写真の展示販売のときに原告の著作名義が表示されないことについて異議を述べたことはなかった。 エ ライコランド社のホームページやポスターに原告の撮影クレジットが掲載されているが、これは著作名義とは関係がなく、単に被告の撮影担当者という意味合いで表示されたにすぎない。このようなことは、写真を扱う雑誌等の業界では一般的な慣行として行われている。 ライコランド社のホームページ等に原告の撮影クレジットが掲載されることになったのは、次のような経緯による。すなわち、Aと原告とは幼なじみの関係であったが、本件第1回走行会前日の平成18年7月12日にAは原告から写真の著作権が原告にあることを前提とした要望を受けた。Aは、これを断ったものの、原告が将来カメラマンとして活躍することができるようにとの気持ちから、ライコランド社のホームページ等に被告の撮影担当者として原告の氏名を表示することはしてもよいと考え、アップデザインズ社に原告の撮影クレジットの表示を依頼したのである。 (4) 著作権の帰属等に関する認識について 被告は、平成17年3月の合意のとき、原告に本件写真販売事業の企画書(以下「本件企画書」という。)を見せながら企画内容を説明した。本件企画書には、本件業務において扱った写真データは、後日走行会の主催者側に販売以外の目的、具体的にはホームページ上での写真公開及び告知用ポスターへの掲載に使途を限定した上で記録媒体により無償で提供する旨の記載がある。原告は、本件企画書の内容を理解していたのであり、被告が本件写真の電子データを主催者側に無償提供することも認識していた。 (原告の主張) (1) 原告が被告の業務に従事する者であることは否認する。 原告は、フリーのカメラマンで個人事業主であるから、被告の従業員ではない。原告と被告とは雇用ではなく請負の関係であって、指揮監督、命令の関係は存在しない。原告と被告とが請負の関係であることは、被告も電子メールで認めていた。 被告の主張イ(指揮監督)について、本件写真は被告の指揮監督の下で撮影されたものではない。原告は、被告の大まかな指示に従って撮影はしたが、被写体を撮影する場所や構図、シャッターのタイミング等はすべて原告の作意に基づくものである。被告の指示は、仕事の円滑な進行を妨げないようにするという程度のもので、撮影に関しては、カメラ、レンズ、シャッタースピード、絞り値、ISO感度、画像サイズのほか、写真データの受渡しのタイミングに至るすべてについて、原告がカメラマンとしての経験で獲得した知識と技術に基づき決定していて、撮影に関する事柄を知らない被告からの指示は一切なかった。 被告と原告とが雇用関係にあったのであれば、原告が撮影機材であるカメラを用意する必要はない。被告が用意した機材は、パソコン、インクジェットプリンタ及び昇華型プリンタであるが、いずれも撮影そのものに関するものではない。 同じような被写体を大量に撮影しても、撮影者でしかわかり得ない癖などが存在していて、これにより写真の出来は異なるから、個々の写真に個性がないとはいえない。 (2) 原告が本件写真を職務上作成したことは否認する。 (3) 本件写真が被告の著作の名義の下に公表するものであることは否認する。 被告は、本件写真を販売したときは被告のサービス名を付したにすぎず、被告の名義の下で展示したわけではない。 そもそも、「公表」とは、メディア等に掲載されて初めてそのような状態になると解すべきであり、販売のための展示をしたからといって、公表されたことにはならない。したがって、展示販売のときに被告の会社名及びサービス名が付されていたことが、被告の著作名義で公表するものであったかどうかを左右することはない。 本件写真は、ライコランド社のホームページやポスターに掲載されたときに公表されたものである。これらには、原告の撮影クレジットが掲載されていて、被告が著作者であるとの表示はない。これは、被告自ら本件写真の著作権は原告にあると認めたからにほかならない。 (4) 著作権の帰属等に関する認識について 原告は、平成17年3月の合意のときの被告の説明では、本件写真販売事業の全部を理解することはできず、原告の撮影した写真については走行会当日のみの使用を許すものと考えていた。原告は、上記合意のとき、本件企画書に目は通したが、手元になかったため、十分に目を通すことのできる状況ではなかった。 