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【事件名】「みのもんたの朝ズバッ!」プライバシー侵害事件
【年月日】平成21年4月14日
 東京地裁 平成19年(ワ)第27950号 損害賠償請求事件

判決
原告 甲野松夫こと 甲太郎
原告訴訟代理人弁護士 高木健一
同 山下幸夫
同 古本晴英
被告 株式会社 東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送)
同 株式会社TBSテレビ
上記二名代表者代表取締役 井上弘
被告 みのもんたこと 乙山竹夫
上記三名訴訟代理人弁護士 小原健
同 関根健児


主文
一 被告株式会社東京放送ホールティングス及び被告株式会社TBSテレビは、原告に対し、連帯して、金120万円及びこれに対する平成19年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告株式会社東京放送ホールディングス及び被告株式会社TBSテレビに対するその余の請求並びに被告乙山竹夫に対する請求を、いずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告株式会社東京放送ホールディングス及び被告株式会社TBSテレビの連帯負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して、金1100万円及びこれに対する平成19年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、原告が、被告株式会社TBSテレビ(以下「被告TBS」という。)が企画及び制作する番組「みのもんたの朝ズバッ!」(以下「本件番組」という。)において、平成19年1月11日午前8時5分ないし午前8時7分までの間、原告の承諾なしに原告の容貌等を生放送したこと(以下「本件放送」という。)によって、名誉及びプライバシー等を侵害されたとして、不法行為に基づき、被告TBS、本件番組を放送した被告株式会社東京放送ホールディングス(以下「被告東京放送」という。)及び本件番組の司会者である被告みのもんたこと乙山竹夫(以下「被告乙山」という。)に対し、連帯して、損害賠償及び不法行為日である平成19年1月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
二 争いのない事実等(証拠は括弧で示す。)
(1)当事者等
ア 原告は、大韓民国の出身で、平成9(1997)年1月に本邦に入国し、現在は、廃棄物処理等を業とする株式会社丙川において、廃棄物収集車(以下「収集車」という。)の運転手として稼働している。
イ 平成19年1月11日当時、被告東京放送は、放送法等に基づいて放送局の免許を受け、JORX−TVの第6チャンネルを通じて本件番組を放送している会社であり、被告TBSは、被告東京放送の100パーセント子会社で、本件番組の企画、制作等を行っている会社であった。
ウ また、被告乙山は、本件番組のメインの司会者であり、訴外丁原梅夫(以下「丁原プロデューサー」という。)は、本件番組の担当プロデューサーである。
(2)本件放送
ア 本件番組は、被告乙山が司会を務め、平日の午前5時30分から午前8時30分までJNN系の全国ネットで放送されている生放送の報道番組である。本件番組の週平均の視聴率は、平成18年10月当時、11.2パーセントであった。
イ 平成18年12月、都内に住む証券会社員が殺害され、バラバラに切断された遺体が遺棄されるという事件(以下「本件殺人事件」という。)が発生し、社会の耳目を集めていたところ、平成19年1月10日に被疑者として逮捕されたのは、その妻であった。
ウ 本件番組では、妻が被疑者として逮捕されたことを受けて、同月11日(木曜日)午前8時4分ころから7分ころまで、本件殺害行為が行われたとされる東京都渋谷区所在の会社員の自宅マンション(以下「本件マンション」という。)前において、戊田春夫アナウンサー(以下「戊田アナウンサー」という。)による現場中継として本件放送を行った。
エ 本件放送では、画面の背景に本件マンション前の映像が映し出され、画面右上に「渋谷・自宅前」、「LIVE」、画面右下に「新宿・渋谷“切断遺体”」、「速報」、「32歳妻、夫の捜索願い出し…隠ペい工作か」との見出しを付け、本件マンション前にいる戊田アナウンサーが、スタジオにいる司会者の被告乙山に対して本件事件の概要を報告するというものであって、画面左下の小窓には被告乙山の映像が映されていた。
オ 本件放送中におけるスタジオ司会の被告乙山と現場中継の戊田アナウンサーとの会話等の内容は、別紙「発言目録」に記載のとおりであって、概ね次のようなものであった。
(ア) 戊田アナウンサーが現場から報告をしていた平成19年1月11日午前8時4分ころ、戊田アナウンサーの右後方(画面左)を収集車が通過し、停車した。
(イ) 戊田アナウンサーの後方を収集車が通過したのを見た被告乙山は、戊田アナウンサーに対し、「戊田君、今あなたの後ろこれ、ごみの収集車じゃない?」、「発見されていない手首や何かを生ごみと一緒に出したってことは、この収集車が集めに来てるわけ?」などと発言した。戊田アナウンサーは、「今この場で聞けるのかな、ちょっとわからないですけども。」などと言いながら、収集車が停止している方向に駆け出し、カメラもこれを追いかけて放送した。
