判例全文 line
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【事件名】総務大臣の“要請放送”事件
【年月日】平成21年3月31日
 大阪地裁 平成19年(行ウ)第34号(甲事件)、同第63号(乙事件)、同第77号(丙事件)、平成20年(行ウ)第82号(丁事件)
 国際放送実施命令取消等請求(甲〜丙事件)、国際放送実施要請違法無効確認等請求(丁事件)事件

判決


主文
1 丁事件原告らの訴えのうち、総務大臣が放送法33条1項に基づき平成20年4月1日に丁事件被告日本放送協会に対してした国際放送実施要請及び委託協会国際放送業務実施要請が違法、無効であることの確認を求める部分を却下する。
2 甲事件原告ら、乙事件原告ら及び丙事件原告の各請求並びに丁事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は甲事件原告ら、乙事件原告ら、丙事件原告及び丁事件原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 甲事件
 被告国は、甲事件原告らに対し、それぞれ1万円を支払え。
2 乙事件及び丙事件
 被告国は、乙事件原告ら及び丙事件原告に対し、それぞれ1万円を支払え。
3 丁事件
(1) 総務大臣が放送法33条1項に基づき平成20年4月1日に丁事件被告日本放送協会に対してした国際放送実施要請及び委託協会国際放送業務実施要請が違法、無効であることを確認する。
(2) 被告国及び丁事件被告日本放送協会は、連帯して、丁事件原告らに対し、それぞれ1万円を支払え。
第2 事案の概要(本判決においては、平成19年法律第136号による改正前の放送法を「旧放送法」といい、同改正後の放送法を「放送法」という。また、旧放送法33条1項に基づく国際放送実施命令又は同命令及び委託協会国際放送業務実施命令を単に「放送命令」といい、放送法33条1項に基づく国際放送実施要請及び委託協会国際放送業務実施要請を「放送要請」ということがある。)
1 本件は、各事件の原告らが、旧放送法33条1項に基づき総務大臣が丁事件被告日本放送協会(以下「被告NHK」という。)に対してした平成18年4月1日付け及び同年11月10日付け国際放送実施命令(以下、併せて「平成18年度放送命令」という。)(甲事件)並びに平成19年4月1日付け国際放送実施命令及び委託協会国際放送業務実施命令(以下、併せて「平成19年度放送命令」という。)(乙事件及び丙事件)、放送法33条1項に基づき総務大臣が被告NHKに対してした平成20年4月1日付け国際放送実施要請及び委託協会国際放送業務実施要請(以下、併せて「平成20年度放送要請」という。)(丁事件)は、いずれも、憲法21条に違反し、上記原告らの知る権利を侵害するなどと主張して、@ 丁事件原告らが、被告国に対し、行政事件訴訟法4条の当事者訴訟又は同法3条4号の抗告訴訟(無効確認訴訟)として、平成20年度放送要請が違法、無効であることの確認を求め、A 各事件原告らが、被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき、精神的損害の賠償として各1万円の支払を求め、併せて、B 丁事件原告らが、被告NHKに対し、不法行為又は受信契約上の債務不履行に基づき、精神的損害の賠償として各1万円を被告国と連帯して支払うよう求めている事案である。
2 法令の定め
(1) 旧放送法の定め
 旧放送法2条2号は、「国際放送」とは、外国において受信されることを目的とする放送であって、中継国際放送及び受託協会国際放送以外のものをいう旨規定し、同条2の2号は、「中継国際放送」とは、外国放送事業者(外国において放送事業を行う者)の委託により、その放送番組を外国において受信されることを目的としてそのまま送信する放送をいう旨規定し、同条2の2の2号は、「受託協会国際放送」とは、被告NHKの委託により、その放送番組を外国において受信されることを目的としてそのまま送信する放送であって、人工衛星の無線局により行われるものをいう旨規定し、同条3の6号は、「委託協会国際放送業務」とは、被告NHKが電波法の規定により受託協会国際放送をする無線局の免許を受けた者又は受託協会国際放送をする外国の無線局を運用する者に委託してその放送番組を放送させる業務をいう旨規定する。
 旧放送法33条1項は、総務大臣は、被告NHKに対し、放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを命じ、又は委託して放送をさせる区域、委託放送事項その他必要な事項を指定して委託協会国際放送業務を行うべきことを命ずることができる旨規定する。
(2) 放送法の定め
 放送法2条2号は、「国際放送」とは、外国において受信されることを目的とする放送であって、中継国際放送及び受託協会国際放送以外のものをいう旨規定し、同条2の2の2号は、「邦人向け国際放送」とは、国際放送のうち、邦人向けの放送番組を放送するものをいう旨規定し、同条の2の2の3号は、「外国人向け国際放送」とは、国際放送のうち、外国人向けの放送番組を放送するものをいう旨規定し、同条2の2の3号は、「中継国際放送」とは、外国放送事業者(外国において放送事業を行う者)の委託により、その放送番組を外国において受信されることを目的としてそのまま送信する放送をいう旨規定し、同条2の2の4号は、「受託協会国際放送」とは、被告NHKの委託により、その放送番組を外国において受信されることを目的としてそのまま送信する放送であって、人工衛星の無線局により行われるものをいう旨規定し、同条3の6号は、「委託協会国際放送業務」とは、被告NHKが電波法の規定により受託協会国際放送をする無線局の免許を受けた者又は受託協会国際放送をする外国の無線局を運用する者に委託してその放送番組を放送させる業務をいう旨規定し、同条3の7号は、「邦人向け委託協会国際放送業務」とは、委託協会国際放送業務のうち、邦人向けの放送番組を放送させるものをいう旨規定し、同条3の8号は、「外国人向け委託協会国際放送業務」とは、委託協会国際放送業務のうち、外国人向けの放送番組を放送させるものをいう旨規定する。
 放送法33条1項は、総務大臣は、被告NHKに対し、放送区域、放送事項(邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項、国の重要な政策に係る事項、国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項その他の国の重要事項に係るものに限る。委託放送事項について同じ。)その他必要な事項を指定して国際放送を行うことを要請し、又は委託して放送をさせる区域、委託放送事項その他必要な事項を指定して委託協会国際放送業務を行うことを要請することができる旨規定し、同条2項は、総務大臣は、上記要請をする場合には、被告NHKの放送番組の編集の自由に配慮しなければならない旨規定し、同条3項は、被告NHKは、総務大臣から上記要請があったときは、これに応じるよう努めるものとする旨規定する。
3 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下、書証番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)
(1) 当事者
ア 甲、乙、丙及び丁事件原告らは、放送法32条1項に基づき、被告NHKとの間で受信契約を締結している者又はその世帯の構成員であるか、又は外国で居住している日本人(以下「在外邦人」という。)である。(弁論の全趣旨)
イ 被告NHKは、放送法7条の目的のために同法8条により設立された特殊法人である。
ウ 総務大臣は、被告NHKに対し、旧放送法33条1項による国際放送実施命令及び委託協会国際放送業務実施命令又は放送法33条1項による国際放送実施要請及び委託協会国際放送業務実施要請をする権限を有する、被告国に所属する行政庁である。
(2) 放送命令及び放送要請の経緯
ア 平成18年度放送命令(甲1、2、弁論の全趣旨)
(ア) 総務大臣は、平成18年4月1日、被告NHKに対し、旧放送法33条1項に基づき、別紙1記載のとおり国際放送の実施を命令した。同命令で指定された放送事項及び実施期間は下記のとおりである。
 記
 1 放送事項
  放送事項は、次の事項に関する報道及び解説とする。
  (1) 時事
  (2) 国の重要な政策
  (3) 国際問題に関する政府の見解
 7 実施期間
  この命令の実施期間は、平成18年4月1日から平成19年3月31日までとする。
(イ) 総務大臣は、平成18年11月10日、被告NHKに対し、旧放送法33条1項に基づき、上記国際放送実施命令が指定した放送事項を、下記のとおり変更した。
 記
 1 放送事項
  (1) 放送事項は、次の事項に関する報道及び解説とする。
   @ 時事
   A 国の重要な政策
   B 国際問題に関する政府の見解
  (2) 上記事項の放送に当たっては、北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること。
イ 平成19年度放送命令(甲3、弁論の全趣旨)
(ア) 総務大臣は、平成19年4月1日、被告NHKに対し、旧放送法33条1項に基づき、国際放送の実施を命じた。同命令で指定された放送事項及び実施期間は下記のとおりであり、その余の点は平成18年度放送命令に同じである。
 記
 1 放送事項
  (1) 放送事項は、次の事項に関する報道及び解説とする。
   @ 時事
   A 国の重要な政策
   B 国際問題に関する政府の見解
  (2) 上記事項の放送に当たっては、北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること。
 7 実施期間
  この命令の実施期間は、平成19年4月1日から平成20年3月31日までとする。
(イ) 総務大臣は、平成19年4月1日、被告NHKに対し、旧放送法33条1項に基づき、下記のとおり、委託協会国際放送業務を行うべきことを命じた。同命令で指定された放送事項及び実施期間は下記のとおりである。
 記
 1 放送事項
  放送事項は、次の事項に関する報道及び解説とする。
  (1) 時事
  (2) 国の重要な政策
