判例全文 line
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【事件名】テレビ番組送信サービス事件(ロクラクU)(2)
【年月日】平成21年1月27日
 知財高裁 平成20年(ネ)第10055号 著作権侵害差止等請求控訴事件、平成20年(ネ)第10069号 同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成19年(ワ)第17279号)
 (後記被控訴人フジテレビにつき平成20年12月17日、その余の被控訴人らにつき同年10月27日、各口頭弁論終結)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求及び附帯控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決主文4、5項を次のとおり変更する。
ア 控訴人は、被控訴人NHKに対し、4259万1214円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 控訴人は、被控訴人日本テレビ、同TBS、同フジテレビ、同テレビ朝日及び同テレビ東京に対し、それぞれ279万8357円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 控訴人は、被控訴人静岡第一テレビ、同SBS、同テレビ静岡及び同あさひテレビに対し、それぞれ2038万0500円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。
(3) 仮執行宣言
第2 事案の概要
 被控訴人フジテレビを除くその余の被控訴人9名(以下「被控訴人9名」という。)は、いずれも放送事業者、脱退被控訴人フジテレビは、放送事業者であった者、被控訴人フジテレビは、脱退被控訴人フジテレビが本件附帯控訴を提起した後、同脱退被控訴人の会社分割(新設分割)により設立され、そのグループ経営管理事業を除く一切の事業に関する権利義務を承継した放送事業者である。他方、控訴人は、デジタル情報家電製品の製造、販売等を目的とする株式会社である。
 本件は、被控訴人9名及び脱退被控訴人フジテレビ(以下「脱退前被控訴人10名」という。)が、「ロクラクUビデオデッキレンタル」との名称で行う控訴人の事業は、ハードディスク・レコーダー「ロクラクU」(以下「ロクラクU」という。)2台1組のうち、日本国内に設置した1台でテレビ放送に係る放送波を受信・録画し、利用者に貸与又は譲渡した他の1台で当該利用者に日本国内で放送されるテレビ番組の視聴を可能にするサービス(原判決別紙サービス目録記載のサービス。以下「本件対象サービス」という。)であって、控訴人の同事業に係る行為は、被控訴人日本テレビ、同TBS、同テレビ朝日、同テレビ東京及び脱退被控訴人フジテレビ(以下「脱退前被控訴人東京局5社」という。)並びに被控訴人NHKがそれぞれ著作権を有し、又は有していた原判決別紙著作物目録記載の各テレビ番組(以下「本件番組」という。)を、脱退前被控訴人10名がそれぞれ著作隣接権を有し、又は有していた原判決別紙放送目録(ただし、同目録の5の「原告フジテレビ」を「脱退被控訴人フジテレビ」と改める。)記載の各テレビ放送(以下「本件放送」という。)に係る音又は影像をそれぞれ複製する行為に該当するから、被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社の本件番組についての複製権並びに脱退前被控訴人10名の本件放送に係る音又は影像についての複製権をそれぞれ侵害するものであり、これらにより、脱退前被控訴人10名がそれぞれ損害を被った旨主張し、控訴人に対し、@被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社が、本件対象サービスにおいて本件番組(著作物)を複製の対象とすることの差止めを、A脱退前被控訴人10名が、本件対象サービスにおいて本件放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止め及び本件対象サービスに供されているロクラクUの親機の廃棄をそれぞれ求め、B脱退前被控訴人10名が、それぞれ附帯控訴の趣旨(上記第1の2(1))記載の各金員(損害賠償金及びこれに対する遅延損害金)の支払を求める事案である。
 本件の争点は、(1)控訴人による複製行為の有無、(2)損害額、(3)権利濫用の成否である。
 原判決は、争点(1)について、本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行う者は、控訴人であるものと認め、争点(2)について、控訴人の複製行為により脱退前被控訴人10名が被った損害額をそれぞれ主張額の一部(原判決別紙支払目録(ただし、同目録の原告欄の「原告株式会社フジテレビジョン」を「脱退被控訴人フジテレビ」と改める。)参照)と認め、争点(3)について、脱退前被控訴人10名の請求は権利の濫用に当たらないと判断し、結局、@被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社の差止請求並びにA脱退前被控訴人10名の差止請求及び廃棄請求をいずれも理由があるものとして認容するとともにB脱退前被控訴人10名の損害賠償請求の各一部を理由があるものとしてその限度で認容し、その余は理由がないものとして棄却した。
 そこで、控訴人は、原判決中、脱退前被控訴人10名に係る上記認容部分を不服として本件控訴に及び、脱退前被控訴人10名は、原判決中の上記棄却部分を不服として本件各附帯控訴に及んだ。
 当裁判所は、争点(1)について、控訴人が本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているものと認めることはできない、すなわち、控訴人の本件サービスは、利用者の自由な意思に基づいて行われる私的使用のための複製を容易にするための環境、条件等の提供行為にすぎないものと判断し、したがって、その余の各争点について判断するまでもなく、被控訴人らの請求は全部理由がないから、原判決中、控訴人敗訴部分を取り消した上、当該取消しに係る被控訴人らの請求及び附帯控訴をいずれも棄却するものである。
 その理由は以下のとおりである。
1 前提となる事実等
 本件における前提となる事実等は、次のとおり削除訂正するほかは、原判決の「第2 事案の概要」の「1 前提となる事実等」に摘示のとおり(ただし、各「原告フジテレビ」をいずれも「脱退被控訴人フジテレビ」と改める。)であるから、これを、ここに引用する。
・原判決3頁22行目を次のとおり改める。
 「被控訴人9名は、いずれも放送事業者、脱退被控訴人フジテレビは、放送事業者であった者、被控訴人フジテレビは、同脱退被控訴人の平成20年10月1日会社分割(新設分割)により設立され、そのグループ経営管理事業を除く一切の事業に関する権利義務を承継した放送事業者である(弁論の全趣旨)。」
・原判決3頁26行目から4頁2行目までを次のとおり改める。
 「(2) 被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社の著作権被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社は、平成16年1月1日前から、以下のとおり、対応するテレビ番組についての著作権を有し、又は有していた(甲19の1〜19の6)。」
・原判決4頁11行目から13行目までを次のとおり改める。
 「(3) 脱退前被控訴人10名の著作隣接権
 脱退前被控訴人10名は、平成16年1月1日前から、以下のとおり、対応するテレビ放送についての著作隣接権を有し、又は有していた(弁論の全趣旨)。」
・原判決5頁10行目から12行目までを削り、20行目から6頁8行目までを次のとおり改める。
 「脱退前被控訴人10名は、平成18年5月17日、控訴人が、本件サービスにおいて、被控訴人NHK、同TBS、同テレビ朝日、同テレビ東京及び脱退被控訴人フジテレビが著作権を有するテレビ番組(本件番組から本件番組3を除いたもの)の複製を、被控訴人静岡第一テレビ、同SBS、同テレビ静岡及び同あさひテレビ(以下「被控訴人静岡局4社」という。)並びに同NHKが著作隣接権を有するテレビ放送(本件放送から本件放送3ないし7を除いたもの)に係る音又は影像の複製をそれぞれ行っていると主張し、控訴人を債務者として、著作権及び著作隣接権に基づく侵害差止請求仮処分命令の申立てをした。
