判例全文 line
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【事件名】貴乃花親方夫妻への名誉棄損事件(週刊現代)
【年月日】平成21年7月13日
 東京地裁 平成17年(ワ)第27189号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年4月20日)

判決
当事者の表示(省略)
※人名等については、適宜仮名とした(X、Y、及び各アルファベット小文字で記載のもの。なお「A」。) 、 ないし「H」及び「M」は、判決原本においてもアルファベット表記である。


主文
1 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、金715万円(ただし、440万円の限度で被告Y3と、440万円の限度で被告Y4と、110万円の限度で被告Y5と、110万円の限度で被告Y6と、55万円の限度で被告Y7とそれぞれ連帯して)及び原告X2に対し、金132万円(ただし、88万円の限度で被告Y3と、88万円の限度で被告Y4と、22万円の限度で被告Y5と、22万円の限度で被告Y6とそれぞれ連帯して)並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y3は、被告Y1及び被告Y2と連帯して、原告X1に対し、金440万円(ただし、330万円の限度で被告Y4と、110万円の限度で被告Y6とそれぞれ連帯して)及び原告X2に対し、金88万円(ただし、66万円の限度で被告Y4と、22万円の限度で被告Y6とそれぞれ連帯して)並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Y4は、被告Y1及び被告Y2と連帯して、原告X1に対し金440万円(ただし、330万円の限度で被告Y3と連帯して)及び原告X2に対し金88万円(ただし、66万円の限度で被告Y3と連帯して)並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Y5は、被告Y1及び被告Y2と連帯して、原告X1に対し金110万円及び原告X2に対し金22万円並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告Y6は、被告Y1、被告Y3及び被告Y2と連帯して、原告X1に対し金110万円及び原告X2に対し金22万円並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告Y7は、被告Y1及び被告Y2と連帯して、原告X1に対し金55万円及びこれに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告Y1は、原告らに対し、別紙1の1記載の謝罪広告を別紙1の2記載の掲載要領により被告Y1の発行する「週刊現代」に1回掲載せよ。
8 被告Y1は、原告らに対し、別紙2の1記載の謝罪広告を別紙2の2記載の掲載要領により被告Y1の発行する「現代」に1回掲載せよ。
9 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
10 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
11 この判決は、1項ないし6項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1)被告Y1、被告Y3、被告Y4及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し金4000万円及び原告X2に対し金1000万円並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告Y1、被告Y3、被告Y5及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し金500万円及び原告X2に対し金130万円並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告Y1、被告Y3、被告Y6及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し金1000万円及び原告X2に対し金250万円並びにこれらに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告Y1、被告Y3、被告Y7及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し金500万円及びこれに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被告Y1は、原告らに対し、別紙3の1記載の謝罪広告を別紙3の2記載の掲載要領により被告Y1の発行する「週刊現代」に1回掲載せよ。
