判例全文 line
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【事件名】NPO法人の海外調査報告書無断転用事件
【年月日】平成21年2月19日
 東京地裁 平成20年(ワ)第21343号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年12月18日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 永島賢也
被告 特定非営利活動法人リサイクルソリューション
被告 東洋建設株式会社
被告 B
被告ら訴訟代理人弁護士 佐藤博史
同 コ永京子
同訴訟復代理人弁護士 米澤章吾


主文
1 被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分を複製してはならない。
2 被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分を公衆送信してはならない。
3 被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分に係る報告書及びデータを廃棄せよ。
4 被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは、自ら開設するウェブサイト(http://<以下略>)のトップページに、別紙謝罪広告目録記載1の謝罪文を30日間掲載せよ。
5 被告Bは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分を複製、翻案又は改変してはならない。
6 被告Bは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分に係る報告書及びデータを廃棄せよ。
7 被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び被告Bは、原告に対し、各自45万円並びに内金40万円について平成16年9月30日から、内金5万円について被告特定非営利活動法人リサイクルソリューションは平成20年8月6日から、被告Bは同月7日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告の被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び被告Bに対するその余の請求並びに被告東洋建設株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は、被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び被告Bに生じた費用の5分の1及び原告に生じた費用の5分の1を被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション及び被告Bの負担とし、被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション、被告B及び原告に生じたその余の費用並びに被告東洋建設株式会社に生じた費用を原告の負担とする。
10 この判決は、第7、9項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告特定非営利活動法人リサイクルソリューション(以下「被告リサイクルソリューション」という。)は、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の報告書及びデータを廃棄せよ。
2 被告リサイクルソリューションは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の報告書及びデータを複製してはならない。
3 被告リサイクルソリューションは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分のデータを公衆送信してはならない。
4 被告リサイクルソリューションは、自ら開設するウェブサイト(http://<以下略>)のトップページに、別紙謝罪広告目録記載1の謝罪文を30日間掲載せよ。
5 被告Bは、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の報告書及びデータを廃棄せよ。
6 被告B及び被告東洋建設株式会社(以下「被告東洋建設」といい、被告リサイクルソリューション、被告B、被告東洋建設を併せて「被告ら」という。)は、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の文章を、複製、翻案又は改変してはならない。
7 被告東洋建設は、自ら開設するウェブサイト(http://<以下略>)のトップページに、別紙謝罪広告目録記載2の謝罪文を30日間掲載せよ。
8 被告らは、別紙謝罪広告目録記載3の謝罪広告を、同目録記載4の条件で掲載せよ。
9 被告らは、原告に対し、各自、511万2000円並びに内金316万円について平成16年9月30日から、内金195万2000円について被告リサイクルソリューションにつき平成20年8月6日から、被告B及び被告東洋建設につき同月7日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 第2、3、6及び9項につき仮執行宣言申立て
第2 事案の概要
 本件は、別紙著作物目録記載3の著作物(以下「原告著作物」という。)の著作者である原告が、被告リサイクルソリューションのホームページ上で公開された、同目録記載1の著作物うち、「第5章南仏雑感」の被告B作成に係る「5−4 フランスの旅」と題する報告書(以下「被告著作物」という。)中の、同目録記載2の部分(以下「本件部分」という。)が原告著作物の複製又は翻案物に該当するから、被告Bにおいて被告著作物を作成し、被告リサイクルソリューションに対し寄稿をし、被告リサイクルソリューションにおいて、これをウェブページ上で公開することは、原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たる、被告Bは被告東洋建設の取締役として被告著作物を作成し、被告リサイクルソリューションに提出(寄稿)等したのであるから、被告東洋建設は被告Bの行為につき民法715条1項に基づき使用者責任を負う、被告B及び被告リサイクルソリューションには、著作権とは別の原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害した不法行為責任があり、また、訴訟提起前における被告らの対応が不法行為に該当するので、被告東洋建設はこれら不法行為についても、民法715条1項に基づき、被告Bの使用者としての責任を負う、などと主張して、@被告らに対し、共同不法行為(民法719条1項)に基づき、著作権及び著作者人格権の侵害等について損害の賠償(なお、附帯金については、後記のとおり、不法行為の後の日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金)を、A被告らに対し、著作権法115条に基づき、原告の著作者人格権の侵害に伴う名誉回復措置として謝罪広告の掲載を、B被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告著作物のうち本件部分の複製、翻案、改変、あるいは、公衆送信の差止めを、C被告B及び被告リサイクルソリューションに対し、著作権法112条2項に基づき、被告著作物のうち本件部分の廃棄を、それぞれ求める事案である。
1 前提となる事実及び法律関係
(1)当事者等(争いのない事実)
ア 原告は、「<略>」のドメインにおいてインターネットホームページを開設し、同ホームページ上において、原告著作物を公開している者である。原告は、原告著作物の著作者であり、原告著作物について、著作権及び著作者人格権を有する。
イ 被告リサイクルソリューションは、環境の保全を図る特定非営利活動を行い、特定非営利活動に係る事業として、リサイクル技術等の調査、研究、啓蒙、普及及びあっせんに関すること等を、収益事業として、出版事業、リサイクル推進に係る人材養成、技術支援事業を行う法人である。
 被告リサイクルソリューションは、「<略>」のドメインにおいてインターネットホームページ(以下「被告ホームページ」という。)を開設している。
ウ 被告東洋建設は、土木建築工事の調査、測量、企画、設計、施工、監理及びコンサルタント業務の請負並びに受託等を目的とする株式会社であり、被告リサイクルソリューションの団体会員である。
エ 被告Bは、被告東洋建設の取締役である。
(2)被告B及び被告リサイクルソリューションの行為等(争いのない事実、甲5、6、乙1、弁論の全趣旨)
 被告Bは、被告リサイクルソリューションが主宰した海外研修調査に参加した報告書として、被告リサイクルソリューションから求められて、被告著作物を作成し、被告リサイクルソリューションに対してこれを提出(寄稿)した。
 被告リサイクルソリューションは、平成16年9月ころ、被告ホームページ上に、「平成16年度(NPO)リサイクルソリューション海外研修調査 南仏マリーナ、運河を支える技術を探る旅海外調査報告書」と題するファイル(別紙著作物目録記載1)を掲載した。
 上記ファイル中には、被告B作成に係る被告著作物が含まれており、被告リサイクルソリューションは、被告著作物を、少なくとも平成16年10月から平成20年5月までの間、ウェブサーバの記憶装置に情報を保存することにより送信可能化し、公衆からの求めに応じて自動的に行う形態で公衆送信した。
(3)被告Bによる著作権侵害等
ア 原告著作物の記述は、別紙原告著作物の内容記載のとおりである。(甲3)
イ 被告著作物の記述は、別紙被告著作物の内容記載のとおりである。(甲6)
ウ 被告著作物のうち、本件部分を、原告著作物のうち、「2.フランス運河の魅力」以下の記述と対比すると、別紙著作物対比表のとおりである。
 これによれば、本件部分における表現は、原告著作物における表現の一部をほぼそのままに引き写したか、語尾を伝聞形式に修正したり、一部を削って要約したりしたものにすぎないといえる。また、本件部分の記述の中で、原告著作物に類似する部分すら見出すことができない箇所は、番号15の記述のみであり、他の部分については、原告著作物の中に同内容の記述を見出すことができ、本件部分の論述の順序も原告著作物の論述の順序に類似している。
 したがって、本件部分の記述は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものか、少なくとも、原告著作物の表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができるものであるということができる。
 そして、被告Bは、原告に無断で、原告著作物に依拠して本件部分を作成したのであるから、被告Bの行為は原告の原告著作物に対する著作権(複製権又は翻案権)の侵害行為に当たる(なお、原告は、被告Bが、本件部分を含む被告著作物を被告リサイクルソリューションに対して提出(寄稿)した行為が、原告の原告著作物に対する著作権(譲渡権)の侵害行為に当たる旨主張するものの、譲渡権とは、著作物の原作品または複製物を譲渡により公衆に提供する権利であり(著作権法26条の2)、特定かつ少数の者に対する譲渡には譲渡権は働かない(同法2条5項参照)から、この点に関する原告の主張は理由がない。)。
エ 被告Bは、原告に無断で、原告著作物の記載を別紙著作物対比表のとおり改変した。被告Bの行為は、原告が原告著作物について有する著作者人格権(同一性保持権)の侵害行為に当たる。
オ 原告著作物が掲載されたホームページ上には、「本テキストデータについては、著作権所有者の私の許可なく改変、複製、転載、再配布することはできません。」と明記されており(甲3)、被告Bは、少なくとも、原告著作物が、第三者の著作物であり、無断での複製や改変行為等が禁止された著作物であることを認識しながら、原告著作物中の記述を流用して、本件部分を含む被告著作物を作成したものと認められるから(乙1、弁論の全趣旨)、被告Bには著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害につき、故意が認められる(なお、仮に、被告Bが参照した記述が、インターネット上で公開された原告著作物ではなく、「道路と自然」に掲載された記事(甲4)であったとすれば、書籍中の記事を著作権者の許諾を得ることなく複製や改変等する行為が禁止されることは明らかであって、被告Bにおいても、これを当然認識していたものと認められる。)。
カ 被告Bは、被告著作物が公衆送信されることを、少なくとも、知り得たにもかかわらず、被告著作物を被告リサイクルソリューションに対して提出(寄稿)し、被告リサイクルソリューションにおいて送信可能化し、自動公衆送信したのであるから(甲8、9、乙1、弁論の全趣旨)、民法719条1項に基づき、著作権(公衆送信権)侵害についても、被告リサイクルソリューションと共同不法行為責任を負う。
(4)被告リサイクルソリューションによる著作権侵害等
ア 被告リサイクルソリューションが、被告著作物をインターネットに接続しているウェブサーバにアップロードし、送信可能化し、自動公衆送信した行為は、原告の有する原告著作物についての著作権(公衆送信権)の侵害行為に当たる。
イ 被告リサイクルソリューションは、その業務として、会員からの入会申込みを受け付け、原稿の執筆を依頼しているのであるから、当該原稿が、第三者の著作権を侵害するものではないか否かを確認すべき注意義務を負う。
 それにもかかわらず、被告著作物について上記注意義務を怠ったのであるから、被告リサイクルソリューションには、過失が認められる。
ウ 被告リサイクルソリューションは、その会員である被告東洋建設の一員として、被告リサイクルソリューションが主宰した海外研修調査に参加した被告Bに対し、上記研修への参加報告書の提出を求め、被告Bにおいて被告著作物を作成し、被告リサイクルソリューションにおいて、これを送信可能化し、自動公衆送信したものである(乙1)から、民法719条1項に基づき、著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害についても、被告Bと共同不法行為責任を負う。
2 主な争点
(1)被告東洋建設が使用者責任等を負うか否か
(2)被告らが訴訟提起前にした原告に対する回答等について不法行為責任を負うか否か
(3)損害額
(4)差止め及び廃棄の必要性
(5)謝罪広告の要否
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(被告東洋建設が使用者責任等を負うか否か)について
〔原告〕
(1)被告著作物は、被告リサイクルソリューションの海外調査報告書の一部を成すものである。被告東洋建設は、被告リサイクルソリューションの会員であり、被告Bが、被告リサイクルソリューションの主宰する海外調査に参加した経緯は、被告東洋建設の取締役であることと無関係ではない。実際、被告Bは、甲第7号証において、「閘門は、私自身建設会社に勤めていることもあり専門分野です。会社として、国内で閘門を施工した実績もあり、馴染み深い施設ですので、現地ではどこよりも興味をもって観察しました。」と述べており、被告東洋建設の事業と関係のある分野の海外調査であったことを認めている。また、被告著作物には、作成者として、「B【東洋建設(株)】」と表示されており(甲6)、被告著作物の作成、提出行為が、被告Bの個人的な行為として行われたものではないことが示されている。
