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【事件名】商標“朝バナナ”侵害事件 【年月日】平成21年11月12日 東京地裁 平成21年(ワ)第657号 商標使用差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成21年9月17日) 判決 原告 株式会社ぶんか社 同訴訟代理人弁護士 酒井正之 同補佐人弁理士 天野広 被告 株式会社データハウス 同訴訟代理人弁護士 紀藤正樹 同 山口貴士 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙1被告書籍目録記載の書籍を販売してはならない。 2 被告は、その所有する別紙1被告書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、金1078万円及びこれに対する平成21年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、「朝バナナ(標準文字)」との商標につき後記商標権を有し、当該商標を別紙2原告標章目録記載の態様(以下「原告標章」という。)で題号の一部として付した書籍を出版・販売する出版社である原告が、別紙3被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付した別紙1被告書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を出版・販売する出版社である被告に対し、被告による被告書籍の出版・販売が原告の有する商標権を侵害し、あるいは、不正競争防止法2条1項1号ないし2号に該当する行為であると主張して、商標法36条1項、2項、又は不正競争防止法3条1項、2項に基づき、被告書籍の販売の差止めを求めるとともに、被告書籍の廃棄を求め、民法709条に基づき、損害賠償として金1078万円の支払を求める事案である。 なお、附帯請求は、不法行為の後の日である平成21年1月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。 1 争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1)当事者(弁論の全趣旨) ア 原告は、雑誌並びに一般図書の出版等を業とする株式会社である。 イ 被告は、書籍の出版並びに販売等を業とする株式会社である。 (2)原告の商標権(甲1、2) 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、本件商標権に係る商標を「本件商標」という。)を有する。 登録番号 第5171201号 出願年月日 平成20年3月10日 登録年月日 平成20年10月3日 商品及び役務の区分 第16類 指定商品 紙箱、紙袋、段ボール箱、ファイバー箱、衛生手ふき、紙製タオル、紙製テーブルナプキン、紙製手ふき、紙製のぼり、紙製旗、紙製ハンカチ、絵はがき、楽譜、歌集、カタログ、カレンダー、雑誌、時刻表、書籍、ムック、新聞、地図、日記帳、ニューズレター、パンフレット、絵画、軸、書、版画、写真立て、アルバム、カード、カーボンペーパー、けい紙、スクラップブック、スケッチブック、スコアーカード、スコアーブック、帳簿、手帳、伝票、謄写原紙、トレーシングクロス、トレーシングペーパー、ノートブック、便せん、封筒、方眼紙、名刺用紙、用せん、ルーズリーフ用紙、インキ、インキ消し、インキつぼ、印章、印章入れ、印章用マット、印肉、鉛筆削り(電気式のものを除く。)、画びょう、クリップ、消しゴム、黒板、黒板ふき、下げ札、シール、しおり、下敷き、修正液、定規、状差し、書類挟み、すずり、スタンプ台、ステッカー、墨、石ばん、接着テープ、接着テープディスペンサー、そろばん、短冊、地球儀、値札、はり札、番号印、日付印、筆立て、筆箱、文鎮、分度器、ペーパーナイフ、墨汁、ホッチキス(電動式のものを除く。)、水引、指サック、ラベル(布製のものを除く。) 商標 朝バナナ(標準文字) (3)原告による本件商標の使用(甲3ないし5、22ないし25) 原告は、平成20年3月以降、本件商標(原告標章)を題号の一部として付した、次の書籍を出版・販売している。 