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【事件名】「新しい歴史教科書」の出版契約打ち切り事件 【年月日】平成21年8月25日 東京地裁 平成20年(ワ)第16289号 書籍出版等差止請求事件 (口頭弁論終結日 平成21年6月9日) 判決 原告 A 原告 B 原告 C 原告 D 原告ら訴訟代理人弁護士 福本修也 被告 株式会社扶桑社 同訴訟代理人弁護士 加藤義樹 同 矢野京介 同 毛塚重行 同 奈良輝久 同 若松亮 同 石井亮 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、別紙書籍目録記載1の各書籍を、同目録記載2の部分をすべて削除しない限り、平成22年3月1日以降、出版し、販売し、又は頒布してはならない。 第2 事案の概要 本件は、原告らが、原告らと被告との間における別紙書籍目録記載1の各書籍(以下、併せて「本件書籍」という。また、同目録記載1(1)の書籍のみを指すときは、「本件教科書」といい、同目録記載1(2)の書籍のみを指すときは、「本件市販本」という。)中の同目録記載2の部分(以下「本件記述」という。)の使用許諾契約が平成22年3月をもって終了する旨主張して、本件記述の著作権ないし本件書籍の初版本のうち本件記述に対応する部分の著作権に基づき、本件書籍を発行する出版社である被告に対し、平成22年度分教科書の教育現場への配給が始まる時期である平成22年3月1日以降の本件記述を含む本件書籍の出版、販売及び頒布の差止めを求める事案である。 1 前提となる事実等(認定事実については末尾に証拠を掲記する。) (1)当事者 ア 原告らは、保守的な歴史教科書を推進する目的で平成9年1月に設立された「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」という。)の会員であり、本件書籍(同目録記載1(1)の書籍は中学校教科書用であり、同(2)は市販用である。両者は装丁等に若干の差異があるものの、本件記述に係る記述は、頁や行も含め、同一である。)ないし本件書籍の初版本の執筆を担当した者である。 イ 被告は、本件書籍の著作権者との間で出版許諾契約(以下「本件許諾契約」という。)を口頭で締結し、同契約に基づき、本件書籍を出版している者である。 (甲1の1・2、甲19、22、23、弁論の全趣旨) (2)中学校用教科書の検定・採択等の仕組み ア 教科書とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及びこれらに準ずる学校において、教科課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、教授の用に供せられる児童又は生徒用図書である(教科書の発行に関する臨時措置法2条)。 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及びこれらに準ずる学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない(学校教育法34条、49条、62条、70条)。 そして、教科書が、児童生徒に給与されるためには、採択の手続を経なければならない。 イ 中学校用教科書は、通常、次の過程を経て、生徒に使用されるに至る。 (ア)1年目 各教科書発行者が、学習指導要領等を基に図書を作成し、文部科学大臣に検定の申請をする。 (イ)2年目 申請された図書は、文部科学大臣の諮問機関である教科用図書検定調査審議会に諮問される。文部科学大臣は、審議会の答申に基づき検定の合否を決定する。 (ウ)3年目 採択の対象となる教科書について、学校の設置者である都道府県や市町村の教育委員会(国立、私立については、学校長)が、どの教科書を使用するか調査研究を行い、教科書を採択する。 採択された教科書が製造、供給されるまでには、おおむね、@発行者において、検定に合格した教科書の書目を文部科学大臣に届け出る、A文部科学大臣は届出のあった教科書をとりまとめて、教科書目録を作成し、都道府県教育委員会に送付し、都道府県教育委員会から採択を行う各地の教育委員会等に教科書目録を送付する、B発行者は各地の教育委員会等に教科書見本を送付する、C教育委員会等において採択が行われる、D都道府県教育委員会が文部科学大臣に需要数(採択数)を報告する、E発行者が製造した教科書が供給される、という経過をたどる。 (エ)4年目 供給された教科書が、生徒の使用に供される。 ウ 中学校用教科書の採択期間 (ア)義務教育諸学校において使用する教科用図書については、政令で定めるところにより、政令で定める期間、毎年度、種目ごとに同一の教科用図書を採択するものとするとされ(義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(以下「無償措置法」という。)14条)、同法施行令(以下「無償措置法施行令」という。)14条1項は、無償措置法14条の規定により種目ごとに同一の教科用図書を採択する期間を4年と定めている。そのため、中学校用教科書は、通常、採択期間に合わせて、4年ごとに改訂の機会があり、その都度、必要な改訂が行われる。 他方、学習指導要領が改訂、告示され、採択期間(4年間)の途中の年度に施行された場合、通常4年間とされる採択期間が、改訂後の学習指導要領の施行年度までの期間に短縮される。その結果、採択期間が4年間に満たない端境期が生じることになる(改訂された学習指導要領の施行に伴い、施行の直近に採択された教科書の内容が、改訂された学習指導要領に適応しなくなり、発行することができなくなるので(中学校用教科書において、学習指導要領に示された事項が不足なく取り上げられていることが検定基準として要求されている。)、改訂された学習指導要領の施行の直近の採択期間を短縮することにより、施行後においては、改訂された学習指導要領に適応する中学校用教科書を採択することができるようになっている。)。 (イ)最近の中学校用教科書の検定・採択の周期 a 平成13年度から使用開始となる教科書 平成11年度の検定、平成12年度の採択を経て、平成13年度から使用開始となった(なお、平成11年度の中学校教科書検定については、発行者から検定の申請がされなかった。)。 しかし、平成10年に改訂された学習指導要領(平成10年文部省告示)が平成14年度から施行されたため、改訂前の学習指導要領に準拠した教科書は、平成14年度以降は使用することができなくなった。 そこで、平成13年度から使用開始となる教科書については、採択期間が1年に短縮された(1年間の端境期が生じた。)。 b 平成14年度から使用開始となる教科書 平成12年度の検定、平成13年度の採択を経て、平成14年度から使用開始となった(採択期間は4年間)。 c 平成18年度から使用開始となる教科書 平成16年度の検定、平成17年度の採択を経て、平成18年度から使用開始となった(採択期間は4年間)。 d 平成22年度から使用開始となる教科書 平成20年度の検定、平成21年度の採択を経て、平成22年度から使用開始となる。 しかし、平成20年に改訂された学習指導要領(平成20年文部科学省告示)が平成24年度から施行されるため、改訂前の学習指導要領に準拠した教科書は、平成24年度以降は使用することができない。 そこで、平成22年度から使用開始となる教科書については、採択期間が平成22年度及び平成23年度の2年間に短縮されることになる(2年間の端境期が生じることになる。)。 e 平成24年度から使用開始となる教科書 平成22年度の検定、平成23年度の採択を経て、平成24年度から使用開始となる。 エ 平成22年度及び平成23年度使用分教科書の採択手続等 (ア)教科書の発行に関する臨時措置法4条により、発行者は毎年、文部科学大臣の指示する時期に、発行しようとする教科書の書目を、文部科学大臣に届け出なければならないとされ、教科書の発行に関する臨時措置法施行規則2条、昭和55年3月1日文部省告示第24号により、教科書発行者が発行しようとする教科書の書目の届出の時期が「発行しようとする教科書が採択されることとなる年度の4月1日から同月10日まで」と指示されていることから、発行者は、平成22年度及び平成23年度使用分について、平成21年4月1日から同月10日までの間に、教科書の書目を文部科学大臣に届け出る(上記イ(ウ)@)。 (イ)文部科学大臣からの教科書目録の送付は、4月下旬までに行われることが予定されていることから、平成22年度及び平成23年度使用分の教科書目録が平成21年4月下旬までに都道府県教育委員会に送付される(上記イ(ウ)A)。 (ウ)発行者から各地の教育委員会等への教科書の見本の送付は、4月末日までに行うものとされていることから、教科書の見本が平成21年4月末日までに各地の教育委員会等に送付される(上記イ(ウ)B)。 (エ)義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行令13条により、義務教育諸学校において使用する教科書の採択は、当該教科書を使用する年度の前年度の8月31日までに行わなければならないとされていることから、平成22年度及び平成23年度に使用する教科書の採択は、平成21年8月31日までに行われる(上記イ(ウ)C)。 (オ)都道府県教育委員会から文部科学大臣への需要数報告期限は9月16日とされていることから、平成22年度及び平成23年度に使用する教科書の採択結果の報告が平成21年9月16日までに行われる(上記イ(ウ)D)。 (カ)採択された教科書が平成22年3月には製造、供給され、平成22年4月から児童生徒の使用に供される(上記イ(ウ)E、(エ))。 (甲34、乙36、42、弁論の全趣旨) (3)初版本及び本件書籍(改訂版)の発行の経緯等 ア 平成9年に、保守的な歴史教科書の発行を推進する目的の下、原告B(以下「原告B」、又は「B」という。)や原告A(以下「原告A」、又は「A」という。)、その他の構成員によって、つくる会が結成された。 当時、つくる会の会長は原告B、副会長は原告Aであった。 つくる会は、保守的な歴史教科書の発行者となる出版社を探しており、被告が教科書の発行者となることが決まった。 そして、つくる会と被告とは、平成14年度に使用開始となる中学校用歴史教科書及び公民教科書を発行することを合意した。 イ 平成11年から教科書の執筆、編集が開始され、平成12年3月ころ、「新しい歴史教科書(初版本)」(本件教科書の初版本)の原稿が完成した。 上記教科書について、平成12年4月、文部省(当時)に検定申請がされ、137か所の検定意見通知及びこれを受けての修正等を経て、平成13年4月、本件教科書の初版本について文部科学省から検定決定(検定合格)を受けた。 そして、平成14年度から(平成17年度まで)、本件教科書の初版本が中学校用教科書として使用開始となった。 なお、平成13年6月ころ、被告が発行者となって、上記教科書(初版本)の市販本が発行された。 ウ つくる会と被告とは、「新しい歴史教科書(初版本)」の改訂を行うことを決定し、平成16年3月ころ、改訂版(本件教科書)の原稿が完成した。 本件教科書について、平成16年4月、文部科学省に検定申請がされ、124か所の検定意見通知及びこれを受けての修正等を経て、平成17年3月、本件教科書について文部科学省から検定決定(検定合格)を受けた。 エ 被告は、本件許諾契約に基づき、発行者として本件教科書を製造、供給し、平成18年度以降、本件教科書が中学校用教科書として使用されている。 なお、平成17年8月ころ、被告が発行者となって、本件教科書の市販本(本件市販本)が発行された。 (甲1の1・2、甲22、24、乙38、50、弁論の全趣旨) (4)被告が表明している次期採択期間(平成22年度)以降における対応ア 被告は、端境期の初期となる平成22年度時点での改訂は行わず、平成22年度及び平成23年度の各教科書配給期間についても、本件教科書を発行及び供給することを計画し、原告らに対し、その旨表明した。 そして、本件教科書は、現在採択の手続に乗せられている(上記(2)エ参照)。 イ 被告は、平成19年8月に被告の100%出資により設立された育鵬社から、平成24年度に使用開始となる新しい学習指導要領に準拠した中学校用歴史教科書を発行することを予定している。 (乙11、15、64、弁論の全趣旨) (5)原告らが表明している次期採択期間(平成22年度)以降における対応 原告ら(つくる会)は、現行配給期間の満了後、すなわち、平成22年度以降においては、被告とは別の出版社である株式会社自由社(以下「自由社」という。)から、中学校用歴史教科書を発行及び供給することを計画し、平成20年4月、文部科学省に教科書の検定を申請した。 自由社版の新教科書は、平成21年4月、文部科学省から検定決定(検定合格)を受け、現在採択の手続に乗せられている(上記(2)エ参照)。 (甲31、32、乙76、84、弁論の全趣旨) 2 争点 (1)原告らの有する著作権の対象及び内容(本件書籍は、単元ごと又はコラムごとに単独の著作権が成立する結合著作物であるのか、共同著作物であるのか)について(争点1) (2)本件許諾契約における発行期間についての合意内容(本件許諾契約における本件書籍の発行期間は、平成23年度の終了までであるのか否か)(争点2) (3)本件許諾契約の合意解約の有無(争点3) (4)本件許諾契約が解除により終了するか否か(争点4) ア 解除の意思表示の有無 イ 解除につき「やむを得ない事由」を要するか否か及び原告らによる解除につき「やむを得ない事由」があるか否か (5)本件書籍が共同著作物である場合、被告は共同著作者であるか否か及び原告らが本件書籍を平成22年度及び平成23年度に発行する旨の合意を拒む「正当な理由」の有無(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告らの有する著作権の対象及び内容)について 〔原告らの主張〕 (1)原告A、原告C(以下「原告C」、又は「C」という。)及び原告D(以下「原告D」、又は「D」という。)は、別紙著作権者一覧表記載のとおり、本件記述につき、著作権を有する(甲19)。 