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【事件名】スピーカ測定プログラム侵害事件
【年月日】平成21年11月9日
 東京地裁 平成20年(ワ)第21090号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年9月14日)

判決
原告 フォスター電機株式会社
同訴訟代理人弁護士 小池豊
同 櫻井彰人
同 萱島博文
被告 A


主文
1 被告は、別紙被告製品目録記載2のソフトウェアを複製又は販売してはならない。
2 被告は、別紙被告製品目録記載2のソフトウェアを格納したCD−ROM、DVD−ROM、ハードディスクその他の記憶媒体を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金9万円及びこれに対する平成20年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告製品目録記載1のスピーカ測定器を製造又は販売してはならない。
2 主文第1項と同旨
3 被告は、別紙被告製品目録記載1のスピーカ測定器の情報をウェブサイト上に掲載してはならない。
4 被告は、別紙被告製品目録記載1のスピーカ測定器及び同目録記載2のソフトウェアを格納したCD−ROM、DVD−ROM、ハードディスクその他の記憶媒体を廃棄せよ。
5 被告は、原告に対し、金190万円及びこれに対する平成20年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、スピーカ測定器及びそれに付属するソフトウェアを製造する原告が、原告の元従業員である被告に対し、被告が製造・販売するスピーカ測定器及びそれを稼働させるソフトウェアは、原告のスピーカ測定システムに関する営業秘密を不正に利用して製造されたものであること(不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項7号)及び被告が製造・販売するソフトウェアは、原告の前記ソフトウェアのプログラムの著作権(複製権)を侵害すること(著作権法21条)を理由として、@不競法3条に基づく被告のスピーカ測定器の製造・販売の差止め及びその廃棄(前記請求第1項及び第4項)、A不競法3条又は著作権法112条(選択的併合)に基づく被告のソフトウェアの製造・販売の差止め及びそれを記録した記憶媒体の廃棄(前記請求第2項及び第4項)、B不競法3条又は著作権法112条(選択的併合)に基づく被告のウェブサイトへの被告のスピーカ測定器に関する情報の掲載の差止め(前記請求第3項)、C不競法4条及び5条2項(主位的主張)若しくは3項(予備的主張)又は民法709条及び著作権法114条2項(主位的主張)若しくは3項(予備的主張)に基づく損害賠償金190万円(不競法違反及び著作権法違反につき選択的併合)並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(前記請求第5項)を求める事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者
ア 原告は、音響機器等を製造・販売する株式会社である。
イ 被告は、原告に、昭和60年1月7日に入社し、平成17年12月31日に退職した者であり、(2)の原告システムの研究開発の際、原告の製造技術部の研究開発スタッフとして、これに関与していた(弁論の全趣旨)。
(2) 原告は、平成16年9月、本体であるスピーカ測定器(品番TRS−2004。以下「原告測定器」という。)とそれに付属するソフトウェア(以下「原告ソフトウェア」という。)から成るスピーカ測定システム(以下「原告システム」という。)を開発した(弁論の全趣旨)。
(3) 被告は、別紙被告製品目録記載1のスピーカ測定器(以下「被告測定器」という。)を製造し、これを稼働させる同目録記載2のソフトウェア(以下「被告ソフトウェア」といい、被告測定器と併せて「被告システム」という。)とともに販売した。
 その販売台数は、2台であり、販売代金は、合計160万円である。
2 争点
(1) 被告システムは、原告の営業秘密を不正の目的で利用して製造されたものか(不競法2条1項7号該当性)。
(2) 被告ソフトウェアは、原告ソフトウェアのプログラムの著作権(複製権)を侵害しているか。
(3) 被告が被告システムを製造・販売することについての原告の許諾の有無
(4) 被告システム及び被告ソフトウェアの製造・販売等の差止め及びその廃棄の請求の可否
(5) 損害賠償請求の可否及びその額
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(不競法2条1項7号該当性)について
(原告の主張)
ア 営業秘密
(ア) 有用性
 原告システムに関する情報(原告測定器及び原告ソフトウェアに関する一切の技術的な情報であり、例えば、原告測定器の回路図や原告ソフトウェアのソースコードが、これに含まれる。)は、原告の研究開発や品質保証の維持に利用されているものであり、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報である。
(イ) 非公知性
 原告システムは、専ら原告及び原告の関連会社で用いるためのものであり、原告の関連会社以外には販売されておらず、原告システムに関する情報は、公然と知られていない。
(ウ) 秘密管理性
a 原告においては、紙媒体や電子記録媒体等に記録された情報が漏洩することがないように、各部門・各社員に対し、書類等の集中管理及び施錠管理を指導し、徹底している。そして、原告システムに関する情報が記録された紙媒体や電子記録媒体等も、研究開発に関与した製造技術部社員の書庫・キャビネット等において施錠管理されており、他の者がアクセスすることはできなかった。