(6)被告Y1は、原告らに対し、別紙4の1記載の謝罪広告を別紙4の2記載の掲載要領により被告Y1の発行する「月刊現代」に1回掲載せよ。
(7)訴訟費用は被告らの負担とする。
(8)仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告らの請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告らが、被告Y1(以下「被告会社」という。)の発行する週刊誌「週刊現代」(以下「週刊現代」という。)及び月刊誌「現代」(以下「月刊現代」という。)において、原告らの名誉を毀損する記事が掲載されたことにより損害を被ったと主張して、当該記事が掲載された当時の週刊現代編集長被告Y4及び被告Y5、当該記事が掲載された当時の月刊現代編集長被告Y6及び被告Y7並びに当該記事の執筆者被告Y2に対して不法行為(民法709条、719条1項)に基づき、被告会社に対して、編集長らの使用者責任(民法715条1項)に基づき、被告会社の代表取締役被告Y3に対して取締役の責任(平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)266条の3第1項)に基づき、上記損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、被告会社に対し、民法723条に基づき、謝罪広告の掲載を求めた事案である。
2 前提事実(証拠を掲記した以外の事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア 原告X1は、昭和63年、実父a(平成17年5月30日死亡。)が親方を務めていた財団法人b会(以下「b会」という。)所属のc部屋(当時の名称、その後d部屋に改称。)に入門し、第65代横綱(四股名x)となった。平成15年に引退した後、x親方としてx部屋の親方を務めている。(甲35)
 原告X2は、原告X1の妻である。
 aには、元妻eとの間に、長男f(横綱g。)、次男原告X1がいる。
イ 被告会社は、雑誌・書籍の編集・発行等を業とする株式会社であり、週刊現代及び月刊現代を発行している。
 被告Y3は、平成13年2月以降、被告会社の代表取締役である。
 被告Y5は、週刊現代平成16年7月17日号の発刊当時の、被告Y4は、週刊現代平成17年3月12日号ないし同年8月6日号の各発刊当時の、同誌編集長である。
 被告Y7は、月刊現代平成16年6月号発刊当時の、被告Y6は、月刊現代平成17年8月号発刊当時の、同誌編集長である。
 被告Y2は、後記(3)記載の各記事を執筆した者である。
(2)被告会社は、平成16年6月ころから平成17年8月ころにかけて、週刊現代平成16年7月17日号(甲1。以下「週刊現代1」という。)、平成17年3月12日号(甲2。以下「週刊現代2」という。)、同年4月2日号(甲3。以下「週刊現代3」という。)、同年6月11日号(甲4。以下「週刊現代4」という。)、同年6月18日号(甲5。以下「週刊現代5」という。)、同年6月25日号(甲6。以下「週刊現代6」という。)、同年7月2日号(甲7。以下「週刊現代7」という。)、同年7月9日号(甲8。以下「週刊現代8」という。)、同年7月16日号(甲9。以下「週刊現代9」という。)、同年7月23日号(甲10。以下「週刊現代10」という。)及び同年8月6日号(甲11。以下「週刊現代11」という。)並びに月刊現代平成16年6月号(甲12。以下「月刊現代1」という。)及び平成17年8月号(甲13。以下「月刊現代2」という。)を発刊し(以下まとめて「本件各雑誌」という。)、全国で発売した。
(3)被告会社は、本件各雑誌において、いずれも被告Y2の署名入り記事として、別紙5の一覧表の「記事の内容」欄記載の記事を、「記事の所在」欄に記載の箇所に掲載した(以下、まとめて「本件各記事」といい、個別の記事については、それぞれ「本件記事1−1、1−2」などと同一覧表の「記事番号」欄の記載の番号を付して示す。)
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)本件各記事の摘示事実の内容。また、摘示事実が原告らの社会的評価を低下させるか。
(原告らの主張)
ア 本件各記事の摘示事実は、別紙5の「記事の内容」欄記載のとおりであり、以下のとおり、いずれも、原告X1又は原告らの社会的評価を低下させる。本件各記事は、原告X1とa、fとの関係等、同一テーマについて、全て被告Y2の署名入り記事として、継続的に掲載されているから、一連の連載記事である。一般の読者は、一連の記事を継続して読むことによって、連載記事全体からその意味内容を読み取るのが通常である。したがって、本件各記事の摘示事実は、連載記事全体から意味内容を評価すべきである。
イ 本件記事4−2、6−4、8−1、13−2について