また、原告Bは、本件書籍の初版本のうち、別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「Bの執筆した初版本原稿をAが加筆修正(二次的著作物)」と記載のある部分に対応する記述につき、著作権を有し、原告Cは、本件書籍の初版本のうち、別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「Cの執筆した初版本原稿をAが加筆修正(二次的著作物)」と記載のある部分に対応する記述につき、著作権を有する。 (2)本件書籍が共同著作物であるとの主張について ア 本件書籍は、見開き2頁で1項目を叙述する体裁を採用し、各項目本文はこれを割り当てられた担当執筆者が各自執筆しているものである。各項目はいずれも本文それ自体が完結した歴史記述に係る表現物であることは明らかである。また、コラムは、完全に独立した歴史上の挿話等の記述である。 イ 被告が関わったと主張する図版、写真、地図等はあくまでも読者の理解を深め、あるいは、発展的知識を提供する補助的な存在であるにすぎない。実際の教科書作成過程を見ても、本文を書いた後に図版等の選択、レイアウト等の作業が行われるのであり、本文やコラムと図版等とは全く別のものであって、これらが分離不可能であるとはいえない。 ウ 本件記述は、古代から現代までの通史たる教科書の一部を構成する記述として使用しなくても、単独の著作物として出版、閲覧、発表の用に供することが可能である。 本件書籍において、本件記述にかかる部分を別の執筆者による執筆と置き換えれば、教科書として使用することも可能であって、本件記述が代替不能で、原告らの執筆に係る本件記述でなければ、教科書として成り立たないという類のものではない。 (3)仮に、共同著作物であるとしても、原告らは、本件書籍につき共同著作権を有する。 〔被告の主張〕 (1)各単元やコラムごとに単独著作権が成立するとの原告らの主張について ア 著作者の認定に当たっては、著作に関与した著作関係者の意思を尊重するべきであり、原告らの主張は失当である。 すなわち、原告らの主張は、本件教科書作成当時、原告らを含む教科書の作成に関与した全著作関係者が、本件教科書の著作者について有していた共通認識と著しく乖離するものである。 本件教科書の編集会議に参加した全著作関係者は、本件教科書全体につき、全著作関係者の思想又は感情を反映したものとするとの認識で教科書の作成に携わっていたのであり、各単元やコラムごとに独立した各著作者の個別の思想や感情の表現物をつぎはぎしたものを作成する意思ではなかった。 イ 原告らの主張は、各単元やコラムごとに独立した著作権が成立するとした場合の不都合の点からも(各単元やコラムごとに成立する著作権を有する者に、それぞれ、本件書籍の絶版請求権(著作権法84条)を認めるのに等しい。)、採用し得ないものである。 ウ 本件書籍を作成するに当たり、各単元やコラムごとに著作者を確定したという事実はない。 エ 本件書籍における原告Aの各リライト部分が、初版本の各該当部分の二次的著作物に該当するとの主張も失当である。 (2)共同著作物とは、「2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」をいい(著作権法2条1項12号)、@複数の者が創作したこと、A複数の者による創作行為が共同して行われたこと、B各人の寄与を分離して個別に利用することができないこと、を要する。 本件書籍は、以下のとおり、上記要件をいずれも充足するから、共同著作物である。 ア 複数の者が創作したこと(@) 「新しい歴史教科書(初版本)」を作成するに当たっては、再三にわたって編集会議を行い、同会議における合意内容に従って、記載内容を確定させた。最終的な記載内容は、単独の執筆者によってではなく、編集会議の合意によって決定された。 また、本件書籍を作成するに当たっても、編集会議の合意によって作成された初版本の記載に原告Aや被告の編集部員のE(以下「E」という。)が加筆修正した原稿に、他の執筆者や監修者による大幅な修正が加えられた。被告の編集部員であるG(以下「G」という。)やEも、原告Aによる「コミンテルン」や「大東亜戦争」に関する加筆部分について大幅な内容の修正を要求し、修正を実現している。 さらに、本件教科書については、教科書としての完成度を高め、生徒にとって分かり易く、興味の湧く内容とするため、被告の編集部員が新設された課題学習の項目やその他の箇所を追加執筆しており、生徒の学習効果を高めるため、創意工夫を凝らした内容となっている。 以上のとおり、本件書籍は、被告を含めた著作者らが複数で創作したものである。 そのため、本件書籍には、執筆者として、被告を含めた7名の著作者が記載されているのである(著作権法14条)。 イ 複数の者による創作行為が共同して行われたこと(A) 本件教科書の作成に当たっては、特定の思想的立場や歴史的立場に立つことなく、学習指導要領に忠実で、かつ、健全な社会的常識や保守的な傾向をもつ歴史教科書である教科書を作成し、これを文部科学省の教科書検定に合格させ、より多くの学校で採択され、生徒に使用してもらうという目的の下に、全著作者が一致して、創作行為を行った。 したがって、全著作者の間に、著作物を共同して作成しようとする共通の意思が存在していた。 ウ 各人の寄与を分離して個別に利用することができないこと(B) (ア)本件教科書は、原告Aらが加筆、修正した原稿に対して、内容面を含む大幅な修正が被告の担当者を含め他の著作者から要求され、全著作者の合意に基づいて、修正が施されているのであり、原告らのみの創作的表現部分を物理的に分離することは不可能である。 (イ)本件教科書は、中学校用歴史教科書として使用することを目的とするものであり、本件教科書を使用する生徒の理解を助けるために、学習指導要領の趣旨に沿って、図版等が多く用いられている。 本件教科書が検定を受けた、平成15年度の教科書検定基準として、「図書の内容の組織及び相互の関連は適切であること」、「図書の内容のうち、説明文、注、資料などは、主たる記述と適切に関連付けて扱われていること」などが挙げられており、本件記述部分のみでは、中学校用歴史教科書として使用することも、そもそも、教科書検定に合格することもできない。他方、本件教科書は、全体として教科書検定に合格しているため、原告らが差止めを求める一部分のみが使用不能となった場合、本件教科書全体が使用不能となる。 以上のとおり、本件記述を中学校用歴史教科書として個別的に利用することは不可能である。 (3)原告らは、甲第19号証は、本件書籍の著作権者を決定したものである旨主張する。 しかしながら、甲第19号証は、本件教科書の印税配分を決める甲第23号証を作成するために作成されたものにすぎない。 本件教科書の印税の配分については、主に原告Aと被告の編集部員であるEとが相談し、甲第23号証に記載された方法で支払うこととした。印税配分の対象頁を確定する方法として、教科書の初稿担当者の担当頁によって計算することにしたのである。 本件教科書本文の初稿は、原告Aによってリライトされたものの、初版本の内容を踏襲した箇所も多かった。原告Aは、初版本の初稿担当者を知らなかったため、Eにおいて、初稿担当者を記号等で記入し、印税対象頁の確定の参考にしてもらうために作成したのが甲第19号証である。 2 争点2(本件許諾契約における発行期間についての合意内容)について 〔被告の主張〕 (1)本件書籍を発行するに当たり、本件書籍の発行期間については、原告ら、被告及びその他の著作者間において、本件書籍を改訂するまでの間、すなわち、学習指導要領の改訂が行われない場合は採択期間の4年間、学習指導要領の改訂により次回の採択期間が短縮されたことに伴い端境期が生じる場合は、採択期間の4年間+端境期の期間、中学校用教科書として出版、頒布することが当然の前提とされており、全著作者が合意していた。 (2)「採択期間の4年間+端境期」の期間における発行が合意されていた根拠ア 中学校用教科書が生徒によって使用される極めて公共性の強い著作物である以上、中学校用教科書の改訂時期が到来する前に、一部の著作者や出版社の意思で発行を取り止め、教育現場の混乱を招くなどということが許されるはずはなく、本件教科書の発行に当たっても、少なくとも改訂時期が到来するまでは、本件教科書を継続発行することが、全著作者において当然の前提とされていた。 イ 教科書業界の慣行 学習指導要領が改訂されたことにより、採択期間が短縮され、端境期が生じた場合の中学校用歴史教科書の発行者の対応としては、@端境期の期間のみに使用される教科書を新たに作成又は改訂し、検定を経て発行する、A端境期の前に発行していた教科書を継続発行する、の2通りの対応が考えられる。 しかし、実際の教科書発行の現場においては、中学校用歴史教科書発行者は、次回の学習指導要領改訂に対応した教科書作りに注力し、教育現場の混乱を防ぐため等の理由により、端境期のみのための教科書を発行することはない(上記@の対応をとることはない。)。 現在中学校用歴史教科書を発行する出版社7社(被告を除く)は、いずれも、学習指導要領の改訂により採択期間が4年に満たない端境期が生じた場合において、中学校用歴史教科書の改訂を行わず、「4年+端境期」の期間継続して発行している(上記Aの対応が定着している。)。 以上のとおり、教科書発行現場における中学校用歴史教科書の発行期間は、学習指導要領の改訂が行われない場合は採択期間の4年間、学習指導要領の改訂により端境期が生じる場合は「採択期間の4年間+端境期」の期間とされており、これは、教科書作成に要する時間、労力、経済的合理性等を踏まえた教科書業界の慣行である。 本件教科書を発行する際、上記教科書業界の慣行を熟知する各著作者のいずれからも、上記慣行に反する意見は提起されなかった。 ウ 本件書籍と同様に、「つくる会」の提案を受け、被告やつくる会の理事などが執筆者となり、被告が発行した「新しい公民教科書」については、平成22年4月からの端境期の2年間についても、教科書業界の慣行に従い、当然使用が継続されることになっている。 本件書籍について、他の7社や「新しい公民教科書」の取扱いと異なる取扱いとする旨の合意があったとする証拠はない。 エ 原告らが、本件書籍の発行期間が、採択期間の4年間+端境期の期間であることを自認していたことは、平成19年9月9日に開催されたつくる会の第10回定期総会において、つくる会の次期教科書進行予定について、次のとおり決議していることからも明らかである(乙1)。
オ 原告Aとつくる会執行部のメンバーは、平成19年5月17日、被告を訪ね、本件教科書の版権譲渡の話合いをしたい旨述べた(乙50)。原告らが主張するように、本件教科書の発行期間が4年間であり、端境期に及ばないとするならば、原告らが被告に対し、本件教科書の版権譲渡を求める必要はない。 カ 原告Aは、平成19年6月21日、文部科学省記者クラブで会見を行った際、記者の質問に対し、「被告には本件教科書を改訂することなく出版し続ける権利があり、そのことを原告らも認めており、その上で本件教科書の継続発行がユーザーである生徒に対する責任であり、原告らと被告との関係がどんなにおかしくなっても、その点だけは絶対に守らないといけない」旨を述べた(乙66)。 (3)平成20年に改訂前の学習指導要領に基づき検定申請がされ、これに合格し、採択された教科書については、平成22年度から使用されることになる。 しかしながら、文部科学省が平成20年3月28日に告示した新しい学習指導要領が平成24年度から施行されるため、改訂された学習指導要領の施行の直近の採択期間について採択された教科書は、平成22年度及び平成23年度の2年間しか使用することができない。 平成20年度に告示された新しい学習指導要領が平成24年度から施行されることにより生ずる端境期は、平成22年4月1日から平成24年3月31日までである。 (4)以上のとおり、本件書籍の発行期間は、平成24年3月31日までであり、原告らが主張する平成22年3月末日の時点では、発行期間が経過しておらず、原告ら、被告及びその他の著作権者の間における本件書籍を継続発行することについての合意は存続していることになる。 したがって、原告らは、被告に対し、本件教科書の改訂が行われず、本件教科書の継続発行が当然に予定されている平成22年3月1日の時点で、同日以降の本件書籍の出版等の差止めを求めることはできない(この点は、本件書籍が共同著作物であるか否かに関わらない。)。 〔原告らの主張〕 (1)義務教育用教科書は、各教育委員会の教科書採択により4年間同一教科書が配給されることになっている(義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律3条、13条、14条、同法施行令14条)。 本件許諾契約は、口頭によりされたものであり、許諾期間は契約書等に明記されているわけではないものの、教科書採択制度に基づき、合理的に解釈すれば、採択期間の4年間を一単位としていることが明らかであり、本件許諾契約における許諾期間は、平成17年に行われた採択についての期間が終了する平成21年度まで(平成22年3月末日まで)である。 (2)被告の主張(本件許諾契約における発行期間が「採択期間4年間+端境期」であるとの主張)について ア 著作者と出版社との間の出版許諾契約は、各採択期間ごとに契約ないし更新をするのが商慣習であり、平成22年度、平成23年度の採択期間も例外ではない。被告が主張する「端境期の商慣習」など存在しない。 平成22年度の教科書採択は、法的にも、実務的にも、通常の教科書採択と全く同一であって、異なるのは、新指導要領改正の影響で採択期間が2年間と短くなるという点のみである(したがって、短縮された採択期間であっても、教育委員会等において、教科書の採択が新規に行われる。)。 イ 次期採択に際して、教科書を改訂して発行するか、改訂せずに現状のまま発行するか、発行を取り止めるか、あるいは、別の出版社から発行するかは、著作者である原告らと出版社である被告との間で、協議し、合意しなければならない。 しかしながら、現行採択期間の当初において、原告らと被告との間で、短縮された採択期間が生じたらどうするかという点について協議したこともなければ、考慮したことすらない。