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【事件名】邦画3作品の格安DVD事件
【年月日】平成21年6月17日
 東京地裁 平成20年(ワ)第11220号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年4月15日)

判決
原告 東宝株式会社
同訴訟代理人弁護士 中村稔
同 熊倉禎男
同 辻居幸一
同 小和田敦子
被告 株式会社コスモ・コーディネート
同訴訟代理人弁護士 角田雅彦


主文
1 被告は、別紙被告商品目録記載1ないし3の商品を製造し、輸入し、又は頒布してはならない。
2 被告は、別紙被告商品目録記載1ないし3の商品及びその原版を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金108万円及びこれに対する平成20年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その2を原告の、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は、原告に対し、金1350万円及びこれに対する平成20年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、映画の著作物の著作権を有すると主張する原告が、被告に対し、被告が当該映画を複製したDVD商品を海外において作成し、輸入・販売しており、被告の同輸入行為は原告の著作権(複製権)を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項1号)として、著作権法112条1項及び2項に基づく当該DVD商品の製造等の差止め及び同商品等の廃棄並びに民法709条及び著作権法114条3項に基づく損害賠償金1350万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者
ア 原告は、映画の製作、映画その他の各種興行等を業とする株式会社である。
イ 被告は、映画、テレビ・ラジオ番組、ビデオ等の企画、製作及び販売等を業とする株式会社である。
(2)各映画について
ア 映画「暁の脱走」(以下「本件映画1」という。)は、Aが監督を担当し、新東宝株式会社(以下「新東宝」という。)を映画製作者として、昭和25年(1950年)に公開された。
イ 映画「また逢う日まで」(以下「本件映画2」という。)は、Bが監督を担当し、原告を映画製作者として、昭和25年(1950年)に公開された。
ウ 映画「おかあさん」(以下「本件映画3」という。)は、Cが監督を担当し、新東宝を映画製作者として、昭和27年(1952年)に公開された。
エ 本件映画1ないし3(以下、本件映画1ないし3を併せて「本件各映画」という)は、い。ずれも独創性を有する映画の著作物である。
オ Aは平成19年(2007年)10月29日に、Bは平成3年(1991年)11月22日に、Cは昭和44年(1969年)7月2日に、それぞれ死亡した(甲28ないし30)。
(3)著作権法(昭和45年法律第48号。昭和46年1月1日施行。以下、これを「新著作権法」という。なお、単に著作権法という場合は、現に施行されている著作権法を指す。)により全部改正される前の著作権法(明治32年法律第39号。以下「旧著作権法」という。)は、次のとおり規定していた。
ア 3条
 @ 発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス
 A 数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ最終ニ死亡シタル者ノ死後三十年間継続ス
イ 4条
 著作者ノ死後発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
ウ 5条
 無名又ハ変名著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス但シ其ノ期間内ニ著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキハ第三条ノ規定ニ従フ
エ 6条
 官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
オ 9条
 前六条ノ場合ニ於テ著作権ノ期間ヲ計算スルニハ著作者死亡ノ年又ハ著作物ヲ発行又ハ興行シタル年ノ翌年ヨリ起算ス
カ 22条ノ3
 活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ノ著作者ハ文芸、学術又ハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者トシテ本法ノ保護ヲ享有ス其ノ保護ノ期間ニ付テハ独創性ヲ有スルモノニ在リテハ第三条乃至第六条及第九条ノ規定ヲ適用シ之ヲ欠クモノニ在リテハ第二十三条ノ規定ヲ適用ス
キ 52条
 @ 第三条乃至第五条中三十年トアルハ演奏歌唱ノ著作権及第二十二条ノ七ニ規定スル著作権ヲ除ク外当分ノ間三十八年トス
 A 第六条中三十年トアルハ演奏歌唱ノ著作権及第二十二条ノ七ニ規定スル著作権ヲ除ク外当分ノ間三十三年トス
 B 第二十三条第一項中十年トアルハ当分ノ間十三年トス
2 争点
(1)本件各映画の著作権の存続期間の満了時期(本件各映画の著作者はだれか)
(2)原告は本件各映画の著作権を有するか
(3)被告の侵害行為の有無
(4)被告の故意又は過失の有無
(5)原告の損害の有無及びその額
3 争点についての当事者の主張
(1)争点(1)(本件各映画の著作権の存続期間の満了時期(本件各映画の著作者はだれか))について
(原告)
ア 本件各映画の著作者について
(ア)本件各映画はいずれも新著作権法の施行前に公表された映画であるから、旧著作権法が適用されるところ、旧著作権法には、著作者の定義に関する明文の規定はない。しかしながら、現実に創作行為を行うことができるのは自然人であって、法人が創作行為を行うことは不可能であるから、旧著作権法下において、法人が著作者となることはあり得ず、著作者は、自然人である。
 そして、映画の著作物の著作者については、旧著作権法には、新著作権法16条のような規定はないが、これと同様に、映画の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当して、映画の著作物の全体的形成に関与した者が著作者であると解すべきである。
(イ)Aは本件映画1の、Bは本件映画2の、Cは本件映画3の製作に当たり、それぞれ撮影、演出、俳優指導等映画の創作行為全般にわたって、主体的に関与し、創作活動を行った者である(甲31ないし35)。
 したがって、Aは本件映画1の、Bは本件映画2の、Cは本件映画3の著作者である(以下、A、B及びCの3人を併せて「本件各監督」ということがある。)。
(ウ)職務著作の規定の適用がないこと
 旧著作権法には、新著作権法15条1項のような職務著作の規定はなく、新著作権法の施行前に創作された著作物については、職務著作の規定は適用しないこととされている(同法附則4条)。これは、新著作権法15条等の新設により、既存の権利関係に影響を与えないようにするための所要の経過措置として規定されたものであると説明されている(甲5)等、旧著作権法下では、著作者は創作行為を行った自然人のみであるという原則が確立されており、職務著作は成立しない。
 したがって、被告が主張する東京高裁昭和57年4月22日判決(無体集14巻1号193頁。以下「昭和57年判決」という。)は、その限りにおいて誤りである。