 さらに、被告リサイクルソリューションの海外調査報告書(甲5)には、被告B以外の参加者の文章も掲載されており、これら他の参加者についても、肩書きとして会社名が付されている。このような体裁に照らし、上記海外調査報告書は、被告東洋建設と競合他社との共同報告書であるといえる。
 これらの事実に照らせば、被告東洋建設の取締役副社長(被用者)である被告Bが、被告東洋建設が会員として入会している被告リサイクルソリューションの主宰する、被告東洋建設の専門分野に関する海外調査に参加してその報告書(被告著作物)を作成し、被告リサイクルソリューションに対して提出し、ウェブサイト上に公開する行為は、被告東洋建設の「事業の執行について」行われた行為であるといえる。
 被告東洋建設と被告Bとの間には指揮監督関係があり、被告東洋建設は、被告Bによる本件著作権及び著作者人格権の侵害行為について、民法715条に基づき、被告Bの使用者としての責任を負う。
(2)仮に、被告東洋建設について使用者責任が認められないとしても、被告東洋建設は、会社法350条の類推適用により、本件著作権及び著作者人格権侵害行為について責任を負う。
(3)仮に、被告東洋建設について使用者責任が認められず、会社法350条の類推適用も認められないとしても、被告東洋建設は、民法709条に基づき、不法行為責任を負う。
〔被告ら〕
(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)使用者責任について
ア 民法715条1項の「被用者」に該当するというためには、使用者の選任監督、指揮命令に服する関係にある者でなければならないが、被告Bは、取締役執行役員であって、被告東洋建設の被用者には該当しない。
イ 被告東洋建設に使用者責任が発生するためには、被告Bの著作権等侵害行為が被告東洋建設の「事業の執行について」されたことが必要である。
 被告Bは、被告著作物を、個人の紀行文として投稿したものであり、この行為は、被告東洋建設の事業の執行についてされたものではない。
 被告東洋建設の事業内容は、総合建設業、不動産事業等であり、被告著作物の作成、提出行為は、この事業に含まれないことは明らかである。
 なお、被告東洋建設が被告リサイクルソリューションの会員になっているのは、被告東洋建設の業務上の必要性からではなく、業界内の付き合いの意味があったからにすぎない。被告著作物は、あくまでも、被告リサイクルソリューションの事業の一環として、被告Bが渡仏した経験を個人的にまとめたものであるから、被告著作物の提出は、被告東洋建設の「事業の執行行為を契機」としていないし、執行行為と「密接に関連を有する」行為でもない。このことは、被告著作物の「B」の記名部分に「取締役」の肩書きがないことからも明らかである(甲6)。被告Bの記名に続いて、「【東洋建設(株)】」と付記されているのは、被告リサイクルソリューションの会員が被告東洋建設であることから、被告Bの所属を示す趣旨にすぎない。
(3)被告東洋建設について、民法709条に基づき、著作権等侵害の責任が発生するためには、被告著作物の作成者である被告Bの行為が被告東洋建設の行為と同一視できる場合でなければならない。
 しかしながら、被告Bは、被告東洋建設の取締役にすぎないのであって、被告東洋建設の代表権を有しないから、被告Bの行為を被告東洋建設の行為と同一視することはできない。
2 争点(2)(被告らが訴訟提起前にした原告に対する回答等について不法行為責任を負うか否か)について
〔原告〕
(1)「ただ乗り」行為について
ア 不法行為(民法709条)は、著作権など法律に定められた権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益が違法に侵害された場合であれば成立するものと解される。
 価値のある情報は、多大な費用と時間とをかけ、企画策定、移動、取材、撮影、原稿作成、見出しの作成、写真の配置、編集を経て、html形式のデジタル情報に変換され、ドメインを得て、あるいは、プロバイダとの契約を締結して、ウェブサーバにアップロードされることで、初めて、インターネット上に存在することになる。
 原告は、平成13年の春ころから秋ころにかけて、学業の合間の時間を割き、フランスの中部、北部の運河を多数訪問した上で、原告著作物を作成した。原告は、「道路と自然」という書籍に掲載した著作物(甲4)を若干修正し、写真を入れ、読み物として興味をもたれるように工夫を施すなどした上で、原告著作物をインターネット上にアップロードした(甲3)。
 被告Bは、上記のような原告の労力(額の汗)に、いわば「ただ乗り」をして、被告著作物を作成し、被告リサイクルソリューションに提出するという行為により、著作権とは別に、原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害した。
 よって、被告Bは、上記「ただ乗り」行為について、民法709条に基づき、不法行為責任を負う。
イ 被告Bによる上記行為は、被告東洋建設の取締役として行われた行為であるから、被告東洋建設は、被告Bの上記行為について、民法715条に基づき、使用者責任を負う。あるいは、被告Bの上記行為は、被告東洋建設の行為そのものであるといえるから、被告東洋建設は、民法709条に基づき不法行為責任を負う。
ウ 被告リサイクルソリューションは、被告Bの上記行為によって作成された原稿が、第三者の権利を侵害しないか否かを確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、インターネットに接続しているウェブサーバにアップロードし、被告リサイクルソリューションの活動実績として公表して、原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害したから、被告B及び被告東洋建設と共同不法行為責任を負う。
(2)「言い訳」行為について
ア 原告は、被告リサイクルソリューションに対し、著作権侵害を指摘したものの、被告リサイクルソリューションは、当初、「ご提出いただいた文書を特に確認もせずに掲載してしまったことは、いずれにせよ弊社の管理不行き届きであり、心からお詫び申し上げます。」と述べながら、被告Bとは連絡が取れないとして、事実関係を確認しようとしなかった。
 しかしながら、団体会員である被告東洋建設の取締役である被告Bに連絡が取れないということは不自然であったため、再度、原告は、被告リサイクルソリューションに連絡をした。
 すると、被告リサイクルソリューションは、原告に対し、被告Bが作成したという平成20年6月12日付け「特定非営利活動法人リサイクルソリューション様へ寄稿したフランス運河の記述について」と題する文書(甲7。以下「本件文書」という。)を添付して、「B氏のご返答の文書を添付致しましたので、ご容赦頂ければ幸いです。」などと記載した電子メールを送信し、著作権侵害問題の幕引きを急ごうとした。
 本件文書の内容は、原告著作物への依拠性を否定するものであり、著作権侵害を否認するものである。そして、依拠性を否定するための理由に種々言及する内容となっている。
 原告は、本件文書を読み、「一見とぼけてみせるような、それでいて、自身の非を認めないよう周到に塗り固められた」文章であると感じ、大きな精神的苦痛を受けるとともに、本当に被告Bが作成した文章であるのかという疑問を持ち、被告B本人に確かめてみたいと考えるようになったものの、どのような手段を採ることができるのか分からず、追及をあきらめざるを得ない悔しい思いをすることになった。
 その後、原告は、被告著作物のうち本件部分以外の記述が、第三者のウェブページ上の記述を複製したものであることを知り、被告Bが虚偽の言い訳をして、事実をうやむやにしようとしていたことを知るに至り、憤慨するとともに、改めて悔しい思いをすることになった。
 被告Bの虚偽による上記言い訳行為(名誉毀損行為)は、原告に対する不法行為に該当する。
イ 被告Bによる上記行為は、被告東洋建設の取締役として行われた行為であるから、被告東洋建設は、被告Bの上記行為について、民法715条に基づき、使用者責任を負う。あるいは、被告Bの上記行為は、被告東洋建設の行為そのものであるといえるから、被告東洋建設は、民法709条に基づき不法行為責任を負う。
 なお、本件文書は、一人称を示す表記が「当職」とされたり、「私」とされたりするなど、被告Bが個人的に作成したものではない可能性がある。また、本件文書中には、不自然な改行箇所(「冒頭部分、歴史的な話」から「ことからもご理解願います。」まで)があり、後に複数の文章が挿入され、合体された可能性もある。これらのことからも、被告Bが被告東洋建設の取締役として、本件文書をもって原告に回答したことが分かる。
ウ 被告リサイクルソリューションは、本件文書の内容を十分に確認の上、原告に送付する注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、原告に本件文書を送信した過失により、原告に対して、虚偽の事実を告知し、原告の精神的安定を害したから、被告B及び被告東洋建設と共同不法行為責任を負う。
〔被告ら〕
(1)「ただ乗り」行為との主張について
ア 被告Bが、原告が時間と費用と労力とをかけて作成した成果にただ乗りし、著作権とは別に原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害したことは認める。
 しかしながら、後記のとおり、これによる損害は発生していない。
イ 被告リサイクルソリューションが、被告Bの上記行為によって作成された被告著作物が、第三者の権利を侵害しないか否かを確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、インターネットに接続しているウェブサーバにアップロードし、被告リサイクルソリューションの活動実績として公表して、原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害したことは認める。
 しかしながら、後記のとおり、これによる損害は発生していない。
ウ 被告東洋建設が、被告Bの使用者としての責任、あるいは、不法行為責任を負うとの主張は否認ないし争う。
(2)「言い訳」行為との主張について
ア 原告の主張は否認ないし争う。
イ 被告Bは、原告から、被告リサイクルソリューションを通じて問い合わせを受けた際、原告の著作物を故意に盗用したとの認識がなかったため、本件文書のとおり回答したものの、原告の主張を完全に否定する意図はなかった。
 本件文書の表現に問題があったことは認める。しかしながら、被告Bは、本件文書において、依拠性を否定したり、著作権侵害を否定したりしたことはない。被告Bは、原告の著作物を故意に盗用したものではないことの根拠として、閘門が同人の専門分野であり、「水門」とせず「閘門」と書いたと主張しただけのことで、依拠性を否定したものではない。
 被告Bは、「悪意」をもって原告の著作権を侵害したわけではないことを回答すべく本件文書を原告に送付したのであって、虚偽の「言い訳」を述べたわけではない。
 原告の本件文書に関する不法行為の主張は失当である。
 なお、被告Bが、原告に対し、本件文書をもって回答した経緯は次のとおりである。
(ア)被告リサイクルソリューションは、平成20年5月末ころ、原告から、被告著作物の記述が原告著作物の記述に酷似しているとの指摘及びそのことについて説明を求める旨の申入れを受け、被告Bに連絡した。
 被告Bは、上記連絡を受けたものの、被告著作物を作成してから約4年が経過しており、手元には、被告著作物を作成した際の参考資料は残っておらず、また、被告Bには、原告著作物を引き写して、被告著作物を作成したという記憶もなかった。
 しかしながら、被告著作物と原告著作物とを比較すると、両者の間には、酷似した記述箇所が多数あり、被告著作物を作成するに当たって、原告著作物を参考にしていないという確信も持つことができなかった。
(イ)そこで、被告Bは、@被告Bには、被告著作物の作成に際して参考にした文献中に、原告著作物があったという明確な記憶がないので、原告の著作物であることを承知した上で、意図的に盗用した事実はないこと、Aしかし、同時に、明確な記憶がないだけで、参照、引用した資料の中に原告の著作物が入っていた可能性はあること、Bそこで、結果的に原告に不快な思いをさせてしまい、大変申し訳なく思っていること、の3点の趣旨を被告東洋建設の社員に伝え、本件文書を作成させ、被告リサイクルソリューションを通じて、原告に送付したものである。
ウ 被告東洋建設が、被告Bの使用者としての責任、あるいは、不法行為責任を負うとの主張は否認ないし争う。
 本件文書は、被告Bの考えをそのまま忠実に記載したものであり、本件文書の作成者は被告Bであって、被告東洋建設ではない。被告Bは、本件文書に「東洋建設株式会社取締役副社長」という肩書きを付しているものの、これは、原告が被告リサイクルソリューションに連絡する際、肩書きを名乗っていたことから、被告Bも、同様に肩書きを付すのが礼儀であると思ったからにすぎない。
3 争点(3)(損害額)について
〔原告〕
(1)著作権侵害分
ア 複製権又は翻案権侵害について
(ア)財産的損害(原稿料相当額)として金3万円
(イ)精神的損害として金10万円
 原告著作物は、原告が格別の愛着を有する著作物である。財産的損害が賠償されても、精神的損害は填補されない。被告Bの著作権侵害行為は、故意によるものであり、上記の金額が認められるべきである。
イ 譲渡権侵害について
(ア)財産的損害(原稿料相当額)として金3万円
(イ)精神的損害として金10万円
 原告著作物は、原告が格別の愛着を有する著作物である。財産的損害が賠償されても、精神的損害は填補されない。被告Bの著作権侵害行為は、故意によるものであり、上記の金額が認められるべきである。
ウ 公衆送信権侵害について
(ア)財産的損害として金20万円
 被告著作物が公衆送信可能化されていた期間が平成16年9月ころから平成20年5月ころまでと長期間であること、インターネットに接続されたウェブサーバにアップロードした場合、不特定、多数人の目に触れることになること、被告リサイクルソリューションは、被告著作物を、自らの活動実績として公表し、利用して利益を享受したことなどに照らし、上記の金額が認められるべきである。
(イ)精神的損害として金30万円
 原告著作物は、原告が格別の愛着を有する著作物であり、財産的損害が賠償されても、精神的損害は填補されない。公衆送信可能化されていた期間が平成16年9月ころから平成20年5月ころまでと長期間であること、インターネットに接続されたウェブサーバにアップロードした場合、不特定、多数人の目に触れることになることから、上記の金額が認められるべきである。
(2)著作者人格権(同一性保持権)侵害分200万円