むしろ、当時は、学習指導要領の改訂がされなければ、平成22年度からの次期採択期間は、現行の学習指導要領の下で、本件教科書の再改訂を行って、内容の改善を図り、「第三版」を出版するというのが、原告らと被告との共通認識であった。 ウ 被告は、平成19年9月9日つくる会定期総会議案書(乙1)の「次期教科書発行体制について」の記載を根拠に、原告ら(つくる会)は、平成22年度も本件書籍を被告から出版する予定であったと主張する。 しかしながら、同記載は、新学習指導要領による新教科書の製作、検定申請等に関する予定であって、現行学習指導要領下で生じると予想される端境期における教科書の発行について言及したものではない。実際、この時点において、原告ら(つくる会)は、被告とは別の出版社から現行学習指導要領に基づく教科書を出版する決意を固め、既にその準備を始めていたのである。 エ 被告は、原告Aが、平成19年6月21日、文部科学省記者クラブで会見を行った際、記者の質問に対し、「被告には本件教科書を改訂することなく出版し続ける権利があり、そのことを原告らも認めており、その上で本件教科書の継続発行がユーザーである生徒に対する責任であり、原告らと被告との関係がどんなにおかしくなっても、その点だけは絶対に守らないといけない」旨を述べたと主張する。 しかしながら、原告Aは上記の趣旨の発言をしたことはない。 被告が提出する乙第66号証は、作成者が明らかでないことに加え、録音テープを反訳した書面の体裁をとりながら、録音テープの提出もされていないのであり、証拠としての信用性はない。 (3)もともと、新学習指導要領の実施は、平成22年度からという見込みであった。 しかしながら、平成19年秋ころ、新学習指導要領の実施が2年遅れそうだという情報が流れたため、原告ら(つくる会)は、平成21年度で被告との関係を解消するとした以上、たとえ2年間の端境期であっても、別の出版社から教科書を発行する必要があると考え、急遽、現行の学習指導要領に準拠した教科書を別の出版社から発行する準備を整えたものである。 ところが、被告側は、端境期について何らの備えもしていなかったため、自ら原告ら(つくる会)との関係解消を言い出したにもかかわらず、新学習指導要領の実施が遅れるとの事態に直面し、前言を翻して引き続き本件教科書を被告から発行する旨主張し始めたにすぎない。 3 争点3(本件許諾契約の合意解約の有無)について 〔原告らの主張〕 (1)被告は、平成19年2月26日、原告ら(つくる会)に対し、本件書籍の出版を平成21年度を最後に終了し、平成22年度からは被告独自の教科書を被告の子会社から出版することを通告した(甲2)。 原告らも、被告からの上記通告を受け、平成19年6月13日、被告に対し、現行教科書配給期間が終了する平成22年3月をもって本件許諾契約を解約する旨通知し、同通知は平成19年6月15日、被告に到達した(甲3の1・2)。 これにより、原告らと被告との間で本件許諾契約を平成22年3月をもって解約することが合意された。 (2)原告らとの関係を解消して、別途独自の歴史教科書を出版すると言い出したのは、被告の方であり、その際、被告は、原告らに対し、平成22年度供給の教科書については、「日本教育再生機構」(原告らと対立して、つくる会を去ったHが理事長を務める団体)と協同して、別法人から出版する予定である旨通告してきたのである。 被告自ら、平成21年度供給本を最後に本件書籍を出版しないことを通告し、これを受け、原告らは、現行配給期間の終了をもって使用許諾を打ち切ることを被告に通知したのであるから、平成19年6月の時点で、原告らの意思及び被告の意思は、本件許諾契約を平成21年度をもって終了することにおいて合致した。 〔被告の主張〕 (1)甲第2号証及び甲第3号証の1は、本件書籍の発行が終了した後、新学習指導要領に基づいて作成される次回教科書の発行を問題とする書面であり、端境期が生じた場合に、本件書籍が継続発行されること自体は、当時、原告ら及び被告双方が当然の前提としていた。 甲第2号証の通知を発した当時、原告らと被告との間で新学習指導要領の実施が平成22年度からであり、端境期が生じないことが見込まれていたことから、被告は、甲第2号証においては、次期教科書の供給開始時期が平成22年度となることを前提として、「平成22年度から新会社で教科書を発行する」旨を通知したにすぎない。その趣旨は、あくまで、本件教科書の配給完了までは、被告が本件教科書を継続して発行するというものであった。このことは、甲第2号証の文中に「次の改訂教科書の供給開始時期である2010年度」と記載されていることからも明らかである。 これに対し、原告A及び原告Bも、上記事情を認識した上で、「平成21年度まで」ではなく、「現行版(改訂版)の配給終了をもって」被告に対する著作権使用許諾を打ち切る旨を通知してきたのである(甲3の1)。 したがって、原告らと被告との間で、平成19年6月、本件書籍の出版を平成21年度をもって取り止める合意が成立した事実はない。 (2)被告も、原告らも、本件教科書を作成し、発行するに際し、学校現場でたとえわずかでも本件教科書を使用する生徒、教師が存在する限り、本件教科書を継続して発行することを、「新しい歴史教科書(初版本)」及び本件教科書を通じた共通の目的とし、本件教科書の継続発行を前提として、学校現場に対し、本件教科書を採択するよう呼びかけてきたのである。 (3)被告は、甲第2号証の通知をつくる会に発した後も、原告らに対し、本件教科書の改訂への協力を継続して求めていた(乙14、15)。平成19年6月当時は、被告が、つくる会との協力関係の再構築の可能性を模索していた時期である。それにもかかわらず、被告が、本件教科書の出版を平成21年度で取り止めるという合意をするはずがない。 4 争点4(本件許諾契約が解除により終了するか否か)について 〔原告らの主張〕 (1)仮に、本件許諾契約が期間の定めのない契約であるとしても、原告らは、平成20年3月28日、被告に対し、平成22年3月までの教科書配給期間(平成21年度)の満了をもって、本件許諾契約を解除する旨の通知をし、同通知は、同月31日、被告に到達した(甲9の1・2)。 (2)本件許諾契約を解除するにつき、「やむを得ない事由」が必要であるとの被告の主張は争う。 仮に、本件許諾契約を解除するにつき、「やむを得ない事由」が必要であるとしても、被告の信義誠実にもとる対応が原因で原告らと被告との間の信頼関係が完全に破壊されていること、原告らが自由社から同社版の新教科書を出版する予定であることに照らせば、原告らにおいて本件許諾契約を解除するにつきやむを得ない事由があるというべきである。 (3)被告の主張について ア 被告の事実経過に関する主張は、次の事実経過をあえて隠蔽する主張である。 (ア)平成19年2月26日、被告は、原告らつくる会との関係解消を一方的に通告し、その申し渡しの際、被告代表者は、「別の出版社があるならどうぞおやり下さい」と言い放った。 (イ)同年4月、原告らが被告を訪問した際、被告の担当者は、平成17年度の採択で本件書籍を採択しなかった教育委員会の本件書籍に対する否定的評価を述べた調査報告書を読み上げて、本件書籍に欠陥があるから採択されなかったと批判した。 (ウ)同年5月8日、被告の関係団体の者が、原告Aに対し、被告が歴史教科書をつくる会から取り上げることによって、つくる会は解消するともくろんでいることを告げた。 (エ)同月17日、被告の翻意の可能性を確かめた原告らに対し、被告の役員が被告の方針に変更がない旨言明し、「どこかの出版社から出してもらいたい」と述べた。 イ 被告は、原告らが他社から中学校用歴史教科書を新たに発行することを決めていたにもかかわらず、平成20年3月28日まで、その意図を明らかにせず、偽装を続けた旨主張する。 しかしながら、平成19年2月26日の被告からの絶縁状(甲2)を突き付けられ、原告らが、被告に対し、同年6月13日、「現行版(改訂版)の配給終了をもって、御社に対する著作権使用許諾を打ち切る」ことを通告した時点で、原告らと被告との間の関係は、現行採択期間における本件書籍の発行協力義務を除いて解消されているのであり、原告らには、その後の行動を被告に通知する義務はない。 原告らが、被告に対し、平成20年3月28日に、改めて上記通告と同一の趣旨を通告したのは、同日に新学習指導要領が告示され、その実施が平成24年度からとなり、平成22年度から2年間は現行の学習指導要領に基づく教科書が使用されることが確定したからであり、通告の時期にそれ以上の意味はない。 〔被告の主張〕 (1)原告Aが、被告に対し、平成20年3月28日、甲第9号証の1の通知を発し、同通知が、同月31日、被告に到達したことは認め、その余は否認する。 甲第9号証の1の通知人は、原告Aのみであり、原告B、原告C及び原告Dは通知人となっていない。 (2)解除について ア 仮に、本件許諾契約が期間の定めのないものであったとしても、本件許諾契約がもともと共同著作物である本件書籍の共同著作権の行使に関わるものであり、@中学校用歴史教科書の発行が公益的性格を強く有していること、A検定、採択制度がある中学校用歴史教科書を改訂するためには相当の準備期間を要すること、B改訂につき時期的制限があること等の事情に照らし、原告が任意の時期に一方的に本件許諾契約を解除することができるとする合理的理由はないというべきである。 本件教科書の発行は、生徒に無償配布される義務教育中学校教科用図書の出版という、極めて公共性の強い事業であり、また、相当の長期間にわたって発行を継続することが制度的に予定されている場合であるから、継続的法律関係である本件許諾契約を解除するには、「やむを得ない事由」が必要とされるべきである。 イ 以下の点に照らせば、原告らによる本件許諾契約の解除には、「やむを得ない事由」は認められない。 (ア)本件については、以下の経緯がある。 @ 原告らは、平成18年11月21日、被告に対して要望書を提出し、本件教科書と「新しい公民教科書」の両方の継続発行を求めてきた。 A 原告Aは、平成19年5月7日の時点で、現行学習指導要領に基づく自らの中学校用歴史教科書を「端境期」に新たに発行することを決めていたにもかかわらず、その決意を他者に明らかにしなかった。 B 原告Aらは、平成19年5月17日、被告を訪問し、本件教科書の版権譲渡の話合いを申し入れた。 C 原告Aは、平成19年6月21日、文部科学省記者クラブで会見を行った際、記者の質問に対し、「被告には本件教科書を改訂することなく出版し続ける権利があり、そのことを原告らも認めており、その上で本件教科書の継続発行がユーザーである生徒に対する責任であり、原告らと被告との関係がどんなにおかしくなっても、その点だけは絶対に守らないといけない」旨を述べ、上記Aの「決意」を極秘のうちに進めた。 D 原告らは、平成19年8月に、被告から、本件教科書を供給が完了するまで引き続き発行する旨伝えられた後である、平成19年9月9日のつくる会の総会の時点においてさえ、端境期後の新学習指導要領に基づく教科書の発行のみを決議し、偽装を続けた。 E 原告らは、平成22年4月から供給する教科書改訂のために被告が新たに検定申請をすることがおよそ不可能となった平成20年3月28日になって初めて、被告に対し、平成22年3月をもって著作権の使用を拒絶することを内容とする通知を発した。 (イ)中学校用歴史教科書を発行する、被告を除く出版社7社は、いずれも、学習指導要領の改訂により採択期間が4年間に満たない端境期が生じた場合につき、「4年間+端境期」の期間、中学校用歴史教科書を継続して発行しており、これは、教科書作成に要する時間、労力、経済的合理性等を踏まえた教科書業界の慣行である。 既に検定を合格した教科書のうち、平成22年度から使用開始となる教科書のために改訂されたものは1冊もない。 (ウ)被告は、教科書の公共性に鑑み、教科書発行者として本件教科書を教育現場に継続供給する義務を負っている。 加えて、被告は、本件教科書の作成につき、自らも本文の文化史部分、課題学習等の項目を執筆し、図版等の多くを製作した。また、被告は、原告らと共に、編集会議に参加し、教科書としての作成方針の決定、原稿の作成、修正及び確定に従事し、検定段階においては、文部科学省との折衝を行い、本件教科書を検定合格に導いた。 (エ)原告らが差止めを求める本件書籍のうちの対象部分(本件記述)は、それのみでは、到底教科書として使用し得ない一部分にすぎず、そのような一部分のみの使用差止めを求める実益も必要性もない。 (オ)被告は、原告らに対し、本件書籍の印税を約束通りに支払っており、今後も印税を約束に従って支払う予定である。 (カ)本件教科書を採択している中学校が、平成22年度及び平成23年度においても、本件教科書を使用することを希望している。 (キ)原告らは、本件教科書とほぼ同内容の自由社版新教科書の発行を予定しており、本件教科書の内容が原告らの「確信に適合しなくなった」(著作権法84条3項)場合には当たらない。 (ク)被告は、自由社版新教科書の発行の差止等を求めることは考えておらず、本件教科書、自由社版新教科書を含め、採択については、採択権者の裁量に委ねられるべきであると考えている。 5 争点5(被告は本件書籍の共同著作者であるか否か及び原告らが本件書籍を平成22年度及び平成23年度に発行する旨の合意を拒む「正当な理由」の有無)について 〔被告の主張〕 (1)被告が本件書籍の共同著作者であること ア 被告は、本件書籍の作成につき、自らも50頁にわたる課題学習等の項目を執筆し、本文についても、文化史部分の改筆を担当し、図表等の多くを製作した。また、被告は、本件書籍を生徒のための学習教材として使用しやすいものとし、本件書籍を検定に合格させる内容とするという、原告らとは異なる役割と目的をもって編集会議に参加し、教科書作成方針の決定、原稿の作成、修正、確定(一部修正の実作業も担当)等を行い、さらに、検定段階においては、被告のみで文部科学省との折衝を行った。 そして、被告は、上記のとおり、本件書籍全体の創作へ多くの関与をしたこと、原告らも、被告がこうした創作に関与したことを認めたことから、本件書籍の奥付に教科書全体の執筆者として名を連ねた。 本件書籍の奥付において、本件書籍の執筆者の一人として被告が記載されており、被告が著作権者であることが推定される(著作権法14条)。 