 また、昭和57年判決は、あくまで新著作権法15条1項の要件を満たしていることを条件に職務著作を認めたものであるところ、本件各映画は、昭和57年判決で問題となった著作物とは、@原告又は新東宝の発意に基づくものではなく、また、原告又は新東宝が、本件各監督に対し、創作行為に関して具体的な指示を与えて創作されたものではない点、A本件各監督は、本件各映画の製作当時、原告又は新東宝の社員ではなく、また、社員として職務上割り当てられた行為を分担して行ったものでもない点、B本件各監督等の映画の創作に関与した者と映画製作者との間に指揮監督関係はない点、C本件各映画は、本件各監督等の創作活動に関与した者の個人名を出して、その者の作品として発表することが予定されていた点、D本件各映画は、本件各監督等の創作行為によって出来上がった芸術的作品であり、広く公開することを目的に作成されたものである点において異なっており、同判決で職務著作が認められたからといって、本件各映画について職務著作が認められるものではない。また、@ないしDに照らして、本件各映画は、職務著作の要件も満たさない。
 さらに、本件各監督は、本件各映画の創作に当たり、映画製作者から具体的な指揮命令を受けたことはない。指揮監督があったとする原告の主張は、具体性がなく、根拠がない。
イ 本件各映画の著作権の存続期間について
(ア)旧著作権法は、実名で著作者の生前に公表された映画の著作物の著作権の存続期間について、著作者の死後38年と規定している(同法22条ノ3、3条、52条1項)。
 他方で、旧著作権法6条は、著作物を団体名義で公表した場合には自然人の生死を基準にして著作権の存続期間を計算することができないために設けられた規定であり、同条にいう団体名義の著作物とは、自然人の著作者名が掲げられていない、団体の著作物者名義のみが表示された著作物を意味するものであって、自然人の氏名が表示され、その者の死亡時から著作権の存続期間を算定できる著作物は、団体著作物には該当しない。
 そして、本件各映画は、原告又は新東宝が著作者であるとの表示はなく、また、それぞれについて、監督であり、著作者であるA、B、Cの名前が本件各映画のポスターやクレジット等に明記されている(甲26、27、38の2、39及び40)から、いずれも自然人である著作者の実名を表示して興行された著作物であり、旧著作権法6条の団体名義の著作物には該当しない。
(イ)a Aが死亡したのは平成19年であるから、旧著作権法の規定によれば、本件映画1の著作権の存続期間は、平成57年12月31日までであり、新著作権法附則7条及び平成15年法律第85号(以下「平成15年改正法」という。)附則3条により、原告の本件映画1についての著作権は、同日まで存続する。
b Bが死亡したのは平成3年であるから、旧著作権法によれば、本件映画2の著作権の存続期間は、平成41年12月31日までであり、新著作権法附則7条及び平成15年改正法附則3条により、原告の本件映画2についての著作権は、同日まで存続する。
c Cが死亡したのは昭和44年であるから、旧著作権法によれば、本件映画3の著作権の存続期間は、平成19年12月31日までであるが、平成15年改正法附則2条により、映画の著作物の著作権の存続期間を著作物の公表後70年とする同法による改正後の著作権法54条1項が適用され、平成34年12月31日まで著作権が存続する。
(ウ)被告は、最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決・民集61巻9号3460頁(以下「シェーン判決」という。)の対象となった映画「シェーン」と本件各映画の公表形態が同一であることから、本件各映画も、団体名義をもって公表された独創性を有する映画であると主張する。
 しかしながら、シェーン判決は、アメリカ合衆国法人を著作者とし、その著作名義をもって公表されたという控訴審の認定事実を前提としたものであるところ、これは、原告であるアメリカ合衆国法人自らが映画「シェーン」の著作者であると主張し、そのことについて実質的に当事者間に争いがなかったため、当該法人を著作者としたものであり、映画「シェーン」のキャプチャー(映像抽出)写真から著作者又は著作名義の認定を行ったものではなく、本件とは無関係である。
(被告)
ア 旧著作権法上、団体も著作者となり得るとの説が多数説であったのであり、本件各映画の著作者は、団体である映画製作会社である。
 仮に、映画は、映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとしても、映画は、団体名義をもって興行した著作物であるから、旧著作権法6条の団体著作物に該当する。
 したがって、本件各映画の著作権の存続期間は、映画公表の時から30年間(延長措置により33年間、旧著作権法52条2項)となり、被告が本件各映画をDVD化したのは、本件各映画の著作権の存続期間経過後である。
イ (ア)原告は、旧著作権法の施行当時に創作された著作物について、新著作権法15条1項の職務著作の規定と同様の考え方をとることはできないと主張する。しかしながら、昭和57年判決は、@旧著作権法6条が存在することから、同法においても団体が原始的な著作権者となり得る場合があることを予定していた、A法人等の発意に基づき、その法人等の業務に従事する者において職務上作成する著作物で、その法人等がその著作名義のもとに公表するものと認められるものについては、その著作物の著作者は、その法人等である、B著作権法15条が規定するような条件のもとで作成される著作物は、通常、その法人等における比較的多数の職員が著作活動に参加し、このような職員の職務上の共同作業によって完成させることになろうが、各職員の寄与態様も判然とさせることができない一体の著作物であることが多く、創作者を多数の、かつ、関与の態様の多様な自然人と理解するよりは、端的に法人等を著作者とし、これに著作権の原始取得を認める方が創作活動の実態にも適合する、と判示している。そして、このような判示内容は、多数の人間が著作活動に参加し、職務上の共同作業によって完成され、映画会社がその費用と責任を持って公表する映画の著作物にも当てはまる。
 したがって、原告の主張は、この判決に照らして、とり得ない。
(イ)また、新著作権法の職務著作の規定の解釈においては、形式的身分関係より具体的な指揮命令を会社から受けるということが重視されているところ、本件各映画の製作の実態からすれば、原告は、社員プロデューサーや原告の代理権を有する契約プロデューサーを通じて、監督、撮影、美術等の担当者を職務上指揮監督して本件各映画を製作しており、旧著作権法上の法人著作的解釈を含む旧著作権法6条の団体著作物として、本件各映画の著作権を取得したものである。
(ウ)本件各監督を本件各映画の著作者とする原告の主張は、映画監督である本件各監督の著作者性のみを論じるものであり、原告の主張を前提としても、映画監督以外の共同著作者である映画の製作に創作的に関与した者(助監督、美術監督等のスタッフ)の共同の著作活動をどのように評価しているのか、全く不明である。
ウ シェーン判決は、劇場用映画として、アメリカ合衆国において1953年(昭和28年)に公表され、その後日本でも劇場公開された映画に関し、「本件映画を含め、昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は、本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく、その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。」と判示している。
 シェーン判決は、本件で問題となっている旧著作権法に関する判断であり、その判断は、昭和28年までに公表された映画「シェーン」と同様の劇場用映画に該当する。そして、シェーン判決の対象となった映画「シェーン」と本件各映画の公表形態が同一であること(映画「シェーン」では、順に「映画製作会社の表示」、「題名」、「出演者」、「スタッフ」、「音楽」、「製作及び監督」となっているのに対し、本件各映画はいずれも、「映画製作会社」、「脚本」、「製作」、「題名」、「スタッフ」、「音楽」、「撮影、美術、録音、照明」、「監督」となっており、同一である。)からすれば、本件各映画も、映画「シェーン」と同様、「団体名義をもって公表された独創性を有する映画」に該当し、かつ、昭和28年以前に公表されたものである。
 したがって、本件各映画の著作権の存続期間は、満了している。
エ 原告は、50年近く一度も第三者や監督等の個人から異議がなかったことをもって自己が著作権者であると主張する(後記(2))が、異議がなかったこと自体、本件各映画が団体名義の著作物と認識されていたことを示している。