 また、原告の各パソコンは、ユーザーID及びパスワード設定により管理されており、サーバ上の共有データも、部門ごとにアクセス権限が限定されており、他部門の社員が閲覧することはできない状態にある。
 さらに、原告は、就業規則(甲8)、社員行動規範(甲9)及び企業秘密保護・管理規程(甲4)において社員の秘密保持義務を定め、これらを各社員に説明・通達する等(甲12、14)して、秘密保持義務の周知徹底を図っている。
b 音響機器メーカーである原告は、音響機器の技術力をもって企業活動を継続しているから、製造技術部の研究開発情報が極めて重大な秘密情報であることは当然であり、原告システムに関する情報にアクセスした者が、これを秘密として認識できるものである。
c したがって、原告システムに関する情報は、秘密として管理されていたものといえる。
イ 被告は、製造技術部の一員として原告システムの研究開発に関与していた者であり、原告からその営業秘密を示されたものである。
ウ 被告は、原告システムに関する情報を用いて被告システムを製造し、平成18年10月ころ(遅くとも、平成19年1月ころ)から、ウェブサイト上に、被告システムに関する情報を掲載し、販促活動を行って、原告の営業秘密を使用し、これを開示している。
 そして、被告は、原告の営業秘密を自らの営業に使用しているから、このような被告の行為が、「不正の利益を得る目的」でされたものであることは明らかである(不競法2条1項7号)。
(被告の主張)
ア 営業秘密について
(ア) 原告システムに関する情報が営業秘密であることは、争う。被告が原告に在籍していたころは、退職後に、在職中の知識を基に事業をしてよいという雰囲気であった。
 また、被告は、企業秘密保護・管理規程の存在を知らなかった。
(イ) 被告が原告に在籍していた当時、原告の生産技術部には、原告測定器を始め多数のソフトウェアがあったが、その閲覧は自由であり、ソフトウェアは、営業秘密として管理されていなかった。
イ 営業秘密の使用について
 被告測定器は、原告測定器と多少類似したところはあるが、すべて、被告が、独自に開発したものであり、原告の営業秘密、ノウハウは使用していない。
 例えば、測定器の中心的機能を果たすDSPにつき、原告測定器は1枚の基板から構成されているのに対し、被告測定器は2枚の基板から構成され、製造性、保守性を向上させている。
 また、その機能も、@測定範囲の拡大(原告システムは20KHzまでであるのに対し、被告製品は100KHzまで測定可能)、AFoの測定精度の向上、Bシールススモールパラメーターの測定機能の追加、C設計メモの記録機能の追加、D音圧インピーダンスの測定データのセーブ、ロード機能の追加、E音圧の歪測定範囲の拡大、F上下限カーブの変更、設定機能の向上、Gメモリーリークの対策によるシステムの信頼性の向上等の点において、異なっている(乙1)。
(2) 争点(2)(被告ソフトウェアの著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 原告ソフトウェアの著作物性
 原告ソフトウェアは、測定器側で機能する7個のファイル(以下「測定器側ファイル」といい、アセンブリ言語で表現されている。)と、測定器とオンライン接続するパソコン側で機能する38個のファイル(以下「パソコン側ファイル」といい、C++言語で表現されている。なお、このうち、4つのファイルは、プログラムではない。)から成る。
 そして、原告ソフトウェアは、原告測定器を機能させ、パソコンのモニター上にスピーカの周波数特性等の多様な検査結果を表示する(パソコンに接続したマイクロフォン及び当該パソコンを経由し、原告測定器に入力された各スピーカの音声データについて、原告測定器を機能させることにより、周波数、抵抗値、極性、異常音等を精密に解析し、その結果をデータ処理して当該パソコンのモニター上に表示する。)ためのものであり、電子計算機を機能させて一つの結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものであって、命令の組合せ、モジュールの選択、通信方式、解決手段の選択等の表現について原告の個性が発揮され、創作性を有するから、プログラムの著作物に該当する。
イ 原告の著作権
(ア) 原告にとって、スピーカ測定システムは業務上必要であり、原告と雇用契約を締結した製造技術部の従業員等(被告を含む。)の研究により、原告の職務の一環として原告ソフトウェアが開発されたことから、原告ソフトウェアは、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する者が職務上製造したものである。
 したがって、原告ソフトウェアの著作者及び著作権者は、原告である。
(イ) 被告は、原告ソフトウェア中の一部のファイルは、旧モトローラ社から提供されたものであると主張するが、被告がプログラムの原本が掲載されていると主張するサイトには、それらのプログラムは、掲載されていない。
 また、被告は、原告ソフトウェアの一部のファイルにつき、MFC(厳密には、Visual C++である。)によって自動生成されるものであると主張するが、これにより自動生成することができるのは、各プログラム・コード全体のごくわずかな一部にすぎない(甲21)。そして、仮に、Visual C++による自動生成が著作物性に何らかの影響を及ぼすとしても、Visual C++を使用してプログラム・コードを生成するのは、パソコン側ファイルのみであって、測定器側ファイルには、これを使用していないから、測定器側ファイルの著作物性には、何ら影響しない。
ウ 被告による著作権侵害
(ア) 原告ソフトウェアが開発されたのは、平成16年9月ころであるところ、被告は、そのころ、原告の従業員として勤務して、原告システムの研究開発に関与していたこと、被告ソフトウェアが製造されたのは、平成18年6月ころであること、被告は、原告ソフトウェアのソースコードを所持していることからすれば、被告は、原告ソフトウェアに依拠して、被告ソフトウェアを製造したといえる。