イ 被告が本件書籍の共同著作者であること (ア)被告が本件書籍を創作したこと a 教科書検定において文部科学省はあくまでも検定意見を述べるのみであり、検定意見を受けて、教科書の具体的な文言等を修正するのは出版社を含む著作関係者の役割である。 本件教科書に関し、検定に合格させるために文部科学省の教科書調査官と折衝を行ったのは、被告の編集部員のみであった。 教科書の理念や特色等を失わせないようにしながら、検定に合格することができるような内容に修正するため、折衝により得られた情報を教科書の文言等に反映させることができたのは、被告の編集部員のみであったため、実際に、修正文言は編集部員が起案する箇所が多く、最終的に編集会議の合議で決定された。 上記修正作業は、学習教材としての本件教科書の創作活動の重要な部分を占める作業である。 b もともと、本件教科書は、小説などの著作者の思想内容が自由に表現されるものとは異なり、義務教育段階にある中学校の生徒に対して、学問的一般常識に基づく適切な知識を与えるためのものであり、また、文部科学省が告示する学習指導要領及び教科書検定制度による内容の制約を受けるため、著作物としての創作性が高いものではない。中学校用歴史教科書が、一般に著作物とされ、奥付の執筆者欄に出版社が記載されるのも、中学校用歴史教科書の作成において、出版社が創作活動を行っていることを反映したものにほかならない。 (イ)被告が創作活動を他の著作者らと共同して行ったこと 本件書籍は、被告の編集部員を含む編集会議の総意によって共同して作成されて創作されたものである。 a 「新しい歴史教科書(初版本)」の改訂版となる本件教科書を作成するに当たっては、被告の編集部員を含む編集会議によって、初版本のコンセプトは変えずに、教科書を利用する生徒にとってより使いやすいものとするために頁数を削減し、課題学習等のコラムを充実、新設するという方針が決定された。 b 本件教科書の分量を初版本の3分の2程度に削減するため、初版本においては、4頁で1単元で構成されていたものを2頁に圧縮することになったが、どの単元を2頁に圧縮し、あるいは、2つの単元に分けるかの決定は、被告が案を提示し、原告Aの意見を受けて調整するという方法で行われた。課題学習等のコラムをどの部分に配置するかについても、被告が当初の案を提示した。 この本件教科書の作成方針には、被告が深く関与し、その提案が多く採用されている(乙18)。 c 原稿の作成作業は、初版本のコンセプトは変えないまま頁数の削減のために文章をリライトするというものであり、最終的な内容は著作関係者らによる編集会議によって決定するというものである。 初版本のリライト原稿の作成は、当初、古代から中世の部分をI(以下「I」という。)が、近世以降については原告Aが、それぞれ担当することになっていた。当初のリライト原稿のうち、Iの原稿は、同人の都合もあり、被告の編集部員であるEにおいて、全面的な改筆作業を行った(文化史部分)。 その後、古代から中世の部分を含む全体(本文部分)については、原告Aがリライトすることが編集会議により決定され、原告AはIの原稿をEが改筆した原稿を参考にしながら、リライト作業を行った。 d リライト原稿の作成作業は、まず、原告Aが、リライト原稿を作成し、その原稿に対して、被告の編集部員のEが、学習教材としての利用のしやすさや、教科書検定の合格のための必要条件を満たしているか否かという観点から修正を加えたり、原告Aに意見を述べたり、文章を作成したりするという方法で進められた。原稿が不適切な場合には、被告の編集部員が全面的に書き直しを求め、完成したケース(乙5の1・2)や、被告の編集部員が原稿に赤字を入れ、修正を行ったケース(乙6の1ないし3、乙7の1・2)、被告編集部員が自ら執筆したケース(乙8の1ないし3)もある。 そして、リライト原稿の完成後、編集会議によって、リライト原稿の内容が検討され、多くの箇所が修正され、最終的な原稿の内容が決定された。 e 原告Dから提出された原稿については、時系列の混乱や内容の誤り等が見られたため、被告の編集部員であるEにおいて、改筆を行った。Eは、当初の内容を尊重しつつも、全体を再構成してリライトしている。 f さらに、本件教科書の検定段階における文言の修正等の作業においても、被告編集部員が重要な役割を果たした。 本件教科書について、文部科学省の修正意見を受けた後の調査官との折衝に携わったのは、著作関係者の中では、被告の編集部員であるGとEのみであり、GとEは、折衝により得た情報を基に、修正案文を考案し、編集会議の合議を経て、文部科学省に提出する修正表(乙9)等も作成している。 g 本件教科書の課題学習等のコラムについては、被告の編集部員のEらが執筆した。図版、地図、表は、初版本の際に被告が作成したものを含め、その多くを被告の編集部員が収集、作成した。原告らが、図版等の選択について、おおまかな指示をすることはあったものの、実際に、図版等を収集し、選択する作業は被告の編集部員であるEが行っており、歴史地図の内容や図版に描かれるべき内容、グラフの数値や写真の配置等を決めたのは被告である。 (ウ)以上のとおり、本件教科書は、被告の編集部員を含む、執筆者、監修者らによって、共同して作成された共同著作物であり、被告は本件書籍の共同著作者である。 ウ 原告らの主張について (ア)本件書籍の共同著作物性の有無は、著作物を共同して創作したか否かという点によって決せられるのであって、印税が10%であるか、5%であるか、あるいはその配分いかんによって決まるものではない。 本件における印税の支払は、あくまでも各人の実作業量を勘案して支払われたものにすぎない。 (イ)被告は、つくる会の提案を受け、教科書事業への参入を自らの判断で決定し、本件教科書の編集、作成を行い、本件教科書を編集会議の構成員やその他の著作権関係者らと共同で創作した。 このことは、つくる会の声明文(乙2)によっても明らかである。 (ウ)本件教科書の採択の成果は、被告の活動によるところが大きく、実際、本件教科書を採択している各中学校と被告とは現在も良好な関係にある(乙3)。 (エ)執筆者の人選は、被告とつくる会関係者の双方で協議し、最終的には編集会議において決定されたことである。 また、そもそも、執筆者の人選自体は、著作権者を決定する根拠とはならない。 (オ)本件教科書の執筆、編集について決定権を持ち、責任を負っていたのは、編集会議であり、原告らやつくる会理事会ではない。 被告の編集部員が出席しないつくる会の理事会において、本件教科書の文言等が決定された事実はない。文部科学省との折衝に携わった被告の編集部員が出席しないつくる会の理事会において、検定申請後の文言の修正等を行うことができたはずはない。 (カ)本文以外の周辺教材の選択、配置、作成の実作業の一部を原告Aが行ったことは認める。 しかしながら、これらの決定も、編集会議によって行われ、実作業の大部分を被告の編集部員が担当した(乙10の1・2)。 (2)原告らが本件書籍を平成22年度及び平成23年度に発行する旨の合意を拒む「正当な理由」がないこと 仮に、本件許諾契約における本件書籍の発行期間が平成22年3月までであったとしても、本件許諾契約がもともと共同著作物である本件書籍の共同著作権の行使に関わるものであり、@被告が教科書の公共性に鑑み、教科書発行者として本件教科書を教育現場に継続供給する義務を負っていること、A原告らが差止めを求める本件教科書の本件記述が、本件記述のみでは到底教科書として使用し得ない本文の一部分にすぎず、そのような一部分のみの使用差止めを求める実益も必要性もないこと、B当初、端境期における教科書を発行する予定のなかった原告らが、その後、予定を急遽変更し、端境期における教科書の発行を目的として、文部科学省に提出する検定申請本の作成準備を進めていたにもかかわらず、その事実を公表しなかったこと、等の事情に照らせば、原告らには、被告による本件書籍の継続発行を拒絶する「正当な理由」(著作権法65条3項)は認められない。 〔原告らの主張〕 (1)被告は本件書籍の共同著作者ではないこと ア 本件書籍(本件教科書)が一般の教科書とは異なるものであること (ア)一般の教科書は、教科書出版会社が発行を企画し、執筆者を選定し、編集方針を立て、教科書を製作する。原稿の執筆は、しばしば、教科書出版会社の編集担当者が行い、教科書を権威付けるなどの販売戦略上の考慮から、学者が執筆者として名前を連ねるという形で作成されることも少なくない。執筆者に名前を連ねている者が原稿を執筆する場合でも、その原稿は原型をとどめないほど編集部によって書き直され、実際には、編集部が執筆したといっても過言ではないような例も多い。 こうした一般の教科書の執筆・編集の実情を反映して、教科書の奥付に、執筆者として、「○○書籍編集部」などの記載がされるという慣行が、教科書業界では確立している。 また、印税の配分は、通常の書籍では10%を著作者に支払うとされるものの、教科書においては、著作者に支払われる印税は5%とされている。これは、残りの印税5%分は、教科書出版会社に帰属すべきものと考えられているからである。 一般の教科書において、教科書が執筆者と教科書出版会社との共同著作物であるとされるのは、上記のような教科書執筆、編集の実態を反映したものである。 (イ)他方、本件書籍は被告が営利事業の一環として自ら企画したものではない。 平成8年、従軍慰安婦の強制連行説が文部省検定済みの全社の中学校用歴史教科書に載ったことが契機となって、こうした教科書を支配する「自虐史観」を是正するための国民運動が起こり、翌年、原告らが中心となって「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)が結成された。つくる会は、会の「設立趣意書」を定めて、これに賛同する会員を募り、その会員の会費によって運営され、上記趣意書に基づき、その理念を実現する教科書を発行することを義務付けられている。 つくる会は、教科書の出版を引き受けてくれる出版社を探し、被告がこれを引き受け、つくる会の教科書を被告から出版することになった。 そして、被告が教科書の発行を継続することができるように財源的補助を与えること(原告Bの執筆にかかる「国民の歴史」を被告から出版し、同書籍の売上げにより、被告に利益を確保した。)、採択に向けての活動を行うことを含め、本件書籍の発行は、つくる会主導で行われた。 (ウ)また、以下のとおり、本件書籍の執筆、編集においても、つくる会の主導性が貫かれた。 a 執筆者の人選はつくる会の理事会が行った。 b 教科書の理念や内容の特色は、つくる会の趣意書と「国民の歴史」、「教科書が教えない歴史」など、中心執筆者の著作物によって与えられた。 c 教科書の章・節立ては、初版本においては、原告Bと原告Aの合議によってされ、改訂版においては、代表執筆者である原告Aによってされた。 d 本文の執筆はすべて執筆者によってされ、被告の編集担当者が執筆した項目は1つもない。コラムもすべて執筆者によって執筆され、被告の編集担当者が執筆した項目は1つもない。 e 初版本においても、改訂版においても、本文の原稿が大量に不採用になり、執筆者を差し替えて、別の執筆者が全面的に書き直すなどの措置が採られた。 しかしながら、これらは、趣意書の内容を実現し、分かりやすい表現を追及した、つくる会理事会の方針によるもので、被告は一切関与していない。 原稿の検討会議は、つくる会事務所や理事会の開催場所で行われており、教科書の執筆、編集については、つくる会理事会が最終的に決定権と責任を持っていた。 f 本文以外の周辺教材の選択、配置、作成も、原告B及び原告Aが行った。 原告Bは、使用すべき図版を探して配置を指示し、原告Aは、既存の歴史教科書で使用されている図版、写真を比較研究した上で、図版等を選択、配置、作成し、その説明文についても、原告Aが執筆した箇所が少なくない。 被告は出版社として、原告らの指示に従って、著作権者の許諾を取り付けたり、デザイナーに作成させたりしたにすぎない。 g 改訂版において、本文の文章の統一を行ったのは、原告Aである。 原告Aは、図版等の使用許諾を取り付けるなどの出版社が行う実務的な部分を除き、ほとんどの作業を自ら行った。 h 印税10%のすべてが、原告ら執筆者個人に支払われ、かつ、各執筆割合に応じて個人別に支払われた(被告の印税相当取り分は存在しない。)。 本件書籍の各頁の著作権者の特定については、原告Aと被告の編集担当者が確認した上、その執筆箇所と著作権者が特定され(甲19)、被告は、これに基づいて、印税の配分計算を行っており(甲23)、自らに著作権が存しないことを自認している。 (エ)以上のとおり、本件書籍の執筆や編集の実態は、他の一般の教科書におけるものとは著しく異なり、本件書籍を被告との共同著作物であると解する余地はない。 イ 本件書籍の執筆、編集における被告の関与について (ア)編集会議で、被告の編集担当者らが意見を述べたことは否定しない。 しかしながら、それは、誤字の訂正、字句修正、表現の工夫程度にとどまるものであり、創造的な表現行為としての著作物の著作者たるに足るものではない。 編集会議における議論の結果、修正等の意見を受け容れて修正をするか否かは、各担当執筆者の責任で行っている。 (イ)被告の編集担当者らが、文部科学省の検定意見に対応し、修正を考えたことをもって共同著作者であるとすることも失当である。 被告の編集担当者らは、文部科学省の付した検定意見のメッセンジャーにすぎず、修正案を一部提案したことは事実であるものの、それらについても、執筆者である原告らの責任において修正されたのであり、被告の編集担当者らが独自に修正した箇所はない。 (ウ)本件書籍の作成方針は、原告らにおいて策定したものであって、被告が主導して策定したものではない。 そもそも、甲第18号証は、記述の仕方に関する外形的、形式的な方針にすぎず、記述内容に関わるものではない。さらに、その内容も、「リズム、息吹・・・」などと、あいまいなものにすぎない。 (エ)原稿の修正は、基本的には、編集会議で検討、議論された後、その場で修正文が作成される場合と、修正内容の骨子が決定されて、修正文を原告ら執筆者が作成する場合とがある。 この点、被告は、乙第5号証の1及び2の修正は、被告の編集担当者が提起し、修正文案を作成した旨主張する。 しかしながら、上記修正の経緯は次のとおりである。すなわち、原告Dが、原告Aの原稿に意見を書き込んだメモ(甲26)を提出し、「市民革命の箇所の記載が抽象的すぎる。