(2)争点(2)(原告は本件各映画の著作権を有するか)について
(原告)
ア 映画の著作物は、多額の資本を要し、資本がなければ、映画を製作することも、公開し、上映することも困難であることからすれば、映画の著作物の著作権は、原始的には監督等に帰属するが、映画の完成と同時に、映画製作に多額の投資を行う映画製作者に帰属させて、映画製作者による映画の著作物の円滑な利用を図るべきである。
 そして、旧著作権法下では、監督等の映画の著作物の著作者は、映画の製作に参加する時点で、映画製作者に対し、著作権が映画製作者に帰属することについて同意又は了承していたものであり、映画の著作権は、著作者の明示又は黙示の意思表示により、映画完成と同時に、映画製作者に譲渡されるものである。このことは、映画製作者から、監督等に対し、創作行為に対する対価として報酬が支払われていることからも明らかである。
イ また、原告又は新東宝が、本件各映画の完成と同時に、明示的又は黙示的にその著作権の譲渡を受けたことは、次の事実からも明らかである。
(ア)@本件各映画は、当初から映画製作者である原告又は新東宝が自己の商品として公表することを前提に製作され、興行されたものであること(甲26、39、40)、A原告は、映画製作者又は映画製作者である新東宝からの著作権の承継人として、本件各映画の原版を継続して保有し、これを利用していること(甲42、43)、B映画製作者又は著作権の承継人である原告が、本件各映画を複製したビデオ及びDVD商品(以下「ビデオグラム」という。)を販売してきたこと(甲36ないし38、41、77)、C原告は、株式会社衛星劇場に対して本件映画2及び3の(甲45ないし48)、日本映画衛星放送株式会社に対して本件各映画(甲49ないし54)の、CSテレビ放送への利用権を許諾したこと、D原告は、本件映画2及び3につき、共同映画株式会社等の第三者との間で劇場上映を許諾する契約を締結したこと(甲55ないし59、76)、E原告は、本件映画1及び2につき、テレビ番組において、その映像を使用し、放送することを許諾したこと(甲60ないし63、76)、F原告は、海外における本件各映画の上映についても、許諾したこと(甲69ないし72)、G原告は、長年にわたり、BないしFのとおり著作権を行使してきたことに対して、監督や監督の遺族等の本件各映画の製作に関与した者から異議を受けたことはないこと等、原告は、本件各映画の著作権者として、平穏にその権利を行使してきた。
(イ)また、原告は、テレビ放送の利用許諾やビデオグラムを複製頒布して対価を得た場合、社団法人日本映画製作者連盟と協同組合日本映画監督協会(以下「監督協会」という。本件各監督も、同協会の会員であった(甲78の1ないし3 )。)との間の申合せ(甲73)に従い、著作権が映画製作者に帰属することを前提に、監督等に対し、追加報酬を支払っている。また、原告が著作権を有する映画についてテレビ放送を利用許諾した際又はビデオグラムの複製頒布をする際には、監督協会に対し、その旨を通知し(甲64ないし68、74ないし77)、同協会は、監督等の組合員に対し、その旨を連絡している。そして、実際にテレビ放送がされ、ビデオグラムが販売されたにもかかわらず、原告は、監督又はその遺族を含む第三者(映画製作に関与した者)から異議を受けたことはない(甲76、77)。
ウ 仮に、本件各映画につき、本件各監督の他に著作者がいるとしても、原告又は新東宝は、本件各映画の完成と同時に、これらの者が原始取得した本件各映画の著作権を承継取得している。
エ(ア)新東宝は、本件映画1が興行された昭和25年ころまでに、A等の著作者からその著作権の譲渡を受けた。
 そして、新東宝は、原告に対し、昭和38年4月20日付けで、本件映画1の著作権を譲渡した(甲15)。
(イ)原告は、本件映画2が興行された昭和25年ころまでに、B等の著作者からその著作権の譲渡を受けた。
(ウ)新東宝は、本件映画3が興行された昭和27年ころまでに、C等の著作者からその著作権の譲渡を受けた。
 そして、新東宝は、原告に対し、昭和38年4月20日付けで、本件映画3の著作権を譲渡した(甲16)。
(被告)
 原告が本件各監督から本件各映画の著作権を承継取得したとの主張は、否認する。本件各監督の著作権が原告に譲渡されたことを裏付ける本件各監督やその遺族らとの合意は、認められない。
 本件各監督以外の他の著作者についても、同様である。また、本件各監督以外の者に対して、追加報酬の支払がされているか、されていないとすればそれはなぜかについて、原告の主張はない。
(3)争点(3)(被告の侵害行為の有無)について
(原告)
ア(ア)被告は、本件各映画を複製した別紙被告商品目録記載1ないし3のDVD商品(以下「本件DVD」という。)を国外(本件映画1は韓国等、本件映画2及び3は台湾等)で作成し、平成19年1月ころから、本件DVDを我が国に輸入し、国内で頒布している(甲1ないし3(枝番を含む。), 20、21の1ないし3)。
(イ)被告は、本件DVDの販売や頒布を否定する。しかしながら、被告は、本件DVDを合計3000枚製造したことを自白していた。また、被告の主張は、本件映画2については株式会社アブロックではなく株式会社ブレーントラストに対する発注書及び請求書があること(乙20、21)、本件DVDのカタログやパッケージに「発売元:Cosmo Contents」と記載されていること、本件DVDをユーザーに販売した会社においても被告から本件DVDを購入した旨述べていることから、根拠がない。
イ 本件DVDは、その輸入時に国内で作成したとしたならば原告の複製権を侵害すべき行為によって作成されたものである。
 また、被告は、本件DVDを実際に国内で頒布していることから、頒布目的で本件DVDを輸入したことは明らかである。
 したがって、被告が本件DVDを輸入する行為は、著作権法113条1項1号により、著作権侵害行為とみなされる。
 また、被告は、将来、国内でこれを製造するおそれもある。
ウ よって、著作権法112条1項及び2項により、本件DVDの製造、輸入又は頒布の差止め並びに本件DVDの在庫品及び原版の廃棄を求める。
(被告)
 DVDのパッケージを製作し、製品化して販売したのは、別紙被告商品目録記載1及び3のDVD商品については株式会社サイドエー、同目録記載2のDVD商品については株式会社アブロックであり、被告が販売用にパッケージ化して商品にして頒布したものではない。また、被告は、本件DVDの在庫も有していない。なお、本件映画2について、被告は、DVDの盤を国外の業者に製造委託して、株式会社アブロックに納品したものである。
 したがって、被告は、本件DVDの販売や頒布をしていない。
 また、被告が頒布目的をもって本件DVDを輸入したことは、否認する。
(4)争点(4)(被告の故意又は過失の有無)について
(原告)
ア 被告は、映画の複製頒布を業として行っており、自らが取り扱う映画の著作権の存続期間が満了しているかどうかを十分に調査する義務を負っているにもかかわらず、本件DVDを輸入するに当たり、本件各映画の著作権の存続期間につき十分な調査を行わなかった。
 また、被告は、平成19年9月14日に、旧著作権法下で公開された映画の著作権の存続期間について、旧著作権法3条の適用が認められて敗訴した(甲10)後も、本件DVDの輸入販売を継続している(甲20、21の1ないし3)。
 したがって、被告による前記(3)の著作権侵害行為については、被告の故意又は過失が認められる。
イ 被告は注意義務違反がないと主張するが、旧著作権法においては、職務著作の規定はなく、また、映画の著作物の著作者が映画製作者であると明言する旧著作権法上の学説もないことからすれば、被告の注意義務違反は明らかである。
(被告)
 旧著作権法において、映画の著作物の著作者はだれかという問題については、法律専門家ですら意見が分かれているのであるから、その中で、被告にとって理論的に首肯でき、妥当な解決と考えられる説に依拠して社会活動上の判断をするのは当然であり、単に、その判断が原告の解釈と異なるからといって、直ちに被告に注意義務違反があるというのは、不可能を強いることになり、不合理である。
