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【事件名】アダルトゲームの著作権帰属事件
【年月日】平成21年6月19日
 東京地裁 平成20年(ワ)第12683号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年4月24日)

判決
原告 有限会社デジタルワークス
同訴訟代理人弁護士 小出重義
同 松山馨
同 村田良介
被告 株式会社オークス
被告 A
被告ら訴訟代理人弁護士 岩本康一郎
同 渡辺昇一
同 高久尚彦


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社オークスは、別紙目録記載3及び4のソフトを販売し、又は頒布してはならない。
2 被告株式会社オークスは、その占有に係る前項の各ソフトの在庫品を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して1879万9064円及びこれに対する平成20年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、別紙目録記載1及び2のパソコン用ソフト(プログラムの著作物。以下「本件ソフト1」、「本件ソフト2」という。)の著作権者であると主張する原告が、被告株式会社オークス(以下「被告オークス」という。)が上記各ソフトを家庭用ゲーム機用ソフト(別紙目録記載3及び4のソフト。以下「本件ソフト3」、「本件ソフト4」という。)に移植し、これを複製して販売したことが原告の上記著作権(翻案権、二次的著作物に係る複製権)を侵害するものであるとして、被告オークスに対し、著作権法112条1項、2項の規定に基づき、本件ソフト3及び4の販売、頒布の差止め並びに在庫品の廃棄を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求として、被告オークス及びその代表者である被告A(以下「被告A」という。)に対し、連帯して、損害合計1879万9064円(得べかりし利益1709万9064円、弁護士費用170万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提となる事実(証拠を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は、パソコン用ソフトウェアの企画、開発、制作、販売等を目的として平成10年6月19日に設立された会社であり、その設立以降、平成17年3月まで、B(以下「B」という。)が取締役(代表者)の地位にあった。
イ 被告オークスは、コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を目的として平成12年11月9日に設立された会社であり、被告Aは、被告オークスの代表取締役である。被告Aは、平成13年9月、コンピュータソフトウェアの企画、制作、販売等を目的として有限会社ワンピース(以下「ワンピース」という。)を設立し、その代表取締役も務めている(乙2)。
ウ C(以下「C」という。)は、被告オークスの設立以降、被告Aと共にその代表取締役に就任し、プログラマーとして、プログラムの開発を担当していたが、平成17年2月ころから被告Aとの間で確執を生じるようになり、同年5月に被告オークスの取締役を解任され、平成20年1月21日に原告の取締役に就任した(甲1)。
 また、Cは、平成7年1月、コンピュータソフトウェアの開発、販売等を目的として株式会社ゼロシステム(以下「ゼロシステム」という。)を設立し、その代表取締役に就任した(乙2)。
エ Bは、原告の取締役に在任中、被告オークスの事務所(東京都千代田区外神田)において、原告のほか、被告オークス、ワンピース及びゼロシステムの経理及び総務の事務を行っていた。
(2) 原告は、被告オークスとの間において、平成14年5月20日付け(本件ソフト1)及び平成16年10月20日付け(本件ソフト2)で、本件ソフト1及び2の製造、広報、流通、販売に関する個別業務委託契約を締結した(甲11、12。以下、この2つの委託契約を一括して「本件各委託契約」という。)。
 本件各委託契約には、
 「第一条(契約の目的)
 甲(判決注:原告)は乙(判決注:被告オークス)に対し、下記に記載した業務(以下、「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託した。
 1.(制)作の一部及び、製品の製造過程全般(ソフ倫シール発注以外)
 2.販売に関して、通信販売及び、2次権利使用(販権委譲)
 3.上記1、2、3に付随・関連する行為」
 との規定がある(甲11、12。以下、上記規定を「本件各委託契約条項」という。)。