ア 甲第22号証の書籍(以下「原告書籍」という。) 書名 朝バナナダイエット 発行日 平成20年3月20日 著者 はまち。 発行人 A 発行所 株式会社ぶんか社 イ 甲第23号証の書籍(以下「日記帳版」という。) 書名 もっと朝バナナダイエット 発行日 平成20年7月10日 著者 はまち。 発行人 A 発行所 株式会社ぶんか社 ウ 甲第24号証の書籍(以下「文庫版」という。) 書名 朝バナナダイエット 発行日 平成20年8月20日 著者 はまち。 発行人 B 発行所 株式会社ぶんか社 エ 甲第25号証の書籍(以下「ムック版」という。また、原告書籍、日記帳版、文庫版、ムック版を併せて「原告書籍等」ということがある。) 書名 ぶんか社ムックみんなの朝バナナダイエット 発行日 平成21年2月7日 監修 はまち。 編集長兼発行人 C 発行所 株式会社ぶんか社 (4)被告の行為(甲6、21) 被告は、被告標章を付した被告書籍を出版・販売している。 2 争点 (1)商標権侵害の成否(争点1) (2)不正競争防止法違反の成否(争点2) (3)損害額(争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(商標権侵害の成否)について 〔原告〕 (1)被告書籍における被告標章の使用は、以下の点に照らし、商標的使用であることが明らかである。 ア 「朝バナナ」という用語は、普通名称ではなく、新たに造られた造語である。「朝バナナ」という用語は、どの分野においても普通名称ではなく、また、普通名称化したものでもない。 イ ダイエットは、老若男女を問わず、広く一般人の関心事である。ダイエットに関する書籍は、購読者層を限定することなく、不特定多数の者を対象とするのが一般的である。 ある書籍の読者層が不特定多数・非専門的である場合、当該書籍と他の書籍とが似ているものであれば、読者は、当該書籍と他の書籍とを混同する確率が高くなる。 被告書籍は、本件商標(「朝バナナ」)をそのまま使用している。また、本件商標は、著名性、周知性を有する名称となっている。これらの点を勘案すれば、読者が高い確率で被告書籍を原告の書籍と混同するであろうことが推測される。 ウ 被告書籍の題号は、「朝バナナダイエット成功のコツ40」である。このうち、「朝バナナ」は大きな文字で上段に記載され、「ダイエット成功のコツ40」は「朝バナナ」よりも小さな文字で下段に記載されている(被告書籍の表紙において、「朝バナナ」が縦横各約30o、「ダイエット」が縦横各約5o、「成功のコツ40」が縦横各約11oの大きさの文字で記載されている。)。また、「朝バナナ」と「ダイエット成功のコツ40」とでは、配色も異なる。さらに、「朝バナナ」の部分は4文字から成り、すっきりと表記されているのに対し、「ダイエット成功のコツ40」の部分は文字数も多く、すっきりとした表記になっていない。 以上のとおり、被告書籍においては、「朝バナナ」という用語が強調されており、「朝バナナ」の部分が他の部分とは明確に区別されている。エ被告書籍の購入者は、まず、「朝バナナ」の部分に注意を惹かれ、そして、それがダイエット本であるとする説明部分を理解した上で、被告書籍を他の商品と区別して購入する。 このような購入要因を考慮すれば、被告書籍における被告標章の使用は、まさに、自他商品識別力を発揮する態様における使用であるといえる。 オ 原告は、本件商標を、原告書籍、日記帳版、文庫版、ムック版に付して使用し、これらの書籍は、「シリーズもの」として著名性、周知性を有する出版物となっている。 (2)本件商標と被告標章とは、外観、称呼及び観念の点で全く同一である。 (3)被告標章が付された被告書籍は、本件商標の指定商品のうち「書籍」と同一である。 (4)よって、被告による、被告標章を付した被告書籍の販売行為は、本件商標権を侵害するものである。 (5)被告の主張に対する反論 ア 被告は、書籍の題号や内容についても商標権の効力が及ぶとすると、商標登録を得て更新を繰り返すことにより、著作権がその存続期間を経過して消滅した後も、事実上、当該題号を有する著作物について独占権を享受し得ることになってしまい、著作権法の定める存続期間の規律も意味のないものにしてしまう旨主張する。 