 したがって、被告には、予見可能性、回避可能性、期待可能性はなく、過失はない。
(5)争点(5)(原告の損害の有無及びその額)について
(原告)
ア 著作権法114条3項は、原告が受けるべき使用料相当額を損害賠償額として算定することができると規定する。
 そして、本件のように、被告が著作物の違法な複製物を通常の販売額より極めて低額で販売した場合には、原告が通常受領すべき金額を重視すべきであり、合理的使用料率の算定に当たっては、被告の実売価格ではなく、原告の標準小売価格をベースとすべきであるところ、原告の標準小売価格は、1本4500円(税込み)である。
イ 「エンターテインメントと法律」という文献(甲23)には、「権利ホルダー(出資者)がロイヤリティを取る場合の例」として、上代を100と仮定すれば、権利ホルダーは25と記載されている。また、「プロデューサー・カリキュラム」という文献(甲24)には、最終的に消費者が支払う上代を100%とした場合、映画の製作者(出資者)の収入は、そのうち25%である旨記載されている。さらに、「コンテンツビジネスの資金調達スキーム」という文献(甲25)には、マスター渡しの場合の掛け率は、通常、上代の20%程度と考えておけばよい旨記載されている。
 これらのことからすれば、本件各映画の合理的な使用料率は、原告の標準小売価格の20%は下らない。
ウ 被告は、本件DVDを、少なくとも1作品につき5000本を輸入している。
エ したがって、被告の著作権侵害により原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、1350万円(=4500円×0.2×5000本×3作品)であり、原告は同額の損害を受けた。
オ よって、原告は、被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償金1350万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
ア 被告の販売価格は、別紙被告商品目録記載1及び3のDVD商品については1枚当たり330円、本件映画2のDVDの盤については、1枚当たり90円である。
イ 使用料率を20%とする原告の主張の根拠は曖昧であり、原告が実際にDVDを販売した場合の使用料率は、20%よりも低い。
ウ 被告の本件DVDの製造枚数は、本件各映画それぞれにつき1000枚である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件各映画の著作権の存続期間の満了時期(本件各映画の著作者はだれか))について
(1)映画の著作物の保護期間に関する我が国の法令の概要
 前記第2の1(2)のとおり、本件映画1及び2は昭和25年(1950年)に、本件映画3は昭和27年(1952年)にそれぞれ公表されたものであり、新著作権法が施行された昭和46年1月1日より前に公表された映画の著作物である。このような旧著作権法下で公表された映画の著作物の著作権の存続期間に関する我が国の法令の概要は、次のとおりである。
ア 前記第2の1(3)のとおり、旧著作権法は、映画の著作物の著作権の存続期間を、独創性の有無(22条ノ3後段)及び著作名義の実名(3条)、無名・変名(5条)、団体(6条)の別によって別異に扱っていたところ、前記第2の1(2)エのとおり、本件各映画は独創性を有する映画の著作物であるから、本件各映画の著作権の存続期間については、本件各映画の著作名義が監督等の自然人であるとされた場合には、その生存期間及びその死後38年間(22条ノ3後段、3条、52条1項)とされるのに対し、それが団体である映画製作者名義であるとされた場合には、本件各映画の公表(発行又は興行)後33年間(22条ノ3後段、6条、52条2項)とされることになる。
イ 旧著作権法は、昭和46年1月1日に施行された新著作権法により全部改正された。新著作権法(平成15年改正法による改正前の規定)は、映画の著作物及び団体名義の著作物の保護期間を、いずれも、原則として、公表後50年を経過するまでの間と規定する(53条1項、54条1項)とともに、附則2条1項において、「改正後の著作権法(以下「新法」という。)中著作権に関する規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法・・・(以下「旧法」という。)による著作権の全部が消滅している著作物については、適用しない。」旨を定め、また、附則7条において、「この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については、当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第2章第4節の規定による期間より長いときは、なお従前の例による。」旨を定めている。
 なお、新著作権法は、法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物の著作者並びに映画の著作物の著作者及びその著作権の帰属について、それぞれ新たな規定を設けた(15条、16条、29条)が、附則4条において新法第15条及び、「第16条の規定は、この法律の施行前に創作された著作物については、適用しない。」旨を定め、また、附則5条1項において、「この法律の施行前に創作された新法第29条に規定する映画の著作物の著作権の帰属については、なお従前の例による。」旨を定めている。
ウ 映画の著作物の著作権の存続期間は、平成15年改正法(平成16年1月1日施行)により、原則として公表後70年を経過するまでの間と延長される(同法による改正後の著作権法54条1項)とともに、平成15年改正法附則2条は「改正後の著作権法・・・第54条第1項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。」と、同法附則3条は「著作権法の施行前に創作された映画の著作物であって、同法附則第7条の規定によりなお従前の例によることとされるものの著作権の存続期間は、旧著作権法・・・による著作権の存続期間の満了する日が新法第54条第1項の規定による期間の満了する日後の日であるときは、同項の規定にかかわらず、旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日までの間とする。」と定めている。
エ 著作者及び著作名義を個人と団体のいずれとみるかによる著作権の存続期間
(ア)本件各映画の著作者及び著作名義がそれぞれその監督である本件各監督であるとした場合の著作権の存続期間
a 本件映画1及び2
 前記の場合、旧著作権法を適用すれば、@本件映画1の著作権の存続期間は、その監督であるAが死亡した平成19年(2007年。前記第2の1(2)オ)の翌年から起算して38年後の平成57年(2045年)12月31日まで、A本件映画2の著作権の存続期間は、その監督であるBが死亡した平成3年(1991年。前記第2の1(2)オ)の翌年から起算して38年後の平成41年(2029年)12月31日までとなる(同法22条ノ3、3条、52条1項)。
 他方で、本件映画1及び2は、いずれも昭和25年(1950年)に公開されたものである(前記第2の1(2)ア及びイ)から、新著作権法附則2条1項により、同法を適用し、その著作権の存続期間を公表後50年とした場合は、本件映画1及び2の著作権の存続期間は平成12年(2000年)12月31日までとなるが、同法附則7条により、著作権の存続期間の長い旧著作権法が適用される。
 その結果、本件映画1及び2は、平成15年改正法の施行時において著作権が存するから、同法附則2条により、公表後70年を著作権の存続期間とする平成15年改正法による改正後の著作権法54条1項を適用することができ、同項を適用した場合の本件映画1及び2の著作権の存続期間は、平成32年(2020年)12月31日までとなる。
 ただし、平成15年改正法附則3条により、著作権の存続期間の長い旧著作権法が適用され、前記のとおり、著作権の存続期間は、本件映画1が平成57年(2045年)12月31日まで、本件映画2が平成41年(2029年)12月31日までとなる。