2 著作権(著作財産権)侵害の有無、利用許諾の有無 (原告の主張) (1) 複製権侵害 被告は、原告の撮影した本件写真の電子データを記録媒体にコピーし、これをアップデザインズ社に交付した。これにより、アップデザインズ社が同社のパソコンに同写真データをコピーするに至った。 (2) 譲渡権侵害 被告は、上記(1)のとおり、本件写真の複製物であるその電子データを記録した記録媒体をアップデザインズ社に譲渡した。 (3) 原告は、前記1の原告の主張(4)のとおり、本件写真の電子データは本件各走行会参加者に対する販売のみに利用されるものと考えていた。 (被告の主張) 原告は、前記1の被告の主張(4)のとおり、被告が本件各走行会の主催者側に対し本件写真の電子データを無償で提供することを事前に許諾していた。 複製権侵害の点について、被告は、アップデザインズ社のパソコンに本件写真の電子データをコピーする行為はしていない。 3 著作者人格権侵害の有無 (原告の主張) (1) 公表権侵害 ア 被告は、原告が本件写真の公表を希望しないのに、原告に無断で、ホームページやポスターで公表されることを知りながら、アップデザインズ社に本件写真の電子データが記録された媒体を交付した。 イ 前記1の原告の主張(3)のとおり、メディア等に掲載されていない以上、販売のための展示がされたからといって公表されたことにはならない。本件写真が公表されたのは、ライコランド社のホームページ及びポスターに本件写真が掲載され、それが公開された時点である。 (2) 氏名表示権侵害 ア 被告は、本件写真の電子データが記録された媒体をアップデザインズ社に渡すときに、原告に対し氏名を表示して良いかどうかを確認しなかったことで、ライコランド社のホームページやポスターに掲載された写真に原告の撮影クレジットが付されることになった。掲載写真の中には、原告が掲載を望まないようなカメラマンとしての評価を下げる出来の悪い写真も含まれているのに、原告の意に反して原告の氏名を表示された。 原告が、ホームページやポスターでの本件写真の掲載にあたって、原告の撮影クレジットを入れるように求めた事実はない。原告が本件各走行会前に被告に要望したのは、あくまで本件写真の電子データの販売をしないことであり、仮に販売するときには原告の許諾を得た上でこれに原告の撮影クレジットを入れるように求めたのである。また、原告は、本件写真の電子データを本件各走行会後に販売する相手、すなわちアップデザインズ社やライコランド社に対して、著作権者を示す意味で撮影クレジットを入れるように求めたのであって、ホームページやポスターへの掲載にあたって撮影クレジットを入れるように求めたことはない。そもそも、この要望は、著作者及び著作権者は原告であることを確認し、本件写真を原告に無断で第三者に譲渡等することのないように警告する趣旨のものである。 イ 原告は、最低水準を満たした写真を撮影しているものの、すべての写真を完璧に撮影することは不可能であり、まして、本件写真は予想できない動きをする素人のライダーを撮影したものであって、写真の出来にばらつきが生じることはやむを得ない。したがって、原告が自ら撮影した写真について氏名の掲載を希望しないことが、権利の濫用であるとはいえない。 (3) 同一性保持権侵害 被告が本件写真の電子データを第三者に提供したことにより、本件写真は画像サイズが縮小し、トリミングされた状態で使用されている。 (被告の主張) (1) 公表権侵害について ア 本件写真をライコランド社のホームページやポスターに掲載したのは、被告ではなくアップデザインズ社である。被告が本件写真の電子データをアップデザインズ社に交付するときに、ホームページ上等で公表されることを知っていた事実はないし、仮にそのことを知っていたからといって、被告が上記ホームページ等での公表の主体となるわけではない。 イ 前記1の被告の主張(3)アのとおり、本件写真は、被告の販売用テント前でインデックス写真等として展示された時点で既に公表されている。そして、仮に原告が本件写真の著作者であるとしても、原告は本件写真を即時販売用に展示することは承諾していたから、本件写真がライコランド社のホームページやポスターに掲載された時点では、既に著作者の同意を得た公表がされていることになり、法18条1項の「まだ公表されていないもの(著作者の同意を得ないで公表された著作物を含む。)」に該当しない。 (2) 氏名表示権侵害について ア ライコランド社のホームページやポスターに原告の撮影クレジットを掲載したのは、原告の要望によるものであるから、原告の意に反する氏名の表示ではない。 イ 被告がアップデザインズ社に提供した本件写真の電子データは、被告が商品価値があると判断して抽出した販売用のものである。それすらも出来の悪い写真が含まれているとして氏名表示を望まないと主張するのは、権利の濫用である。 (3) 同一性保持権侵害について 被告が、本件写真の電子データについて、サイズの縮小やトリミング加工を施したことはなく、アップデザインズ社に提供した本件写真の電子データは、販売用のそれをそのまま媒体に記録したものである。 4 損害額 (原告の主張) (1) 著作権侵害356万円 ライコランド社のホームページ及びポスターにおいて使用された原告撮影の写真は712点である。原告の撮影する広告写真等の1点の使用料は、5000円である。 したがって、著作権使用料相当額は、本件写真の使用点数に1点当たりの使用料を乗じた356万円となる。 (2) 著作者人格権侵害(慰謝料) 150万円 原告は、前記の著作者人格権侵害により、当該写真が悪い評価を受けることで仕事に支障が生じるかもしれないと感じるなど、精神的苦痛を被った。この苦痛を慰謝する金額は、少なくとも150万円を下らない。 (被告の主張) (1) 著作権侵害について 被告は、本件写真販売事業において、本件写真の電子データを販売するときは1個当たり500円で販売していた。著作権使用料は、通常、販売価格の10%程度であるから、本件写真の1点当たりの使用料は50円である。そうすると、本件写真712点の使用料相当額は、高くてもこれに上記1点当たりの使用料を乗じた3万5600円である。 (2) 著作者人格権侵害による精神的苦痛の発生は否認する。 原告は、前記のとおり、自ら氏名の表示を要望していたのであって、精神的苦痛が発生することはなく、仮に発生したとしても、被告に対して慰謝料を請求する筋合いではない。 第3 争点についての判断 職務著作の成否(争点1)について判断する。 1 前提となる事実、証拠(甲10、12、乙3の1、3の2、24、原告本人、被告代表者のほか、各項の末尾に掲げたもの。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1) Aは、平成17年3月の合意のとき、原告に対し、本件企画書を示しながら本件写真販売事業の内容を説明した。本件企画書は、被告がオートバイ走行会の主催者向けに事業の趣旨説明のため作成したものであり、その中には、「大会主催者様には、当日撮影した全てのデータを後日CD−Rにて差し上げますので、ホームページ、パンフレット等の媒体に自由に使用する事が出来ます。(写真、データの販売は出来ません)」との記載がある。そして、本件写真販売事業において、走行写真のデータを無償で主催者側に交付し、ホームページ等での自由な使用を許諾することは、被告が主催者側から無料での出店承認を得る上でセールスポイントとなるものであった。(乙1) (2) 本件業務の態様は、おおむね次のようなものである。 ア 本件業務においては、各関係者が、パソコンでの印刷等を行うPCデータ班(1名又は2名でAはこれに属する。)、宣伝及び販売等の接客を行う受付(1名から3名)、撮影(1名)、撮影補助(受付も兼ねる。1名)に分かれて、それぞれの担当職務を行っていて、原告以外は、被告の従業員等被告と雇用関係にあることが明らかな者である。 イ 撮影担当は、サーキットコース内で参加者の走行写真を撮影し、当該写真のデータが記録された媒体をその場で撮影補助担当に渡す。 ウ 撮影補助担当は、走行会会場内に駐車した被告の車両内で印刷作業を行うPCデータ班に当該媒体を渡す。PCデータ班はインクジェットプリンタで各参加者のインデックス写真を印刷するとともに、「本日のベストショット」と称する見本写真を実際の販売用写真に用いる高性能の昇華型プリンタで印刷する。(乙4の1、4の2) エ 見本写真と各参加者のインデックス写真は、上記車両の近くに設営された販売ブース(テント)に展示され、受付担当が参加者の購入申込を受け付ける。購入を希望する参加者は、自分のインデックス写真の中から希望する写真の番号を申込用封筒に記入して購入を申し込み、申込があると、PCデータ班が昇華型プリンタで当該写真を印刷し、受付担当がこれを購入希望者に交付して販売する。