しかしながら、商標権の効力が及ぶのは「題号」のみであり、当該「題号」が付された著作物について独占権を享受するものではないから、書籍の題号に商標権の効力が及んだからといって、著作権法の定める存続期間の規律を意味のないものにするようなことにはならない。 イ 被告は、原告の主張が、特定のダイエット方法を題号として商標登録することにより、商標権者以外の者が当該ダイエット方法に関する表現活動を行うことを事実上不可能にするものであり、失当である旨主張する。 しかしながら、原告は、ダイエット方法に関する表現活動の停止を要求したことはない。原告は、ダイエット方法についての特定の名称である「朝バナナ」という用語の使用の中止を要求しているにすぎない。 被告が、「朝バナナ」とは別の名称の下で、ダイエット方法に関する表現活動を行うことは一向に差し支えないのである。 ウ 被告は、被告書籍において、被告標章は書籍の内容を示すために使用されているにすぎないと主張する。 しかしながら、「朝バナナ」という用語が普通名称化しているのであればともかく、「朝バナナ」という用語は普通名称化しているわけではない。「朝バナナ」は、「朝食時にバナナを食することを主内容とするダイエット方法」を示すものとして著名、周知となったものの、これは原告の努力により実現されたものである。 被告が「朝食時にバナナを食することを主内容とするダイエット方法」に関する書籍を発行する場合、「朝バナナ」以外の他の名称を使用すべきであって、「朝バナナ」を題号に使用することは、「朝バナナ」の著名性、周知性に便乗しようとするものにほかならない。 また、被告は、本件商標を被告書籍に使用していながら、「朝バナナ」が原告の登録商標である旨の注釈を一切記載せず、「朝バナナ」が被告書籍に特有の名称であるかのように使用している。このことも、被告が、「朝バナナ」の著名性、周知性に便乗しようとする意図を有していたことを示している。 エ 「朝バナナ」は造語であるから、この用語自体が、書籍の内容を示しているとはいえない。 すなわち、「朝バナナ」という用語からは、「朝収穫されたバナナ」、「朝に肥料・水分を与えたバナナ」、「朝に日照を与えたバナナ」、「朝に出荷したバナナ」など、多くの概念を想定することができるのであり、書籍の内容とは一致しない場合がある。 〔被告〕 (1)被告書籍は「朝バナナ」というダイエット方法に関する書籍であるため、「朝バナナ」という用語をその題号の一部に用いているにすぎず、単に、書籍の内容を示す題号として表示されているにすぎないから、被告書籍において被告標章は商標として使用されているとはいえない。 (2)憲法21条により保障された表現の自由の範囲に属する創作活動を制限しないためには、書籍の題号や書籍の内容における言葉は自由に選択し得るようにする必要性が高い。 書籍の題号や内容についても商標権の効力が及ぶとすると、商標登録を得て更新を繰り返すことにより、著作権がその存続期間を経過して消滅した後も、事実上、当該題号を有する著作物について独占権を享受し得ることになってしまい、著作権法の定める存続期間の規律も意味のないものにしてしまう。 原告の主張は、特定のダイエット方法を題号として商標登録することにより、商標権者以外の者が当該ダイエット方法に関する表現活動を行うことを事実上不可能にするものであり、表現の自由に対する配慮を欠いた失当な主張である。 (3)商標法により保護される商標は、自他商品識別機能を本質的機能として具備している必要があるばかりでなく、出所表示機能及び品質保証機能を具備している必要がある。 形式的には商標権の侵害に該当すると見えるような場合でも、それが自他商品識別標識としての機能を果たす態様で使用されているわけではなく、登録された商標と具体的出所の混同を生じるおそれがないような場合には、商標権の侵害とはならないというべきである。 (4)被告書籍は、「朝バナナダイエット」に関する書籍であるから、題名及び書籍の中身において、「朝バナナ」という用語を使用していたとしても、それは書籍の内容を示すために使用されているにすぎず、被告書籍を見た一般的な読者も、「朝バナナ」という用語を、「朝バナナ」に関する内容を掲載した書籍であることを示す表示であるとしか受け止めない。 したがって、被告書籍における「朝バナナ」という表示は、商品を特定する機能、あるいは、出所を表示する機能を果たす態様で用いられてはおらず、商標として使用されているわけではないから、被告書籍における被告標章の使用は、本件商標権を侵害するものではない。 