 東京地方裁判所は、平成19年3月30日、控訴人は本件対象サービスを提供し上記テレビ番組やテレビ放送に係る音又は影像の複製行為を行っているというべきであり、被控訴人NHK、同TBS、同テレビ朝日、同テレビ東京及び脱退被控訴人フジテレビの上記テレビ番組についての著作権並びに被控訴人NHK及び同静岡局4社の上記テレビ放送についての著作隣接権を侵害すると判断し、本件対象サービスにおいて上記テレビ番組や上記テレビ放送に係る音又は影像の複製行為を対象とすることの差止めを命ずる決定(甲25、弁論の全趣旨。以下「先行仮処分決定」という。)をした。」
・原判決6頁9行目の「原告ら」を「脱退前被控訴人10名」と改める。
2 争点
 本件の争点は、原判決6頁18行目の「原告らの」を「脱退前被控訴人10名に生じた」と改めるほかは、原判決の「第2 事案の概要」の「2 争点」に摘示のとおりであるから、これを、ここに引用する。
3 原審における当事者の主張
 原審における当事者の主張は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の「第2 事案の概要」の「3 争点についての当事者の主張」に摘示のとおり(ただし、各「原告フジテレビ」(原判決37頁11行目から12行目にかけてを除く。)をいずれも「脱退被控訴人フジテレビ」と、各「東京局各社」(原判決16頁9行目及び41頁10行目を除く。)をいずれも「脱退前被控訴人東京局5社」と、各「静岡局各社」(原判決40頁17行目を除く。)をいずれも「被控訴人静岡局4社」とそれぞれ改める。)であるから、これを、ここに引用する。
(1) 原判決11頁7行目の「原告ら」から末尾までを「脱退前被控訴人10名が放送事業者として著作隣接権を有し、又は有していたものである。」と、9行目の「有するもの」を「有し、又は有していたもの」とそれぞれ改める。
(2) 原判決16頁9行目の「原告NHK及び東京局各社」を「被控訴人NHK、脱退前被控訴人東京局5社及び被控訴人フジテレビ」と改め、10行目の「原告ら」の次に「及び脱退被控訴人フジテレビ」を加える。
(3) 原判決21頁20行目の「原告」を「被控訴人ら」と改める。
(4) 原判決25頁21行目から22行目にかけての「、上記(原告の主張)ウ(イ)の原告主張」を「被控訴人らの主張ウ(イ)」と改める。
(5) 原判決33頁23行目の次に行を改めて次のとおり加える。
 「さらに、直接的な利用行為が著作権又は著作隣接権を侵害しない場合に、「カラオケ法理」を適用して間接的な行為者を行為主体とみなすことにより、著作権又は著作隣接権の侵害を肯定することは、立法によらずに権利範囲を拡張するに等しく、これは、著作権法が21条以下において支分権につき規定するとともに、113条において侵害とみなす行為につき明確に規定することにより法的安定性を図った趣旨や、30条以下において権利の制限規定を設けて著作権又は著作隣接権が過剰な権利とならないよう配慮した趣旨を没却することになる。」
(6) 原判決37頁3行目の「原告らの」を「脱退前被控訴人10名に生じた」と、8行目から20行目までを次のとおりそれぞれ改める。
 「(a) 本件サービスは、脱退前被控訴人10名が行い、又は行っていた事業活動と競合するところがあり、本件サービスにより、脱退前被控訴人10名に損害が発生した。
(b) 脱退前被控訴人10名を含むテレビ番組の著作権者及び著作隣接権者等合計15団体(被控訴人NHK、脱退前被控訴人東京局5社、日本民間放送連盟(被控訴人NHKを除く被控訴人らが会員となっており、脱退被控訴人フジテレビも会員であった。)、日本映画製作者連盟、全日本テレビ番組製作社連盟、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、日本文藝家協会、日本音楽著作権協会、日本芸能実演家団体協議会及び日本レコード協会)は、共同して、放送番組著作権保護協議会(以下「放番協」という。)を設立し、放番協を通じて、在外邦人のために、脱退前被控訴人10名が日本国内で放送し、又は放送したテレビ番組を、無償ではなく低廉な使用料で視聴させる仕組み(以下「放番協認定ビデオ供給事業」という。)を構築している。」
(7) 原判決38頁1行目から2行目にかけての「原告らに分配されている」を「脱退前被控訴人10名に分配され、又は分配されていた」と、3行目及び5行目の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と、6行目の「得ている」を「得、又は得ていた」と、11行目の「原告ら」を「被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社」と、13行目の「配信している」を「配信し、又は配信していた」とそれぞれ改める。
(8) 原判決39頁8行目の「原告らの損害額」を「脱退前被控訴人10名に生じた損害の額」と、22行目の「現在」を「少なくとも平成19年6月末日」と、23行目から24行目にかけての「対象とされている」を「対象とされていた」とそれぞれ改める。
(9) 原判決40頁15行目の「原告ら」を「脱退前被控訴人10名」と、16行目の「原告ら」から18行目末尾までを「被控訴人NHK及び同静岡局4社の受けるべき金銭の額」と、23行目の「原告ら」を「被控訴人NHK及び同静岡局4社」とそれぞれ改める。
(10) 原判決41頁9行目の「原告ら」から11行目末尾までを「被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社の受けるべき金銭の額」と、12行目及び19行目の各「原告ら」をいずれも「被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社」と、20行目の「記載」から「本件放送」までを「記載のとおりの本件放送」とそれぞれ改める。
(11) 原判決42頁3行目及び4行目の各「原告らの」をいずれも「脱退前被控訴人10名に生じた」と、20行目及び23行目の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と、25行目の「各原告」を「各自」とそれぞれ改める。
(12) 原判決43頁3行目及び16行目の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と改める。
(13) 原判決44頁16行目、20行目、24行目及び26行目の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と、17行目の「利用している」を「利用し、又は利用していた」と、21行目の「営んでいない」を「営んでおらず、又は営んでいなかった」と、24行目の「実施している」を「実施し、又は実施していた」とそれぞれ改める。
(14) 原判決45頁4行目から5行目にかけて、14行目及び15行目の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と、18行目、20行目及び26行目の各「原告ら」をいずれも「被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社」と、19行目の「得ている」を「得、又は得ていた」と、21行目の「行っている」を「行い、又は行っていた」とそれぞれ改める。
(15) 原判決46頁1行目、2行目及び21行目の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と改める。
(16) 原判決47頁3行目、21行目及び26行目の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と、10行目の「原告ら」を「被控訴人NHK及び脱退前被控訴人東京局5社」とそれぞれ改める。
(17) 原判決48頁11行目、12行目及び13行目(2箇所)の各「原告ら」をいずれも「脱退前被控訴人10名」と、11行目の「行っていない」を「行っておらず、又は行っていなかった」とそれぞれ改める。
4 当審における当事者の主張
(1) 争点1(本件サービスにおいて、控訴人は、本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているか)について
 争点1については、当審における当事者の主張内容にかんがみ、控訴人の主張(反論)を先に摘示することとする。
(控訴人の主張)
ア 事業自体の適法性と差止めの範囲の特定について
(ア) 控訴人が製造・販売しているロクラクUは、テレビ番組の録画再生を中心的な機能とするデジタル家電機器であって、その録画機能は、他社の製造・販売に係るDVDレコーダーやHDDレコーダーなどと同様である。