  (3) 国際問題に関する政府の見解
 7 実施期間
  この命令の実施期間は、平成19年4月1日から平成20年3月31日までとする。
ウ 平成20年度放送要請(甲4、5、弁論の全趣旨)
(ア) 総務大臣は、平成20年4月1日、被告NHKに対し、放送法33条1項に基づき、別紙2の1記載のとおり、国際放送の実施を要請した。同要請で指定された放送事項及び実施期間は下記のとおりである。
 記
 1 放送事項
  (1) 放送事項は、次の事項に関する報道及び解説とする。
   ア 邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項
   イ 国の重要な政策に係る事項
   ウ 国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項
   エ その他国の重要事項
  (2) 上記事項の放送に当たっては、北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること。
 4 国の費用負担等
  (2) この要請に応じて行う業務の実施期間は、平成20年4月1日から平成21年3月31日までとする。
(イ) 総務大臣は、平成20年4月1日、被告NHKに対し、放送法33条1項に基づき、別紙2の2記載のとおり、委託協会国際放送業務の実施を要請した。同要請で指定された放送事項及び実施期間は下記のとおりである。
 記
 1 放送事項
  放送事項は、次の事項に関する報道及び解説とする。
  (1) 邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項
  (2) 国の重要な政策に係る事項
  (3) 国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項
  (4) その他国の重要事項
 4 国の費用負担等
  (2) この要請に応じて行う業務の実施期間は、平成20年4月1日から平成21年3月31日までとする。
(ウ) 被告NHKは、平成20年4月1日、総務大臣の平成20年度放送要請(上記(ア)、(イ))を応諾する旨、総務大臣に回答した。
第3 主たる争点の概要
1 平成20年度放送要請の違法・無効確認を求める訴えの適法性(丁事件)
2 被告国に対する国家賠償法上の請求の可否(甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件)
3 被告NHKの不法行為又は債務不履行の成否(丁事件)
4 平成18年度及び平成19年度各放送命令の違憲性並びに平成20年度放送要請の違憲、違法(無効)性(甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件)
第4 主たる争点に関する当事者の主張(以下、特記しない限り、各事件の原告を区別せずに「原告ら」と表記する。)
1 平成20年度放送要請の違法・無効確認を求める訴えの適法性(丁事件)
(原告らの主張)
(1) 放送要請の処分性(訴訟類型の選択)
 放送法33条1項は総務大臣の行為を「要請」としており、同条3項は被告NHKが「応じるように努めるものとする。」としている以上、同条に基づく総務大臣の放送要請は処分性を有しない。原告らが平成20年度放送要請の違法・無効確認を求める訴えは、行政事件訴訟法4条の実質的当事者訴訟である(以下「本件当事者訴訟」という。)。
 ただし、被告国は総務大臣の放送要請に処分性があると主張するので、原告らは、択一的に、抗告訴訟としての無効確認訴訟として平成20年度放送要請の無効確認を求める(以下「本件抗告訴訟」という。)。
(2) 本件当事者訴訟の確認の利益
ア 受信者は、被告NHKの放送の自由、表現の自由と表裏一体の関係にある、被告NHKが行政権力から介入されない放送を聞く権利(広い意味での知る権利)を有しており、この知る権利は憲法21条により保障されている。被告NHKの放送を受信する日本国民は、被告NHKの有する放送の自由(憲法21条)のいわゆる「反射的効果」を受ける地位ではなく、積極的に、被告NHKの放送に対して上記の知る権利を有している。
 丁事件の原告ら(在外邦人1名を除く6名)は、被告NHKとの間で受信契約を締結している。この契約は、同原告らが被告NHKに対し受信料を支払う対価として、被告NHKが行政権力の介入を受けた放送をしないという義務を負担する双務契約である。
 被告NHKが国家から不当な介入を受けた場合に、被告NHKが自らそれを排除しない場合には、原告らは、被告NHKに代わってその妨害を排除する私法上の請求権を有しているのであり、被告NHKが総務大臣から憲法21条に違反する平成20年度放送要請を受けた以上、原告らは同放送要請の違法、無効を確認する利益(原告適格)を有している。
イ 放送法32条1項は、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約を締結しなければならない。」と規定し、日本放送協会放送受信契約(甲11)によると、「契約は受信機の設置の日に成立するものとする。」(4条)とされ、被告NHKと受信契約を締結した者は「受信機を廃止すること」によってしか受信契約を解除できない(9条)。原告らの受信契約者たる地位は、このように放送法においても義務付けられ、被告NHKの受信規約においても受信機を設置する以上は契約を締結したものとされ、被告NHKとの契約を中途解約できない「強制」された法律関係に立っている。原告らと被告NHKがこのような強制的な法的関係に立ち、被告NHKが平成20年度放送要請に応諾して放送している以上、受信契約者である原告らは同放送要請の無効確認を求める利益(原告適格)を有するし、受信契約を締結していない在外邦人たる原告についても、日本に帰国すればそのような法的関係に立つので同様である。
(3) 本件抗告訴訟の適法性
ア 原告適格
 原告らは、平成20年度放送要請により知る権利という憲法上保障された重要な権利を侵害される者であり、同放送要請の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者である。
 まず、旧放送法全体から放送命令において考慮されるべき利益の内容、性質について検討すると、@ 国民の「知る権利」に奉仕し、それを実質化するという効用を国民に最大限普及することが放送法全体を貫く趣旨であること(同法1条1号)、A 公衆という受信者の地位が「放送」の必要不可欠の構成要素であること(同法2条1号)、B 放送普及基本計画には、放送局の置局(受託協会国際放送を行う放送局の置局を含む。)に関し「放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるようにするための指針」を定めるものとしていること(同法2条の2第2項1号)、C 同法32条1項本文の受信契約に基づき被告NHKに対して支払われる受信料が負担金であるとすれば、受信契約者が被告NHKのあり方に関し関与の手段を有しないのは不合理であり、放送命令につき異議申立ての利益を有すると当然に解されること、以上の点が指摘できる。また、同法と目的を共通にする関係法令として憲法も含まれると解されるところ、国民には憲法21条により「知る権利」が保障され、そこには公権力により「思想の自由市場」に対し事前にバイアスをかけられることを拒絶する利益が含まれる。
 次に、放送命令によって害されることとなる利益の内容、性質、害される態様、程度についてみると、放送命令により害される利益は、国民の「知る権利」という民主制の前提たる重大な利益であり、しかも、放送命令が出されると、総務大臣が被告NHKに対し免許、予算等の強力な監督権限を有していることからして、国際放送だけではなく国内放送にも影響を与える上、平成18年度及び平成19年度各放送命令は個別的な政府の方針を内容とする具体的なものであって被告NHKがこれを忖度して報道することは明らかである。
 以上の点を考慮すれば、原告らには放送命令を取り消す法律上の利益があり、原告適格が認められる。そうであるところ、放送要請については、放送法33条3項により、被告NHKの応諾努力義務という体裁がとられているものの、被告NHKに対し強力な監督権限を有する総務大臣の要請を前提とするものであるから、その実質は放送命令と何ら異なるところがないのであり、したがって、原告らは、放送要請についても、その無効確認を求める原告適格が認められる。
イ 裁決主義
(ア) 放送法53条の13、電波法96条の2の裁決主義は、取消訴訟に関する規定であり、無効確認訴訟には適用されない。
(イ) 電波法96条の2の趣旨は、電波法に係る処分は極めて専門性、技術性を要するため準司法的機能である異議申立ての制度を導入し、これに第一審的機能を与えることとしたものであるとされている。また、放送法53条の13の趣旨は、放送法に基づく処分についても電波法に基づく処分同様に極めて専門性、技術性を要すること、放送局の免許は電波法により付与されるものであり、両者の関係は不可分となっていることから、放送法に基づく処分に対する異議申立て及び訴訟についても、電波法の電波監理審議会による異議申立て及び訴訟の制度に準じた扱いとすることが適当であるという点にある。
 ところが、平成20年度放送要請の無効確認の訴えは、放送法33条及びこれに基づく放送要請の合憲性を争うものであるところ、放送要請には専門性や技術性は全くなく、その合憲性を判断するに当たり、専門的、技術的判断は必要がない。したがって、放送要請につき裁決主義を採ることについて合理的な理由はなく、裁判を受ける権利の保障との関係上裁決主義の適用は極めて限定的に解すべきことからしても、放送法33条1項に基づく要請に同法53条の13は適用されないと解すべきであり、少なくとも、平成20年度放送要請の無効確認の訴えに裁決主義は適用されないというべきである。
(被告国の主張)
(1) 放送要請の処分性(訴訟類型の選択)
 平成20年度放送要請は、放送法33条1項に基づく総務大臣の処分であり(同法53条の10第1項2号参照)、その違法、無効確認を求める訴えは公権力の発動を不服とするものであるから、抗告訴訟として提起されるべきであり、本件当事者訴訟は訴訟類型の選択を誤った不適法なものである。
(2) 本件当事者訴訟の確認の利益