(ウ) 同日午前8時5分6秒ころ、収集車が停止しているところに駆け寄った戊田アナウンサーは、収集車の運転席にいた原告に対し、「すいません、マンションのごみっていうのは中にあるんですかね?」などと質問を開始した。原告が、「向こうのパチンコ屋さんのごみなんです。」と応じたところ、戊田アナウンサーは、引き続き、「こちらのマンションのごみっていうのはどちらに捨てられるかってお分かりですか?」などと尋ねて、原告が、「ああ、あそこです。」などと答えた。
(エ) そして、同日午前8時5分38秒ころ、戊田アナウンサーが、さらに原告に対して、「え、どこ?」と問いかけたところ、原告は、戊田アナウンサーに対し、「これテレビ出るんですか?」と問い返し、もう一度、「これテレビ出るんですか?」と聞き返した。一瞬、戸惑った戊田アナウンサーは、原告に対して、「ああ、あの映さないように、ええ、配慮いたします。」と答えた。これらの原告と戊田アナウンサーとの一連のやりとりをスタジオで聞いていた被告乙山は、同日午前8時5分47秒ころ、「映っちゃってるよ、もう十分。」と発言した。
(オ) この間、同日午前8時5分9秒から27秒までの間、同分36秒から42秒までの間、同時6分5秒、同分18秒から19秒、同分22秒から23秒、同分38秒、同分46秒から55秒まで、同分59秒、同時7分0秒に放送された映像には、原告と原告が運転していた収集車が映し出された。
カ ちなみに、この時の原告は、本件マンションとは別のビルの廃棄物を収集するため本件マンション付近を通りかかっただけで、本件マンションから出た廃棄物を収集しようとしていたものではなかった。
(3) 本件放送後の事情
ア 戊田アナウンサーは、本件放送の翌日である平成19年1月12日、本件マンション前に赴き、廃棄物収集作業中の原告に対し、「昨日は、本当にすみませんでした。」、「少し映りました」、「昨日は私も上の人から怒られて大変でした。本当にすみませんでした。」、「大丈夫でしたか」などと声をかけて、謝罪した。
イ 原告は、仕事の関係で家族と別居していたため、本件放送の翌日に戊田アナウンサーが再び尋ねてきた時点では、どの程度まで原告の顔や収集車が放送されたのかを把握しておらず、戊田アナウンサーから「少し映りました」と言われたこともあって、「少し」であれば大したことはないと考え、戊田アナウンサーに対し、「大丈夫ですよ」と答えるとともに、戊田アナウンサーを芸能人と誤解して、サインを求めた。
ウ 原告は、さらにその翌日である同月13日、妻の甲野花子(以下「妻花子」という。)からの電話によって、同月11日午前8時4分ころから同時7分ころまでにかけて、収集車や戊田アナウンサーの質問に答えている原告の様子や原告の顔などが放送されたことを初めて知った。そして、原告は、同月14日、被告に対して抗議を行い、本件放送を録画したビデオテープを原告に開示するよう求めた。
エ 原告の要求を受けて、本件放送の責任者であった丁原プロデューサーは、同月15日、本件放送が録画されたビデオテープを持参して原告の自宅を訪れ、原告及び家族に対して、本件放送がなされてしまったことについて謝罪するとともに、何とか事態を収拾する方法を探ろうとしたが、原告と妻花子の怒りは収まらなかった。
第三 争点及び当事者の主張
一 争点一(不法行為の成否)
(原告の主張)
(1) プライバシーの侵害
ア 何人も、通常、他者に公開されることを欲しない情報を収集、公表文は開示されないことにつき、法律上保護されるべき人格的利益を有している。本件放送では、収集車を運転している原告の姿が広く世間一般に放送されてしまったが、収集車の運転手であることは、通常、公開を欲しない情報であることは明らかである。
イ 原告は、生中継とは気づかなかったため、戊田アナウンサーの質問に答えてしまったが、前記のとおり、「これテレビ出るんですか?」と問い返しており、原告が収集車の運転手をしていることを世間一般に知られたくないとの意思を伝えていた。
ウ そして、戊田アナウンサーは、「映さないように、ええ、配慮いたします。」などと答えていたにもかかわらず、実際には、2分以上にわたって原告が収集車を運転している様子や、収集車から降りてきた原告の顔などが放送されてしまったのであって、本件放送は、原告が社会に対して公開して欲しくない個人的な情報を広く世間一般に公開して、原告のプライバシーを侵害したものである。
(2) 名誉毀損
ア また、本件放送においては、司会をしていた被告乙山は、「戊田君、今あなたの後ろこれ、ごみの収集車じゃない?」、「発見されていない手首や何かを生ごみと一緒に出したってことは、この収集車が集めに来てるわけ?」などと発言して、本件放送を見ていた一般視聴者に対して、あたかも原告が本件殺人事件でバラバラに切断された被害者の遺体の一部を運搬した人物であるかのような印象を与えた。
イ このような被告乙山による不適切な発言により、原告の社会的名誉や社会的評価は著しく低下した。
(3) 肖像権の侵害