(ア)上記各記事は、連載記事として、後記オ、カ及びキの摘示内容と相俟って、あたかも原告らがaの入院にあたり治療方針等を独断で決定してaに対する影響力を確保し、aの財産又はb会の理事(以下「理事」という。)の座を奪い取ろうとしているとの文脈で記載されている。これらの記事は、治療方針に対する原告らの強引な判断が、aの死亡原因であり、原告らは、aの財産又は理事の座を奪うためには手段を選ばない人物であるとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
(イ)仮に、前記各記事を連載記事とせず、個別に評価した場合でも、原告らが強引で悪質な人物であるとの印象を与えており、社会的評価を低下させる。
ウ 本件記事1−1、2−1、4−3、6−5、7−3、9−7、13−2について
(ア)上記各記事は、連載記事として、後記エ(ア)、カ及びキの摘示内容と相俟って、あたかも原告らが、aと、aの親族やaの内妻M(以下「内妻M」という。)等との接触を遮断することによって、aへの影響力を独占的に行使してaの財産又は理事の座を奪い取ろうとしているとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
(イ)仮に、上記各記事を、連載記事と評価せず、個別に評価した場合でも、前記(ア)同様に原告らの社会的評価を低下させる。
エ 本件記事1−4、4−4、6−4、7−3、11について
(ア)上記各記事は、連載記事として、後記オ及びカの摘示内容と相俟って、あたかも原告らがaを病気療養と称してフランスに追いやる等の方法により、aの財産を独占し、理事の座を狙おうとしたとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
(イ)仮に、上記各記事を、連載記事と評価せず、個別に評価した場合でも、前記(ア)と同様に原告らの社会的評価を低下させる。
オ 本件記事10−2は、前記イ(ア)及びエ(ア)のとおり連載記事として評価すべきであるが、個別に評価した場合でも、原告らが、aの見舞いにめったに来ないうえ、たまに来ても財産の話しかしない非常識な人物であるとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
カ 本件記事1−2、1−3、6−7、12、13−4は、前記イ(ア)、ウ(ア)及びエ(ア)のとおり連載記事として評価すべきであるが、個別に評価した場合でも、前記イ(ア)、ウ(ア)及びエ(ア)と同様、原告らの社会的評価を低下させる。
キ 本件記事1−4、4−1、6−6、7−5、8−2、9−3、10−3、11、13−3は、前記イ(ア)及びウ(ア)のとおり、連載記事として評価すべきであるが、個別に評価した場合でも、前記イ(ア)及びウ(ア)と同様、原告らの社会的評価を低下させる。
ク 本件記事7−2について
(ア)本件記事7−2は、週刊現代7の記事全体を考慮すると、原告らがaの財産を独占しようとしたり、理事禅譲を迫るなどしてaの怒りを買うところを内妻Mに見られてしまったために、内妻Mを煙たがっているとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
(イ)仮に、上記記事は、該当箇所のみを考慮して評価した場合でも、原告らが、原告X1の親方であり親であるaから激しく怒られるようなひどい言動に及ぶ人物であるとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
ケ 本件記事2−2・3、4−6・7、6−3、9−5・6について
(ア)上記各記事は、連載記事として、原告X1がaの相続財産を独占するため、親族らとの話し合いにも応じない上、aに対して親を親とも思わない態度をとって私利私欲に走った結果、親族らによってaの病室から締め出されたとの印象を読者に与えており、原告X1の社会的評価を低下させる。
(イ)仮に、上記各記事を、連載記事と評価せず、個別に評価した場合でも、前記(ア)と同様原告X1の社会的評価を低下させる。
コ 本件記事2−4、4−5、6−1、7−4、13−5について
(ア)上記各記事は、連載記事として、原告らが、aに対する態度等についてaから非難され、aには原告X1に相続させる意思がなかったにもかかわらず、原告X1がd部屋を継承しており、継承の正当性に疑問があるとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
(イ)仮に、上記各記事を、連載記事と評価せず、個別に評価した場合でも、前記(ア)と同様原告らの社会的評価を低下させる。
サ 本件記事6−2、8−2、9−4、10−1・3、13−5について
(ア)上記各記事は、連載記事として、原告らがaの財産を無理矢理得ようとして、aに対して吐き捨てるような発言をして迫ったり、念書を書かせようとして、aと口論になったとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