2 争点2(不正競争防止法違反の成否)について 〔原告〕 (1)原告標章の著名性・周知性 原告は、平成20年3月以降、原告標章を原告書籍(甲22)、日記帳版(甲23)、文庫版(甲24)、ムック版(甲25)の題号の一部に使用している。 ア 原告書籍は、爆発的な反響を呼び、平成20年11月には第98刷が発行される状況にある。 また、同年6月には、日記帳版が発行され、同年8月には、文庫版が発行されるなど、合計50万部を超えるベストセラーとなった。 上記のとおり、原告が原告書籍を多数回にわたって印刷・出版し、また、日記帳版や文庫版という複数の形態による出版を行ったことにより、原告標章は、単に書籍自体やその内容を示すものとして著名、周知となっただけでなく、原告の出版物を表示するものとして著名、周知となった。 イ その後も、平成21年1月には、単行本と雑誌との中間的な出版物であるムック版が出版された(甲25)。 ムック版のカバー裏側には、「大好評発売中!朝バナナダイエットシリーズ」と記載されており、原告書籍等が「シリーズもの」として販売されていることが強調されている。「シリーズもの」としての確立は、原告標章が、単なる書名の一部であるというにとどまらず、出所表示としての機能が更に高まったことを示す。 ウ 原告書籍は、別紙4、別紙5−1、5−2、別紙6及び別紙7記載のとおり、新聞、テレビ、その他のメディアにおいて、書籍名を具体的に挙げたり、その写真を掲載するなどして、頻繁に紹介された(甲7ないし18、26ないし43、甲45の1ないし4)。 「朝バナナダイエット」のうち、「ダイエット」の部分は普通名詞であるから、「朝バナナ」の部分が注目される。 したがって、上記のメディアによる紹介によっても、原告標章は原告の出版物を表示するものとして著名、周知となった。 (2)被告書籍における被告標章の使用は、以下の点に照らし、商品等表示としての使用(自他商品識別機能を発揮する態様での使用)であることが明らかである。 ア 「朝バナナ」という用語は、普通名称ではなく、新たに造られた造語である。「朝バナナ」という用語は、どの分野においても普通名称ではなく、また、普通名称化したものでもない。 イ ダイエットは、老若男女を問わず、広く一般人の関心事である。ダイエットに関する書籍は、購読者層を限定することなく、不特定多数の者を対象とするのが一般的である。 ある書籍の読者層が不特定多数・非専門的である場合、当該書籍と他の書籍とが似ているものであれば、読者は、当該書籍と他の書籍とを混同する確率が高くなる。 被告書籍は、本件商標(「朝バナナ」)をそのまま使用している。また、本件商標は、著名性、周知性を有する名称となっている。これらの点を勘案すれば、読者が高い確率で被告書籍を原告の書籍と混同するであろうことが推測される。 ウ 被告書籍の題号は、「朝バナナダイエット成功のコツ40」である。このうち、「朝バナナ」は大きな文字で上段に記載され、「ダイエット成功のコツ40」は「朝バナナ」よりも小さな文字で下段に記載されている(被告書籍の表紙において、「朝バナナ」が縦横各約30o、「ダイエット」が縦横各約5o、「成功のコツ40」が縦横各約11oの大きさの文字で記載されている。)。また、「朝バナナ」と「ダイエット成功のコツ40」とでは、配色も異なる。さらに、「朝バナナ」の部分は4文字から成り、すっきりと表記されているのに対し、「ダイエット成功のコツ40」の部分は文字数も多く、すっきりとした表記になっていない。 以上のとおり、被告書籍においては、「朝バナナ」という用語が強調されており、「朝バナナ」の部分が他の部分とは明確に区別されている。 エ 被告書籍の購入者は、まず、「朝バナナ」の部分に注意を惹かれ、そして、それがダイエット本であるとする説明部分を理解した上で、被告書籍を他の商品と区別して購入する。 このような購入要因を考慮すれば、被告書籍における被告標章の使用は、まさに、自他商品識別力を発揮する態様における使用であるといえる。 オ 原告は、本件商標を、原告書籍、日記帳版、文庫版、ムック版に付して使用し、これらの書籍は、「シリーズもの」として著名性、周知性を有する出版物となっている。 (3)原告標章と被告標章とは、外観、称呼及び観念の点で同一である。 (4)被告による被告標章を付した被告書籍の販売行為は、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当する。 (5)また、被告書籍の販売により原告書籍との混同が生じたり、あるいは、被告書籍が何らかの関係で原告を想起させたりすることから、被告による被告標章を付した被告書籍の販売行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。 (6)なお、被告書籍は、内容面においても、原告書籍を模倣したものとなっている。すなわち、原告書籍は、「ガマンしない」、「お金をかけない」、「時間をかけない」ことを「朝バナナダイエット」の3つのコンセプトとして強調するのに対し、被告書籍も、「がまんをしない」、「お金をかけない」、「時間をかけない」ことをダイエットのコンセプトとして挙げている。 また、被告書籍の著者は、「ぽっちゃり熟女ゆっきーな」という、実在するのかさえ確認することができないような名称を用い、隠蔽工作に及んでいる。 これらの観点からして、被告の本件における主張は排斥されるべきである。 (7)被告は、被告標章は被告書籍の内容を示すために使用されているにすぎないと主張する。 しかしながら、「朝バナナ」という用語が普通名称化しているのであればともかく、「朝バナナ」という用語は普通名称化しているわけではない。「朝バナナ」は、「朝食時にバナナを食することを主内容とするダイエット方法」を示すものとして著名、周知となったものの、これは原告の努力により実現されたものである。 被告が「朝食時にバナナを食することを主内容とするダイエット方法」に関する書籍を発行する場合、「朝バナナ」以外の他の名称を使用すべきであって、「朝バナナ」を題号に使用することは、「朝バナナ」の著名性、周知性に便乗しようとするものにほかならない。 また、被告は、被告書籍に「朝バナナ」が原告の登録商標である旨の注釈を一切記載せず、「朝バナナ」が被告書籍に特有の名称であるかのように使用している。このことも、被告が、原告標章(「朝バナナ」)の著名性、周知性に便乗しようとする意図を有していたことを示している。 〔被告〕 (1)原告書籍における「朝バナナ」という用語の使用は、商品等表示としての使用ではない。 また、「朝バナナ」との用語を含む題号の書籍であるからといって、原告が出版する書籍であるとの混同を生じるものでもないから、原告標章が「自己の営業に係る商品と他人の営業に係る商品とを識別するための標識として認識されるに至った」ともいえない。 (2)原告標章が著名性、周知性を有するとの点は否認ないし争う。 (3)被告書籍は「朝バナナ」というダイエット方法に関する書籍であるため、「朝バナナ」という用語をその題号の一部に用いているにすぎず、商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていないから、被告書籍において被告標章は商品等表示として使用されているとはいえない。 ア 不正競争防止法2条1項1号、2号の趣旨は、周知性を有する商品等表示、又は著名な商品等表示について、その顧客吸引力への「ただ乗り」行為を防止するとともに、その出所表示機能及び品質表示機能が稀釈化により害されることを防止することにある。 そうすると、商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていない表示によっては、商品等表示の出所表示機能、自他商品識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害することにはならないから、不正競争防止法2条1項1号、2号の「商品等表示の使用」に該当するというためには、単に、他人の周知の商品等表示と同一又は類似の表示、あるいは、他人の著名な商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず、それが商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。 イ 被告書籍は、「朝バナナ」というダイエット方法に関する書籍であるから、題号及び内容に「朝バナナ」という用語を使用していても、それは、単に書籍の内容を示すためのものにすぎず、被告書籍を見た一般的な読者も、「朝バナナ」という表示を、書籍の内容を示す表示と理解するのが通常であるといえる。 