(乙5、6、10、11の1、11の2) (3) 被告は、本件各走行会前の平成17年5月21日から平成18年5月17日まで合計7回開催されたオートボーイ杯等において、本件写真販売事業を催し、原告は、本件各走行会と同様に写真撮影を担当した。原告は、平成18年3月又は同年5月に、Aの指示により、原告が撮影した走行写真の電子データを自ら媒体に記録した上で主催者側に持参したことがあった。また、原告が、被告に対し、走行写真の電子データが記録された媒体の返還を求めたことはなかった。 (4)ア Aは、あらかじめ、本件業務における各担当者の作業と、円滑な運営や販売成績向上のための各担当ごとの留意点等を定め、これを書面化したもの(乙3の1、3の2)を各担当者に交付して打合せを行うなどして、必要事項を伝達した。 イ Aが、原告の写真撮影に関してした指示は、おおむね次のようなものである。 (ア) 撮影場所について、本件写真販売事業を始めた当初は、撮影するコーナー、カーブを「第1ヘアピンカーブ」などと具体的に指示した。ただし、原告が撮影に慣れてきてからは、原告に撮影場所の選択を任せることもあった。また、1人の購入者に3枚以上の写真を販売することを目標とし、3枚以上の写真購入者には価格を割り引くサービスを実施していたため、同一の参加者につき異なる構図の走行写真を3枚用意できるように、3か所以上で撮影するように指示し、そのために、走行会開催中にトランシーバや撮影補助者を通じて撮影位置の変更を指示したこともあった。走行会終了間際の繁忙時には、記録媒体の授受をしやすくするという観点から、販売テント近くのコーナーで撮影するように指示したこともあった。(乙9、12) (イ) 被写体について、参加者全員の写真を販売するため、AらPCデータ班が、参加者のリストと販売用に展示する写真とを照らし合わせながら、撮影されていない、又は3つ以上の構図で撮影されていない参加者の車両番号等を伝え、また、普段走行会で多数の写真を購入する参加者の車両番号等も伝えて、こうした参加者の走行写真を撮影するように指示した。 (ウ) 昇華型プリンタの性能、設定に合わせて適正に印刷するため、縦長で撮影することを禁止し、画像サイズはLサイズではなくSサイズと指定した。 (エ) 撮影した写真の電子データ授受の方法について、参加者に走行直後での写真販売という特長を宣伝するため、走行会開始後しばらくは比較的短い間隔で記録媒体をPCデータ班に渡すように指示した。 ウ 写真の印刷に利用するパソコン、インクジェットプリンタ及び昇華型プリンタは、被告が準備した。一方、撮影に利用したカメラは原告のものであるが、Aはあらかじめそのカメラで撮影した写真を被告の昇華型プリンタで印刷するテストを行い、その画質が販売に適するものであることを確認した。 エ 原告は、撮影した本件写真の電子データが記録された媒体をそのまま撮影補助者に渡していて、AらPCデータ班は、同記録媒体を受け取ると、その内容をパソコンで見て、ピントが合っていないなど商品価値のないものは削除した上、販売に適したもののみを選別してインデックス写真の印刷に付した。 オ 原告は、写真撮影に関するもののほか、販売用テントの設営と撤収及び走行会終了前後の繁忙時における印刷された写真の裁断と封筒入れ等も行った。上記アの書面には、原告の役割として「カメラマン」等とあるだけでなく、「場合によってはラッシュ時の指示と運営」とも記載されているほか、「閉店ラッシュ時」には「カメラマンも写真の裁断、お客さまへの説明等をフォローして下さい。」と記載されていて、原告の上記各作業は、あらかじめAから原告の分担として割り振られていたものであった。 (5) 原告は、次のようにして本件写真を撮影した。 ア 原告は、撮影機材として、走行するオートバイを撮影するのに適した連続撮影の可能なカメラ(デジタルスチールカメラ)を選び、その他、オートバイを大きく写すなどするためのレンズと2倍のエクステンダー、一脚等を準備した。 イ 原告は、本件撮影に当たり、走行するオートバイを撮影するのに最適なシャッタースピード、絞り値(光量)、ISO感度を選択し、オートバイの走行に合わせてカメラを振りながらタイミング良くシャッターを切って撮影した。 