ア 何人も、みだりに他者からその容貌等を撮影されないことにつき法律上保護されるべき人格的利益を有する。
イ ところが、本件放送では、前記のとおり、平成19年1月11日午前8時4分ころから同時7分ころまでの間、原告の承諾もないまま、原告が収集車を運転している原告の様子や、戊田アナウンサーの質問に答えている原告の顔などが生放送されてしまい、原告の肖像権が侵害された。
(4) 侮辱
ア 本件放送の際、原告は、収集車の運転手をしていることを知人等に知られたくなかったため、戊田アナウンサーに対し、「これテレビ出るんですか?」などと念を押した。これに対して、戊田アナウンサーは、「ああ、あの映さないように、ええ、」配慮いたします。」と答えた。
イ 本件番組の司会者である被告乙山は、番組の進行を司る者として、原告が収集車と共に放送されることを拒否する姿勢を示していることを容易に理解し得たのであるから、スタッフ等に現場中継を中断するよう指示したりして、原告の容姿や顔などが放送されないように配慮すべきであったのに、これをしなかったばかりか、笑いながら、「映っちゃってるよ、もう十分。」などと発言し、原告をあざ笑って侮辱したものである。
(被告らの主張)
(1) プライバシーの侵害について
 原告は、顔を隠すことなく公道上で業務に従事しており、また、収集車の運転手も立派な職業であり、それ自体が通常公開されることを欲しない情報であるとはいえない。
(2) 名誉毀損について
ア 本件放送は、現場中継の際、偶然に収集車が通りかかったため、その運転手に対して、本件マンション付近におけるごみや廃棄物の収集方法等についてインタビューし、その実情を理解してもらおうとしたものにすぎず、原告が本件殺人事件に直接かかわったという報道ではないことは明らかであるから、本件放送をみた一般の視聴者に対して、原告が本件殺人事件に関わった人物であるとの誤った印象を与えるものではない。
イ また、廃棄物等の収集そのものは、現代社会を支える重要な職業の一つであって、公益的な仕事であり、何ら恥ずべき職業ではないし、一般社会において、恥ずべき職業であるとの社会的評価が確立しているというわけでもない。
ウ したがって、本件放送によって原告が収集車を運転している様子が放送されたとしても、これによって原告の社会的評価が低下することはないというべきである。
(3) 肖像権侵害について
ア 確かに、本件放送において、一部、原告の様子や顔が放送されてしまったことは事実であるが、放送の途中で、原告から、「これテレビ出るんですか?」などと確認され、戊田アナウンサーが、「映さないように、ええ、配慮いたします。」と答えた後は、原告の顔などが特定できないよう、遠目で撮影して放送するようにしており、原告の肖像権等に一定の配慮がなされていたものである。
イ 仮に、原告の肖像権について侵害があったとしても、原告は、本件放送の途中までは、テレビカメラによる撮影を拒否するような姿勢は何も示しておらず、他社のインタビューにも応じていた。
ウ しかも、原告は、本件放送の翌日、本件放送によって原告の映像が放送されてしまったことについて謝罪に行った戊田アナウンサーに対して、「大丈夫ですよ」と答えるとともに、サインを求めていたのであるから、原告は、本件放送がなされたことにつき、黙示の哀話を与えていたか、宥恕をしていたものというべきである。
(4) 侮辱について
 被告乙山が、本件放送において、「映っちゃっているよ、もう十分。」と発言したことは事実であるが、それは、原告について嘲笑したり侮辱したものではなく、戊田アナウンサーの言動などに失笑して発言したものである。すなわち、戊田アナウンサーは、現場中継において、テレビカメラと共に自ら原告に駆け寄り、原告に対してインタビューをし、その映像が現にテレビで放送されていることは当然に分かっているはずであるのに、原告からなされた「テレビに出るんですか」という確認に対し、「ああ、あの映さないように、ええ、配慮いたします。」などと、とんちんかんな受け答えをした上、「あのコードが届かないんで、すいません。」とやや間の抜けたことを言いながら移動している様子があまりにも滑稽であったため、そのような戊田アナウンサーの言動等に対して、「映っちゃっているよ、もう十分。」と発言したものにすぎないのであって、冷静に全体を聞けば、被告乙山に原告を嘲笑する意図がなかったことは明らかである。
二 争点二(共同不法行為等の成否)
(原告の主張)
(1) 被告乙山は、前記のとおり、本件番組の司会者として、原告の権利を侵害しないように配慮する義務があったのに、これを怠り、本件放送の際、戊田アナウンサーに対して原告が運転していた収集車を追いかけるよう指示しただけではなく、前記のように不護慎な発言をして原告を嘲笑し、その名誉感情を傷つけた。
(2) 被告東京放送は、本件番組の放送主体として、また、被告TBSは、本件放送の制作主体として、それぞれ本件放送に際して原告ら一般市民の肖像権などを不当に侵害することがないよう十分に配慮すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、原告が収集車の運転手をしているという他の者には知られたくない個人的な情報を、全国ネットのテレビ番組による本件放送を通じて、広く一般の視聴者に知らしめ、前記のとおり、原告のプライバシーや名誉や肖像権などの権利を侵害した。
