判例全文 | ||
【事件名】類似ホームページ事件 【年月日】平成21年1月29日 東京地裁 平成20年(ワ)第22987号 不正競争行為差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成20年12月18日) 判決 原告 株式会社M o b i l e d o o r 訴訟代理人弁護士 佐々木新一 同 村田直樹 被告 株式会社グランウィル 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、消費者金融会社に関する情報提供サービスを内容とするホームページにおいて、「Mobiledoor」の表示を営業表示として使用してはならない。 2 被告は、被告が管理するホームページ(略)から、「Mobiledoor」の表示を削除せよ。 3 被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する平成20年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告がその管理するホームページにおいて原告の周知の営業表示である「Mobiledoor」を営業表示として使用する行為が、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当すると主張して、被告に対し、不正競争防止法3条1項、2項に基づき、その使用の差止め及び削除を求めるとともに、同法4条に基づき、損害賠償を求めた事案である。 第3 当事者の主張 1 請求原因 (1) 当事者 ア 原告は、インターネットのホームページの企画・制作、インターネットを利用した各種情報提供サービス等を業とする株式会社である。 イ 被告は、コンピューターのソフトウェア及びシステムの開発、販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の営業表示とその周知性 ア(ア) 原告は、平成18年3月の設立当初から、原告が作成、管理、運営する「消費者金融ナビ」というタイトルのホームページ(「略」。以下「原告ホームページ」という。)において消費者金融会社各社の情報を一般に広く提供するサービスを業として行い、「Mobiledoor」を原告ホームページの作成者として表示している。 そして、原告ホームページを閲覧した顧客は、消費者金融会社各社のサービス内容を細かく比較検討し、原告ホームページを経由して各社のホームページにアクセスすることができ、各社にとって原告ホームページは効果的に顧客を募る広告広報効果があるため、原告は、原告ホームページに掲載した消費者金融会社各社から報酬を得ている。 (イ) 以上のとおり、原告は、平成18年3月の設立当初から、消費者金融会社各社の情報を提供するサービスの事業において「Mobiledoor」の表示を営業表示として使用している。 イ(ア) ソフトバンクの携帯電話で「消費者金融」というキーワードで検索すると、原告ホームページは、検索結果の3番目に出てくる。 (イ) 有限会社エム・ビー・カンパニーが平成19年8月9日に発行した書籍「携帯アフィリエイト驚愕の実践ノウハウ集」(以下「本件書籍」という。)の本文中で、原告代表者が平成17年初頭に個人事業として「Mobiledoor」を設立し、平成18年3月にその事業を引き継ぐ形で原告を設立し、原告が「Mobiledoor」の表示でインターネットのウェブサイト(ホームページ)を運営している旨の記事が掲載されている。 本件書籍は、初版1万部で、かつ、増刷もされ、多数の部数が販売されており、現在でも、書籍通販の「アマゾン」のジャンル別売上順位で、「ビジネスとIT」分野で41位となっている。 このように、主にインターネットに関心がある者の間で多数の部数が売れた本件書籍の本文中で、上記記事が掲載されている。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、原告の営業表示である「Mobiledoor」は、遅くとも平成19年10月ころには、需要者の間に広く認識されていたといえるから、周知の「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に当たる。 (3) 被告の不正競争行為 ア 被告は、遅くとも平成19年10月ころから、原告ホームページをそのまま転載した、原告ホームページと外観が全く同一のホームページ(「略」。以下「本件ホームページ」という。)を作成し、管理、運営して、本件ホームページ上で「Mobiledoor」を自己の営業表示として使用している。 そして、被告の上記使用行為は、需要者において原告の営業と被告の営業との誤認混同を生じさせるものであることは明らかであるから、「他人の営業と混同を生じさせる行為」(不正競争防止法2条1項1号)に当たる。 イ したがって、被告が本件ホームページ上で原告の周知の「商品等表示」である「Mobiledoor」を自己の営業表示として使用する行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たる。 (4) 原告の損害 被告の前記(3)の不正競争行為により、本来であれば原告ホームページにアクセスするはずの顧客の多くが、本件ホームページにアクセスし、また、原告ホームページ及び原告に対する営業上の信用が著しく毀損され、原告の営業上の利益が侵害された。 被告の前記(3)の不正競争行為により原告が受けた損害は、200万円を下らない。 (5) まとめ よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法3条1項、2項に基づき、消費者金融会社に関する情報提供サービスを内容とするホームページにおいて、「Mobiledoor」の表示を被告の営業表示として使用することの差止め及び本件ホームページからの「Mobiledoor」の表示の削除を求めるとともに、同法4条に基づく損害賠償として200万円及びこれに対する平成20年11月12日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否 請求原因事実は、いずれも不知ないし否認する。 被告は、本件ホームページの開設も、運営も行っていない。「hikakuya.jp」のドメイン名が被告代表者個人の名義で登録されているが、被告及び被告代表者は、その登録に関与していない。 