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【事件名】商標“おおたかの森”侵害事件B(2)
【年月日】平成21年2月24日
 知財高裁 平成20年(行ケ)第10344号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年1月22日)

判決
原告 X
被告 有限会社かごや商店


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が取消2007−300926号事件について平成20年8月12日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が有する後記商標登録について、被告が商標法50条1項に基づき指定商品中「第33類日本酒、洋酒、果実酒」(全指定商品)につき不使用を理由とする取消審判請求をしたところ、特許庁が、原告は上記全指定商品につき上記登録商標を使用しておらずかつ不使用につき「正当な理由」もなかったとして、上記商標登録部分を取り消したので、原告が上記審決の取消しを求めた事案である。
2 争点は、原告が上記取消審判請求の予告登録日たる平成19年8月7日の前3年以内(平成16年8月7日から平成19年8月6日までの間)に日本国内において上記登録商標を使用しなかったことについて「正当な理由」(商標法50条2項ただし書)があるか、である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
ア 原告は、平成15年11月6日、下記商標登録出願(商願2003−102478号)をし、平成16年7月16日、登録第4786694号として設定登録を受けた(以下「本件商標登録」といい、その商標を「本件商標」という。甲15)。
 記
 ・商標(商標イメージ略)
 ・指定商品 第29類  ロースハム、チーズ
   第30類 和菓子、洋菓子、飴菓子
   第32類 ミネラルウォーター、茶を原材料とする清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、飲料野菜ジュース、ビール
   第33類 日本酒、洋酒、果実酒
イ 被告は、平成19年7月20日、本件商標登録の指定商品中「第33類 日本酒、洋酒、果実酒」(全指定商品)について商標法50条1項に基づき不使用を理由とする取消審判請求(以下「本件取消審判請求」という。)をし、平成19年8月7日本件取消審判請求の予告登録がなされた(甲15)。
特許庁は、上記請求を取消2007−300926号事件として審理した上、平成20年8月12日、「登録第4786694号商標の指定商品中、第33類『全指定商品』については、その登録を取り消す。」旨の審決をし、その謄本は平成20年8月25日原告に送達された。
(2) 審決の内容
 審決の内容は、別添審決写しのとおりである。その理由の要点は、原告は本件商標を取消審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において指定商品について使用しないことについて正当な理由があるとは認められない、というものである。
(3) 審決の取消事由
 原告主張の取消事由は、別紙1のとおりであるが、その要旨は、次のとおりである。
(ア) 原告は、商標を活用した環境保全の推進に資するビジネスモデルを企画して本件商標を出願し、登録を得た。首都圏には、「おおたかの森」又は「オオタカの森」にちなむ自然保護団体が、千葉県北西部、埼玉県南西部、栃木県北部にあるところ、原告は、これらの地域の特産物や特色を生かした商品の製造販売と環境保護団体等の環境保全事業への支援を本件商標を介して組み合わせることを意図して、本件商標登録を出願したものである。
(イ) ところが、原告は、本件商標登録後国外に在住している。原告は、ハワイ大学農業資源経済学の博士号プログラムで学位論文に向けた研究に従事していた。原告は、年末年始、春季及び夏季の休業の間などに数日間一時帰国することはあっても、それ以外はハワイ大学で研究に従事し、平成19年5月にハワイ大学から博士号を授与された。原告の研究テーマはハワイ島コナ地域における有機栽培コーヒー農業の経済分析であり、原告は、半年にわたるフィールドワーク・農家調査とデータの収集整理・理論考察・データ解析等を経て、学位論文を執筆した。この論文は、ハワイ大学及びハワイ州の図書館に所蔵されて公になると共に、世界中から大学図書館ネットワークを通じて閲覧が可能である。また、民間のデータベースに登録され、注文に応じて頒布される。この論文は人類共有の知的財産であり、学問、社会へ貢献するものである。これが本件で問題とされる3年間を含む数年の間における成果であり、原告は、この間日本国内において本件商標を使用するに至らなかった。