ウ 撮影位置については、原告自身の判断で、より迫力のある場面の撮影ができるようにサーキットコースの内側に位置を変えたこともあったが、そのような場所に入るにはサーキットの許可を得た上、そのことを示すビブスを着用する必要があり、この許可は被告が取ったものである。(乙7) (6) 本件写真販売事業においてカメラマンの撮影する写真は、おおむねコーナー、カーブで車体を内側に倒し込んで走行する場面を、正面又は左右の斜め前方から参加者及び車体全体が大きく枠に収まるように撮影されたものであり、原告が撮影したものと、別のカメラマンが撮影したものとでこの構図に特段の違いはない。(甲1〜4、乙8の1、8の2、乙25の1、25の2) (7) 被告は、原告に対し、平成17年3月の合意のとき、本件写真販売事業において原告が写真撮影を行ったときは1回あたり2万円を支払う旨約し、原告は、オートボーイ杯等における撮影及び本件撮影の対価として同額の支払を受けた。ただし、平成17年8月実施のオートボーイ走行会においては、原告の実働時間が3時間であったことで、被告が原告に支払った額は1万2000円であった。(乙2の1、2の2) (8) 原告と被告との間では、平成17年3月の合意及びそれに近い時期において原告の担当作業、支払対価等についての基本的な合意をして以降、契約内容を変更する明示的な合意をしたことはなかった。 (9) 写真の販売用テントの横に、写真の印刷作業を行う被告の車両が駐車されていて、同車の側面には被告の会社名である「Toyo Comtec」の文字をデザイン化したロゴタイプが塗装されている。写真の販売用テントには、本件写真販売事業のサービス名である「Quick Photo(Printing) Service」又は「Q! photo」と記載された看板、のぼり等が掲げられ、購入申込用封筒にも同様のサービス名が印刷されている。また、看板の末尾には「企画(有)東洋コムテック」と付記されている。一方、写真の販売用テントにある看板等に原告の氏名は一切表示されていない。このことについて、原告が異議を述べた形跡はない。(乙4の1〜6、10〜12) (10) 前提となる事実(4)及び(5)のとおりライコランド社のホームページ等に掲載された本件写真には、ホームページについては「PHOTO BY X」と、ポスターについては「Photo X」とそれぞれ付記されている。(甲1〜3) 2 ところで、本件写真販売事業において、上記1(1)のように、被告が走行会終了後その主催者側に参加者の走行写真の電子データを記録した媒体を無償で交付し、主催者側はホームページ等で自由にこれを利用することができるとされていたことについて、このことを原告が認識していたかどうかは争いがあり、原告は平成17年3月の合意のときにAからそのような説明を受けたことはないと供述している。 しかし、平成17年3月の合意のときに原告がAから本件企画書を示されたことに争いはなく、そこには上記の内容が明記されている上に、その重要性にかんがみると、Aはそのことを原告に説明していたと考えるのが自然である。しかも、原告は、Aの指示によって、オートボーイ杯において原告が撮影した写真の電子データを、自ら媒体に記録して主催者側に持参したことがあり、このとき原告はAに対し明示的には異議を述べていない(原告本人)。また、本件各走行会後に本件写真の著作者をめぐって原告とAとの間で交わされた電子メール(乙19)の中で、原告は、Aから平成17年3月の合意のときに示された本件企画書中に上記1(1)の記載があることを指摘されたのに対し、「この話はオートボーイ杯に関しての事で、ライコランド走行会に関してはお話ししておりません。」と返信していて、主催者側への無償提供に関する説明を受けたこと自体は否定していないのである。以上によれば、原告の上記供述は、意図的であるかそうでないかはともかく、信用することができない。 そして、オートボーイ杯における原告の写真撮影と本件撮影とは、いずれも被告の本件写真販売事業の中で行われた同種の行為であるから、この取扱いを変更する旨の別段の合意がない限り、本件各走行会においても、本件写真の電子データはオートボーイ杯におけるのと同様に取り扱われることが前提とされていたというべきである。 この点、原告は、本件第1回走行会前の平成18年7月12日、Aに対し、先に「著作者の権利はXに有る」と主張した電子メールを送信しているから、本件写真は原告の著作物となる旨主張し、証拠(甲5)によればこの事実は認められる。