 確認の利益が認められるためには、「現に、原告の有する権利又は法律的地位に危険または不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り、許される」(最高裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁)とされている。しかし、原告らが主張する「被告NHKの行政権力から介入されない放送を聞く権利」という権利の主体とは、原告らの主張によれば、「被告NHKとの間で受信契約を締結している者又はその世帯の構成員」や「外国で居住しているため被告NHKと受信契約を締結していない日本人」である。してみると、本件確認の訴えは、「NHKの放送を受信する日本国民」ないし「国民」という、日本国民が広く有する一般的な資格・立場において、「総務大臣の放送要請が憲法体系上是か非かを問う訴訟」として提起されたものである。本件当事者訴訟は、「被告NHKの行政権力から介入されない放送を聞く権利」という主観的権利に係る主観訴訟として構成されているけれども、上記の内容は個別の国民が有する具体的な法的利益の侵害を主張するものとはいえない。本件当事者訴訟は、放送要請制度の憲法適合性それ自体を問題とするに等しいものである。
 したがって、本件当事者訴訟は、原告らの法的地位に現実的かつ具体的な危険又は不安が存在することを前提としたものであるとはいえないし、これを除去するため被告国に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であるともいえないことも明らかであるから、本件当事者訴訟には確認の利益がなく、不適法である。
(3) 本件抗告訴訟の適法性
ア 原告適格(訴えの利益)
(ア) 原告らは、平成20年度放送要請の無効確認を求める法律上の利益を有さず、原告適格はない。
 放送法の各規定にかんがみれば、同法は、放送による表現の自由を確保するとともに、放送の普及を図るものである。また、放送が有限な電波を排他的かつ独占的に占有して、不特定多数の者に対し情報を提供するもので大きな社会的影響力を有するものであることから、放送内容が公安及び善良な風俗を害しないものであること、様々な意見が報じられることにより政治的に公平な放送がされること、真実が放送されること、多くの角度から論点を明らかにすることを規定するとともに、被告NHKの公共的性格から公共放送としての役割を一般的に規定することを通じて、放送を受信する公衆、すなわち国民一般の公益を図り、公共の福祉の確保及び民主主義の発達に資することを目的とするものと解される。そして、放送命令の根拠規定である旧放送法33条の規定をみても、放送番組編集の自由に配慮し、同法1条の趣旨を踏まえ公共の福祉の観点から放送を規律することにより公益を図り、国民一般の知る権利に資するということ以上に、個々人の放送に対する個別具体的な利益ないし具体的な情報を受領する権利を保護する趣旨が含まれていると解することはできず、この点は放送法33条1項に基づく放送要請についても同じである。
 原告らが主張する「知る権利」は、公共の福祉の観点で位置づけられる国民一般の地位に基づく抽象的権利を主張するものにすぎないし、受信契約の規定を根拠として受信者に具体的な権利ないし法律上の利益が保障されていると解することもできない。その上、平成20年度放送要請において指定された放送事項は、被告NHKの自主的規律の範囲内のものであり、原告らの情報を受領する権利をなんら侵害するものではない。
(イ) 上記(2)記載のとおり、原告らによる受信者の権利の主張は、およそ国民一般が広く有する観念的地位を主張するものにすぎず、個別の国民が有する具体的な法的利益の侵害を主張するものではないから、原告らに本件抗告訴訟の訴えの利益はない。
イ 裁決主義
 総務大臣が行う放送要請は、放送法33条1項に基づく総務大臣の処分である(放送法53条の10第1項2号参照)。ところで、放送法の規定による総務大臣の処分についての異議申立て及び訴訟については、放送法53条の13において、「電波法第7章及び第115条の規定」が準用されている。そして、放送法53条の13が準用する電波法96条の2は、「総務大臣の処分に不服がある者は、当該処分についての異議申立てに対する決定に対してのみ、取消しの訴えを提起することができる。」と規定し、裁決主義を採用している。
 本件抗告訴訟も、総務大臣の処分に対する取消訴訟と同じく、総務大臣の処分を不服とし、それが違法であることを内容とする訴訟である。そして、仮に本件抗告訴訟が適法であるとすると、総務大臣が放送法33条1項に基づく放送要請をすることがその裁量の範囲を超え又はその濫用となるか否かという総務大臣の処分の適法性が、電波監理審議会の審理を経ることなく、地方裁判所において直接審理されることになる。しかし、そうなると、総務大臣の上記処分の適法性を争う場合については、電波監理審議会という専門的な機関の審理を経た決定に対してのみ取消訴訟を提起することができ(電波法96条の2)、その取消訴訟においては同審議会の審理を尊重して実質的証拠法則が採用され(同法99条1項)、かつ、東京高等裁判所の専属管轄とされている(同法97条)趣旨が全く失われることになる。これらの点にかんがみると、放送法は、同法の規定に基づく総務大臣の処分については、異議申立てに対する電波監理審議会の審理を経た後の決定の取消訴訟のみを救済手段として予定しており、それ以外の訴訟は予定していないというべきであるから、本件抗告訴訟は、不適法である。
2 被告国に対する国家賠償法上の請求の可否(甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件)
(原告らの主張)
(1) 法律上保護された利益とその侵害
ア 受信者は、被告NHKの放送の表現の自由の権利と表裏一体の関係にある被告NHKの行政権力から命令介入されない放送を聞く権利(広い意味での知る権利)を有している。この知る権利は憲法21条によって保障されている。
イ 原告らは、受信契約に基づいて被告NHKによる「特定の勢力、団体の意向に左右されない」公正な放送を受信する権利を有しているのであり、被告国が主張するように「国民一般が広く有する地位」にすぎないものではない。
 原告らのうち、日本国内で居住している者はすべて被告NHKと受信契約を締結しているが、この受信契約には消費者契約法の適用がある。そうであるところ、被告NHKは、特定の利益や意向に左右されないことを謳って受信契約の締結を勧誘しているのであり、この点は消費者契約法4条4項に定める重要事項であって、被告NHKが放送命令や放送要請に従い国の意向を反映した放送を行うことは、上記勧誘の重要事項と異なる事態であって、原告らは受信契約を取り消すことができる地位にある(消費者契約法4条1項1号)。このように、原告らは、受信契約を取り消すことができるほどの契約上の利益又は信頼利益を有している。
ウ 総務大臣がした放送命令や放送要請は、「拉致問題に特に留意すること」という文言が盛り込まれるなど、明らかに放送内容に立ち入ったものとなっている。被告NHKは、これらの放送命令に従ったり、放送要請に対し応諾したりしているのであるから、被告NHKの放送内容につき事前に行政権力によるバイアスがかけられたことは明らかである。したがって、原告らに対する具体的権利侵害は十分に認められる。
 総務大臣から、被告NHKが「北朝鮮による拉致問題に特に留意すること」という特定のテーマについて放送命令又は放送要請を受け、被告NHKがこれに特に留意して放送するとなると、視聴者の情報を受領する権利は次のとおり侵害される。第一に、特定のテーマに特に留意して放送するとなると、他のテーマより優先的に放送することが義務付けられ、特定のテーマとその他のテーマとの優先関係が誤導される。第二に、政府の拉致問題について、放送事業者の自主、自立の立場から放送することができなくなる。第三に、拉致問題等についてとりたてて放送する内容がない場合であっても、これに関連する話題を探し出してでも放送することが義務付けられる。このように、特定のテーマについての放送命令又は放送要請は、受信者の「公正な放送を受領する権利」を具体的に侵害する。
(2) 公務員の職務上の法的義務違反の有無
 公務員には憲法尊重擁護義務があるから、総務大臣が違憲の規定に従って放送命令や放送要請を行ったことが公務員としての職務上の法的義務違反となることは明白である。そして、違憲な規定に基づく放送命令・放送要請が行われれば、被告NHKによる「特定の勢力、団体の意向に左右されない」公正な放送を受信する契約上の権利が侵害されることも明白であり、総務大臣が個別の国民に対する職務上の法的義務に違反している。
(3) 因果関係及び損害
 被告NHKは、平成18年度及び平成19年度各放送命令並びに平成20年度放送要請を受けて、「北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意して」放送を行った(甲9の2、10)。被告国は、被告NHKが放送命令及び放送要請に応じて放送する費用を負担し(放送法35条)(甲1、4の2)、被告NHKは、被告国に対し、放送した内容を報告している(旧放送法施行令5条1項ホ、放送法施行令7条ホ)(甲4の2)ことからも、上記放送命令及び放送要請と上記放送内容との因果関係は明らかである。そして、前記(1)ウに述べたところからすれば、上記放送命令及び放送要請により被告NHKの報道、編集の自由が侵害されていることは明らかである。被告NHKが、北朝鮮の日本人拉致問題に関するニュースを幾度となく繰り返し報道しているのは、被告NHKが上記放送命令及び放送要請を受けているからである。
 総務大臣の平成18年度及び平成19年度各放送命令並びに平成20年度放送要請は後記4(原告らの主張)記載のとおり違憲、違法であり、これにより原告らは知る権利を侵害され、精神的苦痛を受けた。すなわち、原告らは、その内容につき国家権力(行政権力)に介入されない放送を受領する権利を享受するところ、「拉致問題に特に留意すること」という明らかに放送内容に立ち入った放送命令又は放送要請の結果、上記のとおり国家権力の介入を受けた放送の受領を余儀なくされ、上記権利を具体的に侵害されて極めて不愉快な思いをさせられた。この精神的苦痛を金銭に換算すると金1万円が相当である。