 控訴人は、ロクラクUのこの録画機能に通信機能を付加した親機ロクラク及び子機ロクラクを組み合わせて販売することにより(以下、組み合わせて使用される親機ロクラク及び子機ロクラクを併せて「親子ロクラク」ということがある。)、利用者が親子ロクラクを互いに離れた場所にそれぞれ設置し、インターネット通信を利用して子機ロクラクから親機ロクラクを操作し、親機ロクラクで録画したテレビ番組を子機ロクラクに移動させて再生することを可能にしたものである。このような親子ロクラクを使用した録画行為は、機器そのものの利用にほかならず、何ら著作権法に違反するものではないところ、本件サービスにおいて用いられる機器の仕様及び利用内容は、販売されている機器のそれらと何ら異なるものではない。
 したがって、親子ロクラクをレンタルする事業にすぎない本件サービスは、何ら違法なものではない。
 原判決も、親機ロクラクの管理・支配の問題を措けば、本件サービスが適法な事業であるとの前提に立っていると解されるところである。
(イ) しかしながら、原判決は、控訴人が親機ロクラクを管理・支配している場合についてのみ、本件サービスを違法と判断しているにもかかわらず、脱退前被控訴人10名の差止請求を認容するに当たり、判決主文上、適法な本件サービスが含まれるような抽象的かつ不明確な記載(原判決別紙サービス目録の記載)をしており、差止めの範囲の特定において極めて不適切である。
(ウ) 被控訴人らは、控訴人のホームページの記載や、控訴人によるソフトウェアの開発等を根拠に、「親子ロクラクを通常の市販家電機器と認めることはできない」と主張する。
 しかしながら、控訴人のホームページ上、親子ロクラクの購入に係る情報を得ることは極めて容易であるし、また、およそあらゆる市販のデジタル家電製品は、メーカーにおいて、その機能を実現するためのソフトウェアを開発して組み込んだものであり、メーカーが管理するサーバへのアクセスによって、当該機能が実現されたり、ソフトウェアの更新がされたりするのは通常のことであるから、被控訴人らの上記主張は理由がない。なお、「控訴人のホームページに存在する一般利用者への販売に係る記載は、偽装の疑いが濃い」との被控訴人らの主張は、何の根拠もないものである。
イ 複製行為の主体を判断する基準について
(ア) 原判決は、本件サービスにおける複製行為の主体についての判断に当たり、原判決第3の1(2)イ(ア)ないし(カ)の6要素を検討し、これらを総合考慮するとの手法を用いた。
(イ) しかしながら、以下のとおり、原判決が上記(アの手法を用いたのは、極めて不合理である。
a 本件サービスは、親子ロクラクをレンタルし、又は販売するという適法な事業であって、利用者以外の者の複製行為が予定されているものではないから、上記6要素を検討して複製行為の主体を認定するのは無意味なことである。
b また、本件サービスにおいて、子機ロクラクを自由に操作し、好みのテレビ番組につきタイムシフト視聴を実現しているのは、利用者のみであり、子機ロクラクを操作するかしないかは、すべて利用者の意思に委ねられているのであるから、カラオケ法理を無制限に拡張して、控訴人が主体的に録画・視聴に関与しているとの評価を行うことは、擬制に過ぎ、不当である。
c さらに、上記6要素は、@なぜ行為主体性を肯定する評価的な判断要素となり得るのか、Aどのような内容であれば行為主体性を肯定する評価に結び付くのか、B評価的判断において、諸要素にどのような軽重があるのか、などの具体的な内容が不明確であるため、恣意的な判断の余地が大きく、本来自由であるべき行為を規制する法理としては、明らかに不適切である。そして、産業技術・付帯サービスの発展や、インターネット通信を基盤とした情報通信のグローバル化により、タイムシフト視聴を実現するための私的録音・録画に係る様々な形態の技術・サービスが生まれてくることは必然であるところ、上記のとおりの不明確かつ恣意的な判断基準により、そのような技術・サービスの進化を止めることは許されれるべきではない。
d 加えて、クラブキャッツアイ事件最高裁判決の際には、カラオケスナックに行為主体性を認めるとの結論にほぼ異論がなかったところ、本件サービスについては、放送事業者の著作権法上保護されるべき利益が害されることはなく、規範的・拡張的判断により、控訴人に行為主体性を認めるべき要請は皆無であるし、最先端のデジタル家電機器を開発・活用して、産業技術の発展にも寄与している控訴人の本件サービスを制限ないし禁止すべきであるとの社会的なコンセンサスもない。
(ウ) 被控訴人らは、「客が機器の操作を行い、機器の機能によって著作物等の複製行為等が実現される場面においては、客の『歌唱』に相当するような著作物等の物理的・肉体的な直接利用行為が存在しない」と主張するが、複製行為主体性について判断する上で最も重要な点は、誰が意思決定を行ったかという点と、誰が結果に直接的な原因を与えたかという点にあり、被控訴人らが主張するような場面であっても、自己の意思決定に基づく行為により複製等を実現した者が直接利用行為者であることは明らかである。
 また、被控訴人らは、本件サービスについて、「利用者の録画予約によって複製が行われるのではな(い)」と主張するが、利用者が子機ロクラクを操作しなければ、放送に係る音又は影像が複製されることはないのであるから、利用者の行為により放送に係る音又は影像が複製されていることは明白である。
 なお、カラオケボックスにおける顧客の「選択」が、限定された楽曲(カラオケ店が用意した楽曲)を対象とするのに対し、ロクラクUの利用者による放送番組の「選択」は、控訴人によって限定されるものではないし、カラオケボックスにおける顧客の「操作」が、場所的にも時間的にも、カラオケ店によって限定されているのに対し、ロクラクUの利用者による子機ロクラクの「操作」には、時間的・場所的な限定がないから、カラオケボックスにおける顧客の行為と、本件サービスにおける利用者の行為とは、行為の主体性において異なるものである。
ウ 本件サービスの目的について
(ア) 原判決は、本件サービスの目的が控訴人の複製行為主体性を肯定する重要な要素であるとしているが、事業者が公衆のために著作物等の複製行為を代行するような場合(複製行為自体をも事業の目的としている場合)を除き、事業の目的は、複製行為主体性を肯定する上で重要な意味を持たないというべきである。また、本件サービスの目的をみても、それは、機器の販売ないしレンタルであって、具体的な複製行為と密接な関係にはない。
(イ) 原判決は、「本件サービスは、・・・日本国外にいる利用者が、日本のテレビ番組を視聴することができるように、当該利用者に、日本のテレビ番組の複製物を取得させることを目的として構築されたものである」と認定した(原判決第3の1(2)イ(ア))。
 しかしながら、上記認定は、親子ロクラクが備えている録画機能・通信機能の利用(そのこと自体は、違法でない。)の内容そのものを認定したにすぎないのであって、特段の意味を持たないものであるから、上記認定に係る事実は、控訴人の複製行為主体性を肯定する要素とはなり得ない。
 また、上記認定は、本件サービスの目的と、利用者による機器の利用目的とを混同したものであるといわざるを得ない。
エ 親機ロクラクの設置場所及びその状況について
 原判決は、親機ロクラクの設置場所及びその状況が控訴人の複製行為主体性を肯定する重要な要素であるとしているが、仮に、親機ロクラクの設置場所を控訴人が管理していたとしても、それは、利用行為の手段となる機器の設置場所を管理しているということにすぎず、子機ロクラクを操作する利用者の一時的な複製行為を管理・支配するものではない(直接行為者に対して人的な管理・支配を及ぼすものではない。)。したがって、本件においては、親機ロクラクの設置場所及びその状況は、控訴人の複製行為主体性を肯定する重要な要素たり得ないというべきである。
オ 親機ロクラクの設置管理方法に関する選択の仕組みについて
(ア) 原判決は、親機ロクラクの設置管理方法に関する選択の仕組みが控訴人の複製行為主体性を肯定する重要な要素であるとしているが、上記エのとおり、本件においては、親機ロクラクの設置場所及びその状況自体が、控訴人の複製行為主体性を肯定する重要な要素たり得ないのであるから、親機ロクラクの設置管理方法に関する選択の仕組みについても同様である。
(イ) なお、原判決は、「被告自身も、・・・親機ロクラク設置場所の賃貸物件の斡旋を行う取扱業者の広告を、被告サイト内においていたのであり、親機ロクラクの設置場所を日本国内の自宅とするより管理者のいるアパート(設置場所)とすることを推奨していたものといえる」と認定した(原判決第3の1(2)イ(ウ))が、取扱業者の広告は、当該取扱業者において独自に行っていたものであり、控訴人は、当該広告の内容を理解してしていたわけではないから、上記認定は不当である。
カ 利用者の録画可能なテレビ番組について
 原判決は、「現在の本件サービスにおいて、親機の設置場所は、東京周辺地区、名古屋周辺地区、静岡西部地区に限定されているが、これは、利用者が親機ロクラクを地域による周波数の相違に対応させる作業を行わなくとも、設置場所の地上波アナログ放送を受信できるように、被告によってあらかじめ親機ロクラクが調整されており、その場所が上記3地区に限定されているからであると推認される」(原判決第3の1(2)イ(エ))とした上、当該事実を控訴人の複製行為主体性を肯定する要素としている。