(イ) 被告ソフトウェアのソースコードと原告ソフトウェアのソースコードとが実質的に同一であることは、以下のことから明らかである。仮に、被告が主張するとおり、被告ソフトウェアが原告ソフトウェアに追加的な付加をしていたとしても、原告ソフトウェアを複製した上で、若干の変更を加えたものにすぎないから、何ら法的に意味があるものではない。
a 原告ソフトウェアと被告ソフトウェアとをアセンブリ言語に変換して比較した結果、抜き出したサブルーチンのほぼすべてにおいて、命令語が同一であった(甲1、10)。また、原告ソフトウェアのソースコードと被告ソフトウェアのソースコードとを比較した結果、比較した41個のファイルのうち、一言一句変わらないものが15個あり、また、残りのファイルについても、わずかな追加や変更が加えられているにすぎなかった(甲18。例えば、FFTR2AA.ASM、HANNNING.ASM、IIR7.ASM、SINCOS.ASM及びSTBL.ASMは、一言一句変わらないデッドコピーであり、TDSPX.ASM及びTDSP.ASMは、コードのほとんどが同じであり、実質的に同一である。)。さらに、そのファイル名も、原告ソフトウェアの45個のファイルの名称中、被告ソフトウェアにおいて全く同一のファイル名が使用されているものが、43個もあるところ、ファイルの名称は、プログラムの作成者が任意に付けるものであることからすれば、複製しなければ、ここまで同一の名称となるはずがない。
b モニターの操作画面表示がほぼ同一であり、これに基づく操作方法も、極めて類似している(甲1)。
c モニターのバージョン表示が、全く同じである(甲1)。
d 被告ソフトウェアによって原告測定器が起動し、原告ソフトウェアによって被告測定器が起動する(甲1)。
e 取扱説明書も、記載順序及び細かな表現の変更はあるが、ほどんど同一である。
f 被告自身、被告ソフトウェアが原告ソフトウェアの延長線上にあることを認めている(甲6)。
(ウ) したがって、被告ソフトウェアは、原告ソフトウェアに依拠して、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したものであって、原告の複製権を侵害している。
 なお、被告は、被告が作成した原告製品のソースコードの一部を基礎的知識として利用していると主張するが、その主張自体、原告の著作権侵害を構成する事実を認めたものである。
(被告の主張)
ア 原告ソフトウェアの著作物性について
 原告ソフトウェアと被告ソフトウェアとに同一の部分があるのは、Visual C++コンパイラーの一部であるMFCを用いたことによるものであり、これによって自動的に生成されたことによるものであるから、その部分については、著作権の保護の対象にならない。そして、機械語レベルで、MFCが自動生成したコードとアプリケーションエンジニアが記述したコードの比率を考えると、後者の比率は、多くとも2ないし3%程度である。
イ 被告による著作権侵害について
(ア) 被告ソフトウェアは、被告が独自に開発したものである。
(イ) 被告ソフトウェアの内容は、原告ソフトウェアとは大きく相違しており(乙18)、その機能も、前記(1)(被告の主張)イのとおり、大きく異なっている。
 そして、例えば、測定範囲の拡大のため、被測定スピーカの駆動波形の発生ルーチンに関して、抵抗及び音圧の読取タイミングの発生ルーチンを被告のアイデアで考案し、その実現のために創作的なソースプログラムを作成し、読み取った音圧及び抵抗データの処理ルーチンのソースプログラムを創作的に変更・改造する等して、プログラムを創作、考案している。
(ウ) 別紙「TRS−563Wのプログラムの内容の説明」の「検討の対象」欄中、×印が付されたプログラム(以下「被告主張プログラム」という。)は、旧モトローラ社から提供された汎用プログラム(FFTR2AA.ASM、HANNNING.ASM、IIR7.ASM、SINCOS.ASM、STBL.ASMは、米国のDSPに関するサイトに掲載されている。)又はMFCが自動生成したプログラムであって、原告に著作権はない。
 また、同欄中、○印が付されたもののうち、TDSPX.ASM及びTDSP.ASMは、100KHzまで測定できるという被告ソフトウェアの製品思想を表現する核となるものであって、原告ソフトウェアのプログラムと異なる部分こそ、100KHzまで測定できるという被告ソフトウェアの製品思想の本質を表現したものである。また、両者が同一の部分は、その思想を表現するための基礎的知識を記述したものにすぎず、その部分には、著作物性がないものも含まれている。その他の○印が付されたものは、TDSPX.ASM及びTDSP.ASMと協働して働くものであり、被告が作成した原告ソフトウェアのソースコードの一部を、基礎的知識として利用するにすぎない。したがって、これらは、著作権法にいう二次的著作物には当たらない。
 そして、仮にソースコードに似ている点があったとしても、被告ソフトウェアは、100KHzまで測定することができるという思想に基づき創作されたものであって、その背景にある思想は原告ソフトウェアとは全く異なり、また、原告ソフトウェアのソースコードは被告が作成したものであって、それを基礎知識として利用して被告ソフトウェアが作成されたにすぎないから、被告ソフトウェアは、原告ソフトウェアの著作権を侵害しない。
(エ) 原告は、被告ソフトウェアで原告測定器の動作を試したというが、被告ソフトウェアは、盗用対策を施しているため、原告システムで利用することはできない。
(3) 争点(3)(原告の許諾の有無)について
(被告の主張)
 被告は、原告のB前社長(以下「B」という。)に対して、スピーカ測定器を製造することを伝えており、その紹介を受けた顧客から電話を受けたこともある。また、被告システムは、原告のスピーカ開発担当者と共同開発したものであり、原告の子会社等に対しても、被告システムを販売している。
