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【事件名】美容外科広告事件(2)
【年月日】平成21年6月29日
 知財高裁 平成21年(ネ)第10009号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成20年(ワ)第7828号)
 (口頭弁論終結日 平成21年4月15日)

判決
控訴人 X
訴訟代理人弁護士 荒木新五
同 西畑博仁
同 小林文子
同 住田和子
被控訴人 株式会社メディコア
訴訟代理人弁護 士滝久男
同 増江亜佐緒
同 山本昇


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金223万4657円及びこれに対する平成20年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを3分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人は、控訴人に対し、金606万6301円及びこれに対する平成20年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 控訴人(以下「原告」という。)は、被控訴人(以下「被告」という。)に対し、被告が、その管理運営するコムロ美容外科・歯科のホームページに、原告に無断で、女優・タレントである原告の氏名及び顔写真並びに原告のコメントとする文書を掲載するなどして、原告の氏名権、肖像権及びパブリシティ権を侵害したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、財産的損害506万6301円及び精神的損害100万円の合計606万6301円並びにこれに対する遅延損害金の支払を請求した。
 原判決は、原告の上記請求のうち145万6438円及びこれに対する平成20年4月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金支払の限度でこれを認容し、その余の請求を棄却した。原告は、原判決中、原告敗訴部分を不服として、控訴を提起した。
 当事者の主張は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」、「2 争点」、「3 争点についての当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
 なお、略語については、当裁判所も原判決と同一のものを用いる。
1 当審における原告の主張
(1) 財産的損害について
 本件契約の契約料相当額(美容治療費相当額を含む。)を財産的損害とみるのが相当であり、これを減額すべき要素はない。
ア 美容治療費相当額を契約料相当額に含めて算定すべきこと
 コムロが、原告に対してコラーゲン注入等の美容治療を行うのは、原告の容貌をコムロのイメージキャラクターとして理想的な状態に維持するためであるから、美容治療は本件契約と不可分一体であり、契約内容の一部を成すものである。美容治療について、契約書に記載がないのは、コムロが必要に応じて治療方法を立案して実施する立場にあり、あらかじめ契約書でその内容を定められなかったからであって、美容治療を行うことも契約の内容に含まれていた。
イ 契約料相当額を減額すべき要素はないこと
 本件契約は、広告媒体の数や回数に関係なく、1年間の広告利用を許諾する契約料として定められており、広告がインターネットによるもののみであったとしても、契約料が減額されるものではない。被告は、本件契約の当事者であるオルモックからコムロのホームページの管理運営を承継し、本件契約が継続しているとの認識をもっていたのであるから、契約料相当額を支払うべきである。
(2) 精神的損害について
 原告は、本件契約終了後、一切コムロの治療を受けていないのに、本件広告は、本件契約終了後も原告がコムロにおいて治療を受けているかのような誤解を与えるものとなっていたのであり、これによる精神的苦痛を慰謝する額としては、100万円を下らない。原判決が認めた30万円は低額にすぎる。
2 当審における原告の主張に対する被告の反論
(1) 財産的損害の算定について
ア 契約料相当額に治療費相当額が含まれるとの主張について
 契約書に美容治療について記載されていないことに照らせば、美容治療の提供は、本件契約を締結したことに伴う付随的なサービスにとどまり、本件契約の内容に含まれていない。美容治療の内容・方針が流動的であることは、治療を受けられることを契約書に記載することの妨げとはならない。
イ 契約料相当額を減額すべき要素はないとの主張について
 本件は、本件契約に基づく契約料の請求ではなく、不法行為に基づく損害賠償請求であるから、被告の具体的行為に基づいて損害額が算定されるべきである。そうすると、不法行為の態様が、インターネットのホームページに本件広告の掲載を継続したのみであるという事実は、損害額の算定に影響を及ぼす事情というべきである。
(2) 精神的損害について
 原告は、慰謝料額が低いとする具体的根拠を述べておらず、失当である。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、原告の控訴にはその一部に理由があるから、主文のとおり原判決を変更すべきものと考える。その理由として、次のとおり付加、訂正する他は、原判決のとおりであるから、これを引用する。
1 財産的損害について
(1) 原判決13頁4行目の「(甲1)が認められる。」の後に行を改め、「オルモックは、本件広告の態様以外に、雑誌や新聞折込みチラシ等の媒体において、原告の顔写真、氏名及びコメントを掲載した宣伝広告をしたことがある(乙2ないし7)が、その他、大量の宣伝広告をしたことはない。したがって、本件契約に基づく広告の態様は、インターネットによる本件広告の占める比重が、総じて高かったといえる。」を加える。
(2) 原判決13頁9行目「2分の1」を「4分の3」に改める。
(3) 原判決13頁10行目「63万円」を「94万5000円」に、同11行目「115万6438円」を「173万4657円」に改める。
(4) 原判決13頁12行目を「(計算式)94万5000円÷365日×670日=173万4657円」に改める。
2 精神的損害について
(1) 原判決15頁19行目から21行目の「被告が本件契約の終了を知りながら本件広告の掲載を継続したとは認められないこと」の後に「(もっとも、被告は原審答弁書において、『被告はコムロ美容整形外科のホームページに原告の顔写真等を掲載することの根拠となる契約が終了していることに気付かず、当該掲載に問題はないと誤解したまま、当該掲載を継続していた」(3頁)と答弁し、その後、原審被告準備書面(2)においては、『誤解に基づき削除しないままにしていたというだけ』(2頁)と述べていることに照らすと、被告は、原告の指摘を受ける前からホームページに原告の顔写真等が掲載されている事実を認識していたことを自認していたものと解される。)」を加える。
(2) 原判決15頁22行目「削除している」の後に「ものの、その掲載中止要求前から本件広告のホームページへの掲載の事実は認識しており、原告との契約内容について調査することにより、掲載中止要求前に掲載を中止することが可能であったこと」を加え、同22、23行目の「(前記争いのない事実等(4)参照)」を「(前記争いのない事実等(4)、(5)、及び弁論の全趣旨)」に改める。
(3) 原判決15頁24行目の「30万円」を「50万円」に改める。
(4) 原判決16頁2行目から7行目を削除する。
第4 結論
 以上の次第で、原告の請求は、金223万4657円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年4月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないものとして棄却すべきである。したがって、原告の控訴は上記限度で理由があるから、これと異なる原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 大須賀滋
 裁判官 齊木教朗
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