b 本件映画3
 前記の場合、旧著作権法を適用すれば、本件映画3の著作権の存続期間は、その監督であるCが死亡した昭和44年(1969年。前記第2の1(2)オ)の翌年から起算して38年後の平成19年(2007年)12月31日までとなる(同法22条ノ3、3条、52条1項)。
 他方で、本件映画3は、昭和27年(1952年)に公開されたものである(前記第2の1(2)ウ)から、新著作権法附則2条1項により、同法を適用し、その著作権の存続期間を公表後50年とした場合は、本件映画3の著作権の存続期間は平成14年(2002年)12月31日までとなるが、同法附則7条により、著作権の存続期間の長い旧著作権法が適用される。
 その結果、本件映画3は、平成15年改正法の施行時において著作権が存するから、同法附則2条により、公表後70年を著作権の存続期間とする平成15年改正法による改正後の著作権法54条1項を適用することができ、同項を適用した場合の本件映画3の著作権の存続期間は、平成34年(2022年)12月31日までとなる。
 したがって、平成15年改正法による改正後の著作権法54条1項の規定による著作権の存続期間が旧著作権法の規定による著作権の存続期間より長いから、平成15年改正法附則3条は適用されず、平成15年改正法による改正後の著作権法54条1項が適用され、本件映画3の著作権の存続期間は、平成34年(2022年)12月31日までとなる。
(イ)本件各映画につき団体である映画製作会社の著作名義であるとした場合の著作権の存続期間
 前記の場合、旧著作権法を適用すれば、団体名義の著作物として、公表後33年間、すなわち、本件映画1及び2については昭和58年(1983年)12月31日まで、本件映画3については昭和60年(1985年)12月31日までが保護期間となる(同法22条ノ3、6条、52条2項)。
 他方で、新著作権法附則2条1項により、同法を適用し、公表後50年間を保護期間とした場合には、本件映画1及び2については平成12年(2000年)12月31日まで、本件映画3については平成14年(2002年)12月31日までとなり、新著作権法の規定による保護期間が旧著作権法の規定による保護期間より長いから、新著作権法附則7条は適用されず、いずれも新著作権法の規定が適用される。
 したがって、著作権の存続期間は、本件映画1及び2については平成12年(2000年)12月31日まで、本件映画3については平成14年(2002年)12月31日までとなる。なお、この場合、平成15年改正法の施行前に本件各映画の著作権が消滅しているから、同法附則2条により、同法による改正後の著作権法の規定は、適用されない。
オ このように、本件各映画の著作者及び著作名義をどのように考えるかによって、平成19年1月ころに行われた被告による本件各映画の複製物の輸入行為(後記3(1)参照)が、本件各映画の著作権の存続期間内にされたものといえるか否かが異なることとなる。そこで、以下、本件各映画の著作者及び著作名義について検討することとする。
(2)本件各映画の著作者について
ア 本件各映画は、いずれも新著作権法が施行される前に創作された映画の著作物であり、同法附則4条によれば、映画の著作物の著作者に関する規定である同法16条は適用されないから、本件各映画の著作者がだれかについては、旧著作権法によることになる。そして、旧著作権法においては、映画の著作物の著作者について直接定めた規定はないのみならず、そもそも著作物一般についての著作者の定義や著作物の定義を定める規定もない。
 他方で、新著作権法では、著作物及び著作者の定義規定が設けられている(同法2条1項1号及び2号)が、その内容が旧著作権法における著作物及び著作者についての解釈と異なるのであれば(新著作権法が、旧著作権法における著作物及び著作者をすべて著作物及び著作者と定義した上で、更に著作物及び著作者の定義の範囲を拡張したような例外的場合でない限り)、従前は著作物及び著作者として認められていたものが、新著作権法の施行により著作物又は著作者と認められないことが生じ得るのであるから、何らかの経過措置が設けられるのが通常と考えられるところ、これに関する経過規定は設けられていない。また、旧著作権法の下で公表された著作物の著作権が、新著作権法の下でも存続することを前提とした規定(例えば、同法附則7条)もある。これらのことからすれば、新著作権法における著作物及び著作者の定義は、旧著作権法における著作物及び著作者の定義を変更したものではないと解するのが相当である。なお、旧著作権法の下における裁判例においても、著作物とは、「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現たることを要す」(大審院昭和11年(オ)第1234号同12年11月20日第三民事部判決・法律新聞4204号3頁参照)、「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白であって、客観的存在を有し、しかも文芸、学術、美術の範囲に属するもの」(東京地裁昭和40年8月31日判決・下民集16巻8号1377頁参照)等と解されている。
 したがって、旧著作権法における著作物とは、新著作権法と同様、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいい、また、旧著作権法における著作者とは、このような意味での著作物を創作する者をいうと解される。
 そして、思想又は感情を創作的に表現できるのは自然人のみであることからすると、旧著作権法においても、著作者となり得るのは、原則として自然人であると解すべきである。
イ このように、著作者となり得るのは、原則として自然人であることを前提として、制作、監督、演出、撮影、美術の担当者等多数の自然人の協同作業により製作されるという映画の著作物の製作実態を踏まえると、旧著作権法においても、新著作権法16条と同様、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が、当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当である。
 なお、新著作権法附則4条は、同法16条の規定は、同法の施行前に創作された著作物については、適用しない旨定めている。しかしながら、旧著作権法において、映画の著作物の著作者につき、新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるような事情があるとは認められないことからすれば、同法附則4条が同法16条を適用しないこととしたのは、同条が新設規定であることに照らして、旧著作権法の下で公表された映画の著作物の著作者については旧著作権法における解釈に委ねる趣旨であって、旧著作権法において新著作権法16条と同様の解釈をすることを積極的に排除する趣旨まで含むものではないと解される。現に、著作権法の所管省庁である文化庁において新著作権法の立案を担当していた者においても、同法附則4条につき、旧著作権法下における映画の著作物の著作者の意義の解釈が必ずしも確定していなかったために、旧著作権法による解釈に委ねる趣旨で設けられたものであると説明している(乙3)。これらのことからすれば、新著作権法附則4条は、旧著作権法の下で公表された映画の著作物の著作者について、新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるものではないと解される。
ウ これを本件各映画についてみると、証拠(甲31ないし35)並びに前記第2の1(2)アないしウによれば、本件各監督はそれぞれ本件各映画の監督を務めており、また、本件各映画は本件各監督による創作的な表現であると評価されていることが認められるから、本件各監督は、それぞれ本件各映画の全体的形成に創作的に寄与している者と推認され、これに反する証拠もない。
 したがって、本件各監督は、他に著作者が存在するか否かはさておき、少なくとも本件各映画の著作者の一人であると認められる。
(3)本件各映画の著作名義について