 これらのことからすれば、原告は、被告システムの製造・販売を許諾していたといえる。
(原告の主張)
 被告システムの販売先の一つが原告の関連会社であったことは認めるが、原告が被告システムの製造・販売を許諾したことは、否認する。Bが不正競争行為や著作権侵害行為を許容するということは、あり得ない。
(4) 争点(4)(差止め等の請求の可否)について
(原告の主張)
ア 不競法違反に基づく差止め等について
 音響機器の製造開発にはスピーカ測定器が不可欠であって、新たな技術の研究開発や、製造販売過程での品質保証を維持するために、スピーカ測定技術の向上は、欠かすことができないものである。
 したがって、原告システムと実質的に同一の被告システムが販売されることにより、原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあることは明らかである。
 よって、不競法3条に基づき、被告測定器及び被告ソフトウェアの製造・販売の停止、被告測定器の情報のウェブサイト上への掲載の停止並びに被告測定器及び被告ソフトウェアの廃棄を求める。
イ 著作権侵害に基づく差止め等について
 被告は、平成18年10月ころ(遅くとも平成19年1月ころ)から、ウェブサイト上に被告システムの情報を掲載し、販促活動を行っており、少なくとも2台は、被告ソフトウェアを含む被告システムを販売している。
 そして、被告による被告ソフトウェアの複製及び販売は、原告の複製権を侵害するものであるから、著作権法112条に基づき、被告ソフトウェアの複製及び販売の停止並びにその廃棄を求める。
ウ 被告は、被告ウェブサイトを変更したと主張するが、変更点は見当たらない(甲3、11)。また、被告ソフトウェアの変更についても、確認することができない。
(被告の主張)
ア 営業上の利益の侵害は争う。原告は、被告システムと同様のスピーカ測定器を販売していない。
イ 被告は、平成19年度中に、被告システムの生産を中止し、被告のウェブページへの被告システムの掲載も中止している。なお、現在、被告のウェブページに掲載されている製品は、TRSXという名称の、被告システムとは全く異なる製品である。
(5) 争点(5)(損害賠償請求の可否及びその額)について
(原告の主張)
ア 被告は、原告の従業員として、原告ソフトウェアを含む原告システムの開発に従事していたのであるから、原告を退職した後に、原告システムに類似したスピーカ測定システム及び原告ソフトウェアに類似したソフトウェアを販売することにつき、故意又は過失があることは、明らかである。したがって、被告は、損害賠償義務を負う。
イ 不競法5条2項又は著作権法114条2項に基づく損害額(主位的主張)
(ア) 被告が販売した被告システム2台分の販売代金は、160万円である。そして、原告システムの製造経費が1台34万6248円であるところ、被告システムが原告システムの模倣品であることからすれば、その製造経費は、これとほぼ同程度と考えられる。
 したがって、被告システムの1台当たりの製造経費は、多くとも35万円であるということができ、被告が受けた利益は、少なくとも90万円(=160万円−(35万円×2台))を下らない。
 被告は、製造経費にマイクロフォンとノートパソコンの価格や初期費用を追加すべきであると主張する。しかしながら、被告システムは、既存のマイクロフォン及び既存のノートパソコンを外付けするものであるから、これらの費用は、製造経費に含まれない。仮に、これらが含まれるとしても、いずれも低価格なものが普及しており、大きな影響を及ぼさない。また、被告システムは模倣品であるから、初期費用は、製造経費に含まれない。
(イ) 被告の不正競争行為又は著作権侵害行為を排除するために必要な弁護士費用は、100万円を下らない。
(ウ) したがって、不競法4条及び5条2項又は民法709条及び著作権法114条2項に基づき、原告の損害190万円の支払を求める。
ウ 不競法5条3項又は著作権法114条3項に基づく損害額(予備的主張)
(ア) 計測器関係の市場での実施料率の動向は、イニシャルの支払がない場合の最頻値が5%であるところ、本件は侵害による損害額算定の場面であること、原告システムは、原告社内の使用に限られた営業秘密の対象であり、ライセンシーによる流通を予定していないことを考慮すれば、不競法5条3項又は著作権法114条3項の実施料相当額は、市場における契約の相場よりもはるかに高い率によるべきであるから、販売価格の10%が相当である。
 したがって、その額は、16万円(=160万円×0.1)を下らない。
(イ) 被告の不正競争行為又は著作権侵害行為を排除するために必要な弁護士費用は、100万円を下らない。
(ウ) したがって、不競法4条及び5条3項又は民法709条及び著作権法114条3項に基づき、原告の損害116万円の支払を求める。
(被告の主張)
ア 不競法5条2項又は著作権法114条2項に基づく損害額(主位的主張)
(ア) 被告システムを2台製造するための費用は、コンピューター代21万円、マイクロフォン代54万円、部品代及び製造代70万円、アートワーク費57万円、設計開発費55万円、管理費用10万円の合計267万円である(乙21)。そして、被告システム2台分の販売価額160万円からこの製造原価を差し引くと、107万円の赤字となっている。
(イ) 原告が主張する製造経費は、次の点で、不適当である。
a 100KHzまで測定することができるマイクロフォンとノートパソコンが含まれていない。
b 原告が主張する加工費、購入部品費は、中国における原告の工場で5台製造した場合の1台当たりの製造原価であって、これをもって、被告が日本において2台製造した場合の製造原価と比較することはできない。
 仮に、原告が主張する中国での製造原価に基づき計算すれば、前記のとおり、2台で70万円となる。