 しかしながら、親子ロクラクにおいては、その初期設定のファームウェアが、東京周辺地区、名古屋周辺地区、静岡西部地区及び大阪周辺地区の番組表の取得に対応しているところ、これは、販売用のものとレンタル用のものとで全く違いはないのであるから、「利用者の録画可能なテレビ番組」との要素は、機器の性質に由来するものであって、本件サービスに特別なものではなく、控訴人による複製行為の管理・支配に関連するものでもない。
 また、上記4地区以外の地区において、録画の可能な番組が限定されているわけではない(番組表を取得することができない地区においては、時刻とチャンネルを指定することにより、録画が可能である。)。
 以上からすると、「利用者の録画可能なテレビ番組」との要素は、控訴人の複製行為主体性を肯定する要素たり得ないものである。
キ 送受信の仕組みについて
 原判決は、親機ロクラクと子機ロクラクとの間のメール通信について、利用者が別途メール機能を利用するための手続を取る必要がないことを挙げ、これを、控訴人の複製行為主体性を肯定する要素としている。
 しかしながら、ロクラクUの初期設定自体において、利用者にメールアドレスが付与され、メール通信の際に控訴人のメールサーバを利用することができるなどとされており、これは、通信機能を有するロクラクUが持つ機能そのものであるから、「利用者が別途メール機能を利用するための手続をとる必要がないこと」も、ロクラクUの利用方法自体の特徴であるにすぎない。そして、この特徴は、販売用のものとレンタル用のものとで全く違いはない。
 また、メール通信において、個々の通信を管理・支配しているのが、プロバイダ業者等ではなく、通信者であることは明らかである。
 以上からすると、本件サービスにおける送受信の仕組みは、控訴人の複製行為主体性を肯定する要素たり得ないものである。
ク 利益の帰属について
 原判決は、控訴人が本件サービスの対価として取得している初期登録料及びレンタル料につき、「被告は、・・・本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を管理支配していると認めることができるとともに、それによる利益を得ているものと認められる(・・・上記登録料等は、名目のいかんにかかわらず、被告が本件対象サービスを提供することによって得る経済的対価であるから、被告は、利益を得ているというべきであ(る))」と判断(原判決第3の1(2)イ(キ))し、控訴人が初期登録料及びレンタル料を取得していることを、控訴人の複製行為主体性を肯定する要素としている。
 しかしながら、初期登録料及びレンタル料は、親機ロクラクを管理・支配することの対価ではないから、控訴人による初期登録料及びレンタル料の取得を控訴人の複製行為主体性を肯定する要素とすることはできない。
ケ 利用者の複製行為との関係について
(ア) 原判決は、「被告は、・・・本件対象サービスにおいて、自らが本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているのであり、このことと、本件サービスの利用者によるテレビ番組の録画が、私的使用目的で行われるか否か、あるいは、利用者の指示に基づいて複製されるテレビ番組が選択されるか否かとは、直接関連するものではない」と判断した(原判決第3の1(2)ウ)。
(イ) しかしながら、利用者は、控訴人が介入する余地のない自らの選択により、特定の番組の入力(包括的な放送波の入力ではない。)から一時的複製を経て視聴に至るまでの操作を一貫して行っているのであり、利用者による当該複製行為を除き、ロクラクUによる複製行為は存在しない。このように、ロクラクUによる複製行為と、利用者が子機ロクラクを操作して行うテレビ番組の選択等との間には、直接的な関係が存在するのであり、本件サービスにおいては、利用者自身の完全なイニシアティヴに基づく私的使用目的の複製行為が行われるのみであるから、原判決の上記判断は、法的安定性の見地から、およそ許されない拡張解釈であるといわざるを得ない。
(ウ) また、原判決の上記判断は、以下のとおり、他の裁判例と比較しても相当でない(以下の裁判例に照らせば、控訴人の複製行為主体性を肯定するためには、個々の利用者の行為につき、私的使用目的の複製としての適法性が否定されなければならないはずであるが、本件サービスにおいて、個々の利用者の行為が私的使用目的の複製として適法なものであることは明白である。)。
a ファイルローグ事件中間判決は、利用者の行為が複製権等を侵害するものであることを積極的に認定した上で、物理的な行為を行っているわけではないサービス提供者の行為について、カラオケ法理による考察を加えているのであって、同判決は、利用者の行為が不適法である場合に限定してカラオケ法理を適用したものである。
b 録画ネット事件の原決定(東京地決平成16年10月7日)は、適法行為の幇助的行為が原則として適法であることを明示した上、録画代行サービスのように第三者の幇助的行為が例外的に違法となる要件について考察しており、直接利用者の行為の適否と幇助的行為の適否とが密接な関係にあることを示している(同原決定は、録画ネット事件抗告審決定により維持されている。)。
c 大阪高判平成19年6月14日は、集合住宅用のテレビ録画装置である「選撮見録(よりどりみどり)」において、録画予約者の数とは無関係に録画ファイルが1個だけ作成される点に着目し、最初の録画予約者Aは他人であるB、C等が使用することを前提に録画予約をし、その後の録画予約者B、C等は他人であるAが既に録画したものを使用するという点で、著作権法30条1項の要件に反する、すなわち、複製行為自体が違法であるとした上、1週間5局分の番組すべてを1つのファイルに録画する「全局予約モード」に限定して著作隣接権侵害が成立すると判断したものであり、同判決においては、利用者の行為が違法であることが「全局予約モード」の構造・機能との関係で具体的に判断され、利用者の行為の適否の判断がカラオケ法理の適用の前提とされている(なお、控訴人が提供する本件サービスは、親機ロクラクと子機ロクラクとが1対1の対応関係を持つ点に特徴があり、「選撮見録」の上記構造・機能をまったく採用していない。)。
(被控訴人らの主張)
ア 控訴人の主張ア(事業自体の適法性と差止めの範囲の特定)について
(ア) 控訴人は、本件サービスが適法な事業であることの根拠として、本件サービスにおいて用いられる機器の仕様及び利用内容が販売されている機器のそれらと何ら異なるものではないと主張する。
 しかしながら、以下のとおり、親子ロクラクを通常の市販家電機器と認めることはできないから、控訴人の上記主張は理由がない。
a 本件サービスに用いられる親子ロクラクは、控訴人のホームページのラインナップに掲げられていない。
b 控訴人のホームページに記載されている親子ロクラクの購入までのプロセスやその価格等に照らし、代理店等ではない通常の一般利用者が親子ロクラクを購入することは考え難い。なお、控訴人のホームページに存在する一般利用者への販売に係る記載は、偽装の疑いが濃いものである。
c 本件サービスに用いられる親子ロクラクは、親子機能を実現するための特別のソフトウェアであるファームウェアを控訴人自身が開発して組み込み、かつ、控訴人が用意し、又は契約して管理するサーバを経由してのみ、録画予約や録画した映像データの送出が可能なように設定されており、通常の家電機器とはおよそ異なる方法による管理がされている。
(イ) 控訴人は、原判決が認容した差止めの範囲が判決主文上不明確である旨主張するが、原判決の主文に不明確な点は何ら存在しないから、控訴人の主張は失当である。
イ 控訴人の主張イ(複製行為の主体を判断する基準)について
 控訴人は、複製行為の主体についての原判決の判断手法が不合理である旨主張するが、以下のとおり、原判決の判断手法は正当なものであるから、控訴人の主張は理由がない。
(ア) 原判決の判断手法は、著作権又は著作隣接権を侵害する者として責任を負う主体が、単に物理的外形的な観点のみから判断されるべきではなく、法律的な観点から種々の事情を踏まえて判断されるべきであるとするクラブキャッツアイ事件最高裁判決に沿ったものであり、正当である。
(イ 控訴人は、原判決が用いた判断手法が不明確であり、恣意的な判断の余地が大きいなどと主張する。
 しかしながら、客が機器の操作を行い、機器の機能によって著作物等の複製行為等が実現される場面においては、客の「歌唱」に相当するような著作物等の物理的・肉体的な直接利用行為が存在しないことから、事案ごとに、提供されるサービスの性質に基づき、行為の支配管理性、利益の帰属等の諸点を総合的に考慮して、行為主体が誰であるかを判断せざるを得ない。