(3) Cは、平成14年から平成15年にかけて、本件ソフト1及び2を開発、制作した。
 本件ソフト1及び2は、いずれも相当程度の性的表現を含むパソコン用ゲーム(恋愛シミュレーションゲーム)のソフトであり、満18歳未満の青少年への販売が禁止されている(甲14、15、弁論の全趣旨)。
(4) 本件ソフト1は平成15年2月14日に、本件ソフト2は平成16年11月19日に、いずれも原告を発売元として販売された(甲14、15)。
(5) 被告オークスは、本件ソフト1を家庭用ゲーム機であるドリームキャスト用に移植(翻案)した上、そのドリームキャスト用のソフト(本件ソフト3)を複製して株式会社タイトー(以下「タイトー」という。)に販売し、タイトーから、その販売代金として、平成15年5月から7月ころにかけて、少なくとも1039万0400円の支払を受けた。
 また、被告オークスは、本件ソフト2を家庭用ゲーム機であるプレイステーション2用に移植(翻案)した上、そのプレイステーション2用のソフト(本件ソフト4)を複製してタイトーに販売し、タイトーから、その販売代金として、平成17年4月から6月ころにかけて、少なくとも4660万6480円の支払を受けた。
(6) 原告、ゼロシステム及びCは、被告オークスとの間で平成19年5月7日付け「確認・誓約書」(甲13。以下「本件誓約書」という。)を作成し、被告オークスに対し、その当時に当庁に係属中であった訴訟上の請求(@Cの被告オークスに対する1930万円の貸金請求〈平成17年(ワ)第12735号〉、ACの被告オークスに対する504万5161円の損害賠償請求〈平成18年(ワ)第6446号〉、B原告の被告オークスに対する1630万9862円の損害賠償請求〈平成18年(ワ)第13339号〉)を除き、今後、いかなる請求もしないことを約した(甲13)。
 そして、Cは、平成19年5月8日、被告オークスとの間の株式買取価格決定事件(当庁平成18年(ヒ)第254号)の審問期日において、被告オークスに対し、本件誓約書が真正に作成されたものであることを確認した(乙1)。
3 争点
(1) 本件ソフト1及び2の著作者並びに被告らによる著作権侵害行為の有無
(2) 本件誓約書の効力
(3) 損害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件ソフト1及び2の著作者並びに被告らによる著作権侵害行為の有無)について
ア 原告
(ア) Cは、平成14年から平成15年当時、被告オークスの役員であったが、原告と被告オークスとの間の契約に基づいて原告の業務に従事しており、原告の発意に基づき、原告の従業員としての職務上、本件ソフト1及び2を開発、制作した。Cは、「デジタルワークスのC」と名乗ってシナリオや音楽の作成を外注しているし、原告は、Cに対し、本件ソフト1及び2の開発に係る報酬を支払っているほか、本件ソフト1及び2のプログラムの開発、シナリオや音楽の作成のためのスタッフを準備し、これらのスタッフに対する報酬もすべて支払っている。
 したがって、著作権法15条2項により、本件ソフト1及び2の著作者は原告であり、原告が本件ソフト1及び2の著作権を取得する。このことは、本件ソフト1及び2の商品パッケージに原告が著作権者である旨の表示がされていることからも明らかである。
(イ) 本件各委託契約書は、いずれも平成17年3月ころ、Bが被告Aに言われるままに日付を遡らせて作成したものであり、原告は、平成14年5月20日当時及び平成16年10月20日当時、本件ソフト1及び2の作成を被告オークスに委託する意思はなかった。
 また、本件各委託契約条項は、本件ソフト1及び2(パソコン用ソフトウェア)を販売する上で必要なパッケージ作成等のため、本件ソフト1及び2で使用されているキャラクター等をプリントすることを許諾するという趣旨であり、本件ソフト1及び2を別のハードウェア(家庭用ゲーム機)のために移植することを許諾したものではない。仮に、本件各委託契約条項が、被告らの主張するように独占的利用の許諾に当たるとすれば、原告にはその意思がなかった(表示の錯誤)のであるから、民法95条により、無効である。
(ウ) 原告は、本件ソフト1及び2の著作権者として、本件ソフト1及び2を他のハードウェアで同内容のゲームができるように移植する権利を有するところ(著作権法27条)、被告オークスは、原告の許諾を受けていないことを知りながら、本件ソフト1及び2を本件ソフト3及び4に移植した上、これを複製して販売し、もって、原告の上記著作権(翻案権、二次的著作物に係る複製権)を侵害した。