(被告国の主張)
(1) 法律上保護された利益の侵害がないこと
ア 原告らは、受信者は被告NHKの放送の表現の自由の権利と表裏一体の関係にある被告NHKの行政権力から命令介入されない放送を聞く権利(広い意味での知る権利)を有しており、この知る権利は憲法21条によって保障されているとした上で、このような原告らの知る権利が侵害されたと主張する。
 しかしながら、原告らの上記主張内容は、はなはだ抽象的かつ不明確であって、平成18年度及び平成19年度各放送命令並びに平成20年度放送要請によって個別の原告らのどのような具体的内容の権利利益をどのような態様で侵害されたというのか全く明らかでない。
イ 原告らは、受信契約に基づいて被告NHKによる「特定の勢力、団体の意向に左右されない」公正な放送を受信する権利を有しているなどと主張する。
 しかし、受信契約の内容は、放送法32条3項の規定に基づき認可された日本放送協会放送受信規約によって定められているところ、そこでは「特定の勢力、団体の意向に左右されない」公正な放送を受信する権利は認められていない。
 放送法は、受信設備を設置した者に対し被告NHKとの受信契約の締結義務を負わせ、被告NHKと受信契約を締結した者は、受信料を支払わなければならないことを規定している(同法32条、日本放送協会受信規約)。このように、被告NHKの放送を受信することができる受信設備を設置した者は、実際に放送を受信し視聴しているか否かにかかわらず、被告NHKとの間で受信契約を締結し受信料を支払わなければならない義務を負う。放送法32条2項の規定する「受信料」は、国家機関ではない独特の法人として設けられた被告NHKの業務を行うための一種の国民的な負担であって、法律により国が被告NHKに徴収権を認めたものであり、その維持運営のための特殊な負担金であって、放送の視聴に対する対価ではない(昭和39年9月8日臨時放送関係法制調査会答申、乙A3)。また、放送法は、被告NHKに対し、受信契約に基づいて個別の者との間で何らかの債務を負わせる旨の規定を置いておらず、不特定多数の者によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信であるという放送の性質上、被告NHKが行う放送が受信契約を締結した個別の者に対する債務であることを定める規定も存在しない。
 このように、受信契約は被告NHKが個々の受信契約者に対して何らの債務や経済的負担を負うことのない無償片務の契約であって、受信契約を根拠として公正な放送を受信する契約上の権利を有しているとの主張は失当である。
 また、原告らは、被告NHKに対して公正な放送を受信する権利の存在根拠として消費者契約法の適用を援用するようであるが、そもそも消費者契約法は、契約成立の過程に一定の事由がある場合に、契約当事者である消費者に対して当該契約の申込み又は承諾の意思表示の取消権を付与するにすぎず、消費者契約法が適用されること自体から契約に基づく権利利益が新たに発生することはないから、原告らの上記主張は失当である。
ウ 結局、原告らによる権利侵害の主張は、およそ国民一般が広く有する観念的地位の侵害を主張するものにすぎず、個別の国民が有する具体的な法的利益の侵害を主張するものではないから、国家賠償法上保護された法的利益の侵害を主張するものとはいえず、失当である。
(2) 個別の国民に対する職務上の法的義務違反がないこと
 原告らは、公務員には憲法尊重擁護義務があるのであり、総務大臣が違憲な規定に従って放送命令・放送要請を行ったことが公務員としての職務上の法的義務に違反しているなどと主張する。
 しかしながら、国家賠償法上、違法が認められるためには、権利ないし法的利益を侵害された当該個別の国民に対する関係において、その損害につき国に賠償責任を負わせるのが妥当かどうかという観点から、職務上の法的義務に反する行為があるか否かが判断されなければならない。そのため、職務上の法的義務であっても、専ら公益目的のものや、行政の内部的な義務等、個別の国民に対して負担する義務でないものについては、国家賠償法上の違法の判断対象とはならない。総務大臣が放送命令や放送要請をするに当たり、憲法99条の憲法尊重擁護義務を負うとしても、それは国民一般との関係で求められるにとどまるものであり、かつ、これは法律的義務というよりは道徳的要請を規定したものと解されているものにすぎず、これを根拠として被告NHKと受信契約を締結した個別の者に向けられた法的義務を観念することはできず、個別の国民との関係で何らかの法的義務が課されているものといえないことは明らかである。
3 被告NHKの不法行為又は債務不履行の成否(丁事件)
(原告らの主張)
 被告NHKは、受信契約に基づき、受信契約者に対して権力の介入を受けた放送をしないという義務を負うとともに、公共放送として国民の知る権利、具体的には国家権力の介入を受けない放送を受領する権利に奉仕すべき地位にあるにもかかわらず、これに反して、総務大臣の平成20年度放送要請に応諾すべき義務がないのにこれを応諾し、「北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意して」放送を行った(甲9の2、10)。これは原告らに対する不法行為又は債務不履行に該当する。
 被告NHKは、受信料を徴収する際、「受信料を財源とすることにより国や特定のスポンサーなどの影響にとらわれることなく…」と説明し(甲13)、原告らはこの説明を信じて被告NHKと契約し、受信料を支払い続けてきた。被告NHKが総務大臣の放送要請を応諾して放送を行うことは、「被告NHKは権力の介入を受けない放送を行う」という期待権を侵害する。原告らは、被告NHKが平成20年度放送要請を受けて前記のとおり放送を行った結果、上記期待権を侵害され、極めて不愉快な思いをさせられた。この期待権の侵害による精神的苦痛を金銭に換算すると、金1万円を下らない。
(被告NHKの主張)
 原告らは、被告NHKが放送要請に応諾して放送を行うことは原告らの期待権を侵害すると主張するが、どのような権利利益をいうのか不明であり、少なくとも文意からは法的に保護される権利利益とは解されない。また、その余の消費者契約法や知る権利に関する主張についても、被告国の主張するとおり、法的に保護された利益を基礎付けるものではなく、原告らは法的に保護されるべき権利利益を有していないから、不法行為は成立しない。
 原告らは、受信契約に基づく債務不履行を主張するが、被告NHKは、受信契約に基づく債務として、被告NHKが受信契約者に対し特定の内容の放送を行う債務を負うものではない。放送法は、被告NHKが「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行」うことを目的とする旨定め(放送法7条)、被告NHKは、放送の一類型であるテレビジョン放送があまねく全国において受信できるようにする措置をしなければならない(同法9条5項)旨定めるなど、被告NHKの義務を定めてはいるものの、これらはいずれも公法上の義務を定めたものにすぎず、受信契約者に対して特定の放送をすべき債務を定めたものではなく、受信契約は、こうした公法上の義務の存在を所与の前提として締結されるものにすぎない。
4 平成18年度及び平成19年度各放送命令の違憲性並びに平成20年度放送要請の違憲、違法(無効)性(甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件)
(原告らの主張)
(1) 平成18年度及び平成19年度各放送命令の違憲性
ア 憲法21条は、いわゆる国家からの自由という自由権としての表現の自由を保障しているが、この自由には、放送・報道の自由が含まれるから、報道機関はいかなる内容の放送・報道を行うか否か、また特定の内容の放送・報道を行うか否かについて国家などの公権力から強制を受けることなく全く自由に決定する自由が保障されている。言い換えれば、ある特定の放送・報道を行うという積極的自由だけではなく、ある特定の放送・報道を行わないという消極的自由も保障されている。また、表現の自由、放送・報道の自由においては、いわゆる事前抑制が原則的に禁止される。
イ 制定当時の放送法においては、放送命令の命令主体は、政府、政党等から独立したアメリカ型の連邦通信委員会(FCC)である電波監理委員会が行うこととされており、電波監理委員会は政府、国会、政党から独立した準立法、準行政機関であった。昭和27年7月のアメリカ占領政策の終了に際して、上記電波監理委員会が廃止され、放送命令の命令権限が郵政大臣に移管された。本来、政府等から独立した電波監理委員会が廃止されるのであれば、憲法21条適合性の観点から、放送命令の規定も削除されるべきであったが、憲法問題の検討もされないまま残されたものであり、いわば放送命令の制度は当時の時代の遺物であった。
 放送命令は、事前に放送機関にある報道をするよう作為を命じることであり、放送・報道の強制である。これは、放送・報道の自由(特に、ある特定の放送・報道を行わないという消極的自由)を侵害するものである。
ウ 憲法21条の表現の自由、放送・報道の自由は、いかなる制約にも服さないというわけではないが、経済的自由権のように政策的な制約を許容するものではなく、憲法12、13条による人権同士の衝突を調整するため等の制約(いわゆる内在的制約)にのみ服する。しかし、旧放送法33条は、他の人権を保障するための内在的制約ではないから、憲法上許されない。
エ 旧放送法33条は、総務大臣に対し、いつ、どのような場合に、どのような内容の放送を命じることができるか一切限定しておらず、法律上は総務大臣の広範な裁量権にゆだねられている。総務大臣は時の政権政党から選ばれるから、政党人たる総務大臣に対する無限定の命令権は、より一層、この放送命令が政権政党や時の総務大臣の意向に左右され、被告NHKの持つ放送の公共性と矛盾し、その放送、報道を萎縮させるものであって、憲法21条に違反する。
オ 上記のとおり、旧放送法33条1項は憲法21条に違反するものであり、旧放送法33条1項に基づいてされた平成18年度及び平成19年度各放送命令もまた違憲である。
(2) 平成20年度放送要請の違憲性、違法(無効)性