 これを本件サービスについてみるに、本件サービスにおいては、利用者の録画予約によって複製が行われるのではなく、控訴人側において設置・管理するアンテナにより受信された放送が、控訴人側において設置・管理する分配機によって多数に分割され、控訴人側において所有・設置・管理する親機ロクラク(複製機器)に伝達され、親機ロクラクの機能によって複製が行われるのであるから、利用者の録画予約を「歌唱」に相当するような著作物等の直接利用行為とみることはできない。したがって、本件サービスにおける複製行為の主体については、親機ロクラクの複製機能を使用・管理して著作物等の経済的価値を利用している主体は誰かという観点から、本件サービスの性質に基づき、諸般の事情を総合的に考慮して、規範的・法律的に判断せざるを得ないところ、これは、通常の法的思考であって、擬制ではない(少なくとも、行きすぎた擬制ではない。)。
ウ 控訴人の主張ウ(本件サービスの目的)について
 控訴人のホームページの記載や上記ア(ア)の事実(親子ロクラクが通常の市販家電機器と大きく異なるものであること)に加え、控訴人が親機ロクラクの設置場所の確保等に関与していることからすると、本件サービスが、単なる機器のレンタル事業ではなく、海外に居住する顧客を対象に、日本の放送番組をその複製物によって視聴させることのみを目的としたものであることは明らかである。
エ 控訴人の主張エ(親機ロクラクの設置場所及びその状況)について
 控訴人の主張エは争う。
オ 控訴人の主張オ(親機ロクラクの設置管理方法に関する選択の仕組み)について
 控訴人は、取扱業者の広告につき、当該取扱業者において独自に行い、控訴人は当該広告の内容を理解していなかった旨主張するが、当該広告は、控訴人の代理店の広告であること、本件サービスは、控訴人の事業(本件モニタ事業)として始まったものであること、当該広告は、控訴人のウェブサイト内にあること、当該広告においては、控訴人を示す表示として用いられていた「NYX」との標章が広告主を表示するものとして同様の字体で用いられ、また、控訴人のウェブサイトにおいて用いられている説明図面がそのまま利用されていること、本件における控訴人の主張態度等に照らし、上記主張事実は、到底真実とは考えられないし、仮に、当該広告が、取扱業者において独自に行ったものであったとしても、控訴人のウェブサイト内で行われていたものであるから、いずれにせよ、控訴人の上記主張は、失当である。
カ 控訴人の主張カ(利用者の録画可能なテレビ番組)について
 控訴人は、「親子ロクラクにおいては、その初期設定のファームウェアが、東京周辺地区、名古屋周辺地区、静岡西部地区及び大阪周辺地区の番組表の取得に対応しているところ、これは、販売用のものとレンタル用のものとで全く違いはないのであるから、『利用者の録画可能なテレビ番組』との要素は、機器の性質に由来するものであって、本件サービスに特別なものではなく、控訴人による複製行為の管理・支配に関連するものでもない。また、上記4地区以外の地区において、録画の可能な番組が限定されているわけではない」と主張する。
 しかしながら、控訴人の上記主張は、その内容に照らしても、本件における控訴人の応訴態度に照らしても、容易に措信し難いものである。
 また、仮に、販売用の機器につき、その初期設定において、上記4地区における利用にのみ対応させているとしても、控訴人が先行仮処分決定後に提供している番組表において、録画可能なコンテンツが控訴人により決定されている事実や、控訴人が、親機ロクラクを静岡県内から東京都内に移動した際に、受信チャンネルの変更に伴うファームウェアの変更を行った旨主張していることからすると、「利用者の録画可能なテレビ番組」の決定・変更を控訴人が行っていることは明らかである。
キ 控訴人の主張キ(送受信の仕組み)について
 控訴人は、本件サービスにおける送受信の仕組みは、控訴人の複製行為主体性を肯定する要素たり得ないと主張する。
 しかしながら、メールアドレスやメールサーバの利用が広く行われるようになってきたからといって、そのようなメールアドレスやメールサーバを利用して本件サービスにおける送受信の仕組みを控訴人が設定していることが、複製行為の主体を認定するに当たり総合的に考慮されるべき事情たり得なくなるものではないから、原判決の判断に誤りはなく、控訴人の上記主張は失当である。
ク 控訴人主張ク(利益の帰属)について
 控訴人は、「初期登録料及びレンタル料は、親機ロクラクを管理・支配することの対価ではないから、控訴人による初期登録料及びレンタル料の取得を控訴人の複製行為主体性を肯定する要素とすることはできない」と主張する。
 しかしながら、控訴人は、本件サービスを提供し、本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を管理しているのであり、そのような状況下で得ている上記初期登録料等は、控訴人が本件サービスを提供することによって得る経済的対価であり、控訴人は利益を得ているものであるから、控訴人の上記主張は理由がない。
(2) 争点2(脱退前被控訴人10名に生じた損害の有無及びその金額)について
(被控訴人らの主張)
ア 著作権法114条2項の規定に基づく主張について
(ア) 原判決は、「本件対象サービスの利用者が何人存在するのか、その中に、子機ロクラクを購入し、親機ロクラクのみをレンタルする本件Bサービスの利用者がどの程度含まれるのか・・・、親機ロクラクの管理についての対価はいくらか、本件対象サービスにおける被告の利益率がどの程度かの諸点については、原告の・・・主張を裏付ける証拠はなく・・・、被告が本件サービスによって受けている利益の金額を算定することができない。そうすると、・・・著作権法114条2項を適用して損害を算定することはできない」と判断した(原判決第3の2(2)ア)。
(イ) しかしながら、被控訴人ら主張の金額(控訴人の利益の額)は、以下のとおり、証拠及び弁論の全趣旨により十分に推認することができる控え目なものにすぎないから、本件において、著作権法114条2項の規定を適用して損害額を算定することに何らの支障もない。
a 控訴人が平成19年10月1日の時点において少なくとも700台を超えるロクラクUを本件サービスのために保有していたことは、控訴人自身が認めるところである(乙25の陳述書)から、控訴人が本件モニタ事業を開始した平成16年1月から現在に至るまで、本件サービスの利用者数は、平均して500名を下回ることはないものと推認される。
b 本件サービスにおいては、親機ロクラクと子機ロクラクとがセットになって機能するのであるから、あえて子機ロクラクを購入し、親機ロクラクのみのレンタルを受けることは通常考えられず、親機ロクラクのみのレンタルを受けている者は、ほとんどいないものと推認される。
c 親機ロクラクの管理の対価については、原審において主張したとおりである。
d 控訴人は、本件サービスにおける経費等につき一切主張立証しないのであり、控訴人の利益率は、90%を下回ることはないものと推認される。
イ 著作権法114条3項の規定に基づく主張について
 上記アと同様、被控訴人ら主張の金額(脱退前被控訴人10名の受けるべき金銭の額)は、証拠及び弁論の全趣旨により十分に推認することができる控え目なものであるから、本件において、著作権法114条3項の規定を適用して損害額を算定することに何らの支障もない。
ウ 著作権法114条の5の規定に基づく主張について
(ア) 仮に、著作権法114条の5の規定を適用して損害額の算定をするとしても、原判決認定の事実に照らせば、原判決が認定した金額(とりわけ、本件番組1ないし7に係る1万円ないし8万円)は低きに失する。
(イ) 控訴人の後記主張ウは否認する。
 本件番組に係る著作権及び本件放送に係る著作隣接権が現に経済的価値を有する権利であることは明白であり、控訴人の侵害行為により、脱退前被控訴人10名に損害が生じていることは明らかである。
エ 弁護士費用について
 日本弁護士連合会の報酬基準等、本件の経過、本件の専門性や難易等の事情に照らせば、控訴人の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、各125万円を下らない。
 なお、本件においては、本件サービスの差止め等が求められているのであるから、弁護士費用の算定に当たり、損害賠償請求における認容額を基準とするのは相当でない。
(控訴人の主張)
ア 被控訴人らの主張ア(著作権法114条2項の規定に基づく主張)について被控訴人らの主張アは否認する。
イ 被控訴人らの主張イ(著作権法114条3項の規定に基づく主張)について被控訴人らの主張イは否認する。
ウ 被控訴人らの主張ウ(著作権法114条の5の規定に基づく主張)について
(ア) 被控訴人らの主張ウは否認する。