 改変部分が多数であること、改変により原告著作物の有する内容も変容していること、3年8か月間という長期間にわたって公衆送信可能化され、不特定、多数人に閲覧されたこと、原告著作物が掲載されている原告の管理するフランスの運河についてのホームページは、人気のあるホームページであり、「フランスの運河」という検索語で検索すると、検索サイトの上位を占めるほどであること、原告著作物は、「道路と自然」と題する書籍に掲載されており、同書籍には、原告の本名、勤務先、写真が掲載されていることなどの事情に照らすと、慰謝料として上記の金額が認められるべきである。
(3)著作権侵害以外の不法行為分
ア 「ただ乗り」行為について
 原告が原告著作物を作成する際、フランスにおいて取材活動を行うのに要した費用(概算)の相当額40万円が財産的損害分として認められるべきである。
イ 「言い訳」行為について
 原告は、前述のとおり、本件文書により多大な精神的苦痛を被ったから、慰謝料として100万円が認められるべきである。
(4)調査手数料について
 以下の事務を処理する手数料相当額は、10万円を下らない。
ア 原告は、平成20年5月27日ころ、被告リサイクルソリューションのホームページ上において、被告著作物、すなわち、原告著作物の著作権が侵害されている事実を発見し、被告リサイクルソリューションに対し、電話をかけるとともに、電子メールを送信し、原告の連絡先、被告著作物の内容(被告著作物のコピーを電子メールに添付)、原告著作物が「道路と自然」2002年春号に掲載されたものであることを伝えた。
イ 原告は、同年6月11日、被告リサイクルソリューションが被告Bと連絡が取れないと連絡してきたことに疑問を感じ、著作権侵害について報告を求めた。
ウ 原告は、同月26日、被告リサイクルソリューションから、本件文書の送信を受け、当該文書ファイルのプロパティを調べ、会社名が情報システム部となっていることや最終保存者が被告リサイクルソリューションのCとなっていることを発見した。
(5)弁護士費用
 弁護士費用相当額として、(1)ないし(4)までの合計426万円の2割に相当する85万2000円が、被告らの行為と相当因果関係のある損害である。
(6)遅延損害金の起算日について
 (3)イ(言い訳行為の慰謝料)、(4)(調査手数料)及び(5)(弁護士費用)の損害額合計195万2000円については、訴状送達の日(被告リサイクルソリューションにつき平成20年8月6日、被告B及び被告東洋建設につき、同月7日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、その余の損害額合計316万円については、被告著作物が作成された後の日である平成16年9月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(7)自白の撤回に対する異議
 被告らは、当初、「被告Bは、原告が請求する被告Bに対する被害回復の方法のうち、損害賠償額100万円を超える部分を除き、これを全面的に認める。」(答弁書の第2の3項)との陳述をしていたのに、その後、これを撤回して、損害額について争うに至った。
 しかしながら、これは自白の撤回に当たる。原告は、上記自白の撤回について異議を述べる。
〔被告ら〕
(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)著作権侵害分(原告の主張(1)に係る損害)について
 原告は、フランスに関する専門の研究者でも、著述家でもなく、原告著作物は研究論文でも、文芸作品でもない。
 原告は、原告著作物によって何ら対価を受けておらず、原告の損害とは、被告Bが原告の著作物を引用したことによって原告が受けた精神的な苦痛のみにすぎない。
 なお、被告リサイクルソリューションは、団体会員の研修、視察、調査等における執筆に関して、会員に原稿料を支払うことはなく、被告リサイクルソリューションは、被告著作物について一切原稿料を支払っていない。
(3)著作権侵害以外の不法行為分(原告の主張(3)に係る損害)について
 原告は、原告自身のフランス旅行の費用についても、被告Bの「ただ乗り」行為を理由に請求している。しかしながら、被告Bが原告の著作権を侵害したとしても、それは原告がフランスに旅行したことそのものとは全く関係がない。また、被告Bは、本件文書において、「言い訳」をしたわけではなく、本件文書による損害も発生していない。
(4)弁護士費用について
 原告は、被告Bから本件文書を受領した時点において、訴訟を提起するのではなく、原告代理人弁護士を通じて、被告Bに申入れをするなど、訴訟に代わる代替手段が存在した。被告Bは、弁護士からの申入れに対しては、従前よりも踏み込んだ回答をしたに違いないから、原告が本件訴訟に要した弁護士費用は、被告Bの行為と相当因果関係がない。
(5)自白の撤回について
 原告は、被告らが、当初、「被告Bは、原告が請求する被告Bに対する被害回復の方法のうち、損害賠償額100万円を超える部分を除き、これを全面的に認める。」との陳述をしていたのに、その後、これを撤回し、損害額について争うに至ったことが、自白の撤回に該当する旨主張する。
 しかしながら、自白について拘束力が生じるのは、具体的な事実についてであって、法律効果についてではない。損害賠償額に関する主張は法的効果に関するものであり、自白の撤回に当たらない。
 被告らが、当初100万円の支払義務を認めた点は、自白としての効力を有しない、いわば和解提案としてのものにすぎない。
4 争点(4)(差止め及び廃棄の必要性)について
〔原告〕
(1)被告リサイクルソリューションに対し、著作権侵害による差止請求として、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の報告書及びデータの複製、公衆送信を禁止することを求めるとともに、著作権侵害物である別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の報告書及びデータの廃棄を求める必要性がある。
(2)被告B及び被告東洋建設に対し、著作権侵害による差止請求として、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の報告書及びデータの複製、翻案又は改変を禁止することを求めるとともに、被告Bに対し、著作権侵害物である別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の報告書及びデータの廃棄を求める必要性がある。
〔被告ら〕
(1)被告リサイクルソリューションに対し、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の報告書及びデータの複製、公衆送信の禁止を求める点、上記部分の報告書及びデータの廃棄を求める点については認める。
(2)被告Bに対し、別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の報告書及びデータの複製、翻案又は改変の禁止を求める点、上記部分の報告書及びデータの廃棄を求める点については認める。
5 争点(5)(謝罪広告の要否)について
〔原告〕
(1)原告は、著作者人格権侵害についての名誉回復等の措置の請求として、@被告らに対し、別紙謝罪広告目録記載3の謝罪広告を、同目録記載4の条件で掲載することを、A被告リサイクルソリューションに対し、その開設するウェブサイトのトップページ上に、同目録記載1の謝罪文を30日間掲載することを、B被告東洋建設に対し、その開設するウェブサイトのトップページ上に、同目録記載2の謝罪文を30日間掲載することを、求める。
(2)必要性について
ア 原告の海外レポート「フランスの運河を巡って−美しい田舎風景を求めて」は、「道路と自然」第114号に掲載された(甲4)。
 上記書籍は、原告の氏名、勤務先及び顔写真を掲載している。
 上記書籍は、季刊であり、年4回、昭和48年から発行されている、社団法人道路緑化保全協会のロングセラーの書籍である。現在、年間8000部が発行されており、官公庁や大学、図書館等にも配布され、緑化事業の先駆的雑誌として高い評価を受けている。
 原告は、首都高速道路公団の職員であり、環境に配慮した道路開発という観点から、現在、観光名所にまで発展し、地元民に親しまれている建造物に関する海外レポートを公にしている。
 したがって、原告は、明らかに社会からの客観的評価を受けており、原告の名誉声望は、単なる名誉感情にとどまるものではない。
イ 被告著作物は、原告の氏名表示がされていないこと、つまみ食い的な取捨選択がされ、改変箇所も多数に及ぶこと、ニッポンレンタカーのウェブページ上の記載と合体されていること、改変により意味内容も変容してしまっていること、題号も変更されていること、原告著作物の創作意図が変更されていること、長期間にわたって公衆送信可能化され、不特定、多数人に閲覧されていたこと、被告東洋建設は一部上場企業であるにもかかわらず、その取締役である被告B自ら、法令遵守体制に違反していること、原告の管理するフランスの運河についてのホームページは、人気があり、「フランスの運河」という検索語による検索では、検索サイトの上位を占めること、原告著作物は、「道路と自然」と題する書籍に掲載され、原告の本名、勤務先、顔写真が掲載されていることに鑑み、原告の請求するとおりの謝罪広告が命ぜられる必要がある。
〔被告ら〕
 被告リサイクルソリューションの開設するウェブサイトのトップページ上に、別紙謝罪広告目録記載1の謝罪文を30日間掲載するとの点は認め、その余は否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告東洋建設が使用者責任等を負うか否か)について
(1)前記「第2 事案の概要」の「1 前提となる事実及び法律関係」(3)において認定したとおり、被告Bが本件部分を含む被告著作物を作成した行為は、原告の原告著作物に対する著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害に当たり、被告Bが被告著作物を被告リサイクルソリューションに提出し、被告リサイクルソリューションが本件部分を含む被告著作物を被告ホームページ上に公開することによって、原告の原告著作物に対する著作権(公衆送信権)を侵害したことにつき、被告Bは、被告リサイクルソリューションと共同不法行為責任を負う。
 原告は、被告東洋建設が、被告Bの使用者として、被告Bの上記不法行為について、民法715条1項に基づき、被告Bと連帯して、損害賠償責任を負う旨主張するので、この点につき検討する。
(2)前記前提となる事実及び法律関係に記載した事実に証拠(甲1、5、6、12、21、24、乙1、2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 被告リサイクルソリューションは、環境の保全を図る特定非営利活動を行い、特定非営利活動に係る事業として、リサイクル技術等の調査、研究、啓蒙、普及及びあっせんに関すること等を、収益事業として、出版事業、リサイクル推進に係る人材養成、技術支援事業を行う法人である。
 被告リサイクルソリューションの事業内容は、リサイクルのための新材料・技術の調査、研究、普及及び啓蒙等であり、その会員は、個人会員(趣旨に賛同する個人)と団体会員(新材料の提供、新技術の導入意志のある会社及び関連団体)とから成る。
イ 被告東洋建設は、土木建築工事の調査、測量、企画、設計、施工、監理及びコンサルタント業務の請負並びに受託等を目的とする株式会社であり、被告リサイクルソリューションの団体会員(平成11年度入会)である。
 被告東洋建設のほかにも、大手建設会社、その他の企業が団体会員として、あるいは、これら企業等の関係者が個人会員として、被告リサイクルソリューションに入会している。
ウ 被告東洋建設は、そのホームページ(甲24)において、「地球環境保護に配慮した事業活動を行うこととし、特に建設副産物についてはリサイクルや適正な処理に万全を期する。また、より良い環境の創造に寄与することを常に心掛けた技術開発、建設活動を行う。」などとうたっている。
エ 被告Bは、被告東洋建設の取締役執行役員副社長の立場にある者である。被告Bは、被告東洋建設の代表権を有しない。
オ 被告Bは、平成16年9月、被告リサイクルソリューションが主宰したフランスの運河をめぐる海外研修調査に、被告リサイクルソリューションの団体会員である被告東洋建設の一員として参加した。
 被告Bの上記海外研修調査への参加費用のうち、航空券代やホテル代等の旅行代金は、被告東洋建設が支出した。
カ 被告Bは、上記海外研修調査から帰国後、被告リサイクルソリューションから、研修調査報告書の提出を求められ、被告著作物を作成して、被告リサイクルソリューションに提出(寄稿)した。
 被告著作物には、その作成名義として「B【東洋建設(株)】」と記載されている(甲6)。
 被告著作物の内容は、プロヴァンス地方の歴史や風土、世界遺産や街についての簡単な説明、フランスの運河についての説明や情景描写、あるいは、被告Bの個人的な感想を紹介するものである。
(3)上記認定事実によれば、被告Bは、被告リサイクルソリューションの主宰する海外研修調査に、被告リサイクルソリューションの団体会員である被告東洋建設に所属する者としての資格で参加したものであること、上記研修調査についての報告書である被告著作物の作成、提出行為も、被告リサイクルソリューションの団体会員である被告東洋建設に所属する者としての資格において行われたものであることが認められる(被告著作物の「B【東洋建設(株)】」との記載も、被告Bが団体会員である被告東洋建設に所属する者として、被告リサイクルソリューションにおける活動を行ったことを示すものといえる。)。
 そして、被告東洋建設は、土木建築工事の設計、施工、監理及びコンサルタント業務の請負等を目的とする株式会社であり、地球環境保護に配慮した事業活動を行うことをうたっていること、被告リサイクルソリューションは、特定非営利活動に係る事業として、リサイクル技術等の調査、研究、啓蒙、普及及びあっせんに関すること等を行う法人であることに照らすと、被告リサイクルソリューションにおける活動が、被告東洋建設の事業活動に資する面があることは否定できない。
 しかしながら、被告著作物の内容は、上記のとおり、被告東洋建設の事業に直接関わるものではなく、訪問した場所の風景や歴史等を簡単に説明した上で、その場所や施設等に関する被告Bの個人的な感想を紹介する内容のものにすぎず、このような、いわば「紀行文」の作成、提出行為が、被告東洋建設の上記事業(土木建築工事の設計、施工、監理及びコンサルタント業務の請負等)の執行と密接に関連する行為であるとは言い難い。
 したがって、被告Bの被告著作物の作成、提出行為は、被告東洋建設の「事業の執行について」されたものであるとは認められず、被告東洋建設が、被告Bの上記行為について民法715条1項に基づき使用者責任を負うことはないというべきである。
 よって、原告の上記主張は理由がない。
(4)原告は、被告東洋建設について使用者責任が認められないとしても、被告東洋建設には、会社法350条の類推適用が認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、被告Bは、被告東洋建設の代表権を有する者ではなく、また、既に述べたところと同様に、被告Bの被告著作物の作成、提出行為は被告東洋建設の「職務を行うについて」されたものであるとは認められないから、原告の上記主張も理由がない。
