裁判の記録 line
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2009年
(平成21年)
[7月〜12月]
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7月1日 『ライ麦畑でつかまえて』続編の出版差止め事件
   ニュ−ヨーク連邦地裁/判決・請求認容
 『ライ麦畑でつかまえて』(1951年刊)の著者J・D・サリンジャー氏は、『ライ麦畑でつかまえて』の続編『60 Years Later: Coming Through the Rye』と題する小説の作者「J・D・カルフォルニア」と出版社に対して、出版差止めを求めて提訴していたが、この日、ニューヨーク連邦地裁は、サリンジャー側の主張を認め、米国内での出版差止めを命じた。
 なお、英国では既に出版されているという。

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7月8日 商標“レンタルお姉さん”不正競争事件
   東京地裁/仮処分申請
 引きこもりの若者たちの社会復帰を支援するNPO法人「ニュースタート事務局」(千葉県浦安市)は、スタッフの名称として登録している商標「レンタルお姉さん」を、ポルノ映画「レンタルお姉さん 欲望家政婦」の題名に使用されたとして、映画配給元「新日本映像」(東京都文京区)に、不正競争防止法等に基づいて名称の使用や映画配給の差止めなどを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。

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7月8日 「押し紙報道」名誉毀損事件(週刊新潮)
   東京地裁/提訴
 販売部数を水増しする、いわゆる押し紙で不正に収入を得ていると指摘した「週刊新潮」(2009年6月11日号)の記事で名誉を傷つけられたとして、読売新聞社は、発行元の新潮社に慰謝料など5500万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて東京地裁に提訴した。

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7月9日 CAD図面の著作物性事件
   大阪地裁/判決・請求棄却
 原告会社の取締役であるP1が被告から委託を受けて作成した光電スイッチ等の製品のCAD図面(本件CAD図面)について、著作権を主張する原告は、被告が本件図面を複製又は翻案して被告CAD図面を作成し、被告ウェブページに掲載し、被告CD−ROMに収録して顧客に頒布している行為は、原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害する等として、被告CD−ROMの製作・頒布の差止めと廃棄、損害賠償金の支払いを求めた事案。
 裁判所は、まず、本件CAD図面の著作物性について判断した。
 原告は、本件CAD図面は、P1の思想や技術を形に表した結果であり、学術的な範囲に属する著作物である等と主張した。
 しかし、裁判所は、『「図形を構成する線が数値を有する」という原告の主張の趣旨が必ずしも明らかではないが、図形を構成する線が、それぞれ長さ、方向、位置といった数値データと関連付けられるという意味であるとすれば、このことはCAD図面の属性そのもの』であり、CAD図面の創作性を基礎づけるものではなく、3次元の物体を2次元の平面に表現すること自体は、通常のありふれた図法に過ぎない等として著作物性を否定し、請求を棄却した。
判例全文
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7月13日 貴乃花親方夫妻への名誉棄損事件(週刊現代)
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 大相撲の故二子山親方の遺産相続を巡り、貴乃花夫妻が『週刊現代』と『月刊現代』の“無断で相撲部屋の土地・建物の権利書を持ち帰る等して、遺産を独占しようとした”とする記事で名誉を傷つけられたとして、発行元の講談社に損害賠償を求めていた訴訟の判決で、裁判所は名誉毀損を認め、講談社側に約850万円の損害賠償と謝罪広告を命じた。また、同社野間佐和子社長に対し、「業務全般の執行責任者として、名誉毀損等の権利侵害を防止するための実効性のある体制を整備すべき義務を負う」として、重大な任務懈怠があり、損害賠償責任を免れないとした。
判例全文
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7月15日 「週刊現代」のキヤノン創業者名誉棄損事件(2)
   東京高裁/判決・変更(上告)
 キヤノンと同社の御手洗冨士夫会長が、『週刊現代』の記事「キヤノン御手洗会長と七三一部隊」で名誉を傷つけられたとして、発行元の講談社等に2億円の損害賠償を求めた裁判で、一審判決は、表紙や新聞広告が誤解を与えるとして、講談社側に200万円の損害賠償を命じたが、東京高裁は、これを破棄し、原告キヤノンの請求を棄却した。
 判決は、見出しが印象づけたキヤノン側と七三一部隊との関係はあいまいで抽象的なものにとどまり、社会的評価が低下したとまでいうことは困難だとした。

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7月23日 「バンキシャ」嘘の証言事件(刑)
   岐阜地裁/判決・有罪
 日本テレビの報道番組「真相報道バンキシャ!」に対し、岐阜県の裏金に関する虚偽の証言をして、県の業務を妨害した等として、業務妨害罪と詐欺罪に問われた同県中津川市の元土木建設会社役員に対する判決公判で、溝口里佳裁判官は、懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。
 被告人は、2008年11月、日本テレビの取材に対し、岐阜県の土木事務所は「発注工事の請求代金を水増しして業者に支払い、還元させて裏金を作っている」等と嘘の証言をした。