(イ)a 著作権法114条の5の規定は、損害が生じたことが認められる場合にのみ適用することができるものであるところ、本件サービスにおいて、放送事業者に損害が発生する余地はない。
b 原判決は、損害額の算定に関する4つの事情(原判決第3の2(2)ウ(ア)a)を認定したのみで、「原告らに損害が生じていることは認められるところ、・・・著作権法114条の5により、・・・損害額を認定することが相当である」と判断した(同ウ)が、上記各事情は、損害の発生の有無に関するものではないから、原判決の上記判断は、著作権法114条の5の規定の適用の前提を欠くのにこれを適用したものとして誤りである。
エ 被控訴人らの主張エ(弁護士費用)について
 被控訴人らの主張エは否認する。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件サービスにおいて、控訴人は、本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているか)について
(1) 事実関係
 本件サービスに関する事実関係(本件サービスの開始後における親機ロクラクの設置状況を除く。)は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決48頁21行目から60頁末行までに説示のとおりであるから、これを、ここに引用する。
ア 原判決48頁21行目の「証拠」を「掲記の証拠」と改める。
イ 原判決52頁1行目の「接続作業」を「設定作業等」と、3行目の「親機ロクラクを接続して」を「親機ロクラクによる」と、18行目の「子機ロクラクを接続して」を「子機ロクラクによる」とそれぞれ改める。
ウ 原判決55頁3行目の「、弁論の全趣旨」を削り、4行目の「本件モニタ事業から、本件サービスに移行する間の」を「本件モニタ事業期間中の」と改め、19行目の「2の14」の次に「。以下「本件レンタル規約」という。」を加える。
エ 原判決56頁19行目の「斡旋が行われている」を「斡旋をする旨の記載がある」と改め、21行目の「画面上」の次に「(甲10)」を加え、22行目の「標章」から23行目末尾までを「標章を用いるなどしていた(甲1)。」と、25行目の「以下のとおり規定されている」を「以下のとおりの規定がある」とそれぞれ改める。
オ 原判決59頁26行目の次に行を改めて次のとおり加える。
 「a 控訴人は、本件サービスの利用申込みをすることができる者を「非営利目的で個人利用の範疇で利用されるお客様」に限定し、「営利目的の団体、法人及び個人」は本件サービスを利用することができないこととしている(甲2の12、2の14、24の9)。」
カ 原判決60頁1行目の「本件サービス」を「b 本件サービス」と、6行目の「入力する」を「選択する」と、19行目から20行目にかけての「番組表情報閲覧請求」を「番組表情報閲覧要求」と、同行目の「同請求」を「同要求」とそれぞれ改め、22行目の次に行を改めて
 「なお、控訴人は、先行仮処分決定の後、暫定的な措置として、同決定において複製禁止対象とされたテレビ番組を除外した控訴人作成の番組表を子機ロクラクが取得するとの新技術を開発し、本件サービスにおいて運用している(甲24の1)。」
 を、26行目の次に行を改めて次のとおりそれぞれ加える。
 「オ 親子ロクラクのセットの販売
 少なくとも平成19年10月ころまでの控訴人サイト(甲2の1〜2の35、3の1〜3の28、4の1〜4の28、24の1〜24の25)には、親子ロクラクのセットを、業務用としてではなく一般利用者向けに販売する旨の記載は全くなく、また、現在の控訴人サイト(甲60の1〜60の4、乙36の1〜36の3。いずれも原判決の言渡後に提出されたものである。)には、親子ロクラクのセットを販売する旨の記載(甲60の3、60の4、乙36の2、36の3)が設けられているが、その内容は、顧客に親子ロクラクのセット購入を勧める文言が一切ないし、その販売価格は39万8000円とされている。」
(2) 本件サービスの開始後における親機ロクラクの設置状況について
 本件サービスの開始後における親機ロクラクの設置状況については、前記第2の3(1)のとおり、当事者双方に争いのあるところであるが、仮に、被控訴人らが主張するとおり、親機ロクラクが控訴人の管理・支配する場所に設置されているとしても、次項において認定判断するとおり、本件サービスにおいて控訴人が本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製(以下「本件複製」という。)を行っているものと認めることはできないから、以下、当該設置状況については、利用者が親機ロクラクを自己の管理・支配する日本国内の場所(留守宅等)に設置することを選択した場合(以下「利用者が親機ロクラクを自己管理する場合」という。)を除き、すべて控訴人の管理・支配する場所に設置されているものと仮定して検討することとする。
(3) 検討
 被控訴人らは、@本件サービスの目的、A機器の設置・管理、B親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理、C複製可能なテレビ放送及びテレビ番組の範囲、D複製のための環境整備、E控訴人が得ている経済的利益を総合すれば、控訴人が本件複製を行っていることは明らかである旨主張するので、以下、上記(1)及び(2)の事実関係等を前提に、本件サービスにおいて控訴人が本件複製を行っているものと認めることができるか否かについて、被控訴人らの上記主張に即して検討する。
ア 本件サービスの目的について
 被控訴人らは、本件サービスの目的は、海外に居住する利用者を対象に日本国内で放送されるテレビ番組をその複製物により視聴させることのみにある旨主張する。
 確かに、上記(1)によれば、本件サービスが、主として、海外に居住する者を対象として、日本国内で放送されるテレビ番組を受信・複製・送信して、海外での視聴を可能にするためのもの(日本国内で作成された複製情報を海外に移動させるもの)であることは明らかというべきである。
 しかしながら、海外にいる利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(この場合に、控訴人が本件複製を行っていないことは明らかである。)であっても、その目的は、日本国内で利用者自身が管理する親機ロクラクで国内で放送されたテレビ番組を受信・複製・送信し、これを海外で視聴可能にすることにあるのであるから、上記認定の本件サービスの目的と何ら変わりはないのである。もっとも、控訴人が親機ロクラクを管理する場合においては、他人である海外の利用者をしてテレビ番組の視聴を可能ならしめることを目的とする点で、当該利用者自身がテレビ番組の自己視聴を目的として親機ロクラクを自己管理する場合と異なるが、本件複製の決定及び実施過程への関与の態様・度合い等の複製主体の帰属を決定する上でより重要な考慮要素の検討を抜きにして上記の点のみをもって控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき根拠足り得る事情とみることはできない。
イ 機器の設置・管理について
 被控訴人らは、本件サービスにおいては、控訴人が、親機ロクラクとテレビアンテナ等の付属機器類とから成るシステムを一体として設置・管理している旨主張する。
 しかしながら、被控訴人らが主張する上記事実は、控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情たり得ない。その理由は、次のとおりである。
 すなわち、本件サービスの利用者は、親機ロクラクの貸与を受けるなどすることにより、海外を含む遠隔地において、日本国内で放送されるテレビ番組の複製情報を視聴することができるところ、そのためには、親機ロクラクが、地上波アナログ放送を正しく受信し、デジタル録画機能やインターネット機能を正しく発揮することが必要不可欠の技術的前提条件となるが、この技術的前提条件の具備を必要とする点は、親機ロクラクを利用者自身が自己管理する場合も全く同様である。そして、この技術的前提条件の具備の問題は、受信・録画・送信を可能ならしめるための当然の技術的前提に止まるものであり、この技術的前提を基に、受信・録画・送信を実現する行為それ自体とは異なる次元の問題であり、かかる技術的前提を整備し提供したからといって直ちにその者において受信・録画・送信を行ったものということはできない。ところで、親機ロクラクが正しく機能する環境、条件等を整備し、維持するためには、その開発・製造者である控訴人において親機ロクラクを設置・管理することが技術上、経済上、最も確実かつ効率的な方法であることはいうまでもないところ、本件サービスを受ける上で、利用者自身が、その管理・支配する場所において親機ロクラクを自ら設置・管理することに特段の必要性や利点があるものとは認め難いから、親機ロクラクを控訴人において設置・管理することは、本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の合理的意思にかなうものということができる。そして、そうであるからといって、前述したとおり、このことが利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし、相当でもない。