他の教科書では、人名、事件名を盛り込んで具体的に書かれている。」との指摘をしたことから、編集会議においてこれを基に議論がされ、原告Aが原告Dの意見を容れて、修正の方針が決定した。その際、被告の編集担当者であるEの申し出があったため、Eに修正原稿を書かせた。修正の方針を決定したのは執筆者である原告らであり、Eは、上記方針に従って修正案を書いたにすぎず、Eの修正案も、原告Aの承認があって初めて採用されたのである。 上記の程度の修正文の作成をもって、創作的関与であるとはいえない。 なお、被告の編集担当者が作成した本文の修正案は、上記箇所のみである(乙第6ないし第8号証は、編集会議で検討された内容を被告の編集担当者が書記として書き留めたものにすぎない。そもそも、その内容自体、通常の加削修正の域を出ない。)。 (オ)被告の編集担当者であるEは、原告Aと共に、本件書籍の著作者を頁単位で確認した。甲第19号証は、その際に確認された著作者を、原告Aが書き込んだものである。この中には、例えば20頁にあるように「×」と書き込まれた頁がある。これは、20頁ないし21頁の記事がEによって書かれたことを示す記号であり、Eは著作権者ではなく、印税の配分の対象にならないことから、「×」の記号を付した。このような箇所は、全体で14頁ある(20頁ないし21頁、60頁ないし63頁、73頁、84頁ないし85頁、103頁、128頁ないし129頁、177頁、224頁)。 しかしながら、これらは、Eにおいて、教科書を完成させるために、編集者として行った寄与にすぎず、被告自身も、これを著作権の対象となる行為であるとは考えていなかった。だからこそ、印税が、これらの頁と目次、索引などを除く頁の合計を分母とし、各人の特定された執筆頁を分子とした計算式を用いて計算され、配分されているのである(甲23)。 ウ 著作者の推定(著作権法14条)について 著作者を特定する奥付下欄の囲み箇所では、「著作者Aほか11名(別記)」となっているのに対し、別記とされる上部の「著作関係者欄」には、「代表執筆者A」以下、「監修・執筆」の各個人名とともに被告も「執筆」の中に記載がある。しかし、「著作関係者欄」に記載された原告Aを除く監修者及び執筆者の合計は、被告を含めると12名となっており、整合性がない。 他の一般の教科書にならって、出版社である被告の名誉のために、被告が執筆者として形式的に付加されたにすぎない。 (2)原告らが本件書籍を平成22年度及び平成23年度に発行する旨の合意を拒む「正当な理由」があること ア 仮に、本件書籍のうちの一部又は全部が被告との共同著作であると認められるとしても、以下の事情を総合考慮すれば、次の採択期間(平成22年度及び平成23年度)については、原告らにおいて、本件書籍の継続発行を拒絶する「正当な理由」(著作権法65条3項)があるというべきである。 (ア)被告は、「つくる会の意向に沿う教科書はもう出さない。別の執筆陣でやる。」として、原告らつくる会に対して、一方的に絶縁状(甲2)を突き付け、「別の出版社があるのならどうぞおやり下さい。」と言い放ったものであり、これを受けて、原告らは、平成19年6月13日付け「通知書」(甲3の1)により、本件書籍の配給終了をもって、本件許諾契約を打ち切ることを通告した。 これにより、原告らと被告との間の信頼関係は完全に破壊された。 (イ)義務教育に用いられる教科書においては、採択期間中は継続発行義務が課せられ、その途中で改訂ができないという制約がかかることから、採択期間と次の採択期間の節目でしか改訂ができないという著作権に対する制約が課されている。 このことからしても、著作権者である原告らは、現行採択期間の終了をもって、本件書籍を改訂するか、廃刊にするか、そのまま継続発行とするかについて選択権を有する。 原告らは、平成22年度以降、本件書籍の出版を望んでいない。 (ウ)原告らは、別の出版社から別途歴史教科書の出版を予定しており、これとは別に本件書籍の出版を続ける必要性はなく、むしろ、新教科書の採択において競合を生じ、教育現場に無用な混乱を生じさせるという重大な弊害がある。 (エ)原告らが執筆した部分が本件書籍の大半を占めていることに照らし、本件書籍の共同著作権の大半を原告らが有しているといえる。 (オ)被告において、原告らの意向に逆らってまで本件教科書を時期採択期間にまで継続発行しなければならない具体的な必要性が認められない。 (カ)被告は、原告らに対し、平成22年度及び平成23年度における本件書籍の継続発行について、合意形成に向けた働き掛けを一切行っていない(一方的に出版を強行する旨を宣言するのみである。)。 イ 被告の主張について 平成19年2月26日の被告からの絶縁状(甲2)を突き付けられ、原告らが、被告に対し、同年6月13日、「現行版(改訂版)の配給終了をもって、御社に対する本教科書に係る著作権使用許諾を打ち切る」ことを通告した時点で、原告らと被告との間の関係は、現行採択期間における本件書籍の発行協力義務を除いて解消されているのであり、原告らには、その後の行動を被告に通知する義務はない。 原告らが、被告に対し、平成20年3月28日に、改めて上記通告と同一の趣旨を通告したのは、同日に新学習指導要領が告示され、その実施が平成24年度からとなり、平成22年度から2年間は現行の学習指導要領に基づく教科書が使用されることが確定したからであり、通告の時期にそれ以上の意味はない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(原告らの有する著作権の対象及び内容)について (1)前提となる事実等に証拠(甲1の1・2、甲15、16、18、19、22ないし28、30、35、38、39、乙1、2、4、乙5の1・2、乙6の1ないし3、乙7の1・2、乙8の1ないし3、乙9、乙10の1・2、乙18ないし21、乙26の1・2、乙27ないし30、36、38、41、43、45、46、50ないし53、55ないし60、72、74)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。 ア つくる会は、既存の歴史教科書が他国の歴史観をそのまま記載するなど自虐的傾向の強いものであると考え、保守的な歴史教科書を作成し、普及すること等を、その活動目標としている。 イ つくる会は、同会に属する理事等が執筆する歴史教科書の発行者となる出版社を探しており、被告は、つくる会の提案を受け、保守的な色彩を持つ歴史教科書を発行することを決めた。 なお、被告は、つくる会からの要望で、歴史教科書と併せて、同会に属する理事等が執筆する中学校用公民教科書も発行することになった。 ウ 本件書籍の初版本の発行の経緯等 (ア)つくる会と被告とは、平成14年度に使用開始となる中学校用歴史教科書を発行することを目的として、平成11年ころから教科書の作成に取り掛かった。 (イ)当初、つくる会の理事であったJ(以下「J」という。)が古代から中世の原稿の執筆を、同会の理事であった原告Cが近世、近代及び現代の原稿の執筆を、それぞれ担当した。 また、J及び原告Cの原稿の執筆と並行して、J、原告C、原告A、被告の編集担当者であるGらが参加して、教科書編集の進め方や他社の歴史教科書について検討し、学習指導要領を分析して教科書の目次案を検討し、また、表記の統一やレイアウト等を検討する編集会議が開催された。 被告の編集担当者であるGやEは、学習指導要領を分析して、中学校用歴史教科書として必要な項目を抽出したり、他の出版社が発行している教科書を分析して、学習項目、人名、地名、年号等の必須の記載事項を抽出したり、掲載予定の図表や図版の使用許諾を取ったり、地図やイラスト等を自ら作成したりした。さらに、Jや原告Cの執筆した原稿に記載された内容について、正確さを検証し、必要な場合には、執筆者に修正を求めるなどした。 上記のようにして、平成11年10月ころには、教科書の原稿作成が8割程度まで進行していた。 (ウ)ところが、当時のつくる会の会長であった原告Bは、「J及び原告Cの執筆した原稿が既存の歴史教科書の叙述と変わらない」、「記述内容により特色を出せないか」との感想を持ち、つくる会の内部でも問題となった。 そして、つくる会の内部において、「記述内容により特色を出す」との方針を打ち出し、平成11年11月には、J、原告C、原告B及び原告Aのほか、被告の編集担当者であるG及びEも加わり、原告Bが中心となって、新たに原稿を執筆し直すことになった。 原告B及び原告Aは、教科書の目次や執筆の分担者を修正し、結局、原告B、原告Aのほか、原告C、J、K(以下「K」という。)及びIらが原稿の執筆を担当した。 このうち、Iは、主として文化史に関する単元やコラムの執筆を担当した。Iは、その陳述書(乙72)において、上記執筆に当たって、Iと同じ大学の美術史学科を卒業していたEと、いわば「二人三脚」をしているかのように一緒に検討した旨陳述している。 (エ)平成12年2月ころから、執筆者である原告B、原告A、原告C、J及びK、被告の編集担当者であるG及びE、近現代史の研究者であるL(以下「L」という。)らが参加して編集会議が度々行われ、上記執筆者らが執筆した原稿について、中学校用歴史教科書として検定申請するという観点から問題となる点を検討し、また、記述内容や具体的表現の修正が議論されるなどした。 当初の原稿は、上記検討や議論を踏まえ、記述内容や具体的表現の点において、相当程度修正された(甲25からも、初版本の作成に当たって、原告Bの原稿が、大幅に削られ、一部加筆や修正がされて、確定原稿に至っていることが分かる。)。 その後、原稿の校正が繰り返され、平成12年3月、検定申請図書が完成した(結局、校了までに7回の校正を要した。)。 (オ)被告は、平成12年4月、文部省(当時)に対して、本件教科書の初版本の検定申請を行った。 文部省(当時)は、同年12月、被告に対し、上記検定申請について137箇所の検定意見を通知した。 上記検定意見は、表現方法に関するもののみならず、記述内容に及ぶものであった。 (カ)上記検定意見を受けて、執筆者ら、被告の編集担当者であるG及びEが参加して編集会議が開かれ、検定意見への対応、具体的な修正内容や具体的表現について検討すると共に、G及びEが、文部省(当時)の調査官との折衝に当たった。 上記検討結果を踏まえ、検定意見に対応する修正を行った結果、平成13年4月、本件教科書の初版本について文部科学省から検定決定(検定合格)を受けた。 なお、検定意見に対応して提出した修正表は、専ら被告の編集部員が作成した。 (キ)その後、本件教科書の初版本は採択の手続に乗せられたものの、採択結果は、市場シェア0.047%というものであった。 なお、被告は、平成13年6月、本件教科書の初版本について、内容を広く一般に知ってもらうことを目的として、その市販本を発行した。 (ク)被告は、発行者として本件教科書の初版本を製造、供給し、本件教科書の初版本は、平成14年度から(平成17年度まで)、中学校用教科書として使用開始となった。 (ケ)本件教科書の初版本の奥付には、「著作者」として、「Bほか13名(別記)」との記載があり、「著作関係者」として、「代表執筆者 B」、「監修L* M O P Q (*は執筆者も兼ねる)」、「執筆K J C I R A U V 株式会社扶桑社」との記載がある。 エ 本件書籍の発行の経緯等 (ア)被告は、つくる会からの要請もあり、引き続き中学校用歴史教科書を発行することを決定した。 つくる会は、教科書の改訂について「不利を取り除き、内容についても、その骨格を堅持しつつ必要な改善を加えることが次回の採択戦での成功を目指す上で不可欠である。そのため、多くの方々から率直な意見を述べてもらう機会をつくるなど、英知を結集し、改善作業に役立てたい。ただし、具体的なリメイクの作業は、版元である扶桑社編集部の主導で進められるものとする。」との方針を打ち出した(つくる会第4回定期総会・議案書(平成13年9月23日開催)。甲24添付資料1) (イ)平成14年から、教科書の改訂方針等を議論するため、I、原告A、原告C、原告D、被告の編集担当者であるGやEらが参加して編集会議が開かれた。 また、つくる会の理事を交えた会議でも、教科書の改訂方針等が話し合われた。 これらの会議において、改訂に当たっては、初版本の理念を引き継ぎつつ、形式面において、頁数を削減すること、判型を大型にすること、本文の記述をより分かりやすいものとすること(初版本では、1つの単元について、3頁にわたるものがあったり、4頁にわたるものがあったりと、統一されていなかったものを、全単元について、見開き2頁に構成し直すことや、まちまちであった文体を統一することなど)、課題学習等を充実させることなどの方針が確認された。 (ウ)そして、編集会議において、当時つくる会の会長であったIが古代から中世を、原告Aが近世から近現代を、それぞれ、初版本の教科書を基にして執筆(リライト)することが決まった。 しかしながら、Iのリライト原稿(なお、実際には、被告の編集担当者であるEもリライトに関与している。)が、中学校用教材の記述としては不適切であるなどの問題が提起され、つくる会の内部でも問題となった。 そこで、平成15年5月ころ、編集会議において、原告Aが、Iの担当していた古代から中世についてもリライトを担当することが決まった。なお、原告Bは、本件教科書(改訂版)の執筆作業には関与をしていない。 Eは、原告Aのリライト原稿について、記述に重要事項の漏れがないか、記述として正確かなどの観点からチェックを行い、問題となる点を原告Aに指摘し、原告Aにおいて、これらの点について修正を施すなどした。 なお、側注には、原告Aが自ら執筆した部分と被告の編集部員が執筆を担当した部分とがある。 (エ)原告Aは、本件教科書の初版本を含め既存の中学校用歴史教科書に掲載された図版等の調査のため、つくる会事務局の協力の下、全教科書の図版等をカードに切り貼りし、それを単元ごとにまとめて、どういう観点で教材が選択されているのかを分析した。 その上で、原告Aは、他の教科書でも使用されており、改訂版においても掲載が必須な図版等は残し、かつ、他の教科書には使用されていないものの、改訂版には掲載すべき特徴ある教材を選択するという観点から、掲載する図版の選択を行った。 