しかし、本件全証拠によっても、これを被告が明示的に承諾した事実は認められない上に、本件第1回走行会の前日という著作権に関する協議を改めて行うことのできるような時間的猶予のない段階で、原告が一方的に本件各走行会で撮影する写真は自分の著作物であると宣言したからといって、これに特に応答しなかった被告がそれを黙示的に了解したなどと見る余地はなく、そのことで著作者が誰であるかが左右されるものでもない。結局、原告は、撮影した写真の電子データの取扱いについては、従前のそれに変更がないことを前提として本件撮影に臨んだと評価するほかはないというべきである。 3 上記認定、判断を前提に、原告が被告の業務に従事する者としてその職務上本件写真を作成したかどうかを判断する。 (1) 本件業務においては、被告 の発意に係る本件写真販売事業の特長である即日販売を実現するため、写真撮影から販売までを、被告の指揮命令の下、各関係者があらかじめ定められた役割分担に従い、それらの者が結合することによって組織的に行っているということができる。すなわち、著作物の作成そのものである本件写真の作成について、撮影は原告がその準備した機材によってするものではあるが、その中から販売に適したものを選別し、印刷に付するのはAらPCデータ班に属する者であり、昇華型プリンタによって画質の優れた写真を印刷することも、本件写真販売事業の特長として被告が発案したものである。そして、被告は昇華型プリンタ等の印刷機を準備した上、同プリンタの設定に合う画像サイズやカメラについても原告に具体的に指示し、また、上記1(6)のとおり、本件写真販売事業において原告の撮影した写真と別の者が撮影した写真とではその構図に大きな違いはなく、そのことは本件撮影という創作活動に関する原告の裁量が必ずしも大きくないことを示している。このほか、本件業務の円滑な進行や収益確保の観点からも、撮影枚数等の作業の進め方に関して被告の具体的な指揮が及んでいるし、原告は被告から補助的なものとはいえ本件撮影以外の作業の割り当ても受け、他の関係者と協力してこれを行っているのである。 対価の額及び支払方法については、本件写真販売事業において写真撮影の仕事の出来高に応じた金額の変化はなく、仕事に従事した時間に応じた金銭が支払われていることからすると、労務の提供の対価と見ても差し支えのないものということができる。 (2) 原告は、@原告と被告とは雇用ではなく請負の関係であって、そのことはAも原告に送信した電子メールの中で認めているし、A本件撮影は、原告の作意により、原告のカメラマンとしての知識と技術に基づいて行われたものであるから、被告と原告との間に指揮監督の関係はないと主張する。 しかし、@の点については、原被告間の契約の類型が直ちに雇用といえるかどうかはともかく、少なくとも、上記(1)のような本件業務の態様、被告の指示内容、原告の提供した役務からすると、原告が被告から独立した地位で仕事をしたとか、本件写真の完成までを単独でしていたとは言い切れないというべきである。また、証拠(甲6、7)によれば、Aが本件各走行会後に原告に送信した電子メールの中に、「雇用、単発の請負をしている限り、契約となります。」との記載や、原告が被告から本件撮影を請け負ったと記載されている部分のあることが認められる。しかし、前者は「雇用」という文言が並記されていることからも明らかなように、請負の関係にあることを被告が認めたものではなく、その前に「契約書が無くとも、たとえ口約束だとしても」と記載されていることに照らし、口頭での合意であっても契約は成立する旨を述べているにすぎないと認められるし、後者についても、雇用と請負との法的な区別を特に意識した上で請け負うという言葉を使ったとは認められない。 次に、Aの点については、確かに、原告の主張するように、本件撮影には原告の職業写真家としての専門的知識や技量が生かされているということができ、被告も原告の技術に一定の期待をして原告に撮影を依頼したことは、プロのカメラマンが撮影することが本件写真販売事業のセールスポイントになっていたこと(乙1、9)からみて明らかである。しかし、そのことが組織的業務性、指揮命令関係の存在と必ずしも矛盾するわけではないし、本件写真の構図等が専ら原告の独創性に依拠したものとはいえないことは、既に述べたとおりである。