 また、被告Aは、被告オークスの代表取締役としてその業務全般を所掌しており、本件ソフト1及び2の著作権が原告にあることを知りながら、率先して、これを本件ソフト3及び4に移植し、複製して販売するなどの事実行為に及んでいるのであるから、被告オークスと共同して原告の著作権(翻案権、二次的著作物に係る複製権)を侵害したというべきであり、被告オークスと連帯して不法行為責任を負う。
イ 被告ら
(ア) Cは、被告オークスの発意に基づき、被告オークスのゲームソフト作成の総括責任者として本件ソフト1及び2の開発、作成に従事したのであるから、本件ソフト1及び2の著作者は、著作権法15条2項により、被告オークスであり、その著作権は被告オークスに原始的に帰属する。被告オークスは、本件ソフト1及び2の著作権者として、原告に対し、本件ソフト1及び2を店頭売り(通信販売を除く、流通への卸し販売)する権利を独占的に許諾したにすぎない。
 原告が、C、その他の本件ソフト1及び2の開発に携わったスタッフに対する報酬を支払った事実はない。
(イ) 仮に、何らかの理由で、本件ソフト1及び2の著作権が被告オークスから原告に譲渡されたとしても、本件ソフト1及び2の翻案権や本件ソフト3及び4(二次的著作物)の複製権は被告オークスに留保されているか(著作権法61条2項)、又は、被告オークスは原告から本件ソフト1及び2をパソコン用ゲームソフトとして店頭売りする権利以外の一切の権利について独占的利用の許諾を受けている(著作権法63条、本件各委託契約条項)。したがって、被告オークスが本件ソフト1及び2を本件ソフト3及び4に移植(翻案)し、これを複製して販売したことは、原告の著作権を侵害するものではない。
 本件各委託契約条項は、パソコン用ゲームソフトとして本件ソフト1及び2を複製、店頭売りする権利は原告に取得させ、それ以外の一切の権利(その主なものは、本件ソフト1及び2をプレイステーション2やドリームキャスト等のコンシューマー版ゲームソフトに改変し、販売する権利である。)は被告オークスに留保する趣旨と解すべきである。これは、原告の業態が、満18歳未満の青少年への販売が禁止されているパソコン用ゲームソフト(以下「アダルトゲームソフト」という。)を被告オークスを始めとする第三者に委託して制作、製造してもらい、自己が発売元となって販売する(実際にはワンピースに一括して買い取ってもらう)というものであり、他方、被告オークスは、プレイステーション2やドリームキャスト等のコンシューマー版ゲームソフトの制作、販売を主たる業務としていることからも明らかである。事実上、アダルトゲームソフトを発売するにはコンピュータソフトウェア倫理機構(いわゆる「ソフ倫」。以下「ソフ倫」という。)に加盟し、商品にソフ倫から交付される「ソフ倫シール」を貼付しなければならないが、原告は、ソフ倫に加盟していた。他方、被告オークスは、プレイステーション2用のゲームソフトが主力製品であり、ライセンス元である株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下「SCE社」という。)による規制が厳しいことから、アダルトゲームソフトを手がけることを表沙汰にしたくなかった。
(ウ) 原告が主張する被告Aの行為は、被告オークスの代表取締役としてのものであり、被告A個人の行為ではないから、被告Aが原告に対して損害賠償責任を負うことはない。
(2) 争点(2)(本件誓約書の効力)について
ア 被告オークス
 原告と被告オークスとの間においては、本件誓約書のとおり和解契約が成立しており、原告は、被告オークスに対し、今後いかなる請求も行わない旨約したのであるから、原告の被告オークスに対する本件請求は認められない。
 なお、上記和解契約は、紛争を終局的に解決するため、和解契約時点までに生じた事実に基づく請求は一切行わないという趣旨であり、原告には代理人弁護士が就いていたことも考慮すれば、原告が上記の趣旨を誤解して和解に応じたなどということは考え難い。
イ 原告
 原告は、被告オークスが本件ソフト1及び2に係る原告の著作権を侵害していることを知らずに本件誓約書を作成したもので、もし被告オークスによる著作権侵害の事実を知っていれば、本件誓約書の作成に応じることはなかった。
 したがって、本件誓約書には動機の錯誤があるところ、被告オークスは、原告の上記動機を熟知していたのであるから、本件誓約書による原告の意思表示は、民法95条により無効である。
(3) 争点(3)(損害)について
ア 原告
(ア) 逸失利益
 被告らの上記(1)の著作権侵害行為により、原告は、本件ソフト1及び2を移植して販売することによって得られたはずの利益を得ることができなかった。
 被告オークスは、タイトーから、本件ソフト3及び4の販売代金として合計5699万6880円の支払を受けているが、このうち、移植や販売に係る諸経費を差し引いた利益率は3割を下回らない。
 したがって、被告オークスは、上記(1)の著作権侵害行為により、少なくとも1709万9064円の利益を得ているから、原告は、著作権法114条2項により、これと同額の損害を受けたと推定すべきである。
