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【事件名】チャップリン映画の格安DVD事件(3)
【年月日】平成21年10月8日
 最高裁(一小) 平成20年(受)第889号 著作権侵害差止等請求事件
 (一審・東京地裁平成18年(ワ)第15552号、二審・東京高裁平成19年(ネ)第10073号)

判決


主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

理由
 上告代理人角田雅彦の上告受理申立て理由第1について
1 本件は、被上告人が上告人らに対し、著作権法(昭和45年法律第48号)の施行日である昭和46年(1971年)1月1日より前に公開された原判決別紙「映画目録」記載1〜9の劇場用映画(以下、これらの各映画をそれぞれ同目録の番号に従い「本件映画1」などといい、「本件各映画」と総称する。)の著作権侵害を理由として、著作権法112条1項、2項に基づき、DVD商品の複製及び頒布の差止め、その在庫品及びデジタルリニアテープの廃棄を求めるとともに、民法709条、719条、著作権法114条3項に基づき、損害賠償を求める事案である。上告人らは、本件各映画の著作者は団体たる映画製作会社のみであり、仮にそうでないとしても、本件各映画は団体の著作名義をもって公表されたものであるから、旧著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの。以下「旧法」という。)による著作権の存続期間については、旧法6条が適用され、本件各映画の著作権は、存続期間の満了により消滅したと主張して争っている。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 本件各映画は、いずれも独創性を有する映画の著作物であり、大正8年(1919年)6月から昭和27年(1952年)10月までの間に公表された。
(2) 本件各映画は、いずれもチャールズ・チャップリンが原作、脚本、制作ないし監督、演出、主演(本件映画3を除く。)等を単独で行い、その発案(本件映画8を除く。)から完成に至るまでの制作活動のほとんど又は大半を行っている。その内容においても、チャップリン自身の演技(本件映画3を除く。)、演出等を通じて、同人の思想・感情が顕著に表れており、本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者は、チャップリンである。
(3) 本件映画1、2の各映像にはチャップリンの原作に基づき同人が制作をしたことが、本件映画3の映像には同人の原作に基づき同人が監督をしたことが、本件映画4〜7の各映像には同人の原作に基づき同人が主演、監督をしたことが、本件映画8、9の各映像には同人の原作に基づき同人が主演、総監督をしたことが、それぞれ同人の実名をもって示されている。また、本件映画7の映像にはA社がその著作権者であることが、本件映画8の映像にはB社がその著作権者であることが、本件映画9の映像にはC社がその著作権者であることが、それぞれ示されている。
(4) 本件映画1〜6については、アメリカ合衆国著作権局において、いずれも著作者をチャップリンとする登録がされたが、本件映画7〜9については、それぞれその著作者をA社、B社、C社とする登録がされた。
(5) 被上告人は、昭和31年(1956年)に本件各映画の著作権すべてを取得した。
(6) チャップリンは、昭和52年(1977年)12月25日に死亡した。
(7) 上告人らは、被上告人の許諾を得ずに、本件各映画を複製して、DVD商品を作成し、頒布している。
3(1) 旧法の下において、著作物とは、精神的創作活動の所産たる思想感情が外部に顕出されたものを意味すると解される。そして、映画は、脚本家、監督、演出者、俳優、撮影や録音等の技術者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であるから、旧法の下における映画の著作物の著作者については、その全体的形成に創作的に寄与した者がだれであるかを基準として判断すべきであって、映画の著作物であるという一事をもって、その著作者が映画製作者のみであると解するのは相当ではない。また、旧法の下において、実際に創作活動をした自然人ではなく、団体が著作者となる場合があり得るとしても、映画の著作物につき、旧法6条によって、著作者として表示された映画製作会社がその著作者となることが帰結されるものでもない。同条は、その文言、規定の置かれた位置にかんがみ、飽くまで著作権の存続期間に関する規定と解すべきであり、団体が著作者とされるための要件及びその効果を定めたものと解する余地はない。
 これを本件についてみるに、上記事実関係によれば、本件各映画については、チャップリンがその全体的形成に創作的に寄与したというのであり、チャップリン以外にこれに関与した者の存在はうかがわれないから、チャップリンがその著作者であることは明らかである。
(2) 旧法の下において、独創性を有する映画の著作物の著作権の存続期間については、旧法3〜6条、9条の規定が適用される(旧法22条ノ3)。
 旧法3条は、著作者が自然人であることを前提として、当該著作者の死亡の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間を定めることとしている。しかし、無名又は変名で公表された著作物については、著作者が何人であるかを一般世人が知り得ず、著作者の死亡の時点を基準にその著作権の存続期間を定めると、結局は存続期間が不分明となり、社会公共の利益、法的安定性を害するおそれがある。著作者が自然人であるのに団体の著作名義をもって公表されたため、著作者たる自然人が何人であるかを知り得ない著作物についても、同様である。そこで、旧法5条、6条は、社会公共の利益、法的安定性を確保する見地から、これらの著作物の著作権の存続期間については、例外的に発行又は興行の時を基準にこれを定めることとし、著作物の公表を基準として定められた存続期間内に著作者が実名で登録を受けたときは、著作者の死亡の時点を把握し得ることになることから、原則どおり、著作者の死亡の時点を基準にこれを定めることとしたもの(旧法5条ただし書参照)と解される。そうすると、著作者が自然人である著作物の旧法による著作権の存続期間については、当該自然人が著作者である旨がその実名をもって表示され、当該著作物が公表された場合には、それにより当該著作者の死亡の時点を把握することができる以上、仮に団体の著作名義の表示があったとしても、旧法6条ではなく旧法3条が適用され、上記時点を基準に定められると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、本件各映画は、自然人であるチャップリンを著作者とする独創性を有する著作物であるところ、上記事実関係によれば、本件各映画には、それぞれチャップリンの原作に基づき同人が監督等をしたことが表示されているというのであるから、本件各映画は、自然人であるチャップリンが著作者である旨が実名をもって表示されて公表されたものとして、その旧法による著作権の存続期間については、旧法6条ではなく、旧法3条1項が適用されるというべきである。団体を著作者とする旨の登録がされていることや映画の映像上団体が著作権者である旨が表示されていることは、上記結論を左右しない。
(3) そうすると、本件映画1〜7の著作権の存続期間は、平成15年法律第85号附則3条、昭和45年法律第48号附則7条、旧法22条ノ3、3条1項、9条、52条の規定により、いずれも少なくとも平成27年(2015年)12月31日までとなり、他方、本件映画8、9の著作権の存続期間は、平成15年法律第85号附則2条、昭和45年法律第48号附則7条、旧法22条ノ3、3条1項、9条、52条、著作権法54条1項の規定により、少なくともそれぞれ平成29年(2017年)12月31日まで、平成34年(2022年)12月31日までとなる。
 したがって、本件各映画の著作権は、その存続期間の満了により消滅したということはできない。
4 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決・民集61巻9号3460頁は、自然人が著作者である旨がその実名をもって表示されたことを前提とするものではなく、旧法6条の適用がある著作物であることを前提として平成15年法律第85号附則2条の適用について判示したものにすぎないから、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷
 裁判長裁判官 宮川光治
 裁判官 甲斐中辰夫
 裁判官 涌井紀夫
 裁判官 櫻井龍子
 裁判官 金築誠志
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