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7月28日 医療事故報道の名誉棄損事件(共同通信)(2)
   東京高裁/判決・控訴一部棄却、一部取消(上告・上告受理申立)
 心臓手術中の死亡事故を巡る報道記事で名誉を傷つけられたとして、東京女子医大の担当医が、記事を配信した共同通信社と、記事を掲載した上毛新聞社、静岡新聞社、秋田魁新報社に損害賠償を求めた控訴審判決。
 共同通信社に関しては、記事は担当医の社会的評価を低下させたとはしたが、病院の報告書を根拠にするなど「真実と信じるには相当の理由があった」として、一審判決を支持し、賠償責任を否定した。
 一方、一審で賠償を命じられた新聞3社に関しては、通信社を一方の核とする報道・配信システムでは、求められる注意義務を共同通信社が履行することが前提とされており、新聞社には賠償責任は生じないとして、一審判決を取消した。

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7月29日 映画のDVD化契約事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 控訴人(一審原告)は、(1)被控訴人イーエスとの間で、控訴人が著作権を有する映画2作品のDVD化権を譲渡する旨の売買契約を締結したが、被控訴人イーエスが売買代金の一部350万円しか支払わなかったとして、債務不履行による損害賠償の支払いを求め、(2)さらに2映画作品のDVDの発売元の被控訴人イーエス及び販売元の被控訴人イーネットが、DVDの発売・予約受付の広告を掲載するとともに、DVDとしては未公表である作品を公表したことが、著作権(複製権、頒布権)及び著作者人格権(公表権)を侵害するとして損害賠償を求めたが、一審判決で請求を棄却されたので、これを不服として控訴した。
 知財高裁は、まず本件売買契約の成立について判断し、被控訴人イーエスは、控訴人の代理人であったアジアシネマギルドに、350万円を交付する代わりに、本件映画の複製・頒布につき控訴人の許諾を受ける合意をしたにすぎず、売買代金2800万円での売買契約が締結されたものとは認められない。
 また契約書には作成日付もなく、社印も、代表者の署名や押印もなく、契約書面としての体裁が全くなく、同書面が被控訴人に交付された証拠がない等として、本件売買契約が締結されたと認めることは出来ないとして、複製権や頒布権の侵害も認めず、控訴請求を棄却した。
判例全文
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7月31日 黒澤作品のDVD化事件B
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 黒澤明(1998年死亡)監督映画「姿三四郎」(1943年公開)等の8映画作品(本件各映画)の著作権を取得し、保有していると主張する原告・東宝が、本件各映画のDVDを輸入・販売した被告に対し、著作権(複製権)を侵害したとして損害賠償を求めた訴訟である。
 東京地裁は、知財高裁の判決を援用して、事実行為としての創作行為を行うことができるのは自然人のみであることからすれば、旧法においても著作者となり得るのは原則として自然人のみであるとして、黒澤明監督を著作者の一人と認定し、原告は、映画を興行するころまでに、黒澤明監督からその著作権を譲渡されていたとした。
 また、これら映画の著作権存続期間は、黒澤明監督の死亡した1998年の翌年から起算して38年が経過する2036年12月31日までとし、使用料相当額734万4000円をみなし侵害行為による損害賠償額とした。
判例全文
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8月3日 「オリコン」中傷記事事件(2)
   東京高裁/和解
 音楽市場調査会社最大手のオリコンが、月刊誌『サイゾー』(2006年4月号)に掲載されたフリージャーナリストの烏賀陽弘道氏のコメントで名誉を傷つけられたとして、烏賀陽弘道氏に5000万円の損害賠償を求めた控訴審で和解が成立した。『サイゾー』も利害関係者として控訴審から訴訟に参加し、和解条項は、(1)『サイゾー』は烏賀陽氏に対し、了解を得ないまま不正確なコメントを掲載したことを謝罪し、500万円を支払う。(2)『サイゾー』はオリコンに対し、読者に誤解を与えたことを謝罪する。(3)オリコンは烏賀陽氏に対する損害賠償請求を放棄し、烏賀陽氏も反訴請求を放棄する、というもの。