(3) また、本件番組のプロデューサーとして本件放送の責任者であった丁原プロデューサーと本件現場中継で原告にインタビューを行った戊田アナウンサーは、いずれも被告東京放送の社員である。したがって、被告東京放送は、丁原プロデューサーや戊田アナウンサーの不法行為につき、民法715条に基づく使用者責任を負う。
(4) よって、被告らは、民法709条、715条、719条に基づき、共同不法行為責任を負うべきである。
(被告らの主張)
(1) 被告らの貴任分担等
ア 本件番組の放送主体が被告東京放送であり、本件放送の制作主体が被告TBSであること、本件放送の責任者が丁原プロデューサーであったこと、丁原プロデューサーと戊田アナウンサーがいずれも被告東京放送の社員であることは、認める。
イ 被告乙山は、戊田アナウンサーに対して原告をインタビューするように明確な指示を出したわけではない。そもそも、カメラマンに対してどのような映像を撮影すべきかや、同時に複数の映像が撮影されている中で、どの映像を選択して実際に放送するかなどを決定する権限は、司会者である被告乙山にはない。これらの権限は、スタジオの隣に設けられている副調整室に待機しているプロデューサーなどの番組の制作担当者にあり、これらの製作担当者が実際にも決定しているのである。したがって、本件放送について何らかの責任があるとすれば、それは、プロデューサーに代表される本件番組の製作担当者等にある。
ウ また、被告乙山は、戊田アナウンサーの言動等に対して失笑しただけで、原告を嘲笑したり、侮辱する意図は全くなかった。被告乙山に不法行為は成立しない。
(2) 違法性阻却事由など
ア 仮に、本件放送によって原告の肖像権を侵害したことがあったとしても、この点について原告の黙示の承諾があったことは、前記に記載のとおりである。
イ 仮に、本件放送について原告の黙示の承諾が認められなかったとしても、原告は撮影されること自体を明確に拒否していたわけではなく、他社のインタビューにも応じていたから、被告らにおいて原告の黙示の承諾があったと考えたのはやむを得ない状況であった。しかも、被告TBSは、原告から「これテレビに出るんですか?」といわれた後、原告を特定することができない程度に遠目から撮影しており、相応の配慮をした。
ウ また、原告は、本件放送の翌日に謝罪に訪れた戊田アナウンサーに対し、「大丈夫ですよ」と答えるとともに、サインを求めたのであって、一旦は本件放送を容認しでいたことは明らかである。
エ 被告TBSや被告東京放送は、法的な責任を認めたわけではないが、本件放送後、原告から抗議があったので、丁原プロデューサーらを原告の自宅に赴かせ、原告に対して直接謝罪を行うなど、誠意ある対応を取った。原告は、原告に対する連絡がなかったと主張しているが、原告から丁原プロデューサーに対して、弁護士と相談して連絡するとの話がなされたため、被告らは原告からの連絡を待っていたのである。
(3) したがって、被告らに共同不法行為は成立しない。
三 争点三(損害の額)
(原告の主張)
(1) 本件放送がなされた後、原告の妻花子の許には、知人や親戚などから、「ごみ屋をしているんだって、みんなびっくりしてたよ」、「手首を運んだ車には塩をふった方が良い」、「バラバラ死体の一部を収集したんだって」などと、原告の職業を蔑んだり、原告が本件事件の被害者の遺体の一部を収集したと誤解して、侮蔑的な連絡をしてくるものが多数あった。また、原告に対しても、職場の同僚などから同様の発言がなされるなどして、原告及び妻の花子は、著しい不快の念を覚えた。
(2) また、原告の長男は、本件放送当時、小学2年生であったが、本件放送をきっかけに、友人らから、「お前の父ちゃん、ごみ屋さんなんだって?死体や手首を運んだのか?」、「くさい」などと手ひどいいじめを受けるようになり、登校拒否などの事態になっている。しかも、テレビで被告乙山が出ているのを見ると、「あいつ、ぶっ殺してやる」等というようになり、本件放送が子供の成長に深刻な影を落としてしまったことに、原告夫婦は心を痛めている。
(3) このように、原告及び原告の家族は、被告らの共同不法行為によってなされた本件放送によって、多大な精神的苦痛を受けており、これを慰謝するための損害賠償の額は1000万円を下らないというベきである。
(4) また、原告は、本件請求を行うために弁護士に依頼することを余儀なくされており、被告らの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用の額は、請求金額の1割に相当する100万円が認められるべきである。
(被告らの主張)
 すべて争う。
第四 当裁判所の判断
一 争点一(不法行為の成否)について
(1) 平成19年1月11日に放送された本件番組において、午前8時5分ころから午前8時7分ころまでの間、廃棄物収集車を運転するなどしていた原告の承諾なしに、その容貌等が生放送されたことは、当事者間に争いがない。
(2) そこで、まず、本件放送によって原告のプライバシーや名誉や肖像権が侵害されたか否かについて判断する。
ア まず、<証拠略>によれば、次の事実が認められる。