(イ)仮に、上記各記事を、連載記事と評価せず、個別に評価した場合でも、前記(ア)同様、原告らの社会的評価を低下させる。
シ 本件記事9−1・2は、aが、原告X1を理事にすべきでないと評価しており、その評価が、aが当時のb会の理事長であるhにその旨を直訴するほど強固であり、原告X1が正当な理由なくaの所有する山響名跡を有しているとの印象を読者に与えており、原告X1の社会的評価を低下させる。
ス 本件記事10−4・5は、原告X1の経済状態が逼迫しており、原告らの不相応に華美な生活がその原因の一つであるとの印象を読者に与えており、原告らの社会的評価を低下させる。
セ 本件記事3、5、7−1、8−3、13−1は、原告X1が、平成7年九州場所の優勝決定戦で八百長を行ったという印象を読者に与えており、原告X1の社会的評価を低下させる。
ソ 本件記事8−4・5は、原告X1が、平成7年11月場所に引き続いて平成8年1月場所及び平成9年11月場所の各優勝決定戦でも八百長を行ったという印象を読者に与えており、原告X1の社会的評価を低下させる。
(被告らの主張)
ア 週刊誌等の雑誌は、一般の新聞等と異なり、定期購読によらない店頭での販売が大半を占めており、一般読者は、複数の号を継続的に読んだり、別の日に発行された週刊誌と月刊誌を並べて読むことはしない。
 また、一般読者は、同一の週刊誌等の記事についてそのうち特定の部分同士をつなぎ合わせて読むことはしない。
 したがって、原告らの主張する摘示事実の評価は、特殊な読み方に基づく誤ったものである。
イ 本件各記事は、本件記事3、5、7−1、8−3ないし同5、13−1を除き、原告ら又は原告X1の社会的評価を低下させない。
 本件記事3、5、7−1、8−3ないし同5、13−1が読者に与える印象及び同印象が原告X1の社会的評価を低下させることは争わない。
(2)本件各記事の摘示事実は公共の利害に関する事実に係わり、専ら公益を図る目的があるといえるか。
(被告らの主張)
 本件各記事は、日本国の国技である相撲の著名な力士一家における、原告らとa、fを含むX家親族との対立状況、aの生前の病状の経過、同人の相続問題という、原告X1が運営する相撲部屋の存続や、相撲という国技の進展・衰退に関する事項である。また、原告X1自らが全国放送のテレビに出演して自己の主張を繰り返すことにより国民の関心が高まっていた事項を報じている。したがって、本件各記事は、公共の関心事に関して専ら公益目的に基づき掲載されたものである。
(原告らの主張)
 本件各記事の大半は、原告らとaとの財産を巡る問題、原告らと親族らとの確執、原告X1の資産状態という、相撲界の趨勢とは何ら関係のない原告らの私的領域に関する内容であり、これを公開することに公共的な意義は全く認められないから、公共の利害とは関係がない。
 また、原告X1は積極的にテレビ出演等をしたのではなく、被告らをはじめとするマスコミによって虚偽の報道が繰り返されたため、やむを得ず取材に回答して真実を述べたに過ぎないから、原告X1のテレビでの発言により、原告らの私的領域に関する事柄が公共の関心事となるものではない。
 被告らは、原告側の再三の警告にもかかわらず、原告らを攻撃する意図で、長期間に亘りほぼ同一の内容を繰り返し掲載しており、公益目的はない。
(3)本件各記事の摘示事実は真実か。また、被告らには、摘示事実が真実であると信じるにつき相当な理由があるか。
(被告らの主張)
ア 本件各記事の摘示事実は、以下のとおり、いずれも真実である。
(ア)本件記事4−2、6−4、13−2について、原告X1がi病院の治療方針に反対してaをj医院に転院させたことは、事実上争いがない。原告X1がi病院の治療方針に反対していたことは、被告Y2のaの近親者A(以下「近親者A」という。)に対する取材結果から真実である。
 本件記事8−1について、aが転院を後悔していることは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果並びに原告X1がテレビ番組及び週刊文春において認めていることから真実である。
 転院を勧めた原告X1とaの関係が対立状態にあったことは、被告Y2の近親者A、aの友人B(以下「友人B」という。)及びaの近親者C(以下「近親者C」という。)に対する取材結果から真実である。
(イ)本件記事1−1、4−3、6−5、13−2について、原告らが、平成15年10月にaがj医院に入院したとき、その事実をfを含むX家親族に知らせず、親族を含む外部の見舞い・接触を拒絶したことは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から、真実である。また、原告X1は、週刊文春において、aの携帯電話を預かったことを認めており、上記事実が真実であることを裏付けている。