ア 放送法33条1項においては、旧放送法33条の「命じ」「命ずることができる」という文言から、「要請し」「要請することができる」という文言に改められている。しかしながら、現行の放送法33条3項には、放送要請に対する応諾努力義務が規定されており、しかも、被告NHKの事業に関する免許、予算等の強力な監督権限(電波法4条、13条1項、27条の15、放送法37条、16条1項等)を有する総務大臣の要請であることからすれば、上記要請は実質的には強制であり、放送法33条1項の放送要請は、旧放送法33条1項の放送命令と同様、法令違憲である。したがって、平成20年度放送要請は、憲法21条に違反する放送法33条1項に基づきされたものであり、違憲である。
イ また、平成20年度放送要請は、放送法33条1項の制約すら逸脱しており、違憲、違法である。すなわち、平成19年の放送法改正においては、被告NHKの放送の自由に配慮するため、放送事項を「邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項、国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項その他国の重要事項に係るものに限る。」と限定し、また、同条2項においては、「総務大臣は、前項の要請をする場合には、協会の放送番組編集の自由に配慮しなければならない。」との規定を設けている。しかるに、平成20年度国際放送実施要請(ラジオ放送要請)においては、「上記事項の放送に当たっては、北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること。」と放送事項を具体的に指定されており、被告NHKの放送の自由を不当に制約するものであって、放送法33条に反することは明白である。したがって、平成20年度放送要請は、放送法33条の趣旨からも逸脱しており、違憲、違法である。
ウ したがって、総務大臣の被告NHKに対する平成20年度放送要請は、憲法に違反し、違法、無効である。
(被告国及び被告NHKの主張)
 争う。
第5 当裁判所の判断
1 放送命令及び放送要請に係る関係法令の定め及びその趣旨等
(1) 旧放送法の規定
 旧放送法は、放送(公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう。2条1号)を国内放送及び受託国内放送(以下両者をまとめて「国内放送」ということがある。)と国際放送、中継国際放送及び受託協会国際放送等(以下、これらのうち国際放送及び受託協会国際放送を「国際放送」ということがある。)に分け、その放送番組(放送する事項の種類、内容、分量及び配列をいう。2条4号)の編集等について、3条において、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」旨規定することにより放送番組編集の自由を保障しつつ、国内放送の放送番組の編集に当たっては、3条の2第1項において、@ 公安及び善良な風俗を害しないこと、A 政治的に公平であること、B 報道は事実をまげないですること、C 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること、を遵守すべき準則として定めている。他方、旧放送法は、国際放送(委託協会国際放送を含む。)については、被告NHKはこれを業務として行うものとし(7条、9条1項4号)、被告NHKが国際放送の放送番組の編集及び放送若しくは受託協会国際放送の放送番組の編集及び放送の委託又は外国放送事業者若しくは外国有線放送事業者に提供する放送番組の編集に当たっては、我が国の文化、産業その他の事情を紹介して我が国に対する正しい認識を培い、及び普及すること等によって国際親善の増進及び外国との経済交流の発展に資するとともに、海外同胞に適切な慰安を与えるようにしなければならない旨規定している(44条4項)ほか、33条1項において、「総務大臣は、協会に対し、放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを命じ、又は委託して放送をさせる区域、委託放送事項その他必要な事項を指定して委託協会国際放送業務を行うべきことを命ずることができる。」旨規定する(放送命令)とともに、35条1項において、同法33条の規定により被告NHKの行う業務に要する費用は国の負担とする旨規定している。
(2) 放送法の規定
 放送法は、放送を国内放送及び受託国内放送と国際放送、中継国際放送及び受託協会国際放送等に分けた上、国際放送を更に邦人向け国際放送(国際放送のうち邦人向けの放送番組を放送するものをいう。2条2の2号)と外国人向け国際放送(国際放送のうち外国人向けの放送番組を放送するものをいう。2条2の2の2号)とに分け、放送番組の編集等について、旧放送法と同じく、3条において放送番組編集の自由を保障しつつ、国内放送の放送番組の編集に当たって、前記(1)@ないしCを遵守すべき準則として定め、他方で、国際放送(邦人向け国際放送及び外国人向け国際放送並びに邦人向け委託協会国際放送業務及び外国人向け委託協会国際放送業務)については、被告NHKはこれを業務として行うものとし(7条、9条1項4号、5号)、被告NHKが邦人向け国際放送の放送番組の編集及び放送若しくは邦人向け受託協会国際放送の放送番組の編集及び放送の委託又は外国放送事業者若しくは外国有線放送事業者に提供する邦人向けの放送番組の編集に当たっては、海外同胞向けの適切な報道番組及び娯楽番組を有するようにしなければならない旨規定し(44条4項)、被告NHKが外国人向け国際放送の放送番組の編集及び放送若しくは外国人向け受託協会国際放送の放送番組の編集及び放送の委託又は外国放送事業者若しくは外国有線放送事業者に提供する外国人向けの放送番組の編集に当たっては、我が国の文化、産業その他の事情を紹介して我が国に対する正しい認識を培い、及び普及すること等によって国際親善の増進及び外国との経済交流の発展に資するようにしなければならない旨規定している(44条5項)ほか、33条1項において、「総務大臣は、協会に対し、放送区域、放送事項(邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項、国の重要な政策に係る事項、国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項その他の国の重要事項に係るものに限る。以下この項における委託放送事項について同じ。)その他必要な事項を指定して国際放送を行うことを要請し、又は委託して放送をさせる区域、委託放送事項その他必要な事項を指定して委託協会国際放送業務を行うことを要請することができる。」旨、同条2項において、「総務大臣は、前項の要請をする場合には、協会の放送番組の編集の自由に配慮しなければならない。」旨、同条3項において、「協会は、総務大臣から第1項の要請があったときは、これに応じるよう努めるものとする。」旨それぞれ規定するとともに、35条1項において、同法33条1項の要請に応じて被告NHKが行う国際放送又は委託協会国際放送業務に要する費用は国の負担とする旨規定している。
(3) 命令放送制度及び要請放送制度の趣旨等
 一般放送事業者はもとより被告NHKについても憲法の表現の自由の保障が及ぶものであり、旧放送法及び放送法は、放送における表現の自由を確保するため、その根幹である番組の編集について、3条において放送番組編集の自由を保障している。もっとも、放送は、有限希少な電波のうちの特定の周波数を特定の者が排他的に占有することにより行われるものである。また、放送は、情報を音声、動画等により不特定多数の者(公衆)に同時に伝達するものであり、かつ、受信者において受信機を設置することにより容易にこれを受領することができるものであって、国民の知る権利に資するところが大きい反面、その社会的影響力も大きい。旧放送法及び放送法は、このような表現行為としての放送の性質にかんがみ、その目的規定(1条)において、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること、放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること等を原則として規定するとともに、3条の2において、国内放送の放送番組の編集に当たって遵守すべき準則として、前記(1)@ないしCを規定しているということができる。
 これに対し、国際放送(受託協会国際放送を含む。)は、外国において邦人又は外国人に受信されることを目的とするものであって、必然的に我が国と外国とのかかわりを生じさせ、我が国と外国との間の関係(国際関係)に影響を及ぼし得るものであるとともに、我が国の外国に対する情報発信としての性格をも有するものである。このような国際放送の性格にかんがみ、旧放送法及び放送法は、一般放送事業者が国際放送を行うことを予定しておらず、被告NHKが我が国を代表して行うものとし、国内放送とは異なる放送番組の編集の準則を規定するとともに、旧放送法においては総務大臣の命令に基づき国の費用負担において行う命令放送制度を、放送法においては総務大臣の要請を応諾することにより国の費用負担において行う要請放送制度をそれぞれ規定している。すなわち、旧放送法及び放送法は、国際放送について、被告NHKが我が国を代表してこれを業務として行うものとした上で、被告NHKにおいて番組編集の自由を有することを前提に国内放送とは異なる番組準則に従って番組を編集して行ういわゆる自主放送と、総務大臣の命令又は要請に基づいて行う命令放送ないし要請放送の併存体制を規定しているということができる。このうち、旧放送法の規定する命令放送制度の趣旨については、国際放送は、我が国の見解や国情を正しく外国に伝えること、海外同胞に災害事件等を迅速に伝えることなどの国策的使命を有するものであり、公共放送機関に任せるのみでは十分ではなく、国として実施することが必要なものについては自らの意思でこれを行うことが望まれるが、国は放送に関する知識経験に乏しいこと、放送の客観性を担保する必要があること、国際放送といえども言論報道であることからこれを国自ら行うことは適当でないことにかんがみ、国の意思を被告NHKに命令し、この意思を体現した放送を行わせることとしたものであると説明されている。そして、平成19年法律第136号による放送法の改正(以下「本件改正」という。)中国際放送に関する改正は、我が国の対外情報発信力を強化するため、被告NHKの国際放送の業務を外国人向けと在外邦人向けに分離し、それぞれに適合した番組準則を適用し、外国人向けの映像国際放送について番組制作等を新法人に委託する制度を設けることとしたものであるとされ、旧放送法の放送命令に関する規定の改正の趣旨については、国際放送が我が国の見解や国情を正しく外国に伝えること、海外同胞に災害、事件等を迅速に伝えること等の国策的使命を有するものであることにかんがみると、公共放送機関とはいえ被告NHKに任せるのでは不十分であり、国として実施することが必要な国際放送についてその確実な実施を担保する仕組みは今後とも必要であることから、従来の命令放送制度をより一層番組編集の自由に配慮した形の要請放送制度に改めたものであるとされ、被告NHKは総務大臣から国際放送についての要請があったときは、その応諾義務はなく、応じるよう努力すべき義務を負うものであり、真しに努力した結果としてその要請に応じないことも制度上はあり得るものの、被告NHKの公共放送機関としての性格等にかんがみ、実際上は、これまで同様に国の要請に応じることが引き続き期待されていると説明されている。