(ア) 同日午前8時5分5秒から30秒まで、同34秒から47秒まで、同分58秒から同時6分5秒まで、同分10秒から24秒まで、同分34秒から55秒まで、同分59秒、同日午前8時7分0秒に放送された映像等には、原告や原告が運転していた収集車が映し出されている。
(イ)特に、同日午前8時5分17秒から27秒まで、同分37秒から39秒まで、同時6分5秒、同18秒、19秒、22秒、23秒、35秒、38秒に放送された映像等では、原告の顔が比較的大きく映し出され、原告が戊田アナウンサーの質問に答えるなどしている様子が放送されたから、原告を知っている者であれば、それが原告であることを識別することは容易であった。
(ウ) また、同日午前8時5分6秒、同8秒から15秒まで、同28秒から30秒まで、同35秒、同58秒、同59秒、同日午前8時6分14秒、同24秒、同34秒の映像等には、原告が運転していた収集車が映し出されており、同収集車の右側面に記載されている「区1廃第1333号」、「株式会社丙川」の文字を読みとることができ、原告が勤務していた会社を識別することも容易であった。
イ 上記の事実によれば、原告が廃棄物収集車を運転し、収集車から下りてきて、中継現場付近における廃棄物の収集状況等について説明している様子が、約2分間にわたって、テレビ画面を通じて全国に放送されたものであり、各家庭等において本件放送の映像等を視聴していた一般の視聴者においても、原告が廃棄物収集業に従事していることを容易に認識することができたと認められる。
ウ ところで、一般に、何人も、みだりに他者からその容貌を撮影されたり、職業等の個人情報を公表されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益を有するというべきである。これに対し、本件放送は、上記のとおり、原告が収集車を運転していた様子や収集車から下りて収集車の前で説明している原告の顔などを生放送し、原告が収集車の運転手をしていることを広く社会一般に報道して公開したものであるから、原告の承諾があるなど特段の事情が認められない限り、原告の肖像権を侵害しただけではなく、原告のプライバシーをも侵害したものというべきである。
 なお、原告は、本件放送は原告があたかもバラバラに切断された遺体の一部を運搬したかのような印象を一般視聴者に対して与えるものであり、この意味でも原告の社会的評価を低下させた等と主張しているが、本件放送における一連の会話の内容等は、別紙「発言目録」に記載のとおりであり、その内容は、一般の視聴者に対して原告が本件殺人事件に関与した人物であると印象を与えるようなものではないから、原告の上記主張を採用することはできない。
エ もっとも、被告らは、本件放送当時、原告は顔を隠すことなく公道上で業務に従事していたものである上、収集車の運転手も立派な職業であり、それ自体が通常公開されることを欲しない情報であるとはいえないなどとして、プライバシーを侵害していないと主張している。確かに、廃棄物を収集したり処理することも社会に役立つ立派な職業であり、何ら問題はないはずではあるが、社会一般の実情を考えると、一部の職業に対する偏見や無理解が完全に無くなっているわけではなく、ときに差別的な発言等がなされたり、子供に対するいじめなどの引き金になったりすることもありうるところである。そうすると、原告において、自分が廃棄物収集業に従事していることを他人には知られたくないと考えることも、理由がないわけではないものと認められるから、収集車の運転手をしているということは、原告にとってプライバシーに該当するものというべきである。この点の被告らの主張を採用することはできない。
オ また、被告らは、原告が他社の取材にも応じていたことなどから、本件放送についても原告の黙示の承諾があったと主張している。
 しかしながら、原告は、前記のとおり、戊田アナウンサーからの質問の途中に、同アナウンサーに対して、「これテレビ出るんですか?」、「これテレビ出るんですか?」と二度聞き返しており、戊田アナウンサーも、原告に対して、「ああ、あの映さないように、ええ、配慮いたします。」と答えていたのであるから、このような原告と戊田アナウンサーとの会話の趣旨から考えれば、原告は、インタビューが生中継されていて自分の映像がそのまま全国に放送されていることを知らなかったものと認めるのが相当であって、自分の容貌等がそのままテレビで放送されることを容認していたものではなく、むしろ、画面に原告の容貌等が放送されない前提で取材に応じていたものと考えるのが相当である。
 しかも、原告が上記のような確認の発言をしたのは、同日午前8時5分38秒から41秒までであったが、その後も、同日同時6分5秒、同分18〜19秒、同分22〜23秒、同分35秒、同分38秒の映像において、原告の容姿等が放送されており、引き続き原告が廃棄物収集業に従事していることを識別できる状態であったことが認められるから、被告らにおいて、原告を識別できないように相応の配慮したということはできない。
カ さらに、被告らは、原告が本放送の翌日に戊田アナウンサーに対して「大丈夫ですよ。」と答えたり、サインを求めたりしたことなどから、本件放送につき原告から黙示の承諾や宥恕があったと主張している。