(5)原告は、被告東洋建設について会社法350条の類推適用が認められないとしても、被告東洋建設は、民法709条に基づき不法行為責任を負う旨主張する。
 しかしながら、既に述べたところによれば、被告Bの被告著作物の作成、提出行為を被告東洋建設の行為であると同視することはできず、その他本件全証拠によっても、被告東洋建設が被告Bの上記行為について原告に対し不法行為責任を負うと解すべき事情は認められないから、原告の上記主張も理由がない。
2 争点(2)(被告らが訴訟提起前の原告に対する回答等について不法行為責任を負うか否か)について
(1)「ただ乗り」行為との主張について
 原告は、被告Bが、原告が原告著作物を創作するのに要した労力(額の汗)に、いわば「ただ乗り」して、被告著作物(本件部分)を作成し、被告リサイクルソリューションに提出したことにより、著作権とは別に、原告の法的に保護された権利ないし利益を侵害した旨主張する。
 しかしながら、本件において、被告Bの行為により、著作権法により保護された原告著作物に対する原告の権利や利益の侵害とは別に、あるいは、これを超える(すなわち、著作権侵害では評価し尽くされない)、原告の法的に保護された権利ないし利益が侵害されたと認めることはできない。
 よって、この点に関する原告の主張は理由がない。
(2)「言い訳」行為との主張について
 原告は、被告Bが、原告から、被告著作物が原告の著作権を侵害するものであるとの指摘を受けた際、原告著作物への依拠性を否定し、著作権侵害を否定する内容の本件文書を作成し、原告に送付したことが、虚偽による言い訳行為として不法行為(名誉毀損行為)を構成する旨主張する。
 証拠(甲7)によれば、本件文書中には、「この草稿にあたっては、(中略)、現地で見聞きしたこと、現地のパンフレットのほかジョバンナ・マージ著の「プロヴァンス」ほか数点の日本語訳本を参考に、また自宅近くの図書館へ行くなど私なりに勉強をした上で書いたものであり、その中に貴殿の文章は入っておりません。従いまして、貴殿の文章を拝見したのは今回が初めてであり、確かに似ている部分があるとは感じるものの、決して貴殿の文章を引用したのではないということをまずはご理解賜りたく存じます。」、「このネット社会において様々な情報が入り乱れるなか、貴殿の文章が複数のルートを経由し、これを読んだ何某かの著者の書いた文章が、私の読んだ資料にあった可能性は捨て切れません。その結果として部分的に酷似した文章となってしまったのであるならば、このことによって貴殿に不快な想いをさせてしまったことは誠に遺憾であり深くお詫びするものであります。しかしながら貴殿の文章を直接見ながら書いたのではないという点、あらためてご理解を賜りますよう重ねてお願い申し上げます。」などと記載されていたことが認められる。
 上記認定によれば、被告Bが原告の著作権を侵害する行為を行ったとの原告からの申し入れについて、被告Bは、本件文書により、原告の著作権を侵害する行為は行っていない旨回答したものと認めることができる。
 そして、前記前提となる事実及び法律関係で述べたとおり、被告Bは、原告の原告著作物に対する著作権及び著作者人格権を侵害したものと認められるから、上記回答の内容は、上記認定に反するものであるといえる。
 しかしながら、訴訟前の交渉において、被告Bが、事実と異なることを述べたことがあったとしても、被告Bが、原告に対し、本件文書を送付したことにより、原告の権利行使が客観的に妨げられる事態が生じたなどの事情は認められないのであって、被告Bの上記行為により、原告の法的に保護される権利や利益が侵害されたとは認められず、原告に対する不法行為を構成するとはいえない。
 また、本件文書の記載内容は、客観的にみて、原告の社会的名誉や名誉感情を侵害する違法なものであるということはできないから、原告が本件文書の記載内容につき不快の念を抱いたことがあったとしても、不法行為は成立しないというべきである。
 よって、この点に関する原告の主張も理由がない。
3 争点(3)(損害額)について
(1)以上によれば、被告B及び被告リサイクルソリューションは、原告著作物の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害行為により、原告が被った損害を賠償すべき責任を負う(両者の債務は不真正連帯債務の関係に立つ。)。
(2)著作権侵害(財産的損害)について
ア 証拠(甲4、27)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、首都高速道路公団に勤務する者であること、原告は、平成12年から平成13年にかけて、フランス国内の土木学校に派遣され、道路行政に関するマネジメントを学んでいたこと、学校での勉強の合間をぬって、フランス国内を旅行し、その経験を元に、原告著作物を作成したこと、原告著作物は、社団法人道路緑化保全協会の出版する「季刊道路と自然」(平成14年冬号第114号第29巻第2号)に掲載された「海外レポートフランスの運河を巡って−美しい田舎風景を求めて」と題する原告の著作物に補筆をして作成したものであること、原告は、自ら開設するインターネットホームページ上において、原告著作物を公開していること、が認められる。
 以上の事実に加え、原告著作物の内容、侵害行為の態様(被告著作物の内容、性質、複製又は翻案箇所の多寡、被告著作物が送信可能化されていた期間、送信可能化の方法等)、その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すれば、著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)侵害についての原告著作物の使用料相当額としては、10万円と認めるのが相当である。
 なお、原告は財産的損害の算定根拠として、原稿料相当額を挙げるものの、被告リサイクルソリューションが、被告著作物について、被告Bに対し原稿料を支払ったとの事実は認められない(弁論の全趣旨)。
イ 原告は、著作権侵害について、損害額として、財産的損害のほか、精神的損害をも主張する。
 しかしながら、著作財産権侵害においては、特段の事情がない限り、財産的損害の賠償が認められれば、精神的苦痛は慰謝されるものというべきである。本件において、原告が原告著作物に対し愛着を有していることは認められるものの(甲27)、上記特段の事情があるとまでは認められない。
(3)著作者人格権侵害(精神的損害)について
 原告は、被告著作物により原告著作物についての同一性保持権を侵害されたものであり、証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、これにより精神的苦痛を被ったものと認められる。
 そして、本件における著作者人格権の侵害態様(改変箇所の多寡、改変内容)、被告著作物が送信可能化されていた期間、送信可能化の方法、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、著作者人格権の侵害により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は30万円と認めるのが相当である。
(4)調査手数料について
 原告は、調査手数料相当額の損害として10万円の賠償を求めるものの、本件全証拠によっても、原告が本件著作権及び著作者人格権侵害について、調査手数料を支出したことを認めるに足りない。
(5)弁護士費用について
 本件事案の内容、認容額、本件訴訟の経過等を総合すると、本件著作権侵害行為及び本件著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、5万円と認めるのが相当である。
(6)合計45万円
(7)遅延損害金の始期について
 被告リサイクルソリューション及び被告Bは、上記損害額のうち、弁護士費用を除く40万円については、不法行為の後の日である平成16年9月30日から支払済みまで、弁護士費用に相当する5万円については、不法行為の後の日である訴状送達の日(被告リサイクルソリューションにつき平成20年8月6日、被告Bにつき同月7日)から支払済みまで、それぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
(8)自白の撤回について
 原告は、被告らが、「被告Bは、原告が請求する被告Bに対する被害回復の方法のうち、損害賠償額100万円を超える部分を除き、これを全面的に認める。」(答弁書の第2の3項)との陳述をしていたが、その後、これを撤回し、損害額について争うに至ったことが、自白の撤回に当たるとして、異議を述べた。
 しかしながら、被告らが第1回口頭弁論期日において、原告の請求の棄却を求めたこと、被告らの答弁書及び平成20年9月24日付け「準備書面1」の記載内容、その他弁論の全趣旨に照らせば、被告Bは、和解による解決を希望し、和解の条件についての提案をする趣旨で上記陳述をしたものであると認められ、被告Bの上記陳述をもって、事実についての陳述を含むものであると解することはできない。被告Bの上記陳述は、せいぜい事実に基づく法律効果の成否に関するものであって、いわゆる権利自白の類のものであり、被告Bに対し、事実についての自白と同様の拘束力が及ぶものではないと解するのが相当である。
 したがって、原告の上記異議は失当である。
4 争点(4)(差止め及び廃棄の必要性)について
(1)原告は、被告リサイクルソリューションに対し、著作権侵害による差止請求として、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の報告書及びデータの複製、公衆送信を禁止することを求め、被告B及び被告東洋建設に対し、著作権侵害による差止請求として、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の複製、翻案又は改変を禁止することを求めている。
 既に述べたとおり、被告著作物のうち本件部分は、原告著作物の複製又は翻案物に当たるといえ、被告B及び被告リサイクルソリューションは、被告著作物により、原告の原告著作物に対する著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したのであるから、著作権法112条1項に基づき、被告リサイクルソリューションに対し、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の複製、公衆送信の差止めを命じ、被告Bに対し、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の複製、翻案又は改変の差止めを命じる必要性がある(なお、被告東洋建設に、差止めを求める部分は理由がない。)。
(2)原告は、被告リサイクルソリューション及び被告Bに対し、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分の報告書及びデータを廃棄することを求めている。
 被告リサイクルソリューション及び被告Bは、被告著作物(書面ないしデータ)を所持しているものと認められるから(弁論の全趣旨)、被告リサイクルソリューション及び被告Bに対し、別紙著作物目録記載1のうち、同目録記載2の部分に係る報告書及びデータの廃棄を命ずる必要性がある。
5 争点(5)(謝罪広告の要否)について
(1)原告は、本件書籍に関する著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたとして、被告らに対し、著作権法115条に基づき、@被告リサイクルソリューションの開設するウェブサイト上における謝罪広告の掲載(「第1 請求」4項)、A被告東洋建設の開設するウェブサイト上における謝罪広告の掲載(同7項)、B全国紙の新聞紙面上における謝罪広告の掲載(同8項)を求めている。
(2)著作者は、故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し、著作者の名誉若しくは声望を回復するために、適当な措置を請求することができ(著作権法115条)、「適当な措置」には謝罪広告の掲載も含まれる。
 同条にいう「名誉若しくは声望」とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉声望を指すものであって、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情を含むものではないと解される。
(3)上記を前提に検討するに、原告著作物は、社団法人道路緑化保全協会の出
版する「季刊道路と自然」(平成14年冬号第114号第29巻第2号)に掲載された「海外レポートフランスの運河を巡って−美しい田舎風景を求めて」と題する原告の著作物に、原告自ら補筆をして作成し、これを自ら開設するインターネットホームページ上において、公開していること、上記「季刊道路と自然」には、上記著作物の著者として、原告の氏名が表示され、勤務先や原告の顔写真も併せて掲載されていること(甲4)、被告著作物は、平成16年10月から平成20年5月までの3年8か月間にわたり、被告リサイクルソリューションの開設する被告ホームページ上で送信可能化されていたこと、被告リサイクルソリューションは、被告ホームページ上で原告の主張する謝罪広告を掲載することにつき、その必要性を認めていることなどに照らすと、本件においては、原告の名誉回復のための措置としては、別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を、被告リサイクルソリューションの開設する被告ホームページのトップページに30日間掲載することが相当である。
 他方、原告は、全国紙の新聞紙面上における謝罪広告の掲載(上記B)をも求めるものの、本件侵害態様に照らすと、原告の名誉回復のための措置としては、上記@の謝罪広告を命じれば足りるものと解される。
 なお、被告東洋建設に対し、謝罪広告の掲載を求める上記Aに理由がないことは、既に説示したことから明らかである。
6 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は、被告リサイクルソリューションに対し、 別紙著作物目録記載1のうち同目録記載2の部分の複製及び公衆送信の差止め、
上記部分に係る報告書及びデータの廃棄、並びに、被告ホームページのトップページ上への謝罪広告の掲載を求め、被告Bに対し、上記部分の複製、翻案又は改変の差止め、並びに、上記部分に係る報告書及びデータの廃棄を求め、被告リサイクルソリューション及び被告Bに対し、連帯して45万円並びに内金40万円について平成16年9月30日から、内金5万円について被告リサイクルソリューションにつき平成20年8月6日から、被告Bにつき同月7日から、各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、被告リサイクルソリューション及び被告Bに対するその余の請求並びに被告東洋建設に対する請求は理由がないから、これをいずれも棄却することとし、主文第1、2及び5項については仮執行宣言は相当でないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 平田直人
 裁判官 柵木澄子