したがって、被告書籍における「朝バナナ」という表示は、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の行為、すなわち、他人の商品等表示と同一若しくは類似のものを使用した行為には該当しないというべきである。 (4)原告書籍と被告書籍とを比較した場合、両者に類似性はなく、誤認混同のおそれはない。 すなわち、被告書籍には、「データハウス」と被告の社名が、「ぽっちゃり熟女ゆっきーな」と著者名が、背表紙、カバー及び奥付に明示されているのであり、題号に「朝バナナ」との記載があるからといって、被告書籍の出版元が原告であるとの混同を生じるはずがない。 (5)なお、原告は、被告書籍が内容面において原告書籍を模倣したものとなっているとか、被告書籍の著者の名称に照らし、被告が隠蔽工作に及んでいるなどと主張する。 しかしながら、被告書籍は、「朝バナナダイエット」というダイエット法について、それを実践した人々の体験を基にした解説本、論評本であるから、「ガマンしない」、「お金をかけない」、「時間をかけない」という、「朝バナナダイエット」の基本コンセプトについて言及することは当然のことであって、原告の主張は失当である。 3 争点3(損害額)について 〔原告〕 (1)被告による被告書籍の販売行為は、本件商標権の侵害行為、又は不正競争行為に該当する。 被告には、上記行為を行うにつき少なくとも過失が認められる。 (2)被告は、平成20年12月1日から原告が本訴を提起した平成21年1月13日までの間に、本件書籍を少なくとも6000部販売した。 被告書籍の定価は1050円であるから、被告の売上高は、630万円である(1050円×6000部)。 被告書籍は原告書籍のコンセプトを盗用したものであって、制作や出版にかかった費用は多くはないから、被告書籍の利益率は少なくとも6割を下ることはない。 被告が被告書籍の販売により得た利益378万円(630万円×0.6)は、原告が受けた損害の額と推定される(商標法38条2項、不正競争防止法5条2項)。 (3)弁護士費用 弁護士費用相当額として、700万円が被告の行為と相当因果関係のある損害である。 (4)合計 原告は、被告に対し、合計1078万円の損害賠償請求権を有する。 〔被告〕 原告の主張は否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 証拠(甲6、21)によれば、以下の事実が認められる。 (1)被告書籍の体裁 ア カバー (ア)被告書籍は、表紙の上に上質紙でカラー刷りのカバーが掛けられている。 カバーの表面の上部には、「朝バナナ」、「ダイエット成功のコツ40」の文字が、2行に分けて横書きで記載されており、このうち、@「朝バナナ」の部分は、黄色とこげ茶色の色彩の点も含め別紙3被告標章目録記載のとおりの態様で、大きく、A「ダイエット」の部分は、「朝バナナ」の「朝バ」の部分の下に位置する黄色の5つの円の中にそれぞれ1文字ずつ、こげ茶色の文字で小さく、B「成功のコツ40」の部分は、「朝バナナ」の「バナナ」の部分の下に、こげ茶色の文字で、「朝バナナ」の文字よりは小さく「ダイエット」の文字よりは大きく、記載されている。 カバー表の中央部には、目を模した装飾を施した3本のバナナの写真が大きく表示されている。 (イ)カバーの背部分の上部から中央部には、「朝バナナ」、「ダイエット」、「成功のコツ40」の文字が、1行の縦書きで記載されており、このうち、@「朝バナナ」の部分は、黄色とこげ茶色の色彩の点も含め別紙3被告標章目録記載の標章を構成する各文字を用いて、やや大きく、A「ダイエット」の部分は、「朝バナナ」の文字に続けて位置する黄色の5つの円の中にそれぞれ1文字ずつ、こげ茶色の文字でやや小さく、B「成功のコツ40」は、「ダイエット」の文字に続けて、こげ茶色の文字でやや大きく、記載されている。 また、上記背部分の下部には、C「ぽっちゃり熟女ゆっきーな著」と、こげ茶色の文字を用いて、1行の縦書きでやや小さく、D上記Cの記載に続けて、「データハウス」と、こげ茶色の文字を用いて、1行の横書きで小さく、記載されている。 イ 表紙 被告書籍の表紙は、白黒刷りであるほかは、上記ア記載のカバーの体裁と同じである。 ウ 中表紙 被告書籍の中表紙は、その表紙の表面の体裁と同じである。 (2)被告書籍は、著者が、「朝バナナダイエット」というダイエット方法を知り、これを実行したところ10キログラム以上の減量に成功した体験を有するとして、著者の考える「朝バナナダイエット」の「成功のコツ」(ダイエットを効果的に継続するための秘訣)を紹介することを内容とするものである。 被告書籍では、上記「成功のコツ」として、下記40項目が挙げられており、本文中では、それぞれの項目ごとに、当該項目に関連する記述や情報提供等がされている。 記 初級編 朝バナナの基本 こうすれば、もっと効果的! 1 なぜ朝食をバナナと水だけにするの? 2 飲み物は常温の水だけ? 3 昼食と夕食はふつうに食べられる? 4 三時のおやつは食べてもいいの? 5 本当にバナナだけしかダメなの? 6 日付が変わるまでに寝られなかったら? 7 三つのコンセプト1「がまんをしない」 8 三つのコンセプト2「お金をかけない」 9 三つのコンセプト3「時間をかけない」 10 運動はしなくていいの? 11 みんな実際、どのくらい痩せたの? 12 ドカ食いしても大丈夫? 13 夕食の後は何も食べられないの? 中級編 飽きずに続けるためにもっと楽しく朝バナナ! 14 効果的なバナナの食べ方ってあるの? ・おいしいバナナの作り方は? ・バナナの種類って、いろいろあるの? ・バナナの保存方法は? ・バナナの食べ時ってあるのかな? ・世界中のバナナの食べ方 ・ストレスを上手に発散するには? ・全然痩せない・・・・・・どうして? ・落ち込んだ時の対処法 ・朝バナナを長く続けるには? ・ゆっきーなの朝バナナ体験記@ ・ゆっきーなの朝バナナ体験記A ・ゆっきーなの朝バナナ体験記B ・ゆっきーなの朝バナナ体験記C 学習編 知っているようで、案外知らないバナナについての豆知識 ・バナナをまじめに分類してみよう 29 バナナの栄養と効能について ・バナナの歴史について ・この木何の木、バナナの木 ・生食用バナナの種類にこだわる ・黒い斑点、シュガースポット ・バナナは歌になりやすい ・バナナの皮は、なぜ滑る? ・バナナの叩き売り ・え?バナナ島があるの? ・え?バナナ共和国があるの? ・え?バナナ大学があるの? ・バナナ型神話って何? 2 争点1(商標権侵害の成否)について (1)原告は、被告が被告書籍において、本件商標(「朝バナナ」)と同一又は類似の標章である被告標章(「朝バナナ」)を使用しているから、被告書籍を出版・販売する行為は、原告の有する本件商標権を侵害する行為である旨主張する。 (2)被告書籍の題号は、「朝バナナダイエット成功のコツ40」であり、本件商標と同一又は類似の「朝バナナ」を含む。 (3)ところで、商標の使用が商標権の侵害行為であると認められるためには、登録商標と同一又は類似の第三者の標章が、単に形式的に指定商品又はこれに類似する商品等に表示されているだけでは足りず、その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たす態様で使用されていることを要するものと解すべきである。 前記1で認定したところによれば、被告書籍の内容は、「朝バナナダイエット」というダイエット方法を実行し、ダイエットに成功するために、著者が成功の秘訣と考える事項を40項目挙げるというものであり、題号の表示も、被告書籍に接した読者において、書籍の題号が表示されていると認識するものと考えられる箇所に、題号の表示として不自然な印象を与えるとはいえない表示を用いて記載されているといえる。 そうすると、被告書籍に接した読者は、「朝バナナ」を含む被告書籍の題号の表示を、被告書籍が「朝バナナダイエット」というダイエット方法を行ってダイエットに成功するための秘訣が記述された書籍であることを示す表示であると理解するものと解される。 なお、被告書籍の題号のうち、「朝バナナ」の文字部分は、「ダイエット成功のコツ40」の部分に比べて大きく記載されており、被告書籍の題号中当該部分が強調されているといえる。しかしながら、「朝バナナ」という用語は、朝食時にバナナと水を摂取することを基本とするダイエット方法として知られる「朝バナナダイエット」を略称した用語として一般に知られていること(甲7ないし18、30、32、34ないし40、42)、両部分は統一感のあるデザイン、色調で記載されていることに照らせば、被告書籍に接した読者は、「朝バナナ」という部分を、原告の出版活動と関連させて理解するというよりは、むしろ、被告書籍が「朝バナナダイエット」に関する内容の書籍であることを強調する部分であると理解するものと考えられる。 (4)以上によれば、被告書籍のカバーや表紙等における被告標章の表示は、被告標章を、単に書籍の内容を示す題号の一部として表示したものであるにすぎず、自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用されていると認めることはできないから、本件商標権を侵害するものであるとはいえない。 3 争点2(不正競争防止法違反の成否)について (1)原告は、被告が被告書籍において、周知かつ著名な原告の商品表示(原告書籍等の題号の一部を成す)である原告標章(「朝バナナ」)と同一又は類似の商品表示である被告標章(「朝バナナ」)を使用しているから、被告書籍を出版・販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号、2号の不正競争行為に該当する旨主張する。 (2)被告書籍の題号は、「朝バナナダイエット成功のコツ40」である。当該題号は、前記1(1)で認定した事実によれば、被告書籍を表し、他の商品(書籍)と区別するために付された表示であると認められるから、被告の商品表示に当たる。 そして、被告書籍の題号である「朝バナナダイエット成功のコツ40」は、原告書籍等の題号の一部を成す原告標章と同一又は類似の「朝バナナ」を含む。 (3)ところで、自己の商品表示中に、他人の商品等表示が含まれていたとしても、その表示の態様からみて、専ら、商品の内容・特徴等を叙述、表現するために用いられたにすぎない場合には、他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用したと評価することはできない。 前記1で認定したところによれば、被告書籍の内容は、「朝バナナダイエット」というダイエット方法を実行し、ダイエットに成功するために、著者が成功の秘訣と考える事項を40項目挙げるというものであり、題号の表示も、被告書籍に接した読者において、書籍の題号が表示されていると認識するものと考えられる箇所に、題号の表示として不自然な印象を与えるとはいえない表示を用いて記載されているといえる。 そうすると、被告書籍に接した読者は、「朝バナナ」を含む被告書籍の題号の表示を、被告書籍が「朝バナナダイエット」というダイエット方法を行ってダイエットに成功するための秘訣が記述された書籍であることを示す表示であると理解するものと解され、被告標章を含む被告書籍の題号は、専ら、被告書籍の内容を表現するために用いられたものであると認めるのが相当である。 なお、被告書籍の題号のうち、「朝バナナ」の文字部分は、「ダイエット成功のコツ40」の部分に比べて大きく記載されており、被告書籍の題号中当該部分が強調されているといえる。しかしながら、前記2(3)で述べたとおり、「朝バナナ」という用語は、朝食時にバナナと水を摂取することを基本とするダイエット方法として知られる「朝バナナダイエット」を略称した用語として一般に知られていること、両部分は統一感のあるデザイン、色調で記載されていることに照らせば、被告書籍に接した読者は、「朝バナナ」という部分を、原告の出版活動と関連させて理解するというよりは、むしろ、被告書籍が「朝バナナダイエット」に関する内容の書籍であることを強調する部分であると理解するものと考えられる。 (4)以上によれば、被告書籍のカバーや表紙等に被告標章を表示した被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の他人の商品等表示と同一若しくは類似のものを使用した行為に該当するとはいえない。 他に、上記判断を左右するに足る主張、立証はない。 4 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 柵木澄子 裁判官 舟橋伸行 (別紙1)被告書籍目録 書籍名 朝バナナダイエット成功のコツ40 発行日 2008年12月10日 著者 ぽっちゃり熟女ゆっきーな 発行者 D 発行所 株式会社データハウス (別紙2〜7) 略 |
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