 しかし、戊田アナウンサーが謝罪のために原告を尋ねていったといっても、本件放送の翌日、前日に放送した現場の近くで、仕事のために再び現場付近を通りかかった原告を待ち受けて、立ち話でそのような会話をしたというだけであり、原告において、事情をよく理解した上でなされた会話ではない。原告本人の供述や<証拠略>によれば、原告は、仕事の性質上、昼夜逆転に近い生活をしており、子どもの学校の関係もあって、平日は家族を横浜に残して肩書地で単身で生活していたため、この時点では、妻の花子とも十分な話をしておらず、本件放送の内容等をよく把握していなかったことが認められる。しかも、戊田アナウンサーは、謝罪に際して、原告に対し、「少し映りました。」と控えめに告げたため、原告は状況を十分に把握することはできなかったのであって、上記の原告の言動等は誤解に基づいてなされたものであることが明らかであるから、原告が戊田アナウンサ―に対して「大丈夫ですよ。」と言ったり、サインを求めたからといって、原告が本件放送においてその肖像や職業が公開されてしまったことについて、黙示の承諾をしたり、宥恕を与えたということにはならないというべきである。したがって、被告らのこの点の主張を採用することもできない。
キ 上記のところによれば、本件放送は、原告の肖像権を侵害するとともに、そのプライバシーをも侵害したものであることが明らかであり、違法なものというべきである。もっとも、名誉侵害の有無については、原告の個人的な名誉感情が傷つけられたか否かではなく、社会一般の平均的な人物の立場に立って、客観的に原告の社会的評価が低下させられるようなものであったか否かの観点から判断されるべきところ、客観的には、廃棄物の収集という職業が社会的に何かの問題のある職業というわけではなく、何ら恥ずべき職業でもないことは明らかである上、原告にインタビューをした戊田アナウンサーにおいても、また、司会をしていた被告乙山においても、原告の社会的な評価を低下させるような言動等をしていたわけではないから、本件放送によって原告の名誉が侵害されたとする点については、これを採用することはできない。
(3) 被告乙山による侮辱の成否
ア 原告は、被告乙山が、本件放送において、「映っちゃってるよ、もう十分。」と発言したことをもって、原告を嘲笑したものであり、侮辱に当たると主張している。
イ そこで、この点について検討する。
(ア) 前記認定のとおり、被告乙山は、本件番組において、戊田アナウンサーによる現場からの中継画面を見ていた際、戊田アナウンサーの後ろを収集車が通過したことから、「戊田君、今あなた後ろのこれ、ごみの収集車じゃない?」、「発見されていない手首や何かを生ごみと一緒に出したってことは、この収集車が集めに来てるわけ?」などと発言し、戊田アナウンサーに収集車が通りかかったことを教えた。
(イ) 戊田アナウンサーは、収集車を追いかけて収集車に近づき、収集車を運転していた原告に対し、「すいません、マンションのごみっていうのは中にあるんですかね?」などと質問等を開始した。原告は、戊田アナウンサーの質問にいくつか答えた後、同アナウンサーに対し、「これテレビ出るんですか?」、「これテレビ出るんですか?」と聞き返した。原告からテレビに映るのかと尋ねられた戊田アナウンサーは、やや戸惑いながら、原告に対し、「ああ、あの映さないように、ええ、配慮いたします。大体の場所でいいんですけれども、すみません。」と答えた後、「あ、ちょっとあのコードが届かないんで、すみません。」と発言した。
(ウ) このような原告と戊田アナウンサーの一連のやりとりをスタジオで聞いていた被告乙山は、「映っちゃってるよ、もう十分。」と発言したというのが経過である。
ウ ところで、このような本件における原告と戊田アナウンサーとのやりとりを前提として、被告乙山の上記発言の趣旨を客観的に理解すると、現場中継中で、テレビカメラと共に自ら原告に駆け寄り、原告に対してインタビューをし、その映像が現にテレビで放送されているであろうことは当然に分かっているはずの戊田アナウンサーが、「ああ、あの映さないように、ええ、配慮いたします。」などと、誤った受け答えをした上、「あのコードが届かないんで、すいません。」と言いながら移動している様子などが、本来、殺人現場近くからの実況中継として、緊張感が漂うはずの雰囲気に相応しいものではなく、不適切なものであったため、そのような戊田アナウンサーの言動等に対して、「映っちゃっているよ。もう十分」と発言したものと考えるのが相当である。もちろん、被告乙山の発言が、さまざまの職業に対する社会一般の受け止め方に温度差があり、ときに差別的な意見があることに配慮してなされたものではなく、発言にやや軽さがみられるところに原告の不満があるものと考えられるが、被告乙山の上記発言を冷静に聞いていれば、同人において原告を嘲笑したり侮蔑しようとする意図がないことは明らかというべきであるから、それは、当不当の問題にとどまり、違法というものではない。