(別紙)著作物目録
1 南仏海外調査報告書(南仏マリーナ、運河を支える技術を探る旅、2004年9月17日から同月26日までのもの)
2 上記1のうち、「第5章南仏雑感」の「5−4フランスの旅」のうち、「フランスの運河」と題する段落の文章すべて(「これも」から「今感じているところです。」まで)
3 原告が作成した「フランスの運河を巡って***美しい田舎風景を求めて***」の文章(http://<以下略>)
 以上

(別紙)謝罪広告目録
1 謝罪文
 当法人は、このウェブサイトにおいて、A氏の著作権を侵害するコンテンツを含む南仏海外調査報告書を掲載し、著作権者に多大のご迷惑をおかけしたことを反省し、ここに、謝罪いたします。今後、当法人の管理するホームページにおいて、著作権侵害が起きないよう十分注意いたします。
2 謝罪文
 弊社が、特定非営利活動法人リサイクルソリューションに提出した南仏海外調査報告書の原稿中、弊社取締役Bの作成した文章がA氏の著作権を侵害して作成されたものであったことにつき、弊社及びBともども、著作権者に多大のご迷惑をおかけしたことを反省し、ここに謝罪いたします。
3 謝罪文
 特定非営利活動法人リサイクルソリューションが、当法人の管理するウェブサイトにおいて、A氏の著作権を侵害するコンテンツを含む南仏海外調査報告書を掲載し、著作権者に多大のご迷惑をおかけしたことを反省し、ここに、謝罪いたします。今後、上記サイトにおいて、著作権侵害が起きないよう十分注意いたします。
特定非営利活動法人リサイクルソリューション
 東洋建設株式会社が、特定非営利活動法人リサイクルソリューションに提出した南仏海外調査報告書の原稿中、弊社取締役Bの作成した文章がA氏の著作権を侵害して作成されたものであったことにつき、弊社及びBともども、著作権者に多大のご迷惑をおかけしたことを反省し、ここに謝罪いたします。
 東洋建設株式会社
  代表者代表取締役<略>
  同社取締役副社長 B
4 掲載条件
 朝日新聞の全国版朝刊社会面に、1段の大きさで、表題部は20ポイント活字、その余の部分は10ポイント活字で、1回掲載すること。
 以上