原告Aが図版等について詳細な指示を出した場合には、被告において、使用許諾を得てこれらを収集する作業を行い、原告Aから具体的な指示がない場合には、被告の編集担当者であるEにおいて、掲載する図版の具体的な選定を行った。また、表や地図等については、原告Aから具体的な指示があった場合には、それを基に、被告の編集部においてこれらを作成し、原告Aから具体的な指示がない場合には、被告において、検討の上作成した(なお、図版等の選択、配列を原告Aが指示したことを示す証拠として、甲第15号証(「第3節律令国家の成立」のうち、「8 聖徳太子の新政」及び「遣隋使と「天皇」号の始まり」の単元について、原告Aが、写真や図表のレイアウトを指示し、図表の内容や側注等の記述内容を具体的に指示した原稿)があるものの、上記2単元についてのものにすぎない。他の単元については、原告Aが写真や図表のレイアウトを指示し、図表の内容や側注等の記述内容を指示した原稿が提出されていないから、原告Aの指示がどのようなものであったのか、その内容を詳細に認定することはできない。かえって、原告Aは、その陳述書(甲38)において、「例えば、原告Aが、特定の箇所に特定の人物の肖像画を配置することを決めると、Eにおいて、沢山ある当該人物の肖像画の中から、入手しやすいもの、画像が鮮明なもの、その場所に配置するのに適切なもの、といった観点から具体的に掲載する肖像画を選択した。」旨陳述しており、図版等の選択作業に、Eが関与していたことを認めている。)。 (オ)原告Dは、本件教科書に掲載されるコラムの一部の執筆を担当した。 本件教科書において新設することになった課題学習の執筆は、被告の編集担当者であるEが担当した。 (カ)初版本原稿のリライト作業は、平成15年中に順次行われた。 出来上がった原稿について、執筆担当者や5人の監修者(L、M、W(以下「W」という。)、X、Q)及び数名の教育関係者による詳細な検討がされた。これらの者から出された意見を受け、編集会議において議論が行われ、原稿に相当程度の修正が施された。なお、編集会議には、原告A、原告C、原告D、被告の編集担当者であるEが参加していた(Iは、自身の担当部分の執筆者が原告Aに変更となったことや海外出張等で日本に不在がちになったことから編集会議に参加しないようになり、被告の編集担当者であるGも、平成15年夏ころ以降、編集会議に参加しないようになった。また、監修者は編集会議に出席していない。)。 原告Aによる本文のリライト原稿に対しては、原告D、I、Wなどから相当の問題点が指摘され、修正の文案が示されるなどしたほか、Eにおいても、修正案を示したり、あるいは、記述すべきと思われる事項のうち欠如している点についての指摘を行うなどした(甲26からも、改訂版の作成に当たっては、原告Aのリライト原稿について、原告Dから記述内容にわたる修正意見が出されたことが分かる。そして、原告Aのリライト原稿と本件教科書の記述(甲1の1の132頁ないし141頁、144頁ないし147頁、150頁ないし157頁)とは、その記述の内容(加削修正された箇所)、順序、表現等において異なる箇所が相当あること、原告Dによる修正意見(甲26)と本件教科書の記述とは、その記述の内容(加削修正された箇所)、順序、表現等において異なる箇所が相当あることに照らすと、原告Aのリライト原稿に対しては、原告Dが修正意見を述べたのみならず、編集会議において議論され、その結果を基に、相当の修正が施されて、確定原稿に至ったものと認められる。)。 編集会議においては、本文のリライト原稿のみならず、コラムや課題学習等の原稿も検討され、必要な修正が施された。 平成16年3月ころ、検定申請図書が完成した。 (キ)被告は、平成16年4月、文部科学省に対して、本件教科書の検定申請を行った。 文部科学省は、同年12月、被告に対し、上記検定申請について124箇所の検定意見を通知した。 上記検定意見は、表現方法に関するもののみならず、記述内容に及ぶものであった。 (ク)上記検定意見を受けて、執筆者ら、被告の編集担当者であるEらが参加して編集会議が開かれ、検定意見への対応、具体的な修正内容や具体的表現について検討すると共に、被告の編集担当者であるG及びEが、文部省(当時)の調査官との折衝に当たった。 上記検討結果を踏まえ、検定意見に対応する修正を行った結果、平成17年3月、本件教科書について文部科学省から検定決定(検定合格)を受けた。 なお、検定意見に対応して提出した修正表(乙9)は、専ら被告の編集部員が作成した。 (ケ)その後、本件教科書は採択の手続に乗せられたものの、採択結果は、市場シェア0.43%というものであった。 なお、被告は、平成17年8月、本件教科書について、内容を広く一般に知ってもらうことを目的として、本件市販本を発行した。 被告は、本件許諾契約に基づき、発行者として本件教科書を製造、供給し、平成18年度以降、本件教科書が中学校用教科書として使用されている。 (コ)本件教科書の奥付には、「著作者」として「Aほか11名(別記)」との記載があり、「著作関係者」として、「代表執筆者A」、「監修 L 故M W* X Q (*は執筆者も兼ねる)」、「執筆D Y 故J C B R 株式会社扶桑社」との記載がある。 なお、本件市販本の奥付の記載は、本件教科書の奥付の記載と同一である。 オ 本件教科書(本件書籍)の構成等 (ア)本件教科書は、おおむね以下の構成を有する(なお、頁数を記載しているものは、原告らが差止請求の対象としている頁である。)。 @ 巻頭 「日本の美の形」縄文時代から江戸時代までの各時代の文化やこれを代表する文化的作品(写真)を紹介している。 A 序章「歴史への招待」 「歴史を学ぶとは」(6頁)、「日本の歴史の流れ−歴史モノサシ」(7頁)、2つの課題学習等から成る。 B 第1章「原始と古代の日本」 「1 日本人はどこから来たか」(16ないし17頁)、「2 縄文文化」(18ないし19頁)、「3 文明の発生と中国の古代文明」(22ないし23頁)、「4 稲作の広まりと弥生文化」(24ないし25頁)、「5 中国の歴史書に書かれた日本」(26ないし27頁)、「6 大和朝廷と古墳の広まり」(28ないし29頁)、「7 大和朝廷と東アジア」(32ないし33頁)、「8 聖徳太子の新政」(34ないし35頁)、「9 遣隋使と「天皇」号の始まり」(36ないし37頁)、「10 大化の改新」(38ないし39頁)、「11 日本という国号の成立」(40ないし41頁)、「12 大宝律令と平城京」(42ないし43頁)、「13 奈良時代の律令国家」(44ないし45頁)、「14 飛鳥・天平の文化」、「15 平安京と摂関政治」(52ないし53頁)、「16 武士の登場と院政」(54ないし55頁)、「17 平安の文化」、5つのコラム(「神武天皇の東征伝承」(30頁)、「日本の神話」(46ないし47頁)、「空海」、「かな文字の発達」(58頁)、「紫式部と女流文学」(59頁)、3つの課題学習等から成る。 C 第2章「中世の日本」 「18 平氏の繁栄と滅亡」(66ないし67頁)、「19 鎌倉幕府」(68ないし69頁)、「20 元寇」(70ないし71頁)、「21 鎌倉の文化」、「22 建武の新政と南北朝の争乱」(76ないし77頁)、「23 室町幕府」(78ないし79頁)、「24 中世の都市と農村の変化」(80ないし81頁)、「25 室町の文化」、「26 応仁の乱と戦国大名」(86ないし87頁)、2つのコラム(「源頼朝」(72頁)、「武士の生活」)、1つの課題学習等から成る。 D 第3章「近世の日本」 「27 ヨーロッパ人の世界進出」(90ないし91頁)、「28 ヨーロッパ人の来航」(92ないし93頁)、「29 織田信長と豊臣秀吉」(94ないし95頁)、「30 秀吉の政治」(96ないし97頁)、「31 桃山文化」、「32 江戸幕府の成立」(100ないし101頁)、「33 江戸幕府の対外政策」(104ないし105頁)、「34 鎖国下の対外関係」(106ないし107頁)、「35 平和で安定した江戸時代の社会」(108ないし109頁)、「36 農業・産業・交通の発達」(110ないし111頁)、「37 綱吉の文治政治と元禄文化」(112ないし113頁)、「38 享保の改革と田沼政治」(116ないし117頁)、「39 寛政の改革と天保の改革」(118ないし119頁)、「40 欧米諸国の接近」(120ないし121頁)、「41 化政文化」、「42 新しい学問と思想の動き」(126ないし127頁)、5つのコラム(「信長・秀吉・家康−天下統一の人間像」(102頁)、「武士道と忠義の観念」(114頁)、「二宮尊徳と勤勉の精神」、「甘藷先生とよばれた青木昆陽」、「浮世絵があたえた影響」)、2つの課題学習等から成る。 E 第4章「近代日本の建設」 「43 産業革命と市民革命」(132ないし133頁)、「44 欧米列強のアジア進出」(134ないし135頁)、「45 ペリー来航と開国」(136ないし137頁)、「46 尊王攘夷運動の展開」(138ないし139頁)、「47 薩長同盟と幕府の滅亡」(140ないし141頁)、「48 明治維新の始まり」(142ないし143頁)、「49 中央集権国家への道」(144ないし145頁)、「50 学制・兵制・税制の改革」(146ないし147頁)、「51 近隣諸国との国境画定」(150ないし151頁)、「52 岩倉使節団と征韓論」(152ないし153頁)、「53 殖産興業と文明開化」(154ないし155頁)、「54 条約改正への苦闘」(156ないし157頁)、「55 自由民権運動」(158ないし159頁)、「56 大日本帝国憲法」(160ないし161頁)、「57 日清戦争」(164ないし165頁)、「58 日露戦争」(166頁ないし168頁)、「59 世界列強の仲間入りをした日本」(170ないし171頁)、「60 近代産業の発展」(172ないし173頁)、「61 明治文化の花開く」、5つのコラム(「明治維新とは何か」(148ないし149頁)、「伊藤博文」(162頁)、「朝鮮半島と日本」(163頁)、「台湾の開発と八田與一」、「津田梅子」(176頁))、「歴史の名場面」(「日本海海戦」(169頁))、1つの課題学習から成る。 F 第5章「世界大戦の時代と日本」 「62 第一次世界大戦」(180ないし181頁)、「63 ロシア革命と大戦の終結」(182ないし183頁)、「64 ベルサイユ条約と大戦後の世界」(184ないし185頁)、「65 政党政治の展開」(186ないし187頁)、「66 日米関係とワシントン会議」(188ないし189頁)、「67 大正の文化」(190ないし191頁)、「68 共産主義とファシズムの台頭」(192ないし193頁)、「69 中国の排日運動と協調外交の挫折」(194ないし195頁)、「70 満州事変」(196ないし197頁)、「71 日中戦争」(198ないし199頁)、「72 悪化する日米関係」(200ないし201頁)、「73 第二次世界大戦」(202ないし203頁)、「74 大東亜戦争(太平洋戦争)」(204ないし205頁)、「75 大東亜会議とアジア諸国」(206ないし207頁)、「76 戦時下の生活」(208ないし209頁)、「77 終戦外交と日本の敗戦」(210ないし211頁)、「78 占領下の日本と日本国憲法」(212ないし213頁)、「79 占領政策の転換と独立の回復」(216ないし217頁)、「80 米ソ冷戦下の日本と世界」(218ないし219頁)、「81 世界の奇跡・高度経済成長」(220ないし221頁)、「82 共産主義崩壊後の世界と日本の役割」(222ないし223頁)、4つのコラム(「迫害されたユダヤ人を助けた日本人−樋口季一郎と杉原千畝」、「20世紀の戦争と全体主義の犠牲者」(214頁)、「東京裁判について考える」(215頁)、「昭和天皇」(225頁))、1つの課題学習等から成る。 G 「歴史を学んで」(227頁) (イ)各単元(1ないし82)の構成 a 各単元は、見開き2頁で構成されている(ただし「58 日露戦争」(166頁ないし168頁)は3頁で構成されている。)。 b 単元ごとにテーマが付されており、各単元は、当該テーマに関連する本文の記述(側注を含む)、関連する写真、地図、図表やこれらの解説文、関連する事項や用語についての詳細な説明、並びに、少年や少女のイラストを付した「考えてみよう」、「やってみよう」というコーナー(当該テーマに関連した学習課題)等から成る。 カ 甲第19号証の作成経緯等 (ア)被告は、各執筆者に対する印税の支払のため、配分を決定して支払う必要があった。 そこで、被告の編集担当者であるEと原告Aとが中心になって相談し、各執筆者への印税の配分の対象とする頁の確定方法として、本件教科書の初稿担当者の担当頁によって計算することを決めた。 本件教科書の本文の初稿は原告Aが執筆したものの、初版本の内容を踏襲した箇所も多かったため、Eにおいて、本件教科書の該当頁に初稿担当者を記号等(Nは原告B、Fは原告A、Tは原告C、Dは原告D、SはJを指す。)を用いて記入し、印税配分対象とする頁を確定する際の参考資料(甲19)を作成した。 原告Aは、甲第19号証等を参考に印税の配分を被告に提示したため、被告は、原告Aの提案に基づいて、甲第23号証記載の計算方法により、印税の配分を行った。 (イ)甲第19号証には、@別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「二次的著作物」と記載のあるもの(頁)については、それぞれ同欄に記載された初版本の原稿執筆者が記載され(例えば、6ないし7頁については、原告Bを表す「N」の記号が記載されている。)、A同欄に「単独著作」と記載のあるもの(頁)については、それぞれ同欄に記載された者が記載されている(例えば、16ないし17頁については、原告Aを表す「F」の記号が記載されている。)。 (2)本件記述の著作物性 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいう(著作権法2条1項1号)。 本件記述(本件書籍において、各単元において図版や解説文を除外した本文部分や、各コラムにおいて図版や解説文を除外した部分)は、特定のテーマに関して、史実や学説等に基づき、当該テーマに関する歴史を論じるものであり、思想又は感情を創作的に表現したものであって、学術に属するものであるといえる。 