 さらに、控訴人において親機ロクラクを管理する場合、控訴人においてその作動環境、条件等(テレビアンテナとの正しい接続等)を整備しない限り、親機ロクラクが正しく作動することはないのであるから、テレビアンテナ等の付属機器類を控訴人が設置・管理することも、本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の意思にかなうものであることは前同様であるが、前同様の理由によりこれをもって利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし、相当でもない。
 他方、本件サービスにおけるテレビ番組の録画及び当該録画に係るデータの子機ロクラクへの移動(送受信)は、専ら、利用者が子機ロクラクを操作することによってのみ実行されるのであるから、控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を設置・管理すること自体は、当該録画の過程そのものに対し直接の影響を与えるものではない。
 そうすると、控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは、結局、控訴人が、本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境、条件等を、主として技術的・経済的理由により、利用者自身に代わって整備するものにすぎず、そのことをもって、控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。
ウ 親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理について
 被控訴人らは、親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信が控訴人の管理・支配の下に行われている旨主張し、その根拠として、@当該通信がhttpにより控訴人のサーバ等を経由して行われること、A当該サーバが録画予約及び番組データの送信のために控訴人が用意した専用サーバであること、B控訴人のサーバ等を経由するたびに、控訴人がID等による認証を行っていること、C当該通信を実行するロクラクU及びそのファームウェアがすべて控訴人の開発・製造に係るものであり、控訴人の規定する方式(子機ロクラクの引渡後に変更が生じた場合の当該変更後の方式を含む。)によって当該通信が実行されること、D利用者が控訴人の規定する目的及び方法によるほかは当該通信機能を利用することができないことを挙げる。
 しかしながら、上記@については、http(hyper text transfer protocol)を採用したメールシステムにおいて、サーバを管理する者が専らメール利用者の自発的意思に基づいて行われるメール通信を管理・支配しているとみることは、技術常識に照らして困難であり、被控訴人らの主張は、独自の見解に基づくものであるといわざるを得ない(なお、甲20は、メールシステムのうち、smtp(simple mail transfer protocol)及びpop(post office protocol)又はimap(internet messaging access protocol)を採用するものについて言及するにすぎず、httpを採用するメールシステムについての上記判断を左右するものではない。)。
 また、上記Bについては、被控訴人らの主張の趣旨が必ずしも判然としないが、同主張がメールクライアントによるサーバへのアクセスの際に行われる一般的な認証をいう趣旨であるとすれば、そのような認証は、メールシステムにおいて当然に行われるものであり、そのような認証が行われることをもって、サーバを管理する者がメール通信を管理しているものとみることは、上記@と同様、技術常識に照らして困難であるから被控訴人らの独自の見解であるというべきであるし、被控訴人らの主張がこれと異なる特別の認証をいう趣旨であるとすれば、本件サービスにおいてそのような認証が行われているものと認めるに足りる証拠はない。
 さらに、上記@ないしDについては、いずれも、利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(すなわち、控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても生じる事態であることからみても、かかる主張をもって控訴人によるメール通信の管理・支配の根拠足り得ないことは明らかであるといわざるを得ない。
 なお、上記(1)エ(オ)のとおり、控訴人は、先行仮処分決定の後、暫定的な措置として、同決定において複製禁止対象とされたテレビ番組を除外した控訴人作成の番組表を子機ロクラクが取得するとの新技術を開発し、本件サービスにおいて運用しているものであるが、このような事態は、本件サービスが本来的に予定するものではなく、控訴人も、先行仮処分決定を受けたことから、やむなく上記のような暫定的措置を採ったものと認められる(甲24の1)から、控訴人がそのような措置を暫定的に採ったことをもって、これを、控訴人が親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信を管理・支配しているとの事情とみるのは相当でない。
 その他、控訴人が親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信を実質的に管理・支配しているものと認めるに足りる証拠はない。
エ 複製可能な放送及びテレビ番組の範囲について
 被控訴人らは、@本件サービスにおいて録画可能な放送が、控訴人が親機ロクラクを管理する場所(静岡県又は東京都)において受信される地上波アナログ放送に限定されていること、A本件サービスにおいて録画可能なテレビ番組が、控訴人のサーバから控訴人により提供される番組表に記載されたものに限定されていることをもって、控訴人が本件複製を管理・支配している旨主張する。
 しかしながら、本件サービスにおいて録画可能な放送が、親機ロクラクにより受信することができるものに限定されるのは当然のことである(テレビ放送の受信がなければ、その録画はあり得ない。)ところ、テレビチューナーを備えた機器において、当該機器により受信することのできるテレビ放送が当該機器の設置場所により制限されるのは、親機ロクラクに限らず、すべての機器に当てはまることであるから、上記@をもって、本件サービスにおいて録画可能な放送の範囲の限定が控訴人により行われているものとみることはできない。
 また、上記Aについては、利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(すなわち、控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても同様に生じる事態を指摘するものにすぎない。
 以上からすると、被控訴人らが主張する上記事実をもって、控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。
オ 複製のための環境整備について
 被控訴人らは、@本件サービスにおいては、子機ロクラクを用い、これが示す手順に従わなければ、親機ロクラクにアクセスしてテレビ番組の録画や録画されたデータのダウンロードを行うことができず、また、A控訴人は、親子機能を実現するための特別のファームウェアを開発して、これを親子ロクラクに組み込み、かつ、控訴人のサーバ等を経由することのみによって録画予約等が可能となるように設定しており、さらに、B親子ロクラクは、本件サービス又はこれと同種のサービスのための専用品とみることができる旨主張する。
 しかしながら、これらの事情は、いずれも、利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても同様に生じる事態を指摘するものにすぎないから、これらの事情をもって、控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。
カ 控訴人が得ている経済的利益について
 被控訴人らは、控訴人が、@初期登録料(3000円)、A毎月のロクラクUのレンタル料(本件Aサービスにつき8500円、本件Bサービスにつき6500円)、B毎月の「ロクラクアパート」の賃料(2000円)の名目で、利用者から本件サービスの対価を受領している旨主張する。