 原告は、平成19年5月にハワイ大学から博士号を授与された後、夏期もハワイに留まり学位論文の学会誌投稿に向けた編集作業等をし、一時帰国した平成19年8月15日、本件件商標登録の件が読売新聞及び産経新聞に報道された(甲9の1、2)。
 原告は、これを受けて関係者と話合いを持ち、本件商標の使用へ向けた準備を始めた。そして流山市役所を通して、平成19年8月21日付け「商標の登録・出願状況について」と題する書面(甲7)、平成19年8月22日付け「流山市ふるさと産品協会・流山市商工会の皆様へ」と題する書面(甲6)を配布した。原告は、環境保護団体代表者らとも話合いを持つなどした。
 原告は、平成19年秋よりイリノイ大学において、食料・飼料・バイオ燃料の国際需要に関する研究プロジェクトに携わっているが、原告の企画に沿った正規商品を日本市場に投入すべく、関係者と連絡を取るなどしている。
(ウ) 原告の3年間の海外在留の事実、及び公の知的共有財産ともいえる学位論文の研究に専念し成果を出した事実は、本件商標を使用していないことの正当な理由として斟酌すべきである。
 したがって、原告には、本件商標を使用するに至らなかったことについて、商標法50条2項ただし書が規定する「登録商標の使用をしていないことについての正当な理由」がある。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)(2)の各事実は認めるが、(3)は争う。
3 被告の反論
 被告の反論は、別紙2の「審決取消『商標』事件に対する答弁書」と題する書面記載のとおりであるが、その要旨は、次のとおりである。
(1) 被告は、千葉県流山市内において酒小売業を営み、純米吟醸酒等を製造販売している。
(2) 平成17年8月のつくばエクスプレス開業時に、流山市からの要請で、ふるさと産品を作ることとして、被告は「自然が美しい流山おおたかの森」という名称の純米吟醸酒、薬味酒等の製造販売を始めた。これらは「流山市ふるさと産品」として認定された。
(3) 流山市に住んでおらず流山市のため何の力にもなっていない原告が、商標登録を持っていても役には立たない。
(4) 審決の判断は正当であり、原告の主張する学位論文等の事情は、本件とは全く関係がなく、商標法50条2項ただし書にいう「正当な理由」には当たらない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(審決の内容)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 取消事由について
(1) 商標法50条2項ただし書は、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が指定商品に登録商標を使用していないとしても、「登録商標の使用をしていないことについて正当な理由」があることを被請求人(商標権者)が明らかにしたときには、登録商標は取り消されない旨を規定する。
 ここでいう「正当な理由」とは、法的な規制によって商品を製造販売することができなかったとか、天災によって商品を製造販売することができなかったなど、商標権者の責めに帰することができない事情によって審判請求の予告登録前3年以内に登録商標を使用することができなかった場合をいうものと解される。
(2) しかるに、本件における原告の主張は、本件商標登録後は国外であるアメリカ合衆国(ハワイ等)に居住し、ハワイ大学における農業資源経済学の研究で多忙であったから、本件商標を使用することができなかったことにつき正当な理由があったというものであるが、原告提出の証拠(甲1−1、2)及び弁論の全趣旨によっても、毎年、年末年始、春季及び夏季の休業の間は帰国して登録原簿上の住所等に数日間は一時帰国しているのであって、これらを含めた上記事情は、ここでいう「正当な理由」に当たるということはできない。原告は、原告の研究が優れたものであって、学問、社会へ貢献するものであると主張するが、そのような事情は、これを肯認する余地があるとしても、上記「正当な理由」の存在を認める根拠となるものではない。
(3) したがって、本件について「登録商標の使用をしていないことについての正当な理由」は、これを認めることができない。
2 結論
 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がない。
 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 清水知恵子


以下別紙省略
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