この点、本件教科書(本件書籍)が、中学校用歴史教科書としての使用を予定して作成されたものであることから、その内容は、史実や学説等の学習に役立つものであり、かつ、学習指導要領や検定基準を充足するものであることが求められており、内容や表現方法の選択の幅が広いとはいえないものの、表現の視点、表現すべき事項の選択、表現の順序(論理構成)、具体的表現内容などの点において、創作性が認められるというべきである。 なお、本件書籍は、上記(1)で認定したとおり、82個の単元、多数のコラムや課題学習等から成るものの、各単元やコラムは、本件書籍の他の部分とは分離して利用することも可能であり(本件教科書が、中学校用歴史教科書として使用することが予定された書籍であるからといって、各単元やコラムが中学校用歴史教科書としてしか利用することができないわけではない。)、また、各単元やコラムは、特定のテーマに関連する本文の記述(側注を含む)、関連する写真、地図、図表やこれらの解説文等で構成されているものの、本件記述(各単元において図版や解説文を除外した本文部分やコラムにおいて、図版や解説文を除外した部分)を、写真、地図、図表やこれらの解説文等とは分離して利用することも可能であるから、本件書籍はこれらの各著作物が結合したいわゆる結合著作物に当たるというべきであり、これらの各単元やコラムが一体として著作権法2条1項12号の「共同著作物」に当たると解することはできない。 (3)本件記述の著作者等 ア 原告らは、@原告A、原告C及び原告Dが、別紙著作権者一覧表記載のとおり、本件記述につき、著作権を有する、A原告Bは、本件書籍の初版本のうち、別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「Bの執筆した初版本原稿をAが加筆修正(二次的著作物)」と記載のある部分に対応する記述につき著作権を有する、B原告Cは、本件書籍の初版本のうち、別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「Cの執筆した初版本原稿をAが加筆修正(二次的著作物)」と記載のある部分に対応する記述につき著作権を有する旨主張する。 イ 上記(1)認定のとおり、原告Aは、本件教科書を作成するに当たって、初版本の理念を引き継ぎつつ、形式面において、頁数を削減すること、判型を大型にすること、本文の記述をより分かりやすいものとすること(見開き2頁に構成し直すことや、まちまちであった文体を統一することなど)などの改訂方針に基づき、初版本の記述を基に、全体のリライト作業を担当した者であるから、別紙著作権者一覧表の「著作権者」欄に「A」と記載されている本件記述(頁)につき、少なくとも著作者の一人として著作権を有すると認められる(甲39参照。なお、本件教科書(改訂版)における本件記述は、初版本のうち、本件記述に該当する部分の二次的著作物に当たる。)。 ウ 上記(1)認定のとおり、甲第19号証は、被告の編集担当者であるEにおいて、本件教科書の該当頁に初稿担当者を記号等を用いて記入したものであり、甲第19号証には、@別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「二次的著作物」と記載のあるもの(頁)については、それぞれ同欄に記載された初版本の原稿執筆者が記載され、A同欄に「単独著作」と記載のあるもの(頁)については、それぞれ同欄に記載された者が記載されているから、原告Cは、別紙著作権者一覧表の「著作権者」欄に「C」と記載されている本件記述(頁)につき、少なくとも著作者の一人として著作権を有すると認められ(上記(1)認定のとおり、原告Cは、初版本及び本件教科書のいずれについても、執筆に関与している。)、原告Dは、同一覧表の「著作権者」欄に「D」と記載されている本件記述(頁)につき、少なくとも著作者の一人として著作権を有すると認められる(上記(1)認定のとおり、原告Dは、初版本の執筆には関与しておらず、本件教科書の執筆にのみ関与している。)。 また、上記によれば、原告Bは、本件書籍の初版本のうち、別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「Bの執筆した初版本原稿をAが加筆修正(二次的著作物)」と記載のある部分に対応する記述(原著作物)につき、少なくとも著作者の一人として著作権を有すると認められ(上記(1)認定のとおり、原告Bは、初版本の執筆にのみ関与し、本件教科書の執筆には関与していない。)、原告Cは、本件書籍の初版本のうち、別紙著作権者一覧表の「著作方法等」欄に「Cの執筆した初版本原稿をAが加筆修正(二次的著作物)」と記載のある部分に対応する記述(原著作物)につき、少なくとも著作者の一人として著作権を有すると認められる。 2 争点2(本件許諾契約における発行期間についての合意内容)について (1)被告は、本件書籍を発行するに当たり、本件書籍の発行期間については、原告ら、被告及びその他の著作者間において、本件書籍を改訂するまでの間、すなわち、学習指導要領の改正が行われない場合は採択期間の4年間、学習指導要領の改正により次回の採択期間が短縮されたことに伴い端境期が生じる場合は、採択期間の4年間+端境期の期間、中学校用教科書として出版、頒布することが前提とされており、このことは全著作者が合意していた旨主張する。 (2)前提となる事実等に証拠(甲2、甲3の1・2、甲7の1・2、甲9の1・2、甲10、甲11の1・2、甲20ないし22、27ないし29、38、乙1、11、13、14、31、38、42、50、63、64、67、69、70、76ないし78)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。 ア 被告は、本件書籍の著作権者との間で出版許諾契約(本件許諾契約)を口頭で締結した(なお、原告らが本件許諾契約の当事者であることについては、当事者間に争いがない。ただし、前記1認定によれば、原告A、原告C及び原告Dは本件書籍について著作権を有する者として、原告Bは、本件書籍の初版本について著作権を有する者として、被告との間で、本件許諾契約を締結していることになる。)。 本件許諾契約の締結に当たって、契約当事者間において、本件教科書の発行期間(許諾期間)について特段の話合いがされたことはなく、本件教科書の発行期間(許諾期間)が特に話題になることもなかった。 イ 本件許諾契約の締結当時、学習指導要領の具体的な改訂時期は明らかではなく、学習指導要領の改訂に伴って、中学校用教科書の次期採択期間の短縮が生じる(端境期が生じる)ことは判明していなかった。 本件許諾契約の当事者間においても、端境期における本件教科書の発行が特に話題にされることはなかった。 ウ 平成10年に改訂された学習指導要領(平成10年文部省告示)が平成14年度から施行されたため、1年間の端境期が生じ、平成13年度から使用開始となった教科書については、採択期間が短縮され、1年間しか使用することができなかった。 平成13年度から使用開始となる教科書を対象とする平成11年度の中学校教科書検定については、発行者から検定の申請がされることはなかった(当時、教科書を発行していた者は、いずれも改訂を見送った。)。 エ 平成20年に改訂された学習指導要領(平成20年文部科学省告示)が平成24年度から施行されるため、2年間の端境期が生じ、平成22年度から使用開始となる教科書については、採択期間が短縮され、平成23年度までの2年間しか使用することができない。 平成22年度から使用開始となる教科書を対象とする平成20年度の中学校教科書検定については、検定を申請したのは、新たに原告らの執筆した中学校用歴史教科書(自由社版の新教科書)を発行することになった自由社のみであり、現行の中学校用教科書を発行する者からの検定申請はなかった(現行の教科書を発行する者は、いずれも改訂を見送った。)。 オ なお、原告Dは、20年以上前から教科書(ただし、高校用)の執筆経験を有しており、原告Aは、教材開発を専攻分野の1つとしており、20年以上にわたって、現場の教師と協同して教材を開発してきたという経験を有する。 また、原告Aは、平成17年7月1日発行の「教科書採択の真相かくして歴史は歪められる」の著者である。 同書籍においては、東京都23区の、平成8年度の採択、平成12年度の採択及び平成13年度の各採択結果を比較、分析しており、端境期における採択に関し、「この年度に採択された教科書は、翌年1年間しか使われない運命にあった。したがって多くの教育委員会では、問題を感じても、わずか1年間のことなので、それまでの4年間使用した教科書と同じ教科書を、ほぼ自動的に採択した。」と記載している。 カ 原告ら及び被告の交渉経緯 (ア)平成17年8月ころから、つくる会の内部では、事務局長Z(以下「Z」という。)の処遇等をめぐり、原告Bや原告AらZの更迭を求める意見の者たちと、Zを擁護する意見を有する者たちとの間で激しい意見対立が生じた。 内部における意見対立を受け、平成18年1月には、原告Bがつくる会の名誉会長を辞任し、3名がつくる会の副会長を辞任した。 また、同年2月の理事会においては、副会長であった原告Aの除名動議が提出された(僅差で否決された。)。また、同理事会において、Zの事務局長職からの退任が決定され、H(以下「H」という。)が会長職から、原告Aが副会長職から、それぞれ解任される事態となった。 (イ)平成18年2月の理事会以降も、つくる会の内部においては、原告Aの経歴に関する文書が理事等の自宅にファクシミリ送信された件などをめぐって、混乱が続き、理事会の人事(会長や副会長)が頻繁に変わるという事態が続いた。 (ウ)つくる会は、被告に対し、同会が選定した執筆者により教科書を改訂し、発行することを求めていたものの、平成18年7月3日の産経新聞には、「扶桑社は早ければ今秋にも次回執筆陣の選定に入るとみられる。」との記載を含む記事(甲29)が掲載された。 これを受け、つくる会は、被告に対し、平成18年11月21日付けの「『新しい歴史教科書』『新しい公民教科書』の継続発行に関する申し入れ書」と題する書面(乙24)をもって、本件教科書等の継続発行の方針を示すように申し入れた。 同書面には、「昨年の採択では残念ながら十分な実績を挙げることは出来ませんでしたが、採択結果が判明した直後に貴社(判決注・被告)が次回採択に向けて教科書発行を継続する旨表明されたこと(産経新聞、平成17年9月3日付け)は感謝にたえません。」、「これらの教科書はつくる会と扶桑社との協力によって作り上げたものであり、教科書への評価は極めて高く、他社の教科書にも多大な影響を与え、教育界に貢献したことは広く認められております。このような経過を踏まえて、次期教科書の発行は現行教科書に必要最小限の改善を加え、採択を伸ばして教育界の期待に応える必要があると考えます。」、「この次期に改めて当会との協力関係のもとに『新しい歴史教科書』『新しい公民教科書』の継続発行の方針をお示しいただくようお願い申し上げます。」などと記載されていた。 (エ)上記申入れを受け、被告は、つくる会に対し、平成19年2月26日付けの文書(甲2)を交付して、回答した。 上記文書には、「次の改訂教科書の供給開始時期である2010年度に向けて、発行準備を開始するにあたり、憂慮すべき問題を抱えることになりました。」、「扶桑社が発行・発売を自己の責任において行うことに疑いはありませんが、この経緯からして扶桑社教科書は、『新しい歴史教科書をつくる会』がこれを推薦するという構図で発行されたものであります。ところが、ご承知の如く2006年度供給本の採択活動が終了した一昨年9月以降、『新しい歴史教科書をつくる会』が会長人事などで組織内に混乱を生じ、昨年、有力メンバーの一部が、つくる会と袂を分かって『日本教育再生機構』を設立する事態となり、『新しい歴史教科書をつくる会』が事実上分裂する状況となりました。」、「2010年供給本の編集開始にあたっては、扶桑社としては従来の『新しい歴史教科書をつくる会』が『再現』され、その推薦がスムーズに実現することを前提として作業に入ることが必須と考えておりましたが、貴会の一部の有力メンバーの方々が『再生機構』との協働をはっきりと拒否されることを公言されているなど、現状を見るに前回同様の幅広い推薦を頂ける状況に無いと判断するにいたりました。」、「前二回の枠組みが使えない状況下、『新しい酒は新しい皮袋に』という故事もありますが、教科書発行を主業務とする別法人を立ち上げ、そこからの刊行を予定しております。」、「この新たな教科書作りに賛同していただける各界の方々の協力を仰ぎ、別法人が責任を持って教科書を発行する所存でございます。」などと記載されていた。 なお、原告らは、同文書の交付の際、被告の代表者が、つくる会の当時の会長であったαに対し、「別の出版社があるならどうぞおやり下さいと述べた」旨主張する。しかしながら、仮に、上記発言がされた事実があったとしても、当該発言がされた前後の具体的なやりとりは明らかではなく、これをもって、被告が平成22年度及び平成23年度には本件教科書を発行しない旨表明したものと解することはできない。 (オ)なお、つくる会の側も被告の側も、当初、平成22年度から使用開始となる教科書について端境期が生じることは念頭に置いていなかったため、新学習指導要領に基づいて改訂を行った教科書が、平成22年度から使用開始となるとの認識を有していた。 つくる会及び被告は、いずれも、平成19年3月ころ、学習指導要領の改訂が遅れるとの情報に接し、このころには、つくる会も、被告も、平成22年度の採択期間が短縮される(端境期が生じる)との認識を有するに至った。 (カ)平成19年4月26日、被告側とつくる会側とで会談が行われた。この会談において、被告側としては、新教科書の執筆者について、本件教科書及びその初版本の執筆者等にも協力をしてもらいたいと考えていること、原告Aにも執筆を依頼したいこと等を表明した(なお、上記会談に参加した、当時のつくる会の会長であったα作成の経過説明文書(乙69)によれば、同人は、上記会談において、「次期教科書発行について両者がほぼ合意し、新たなスタートラインに立つことが確認された」と認識していたことが分かる。)。 なお、原告Aは、平成19年5月8日、「教科書改善の会」の代表世話人であるβから、被告が、「つくる会から教科書を取り上げれば、教科書がないつくる会は消滅するから、B・A人脈以外の個々の人材を一本釣りして引き入れる」という方針であると聞いた旨主張する。