また、原告が撮影位置を自己の判断で変えるようになったとしても、それは原告が本件写真販売事業での撮影に慣れ、被告の方針を理解していった結果であると考えられるから、被告による指揮命令の存在を認める妨げとはならない。 (3) このことに加えて、本件写真販売事業においては、撮影した走行写真の電子データを記録した媒体を走行会終了後にホームページ等での使用を許して無償で主催者側に交付することとされていて、これは、本件写真が被告の著作物であることを前提とするものと理解することができる。そして、上記2で述べたとおり、原告は本件各走行会でこれと異なる取扱いを主張することはできない立場にあったと解すべきであって、そうであれば、原告と被告とは、被告に本件写真の著作権を原始的に帰属させることを前提にしているような関係にあったということができる。 (4) 以上のような諸事情を総合考慮すると、原告は被告の職務に従事する者に当たるということができ、かつ、前記認定によれば、原告がその職務上本件写真を撮影したことも明らかというべきである。 4 本件写真が被告の著作名義の下に公表するものであるかについて判断する。 (1) 前記認定によれば、本件写真は縮小されたインデックス写真等として販売用テント前に展示されていて、これは多数の本件各走行会参加者(甲1、3)に提示されたものということができるから(なお、原告がこの形態での利用に同意していたことは本件写真販売事業の性質上明らかで、原告もこのことは認めている。)、本件写真はこの時点で公表されたということができる。そこで、本件写真が被告の著作名義の下に公表するものであるかどうかも、本件撮影時においてこの公表時点で付される著作名義はどのようなものかという観点から検討するのが相当である。 そして、前記認定(9)によれば、上記公表のときには、本件写真販売事業のサービス名と本件写真販売事業の企画者として被告の会社名が現に本件写真に付されていたものである。このうち、サービス名については、本件写真の著作者表示と関連性の強いものとは言い難いが、被告会社名については、写真撮影者である原告の名義が一切付されていないことも併せ考えると、これは直接には企画者を示すものではあるけれども、本件写真についての対外的な責任の所在をも示すものといってよく、この表示をもって被告が自己の著作の名義の下に本件写真を公表したと解することができる。 このような現実の表示のほか、前記認定、判断のとおり、本件写真販売事業が組織的一体性の強いものであって、被告を著作者とするのにふさわしい実態があるといえることや、上記の現実の表示方法について、原告が異議を述べていないことを総合考慮すると、本件写真について、その創作時に公表の際付することが予定されていたのは被告の著作名義であるということができるから、本件写真は、被告の著作名義の下に公表するものであると認められる。 (2) 原告は、前記認定(10)のとおり、ライコランド社のホームページやポスターに本件写真が利用されたとき、本件写真の撮影者が原告である旨表示されていることからすると、本件写真は被告の著作名義の下に公表するものであるとはいえないと主張する。 しかし、証拠(甲5、乙24、被告本人)によれば、上記ホームページ等に原告が撮影者である旨明記されることになったのは、本件第1回走行会直前になって、原告からAに対し本件写真の電子データを販売する場合は必ず原告の「撮影クレジット」を入れるようにとの要求があったことで、同走行会の開始時刻前にAが原告を交えてアップデザインズ社の担当者と会いその旨依頼したことによるものであって、これは本件各走行会において本件写真販売事業を円滑に進めるための応急的な措置と理解することができるし、上記ホームページ等での本件写真の利用については被告が直接関与するものでもないから、そのことをもって、被告が本件写真を原告の著作名義の下で公表するとの判断をしたとは到底いうことができない。 第4 結論 以上によれば、本件写真については職務著作が成立し、本件写真の著作者は被告であると認められる。よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。 水戸地方裁判所龍ケ崎支部 裁判官 三輪篤志 |
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