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8月25日 「新しい歴史教科書」の出版契約打ち切り事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 中学校教科書『新しい歴史教科書(改訂版)』(本件教科書)と『市販本新しい歴史教科書』(併せて本件書籍)を分担執筆した、「新しい歴史教科書をつくる会」の会長ら4名(原告ら)は、本件書籍の出版社・被告扶桑社に対し、原告らの執筆した記述部分を削除しない限り、出版・販売・頒布をしてはならないとし、出版許諾契約の期限である2010年3月1日以降の出版・販売・頒布の差止を求めた裁判である。
 2008年3月に告示された新学習指導要領が2012年度実施と確定したために、2010年度から使用される検定教科書は、通常の4年間の使用ではなく、2010年度、2011年度の2年間(4年に満たない採択期間を端境期という)となり、この端境期の教科書発行をめぐって起った争いである。
 東京地裁は、原告は契約期間の定めのない契約であることを前提にして、契約解除の意思表示により本契約が終了すると主張しているが、「本件許諾契約の締結当時、当事者間において、本件書籍の発行期間について、特に話し合われたり……したことはないこと(したがって、当事者間において、発行期間を採択期間である4年間に限定する旨の話合いがなされたこともないこと)……改定を行う必要が生じて、改訂された新教科書が発行されるにいたるまでの間は現行の教科書(本件教科書)の発行を継続することが予定されていた」のであり、「本件許諾契約は、本件書籍の発行期間を2011年度(2012年3月末日)までと定めた契約期間の定めのある契約」であって、「契約期間の定めのある契約において、契約当事者の解除権が認められるためには、契約の成立当時に基礎となっていた事情に変更が生じ、当該事情の変更が、信義衡平上当事者を当該契約に拘束することが著しく不当と認められる場合であり、本件においては解除権を認めるべき事情の変更があったと認めることはできない」等として、請求を棄却した。
判例全文
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8月27日 ピンク・レディのパブリシティ権事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却(上告)
 控訴人元ピンク・レディの2人は、被控訴人光文社が、「ピンク・レディdeダイエット」と題する週刊誌の記事中に舞台写真14枚を無断掲載し、「パブリシティ権」を侵害したとして損害賠償を求めた訴訟の控訴審。
 知財高裁は、パブリシティ権侵害の判断基準として控訴人が主張する「その肖像等が出版物の販売促進のために用いられたか否か、その肖像等の利用が無断の商業的利用に該当するかどうか」によるべきであるとすると、正当な報道における肖像の利用も許されない結果になる恐れも生じるとして、これを退ける一方、被控訴人の「当該芸能人等の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするもの」とする基準では、“顧客吸引力以外の目的がわずかでもあれば、専らに当たらずパブリシティ権侵害にならない”という意味だとするならば、これも採用できないとした。
 その上で、本件写真の使用は、読者に社会的に著名であった控訴人らの振付を記憶喚起させる手段として利用したにすぎず、「読者の記憶喚起のために控訴人らの写真を利用することが控訴人らの顧客吸引力を利用するものとなるというものではない」等とし、控訴人らの請求を棄却した原審の判断は正当であったとして、控訴請求を棄却した。
判例全文
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8月28日 “手あそび歌”DVD事件
   東京地裁/判決・主意的請求棄却、予備的請求棄却
 (株)永岡書店が、自社発行の書籍『DVDとイラストでよくわかる!手あそびうたブック』の編集著作権及び著作権(複製権)を侵害されたとして、『たのしい手あそびうたDVDブック』を発行した(株)宝島社に対して出版差止めと、損害賠償を求めた事案である。
 争点は、永岡書店書籍は編集著作物であるか、永岡書店はその著者権者であるか、宝島社書籍は編集著作権を侵害しているか等々であった。
 東京地裁判決は、永岡書店編集部員が幼稚園の教諭に対するアンケートの集計結果を踏まえて、定番の曲、幼稚園で人気が高く、よく遊ばれるものを基本として、他社書籍との差別化を図る方針の下で行われたとして、その編集著作物性を認めるとともに、職務著作物であるとして、その著作権は原告に帰属するとした。
 その上で、編集著作物の創作性は収録された全曲の曲名、振付の選択に顕れており、その収録曲の一部が同一曲名の曲として宝島社の書籍及びDVDに収録されているからといって「選択の創作的表現」が再生されたとは直ちに認めることはできない等として、請求を棄却した。
判例全文
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8月28日 テレ朝通販番組の“サクラ出演者”報道事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 通信販売番組の内容を捏造と報じた『週刊現代』(2007年7月14日号から3号)の記事で名誉を傷つけられたとして、テレビ朝日が発行元の講談社と執筆者に1億円の損害賠償等を求めた裁判で、東京地裁は講談社側に330万円の支払いを命じた。
 乗馬型健康器具「ロデオボーイU」を紹介する番組で、出演者はサクラ等と報じた。判決は、「記事の重要な部分は真実とは認められない」と判示した。

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8月28日 安倍前首相実兄への名誉毀損事件(週刊現代)(3)
   最高裁(三小)/決定・上告棄却(確定)
 安部晋三元首相の実兄が、2006年9月に『週刊現代』に連載された「空虚なプリンス」と題する記事で名誉を傷つけられたとして、発行元の講談社と、執筆した松田賢弥氏に5000万円の慰謝料等を求めた訴訟の上告審。
 最高裁第三小法廷は、松田氏の上告を棄却する決定をした。200万円の賠償を命じた一、二審(広島地裁、広島高裁)が確定した。
 松田氏が、安部元首相について実兄を取材して執筆した、弟の岸信夫参議院議員が政界に進出する際、元首相や実兄が反対したとする記事は、実兄の発言の趣旨を逸脱し、真意と乖離しているとしている。