(別紙)原告著作物の内容
 フランスの運河を巡って*** 美しい田舎風景を求めて***
1.はじめに
 クラクションが鳴り響き、雑踏あふれるパリからちょっと郊外に出れば、あたり一面には畑や森が広がるのどかな田舎風景です。
 メトロが網の目のごとく張り巡らされ、絶えず活動的な魅惑のパリですが、2000年から1年間ちょっと、会社からの派遣でパリに滞在していた私は、たまに時間を割いてはその喧騒さから脱出し、ミシュランの地図を頼りに小さな集落から集落へとプジョーを走らせて、一見のんぽりとした変哲もない風景が流れていく中、私なりに、フランスらしい「個性的な風景」を探していました。
 初めに着目したのは「小川の流れる風景」だったのですが、残念ながら「美しい」と思ったそれらは、大抵の場合は柵で囲まれた私有地というケースがほとんどで、それらを直接眺めることはできませんでした。
 そんな田舎巡りを始めてしばらくして、パリから北東のヴァレッドという小さな町にて、偶然にオルク運河と出会いました。
 それ以来、帰国までのわずかな期間、あちこちの運河を求めてフランス中を走りました。それを集約して私なりの観点ではありますが、フランス運河の魅力をざっくばらんに紹介したいと思います。
2.フランス運河の魅力
 フランスには、総延長約8、500kmの内陸運河があります。古くは17世紀初期から、内陸部の都市間の輸送手段を確保するために、あちこちで分水嶺を越える運河が建設されてきました。
 その他、年中安定した通行を確保するために本流の川に沿うように敷かれた運河、そしてセーヌ川、オワーズ川などのように、年中安定した水量・水流を確保するために川そのものに水門を設置してしまった「運河化」した川もあります。
 残念ながら、輸送の役割としては、鉄道やトラックなどの陸路輸送にほぼその座を明け渡してしまい、現在はツーリストのため、といった感があります。夏こそは、バカンスを楽しむプレジャーボートで賑わいますが、10月を過ぎてしまうとシーズンオフで、実に閑散としたものになってしまいます。
 しかし、パリ近郊から北フランス、ベルギーにかけての「幹線」では、まだまだペニッシュ(300トンクラスの運河運搬船)の姿をよく見かけることができます。
 既に歴史遺産となってしまった感のある運河ですが、実はあちこちで改修工事が淡々と進められているのも事実です。フランスの大方の運河はVNF(フランス運河公社)によって管理されており、水門や土手の改築、そして水路の浚渫が行われています。
 「運河」といっても、工業的または広々とした川というイメージではなく、基本的には牛たちが散在するなだらかな丘陵や麦畑の中を、ゆっくりと静かに流れていく小川のようなものです。
 流れの両脇には必ず側道があって、サイクリストや散歩をする人をちらほらと見かけます。そして茂った並木が淡々と続いています。
 そして運河は常に良く整備されています。土手の雑草が伸びてくればきれいに刈り込まれます。
 そのようなフランス運河の魅力はすばり、それがかもし出す「美しい田舎風景」でしょう。もちろん、美しいか否かは個人個人の主観に寄ることではあります。
 しかし、単調でのんぽりとした風景を引き締めるアクセントとして、例えば集落とその中心にそびえる教会の塔、街道に添う並木そして牧草地に集う牛などと同様、フランスの田舎風景に欠かすことのできない要因の一つだと思います。
 むしろアクセントというよりは、全体的に整備された風景の中に溶けこんで、まさに絵画の一部となっている印象も受けます。
3.水門の魅力
 風景的な魅力だけではありません。
 運河をたどっていきますと、所々にエクリューズ(仏語で"水門"の意味)という、ローカル鉄道の駅のようなものがあり、その前後で運河の水位が段違いに変わっています。
 そこにはプラットホームのような大きな石畳の水槽があって、その両側には大きな扉がついています。水槽の中に船を閉じ込めて水位を上げ下げすることで、違った区間に船を送り出すわけです。
 多くの水門の隣には、石積みのこじんまりとした家が建っていて、水門番(仏語:エクリュージェ)が住んでいます。彼らはれっきとした国家公務員で、年がら年中、通過する船のために水門の開け閉めをしています。
 敷地内には花壇があったり、ちょっとしたオブジェがあったりして、四季折々の風情を演出しています。極めてまれではありますが、通過する船を客相手にカフェレストランを経営している水門番もいます。
 しかし、すべての水門に人が住んでいるのではなくて、オートマチック式の水門もよく見かけます。運河によってはほとんどの水門が無人、というところもあります。大抵の場合、そんな水門の脇には廃墟となった家があってなんとも言えない侘しさを感じさせます。
 水門の魅力は、船を上げ下げする、という珍奇な作業を間近で見られることもありますが、やはり人とのコミュニケーションです。水門番は、人にも寄りますが、暇なこともあってとても親切です。
 「一日何隻通るの?」と聞くと彼らは決まってこう答えるでしょう。
 「さあ、そのとき次第だな、5隻か10隻か。全く通らない時もあるよ。」
 もちろん、ロープを操っている船員(とはいえ大方の場合、クルーは船長を含めて2人ぐらいしかいないのですが)や、あたりを散歩している人と世間話をすることもあります。
4.連続水門の魅力
 さらには、分水嶺の前後などやや勾配がきつい区間では、水門同士がかなり近接しているのが見られます。中には「水槽」をいくつか直接つなげてしまった、真の「連続水門」もあります。
 ちなみにブリヤール運河には、1642年に建設され1887年まで使われた7連続水門の遺跡があります。
 大西洋から地中海へ抜ける運河の一つ、ニベルネ運河の分水嶺の北側には、2kmの区間に16個所の水門が近接している「16水門のはしご」があります。
 夏のヴァカンス時だったせいか、プレジャーボートが何隻も押し寄せていて、いくつかの水門を兼任している水門番は、家族総動員体制で船からのロープの受け渡し、水門の開け閉めをしていました。
 中には操船初めてという老人カップルのクルーもいて、船をなかなか岸に固定できずに四苦八苦、そんな船の後を追っかけてあたふたと次の水門へと走っていく彼らは本当に忙しそうでした。
5.運河の橋の魅力
 そればかりでなく、フランス運河ではあちこちで大小様々な橋を見かけます。船が橋を悠々と渡っていくのは実に珍奇な光景です。
 有名なのはロワール川にかかるブリヤールの運河橋で、川を横切る際の航行の安全を確保するという目的で1897年に開通しました。ここは風光明媚なせいもあって観光スポットの一つになっています。
6.運河のトンネルの魅力
 運河には橋だけでなくトンネルもあります。特に分水嶺に近接しているところでは、数キロに渡るトンネルもあります。船の排気ガスが坑内に溜まらないように、立坑が間隔を置いて設置されているところもあります。
 サンクェンタン運河のリクェヴァルトンネルには、電気式曳き船に引っ張ってもらってトンネル内を航行します。この船はトロリーバスのようにパンタグラフで電気をもらい、水底にあるチェーンをガラガラと引き上げて歯車に絡ませながら進んでいくものです。
 ちなみにトンネルの坑口脇には引退した曳き船が鎮座していて、その中が曳き舟や運河に関する博物館になっています。
7.運河のエレベータの魅力
 さらには、ややマニアックになりますが、「インクライン」という、船を浮かばせた大きな水槽が斜面を移動していくものがあります。
 マルヌ・ライン運河のストラスブルグの近く、アズビエールには一気に45m程度を上がり下りするものがあります。インクライン設置前は17箇所の水門で峠を登っていました。
 ここも観光名所になっていて、フランスばかりでなくドイツからも大勢の観光客で賑わいます。水槽を引き上げるための大きなウィンチが設置されている施設内も見学できます。
8.おわりに
 あちこちの運河を訪れましたが、いろんな人と出会えたことも良い想い出です。
 帰り道によく田舎町のカフェに立ち寄るのですが、「初めて訪れた日本人」として歓迎されたり、日本通と称するご老人に絡まれたりすることもしばしばでした。
 もちろん、車をトロトロと運転している私の顔に好奇な視線を向けられる場合もよくありますが、それでも人々は親切で、下手なフランス語でも「忍耐」を持って聞いてくれます。
 運河には単なる風景の美しさだけでなく、そこにはフランスの人々、その生活を本当に理解するための大きなきっかけが秘められていると思います。
 「フランスの真髄は田舎にあり」だと私は常々感じます。
 皆様もフランスに行く機会があれば運河を訪れてみては如何でしょうか?