ア 前記第2の1(3)のとおり、旧著作権法は、3条から9条まで著作権の存続期間に関する規定を置いているところ、3条1項は、発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を著作者の生存する間及びその死後30年間と定め、4条は、著作者の死後に発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め、5条本文は、無名又は変名の著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め、同条ただし書で、その期間内に著作者の実名の登録を受けたときは3条の規定に従うこととし、6条は、団体の名義をもって発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定めていた。
 このような旧著作権法における著作権の存続期間に関する規定全体の構成に加え、前記(2)アのとおり、旧著作権法においては、著作者となり得る者は原則として自然人であると解されることにかんがみると、旧著作権法は、著作権の存続期間につき、原則として自然人である著作者の死亡の時を基準とすることを定めた上で、著作者又はその死亡時期が特定できないためこの基準によることができない無名又は変名の著作物及び創作行為を行った自然人を判別することができず、また、著作物の名義人の死亡時期を観念することができない団体名義の著作物については、5条又は6条で発行又は興行の時を基準とすることとしたものと解される。
 そうすると、旧著作権法6条が定める団体名義の著作物とは、当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため、当該名義のみからは創作行為を行った者を判別できず、また、著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物をいうと解するのが相当である。
イ これを本件についてみると、証拠(甲26、39、40、乙14ないし16 前記第2の1 2 )、 ( )の各事実及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア)本件映画1は、新東宝が製作したものであるところ、そのオープニングでは、冒頭部分において、新東宝の標章とともに「新東宝映画」との表示がされ、その後、題名、製作スタッフ、出演者等の表示がされ、最後に「監督A」との表示がされている。また、本件映画1のポスターにおいては、新東宝の標章及び「新東宝興業株式会社配給」との記載とともに、「監督・A」との記載がされている。
(イ)本件映画2は、原告が製作したものであるところ、そのオープニングでは、冒頭部分において、原告の標章ととともに「東宝株式会社」との表示がされ、その後、題名、製作スタッフ、出演者等の表示がされ、最後に「演出B」との表示がされている。また、本件映画2のポスターにおいては、「東宝株式会社製作・配給」との記載とともに、「B監督作品」との記載がされている。
(ウ)本件映画3は、新東宝が製作したものであるところ、そのオープニングでは、冒頭部分において、新東宝の標章とともに「新東宝映画」との表示がされ、その後、題名、製作スタッフ、出演者等の表示がされ、最後に「監督C」との表示がされている。また、本件映画3のポスターにおいては、新東宝の標章及び「新東宝の良心特作」との記載とともに、「監督C」との記載がされている。
ウ そして、前記(2)のとおり、本件各監督がそれぞれ本件各映画の著作者であると認められることからすれば、前記イの本件各映画のオープニングやポスターにおける本件各監督の名前の表示は、それぞれ本件各映画の著作者である本件各監督の実名を表示したものと認められる。
 そうすると、本件各映画は、著作者の実名が表示されて公表された著作物であって、創作行為を行った者を判別できず、また、著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物であるとはいえないから、本件映画1及び3に「新東宝映画」等の表示が、本件映画2に「東宝株式会社」等の表示があるからといって、旧著作権法6条が定める団体名義の著作物には当たらないというべきである。
 そして、前記第2の1(2)の各事実からすれば、本件各映画は、それぞれ本件各監督の生存中に公開されたものと認められるから、その著作権の存続期間について適用される旧著作権法の規定は、同法3条、52条1項であると解される。
(4)本件各映画の著作権の存続期間について
 以上のとおり、本件各監督は、それぞれ本件各映画の著作者であり、本件各映画は、旧著作権法6条の団体名義の著作物に当たらず、本件各映画の著作権の存続期間について適用される旧著作権法の規定は、同法3条、52条1項であると解されるから、前記(1)エのとおり、@本件映画1の著作権は、少なくとも本件映画1の著作者であるAが死亡した平成19年(2007年)の翌年から起算して38年後の平成57年(2045年)12月31日まで、A本件映画2の著作権は、少なくとも本件映画2の著作者であるBが死亡した平成3年(1991年)の翌年から起算して38年後の平成41年(2029年)12月31日まで、B本件映画3の著作権は、少なくとも本件映画3が公表された昭和27年(1952年)の翌年から起算して70年後の平成34年(2022年)12月31日まで、それぞれ存続することとなる。
(5)被告の主張について
ア 被告は、本件各映画の著作者は、映画製作会社であると主張し、その根拠として、昭和57年判決を挙げる。
 しかしながら、同判決は、法人等の職務に従事する者において職務上作成する著作物について、一定の要件の下に、その著作物の著作者を当該法人等とするものであるところ、本件各映画を創作した者である本件各監督が原告又は新東宝の業務に従事する者であることを示す証拠はなく、本件とは事案を異にするから、被告の主張は、採用することができない。
イ そして、被告は、本件各映画が旧著作権法上の法人著作的解釈を含む旧著作権法6条の団体著作物であると主張し、その根拠して、原告又は新東宝が、監督、撮影、美術等の担当者を職務上指揮監督して本件各映画を製作したことを挙げる。
 しかしながら、前記(3)アで説示したとおり、旧著作権法6条が定める団体名義の著作物とは、当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため、当該名義のみからは創作行為を行った者を判別できず、また、著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物をいうと解されるところ、前記(3)ウで認定したとおり、本件各映画は、著作者の実名が表示されて公表された著作物であって、創作行為を行った者を判別できず、また、著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物であるとはいえないから、同条が適用されることを前提とする被告の前記主張は、その前提において失当であり、採用することができない。
 この点をおくとしても、被告は、原告又は新東宝が本件各映画の製作に当たりどのような指揮監督を行ったのかについて、何ら具体的に主張するものでなく、原告又は新東宝が行った指揮監督の具体的内容について、何ら立証するものでもないから、被告の主張は、いずれにしても採用することができない。
ウ また、被告は、原告の主張は、映画監督以外の共同著作者である映画の製作に創作的に関与した者(助監督、美術監督等のスタッフ)の共同の著作活動をどのように評価しているのか、全く不明であると主張する。
 しかしながら、前記(2)ウで認定したとおり、本件各監督は、少なくとも本件各映画の著作者の一人であると認められるところ、この認定は、本件各映画につき、本件各監督以外にその全体的形成に創作的に寄与し、著作者と認められるべき者が存するか否かにより左右されるものではないから、被告の主張は、失当である。
エ さらに、被告は、本件各映画は、シェーン判決で問題となった映画「シェーン」と公表形態が同一であるから、同判決にいう「団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画」に該当すると主張する。