c 初期費用として、プリント基板のアートワーク代(設計代)及び製版代(フィルム代)を加算すべきである。
イ 不競法5条3項又は著作権法114条3項に基づく損害額(予備的主張)
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(不競法2条1項7号該当性)について
(1)ア 原告は、「原告システムに関する情報」が営業秘密であるとして、具体的には回路図や原告ソフトウェアのソースコードがこれに含まれると主張する。
イ しかしながら、原告は、原告ソフトウェアのソースコードを除き、「原告システムに関する情報」の具体的な内容については、具体例として主張する回路図を含めて明らかにしていないから、原告ソフトウェアのソースコードを除き、「原告システムに関する情報」の内容が特定されていないといわざるを得ない。また、原告ソフトウェアのソースコード以外の「原告システムに関する情報」の具体的内容が特定されていない以上、被告がこれを利用していると認めることもできない。加えて、証拠(甲4、8、9)によれば、原告において、配下の従業員の一般的な守秘義務の存在は認められるものの、原告の主張する「原告システムに関する情報」が営業秘密として管理されていたと認めるに足る証拠はない。
 したがって、原告ソフトウェアのソースコードに関する部分を除き、「原告システムに関する情報」が営業秘密であることを理由とする不競法2条1項7号違反に基づく原告の請求は、理由がない。
ウ なお、原告従業員が作成した「スピーカ測定器の比較に関する報告書」(甲1)には、原告測定器と被告測定器について、部品の配置がほぼ同一であること、28V及び200Vの電源基板が同一であること、DSPが同一の部品を使用していることが記載され、また、原告測定器の基板と被告測定器の基板とを撮影した写真が添付されている。しかしながら、これらの事実のうち、いかなる点が原告の「営業秘密」といえるかは、明らかではない。また、これらの事実及び写真のみから、被告測定器が、原告が営業秘密であると主張する、原告測定器の「回路図」を利用していると認定することも困難である。
 したがって、「スピーカ測定器の比較に関する報告書」(甲1)の記載をもって、被告測定器が、原告が営業秘密の具体例として主張する「回路図」を利用したものと認めることはできない。
(2) また、原告が営業秘密として主張する原告ソフトウェアのソースコードに関する部分については、@後記2の著作権侵害として原告が主張する著作物と全く同一のものが被侵害利益となっていること、A被告測定器と被告ソフトウェアとが一体のものと認めるに足る証拠はなく、仮に、被告ソフトウェアが原告ソフトウェアに関する営業秘密を侵害するとしても、それに基づいて、被告システム全体の製造・販売の差止め等及び損害賠償請求が認められるものではないこと、B被告ソフトウェアの製造・販売の差止め等の請求及び損害賠償請求については、不競法違反に基づく請求と著作権法違反に基づく請求の選択的併合とされていることからすれば、仮に、原告ソフトウェアのソースコードに関する部分が営業秘密であるとして不競法違反が認められる場合であっても、差止めの範囲及び損害賠償の範囲は、著作権法違反が認められる場合とすべて同一になると解するのが相当である。
 そこで、事案の性質に鑑み、原告ソフトウェアのソースコードに関する部分については、まず著作権に係る主張について検討する中で、その侵害の有無及び差止め等の範囲を判断する。
2 争点(2)(被告ソフトウェアの著作権侵害の有無)について
(1) 原告ソフトウェアのプログラムの著作物性及び原告の著作権
ア 証拠(甲1、5、18)及び弁論の全趣旨によれば、原告ソフトウェアは、パソコンに接続したマイクロフォン及び当該パソコンを経由し、原告測定器に入力された各スピーカの音声データについて、原告測定器を機能させることにより、周波数、抵抗値、極性、異常音等を解析し、その結果をデータ処理して当該パソコンのモニター上に表示するものであると認められる。したがって、電子計算機を機能させて一つの結果を得ることができるように、これに対する指令を組み合わせたものとして表現したものであって、創作性があると認められるから、プログラムの著作物であると認められる。なお、被告も、後記ウのとおり、原告ソフトウェアのソースコードの一部については、原告の著作物であることを争っているが、そのすべてについて著作物性を欠くと主張するものではない。
イ また、弁論の全趣旨によれば、原告ソフトウェアは、原告がその業務上の必要性から開発・製造することとし、原告の製造技術部の従業員が、その職務の一環として開発したものであると認められる。したがって、原告ソフトウェアは、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する者が職務上作成したものであるから、原告ソフトウェアのプログラムの著作者及び著作権者は原告であると認められる(著作権法15条2項)。
ウ なお、被告は、被告主張プログラムは、旧モトローラ社から提供された汎用プログラム又はMFCが自動生成したプログラムであって、創造的、個性的内容を含まないものであると主張する。
 しかしながら、被告が、旧モトローラ社から提供されたものであることを示すものとして挙げるウェブサイトに、被告主張プログラムの内容が掲載されていると認めるに足る証拠はない。
 また、証拠(甲21、22、乙20)及び弁論の全趣旨によれば、MFCとは、Visual C++で使われるクラスライブラリーであって、これにより自動生成されるのは、プログラムの一部にすぎず、プログラム全体の完成には、必然的にプログラマーの個性が発揮された創作行為を要すると認められる。
 そして、他に、被告主張プログラムが原告の著作物であると認めることを疑わせるに足る事情も認められない。