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9月15日 黒澤作品のDVD化事件(大映作品)B(2)
   知財高裁/判決・変更
 原告、角川映画株式会社は、黒澤明が監督した劇場用映画のDVDを海外で製造し、輸入・販売した被告、コスモ・コーディネートに対する損害賠償を求めた訴訟での、損害賠償金を72万円とする一審判決を不服として、控訴していた。
 知財高裁は、著作権の存続期間、各映画の著作権を所有するのは誰か、著作権侵害行為の有無等については一審判決を維持したが、損害額の算定について、一審判決を変更した。
 著作権法第114条第3項「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」の算定について、一審判決は、“廉価版DVD”の小売価格1800円に使用料率20%及び輸入部数を乗じて得た額とした。
 これに対し、控訴審判決は、“正規版DVD”の小売価格4700円に使用料率を乗じた額より下回る条件で第三者に許諾することは想定できない等として、損害額を変更した。
判例全文
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9月16日 “催告書”のHP公開事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 控訴人(一審原告、以下、原告)は読売新聞西部本社法務室長の甲。原告が勤務する読売新聞西部本社と読売新聞販売店の経営者との「押し紙」をめぐる訴訟の過程で、原告は会社を代理する立場で、新聞販売店の経営者の同訴訟代理人に対し、回答書(以下、回答書)をメールで送信した。
 他方、被控訴人(一審被告、以下被告)はフリージャーナリストで、自ら開設したサイトで、新聞社の「押し紙」問題を発信し、本件回答書を自らのサイトに掲載したため、原告が被告に対して、本件催告書は著作物であり、公表権及び複製権の侵害であるとして、被告サイトからの本件催告書の削除を求めた事案の控訴審である。
 控訴審判決は、原判決を支持し、諸般の状況、事実を考慮し、本件催告書が、原告代理人事務所で作成されたものでなく原告が作成したものであるとする根拠を認めることはできない等として、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないとして、控訴を棄却した。
判例全文
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9月17日 ノースアジア大学理事長への名誉棄損事件(2)
   東京高裁/判決・変更(上告)
 秋田市のノースアジア大学(旧・秋田経法大)と同大学長で弁護士の小泉健理事長が『週刊新潮』(2007年11月8日号)に掲載された「秋田経法大を乗っ取った『創価学会』弁護士の『伝書鳩スパイ網』」と題する記事で名誉が傷つけられたとして発行元の新潮社に4400万円の損害賠償と謝罪広告を求めた裁判の控訴審で、東京高裁は、「記事内容を裏付ける証拠はない」として、600万円の支払いを命じた一審判決を変更し、630万円の損害賠償の支払いと同誌と『秋田魁新報』への謝罪広告の掲載を命じた。

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9月18日 ‘行列’弁護士のダイエット記事名誉棄損事件(3)
   最高裁(二小)/決定・上告不受理(確定)
 日本テレビ系のTV番組「行列のできる法律相談所」に出演している住田裕子弁護士は、週刊誌『女性セブン』(2006年4月13日号)に掲載された「もうスブタと呼ばせない2か月で10キロ減激やせ5つの鉄則」と題する虚偽の記事で信用を傷つけられたとして、発行元の小学館に300万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審。
 一審の東京地裁は、請求を棄却、二審の東京高裁は「記事は名誉毀損には当たらないが、人格権の侵害に当たる」として、被告の小学館に10万円の支払いを命じたが、二審判決を不服として小学館が上告していた。
 上告棄却により、東京高裁の二審判決が確定した。

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9月29日 土井たか子前社民党党首への名誉毀損事件(3)
   最高裁(三小)/決定・上告棄却(確定)
 土井たか子・元衆議院議長が月刊誌『WILL』(2006年5月号)の「拉致実行犯辛光洙釈放を嘆願した“社会党名誉総裁”」と題する記事で名誉を傷つけられたとして、出版元の「ワック・マガジンズ」と花田紀凱編集長に損害賠償を求めた上告審。被告・出版社側の上告を棄却する決定をし、同社などに200万円の支払いを命じた一、二審判決が確定した。

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9月30日 ゲームソフト「猟奇の檻」事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 控訴人(原告)は、原告コンピューターゲームソフトのリメイク版として販売している被告(被控訴人)ゲームソフトが、原告が著作権を有する「映画の著作物」の著作権(翻案権)を侵害しているとして、損害賠償を求めて提訴した事案の控訴審。
 知財高裁は、「映画は、多数の静止画像を順次投影するものであり、その限りでは本件ゲームソフトと共通するが、映画においては、一定以上の速度で静止画像が順次投影されることにより、動きのある画像として受け取られるところ、本件ゲームソフトにおいては、ある静止画像が、次の静止画像が現れるまで静止した状態で見え、動きのある画像として受け取られる部分はほぼ皆無であって、映画とは本質的な違いがあるというべきである。」等として、請求を棄却した原判決は相当であるとして控訴を棄却した。
判例全文
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10月8日 チャップリン映画の格安DVD事件(3)
   最高裁(一小)/判決・上告棄却(確定)
 チャールズ・チャップリンの「黄金狂時代」などの劇場用映画9作品の著作権を管理しているヨーロッパの会社(原告)が、管理会社に無断で同映画をDVDに複製し、頒布していた東京の制作会社(被告)に対し、DVD商品の複製、頒布の差止め、その在庫品、デジタルリニアテープの廃棄、損害賠償を求めた事案で、最高裁は被告の上告を棄却し、一、二審の判決が確定した。
 最高裁判決は、“原審による確定した事実関係によれば、本件各映画の全体的形成に創造的に寄与したのはチャップリン以外になく、チャップリンが著作者である”として、「著作者が自然人である著作物の旧法による著作権の存続期間については、当該自然人が著作者である旨がその実名をもって表示され、当該著作物が公表された場合には、それにより当該著作者の死亡時点を把握することができる以上、仮に団体著作名義の表示があったとしても、旧法6条ではなく旧法3条が適用され」るとした。
 なお、映画「シェーン」に関する最高裁判決は、「旧法6条の適用がある著作物であることを前提とし判示したものにすぎない」として、本件にその論旨を採用することはできないとした。
判例全文
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10月8日 黒澤作品のDVD化事件(3)
   最高裁(一小)/決定・上告棄却(確定)
 1943年から52年にかけて製作された黒澤明監督の映画12作品の著作権を有する東宝(「姿三四郎」など8作品)、松竹(「白痴」など2作品)、角川映画(旧大映・「羅生門」など2作品)3社が、これらの廉価版DVDの製造販売差し止めを求めた訴訟の上告審で、最高裁第一小法廷は、制作会社側の上告を棄却する決定をした。これにより、販売差し止めなどを命じた一、二審が確定した。