 また、被告乙山は、上記のとおり、戊田アナウンサーに対して、同アナウンサーの後ろを収集車が通過したことを教えたものの、原告へのインタビュー取材をするように明確な指示を出したわけではない。ちなみに、後記のとおり、本件番組の製作体制においては、取材先や放送すべき映像の選択等の権限はプロデューサーなどの製作スタッフが有するものであって、被告乙山にそのような権限がなかったことも明らかである。そうすると、いずれにしても、被告乙山が原告を侮辱したとする原告の主張を採用することはできないというべきである。
二 争点二(共同不法行為の成否)について
(1) 被告乙山の法的責任
ア まず、本件放送において、被告乙山自身がその発言によって原告の名誉やプライバシーを侵害した事実を認めるに足りる証拠はない。原告が主張している「映っちゃっているよ、もう十分。」という発言も、前記認定のとおり、戊田アナウンサーに対して向けられたもので、原告を侮辱したりしたものではない。
イ 原告の肖像権の侵害についても、被告乙山は、本件番組の司会者であるにとどまり、本件放送を行うための事業免許などを有して自ら本件放送を放送したものではない。
ウ また、被告乙山が、本件番組の司会者として、前記認定のとおり、現場から実況中継をしていた戊田アナウンサーに対し、収集車が通り過ぎたことを教えたりして、本件放送のきっかり(ママ)を作ったことは、事実である。しかしながら、本件放送においてどのような映像を放送するか、どのような相手方に対してどの程度の取材やインタビューをするかを決定する権限は、本件番組のプロデューサーなどの製作スタッフが有するものであって、司会者である被告乙山にそのような権限がなかったことは、後記のとおりである。したがって、その意味でも、被告乙山が本件放送につき何らかの法的責任を問われることはない、というべきである。
(2) 被告東京放送及び被告TBSの法的責任
ア まず、本件当時の本件番組及び本件放送の制作・放送体制の概要は、次のとおりである。
(ア) 本件番組は、月曜日から金曜日まで、毎朝午前5時30分から午前8時30分まで放送され、取り上げるテーマは、通常は前日の午前10時の会議で決定されるが、直前に発生した重大事件を取り上げることもあった。
(イ) 平成19年1月当時の本件番組の制作責任者は、甲田夏夫制作プロデューサー(以下「甲田プロデューサー」という。)であった。甲田プロデューサーの下に、制作プロデューサーを補佐する番組プロデューサーとして丁原プロデューサー(火曜日及び木曜日を担当)と乙野秋夫プロデューサー(月曜日、水曜日、金曜日を担当)がおり、各番組プロデューサーの下に、それぞれ曜日ごとに現場の指揮監督を行う曜日プロデューサーがいて、曜日プロデューサーの下にチーフディレクターが、チーフディレクターの下にディレクターが、ディレクターの下にアシスタントディレクターが、それぞれ配置されていた。
(ウ) 丁原プロデューサーらは、担当する曜日の放送開始2時間前から放送直前まで打合せや調整を行い、放送中はスタジオ及びスタジオの隣で様々な映像をモニターで監視することができる副調整室において、本件番組の進行を管理していた。特に、番組プロデューサーは、スタジオ又は副調整室のいずれかに在室し、スタジオにいる場合は出演者と打合せや調整を行いながら、必要に応じてスタッフに対して指示を出していた。
(エ) 副調整室には、現場中継のカメラから送信されてくるモニター画面とスタジオで撮影しているカメラの映像を映し出すモニター画面が5つずつと、放送中の画面を映し出すモニター画面が1つあり、どのモニター画面を放送するかを選択し、その判断を行っているのは、主としてプログラムディレクターと呼ばれるスタッフであった。生中継の場合には、コーディネーターといわれるスタッフも副調整室とスタジオとの連絡役を務め、通常は、プログラムディレクターの指揮の下で、コーディネーターがスイッチャーと呼ばれる技術者に画面の切り替えを指示していた。もっとも、事前の打合せが変更された場合などには、必要に応じて曜日プロデューサーがプログラムディレクターやコーディネーターに対して直接指示を出したりして指揮していた。
(オ) 平成19年1月11日の本件番組において、本件殺人事件の犯人として妻が逮捕されたことを取り上げることは、同日午前0時前後に、同日を担当する曜日プロデューサーとチーフディレクターとで決定され、これを丁原プロデューサー及び甲田プロデューサーも承認した。
(カ) 本件放送においては、午前8時5分過ぎころ、収集車を追いかけていた戊田アナウンサーが原告に対してインタビューを開始し、画面に原告の顔が映し出された瞬間、曜日プロデューサーの指示を受けたコーディネーターは、現場で撮影していたカメラマンに対し、「寄るな」、「引け」という指示をした。「寄るな」、「引け」とは、いずれも、被写体の人物を特定できないよう被写体を大写しにせずに撮影するという意味である。しかし、実際には、その指示は間に合わず、結果的に原告を特定することができる形で放送中の画面に原告の容貌等の映像が映し出されてしまった。