 したがって、被告主張プログラムについても、そのすべてが原告の著作物ではないとはいえず、前記の自動生成される部分を除き、原告の著作物であって、原告にその著作権が帰属すると認められる。
(2) 著作権(複製権)の侵害について
ア(ア) 被告は、被告ソフトウェアについて、原告ソフトウェアとは異なる機能を追加、変更し、そのためのプログラム・ソースを作成していることをもって、原告ソフトウェアのプログラムとは異なる新規性があると主張し、具体的にも、例えば、「音圧および抵抗の周波数特性を100KHzまで拡張するためのコードは、『ADC読込みタイミング生成ルーチン...A』以下で(中略)上記の追加により、TRS−2004の出力タイミングを設定するルーチン_C_P_N1(中略)_C_P_N4は不要となりTRS−563Wでは削除しました。」(被告第3準備書面4頁22行ないし5頁1行)、「TRS−563Wでは、周波数foを下記の式?の如く補正していますTRS−2004では補正をおこなっていませんので、測定値foのままです。(中略)TRS−563W及びTRS−2004のプログラム・ソースは、乙11号証−2に示すとおりで、その表現は違いは、上記?式と(2)式の違いだけです。」(同準備書面7頁18行ないし8頁9行)などと主張する。そして、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアのソースコードが同一である部分については、被告システムの思想を実現するための基礎知識として利用したにすぎないとも主張する。
 しかしながら、このような被告の主張自体、原告ソフトウェアに依拠して、被告ソフトウェアを作成したことを自認したものということができる。
 また、証拠(甲1、10、18、乙16ないし18(各枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、原告ソフトウェアの45個のファイル中、43個のファイル名につき、被告ソフトウェアに同一のファイル名のものが存在すること、被告ソフトウェアのソースコードには、原告ソフトウェアの機能を変更し、又は新たな機能を付加したもの等に関し、原告ソフトウェアのソースコードに新たに付加した部分又はこれを変更した部分があるものの、その余の部分については、原告ソフトウェアのソースコードと同一又は類似していることが、それぞれ認められる(なお、被告自身、両者のソースコードが同一である部分のすべてにつき、原告の著作物ではないと主張するものではない。)。
(イ) したがって、被告ソフトウェアのプログラムは、原告ソフトウェアのプログラムに依拠して作成されたものであり、かつ、実質的にこれと同一のものであると認められるから、原告の原告ソフトウェアのプログラムについての著作権(複製権)を侵害するものであると認められる。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、仮にソースコードに似ている点があったとしても、被告ソフトウェアは、100KHzまで測定することができるという思想に基づき創作されたものであって、その背景にある思想は、原告ソフトウェアとは全く異なることをもって、著作権侵害はないと主張する。
 しかしながら、被告ソフトウェアのプログラムが、原告ソフトウェアのプログラムに変更を加え、独自の機能を付加し、又はその性能を向上させたものであって、その点に独自性を有するとしても、原告ソフトウェアのプログラムに依拠し、その内容及び形式を覚知することができるものを再製した場合(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)、又は、原告ソフトウェアのプログラムに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原告ソフトウェアのプログラムの表現上の本質的特徴を直接感得することができる別の著作物を創作した場合(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)には、原告ソフトウェアの著作権(複製権又は翻案権)の侵害となることが明らかであるから、このような被告の主張は、それ自体失当であるといわざるを得ない。
(イ) また、被告は、原告ソフトウェアのソースコードは被告が作成したものであって、それを基礎知識として利用して被告ソフトウェアが作成されたにすぎないから、被告ソフトウェアは、原告ソフトウェアの著作権を侵害しないとも主張する。
 しかしながら、たとえ被告が原告ソフトウェアのソースコードを作成したとしても、前記(1)イのとおり、その著作者は、原告となり、その著作権も原告に帰属するから、このような被告の主張も、失当であるといえる。
3 争点(3)(原告の許諾の有無)について
(1) 前記2(1)のとおり、原告ソフトウェアのプログラムの著作権は、原告に帰属するから、被告がこれを作成したものであったとしても、原告の許諾なしに、これを複製したプログラムを作成することはできない。
(2)ア 被告は、Bに、被告がスピーカ測定器を製造することを伝えていることをもって、原告の許諾があったと主張する。
 しかしながら、他方で、被告自身、その際、Bは、はっきりした返事はしなかったと陳述書(乙14)に記載している。また、仮に、同陳述書に記載のとおり、Bが被告に顧客を紹介したとしても、その際に、Bが、被告システムの具体的な内容(原告の営業秘密や著作権を侵害する可能性があること)を把握していた等の特段の事情がない限り、そのことをもって、原告の許諾があったと認めることはできない。そして、特段の事情があったと認めるに足る証拠はないから、仮に、Bが顧客を紹介したという事実が認められるとしても、このような事実をもって、被告による原告ソフトウェアのプログラムの利用について、原告の許諾があったと認めることはできない。
 そして、他に、Bが、被告に対し、原告ソフトウェアのプログラムを利用することにつき許諾をしたと認めるに足る証拠はない。