2 平成20年度放送要請の違法、無効確認を求める訴えの適否(丁事件)
(1) 抗告訴訟としての訴えの適否
ア 放送法33条3項は、被告NHKは、総務大臣から放送要請があったときは、これに応じるよう努めるものとする旨規定しており、当該規定によれば、被告NHKは総務大臣の放送要請に対し応諾義務そのものを負うものではなく応諾努力義務を負うにすぎないことは法文上明らかである。
 しかしながら、前記1(3)において述べた平成19年法律第136号による命令放送制度から要請放送制度への改正の趣旨は、国際放送が国策的使命を有することから、国として実施することが必要な国際放送についてその確実な実施を担保する仕組みが今後とも必要であることにかんがみ、命令放送制度を被告NHKの番組編集の自由(表現の自由)により一層配慮した形の要請放送制度に改めるというものである。このような要請放送制度の目的及び意義に照らすと、被告NHKは、放送法上、総務大臣の放送要請に対し、応諾するよう真しな努力をすべき義務を負うものと解されるのであり、前記1(3)において述べたとおり、真しな努力の結果として要請に応じられないという事態も制度上一応想定されてはいるものの、特段の事情がない限り要請に応じることが前提とされているものということができ、被告NHKが合理的な理由もなく要請に応じないときは、放送法違反として、電波法76条1項の規定による無線局の運用の停止命令その他の処分の事由等になり得るものと解される。このことに加えて、放送法上、公共放送機関である被告NHKにも表現の自由に由来する放送番組編集の自由が国際放送についても保障されており、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない地位にあること(放送法3条)も併せ考えれば、放送要請は、被告NHKに対し、これに応諾するよう真しな努力をすべき法律上の義務を課す行為として規定されていると解するのが相当である。
 また、放送法53条の10第1項2号は、「第33条1項(国際放送等の実施の要請)・・・の規定による処分をしようとするとき」と規定し、他の各種認可や命令等とともに、総務大臣がこれをしようとするときは電波監理審議会に諮問しなければならない「処分」として位置付けており、さらに、同条と同じく第5章に置かれている同法53条の13は、「電波法第7章及び第115条の規定は、この法律の規定による総務大臣の処分についての異議申立て及び訴訟について準用する。」旨規定していることにも照らせば、放送法は、放送要請を「処分」として位置付け、これを抗告訴訟の対象とするという立法政策を採用していることがうかがわれる。
 以上によれば、放送要請は抗告訴訟の対象である「処分」に該当するものということができる。
イ そこで、原告らが平成20年度放送要請についてその無効確認を求める法律上の利益(行政事件訴訟法36条)を有するか否かにつき検討する。
(ア) 行政事件訴訟法36条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」は、同法9条1項にいう「当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」であることを前提とするところ、同項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
 そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項、最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
(イ) 原告らの主張の趣旨からすれば、原告らは、憲法により保障された知る権利を有すること及び被告NHKとの間の受信契約に基づく契約者として国家権力(行政権力)に介入されない放送を受領する地位を有することを法律上の利益を基礎付ける事由として主張するものと解される。
 主権が国民に属する民主制国家は、その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともにこれらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意思をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、このような過程を通じて国政が決定されることをその存立の基盤としているのであるから、表現の自由、とりわけ、公共的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならないものであり、憲法21条の規定は、その核心においてこのような趣旨を含むものと解される。他方で、憲法は、国民が、主権者として、自由な意思をもって国政に関する意見を形成した上、選挙において投票をすることによって国政に参加する権利を保障しているところ、このような国民の権利の保障を実効性あるものとするためには、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を受領することができることが不可欠というべきであり、憲法21条は、このような意味での国民の知る権利をも保障しているものと解される。そうであるところ、前記のとおり、放送は、情報を音声、動画等により不特定多数の者(公衆)に同時に伝達するものであって、かつ、受信者において受信機を設置することにより容易にこれを受領することができるものであり、事実の報道を始め国民が国政に関与するにつき重要な判断資料を提供する手段として極めて高い価値を有し、国民の知る権利に資するところが大きい反面、その社会的影響も大きいものである。また、放送は、電波の有限希少性のゆえに、表現手段としての汎用性がなく、特定の者が特定の周波数を排他的に占有することにより行われるものである。放送法は、このような放送の性格等にかんがみ、放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすこと、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること、放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること、以上の原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的として規定した上(1条)、3条の2第1項において、放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、政治的に公平であること、報道は真実をまげないですること、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること、等の準則に従わなければならない旨規定し、また、44条4項において、国際放送(委託協会国際放送業務を含む。以下同じ。)をその業務として行うものとされている被告NHKの邦人向け国際放送の放送番組の編集等に当たっては、海外同胞向けの適切な報道番組を有するようにしなければならない旨規定し、もって国民の知る権利の確保、充実を図ろうとしているものということができる。
 以上検討したところによれば、放送法は、国内放送及び少なくとも邦人向け国際放送については、国民の知る権利を保護すべきものとする趣旨を含むものと解される。
(ウ) しかしながら、放送法は、その規定内容から明らかなとおり、国内放送における国民及び国際放送における在外邦人たる国民の地位については、これを専ら放送の受信者として位置付けた上、放送における国民の知る権利の確保については、被告NHKを含む放送事業者自身が憲法の表現の自由の保障の下にあることにかんがみ、専ら放送事業者の自律にゆだねる仕組みを採用しているということができる(同法4条1項の規定も、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、真実でない事項の放送により権利を侵害された者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨のものではないと解されている。最高裁平成13年(オ)第1513号、同年(受)第1508号同16年11月25日第一小法廷判決・民集58巻8号2326頁参照)。このような放送法の趣旨、目的及び規定内容等にかんがみると、同法は、放送における国民の知る権利については、これを国民がひとしく有する一般的、抽象的な権利として専ら一般的公益の中に吸収解消させて保護するにとどめ、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含まないものと解するのが素直というべきである。原告らが主張する国家権力(行政権力)に介入されない放送を受領する権利も、それ以上の主張、立証を欠く本件においては、受信者(国民)がひとしく有する一般的、抽象的な知る権利をいうものと解さざるを得ないから、上記のとおり放送法においては一般的公益に吸収解消されているものというべきである。