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10月8日 ファイル交換ソフト事件(刑)(Winny)(2)
   大阪高裁/判決・変更(上告)
 ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を開発・公開して違法コピーを助けたとして、著作権法違反の幇助罪(刑法62条、63条)に問われ、京都地裁の一審判決で罰金150万円(求刑懲役1年)を言い渡された元東京大学大学院助手が控訴していた。
 大阪高裁は、「利用者に著作権侵害をしないよう注意を喚起してウィニーを提供しており、幇助犯とは認められない」として、一審判決を破棄し、無罪を言い渡した。
 幇助罪の罪を問われるのは、「著作権侵害の用途のみ、または主要な用途とするようネット上で勧めて使用させる」場合で、「不特定多数の使用者の中に違法行為をする者がいると認識していただけでは幇助罪にあたらない」と新基準を示した。
 大阪高検は、10月21日、最高裁に上告した。

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10月14日 アニメ化権二重許諾事件
   東京地裁/提訴
 2004年に日本で公開された韓国映画「オールド・ボーイ」の原作マンガのアニメ化を進めていたアメリカの映画企画会社が、原作を出版した双葉社と原作者に対し、アニメ化を二重許諾したとして約2億4500万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
 原作は1996年から1998年にかけて双葉社発行の『漫画アクション』に連載された「ルーズ戦記 オールド・ボーイ」で、双葉社はミスを認め、アニメ化権はすでに取り戻しており、今回の訴訟は残念としている。

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10月15日 FX取引ソフトの著作権侵害事件
   大阪地裁/判決・請求棄却(控訴)
 外国為替証拠金取引(FX取引)用のコンピュータソフトウェアを、原告は2006年及び2007年5月ころまでに2本、作成し、被告は2007年5月ころまでにFX取引「被告プログラム」を作成した。
 原告は、被告が「IDトレードシステム」として販売しているのはこの「被告プログラム」であり、被告は原告の著作物であるプログラムを無断で改変して「被告プログラム」を作成して、原告の著作権(複製権、翻案権)を侵害したとし、他の2人の被告は、事情を知ってこれを頒布・所持したとして、損害賠償を求めて提訴した。
 大阪地裁は、「被告プログラム」は原告プログラムの一つに依拠して作成されたことは認められるとしたが、『被告が「被告プログラム」を第三者に頒布したことを直接示す証拠はない』などとして、請求を棄却した。
判例全文
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10月22日 「GLAY」印税未払い事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 ロックグループ「GLAY」のメンバーが、以前所属していた音楽事務所「アンリミテッドクループ」を相手取り、147曲の著作権を有することの確認と不当利得返還を求めた訴訟で、東京地裁は、GLAY側が著作権を有することを認め、音楽事務所に約6億7000万円の支払いを命じた。
判例全文
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10月22日 絵本「地球の秘密」共同著作物性事件
   大阪地裁/判決・請求棄却
 小学生(死亡)が地球環境をテーマとして描いた線画を中心とする絵本(表紙と本編の一部のみ色鉛筆で彩色)「地球の秘密」について、子供の両親(被告)が出版文化社(被告)に出版を許諾し、原告が彩色してパステル原画が作成され出版文化社版のハードカバー絵本が出版された。
 出版文化社は、その一部を使用して環境日めくりカレンダーを製作・販売したところ、原告は、出版文化社版は原告が共同著作権(もしくは二次的著作物の著作権)を有するとして抗議・交渉したが、合意に至らなかったため、両親、出版文化社、朝日新聞に対して、販売差し止めと逸失利益の支払を求めて提訴した。
 原告は、出版文化社版はわずかしか彩色されていない原画のコピーに、原告が着色して作成されたのであるから、原告は共同著作者であると主張したが、大阪地裁は、原画の著作権の相続人である母親から彩色するよう依頼されたのであって、小学生の原著作者(死亡)自身との間における「共同製作の意思」の共通を認める事情は見当たらないなどとして、共同著作物性を認めなかった。
 また、二次的著作物だとする主張も退け、請求を棄却した。
判例全文
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10月28日 被告の私信無断掲載事件
   京都地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 2003年、元皇族の有栖川宮家の継承者と名乗り、結婚披露宴などを催して結婚祝儀金などを詐取した詐欺事件の元被告2人が、拘留中に、拘置所のミスで流出した手紙を無断で『週刊新潮』に掲載され、精神的苦痛を受けたとして、発行元の新潮社に1000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決。
 判決は、「プライバシー侵害の程度は社会生活上の受忍の程度を超えている」として慰謝料200万円の支払いを命じた。