イ また、被告は、原告社員が被告システムを共同開発したことをもって、原告から許諾があったと主張し、その証拠として原告社員からのメール(乙12)を挙げる。
 しかしながら、原告社員からのメール(乙12)には、「TRSで測定したDate」が記載されているのみであり、この記載のみをもって、原告社員が被告システムを共同開発したと認めることはできない。また、当該メールには、原告ソフトウェアのプログラムの利用につき原告からの許諾があったことをうかがわせる記載は、全く認められない。
 そもそも、仮に、原告社員が被告システムを共同開発したとしても、それが原告による業務上の命令等に基づき、原告の業務として行われた等の特段の事情がない限り、そのことをもって、原告の許諾があったとみることはできない。そして、このような特段の事情があったと認めるに足る証拠はない。
ウ さらに、被告は、原告及び原告の関連会社が被告システムを購入したことをもって、被告に対する黙示の許諾があった旨主張するが、原告又はその関連会社が、被告システムを購入した事実をもって、被告による原告ソフトウェアのプログラムの利用につき原告の許諾があったといえないことは、明らかである。
エ そして、本件各証拠に照らしても、被告が、原告ソフトウェアのプログラムを利用してソフトウェアを製造・販売することにつき、原告の許諾があったと認めるに足る証拠はないことから、被告が原告ソフトウェアのプログラムを利用することにつき、原告の許諾があったことをうかがわせるに足る事情は、認めることができない(なお、仮に、被告がスピーカ測定器及びそのためのソフトウェアを製造・販売することを原告が認めていた(又は禁止をしていなかった)としても、原告ソフトウェアのプログラムの使用についての明確な許諾がない限り、原告ソフトウェアのプログラムを利用して、これと実質的に同一のソフトウェアを製造・販売することは、許容されるものではない。)。
4 争点(4)(差止め等の請求の可否)について
 証拠(甲3の1及び2、11、16)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成19年1月30日時点では、ウェブサイトに被告測定器の写真を含む被告システムの情報を記載し販促行為を行っていたが、現在は、被告システムを販売しておらず、新たにTRSX(TRSX−100Aと称することもある。以下、単に「TRSX」という。)という品番のスピーカ測定器及びこれに対応したソフトウェアを製造・販売していること、被告のウェブサイトの前記記載も、その後、TRSXに関する記載及びその写真に差し替えられていること、被告は、本件訴訟の過程においても、今後は、被告システムを販売しない旨述べていることが、それぞれ認められる。また、被告は、いまだ被告ソフトウェアのソースコードを記録した電子データを保有していると認められる(乙15)ものの、被告測定器を保有していると認めるに足る証拠はない。
 これらのことからすれば、被告は、現在、被告測定器を製造・販売していないのみならず、今後も、これを製造・販売するおそれがあると認めることはできない。また、被告測定器に関する情報も、現在、被告のウェブサイト上に掲載されていないのみならず、今後も、これが掲載されるおそれがあると認めることはできない。
 他方で、被告ソフトウェアについては、被告は、現在、これを製造・販売していないものの、いまだこれを記録した電子データを格納した記憶媒体を保有していること、電子データであるという性質上、その複製も容易であることに照らして、複製又は販売のおそれがないとはいえず、このようなおそれを完全に払拭するためには、被告ソフトウェアを格納した記憶媒体を廃棄させる必要があると認められる。
 したがって、原告ソフトウェアについての原告の著作権を被告が侵害するおそれがある(著作権法112条1項)と認められるから、原告の差止め及び廃棄の請求は、著作権侵害に基づき、被告ソフトウェアの複製・販売の差止め及び被告ソフトウェアを格納した記憶媒体の廃棄を求める範囲で理由があるものと認められる。
 なお、原告の請求のうち、被告測定器の製造・販売の差止め及び被告測定器の情報のウェブサイトへの掲載の禁止、被告測定器の廃棄を求める部分については、前記1のとおり、原告ソフトウェアのソースコードに関する部分を除いて不競法違反が認められないのみならず、被告が営業上の利益を侵害するおそれがある旨の差止めの要件(不競法3条1項)も認められないことから、この点からも理由がない。
5 争点(5)(損害賠償請求の可否及びその額)について
(1) 前記2のとおり、被告は、原告ソフトウェアに依拠して被告ソフトウェアを作成したと認められることからすれば、著作権を侵害したことにつき、故意(少なくとも過失)があったと認められる。仮に、被告において原告ソフトウェアのプログラムを自由に利用することができると誤信していたとしても、それは著作権及び原告の許諾の存在についての誤解に基づくものにすぎず、このような誤解をもって、少なくとも過失がないということはできない。
 したがって、被告は、原告に対し、原告ソフトウェアのプログラムの著作権を侵害したことにつき、損害賠償義務を負う。
(2) 著作権法114条2項に基づく損害額(主位的主張)
ア 原告は、被告システムの製造原価について、原告システムの1台当たりの製造原価34万6248円を基にして、1台当たり35万円であると主張する。そして、証拠(甲19)によれば、原告の主張に係る製造原価は、原告システムの材料・部品費のみに係るものであって、また、原告が、中国において、原告システムを5台製造した場合の費用に基づいて算出されたものと認められる。
 しかしながら、製造原価は、材料・部品費のみにとどまるものではない。また、被告システムが、原告システムと同一の部品を用いたものであって、かつ、被告が中国において当該部品の調達・製造を行っていると認めるに足る証拠はないことからすれば、原告が主張する額をもって、被告システムの製造原価であるということはできない。