 本件記事2−1、9−7について、原告X1がaとの面会時に内妻Mの同席を拒み、病室から追い出そうとしたことは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。
(ウ)本件記事1−4、4−4、6−4、7−3、11について、原告らがaに対しフランスでの療養を勧め理事を原告X1に譲るよう主張したことは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。また、原告X1は、週刊文春において、aに対し理事を辞めるよう強く主張していたことを認めており、上記事実が真実であることを裏付けている。
(エ)本件記事10−2について、aの再入院時に原告らが見舞いにあまり行っておらず、見舞いの際にはaの財産状況の話に終始したとの事実は、後記(カ)に述べる点から真実である。
(オ)本件記事1−2・3、6−7、12、13−4について、原告X1がaとk間で譲渡の約束があった山響名跡を取得することを希望し、その結果aとk間での譲渡対象が藤島名跡に変更されたこと、原告X1がaの入院時にkに対し、当初の約束の1億5000万円の2倍の金額で藤島名跡を譲ると申し出たことは、被告Y2の元スポーツ新聞記者D(以下「元記者D」という。)、同E(以下「元記者E」という。)、元相撲雑誌記者F(以下「元記者F」という。)に対する取材結果から真実である。
(カ)本件記事1−4、4−1、6−6、7−5、8−2、9−3、10−3、11、13−3について、原告らが中野新橋の相撲部屋の土地建物の権利書をaに無断で持ち去り、aがその返還を求めたのに対し、原告らが「親方が預かってくれと言った」と言い権利書を返還しなかったこと、原告らがaに対し、当該権利書を原告らに預けた旨の念書を書くよう要求したことは、被告Y2の近親者A及び元記者Dに対する取材結果から真実である。
(キ)本件記事7−2について、内妻Mが原告らの病室における行状に関してaが怒りを露にしているところを見聞きしたことから、原告X1が、内妻Mを煙たがっていることは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。
(ク)本件記事2−2、9−5について、原告X1がfとの会話を拒絶したことは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。
 本件記事2−3、6−3、9−6について、fが、aの病室に見舞いに来た原告X1に対して、激昂して原告X1のこれまでのaに対する何らかの行動を責めたことは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。
 また、本件記事6−3は、原告X1がaに対し、親を親とも思わない尋常ではない行動をとってきたという論評を読者に伝達しているが、当該論評の前提となる事実については、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。
 本件記事4−6について、aへの対応をめぐって原告X1と親族との間で確執があり、原告X1が、lら親族によってaの病室から事実上の締め出しを受けたことは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。
 本件記事4−7について、lが一門の親方衆に手をまわして原告X1を相撲界から追放しようとしており、実際aらが原告X1を無視しているということは、被告Y2のaの近親者G(以下「近親者G」という。)に対する取材結果から真実である。
(ケ)本件記事2−4、4−5、7−4について、aが、原告X1に財産を相続させたくないとの意向を有していたことを読者に伝達したことは、aの大親友と証する人物のテレビ番組における発言から真実である。
 本件記事6−1について、aが原告らを非難する意向を有していたことは、被告Y2の近親者A及び近親者Cに対する取材結果並びに原告X1が週刊文春において認めていることから真実である。
(コ)本件記事6−2、8−2、9−4、10−1・3、13−5について、原告らとaが、激しい口論をするほど意見を違わせており、両者の関係が良好ではなかったことは、被告Y2の近親者A及び近親者Cに対する取材結果並びに原告X1が週刊文春において認めていることから真実である。
 本件記事10−3のa作成のメモや原告X1とaのやりとりを録音したICレコーダーの存在については、m親方がテレビ番組において同レコーダーの存在に言及していること、aの近親者A及び元スポーツ新聞記者の供述から真実である。
(サ)本件記事9−1・2について、aがh理事長に対して何らかの書類を提出したことは、被告Y2の元記者D及びaの代理人であったn弁護士に対する取材結果から真実である。
 また、同書類には、原告X1を理事にさせない意見が記載されていたという噂やaの有する年寄名跡の事後処理に関する内容が記載されていたという噂の存在は、被告Y2の元記者Dに対する取材結果から真実である。