イ 本件では、このような本件番組の制作体制からすれば、現場のカメラマンは、副調整室に在室していたスタッフの指示に基づいて撮影する映像を判断し、これを撮影するものであり、スタジオでの映像を含めて撮影された映像の中から、どの映像を放送するかは、曜日プロデューサーやコーディネーターなどが決定するものであり、これらの副詞整室にいる制作スタッフが放送される画面を適宜選択して決定し、いつでも画面を切り替えることができたのである。そして、司会者である被告乙山にはそのような映像や画面の選択権限はなく、また、戊田アナウンサーやカメラマンに対して指示を行う権限もないことが明らかであるから、本件放送において原告の肖像権やプライバシーを侵害するような放送がなされてしまったことについては、副詞整室等に在室していた製作スタッフ等に過失があることは明らかである。
ウ また、本件放送当時、被告東京放送は、放送法等によって放送事業を許可されていたものであり、本件番組の製作にかかわっていた被告TBSは、被告東京放送の100パーセント子会社であって、これらの被告両社が一体となって本件番組を製作し、本件放送を行っていたことは、被告両社も認めているところである。
エ しかも、本件放送の番組プロデューサーであった丁原プロデューサーや現場から中継して原告にインタビューをした戊田アナウンサーが、いずれも被告東京放送の社員であることは、弁論の全趣旨により、これを認めることができる。したがって、被告東京放送には民法715条に基づく使用者としての責任も生じていることが明らかである。
オ したがって、被告東京放送及び被告TBSは、本件放送によって原告の肖像権とプライバシーとが侵害され、原告に精神的苦痛を生じさせたことにつき、民法709条、715条、719条により、共同して責任があるというべきである。
三 争点三(損害額)について
(1) <証拠略>によれば、本件放送後、原告や妻の花子の許に、原告の職場の同僚や、原告及び妻花子の知人や親戚などから、原告は「東京でごみ屋でごみ拾ってるの」などとの電話が多数あったり、本件放送当時、小学2年生であった原告の長男が、友人から、「お前のおやじ、手首とか車の中に入れたの」などといわれてからかわれ、いじめを受け、その結果、転校を余儀なくされるなどの被害を受けたこと、また、原告の長男は、家庭でテレビで見ていて、被告乙山が出てくると、「何かまたテレビ出てますよ」、「このじじい、悪い」等というようになってしまい、本件放送によって大きく傷ついたこと、原告は、原告だけではなく、原告の妻や子供までも大きな精神的苦痛を受けていることに、大いに心を痛めていることなどの事実が認められる。
(2) 他方、<証拠略>によれば、被告両社において、平成19年1月12日には戊田アナウンサーが再び現場を訪れて原告に謝罪したほか、同月15日には番組の責任者である丁原プロデューサーらが原告宅を訪れて謝罪したこと、さらに、被告両社は、このようなことが再び起きないよう再発防止の検討を行い、本件以後、現場中継を行う際には、一般人の顔がその意に反して特定されることがないようにするとともに、取材を受ける人たちに生放送中てあることを知らせるため、「生放送中」という看板を掲げるようにするなどして、再発防止の措置を採用していること、などの事実を認めることができる。
(3) また、本件放送は、原告の許可を得ずに原告の容貌等を放送してしまったものではあるが、戊田アナウンサーや被告乙山などの番組関係者が原告に対して侮辱的な言動をしたというものではない。本件で原告が主張している被害というものは、本件放送を見ていた心ない視聴者や原告の知人等の言動によって引き起こされたものであり、直接的には、そのような原告の職業を差別するかのような言動を行った者こそが非難されるべきであることはいうまでもないところである。
(4) そうすると、本件放送に際して被告両社に不注意があったことや、結果的に原告に生じた精神的な被害も決して軽いものではないこと、他方、丁原プロデューサーら関係者が原告に対して謝罪をしていることなどのほか、これまでに認定した諸事実を総合的に勘案すれば、本件において原告に対して認められるべき慰謝料の額は、100万円とするのが相当である。
(5)また、原告は、本件請求を行うために、弁護士に依頼することを余儀なくされており、本件の事案の難易等や認容額が100万円であること等を考慮すれば、本件請求と相当因果関係にある弁護士費用としでは、認容額の2割に相当する20万円と認めるべきである。
(6) したがって、本件において原告に認められるべき損害額は、合計120万円というべきであり、その余の請求は、理由がないというべきである。
四 結論
 以上の次第で、原告の被告東京放送及び被告TBSに対する請求は、上記の限度で理由があるから、その限度でこれを認容することとし、被告東京放送及び被告TBSに対するその余の並びに被告乙山に対する請求は、いずれも理由がないから棄却することとした上、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文、65条1項ただし書きを、仮執行の宣言につき同法259条1項を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所第23民事部
 裁判長裁判官 須藤典明
 裁判官 河野一郎
 裁判官 高橋伸幸は、転官につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 須藤典明


別紙 発言目録<略>
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