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10月28日 中国ドラマ「苦菜花」放送事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 中国法人の北京赤東文化伝播有限公司(原告)が著作権を有すると主張するTVドラマ「苦菜花」を、被告で放送事業者の亜太メディアジャパンとスカパーJSATに侵害されたとして、損害賠償と放送の差止めを求めた事案で、一審は、被告の著作権侵害を認定して本件ドラマの放送の差止めを認め、被告に135万円の損害賠償の支払いを命じた。
 原告は、一審の、損害賠償額並びに被告・スカパーに対する過失責任を認めなかった点を不服として控訴していた。
 控訴審は、原判決を追認し、控訴を棄却した。
判例全文
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11月9日 スピーカ測定プログラム侵害事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 原告フォスター電機が、同社元従業員の被告に対し、被告が製造・販売しているスピーカー測定装置と付属するソフトウェアは、原告のスピーカー測定システムに関する営業秘密を不正に利用したものであり、また、被告が製造・販売するソフトウェアは、原告のソフトウェアのプログラムの著作権を侵害しているとして、被告のスピーカー測定装置と付属のソフトウェアの製造・販売の禁止、スピーカー測定装置及びソフトウェアを格納したCD−ROM、DVD−ROMなどの廃棄、190万円の支払いを求めて提訴した事案である。
 判決は、被告が営業秘密を不正利用した点に関しては、「原告システムに関する情報」の具体的内容が特定されておらず、また、営業秘密として管理されていたとは認められないとして、原告の請求を退けた。
 被告ソフトウェアの著作権侵害に関しては、被告ソフトウェアは、原告ソフトウェアに依拠して作成されたもので、被告ソフトウェアの複製又は販売の差し止め及びこれを格納した記憶媒体の廃棄、損害賠償金9万円の支払いを命じ、その余の請求は棄却した。
判例全文
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11月12日 商標“朝バナナ”侵害事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 原告ぶんか社は登録商標「朝バナナ」を持ち、この商標を題号の一部として付した、『朝バナナダイエット』、『もっと朝バナナダイエット』などを発行している。
 原告は、被告が発行した『朝バナナダイエット成功のコツ40』は、原告の商標「朝バナナ」と同一又は類似の標章を使用しているから原告の商標権を侵害し、周知著名な原告の商品表示である「朝バナナ」と同一又は類似の商品表示を使用しているから不正競争防止法に抵触する行為等と主張し、書籍の販売の差し止めや損害賠償の支払いを求めて提訴した。
 争点1の商標権侵害の成否について判決は、侵害とは認めなかった。商標の使用が商標権の侵害行為であると認められるためには、その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たす態様で使用されていることを要する。しかるに、被告書籍の内容は、「朝バナナダイエット」というダイエット法を成功させる秘訣を紹介するもので、被告書籍の読者は、「朝バナナ」の部分を「朝バナナダイエット」に関する内容の書籍を強調する部分と理解すると考えられる。従って、被告書籍の標章は、単に書籍の内容を示す題号の一部を表示しているに過ぎず、商標権を侵害していないと判示した。また、不正競争防止法違反の成否に関しても、自己商品表示中に、他人の商品等表示が含まれていたとしても、その表示の態様からみて、専ら、商品の内容を表現するために用いられたに過ぎない場合は、他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用したと評価することはできないとして、不正競争防止法にも違反しないとした。
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11月13日 動画共有サイトの著作権侵害事件(TVブレイク)
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却、一部却下(控訴)
 著作権管理事業者である日本音楽著作権協会(JASRAC)が、インターネットの動画投稿・共有サイト「TVブレイク」を運営する「ジャストオンライン」に対し、同サイトで音楽を無断配信され、著作権(複製権、公衆送信権)を侵害されたとして、配信の差し止めと1億2千万円の損害賠償を求めた事案である。
 同サイトの仕組みは、本サイトへ動画ファイルをアップロードしようとするユーザーは、会員登録し、動画ファイルを同サイトにアップロードする。サイトは、アップロードされた動画ファイルを記録媒体に蔵置し、一般の第三者の視聴に供するというもので、動画配信サイトと同様の機能を持つものである。アップロードもダウンロードも無料である。判決は、投稿される動画は、「旅行」、「暮らし」など、著作権侵害のない自主制作動画のみで構成されているものもあるが、「ムービー」「アニメ」「音楽」「ゲーム」などのジャンルのものは、既存の劇場用映画、TV番組、アニメなどの著作権を侵害する動画が多数含まれている。また、アップロードするファイルの内容、時間に制限がないこと、ユーザーは匿名も可能で、同サイトは、著作権侵害を繰り返すユーザーに対する再発防止の実効性ある手段を持っていない、などの理由を挙げて、被告に対し、JASRACが管理している楽曲の配信差し止めと約9000万円の支払いを命じた。
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11月16日 「和民」vs「魚民」名誉棄損事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 居酒屋チェーン「和民」を運営する「ワタミ」(本社・東京)の渡邉美樹会長の著書で名誉を傷つけられたとして、居酒屋チェーン「魚民」を経営するモンテローザが渡邉会長らに1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、渡邉会長に300万円の支払いを命じた。渡邉会長が2007年に出版した著書の中で、「『和民』をつくったら『○民』が出てくるという具合に、ヒットした先行がいればすぐまねし、後を追う」など記したが、判決は「『○民』」は『魚民』を連想させる」と認定した。両社は、かつて赤字に白抜きの看板に関し、訴訟となり、ワタミが魚民に看板の使用を認めることを条件に和解しているが、今回、モンテローザは今回の渡邉会長の中傷は和解条項に違反していると主張したが、この点に関しては、東京地裁は「誹謗中傷しないことを条件に和解したとはいえない」として、モンテローザ側の主張を退けた。