(シ)本件記事10−4について、原告X1が現在経済面で困っている、または、将来的に困るであろうという噂の存在は、被告Y2の近親者A及び元記者Dに対する取材結果及び当時aの相続財産が多額であること等の多数の報道から、真実である。
 本件記事10−5について、原告X2が、子供の同級生の誕生日に、貸し切りのクルーザーでディナーパーティーを開催し、クラスメイトを招待したことは、被告Y2の近親者G及び芸能レポーターHに対する取材結果から真実である。
(ス)本件記事3、5、7−1、8−3、13−1について、原告X1が平成7年九州場所の千秋楽の優勝決定戦で八百長を行い、gに優勝を譲ったことは、原告X1のテレビ番組における発言から真実である。
(セ)本件記事8−4・5について、原告X1が、平成8年1月場所及び平成9年11月場所の優勝決定戦で八百長を行い、oに優勝を譲ったことは、被告Y2の近親者Aに対する取材結果から真実である。
イ 被告Y2は、主たる取材源の近親者Aのほか、他の親族、後援会関係者や、aの現役時代からの相談相手であった元スポーツ記者、後援会の重鎮であるpという信用性の高い取材源に対し、綿密な取材を行っており、仮に、前記各摘示事実が真実とは認められないとしても、被告らがこれらを真実であると信じたことについては相当の理由がある。
(原告らの主張)
 以下の事情に照らせば、本件各記事の摘示事実は、いずれも真実ではない。また、被告らには、摘示事実を真実であると信じるにつき相当の理由もない。
ア 被告Y2は、平成12年3月場所から、d部屋に出入り禁止になっており、a、d部屋、同部屋に出入りできる相撲関係者、及びaと親しい関係にある人物に対する取材を行うことが困難な状態にあったのであるから、被告Y2がaに関する何らかの取材結果を得ていたとしても、その取材結果は信用に値しない。また、被告Y2の取材過程を示す客観的な証拠は何ら提出されておらず、取材源とされる近親者Aらの存在も疑わしい。
イ 被告Y2による取材結果は、多くが伝聞の情報である上、本件各記事の内容の当事者である原告ら、a、内妻M等に対する取材など、的確な裏付け取材を行っていない。
ウ 被告らが真実性及び真実相当性の根拠とする週刊文春における原告X1の記事内容は、記者や編集者の主観により原告X1の発言内容が歪められたものであり、真実性や真実相当性の根拠となりえない。
(4)被告Y3が取締役として責任を負うか。
(原告らの主張)
 出版ないし報道を主要な業務とする株式会社の取締役は、その業務を執行するに際して、自社の出版ないし報道行為が会社外の第三者に対する権利侵害を生じないように注意すべき注意義務を負う。
 被告Y3は、2度に亘る原告側からの警告を無視した上で、原告らに対する誹謗記事を漫然と放置したものであり、上記注意義務に反して悪意又は重過失によりその任務を懈怠したものであるから、被告Y3は、旧商法266条の3第1項により、原告らに対し、損害賠償責任を負う。
 また、上記注意義務は、被告らの主張する経営と編集の分離と矛盾するものではなく、被告会社において経営と編集が分離されているからといって、取締役の責任が免除されることにはならない。
(被告らの主張)
 報道機関においては、国民の知る権利に仕える報道の役割に鑑み、経営と編集を分離し、経営者は、発行人・編集者・編集長の人事において関与するにとどめられるのが通常であるから、被告Y3の取締役としての責任は、経営と編集の分離という制度設計を行うことにより果たされており、任務懈怠はない。
(5)損害等について
(原告らの主張)
ア 財産的損害
(ア)原告X1は、本件各記事の掲載により、以下の財産的損害を被った。
a 広告の出演契約締結が不可能になったことによる損害1億円
b 自宅警備費用1800万円
c x部屋の弟子減少に伴うb会からの給付金減少による損害1008万円
d 原告X1の写真集の販売機会喪失による損害2587万2000円
e 上記写真集の保管料及び処分費用140万2543円
f 原告X1のオリジナルグッズの販売機会喪失による損害1271万5500円
g 弁護士費用200万円
(イ)原告X2は、本件各記事の掲載により、以下の財産的損害を被った。
a 自宅警備費用1800万円
b 弁護士費用200万円
イ 精神的損害
 原告らは、本件各記事の掲載により、不安感・恐怖感を強く感じるとともに、記事の内容を信じた読者から批判を受け、住居や家族の平穏を害されるなど、多大な精神的苦痛を被った。
 また、原告X1は、元横綱としての名誉を汚され、x部屋の運営にも支障を来すなどの損害を被った。
 上記の精神的苦痛は、金銭に換算すると、原告X1につき2500万円、原告X2につき500万円を下らない。