(別紙)被告著作物の内容
 5−4フランスの旅
  B【東洋建設(株)】
 プロバンス地方の歴史と風土

 フランスの観光案内書によると、アルプスから流れ下るローヌ川が、地中海に注ぐデルタ地帯その付近一帯をプロバンス地方と呼ぶのだそうです。
 プロバンス地方の歴史は古く、紀元前のローマ時代から始まったそうです。その昔、ギリシャ人はマルセイユに植民地をつくり、カエサルのローマ軍はアルルを握り、地中海沿岸からは十字軍が船出して行き、やがてアヴィニヨンに法王庁が建てられたそうです。
 輝く太陽、さわやかな空気、そして、ゆるやかな丘陵には小麦、野菜、ぶどうにオリーブが豊かに実り、地中海からの贈り物の魚介類に恵まれたプロバンスは、イタリア人もスペイン人もみなが欲しがり戦争が絶えなかった所であったらしいです。この地方がフランスに合併されたのは15世紀も後半のことだそうです。
 
 今回の研修旅行で感じたことは、そんな長い歴史の跡を、街や村にいまも昔の姿を多く残して居るところでした。

 プロバンス地方の世界遺産

 ポン・デュ・ガール
 ポン・デュ・ガールは、アヴィニョンの西へ約3kmの、緑深い谷を流れるガルドン川にかかる巨大な石の橋でした。
 やはりフランスの観光案内書によると、1世紀の中頃から後半にかけて建造されたと言う水道橋で、高さ49m全長275m、最大6トンもの巨石を積み上げられている壮大なものでした。ここから約16km西北のユゼス近くの水源から、古代ローマ都市ニームに飲料水を送っていたそうです。
 ニームとユゼスとは、高度差が17mしかなく、1kmにわずか34cmという微妙な勾配で水を流したということです。その正確なローマ人の建築技術もさることながら、3層の美しいアーチは芸術面でも優れていたことに改めて驚かされました。今でも橋の上を自由に歩くことができることも凄いと思いましたが、はるか下を流れるガルドン川を見下ろす橋には一本の柵もないのも驚きました。

 ニーム
 ニームの街を散策してみましたが、観光案内書に書いてある通り、「フランスの中のローマ」と言われているように、ローマ時代の遺跡の多い街でありました。また、「フランスのマドリッド」ともいわれる闘牛とフラメンコの盛んな街だそうです。
 紀元1世紀ごろの建設といわれる古代闘技場は現存するローマ闘技場のなかでは、大きさこそ中程度だそうですが、保存状態では一番と言われているそうです。現在も多少手を加えられてはいましたが、当時のままの状態で闘牛をはじめ、オペラ、バレエ、ロックコンサートとさまざまなイベントが行われているそうです。
 そのほか、カエサルの2人の孫に捧げられた神殿はアポロン神殿を模して造られたという「メゾン・カレ」や、城壁の名残の一つであるアウグストゥス門、ポン・デュ・ガールの水道橋を通って引かれてきた水の貯水槽なども見ることが出来ました。

 アルル
 アルル城壁の中へ入ると、目に飛び込んで来たのが、円形闘技場でした。
 ローマ時代は、1万人もの観客を集めたそうです。直径は最も広いところで136mもあり、フランスで現存する闘技場では、一番大きい闘技場だそうです。今までの、闘技場は遺跡見学だけのものだったものを、観客席を鉄骨で造り直したりして、現在は闘牛をはじめ、さまざまなイベントの場として活用しているそうです。
 最上階まであがると、アルルの南仏特有の美しい町並みとローヌ川が見渡せるそうです。
 この闘技場の隣には紀元1世紀末に完成したという古代劇場跡がありましたが、現在は大理石の柱が数本残るだけでした。

 フランスの運河
 これも、フランスの観光案内書によると、フランスには総延長で8,500kmもの内陸運河があるそうです。それは、17世紀はじめから、内陸部の輸送手段として、建設されてきたそうです。しかし現在は、輸送の役割は、鉄道やトラックなどの陸路輸送に、その座を明渡しているそうです。
 今回の研修旅行で実際の運河を船に乗ってみましたが、工業目的の為の広々とした川と言うイメージではなく、牛の群れが居る牧草地の中を、ゆっくり流れている用水路のようなもので、歴史遺産と言う感じを受けました。
 その両側には、青く茂ったプラタナスの並木が延々と続く側道があって、水はその真中を、淡々と流れていました。そのようなフランス運河の魅力は、美しい田舎の風景だと感じました。
 運河をたどっていくと、所々に田舎の鉄道の駅のような雰囲気のする、閘門の施設がありました。それは石積みの大きな水槽であり、その前後に大きな扉がついていました。その扉を操作して、船を水槽の中に閉じ込め、水を出し入れすることによって船の水位を変えて、隣の水位の区間に船を送り込む仕組みでした。ほとんどの閘門の近くには、小さな田舎造りの家が建っていて、閘門番が居ました。彼らは、通過する船のために閘門を開け閉めしていました。大きな閘門では、通過する船の客相手の、レストランがあるところもありました。さらに勾配のきつい区間では、閘門同士が接近しているところもありました。圧巻は水槽を幾つか直接繋げてしまった、連続閘門でした。
 船旅を続けて居ると、運河の上を横断している橋に何回も遭遇しました。道路橋であり鉄道橋でした。船が橋の下を通過することがほとんどでしたが、鉄道橋の時などは橋そのものが跳ね橋となっている所も有りました。
 また運河自体が大きな川を渡るための橋も通過しました。船が橋を渡っていくのは実に奇妙な光景でした。そこは風光明媚な所であり、観光スッポトとなっていました。
 今回の運河の旅の最後は、運河トンネルでした。運河が山を貫通していました。