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11月26日 槇原敬之vs松本零士「約束の場所」事件(2)
   知財高裁/和解
 原告の歌手・槇原敬之氏が、自ら作詞作曲した「約束の場所」の一節のサビの部分の表現が、被告、松本零士氏の漫画「銀河鉄道999」中の表現を模倣したものだとして、デレビ取材に応じた際の被告発言によって名誉を傷つけられたとして、「被告が著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づく損害賠償請求権を有していないことの確認、名誉毀損による2200万円の損害賠償の支払い並びに謝罪広告」を求めた訴訟の控訴審。
 一審は、原告表現は、被告表現を「依拠したのでなければ説明できないほど酷似しているとは言えない」とし、名誉毀損を認め、松本氏側に220万円の支払いを命じた。松本氏が控訴した本審で、盗用を指摘したことについて松本氏が陳謝することなどを条件に和解が成立した。

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11月26日 オークションカタログ事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 絵画等の現代美術作家である原告・A、B、C、Dは、被告・エスト・ウェストオークションが2008年11月25日、香港で開催したオークション「ASIAN Post−War&Contemporary Art」に関する、(1)出品冊子カタログ、(2)フリーペーパー『art_icle 2008年11月号』、(3)エスト・ウエストメンバーズクラブの機関紙『EST−WEST NEWS 2008年10月号』に、原告が著作権を有する美術品の画像を掲載し、その一部をWEBサイトで公開し、原告らの複製権及び原告Aの公衆送信権を侵害したとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
 争点は、(1)フリーペーパー等への作品紹介部分は、引用(著作権法31条1項)として適法か、(2)展示に伴う小冊子への複製(同法47条)として適法か(フリーペーパー、パンフレット)等であった。
 引用に関し、「…引用は、…自己の著作物の中に他人の著作物の全部又は一部を採録することをいうと解され(最高裁、昭和55年3月28日判決参照)」るが、冊子カタログ等への画像の掲載は画像自体が主体をなすもので、引用には該当しないと判示した。また、展示に伴う複製、時事の報道のための利用、権利の乱用に関する被告の主張も退け、損害賠償の支払いを命じた。
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11月27日 医学論文の共同著作事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 原告は、東大医学部教授を経て、(財)脳血管研究所教授で、脳と言語の関係に関する研究者。被告は、東大医学系博士課程で、原告が主宰し、指導教官を務める研究室の一員を経て、東大医科学研究所の研究員(A助教授の指導の下にいる)である。
 原告、被告、Aが著作した英文の論文(第1論文)と、被告、B、C、Dが著作した英文論文(第2論文で、『ニューロレポート』誌掲載)に関し、原告は、被告が原告の同意を得ずに、第2論文を学術誌に発表したことが、未発表の第1論文の複製、翻案、改変、公表に当たり、原告の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権、公表権)を侵害すると主張して、侵害行為の停止の措置、名誉声望の回復の措置損害賠償を求めた事案である。
 争点の(1)は、第1論文の共同著作物性で、第1論文の作成過程を詳細に検証の上、第1論文は、原告と被告が共同して創作したものとして原告は第1論文の共同著作者と認定した。争点の(2)は、被告による第2論文の作成が第1論文に関する原告の複製権、翻案権を侵害しているか、については、両論文の類似部分53カ所に関し、10カ所は第1論文に依拠して作成され、複製権を侵害しているとし、翻案権に関しては侵害はないとした。また、複製権を侵害している10カ所の部分について同一性保持権、公表権も侵害しているとした。
 また、著作者人格権侵害による慰謝料を30万円と認定し、弁護士費用10万円を加えて40万円の支払いを命じた。
 その他の、名誉声望の回復措置等の請求は退けた。なお、原告は、複製権侵害に対する損害賠償を請求していない。
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11月27日 日本ペンクラブの「電子文藝館」無断転載事件(刑)
   警視庁中央署/告訴
 日本ペンクラブ(阿刀田高会長)は、同クラブの、無料で公開しているWEBサイト「電子文藝館」に掲載された小説などの作品が無断転載され、著作権を侵害されたとして、サイト開設者(氏名不詳)を警視庁中央署に告訴すると発表した。「電子文藝館」は、同クラブの会員らの小説、随筆など800点余が掲載されているが、その内の600点余の作品が無断で転載されたという。また、同クラブが商標登録している「電子文藝館」の名称も使われており、商標権侵害でも告訴した、と発表した。