ウ 前記ア及びイの損害の合計額(原告X1につき1億9507万0043円、原告X2につき2500万円)のうち、原告X1については、週刊現代1による損害として500万円、週刊現代2ないし11による損害として4000万円、月刊現代1による損害として500万円及び月刊現代2による損害として1000万円を、原告X2については、週刊現代1による損害として130万円、週刊現代2ないし11による損害として1000万円及び月刊現代2による損害として250万円を、それぞれ請求する。
エ 謝罪広告
 本件各記事が1年以上に亘って反復して掲載されたこと、週刊現代及び月刊現代が全国的に広く流通していることからすれば、原告らの損害を回復するためには、前記ウの金銭賠償によっては不十分であり、週刊現代及び月刊現代において、掲載記事の重要部分は事実ではなく、原告らの名誉を著しく毀損するものであるとする原告らに対する謝罪広告を掲載する必要がある。
(被告らの主張)
 いずれも争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各記事の摘示事実の内容。また、摘示事実が原告らの社会的評価を低下させるか。)について
(1)前記第2の2の前提事実(3)によれば、本件各記事の摘示事実は、別紙5の一覧表の「記事の内容」欄記載のとおりである。
ア そして、雑誌の記事内容が、名誉毀損に該当するか否かは、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、当該記事の意味内容を解釈し、その内容が、他人の社会的評価を低下させるかどうかによって判断すべき(最高裁判所昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)ところ、前記第2の2の前提事実(2)及び証拠(甲1ないし11)によれば、週刊現代1ないし11は、約1年の間に11回に亘って発行され、そのうち週刊現代4ないし11は、毎週又は2週間の比較的短い間隔で発行されており、掲載号によって読者層が異なるという事情は窺えないこと、上記各雑誌に記載された本件記事1ないし11(枝番を全て含む。以下特に断らない限り同じ。)は、いずれも原告らとaやX家親族との関係を主なテーマとした被告Y2の署名入り記事であり、週刊現代1及び3を除く記事には、以前に発行された週刊現代の関連記事の存在及び内容を示した記述があることが認められる。
 上記各事実を総合すれば、週刊現代1ないし11に掲載された本件記事1ないし11は、同一の執筆者による同一テーマの連載記事と解するのが一般読者の普通の注意及び読み方に照らして相当であるから、上記各記事の摘示事実については、週刊現代1ないし11の記事全体を総合的に判断して、その意味内容を解釈すべきである。
 一方、月刊現代1及び2は、同一の執筆者による同一テーマの記事が掲載されているものの、前記第2の2の前提事実(2)及び証拠(甲12、13)によれば、月刊現代2は、月刊現代1が発行された約1年2か月後に発行されており、また、以前に発行された月刊現代1の記事の存在及び内容を具体的に言及する記述も認められない。そうすると、月刊現代1に掲載された本件記事12及び月刊現代2に掲載された本件記事13は、それぞれ独立した別個の記事であると解するのが一般読者の普通の注意と読み方に照らして相当である。
 また、本件記事13の1ないし5は、いずれも、月刊現代2に掲載された一つの記事の一部分であるから、掲載記事全体の文脈を総合的に判断してその意味内容を判断すべきである。
 そして、週刊現代と月刊現代は、出版社が同一であるものの、別個の雑誌であり、掲載されている記事の内容等(甲1ないし13)に照らして、読者層も異なるものと認められるから、週刊現代に掲載された各記事と月刊現代に掲載された各記事を一連の連載記事として評価することは相当でない。
イ 被告らは、週刊誌の一般読者は、新聞等の定期購読者と異なり、複数の号を継続的に読まないと主張する。しかし、前記ア認定の週刊現代1ないし11の発行間隔や本件記事1ないし11の内容等に照らせば、上記各記事は、同一のテーマに関心を寄せる読者が継続的に読むことを想定した記事であると考えられ、新聞等との比較における週刊誌一般の読み方を根拠とする被告らの主張は採用することができない。
(2)以下、前記(1)で判示したところに基づき、本件各記事の各摘示事実が一般読者に与える印象及びそれが原告らの社会的評価を低下させるかについて検討する。
ア 本件記事4−2、6−4、8−1の摘示事実の概要は、『aは、平成15年秋、口腔底癌によりi病院に入院しており、同病院での手術に同意していたところ、原告らが、aの意に反して独断で治療方針を変更し、強引にaを同病院からj医院に転院させ、その後、aが「このままじゃ俺は殺されてしまう。」などと発言していたこと(以下「本件摘示事実1」という。)』である。