 しかしながら、シェーン判決は、アメリカ合衆国法人が映画「シェーン」の著作者であり、その著作名義をもって1953年(昭和28年)にアメリカ合衆国で初めて公表されたこと、当該映画が独創性を有する映画の著作物であることを前提事実とした上で、映画の著作物の保護期間を定める新著作権法54条1項について、その保護期間の延長措置を定めた平成15年改正法の適用関係について判示したものである(甲85、乙11)。これに対し、本件は、本件各映画が団体名義の著作物といえるか否か自体が争点となっており、事案を異にするから、被告の主張は、採用することができない。
オ 加えて、被告は、原告が本件各映画の著作権を有することについて、50年近く一度も第三者や監督等の個人から異議を受けなかったこと自体、本件各映画が団体名義の著作物と認識されていたことを示していると主張する。
 しかしながら、このような被告の主張は、本件各映画の著作権が原告に帰属するか否かという問題と、本件各映画が団体名義の著作物に当たるか否かという問題を混同するものであって、到底採用することができない。
2 争点(2)(原告は本件各映画の著作権を有するか)について
(1)著作者から原告又は新東宝に対する著作権の移転について
ア 前記1(2)のとおり、本件各監督は、それぞれ本件各映画の著作者であって、本件各映画の著作権を原始的に取得したものと認められる。
 そして、次に掲げる証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これらの事実からすれば、本件各監督は、それぞれ、遅くとも本件各映画が公開されたころまでには、映画製作者である原告又は新東宝に対し、明示的又は黙示的に本件各映画の著作権を譲渡したと推認するのが相当であり、これに反する証拠はない。
@ 本件各映画は、当初から映画製作者である原告又は新東宝が自己の作品として公表することを前提に製作され、興行された(甲26、39、40、乙14ないし16)。
A 原告は、本件各映画の原版を保管し、これを、以下に述べるようなビデオグラムの作成、テレビ放映、上映等に利用している(甲41ないし43)。
B 原告は、本件映画1及び2を複製したビデオグラムを、本件映画3を複製したビデオを販売してきた(甲36ないし38(枝番を含む。)、41、77)。
C 原告は、株式会社衛星劇場に対し、本件映画2及び3をCS放送に利用する権利を許諾した(甲43、45ないし48、76)。
D 原告は、日本映画衛星放送株式会社に対し、本件各映画を放送することを許諾した(甲43、49ないし54、76)。
E 原告は、共同映画株式会社等に対し、本件映画2及び3につき、劇場上映を許諾する契約を締結した(甲55ないし59、76)。
F 原告は、本件映画1及び2の一部につき、テレビ番組において、その映像を使用することを許諾した(甲60ないし63、76)。
G 東宝国際株式会社(原告の関連会社と推認される。)は、海外における本件各映画の上映を許諾した(甲69ないし72)。
H 原告は、テレビ放送への利用許諾やビデオグラムの複製頒布をして対価を得た場合、原告もその会員である社団法人日本映画製作者連盟と、本件各監督もその組合員であった監督協会(甲78の1ないし3、79)との間の申合せ(甲73)に従い、監督等に対し、追加報酬を支払い、また、原告が著作権を有する映画について放送への利用を許諾した際又はビデオグラムの複製頒布をする際には、監督協会に対し、その旨を通知し、同協会は、監督等の組合員に対し、その旨を連絡している(甲64ないし68、74ないし77)。
I 原告は、長年にわたり、BないしGのとおり本件各映画の著作権を行使しているが、この間、このような著作権の行使に対して、本件各監督以外の本件各映画の製作に関与した者から、自己が著作者であるとの主張がされた形跡はないし、また、本件各監督のほか本件各映画の製作に関与した者やそれらの遺族等から、何らかの異議が述べられた形跡もない(甲76、77)。
イ なお、仮に、本件各監督以外に本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者がいて、それらの者も著作者として本件各映画の著作権を原始的に取得していたとしても、前記ア(殊にアI)の認定事実によれば、これらの者についても、遅くとも本件各映画が公開されたころまでには、映画製作者である原告又は新東宝に対し、明示的又は黙示的に本件各映画の著作権を譲渡したと推認するのが相当であり、これに反する証拠はない。
ウ したがって、遅くとも本件各映画が公開されたころには、新東宝は、本件映画1及び3の著作権を、原告は、本件映画2の著作権を、それぞれ単独で有していたものと認められる。
(2)新東宝から原告に対する著作権の移転について
 前記(1)のとおり、新東宝は、本件映画1及び3の著作権を単独で保有していたものと認められるところ、証拠(甲15、16)及び弁論の全趣旨によれば、新東宝は、原告に対し、昭和38年4月20日、本件映画1及び3の著作権を譲渡したことが認められる(甲15)。
(3)したがって、原告は、本件各映画の著作権を単独で有しているものと認められる。
3 争点(3)(被告の侵害行為の有無)について
(1)ア 被告が、本件DVDを国外で作成し、遅くとも平成19年1月ころから我が国に輸入し、国内で頒布していることにつき、被告は、いったんはこの事実を認めたが、その後、著作権の侵害についての審理を終え、当該侵害に基づく損害についての審理を目的とした第5回弁論準備手続期日及び弁論準備手続の終結が予定された第6回弁論準備手続期日において、パッケージ化して商品化したのは、別紙被告商品目録記載1及び3については株式会社サイドエーであり、同目録記載2については株式会社アブロックであると主張するに至った。
 このような主張の変更は、本件DVD(これが、被告がいうところの商品としてパッケージ化されたDVDを意味することは、別紙被告商品目録の記載から明らかである。)の輸入・頒布について成立した自白を撤回するものであって、これが認められるためには、@自白した事実が真実に合致せず、かつ、自白が錯誤によること(大審院大正10年(オ)第662号同11年2月20日第二民事部判決・民集1巻52頁)、A刑事上罰すべき他人の行為により自白したこと(最高裁昭和30年(オ)第416号同33年3月7日第二小法廷判決・民集12巻3号469頁)、B相手方の同意があることのいずれかの事実が認められることが必要である。
 本件についてみると、被告の前代表者Dの陳述書(乙19)には、前記主張に沿った記載があるが、他方で、本件DVDのパッケージや作品リストには、その発売元として「Cosmo Contents」(被告の旧商号)と記載されていること(甲1ないし3(枝番を含む。)、乙24、弁論の全趣旨)、本件DVDを頒布していた株式会社日本カルチャーセンター及び株式会社ワールドピクチャーは、両社に対する原告の警告状への回答において、被告から商品供給を受けた又は販売委託の話があった旨述べていること(甲96ないし101(枝番を含む。))に照らして、被告が自白した事実が、真実に合致しない(前記@)とは認めるに足りず、また、前記A及びBの事実についても、これらを認めるに足る証拠はないから、自白の撤回は認められない(もっとも、被告の変更後の主張によっても、本件映画2については、これを複製したDVDの盤を輸入・販売した事実は認めていることから、被告が、本件映画2につき著作権(複製権)侵害行為とみなされ得る行為を行ったことには、当事者間に争いはない。)。
イ したがって、被告が、本件DVDを国外で作成し、遅くとも平成19年1月ころから我が国に輸入し、国内で頒布した事実は、当事者間に争いがないものと認められる。
(2)被告は、頒布目的で本件DVDを輸入したことを否認し、被告の前代表者Dの陳述書(乙19)にも、被告がこのような行為を行ったのは、著作権の存続期間が終了していることを司法に判断してもらうためである旨の記載がある。
 しかしながら、前記(1)で認定したとおり、被告は、本件DVDを輸入後、国内で頒布していることからすれば、本件DVDを輸入する際に頒布目的があったことは明らかであり、これに反する被告の主張は、採用することができない。