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12月15日 「ウルトラマン」営業誹謗事件(2)
   知財高裁/決定・抗告棄却
 この裁判の背景には、円谷プロダクションとタイ人Aとの間のウルトラマン版権の海外ライセンス契約をめぐる紛争があり、日本での裁判(最高裁2004年4月27日)では契約の有効性が認められたのに対し、タイの最高裁判所では契約書は偽造であって有効性がないと判断された(2008年2月5日)という複雑な状況がある。Aからウルトラマンの独占利用権を譲り受けたとする抗告人は、相手方・円谷プロダクションが国内の映像事業関係者に、抗告人が日本以外の国において独占的利用権を有しない旨を告知した書面を送付した行為が不正競争防止法に触れるとして、告知流布行為の差止等を求め仮処分を申請したが、原審(東京地裁)で却下決定されたため抗告していた。
 裁判所は、円谷プロダクションの書面は、記載内容、配布先、作成にいたる経緯を見ると、事前にAと円谷プロダクションとの紛争および東京高裁判決を認識しているものに対して、タイ最高裁判決によってAがタイ国内において権利主張をすることが禁じられていることを述べているにすぎないと理解するのが相当と述べて、円谷プロダクションの書面通知行為の虚偽事実告知性を否定して、抗告を棄却した。
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12月16日 旅行パンフレットの写真無断使用事件
   警視庁生活経済課/書類送検
 読売新聞東京本社の関連会社「読売旅行」が、著作権者・フォトエージェンシー「アイフォトス」社の許諾を得ずに風景写真を使っていたとして、警視庁生活経済課は、同社の社長など役員3名、社員2名を著作権法違反の疑いで東京地検に書類送検した。読売旅行は、1997年まで「アイフォトス」社と写真使用契約を結んでいたが、契約終了後も無断使用していたため、「アイフォトス」社が警視庁に告訴していた。

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12月16日 「着うた」違法配信事件(刑)
   岡山地裁/判決・有罪
 携帯電話向けの音楽配信サービス「着うたフル」の運営会社「着うたキングダム」がJASRACの許諾を得ずに「ロケットスニーカー」など4曲を違法配信した事件で、岡山地裁は、同社社長に懲役1年6カ月(執行猶予3年)、罰金250万円、同社会長に懲役2年(執行猶予3年)、罰金400万円、社長が代表を勤める3社に各罰金800万円を言い渡した。

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12月18日 Google書籍電子化事件(仏)
   仏パリ地方裁判所/判決・請求一部認容、一部棄却
 フランスの出版社グループ、作家協会などが、アメリカの検索会社Googleが進める書籍の電子化は、著作権を侵害しているとして、同社を訴えていた裁判でパリ地方裁判所は、Googleに対し、電子化の中止と約30万ユーロ(約3900万円)の損害賠償の支払いを命じた。

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12月24日 「光市母子殺害事件」実名本の名誉毀損事件
   東京地裁/提訴(請求棄却・控訴・控訴棄却・上告・上告棄却・確定)
 山口県光市のアパートで、1999年4月14日、母親(当時23歳)と長女が殺害された事件で、殺人犯として死刑判決を受けた(現在上告中)、当時18歳だった被告の元少年の実名を表記したルポルタージュ本の著者・増田美智子氏と出版元・「インシデンツ」の寺澤有代表は、元少年と弁護団に対し、名誉を傷つけられたとして計1100万円の損害賠償を求める訴えを起こした。「当初、取材目的を明確に告げず、元少年らに近づいた」と週刊誌上などで虚偽の説明をしたというもの。また、毎日新聞社に対し、広島地裁が元少年の出版差し止めの仮処分の申し立てを却下したことに関し、11月11日の「光事件実名本、妥当な決定ではあるが」と題する社説で「当事者に知らせることなく出版しようとした行為は、いかにも不意打ち的だ」などの記述は事実に反し、名誉を傷つけられたとして、2200万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて提訴した。

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12月24日 「弁護士のくず」著作権侵害事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 弁護士の内田雅敏氏が自書の『懲戒除名“非行”弁護士を撃て』の一部を、漫画雑誌『ビックコミック』連載の「弁護士のくず」にストーリーなどが盗用されたとして、漫画家の井浦秀夫氏と発行元の小学館を相手に、盗用とされる部分の単行本化の差し止めと500万円の損害賠償を求めた事案。
 判決は、「取り上げた事実関係や事件に同一性はあるが、創作的表現まで小説から利用したとは言えず」、著作権侵害には当たらないとして、請求を棄却した。
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12月24日 バイクレースの記念写真事件(2)
   知財高裁/判決・控訴棄却
 代表者がアマチュアのオートバイレーサーだったことのある電気事業等を行う有限会社が、オートバイレース参加者の走行中の写真を撮影しそれをレース終了直後に販売する事業を企画して、フリーのカメラマンにもちかけ、彼が撮影を行うことで合意した。有限会社が、カメラマンの撮影した写真の電子データを、オートバイ走行会主催者に提供し、主催者がカメラマンの承諾なしにその写真をホームページやポスターに掲載したことから、カメラマンが有限会社に対して、著作権及び著作者人格権侵害を理由とする損害賠償を求めたもの。
 原審は、この写真はカメラマンの職務著作であるとして賠償金請求を棄却したことからカメラマンが控訴していた。
 判決は職務著作という原審の判断を否定したが、写真データの交付を記載した企画書を当事者双方が認めていることから、カメラマンは有限会社が走行会主催者に販売以外を目的としたデータ提供を無償でおこなうことを承諾していたものと認定し、控訴を棄却した。
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