しかしながら、仮に、このような連絡のあった事実が認められるとしても、第三者からの伝聞にすぎず、これをもって、被告の意思を推認することはできないというべきである。 (キ)つくる会は、平成19年5月10日の理事会において、「扶桑社側から、教科書発行について示された方針を白紙撤回するとの提案がない限り、当会からは交渉しない」という方針を決議した。 (ク)原告Aを含むつくる会理事会のメンバーは、5月17日、被告を訪ね、被告に対し、本件教科書の版権を譲渡することについての話合いを求めた。 (ケ)つくる会の理事会は、平成19年5月30日、被告と縁を切り、独自に別の出版社から教科書を出す方針を確認し、αを会長職から解任すると共に、原告Aを会長に選出した(なお、乙69によれば、αは、当時、被告の一連の対応について、「被告は、採算的にも厳しい教科書発行を継続するためには、前回以上に国民各層の幅広い支持が必要と考え、具体的には『つくる会』とH氏の『教育再生機構』が和解のうえ協働し、いわゆる『オールジャパン』の体制が確立されることが不可欠であるとの考えであった」と認識していた。)。 (コ)原告Bは「新しい歴史教科書(初版)」の代表執筆者として、原告Aは「新しい歴史教科書(改訂版)」の代表執筆者として、連名で、被告に対し、平成19年6月13日付け通知書(甲3の1)を送付した。 同通知書の内容は、被告の平成19年2月26日付け文書を、つくる会と被告との関係を解消する旨の通知であると解した上で、「初版及び改訂版の代表執筆者として、同書の著作権者一同を代表し、現行版(改訂版)の配給終了をもって、御社に対する著作権使用許諾を打ち切ること」を通知するものであった。 (サ)被告は、平成19年6月26日付けの「5月31日付『新しい歴史教科書をつくる会』A会長声明についての見解」と題する書面(乙15、64)において、@扶桑社としては、現在も次回の教科書が前2回の体制を再現する形で制作されることを希望していること、A原告Aとその支持者であるつくる会のメンバーには、大同団結に加わり、知恵を出し合う形で教科書制作を進めることができるように協力してもらいたい旨を表明した。 (シ)被告は、平成19年8月、「教科書事業の継続と新会社『育鵬社』の設立について」と題する書面(乙11)を発した。 同書面には、@改正教育基本法に基づき、新しい学習指導要領が定められ、次回の新しい教科書が発行される段取りとなっていること、A被告の100%出資の新会社「育鵬社」を設立し、この会社で新しい教科書作成に取り組んでいくこと、B次回の新しい教科書の発行に当たり、従来のパートナーであるつくる会には、一貫して協力を求めているものの、つくる会の側からの協力は得られていないこと、C二度目の平成18年より供給を開始した現行教科書に関しては、供給が完了するまで、引き続き被告が発行していくことなどが記載されていた。 (ス)平成19年9月9月の定期総会の直前ころ、つくる会において新たに作成する教科書を発行する出版社が自由社に決まった。 同日に開催されたつくる会第10回定期総会(乙1)において、次期教科書の発行体制について、平成19年9月に出版社に関する方針を決定し、平成20年3月に新学習指導要領が告示され、歴史・公民教科書の制作を開始し、平成21年4月に文部科学省に検定を申請し、平成22年4月から8月に採択に向けた活動を行うとの方針が示された(これによれば、つくる会は、新教科書の使用開始を平成23年度と予定していたことになる。)。 (セ)平成20年3月28日、文部科学省から新学習指導要領が告示され、その実施時期が平成24年度からと確定した。 そこで、原告Aは「新しい歴史教科書(改訂版)」の代表執筆者として、被告に対し、同日付け通知書(甲9の1)を送付した。 同通知書の内容は、「『新しい歴史教科書(改訂版)』の代表執筆者として、平成22年3月の現行配給期間終了をもって、御社に対する本教科書に係る著作権使用許諾を打ち切ること」を通知するものである。 (ソ)被告は、原告Aに対し、平成20年4月8日付け通告書(甲10)を送付した。 同通告書には、被告は、「@新しい学習指導要領に基づく『次回の教科書』作りを当社の100%出資の新会社・育鵬社で行うこと、Aそれまでの間、平成18年より供給している『現行の教科書』は、供給が完了するまで引き続き当社で発行すること」を表明しており、平成22年度及び平成23年度について、現行の教科書(本件教科書)を引き続き発行、供給する旨が記載されている。 (3)上記(2)で認定した事実によれば、@本件許諾契約の締結当時、当事者間において、本件書籍の発行期間について、特に話し合われたり、話題に上ったりしたことはないこと(したがって、当事者間において、発行期間を採択期間である4年間に限定する旨の話合いがされたこともないこと)、A本件許諾契約における当事者間においては、本件書籍を中学校用教科書(及びその市販本)として発行し、広く生徒の使用に供し、普及することが目的とされており、改訂を行う必要が生じて、改訂された新教科書が発行されるに至るまでの間は、現行の教科書(本件教科書)の発行を継続することが予定されていたこと、B本件許諾契約の当事者間において、本件教科書の改訂時期(頻度)を、他の教科書とは異なる扱いとする旨の合意がされたことはないこと、C平成13年度から使用開始となる教科書を対象とする平成11年度の中学校教科書検定については、発行者から検定の申請がされることはなく(当時、教科書を発行していた者は、いずれも改訂を見送った。)、平成22年度から使用開始となる教科書を対象とする平成20年度の中学校教科書検定についても、検定を申請したのは、新たに原告らの執筆した中学校用歴史教科書(自由社版の新教科書)を発行することになった自由社のみであり、現行の中学校用教科書を発行する者からの検定申請はなかった(現行の教科書を発行する者は、いずれも改訂を見送った。)ことに照らし、本件許諾契約の締結当時、学習指導要領の改訂に伴い端境期が生じた場合、既存の教科書(現行の教科書)の発行者は、端境期に発行する教科書については改訂を見送り、現行の教科書をそのまま発行するのが一般的な取扱いであったこと、D本件教科書の採択に向けた活動が一段落した平成17年8月ころ以降の一連の経過に照らせば、つくる会の内部における意見対立により、有力メンバーの一部がつくる会を離れて『日本教育再生機構』を設立する事態となったことを受けて、被告は、本件教科書の次期改訂に当たっては、つくる会に対し、『再生機構』との協働を求めたものの、つくる会はこれに賛同せず、被告とは別の出版社からの教科書発行を目指すことになったのであり、このような事態に至るまでは、本件許諾契約の当事者間において、本件教科書の次期改訂以降も、引き続き被告から教科書を発行することが予定されていたこと、が認められ、これらの事実に照らせば、本件許諾契約締結当時、当事者間においては、本件教科書(本件書籍)の発行期間につき、本件教科書の改訂が行われ、改訂された新しい教科書が発行されるまで、と定められていたと認めるのが相当である(なお、原告らも、本件訴状において、「原告らは、平成17年4月ころ、被告に対し、本件記述を盛り込んで本件書籍を制作・出版することを許諾する出版許諾契約を口頭で締結し(契約期間の定めなし)、被告はこれに基づいて今日まで本件書籍を出版しているものである。」と主張している。)。 そして、平成20年に改訂された学習指導要領(平成20年文部科学省告示)が平成24年度から施行されるのに伴い、平成22年度から使用開始となる教科書については、採択期間が平成22年度及び平成23年度の2年間に短縮されるため、被告は、平成22年度に使用開始となる教科書については、改訂を行わないから、本件書籍の発行期間は、平成23年度(平成24年3月末日)までであると認められる(現行の学習指導要領に準拠した教科書は、平成24年度以降は使用することができない)。 (4)原告らの主張について ア 原告らは、著作者と出版社との間の出版許諾契約は、各採択期間ごとに契約ないし更新をするのが商慣習である旨主張するものの、これを認めるに足りる証拠はない。 イ 原告らは、現行採択期間の当初においては、学習指導要領の改訂がされなければ、平成22年度からの時期採択期間は現行の学習指導要領の下で、本件教科書の改訂を行うというのが、原告らと被告との共通認識であった旨主張する。しかしながら、乙第63号証によれば、原告Aと被告の編集担当者であるG及びEとの間においては、平成17年10月当時、本件教科書の改訂について、「文部科学省が現在学習指導要領の改訂作業を進めており、その骨子が年内にも発表される。それを見て、改訂の方針を考えることとする。」との方針が確認されていたことが認められる。 ウ 原告らの上記主張は、いずれも採用することができない。 3 争点3(本件許諾契約の合意解約の有無)について (1)原告らは、被告が平成19年2月26日、原告ら(つくる会)に対し、本件書籍の出版を平成21年度を最後に終了し、平成22年度からは被告独自の教科書を被告の子会社から出版することを通告し(甲2)、上記通告を受け、原告らが平成19年6月13日、被告に対し、現行教科書配給期間が終了する平成22年3月をもって本件許諾契約を解約する旨を通知した(甲3の1・2)ことにより、原告らと被告との間で本件許諾契約を平成22年3月をもって解約することが合意された旨主張する。 (2)しかしながら、@甲第2号証の文書は、被告において、つくる会からの「新しい歴史教科書」及び「新しい公民教科書」の継続発行に関する方針を示すようにとの申入れに対する回答として作成されたものであること、A甲第2号証の文書には、「次の改訂教科書の供給開始時期である2010年度に向けて、発行準備を開始するにあたり、憂慮すべき問題を抱えることになりました。」、「ご承知の如く2006年度供給本の採択活動が終了した一昨年9月以降、『新しい歴史教科書をつくる会』が会長人事などで組織内に混乱を生じ、昨年、有力メンバーの一部が、つくる会と袂を分かって『日本教育再生機構』を設立する事態となり、『新しい歴史教科書をつくる会』が事実上分裂する状況となりました。」、「2010年供給本の編集開始にあたっては、扶桑社としては従来の『新しい歴史教科書をつくる会』が『再現』され、その推薦がスムーズに実現することを前提として作業に入ることが必須と考えておりましたが、貴会の一部の有力メンバーの方々が『再生機構』との協働をはっきりと拒否されることを公言されているなど、現状を見るに前回同様の幅広い推薦を頂ける状況に無いと判断するにいたりました。」、「前二回の枠組みが使えない状況下、『新しい酒は新しい皮袋に』という故事もありますが、教科書発行を主業務とする別法人を立ち上げ、そこからの刊行を予定しております。」、「この新たな教科書作りに賛同していただける各界の方々の協力を仰ぎ、別法人が責任を持って教科書を発行する所存でございます。」などと記載されていたこと、B被告がつくる会に対して甲第2号証の文書を交付した当時、つくる会の側も被告の側も、平成22年度から使用開始となる教科書について端境期が生じることは念頭に置いておらず、平成19年3月ころになって、学習指導要領の改訂が遅れるとの情報に接し、平成22年度の採択期間が短縮される(端境期が生じる)との認識を有するに至ったことは、前記2(2)カ認定のとおりである。 上記事実によれば、甲第2号証は、新学習指導要領に基づき改訂された教科書の制作や発行について被告の方針を述べたものであって、現行学習指導要領に準拠する本件教科書の発行についての被告の方針を述べたものであるとは認められない。 そうすると、被告が、平成19年2月26日、甲第2号証をもって、原告ら(つくる会)に対し、本件書籍の発行を平成21年度をもって終了する旨の意思表示をしたとはいえず、他に本件許諾契約が合意解約されたことを認めるに足りる証拠もないから、原告らの上記主張は理由がない。 4 争点4(本件許諾契約が解除により終了するか否か)について (1)原告らは、本件許諾契約が期間の定めのない契約であることを前提に、原告らによる解除の意思表示により、本件許諾契約が平成22年3月までの教科書配給期間の満了をもって終了する旨主張する。 (2)しかしながら、前記2認定のとおり、本件許諾契約は、本件書籍の発行期間を平成23年度(平成24年3月末日)までと定めた契約期間の定めのある契約であって、期間の定めのない契約ではない。 また、契約期間の定めのある契約において、契約当事者に解除権が認められるためには、契約の成立当時に基礎となっていた事情に変更が生じ、当該事情の変更が、信義衡平上当事者を当該契約に拘束することが著しく不当と認められる場合であることを要するものと解される。本件においては、上記解除権を認めるべき事情の変更があったと認めることはできない。 (3)よって、原告らの上記主張は理由がない。 5 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 柵木澄子 裁判官 舟橋伸行 (別紙)書籍目録 1 書籍 (1)題号 「新しい歴史教科書(改訂版)」 著者 A 外12名 発行者 株式会社扶桑社 (2)題号 「市販本新しい歴史教科書」 著者 A 外12名 発行者 株式会社扶桑社 2 記述箇所 (1)本文(図版・解説文を含まない) 6頁ないし7頁、16頁ないし19頁、22頁ないし29頁、32頁ないし45頁、52頁ないし55頁、66頁ないし71頁、76頁ないし81頁、86頁ないし87頁、90頁ないし97頁、100頁ないし101頁、104頁ないし113頁、116頁ないし121頁、126頁ないし127頁、132頁ないし147頁、150頁ないし161頁、164頁ないし168頁、170頁ないし173頁、180頁ないし213頁、216頁ないし223頁 (2)コラム(図版・解説文を含まない) 30頁、46頁ないし47頁、58頁ないし59頁、72頁、102頁、114頁、148頁ないし149頁、162頁ないし163頁、169頁、176頁、214頁ないし215頁、225頁、227頁 以上 (別紙)著作権者一覧表 (1)本文(別紙書籍目録記載2(1))
(2)コラム(別紙書籍目録記載2(2))
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