(3)前記1、2のとおり、原告が有する本件各映画の著作権の存続期間は満了していないから、本件DVDは、輸入の時において国内で作成したとしたならば本件各映画の著作権の侵害となるべき行為によって作成された物に該当する。
 したがって、被告が本件DVDを国内で頒布する目的をもって輸入した行為は、原告の著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項1号)。
(4)前記(1)のとおり、被告は、本件DVDを海外で作成して輸入しているところ、本件訴訟において著作権の存続期間の満了を主張して本件各映画の著作権侵害を争っているのみならず、本件各映画以外の劇場用映画についても、これを複製したDVD商品を販売し、本件訴訟と同様に、訴訟において著作権の存続期間の満了を主張して著作権侵害を争っていること(甲8ないし12、44、90、93)からすれば、将来、日本国内においても本件DVDを製造するおそれがあると認められる。
(5)よって、原告は、被告に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、本件DVDの製造、輸入又は頒布の差止め並びにその在庫品及び原版の廃棄を求めることができる。
4 争点(4)(被告の故意又は過失の有無)について
(1)被告は、著作権の存続期間が満了してパブリックドメインとなった映画の複製、販売等を業として行っていることが認められ(甲1ないし3、21、乙17、19ないし22、24、弁論の全趣旨(証拠につき、枝番を含む。))、このような事業を行う者としては、自らが取り扱う映画の著作物の著作権の存続期間が満了したものであるか否かについて、十分調査する義務を負っているものと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると、旧著作権法における映画の著作物の著作者についての法的な解釈が分かれており(甲4、86ないし89、乙1ないし7)、それについての確定した判例もない状況であったことからすれば、自らが行う輸入・販売行為について提訴がなされた場合に、自己が依拠する解釈が裁判所において採用されない可能性があることは、当然に予見することができたと認められる。加えて、前記1(2)のとおり、旧著作権法においても、新著作権法と同様、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうと解されていたことからすれば、旧著作権法においても、著作物を創作する著作者は、原則として自然人であり、映画の著作物についても自然人が著作者となり得るということは十分に理解することができ、その場合の旧著作権法による映画の著作物の保護期間がその著作者の死後38年間となり得ることも理解し得たということができる。また、本件各証拠に照らしても、被告が、本件各映画の著作権が存続しているか否かについて、専門家等の第三者に意見を求める等何らかの調査を行ったことをうかがわせる事情は見当たらない。
 これらの事実によれば、被告は、本件各映画の著作権が存続している可能性があることを予見することができ、これについて十分調査すべきであったにもかかわらず、十分な調査を行うことなく、著作権の存続期間について自己に都合のよい独自の解釈に基づき本件DVDの輸入を行ったものと認められるから、被告には、少なくとも過失があったというべきである。
 したがって、被告は、前記3の著作権侵害により原告に生じた損害を賠償すべき責任があると認められる。
(3)被告の主張について
 被告は、旧著作権法においては、だれが映画の著作者であるかという問題は専門家においても意見が分かれていたのであるから、その中で、被告にとって理論的に首肯でき、妥当な解決と考えられる説に依拠して社会活動上の判断をするのは当然であり、単に、その判断が原告の解釈と異なるからといって、直ちに被告に注意義務違反があるというのは、不可能を強いることになるなどと主張する。
 しかしながら、前記(1)で説示したとおり、被告は、パブリックドメインとなった映画の複製、販売等を業として行う者として、自らが取り扱う映画の著作権の存続期間が満了したものであるか否かについて、十分調査する義務を負っているところ、前記(2)で認定したとおり、旧著作権法における映画の著作物の著作者については、法的な解釈が分かれており、確定した判例もない状況であり、被告は、自らが行う輸入・販売行為について提訴がなされた場合には、自己が依拠する解釈が裁判所において採用されない可能性があることは当然に予見することができたにもかかわらず、本件各映画の著作権が存続しているのか否かについて、専門家等の第三者に意見を求める等何らかの調査を行うこともしていないのであるから、本件各映画の著作権の存続期間について、複数あり得る見解のうち自己に都合のよい見解に依拠して、本件各映画の著作権の存続期間が満了したと軽信したにすぎず、何ら不可能を強いるものではないというべきである。
 したがって、被告の主張は、採用することができない。
5 争点(5)(原告の損害の有無及びその額)について
(1)損害の有無について
 前記3のとおり、被告が本件DVDを輸入する行為は、原告の著作権を侵害するものとみなされるから、原告には、当該著作権の使用料相当額の損害が生じたものと認められる。
(2)損害の額について
ア 本件各映画の使用料相当額について検討すると、証拠(甲23ないし25)及び弁論の全趣旨によれば、本件DVD1本当たりの使用料相当額は、小売価格の20%に相当する額とするのが相当である。
 そして、本件DVDは、被告により3000本(本件各映画につき、それぞれ1000本ずつ)輸入され(当事者間に争いがない。)、1本当たり1800円の小売価格で販売されていることが認められる(甲1ないし3の各1、弁論の全趣旨)。
 したがって、本件各映画の使用料相当額は、以下のとおり、108万円となり、これが原告の損害となる。
(計算式)1800円×0.2×3000本=108万円
イ なお、原告は、本件DVDは合計1万5000本(各5000本×3)輸入されたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 また、原告は、違法な複製物を通常の販売額より極めて低額で販売している場合には、原告が通常受領すべき金額を重視すべきであるから、原告の標準小売価格である4500円を基準として使用料相当額を算定すべきであると主張する。
 しかしながら、原告が本件各映画を複製したDVDの販売等を第三者に許諾した場合に、1本当たり4500円の標準小売価格を基準としてその許諾料を定めていたと認めるに足りる証拠はない。
 また、通常、販売価格は販売者が決定し得るものであることを考慮すると、本件DVDの販売による使用料相当額の算定に当たっては、販売価格が通常予想される販売価格よりも極めて低額である等の特段の事情がある場合を除き、本件DVDの現実の販売価格を基準とするのが相当であるというべきである。
 そして、1800円という本件DVDの販売価格は、通常予想されるよりも極めて低額であるとまではいい難く、本件各証拠に照らしても、他に特段の事情があるとは認められないから、原告の主張は、いずれにしても採用することができない。
第4 結論
 以上のとおり、原告の請求は、本件DVDの製造、輸入又は販売の差止め、本件DVD及びその原版の廃棄並びに損害賠償金108万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余は理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 坂本三郎
 裁判官 岩崎慎


(別紙)被告商品目録
1 日本名作映画集56 「暁の脱走」 商品番号:4582297250765
2 日本名作映画集14 「また逢う日まで」 商品番号:4582297250246
3 日本名作映画集30 「おかあさん」 商品番号:4582297250406
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