イ(ア) これに対し、被告は、被告システムを2台製造するための費用は、コンピューター代21万円、マイクロフォン代54万円、部品代及び製造代70万円、アートワーク費57万円、設計開発費55万円、管理費用10万円の合計267万円であると主張する。
(イ) 原告は、このうち、初期費用であるプリント基板のアートワーク代については、これを控除すべきではないと主張する。しかしながら、著作権法114条2項にいう「利益の額」とは、売上高等の収入から、被告が侵害品を製造・販売するために追加的に要した費用を控除したものをいうと解すべきところ、これらの費用も、侵害品を製造・販売するために追加的に要した費用と評価することができるから、これも控除すべき費用に含まれるというべきである。
 そして、証拠(乙23)によれば、アートワーク費用は、57万2550円と認められる。
(ウ) また、原告は、被告システムは既存のマイクロフォンやパソコンを外付けするから、これらに要する費用は、控除すべき費用には含まれないと主張する。しかしながら、被告システムがこれらの物を含めずに販売されていたと認めるに足る証拠はない。かえって、証拠(甲3の2、11)によれば、被告が新たに製造・販売しているTRSXについての被告のウェブサイトにおける説明には、「既存PC(要USB1.0以上)を利用出来、従来品に比べて価格性能的に優れています」旨の記載があることからすれば、「従来品」である被告システムにおいては、パソコンも合わせて販売していたと推測することができる。
 そして、証拠(乙21、22)によれば、コンピューター代が21万円、マイクロフォン代が54万円と認められる。
(エ) さらに、部品代及び製造費用が控除すべき費用に含まれることは当事者間に争いがないところ、その額について、被告は、当初、約40万円(=20万円×2台)と主張しながら、後に、原告が主張する製造費用に基づいた額である70万円が部品代及び製造費用であるとして、費用の額を増額して主張する。しかしながら、被告は、自らは何ら部品代及び製造費用の客観的根拠を示していないことからすれば、当初、被告が自認していた額であり、かつ、原告が主張する額の範囲内である、40万円の範囲で、部品代及び製造費用を認めるのが相当である。
(オ) このほか、被告は、設計開発費55万円、管理費用10万円を費用として主張するが、これらは、審理終了段階になって主張を追加したものであって、その具体的な支出内容については何ら明らかにしていないことからすれば、これを控除すべき費用と認めることはできない。
(カ) したがって、被告が被告システム2台を製造するために要した追加的費用は、前記の合計額である172万2550円(=57万2550円+21万円+54万円+40万円)と認められる
ウ これに対し、被告の売上額は160万円であることからすれば、被告においては、侵害行為によって受けた利益が存するとは認められない。
 よって、著作権法114条2項に基づく損害額の主張は、認められない。
(3) 著作権法114条3項に基づく損害額(予備的主張)
ア 被告システムは、被告測定器とこれを稼働させる被告ソフトウェアから成るものであるが、このうち、被告が原告の権利を侵害した部分は、被告ソフトウェアに係る部分のみであるから、その損害額も、それに対応した売上額を基準として算定すべきである。
 しかしながら、被告測定器と被告ソフトウェアのそれぞれの販売価額は明らかではないことから、被告システム全体における被告ソフトウェアが占める価値を算定する必要があるところ、被告測定器と被告ソフトウェアは、両者が一体となって被告システムの機能を発揮させるものであることに照らせば、被告ソフトウェアが占める価値は、少なくとも、被告システムの販売価格の2分の1を下らないと解すべきである。
イ そして、証拠(甲20)によれば、平成4年度ないし平成10年度における電気計測器・工業計器・その他の電気機器の技術分野において、他社の技術を導入した場合に契約上支払われる実施料率は、統計上、イニシャルの支払がない場合の平均値が4.6%、最頻値が5%であることが認められる。そして、前記2(2)アのとおり、被告ソフトウェアが、原告ソフトウェアの機能を変更し、又は新たな機能を付加した部分等を除くほかは、原告ソフトウェアのプログラムを複製して作成されたものであると認められること等も考慮すれば、使用料相当額は、前記アの金額の5%とするのが相当である。
 したがって、被告の著作権侵害による使用料相当額は、4万円(=160万円×1/2×0.05)となる。
(4) 弁護士費用
 本件訴訟の経緯に照らして、弁護士費用は、5万円とするのが相当である。
(5) したがって、原告の損害額は、9万円となる。
 なお、前記のとおり、原告ソフトウェアのプログラムについて、その著作権侵害及びそれに基づく差止め等が認められる以上、原告ソフトウェアのソースコードが営業秘密に該当することを前提とする不競法違反の請求については、その検討を要しないことが明らかといえる。
6 よって、原告の請求は、被告ソフトウェアの複製又は販売の差止め及びこれを格納した記憶媒体の廃棄並びに損害賠償金9万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから、これを認容し、その余の請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり、判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 菊池絵理
 裁判官 坂本三郎


(別紙)被告製品目録
1 「品番TRS−563W」との名称のスピーカ測定器
2 1記載のスピーカ測定器を機能させるためのソフトウェア「trs560b」
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/