 のみならず、前記1(3)において述べたとおり、放送法上、要請放送制度及びその前身である命令放送制度は、いずれも、国際放送が我が国の見解や国情を正しく外国に伝えること、海外同胞に災害、事件等を迅速に伝えること等の国策的使命を有するものであることから、国として実施することが必要な国際放送についてその確実な実施を担保する仕組みが必要であるとの認識の下に、これを国自らが実施する代わりに、そのために必要な設備及び知識経験等を備えた公共放送機関である被告NHKに対し、国の費用負担において、国の意思を命令してこれを体現した放送を行わせ(命令放送)、又は国の意思を要請として伝え、被告NHKにおいてこれに応じて国の意思を体現した放送を行う(要請放送)制度として規定されているものである。すなわち、そもそも、国家が、当該国の見解や国情を外国に伝え、又は海外(外国政府の主権下)にある国民(在外邦人)の生命、身体等の保護のため災害、事件等を迅速に伝えること等(対外情報発信)は、主権国家としての固有の権能に属するものであって、そのための伝達手段として放送を利用することも、主権国家として当然に行うことができるものとされているのであって、我が国の憲法もこのことを当然の前提とするものと解される。そして、旧放送法及び放送法の定める命令放送制度及び要請放送制度は、国がこのような国策放送の権能を有することを前提に、国がこれを自ら行う代わりに、国際放送を行う責務を有する公共放送機関である被告NHKを介して国の費用負担の下にこれを行う仕組みを採用した上、被告NHKが放送事業者として表現の自由に由来する放送番組の編集の自由を有することへの配慮から、国(総務大臣)において被告NHKに対し放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを命じ(放送命令)、被告NHKにおいて当該命令に係る放送番組を編集して放送し(命令放送)、又は国(総務大臣)において被告NHKに対し放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うことを要請し(要請放送)、被告NHKにおいて当該要請に応じて当該要請に係る放送番組を編集して放送する(要請放送)制度として規定されたものということができる。
 以上のとおり、放送法の定める命令放送制度ないし要請放送制度は、専ら日本の国策的要請に基づき実施される、日本の国家としての対外情報発信のみちを確保するための制度ということができるから、民主制国家の存立の基礎を成す国民の知る権利の保障とはそもそも無関係な制度ということができるのであって、命令放送ないし要請放送が在外邦人の知る権利に資する面があるとしても、当該制度の根拠となる旧放送法33条ないし放送法33条の規定が放送の受信者としての国民の知る権利を個々の国民の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできない。
(エ) この点、原告らは、放送法上被告NHKとの間の受信契約に基づく契約者として国家権力(行政権力)に介入されない放送を受領する権利、利益が保護されている趣旨の主張をする。
 放送法7条は、被告NHKは、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行い又は当該放送番組を委託して放送させるとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、併せて国際放送及び委託協会国際放送業務を行うことを目的とする旨規定し、同法32条1項本文は、被告NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、被告NHKとその放送の受信についての契約をしなければならない旨規定し、同法37条4項は、同法32条1項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料の月額は、国会が、同条1項の被告NHKの毎事業年度の収支予算を承認することによって定める旨規定し、法44条1項は、国内放送の放送番組の編集に関する特例として、被告NHKは、国内放送の放送番組の編集及び放送又は受託国内放送の放送番組の編集及び放送の委託に当たっては、同法3条の2第1項に定めるところによるほか、@ 豊かで、かつ、良い放送番組を放送し又は委託して放送させることによって公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように、最大の努力を払うこと、A 全国向けの放送番組のほか、地方向けの放送番組を有するようにすること、B 我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること、という準則に従わなければならない旨規定し、同法45条は、被告NHKがその設備又は受託放送事業者の設備により、公選による公職の候補者に政見放送その他選挙運動に関する放送をさせた場合において、その選挙における他の候補者の請求があったときは、同等の条件で放送をさせなければならない旨規定し、同法46条1項は、被告NHKは、他人の営業に関する広告の放送をしてはならない旨規定するなど、被告NHKは、同法上、公共放送機関として、番組編集の自由等についても一般放送事業者等とは異なった規律がされている上、要請放送(その前身である命令放送)を除いて受信者の受信料でもってその経費をまかなう仕組みがとられている。そして、放送法が被告NHKの財政的基礎を税や広告収入ではなく受信料に負うものとする受信料制度を採用した趣旨は、国や広告主等の影響を可及的に避け自律的に番組編集を行うことができるようにすることにあると解される。
 上記のような放送法の規定内容及びその趣旨からすれば、受信料は、被告NHKによる放送の提供の対価(料金)ではなく、被告NHKの維持運営のための特殊な負担金であり、当該受信料の支払義務を発生させるための法技術として受信設備の設置者と被告NHKとの間の受信契約の締結という手法を採用した上、当該設置者にその締結義務を課したものと解されるのであって、このような受信契約及び受信料の性格からすれば、放送法は、およそ被告NHKの受信者に対する受信契約上の義務の存在を想定していないものというべきであり、当該義務の存在をうかがわせるような法令の規定等も見当たらない。そうであるとすれば、放送法が被告NHKの放送についてその受信契約者の知る権利(国家権力(行政権力)に介入されない放送を受領する権利)を個々の受信契約者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのも困難というべきであり、まして、上記のような命令放送制度ないし要請放送制度の趣旨及び性格等(前記のとおり命令放送ないし要請放送は受信料ではなく国の費用負担において実施されるものである。)からすれば、その根拠となる旧放送法33条ないし放送法33条の規定が受信契約者である国民の知る権利を個々の国民の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできない。
 以上検討したところによれば、平成20年度放送要請の根拠となる法令の規定が、国民ないし受信契約者の知る権利(国家権力(行政権力)に介入されない放送を受領する権利)を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨をも含むものと解することはできない。
 したがって、原告らは、いずれも、その余の点について検討するまでもなく、抗告訴訟としての平成20年度放送要請の無効確認を求める原告適格を有しないというべきであるから、同放送要請の無効確認を求める訴え(本件抗告訴訟)は、その余の点について判断するまでもなく、不適法である。
(2) 当事者訴訟としての訴えの適否
ア 前記(1)アで検討したとおり、放送法33条1項の規定による放送要請は、抗告訴訟の対象となる処分であると解されるところ、同法53条の13、電波法96条の2により、放送要請について裁決主義が採用され、放送要請に不服がある者は、これについての異議申立てに対する決定に対してのみ、取消しの訴えを提起することができるものとされている。もっとも、被告国の主張するとおり、法律により取消訴訟についての裁決主義が規定されている場合には抗告訴訟としての当該処分の無効確認訴訟を提起することが許されないと解する余地があるとしても、当事者訴訟としての当該処分の無効に係る公法上の法律関係に関する確認の訴えを提起することは、確認の利益が肯定される限り、許されるものと解されるので、当事者訴訟としての平成20年度放送要請につき原告らにその違法、無効確認を求める訴えの利益(確認の利益)を肯定することができるか否かについて検討する。
イ 公法上の法律関係に関する確認の訴えも、現に原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り、確認の利益を肯定することができる。
 原告らは国民として憲法21条により知る権利を保障されているところ、知る権利は、国民が選挙権の行使を通じて国政へ参加するに当たり重要な判断の資料を受領することを保障するものであって、民主制国家の存立の基礎を成す重要な権利ということができる。他方で、前記のとおり、放送は、情報を音声、動画等により不特定多数の者(公衆)に同時に伝達するものであり、かつ、受信者において受信機を設置することにより容易にこれを受領することができるものであって、国民の知る権利に資するところが大きい反面、その社会的影響力も大きいものである。このような放送の性格等にかんがみると、政治的に公平を欠く番組、事実を歪曲した報道又は意見が対立している問題について特定の角度からのみ論点を取り上げた番組が放送されるなど、放送法3条の2第1項に違反する内容の番組が放送されたような場合には、国政に関する国民の自由な意思の形成が妨げられ、その結果として議会制民主主義の根幹を成す選挙権の行使が事実上制約を受けるなどの重大な損害を被ることも考えられるところである。