 今回の運河の旅は単なる風景を楽しむ旅ではなく、南フランスの歴史や、人達を理解するきかっけとなる旅だったと、今感じているところです。

(別紙)著作物対比表
  原告著作物 被告著作物
1 2. フランス運河の魅力
フランスには、総延長約8、500kmの内陸運河があります。古くは17世紀初期から、内陸部の都市間の輸送手段を確保するために、あちこちで分水嶺を越える運河が建設されてきました。
フランスの運河
これも、フランスの観光案内書によると、フランスには総延長で8,500kmもの内陸運河があるそうです。それは、17世紀はじめから、内陸部の輸送手段として、建設されてきたそうです。
2 その他、年中安定した通行を確保するために本流の川に沿うように敷かれた運河、そしてセーヌ川、オワーズ川などのように、年中安定した水量・水流を確保するために川そのものに水門を設置してしまった「運河化」した川もあります。  
3 残念ながら、輸送の役割としては、鉄道やトラックなどの陸路輸送にほぼその座を明け渡してしまい、現在はツーリストのため、といった感があります。
しかし現在は、輸送の役割は、鉄道やトラックなどの陸路輸送に、その座を明渡しているそうです。
4 夏こそは、バカンスを楽しむプレジャーボートで賑わいますが、10月を過ぎてしまうとシーズンオフで、実に閑散としたものになってしまいます。
しかし、パリ近郊から北フランス、ベルギーにかけての「幹線」では、まだまだペニッシュ(300トンクラスの運河運搬船)の姿をよく見かけることができます。
 
5 既に歴史遺産となってしまった感のある運河ですが、実はあちこちで改修工事が淡々と進められているのも事実です。フランスの大方の運河はVNF(フランス運河公社)によって管理されており、水門や土手の改築、そして水路の浚渫が行われています。
「運河」といっても、工業的または広々とした川というイメージではなく、基本的には牛たちが散在するなだらかな丘陵や麦畑の中を、ゆっくりと静かに流れていく小川のようなものです。
今回の研修旅行で実際の運河を船に乗ってみましたが、工業目的の為の広々とした川と言うイメージではなく、牛の群れが居る牧草地の中を、ゆっくり流れている用水路のようなもので、歴史遺産と言う感じを受けました。
6 流れの両脇には必ず側道があって、サイクリストや散歩をする人をちらほらと見かけます。そして茂った並木が淡々と続いています。 その両側には、青く茂ったプラタナスの並木が延々と続く側道があって、水はその真中を、淡々と流れていました。
7 そして運河は常に良く整備されています。土手の雑草が伸びてくればきれいに刈り込まれます。  
8 そのようなフランス運河の魅力はすばり、それがかもし出す「美しい田舎風景」でしょう。 そのようなフランス運河の魅力は、美しい田舎の風景だと感じました。
9 もちろん、美しいか否かは個人個人の主観に寄ることではあります。
しかし、単調でのんぽりとした風景を引き締めるアクセントとして、例えば集落とその中心にそびえる教会の塔、街道に添う並木そして牧草地に集う牛などと同様、フランスの田舎風景に欠かすことのできない要因の一つだと思います。
むしろアクセントというよりは、全体的に整備された風景の中に溶けこんで、まさに絵画の一部となっている印象も受けます。

3.水門の魅力
風景的な魅力だけではありません。
 
10 運河をたどっていきますと、所々にエクリューズ(仏語で"水門"の意味)という、ローカル鉄道の駅のようなものがあり、その前後で運河の水位が段違いに変わっています。 運河をたどっていくと、所々に田舎の鉄の駅のような雰囲気のする、閘門の施設がありました。
11 そこにはプラットホームのような大きな石畳の水槽があって、その両側には大きな扉がついています。水槽の中に船を閉じ込めて水位を上げ下げすることで、違った区間に船を送り出すわけです。 それは石積みの大きな水槽であり、その前後に大きな扉がついていました。その扉を操作して、船を水槽の中に閉じ込め、水を出し入れすることによって船の水位を変えて、隣の水位の区間に船を送り込む仕組みでした。
12 多くの水門の隣には、石積みのこじんまりとした家が建っていて、水門番(仏語:エクリュージェ)が住んでいます。彼らはれっきとした国家公務員で、年がら年中、通過する船のために水門の開け閉めをしています。 ほとんどの閘門の近くには、小さな田舎造りの家が建っていて、閘門番が居ました。彼らは、通過する船のために閘門を開け閉めしていました。
13 敷地内には花壇があったり、ちょっとしたオブジェがあったりして、四季折々の風情を演出しています。極めてまれではありますが、通過する船を客相手にカフェレストランを経営している水門番もいます。
しかし、すべての水門に人が住んでいるのではなくて、オートマチック式の水門もよく見かけます。運河によってはほとんどの水門が無人、というところもあります。大抵の場合、そんな水門の脇には廃墟となった家があってなんとも言えない侘しさを感じさせます。
水門の魅力は、船を上げ下げする、という珍奇な作業を間近で見られることもありますが、やはり人とのコミュニケーションです。水門番は、人にも寄りますが、暇なこともあってとても親切です。
「一日何隻通るの?」と聞くと彼らは決まってこう答えるでしょう。  「さあ、そのとき次第だな、5隻か10隻か。全く通らない時もあるよ。」もちろん、ロープを操っている船員(とはいえ大方の場合、クルーは船長を含めて2人ぐらいしかいないのですが)や、あたりを散歩している人と世間話をすることもあります。 
大きな閘門では、通過する船の客相手の、レストランがあるところもありました。
14 4.連続水門の魅力
さらには、分水嶺の前後などやや勾配がきつい区間では、水門同士がかなり近接しているのが見られます。中には「水槽」をいくつか直接つなげてしまった、真の「連続水門」もあります。
さらに勾配のきつい区間では、閘門同士が接近しているところもありました。圧巻は水槽を幾つか直接繋げてしまった、連続閘門でした。
15   船旅を続けて居ると、運河の上を横断している橋に何回も遭遇しました。道路橋であり鉄道橋でした。船が橋の下を通過することがほとんどでしたが、鉄道橋の時などは橋そのものが跳ね橋となっている所も有りました。
また運河自体が大きな川を渡るための橋も通過しました。
16 ちなみにブリヤール運河には、1642年に建設され1887年まで使われた7連続水門の遺跡があります。
大西洋から地中海へ抜ける運河の一つ、ニベルネ運河の分水嶺の北側には、2kmの区間に16個所の水門が近接している「16水門のはしご」があります。
夏のヴァカンス時だったせいか、プレジャーボートが何隻も押し寄せていて、いくつかの水門を兼任している水門番は、家族総動員体制で船からのロープの受け渡し、水門の開け閉めをしていました。
中には操船初めてという老人カップルのクルーもいて、船をなかなか岸に固定できずに四苦八苦、そんな船の後を追っかけてあたふたと次の水門へと走っていく彼らは本当に忙しそうでした。

5.運河の橋の魅力
そればかりでなく、フランス運河ではあちこちで大小様々な橋を見かけます。 
 
17 船が橋を悠々と渡っていくのは実に珍奇な光景です。
有名なのはロワール川にかかるブリヤールの運河橋で、川を横切る際の航行ールの運河橋で、川を横切る際の航行の安全を確保するという目的で1897年に開通しました。
船が橋を渡っていくのは実に奇妙な光景でした。
18 ここは風光明媚なせいもあって観光スポットの一つになっています。 そこは風光明媚な所であり、観光スッポトとなっていました。
19 6.運河のトンネルの魅力
運河には橋だけでなくトンネルもあります。    
今回の運河の旅の最後は、運河トンネルでした。運河が山を貫通していました。
20 特に分水嶺に近接しているところでは、数キロに渡るトンネルもあります。船の排気ガスが坑内に溜まらないように、立坑が間隔を置いて設置されているところもあります。
サンクェンタン運河のリクェヴァルトンネルには、電気式曳き船に引っ張ってもらってトンネル内を航行します。この船はトロリーバスのようにパンタグラフで電気をもらい、水底にあるチェーンをガラガラと引き上げて歯車に絡ませながら進んでいくものです。 
ちなみにトンネルの坑口脇には引退した曳き船が鎮座していて、その中が曳き舟や運河に関する博物館になっています。

7.運河のエレベータの魅力
 さらには、ややマニアックになりますが、「インクライン」という、船を浮かばせた大きな水槽が斜面を移動していくものがあります。
マルヌ・ライン運河のストラスブルグの近く、アズビエールには一気に45m程度を上がり下りするものがあります。インクライン設置前は17箇所の水門で峠を登っていました。
ここも観光名所になっていて、フランスばかりでなくドイツからも大勢の観光客で賑わいます。水槽を引き上げるための大きなウィンチが設置されている施設内も見学できます。

8.おわりに
あちこちの運河を訪れましたが、いろんな人と出会えたことも良い想い出です。
帰り道によく田舎町のカフェに立ち寄るのですが、「初めて訪れた日本人」として歓迎されたり、日本通と称するご老人に絡まれたりすることもしばしばでした。
もちろん、車をトロトロと運転している私の顔に好奇な視線を向けられる場合もよくありますが、それでも人々は親切で、下手なフランス語でも「忍耐」を持って聞いてくれます。
 
21 運河には単なる風景の美しさだけでなく、そこにはフランスの人々、その生活を本当に理解するための大きなきっかけが秘められていると思います。 今回の運河の旅は単なる風景を楽しむ旅ではなく、南フランスの歴史や、人達を理解するきかっけとなる旅だったと、今感じているところです。
22 「フランスの真髄は田舎にあり」だと私は常々感じます。
皆様もフランスに行く機会があれば運河を訪れてみては如何でしょうか?
 
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