(イ) 弁護士費用
 原告は、本件損害賠償請求について、弁護士に委任して本件訴訟を提起することを余儀なくされたが、上記(1)の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は170万円を下回らない。
イ 被告ら
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件ソフト1及び2の著作者並びに被告らによる著作権侵害行為の有無)について
(1) 上記第2の2の前提となる事実並びに証拠(甲11、12、14〜18、乙2〜8、10、11、証人B、被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
ア 原告の設立
 被告Aは、札幌市内の高校を卒業後、上京し、都内のゲームソフト制作会社で役員をしていたが、高校時代の同級生であったBから「コンピュータ関係の仕事をしたい」旨の相談を受けたことから、Bに対し、アダルトゲームソフトの制作、販売が今後有望であるとして、当該事業を勧めた。
 これを受けて、Bは、平成10年6月19日、原告を設立し、その代表者に就任したが、それまでゲームソフト業界で仕事をしたことがなく、ノウハウも人脈もなかったので、被告Aのサポート(アイディアの提供や外注先の紹介等)は受けたものの、当初の企画、制作がうまく進まず、間もなく営業が停滞するようになった。
イ 被告オークス及びワンピースの設立
 その後、被告Aは、ゼロシステムの代表取締役としてゲームソフトの制作をしていたCと知り合い、Cと共にゲームソフト(主として一定の性的表現を含むプレイステーション2用のゲームソフト)を制作する会社を新たに立ち上げることで意気投合し、平成12年11月9日、被告A及びCのほか、D(被告Aの妻。以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)が出資して、被告オークスを設立した。
 被告オークスの役員は、被告A及びCが代表取締役、D、E及びFが取締役で、合計5名であったが、この中でプログラマーはCのみであり、ゲームソフトの開発作業はCが責任者として担当することになった。
 被告Aは、平成13年9月、ゲームソフトの販売会社としてワンピースを設立したが、その役員は被告オークスとほぼ同じであり、事務所も同一であった。
ウ 原告と被告オークス及びワンピースの関係
 被告Aは、被告オークスの事業が軌道に乗った平成14年ころ、当時北海道に戻っていたB(当時、原告の取締役であった。)に連絡をして東京に呼び寄せ、原告と共にアダルトゲームソフトに関するビジネスを行うこととした。
 事実上、アダルトゲームソフトを発売するにはソフ倫に加盟し、商品にソフ倫から交付される「ソフ倫シール」を貼付しなければならない。被告オークスは、プレイステーション2用のゲームソフトを主力商品としており、これも一定の性的表現を含むものではあったが、プレイステーション2のライセンス元であるSCE社による規制が厳しいため、比較的穏当な内容のものであり、今後、被告オークスにおいてアダルトゲームソフトを手がけることが表沙汰になれば、同社のイメージが悪化するのではないかという懸念があった。他方、原告は、ゲームソフトを制作、販売する能力やノウハウを有していなかったが、ソフ倫に加盟していたことから、アダルトゲームソフトの発売元になることができた。
 そこで、原告と被告オークスが協議した結果、被告オークスがアダルトゲームソフトを制作し、原告がその発売元となり、ワンピースが原告からそのパソコン用ゲームソフトを一括して仕入れて(又は委託を受けて)販売するという枠組みで事業を展開することが取り決められた。
エ 本件ソフト1及び2の開発、作成及び販売
 被告オークスは、原告との間で、上記ウの枠組みのとおり原告が発売元になること等を前提として、パソコン用ゲームソフトである本件ソフト1及び2を制作することを合意し、その開発に着手した。そして、本件ソフト1及び2の作成は、被告オークスのゲームソフト開発担当責任者であるCが統括し、実際のプログラム作業は、被告オークスの従業員(本件ソフト1についてはG、本件ソフト2についてはH)が行って、本件ソフト1及び2を完成させた。
 原告は、被告オークスが商品として製造した本件ソフト1及び2の販売のためにソフ倫シールを発注し、これを貼付して、本件ソフト1及び2をワンピースに販売(卸売り)した。
 なお、本件ソフト1及び2の制作、販売等に係る原告と被告オークスの上記合意については、いずれも平成17年3月ころ、日付を遡らせる形で、本件ソフト1については平成14年5月20日付けで、本件ソフト2については平成16年10月20日付けで、ほぼ同内容の個別業務委託契約書(甲11、12)が作成された。