 しかしながら、本件サービスは、機器(親子ロクラク又は親機ロクラク)自体の賃貸借及び親機ロクラクの保守・管理等を伴うものであるから当然これに見合う相当額の対価の支払が必要となるところ、上記(1)エ(ウによれば、上記@及びAの各金員は、録画の有無や回数及び時間等によって何ら影響を受けない一定額と定められているものと認められるから、当該各金員が、当該機器自体の賃料等の対価の趣旨を超え、本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するものとまで認めることはできず(なお、被控訴人NHKの番組を視聴する場合には、上記の料金とは別に受信契約の締結が必要となる旨控訴人サイトに記載されている。)、その他、当該各金員が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
 また、仮に、控訴人が上記Bの金員を受領しているとしても、それが、「ロクラクアパート」の賃料の趣旨を超え、本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
 以上からすると、控訴人が上記@ないしBの各金員を受領しているとの事実をもって、控訴人が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価を得ているものということはできない。
キ 小括
 以上のとおり、被控訴人らが主張する各事情は、いずれも、控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情ということはできない。
 加えて、上記(1)のとおりの親子ロクラクの機能、その機能を利用するために必要な環境ないし条件、本件サービスの内容等に照らせば、子機ロクラクを操作することにより、親機ロクラクをして、その受信に係るテレビ放送(テレビ番組)を録画させ、当該録画に係るデータの送信を受けてこれを視聴するという利用者の行為(直接利用行為)が、著作権法30条1項(同法102条1項において準用する場合を含む。)に規定する私的使用のための複製として適法なものであることはいうまでもないところである。そして、利用者が親子ロクラクを設置・管理し、これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し、これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり、かかる適法行為を基本的な視点としながら、被控訴人らの前記主張を検討してきた結果、前記認定判断のとおり、本件サービスにおける録画行為の実施主体は、利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず、控訴人が提供する本件サービスは、利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境、条件等を提供しているにすぎないものというべきである。
 かつて、デジタル技術は今日のように発達しておらず、インターネットが普及していない環境下においては、テレビ放送をビデオ等の媒体に録画した後、これを海外にいる利用者が入手して初めて我が国で放送されたテレビ番組の視聴が可能になったものであるが、当然のことながら上記方法に由来する時間的遅延や媒体の授受に伴う相当額の経済的出費が避けられないものであった。しかしながら、我が国と海外との交流が飛躍的に拡大し、国内で放送されたテレビ番組の視聴に対する需要が急増する中、デジタル技術の飛躍的進展とインターネット環境の急速な整備により従来技術の上記のような制約を克服して、海外にいながら我が国で放送されるテレビ番組の視聴が時間的にも経済的にも著しく容易になったものである。そして、技術の飛躍的進展に伴い、新たな商品開発やサービスが創生され、より利便性の高い製品が需用者の間に普及し、家電製品としての地位を確立していく過程を辿ることは技術革新の歴史を振り返れば明らかなところである。本件サービスにおいても、利用者における適法な私的利用のための環境条件等の提供を図るものであるから、かかるサービスを利用する者が増大・累積したからといって本来適法な行為が違法に転化する余地はなく、もとよりこれにより被控訴人らの正当な利益が侵害されるものでもない。
 したがって、本件サービスにおいて、著作権法上の規律の観点から、利用者による本件複製をもって、これを控訴人による複製と同視することはできず、その他、控訴人が本件複製を行っているものと認めるに足りる事実の立証はない。
 なお、クラブキャッツアイ事件最高裁判決は、スナック及びカフェを経営する者らが、当該スナック等において、カラオケ装置と音楽著作物たる楽曲が録音されたカラオケテープとを備え置き、ホステス等の従業員において、カラオケ装置を操作し、客に対して曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしば、ホステス等にも、客とともに又は単独で歌唱させ、もって、店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益を上げることを意図していたとの事実関係を前提に、演奏(歌唱)の形態による音楽著作物の利用主体を当該スナック等を経営する者らと認めたものであり、本件サービスについてこれまで認定説示してきたところに照らすならば、上記判例は本件と事案を異にすることは明らかである。
2 被控訴人らの請求についての結論
 争点1についての判断は上記1のとおりであるから、その余の各争点について判断するまでもなく、被控訴人らの請求は、全部理由がない。
第4 結論
 よって、原判決中、脱退前被控訴人10名の請求の一部を認容した部分は、当裁判所の上記判断と異なり不当であるから、同部分を取り消した上、被控訴人らの請求及び附帯控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 田中信義
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 浅井憲


当事者目録
控訴人(附帯被控訴人) 株式会社日本デジタル家電(以下「控訴人」という。)
訴訟代理人弁護士 岩崎政孝
同 岡邦俊
同 小林克典
同 瀧谷耕二
被控訴人(附帯控訴人) 日本放送協会(以下「被控訴人NHK」という。)
訴訟代理人弁護士 梅田康宏
同 津浦正樹
被控訴人(附帯控訴人) 日本テレビ放送網株式会社(以下「被控訴人日本テレビ」という。)
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社静岡第一テレビ(以下「被控訴人静岡第一テレビ」という。)
両名訴訟代理人弁護士 松田政行
同 齋藤浩貴
同 山元裕子
同 吉羽真一郎
同 上村哲史
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社東京放送(以下「被控訴人TBS」という。)
被控訴人(附帯控訴人) 静岡放送株式会社(以下「被控訴人SBS」という。)
両名訴訟代理人弁護士 岡崎洋
同 大橋正春
同 前田俊房
同 渡邊賢作
同 村尾治亮
同 新間祐一郎
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社フジ・メディア・ホールディングス訴訟引受人株式会社フジテレビジョン(以下「被控訴人フジテレビ」という。)
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社テレビ静岡(以下「被控訴人テレビ静岡」という。)
両名訴訟代理人弁護士 前田哲男
同 中川達也
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社テレビ朝日(以下「被控訴人テレビ朝日」という。)
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社静岡朝日テレビ(以下「被控訴人あさひテレビ」という。)
両名訴訟代理人弁護士 伊藤真
同 太田純
同 清水琢麿
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社テレビ東京(以下「被控訴人テレビ東京」という。)
訴訟代理人弁護士 尾崎行正
同 飯塚孝徳
同 上杉雅央
同 岩知道真吾
同 佐藤淳子
脱退被控訴人(附帯控訴人) 株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン)(以下「脱退被控訴人フジテレビ」という。)
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