第4 当裁判所の判断 1 証拠(甲1、5)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、インターネットのホームページの企画・制作、インターネットを利用した各種情報提供サービス等を業とする株式会社であること、原告は、設立当初(設立日・平成18年3月7日)から、原告が管理、運営する原告ホームページ(「消費者金融ナビ」)において、消費者金融に関する情報、消費者金融会社各社の融資条件等の情報を提供するサービスを事業として行っていること、原告ホームページには、「運営会社 Mobiledoor」の表示、「★運営会社」として「株式会社Mobiledoor」の表示がされていること(甲1の4頁)が認められる。 上記認定事実によれば、原告は、平成18年3月当時から、上記事業における自己の営業表示として「Mobiledoor」の表示を使用していること(請求原因(2)ア(イ))が認められる。 2 原告は、原告の営業表示である「Mobiledoor」は、遅くとも平成19年10月ころには、需要者の間に広く認識されていたといえるから、周知の「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に当たる旨(請求原因(2)イ(ウ))主張する。 しかし、原告の主張は、以下のとおり理由がない。 (1) 原告は、ソフトバンクの携帯電話で「消費者金融」というキーワードで検索すると、原告ホームページは、検索結果の3番目に出てくることを、原告の「Mobiledoor」の営業表示が周知であることの根拠の一つ(請求原因(2)イ(ア))として挙げる。 ところで、原告の「Mobiledoor」の営業表示は、消費者金融に関する情報、消費者金融会社各社の融資条件等の情報を提供するサービスの事業の営業を表示するものであるから、原告の「Mobiledoor」の営業表示の周知性を判断するに際しては、「需要者」(不正競争防止法2条1項1号)とは、消費者金融を利用する可能性のある者、すなわち一般消費者をいうものと解するのが相当である。 そして、一般消費者を需要者とした場合、原告が主張するように、ソフトバンクの携帯電話で「消費者金融」というキーワードで検索すると、原告ホームページは、検索結果の3番目に出てくるとしても、そのことは携帯電話を利用して消費者金融に関する情報を検索しようとする一部の消費者において「Mobiledoor」の営業表示が認識されていることをうかがわせるにとどまり、そのことから、一般消費者の間で「Mobiledoor」の営業表示が広く認識されているとまで認めることはできない。 (2) また、原告は、主にインターネットに関心がある者の間で多数の部数が売れた本件書籍において原告の紹介記事が掲載されていることを、原告の「Mobiledoor」の営業表示が周知であることの根拠の一つ(請求原因(2)イ(イ))として挙げる。 確かに、平成19年8月9日発行の本件書籍(甲5)の本文中(148頁ないし151頁)には、原告代表者が平成17年初頭に個人事業として「Mobiledoor」を立ち上げ、平成18年3月にその事業を引き継ぐ形で原告を設立し、原告が「Mobiledoor」の表示でインターネットのウェブサイト(ホームページ)を運営していることなどが紹介されたインタビュー形式の記事が掲載されていることが認められる。 しかし、原告が主張するように、本件書籍が初版1万部で、かつ、増刷もされ、現在でも、書籍通販の「アマゾン」のジャンル別売上順位で、「ビジネスとIT」分野で41位となっているとしても、本件書籍の上記記事の内容が一般消費者の間で広く知れ渡っているとまで認めることはできない。 (3) 以上のとおり、原告が、原告の「Mobiledoor」の営業表示が周知であることの根拠として挙げる事実からは、原告の「Mobiledoor」の営業表示が、需要者の間で広く認識されているものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 3 原告は、被告は、遅くとも平成19年10月ころから、原告ホームページをそのまま転載した、原告ホームページと外観が全く同一の本件ホームページを作成し、管理、運営して、本件ホームページ上で「Mobiledoor」を自己の営業表示として使用している旨(請求原因(3)ア)主張する。 証拠(甲1、2、4、7)を総合すれば、平成20年8月14日の時点において、本件ホームページ(甲2)は、「消費者金融ナビ」というタイトル部分のイラスト等を含めた掲載内容やそのレイアウト等において、原告ホームページ(甲1)に酷似した体裁を有していること、本件ホームページには、「運営会社Mobiledoor」(甲2の4頁)の表示がされていることが認められる。 上記認定事実によれば、「Mobiledoor」の表示が本件ホームページの運営者の営業表示として使用されていたことが認められる。 そして、本件ホームページのウェブアドレス(「略」)のドメイン名は「cashing.hikakuya.jp」であるところ(甲2)、証拠(甲7ないし9)によれば、「hikakuya.jp」のドメイン名が、被告代表者と同姓同名の「A」の名義で登録されていることが認められる。 しかし、他方で、@被告は、被告が本件ホームページの開設、運営を行っていた事実を否認し、ドメイン名「hikakuya.jp」の登録について、被告及び被告代表者は関与していない旨主張していること、A本件ホームページ(甲2の4頁)には、被告の商号である「株式会社グランウィル」は、「株式会社グランウィルソフトウェア」と並列的に「★関連会社」として表示されており、「★運営会社」として「Granwill SEED」の表示がされていること、Bドメイン名「hikakuya.jp」の登録手続を行った株式会社paperboy&co.作成の回答書(甲9)には、「ドメインの使用料の支払いにつきましては、たとえ第三者が支払っていた場合であっても、弊社側では契約者が契約ドメインに対して支払ったものとしてみなしております。」との記載があり、上記記載からは、上記会社はドメイン名の登録に際して申込者の身元等を確認する手続をとっておらず、被告代表者以外の第三者が「A」名義で上記ドメイン名の登録を受けることが可能であったことがうかがわれること、以上の@ないしBに照らすならば、本件ホームページのウェブアドレス(「略」)のドメイン名「cashing.hikakuya.jp」の一部と一致するドメイン名「hikakuya.jp」が、被告代表者と同姓同名の「A」の名義で登録されているからといって、本件ホームページにおいて「Mobiledoor」の表示を使用していたのが被告であるとまでは認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 第5 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 杉浦正典 裁判官 古庄研 |
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