 しかしながら、本訴において原告らが主張する権利又は法律的地位の危険、不安の具体的内容は、平成20年度放送要請によって原告らの被告NHKの国家権力(行政権力)の介入を受けない放送を受領する権利が侵害されたというものであるところ、前記(1)イにおいて説示したとおり、同原告らの主張に係る権利は、受信者(国民)がひとしく有する一般的、抽象的な知る権利というほかなく、このような権利は、放送法においては、専ら一般的公益の中に吸収解消させて保護すべきものとされるにとどまっているのであり、平成20年度放送要請によって原告らのこのような一般的、抽象的な権利に危険、不安が生じたとしても、訴訟制度により解決するに値するだけの具体性、現実性(争訟の成熟性)を欠くものというほかない。そして、このような一般的、抽象的な権利に対する危険、不安に加えて平成20年度放送要請によって原告らの選挙権その他の具体的な権利、利益にどのような危険、不安が生じたかについての主張、立証は全くない。そうであるとすれば、原告らの平成20年度放送要請の違法、無効確認を求める訴え(本件当事者訴訟)は、その余の点について検討するまでもなく、確認の利益を欠き、不適法というべきである。
3 被告国に対する国家賠償法上の請求について(甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件)
(1) 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。
 前記のとおり、旧放送法の規定する命令放送制度及び放送法の規定する要請放送制度は、いずれも、我が国が主権国家として国策的要請に基づく対外情報発信(国策放送)を行う固有の権能を有することを前提に、国がこれを自ら行う代わりに、国際放送を行う責務を有する公共放送機関である被告NHKを介して国の費用負担の下にこれを行う仕組みを採用した上、被告NHKが放送事業者として表現の自由に由来する放送番組の編集の自由を有することへの配慮から、国(総務大臣)において被告NHKに対し放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを命じ(放送命令)、被告NHKにおいて当該命令に係る放送番組を編集して放送し(命令放送)、又は国(総務大臣)において被告NHKに対し放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うことを要請し(放送要請)、被告NHKにおいて当該要請に応じて当該要請に係る放送番組を編集して放送する(要請放送)制度である。このような命令放送及び要請放送の性格にかんがみると、命令放送及び要請放送に係る権限を有する機関(総務大臣)の判断は、事柄の性質上高度の政治性を有するものであるということができるから、その判断の適否は司法審査になじまないところがあるということができる。
 もっとも、放送命令ないし放送要請がこれを受けた被告NHKの国内放送ないし自主放送としての国際放送の番組の編集等に事実上影響を与え、その結果、放送法3条の2第1項等に違反する内容の番組が放送されることもおよそ考えられないものではないことからすれば、国内放送ないし自主放送としての国際放送における番組の編集に不当に干渉する意図の下に放送命令又は放送要請がされ、その結果、放送法3条の2第1項(ないし同法44条4項)等に違反する内容の番組が放送されたことにより、個々の国民がその財産権や名誉その他の人格的利益等を侵害された場合はもとより、国政に関する国民の自由な意思の形成が妨げられ、その結果として議会制民主主義の根幹を成す選挙権の行使が事実上制約を受けるなどの重大な損害を被ったような場合には、放送命令又は放送要請に藉口して国民の権利、利益を違法に侵害したものとして、個別の国民に対する職務上の法的義務の違反を構成し、国家賠償法上違法となる余地があるものというべきである。
 しかしながら、本訴において原告らが放送命令(平成18年度及び平成19年度各放送命令)又は放送要請(平成20年度放送要請)によって侵害されたと主張する権利ないし利益は、被告NHKのその内容につき国家権力(行政権力)に介入されない放送を受領する権利であるところ、前記のとおり、このような権利は、受信者(国民)がひとしく有する一般的、抽象的な知る権利にすぎない上、その侵害により被ったと主張する損害の内容も、国家権力(行政権力)の介入を受けた放送の受信を余儀なくされて極めて不愉快な思いをさせられたという不快感にすぎない。そして、原告らの主張するこのような権利ないし利益は、その内容及び性質に照らし、法律上の保護に値するものということはできず、損害賠償の対象とすることはできないというべきである。
 確かに、証拠(甲1の1、同4の2、同9の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、被告NHKは、国際放送においても委託協会国際放送業務においても、自主放送と命令放送ないし要請放送を一体として番組を編集し放送していること、被告NHKは、八俣送信 又は海外中継局から送信される短波ラジオ放送により国際放送を行っていること、平成19年10月1日より前の国際放送は、地域向け放送と一般向け放送の2つの区分に分けられ、地域向け放送は、世界の各地域に向けてそれぞれの地域に応じた言語(英語を含む21言語)を使用して実施され、一般向け放送は、全世界に向けて日本語と英語の2言語を使用して実施されていたが、同日以降、上記の区分を取りやめ、従前の地域向け放送のうち4言語による放送を廃止して、日本語を含む18言語を使用してこれを実施していること、国際放送のうちの日本語放送については、被告NHKが国内放送として実施しているラジオ第一放送のニュース番組を1日約18時間(放送全体で約20時間)そのまま同時に送信している(したがって、その内容は上記国内放送の番組と同一である。)ほか、ニュース番組に続いて国際放送局で独自に入手した情報に基づく海外安全情報を4分間放送していること、日本語以外の言語による放送は、報道局が出稿したニュース原稿を基に放送対象地域の地域性や視聴者の関心などを勘案してこれを取捨選択の上ニュース編集を行い、放送原稿を当該言語に翻訳した上で放送していること、被告NHKが平成19年5月1日から同年7月31日までの間及び同年11月1日から平成20年1月31日までの間にラジオ第一放送において放送した北朝鮮による日本人拉致問題に触れたニュース番組に係る主なニュース原稿30件の放送日及びタイトルはそれぞれ別紙3記載のとおりであり、被告NHKは、これらのニュース原稿を1日につき1回ないし数回国際放送で放送したこと、以上の事実が認められる。
 しかしながら、上記事実及び甲10からは、国内放送においても被告NHKの北朝鮮による日本人拉致問題に配慮した報道姿勢がうかがわれないでもないが、上記事実関係のみから上記各放送命令ないし放送要請が国内放送ないし自主放送としての国際放送における番組の編集に不当に干渉する意図の下に行われた事実を推認することができないことはもとより、これらの命令ないし要請において指定された放送事項の内容との関係においても、原告らの主張するような権利、利益をもって法律上の保護に値するものということはできず、他に上記各放送命令ないし放送要請によって原告らに損害賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったことについての主張、立証はない。
 そうであるとすれば、原告らの被告国に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
4 被告NHKに対する損害賠償請求について(丁事件)
(1) 不法行為に基づく損害賠償請求
 本訴において原告らが被告NHKが平成20年度放送要請に応じて要請に係る放送事項について国際放送を実施したことにより侵害されたと主張する権利は、被告NHKは権力の介入を受けない放送を行うという受信者(国民)がひとしく有する期待権にすぎない上、その侵害により被ったと主張する損害の内容は、上記期待権を侵害されて極めて不愉快な思いをさせられたという不快感にすぎないところ、このような権利ないし利益は、その内容及び性質に照らし、法律上の保護に値するものということはできず、損害賠償の対象とすることはできないというべきであり、他に被告NHKの上記国際放送の実施によって原告らに損害賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったことについての主張、立証はない。
 そうであるとすれば、原告らの被告NHKに対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(2) 債務不履行に基づく損害賠償請求
 前記のとおり、放送法は、被告NHKの財政的基礎を受信料に負うものとする受信料制度を採用するとともに、当該受信料の支払義務を発生させるための法技術として受信設備の設置者と被告NHKとの間の受信契約の締結という手法を採用したにすぎないのであって、およそ被告NHKの受信者に対する受信契約上の義務の存在を想定していないものというべきであり、原告らが主張するような受信契約者に対して権力の介入を受けた放送をしないという受信契約上の義務の存在をうかがわせるような法令の規定等も見当たらない。
 そうであるとすれば、被告NHKが受信契約者に対して権力の介入を受けた放送をしないという受信契約上の義務を負うことを前提とする原告らの被告NHKに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は、その前提を欠くものとして、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
5 結論
 以上によれば、丁事件原告らの訴えのうち、平成20年度放送要請が違法、無効であることの確認を求める部分(抗告訴訟及び当事者訴訟)は、いずれも不適法であるから、これを却下し、甲事件原告ら、乙事件原告ら、丙事件原告及び丁事件原告らの被告国に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求並びに丁事件原告らの被告NHKに対する不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がないから、これを棄却すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第2民事部
 裁判長裁判官 西川知一郎
 裁判官 徳地淳
 裁判官 直江泰輝
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