(2) 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とされる(著作権法15条2項)ところ、上記「法人等の業務に従事する者」には、当該法人の代表取締役も含まれるものと解すべきである。そして、上記(1)に認定した事実によれば、本件ソフト1及び2は、被告オークスの代表取締役かつプログラマーとしてゲームソフト開発作業を担当していたCが、被告オークスの発意に基づき、その職務として作成したものと認めることができるから、被告オークスが、本件ソフト1及び2の著作者であり、これらの著作権を原始的に取得したものということができる。
 この点につき、原告は、Cに対し本件ソフト1及び2の開発に係る報酬を支払ったとか、本件ソフト1及び2のプログラムの開発、シナリオや音楽の作成のためのスタッフを準備し、これらのスタッフに対する報酬もすべて支払ったなどの事実を指摘して、本件ソフト1及び2が原告の職務著作であると主張し、C作成の陳述書(甲18)にはこれに沿う記載部分がある。しかし、本件において、原告とCとの間で締結された雇用契約又はこれに相当する契約に関する書面や、原告からCその他のスタッフに報酬又は賃金が支払われたことを示す客観的資料が何ら証拠として提出されておらず、また、本件ソフト1及び2が作成された当時の原告の取締役であったBは、当時原告の業務に従事していた者はB1人であり、Cは原告の役員でも従業員でもなかった旨の証言をしていることに照らすと、Cの上記陳述は採用することができず、ほかにCが原告の業務に従事する者として本件ソフト1及び2を作成したとの事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
 本件ソフト1及び2のパッケージには、発売元として原告の商号が記載され、また、Cは「デジタルワークスのC」と名乗ってシナリオ等の外注をしたり、販促イベントに参加するなどしていたことが認められる(甲14、15、18、証人B)が、これらは、本件ソフト1及び2の発売元を原告とする上記(1)ウの枠組みと整合させるために採られた便宜的な措置にすぎないものと認められ、これらの事実は上記認定を左右するものではない。
(3) なお、被告らは、上記第2の4(1)イ(イ)のとおり、何らかの理由で、本件ソフト1及び2の著作権が被告オークスから原告に譲渡されたとしても翻案権や複製権は被告オークスに留保されているなどとして、仮定的に、本件ソフト1及び2の著作権が被告オークスから原告に譲渡された場合についても主張していることから、念のため付言する。
 本件ソフト1及び2の制作・販売等に係る合意を文書化した本件各委託契約書(甲11、12)には、本件ソフト1及び2の著作権の帰属や譲渡について明示的に規定した条項は見当たらない。
 そもそも、本件ソフト1及び2の制作に当たっては、上記(1)ウのとおり、原告と被告オークスが協議した結果、被告オークスがアダルトゲームソフトを制作し、原告がその発売元となり、ワンピースが原告からそのパソコン用ゲームソフトを一括して仕入れて(又は委託を受けて)販売するという枠組みで事業を展開することが取り決められたものであるところ、そのためには、原告において、本件ソフト1及び2の著作権を被告オークスから譲り受けることは必ずしも必要なことではない(本件ソフト1及び2の利用の許諾を得れば足りる)から、本件各委託契約において、本件ソフト1及び2の著作権の譲渡が含意されているものと解することもできない。
 その他、本件全証拠を検討しても、被告オークスと原告との間において、本件ソフト1及び2に係る被告オークスの著作権が原告に譲渡されたことを認めるに足りないから、被告らの上記仮定的主張について更に検討する必要はない。
2 以上検討したところによれば、原告が本件ソフト1及び2の著作権者であると認めることはできないから、被告らの行為が原告の著作権を侵害したとすることはできない。
第4 結論
 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 岡本岳
 裁判官 鈴木和典
 裁判官 坂本康博


別紙目録
1 パソコン用ソフト
 タイトル「カフェ・リトルウイッシュ」
2 パソコン用ソフト
 タイトル「まじかる・ている」
3 ドリームキャスト用ソフト
 タイトル「カフェ・リトルウイッシュ」
 品番 通常版 SLPM-65295
 初回限定版 SLPM-65294
4 プレイステーション2用ソフト
 タイトル「まじかる・ている」
 品番 通常版 SLPM-65965
 初回限定版 SLPM-65964
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