 また、本件記事1−1・4、2−1ないし3、4−1・3・4・6・7、6−3ないし6、7−2・3・5、8−2、9−3・5ないし7、10−2・3、11の摘示事実の概要は、『原告らが、aの転院先をf、その他の親族に知らせず、aの内妻Mや兄弟をaから遠ざけ、aから携帯電話を取り上げる等の方法で、aとその親戚等との接触を遮断し、又は療養のためと称してフランスに追いやる等の方法で、aの財産や理事の座を奪い取ろうとしたこと(以下「本件摘示事実2」という。)』、『原告らが、d部屋の土地・建物の権利証をaに無断で持ち去り、aから預かったかの説明をしてaからの返還要求を拒否した上、原告X1に権利書を預けた旨の念書の作成を迫ったこと(以下「本件摘示事実3」という。)』、『原告らが、aに対して親を親とも思わない態度をとり、さらに国技館の花道でfに対して暴言を吐くなどしたため、a、f及びaの親族の怒りを買い、aの病室から締め出され、親方衆から無視されたこと(以下「本件摘示事実4」という。)』である。
 本件摘示事実1ないし4は、いずれも週刊現代の連載記事の一部であり、これらを総合すれば、原告らがaの財産及び理事の地位を得るために手段を選ばず、権利証の持ち出しなどの犯罪行為にまで及ぶ人物であり、その人格に相当の問題があり、原告X1の親方としての適格性にも問題があるとの印象を一般読者に与えるものと認められる。したがって、本件摘示事実1ないし4にかかる上記各記事は、原告らの社会的評価を低下させる記事である。
イ 本件記事1−2、1−3、6−7の摘示事実の概要は、『aとkの間で、山響名跡の譲渡が合意されていたところ、原告X1が、kを相撲界から追放するなどの目的で、これを一方的に破棄させた上、kに対し、上記合意の2倍の高額で同名跡又は藤島名跡の譲渡を申し入れたこと(以下「本件摘示事実5」という。)』である。
 本件摘示事実5は、週刊現代の連載記事の一部であり、これによれば、原告X1は、私利私欲のために行動し、兄弟子を相撲界から追放しようとする人物であり、相撲部屋の親方としての適格性に問題があるとの印象を一般読者に与えるものと認められる。
 したがって、本件摘示事実5にかかる各記事は、原告X1の社会的評価を低下させる記事である。
ウ 本件記事2−4、4−5、6−1・2、7−4、8−2、9−1・2・4、10−1・3の摘示事実の概要は、『aが原告らに対する激しい非難の言葉を書き残したメモ、原告X1に何も相続させないというaの言葉を録音した録音テープ、及び原告らがaに対して本件摘示事実3の念書の作成を迫っている様子や原告らとaとの口論などが録音された録音テープ又はICレコーダが存在すること(以下「本件摘示事実6」という。)』、『aが、原告X1を理事にさせないための意見及び山響名跡は原告X1ではなくaが所有するものである等を記載した書類を作成して、平成17年1月ころ、b会のh理事長に送付したこと(以下「本件摘示事実7」という。)』である。
 本件摘示事実6及び7は、週刊現代の連載記事の一部であり、これらを総合すると、原告らの人格や原告X1のd部屋の継承者としての正当性に疑念があり、また、原告らの権利証の持ち出し行為にかかる本件摘示事実3及び原告らのaに対する親を親とも思わない態度をとったことなどにかかる本件摘示事実4が真実であるとの印象を一般読者に与えるものと認められる。したがって、本件摘示事実6にかかる各記事は原告らの、本件摘示事実7にかかる各記事は、原告X1の社会的評価を低下させる記事である。
エ 本件記事10−4・5の摘示事実の概要は、『原告X1の経済状態は逼迫していたが、原告らは、原告らの子供の同級生の誕生日に、子供らを貸し切りのクルーザーに招待し、ディナーパーティを催すなど、華美な生活をしていたこと(以下「本件摘示事実8」という。)』である。
 本件摘示事実8は、週刊現代の連載記事の一部であり、これによれば、原告らは、私利私欲のために手段を選ばない行動をとる一方、自らは不相応に華美な生活をして逼迫した経済状態に陥っているとの印象を一般読者に与えるものと認められる。したがって、本件摘示事実8にかかる上記各記事は原告らの社会的評価を低下させる記事である。
オ 本件記事3、5、7−1、8−3の摘示事実の概要は、『原告X1が、平成7年九州場所の優勝決定戦において、八百長を行ってfに優勝を譲ったこと(以下「本件摘示事実9」という。)』である。
 また、本件記事8−4・5の摘示事実の概要は、『原告X1が、平成8年1月場所及び平成9年11月場所の各優勝決定戦においても、oに対して八百長を行ったこと(以下「本件摘示事実10」という。)』である。
 本件摘示事実9及び10にかかる各記事が、原告X1の社会的評価を低下させる記事であることは争いがない。
カ 本件記事12の摘示事実の概要は、原告X1がkに譲渡を申し入れたとされる年寄名跡が藤島名跡であるほかは、本件摘示事実5とほぼ同様である。
 本件記事12は、月刊現代1の記事の一部であり、当該記事全体の文脈を考慮すると、前記イで述べたところと同様の印象を一般読者に与えるものと認められる。したがって、本件記事12は、原告X1の社会的評価を低下させる記事である。
キ 本件記事13−1の摘示事実の概要は、本件摘示事実9と同様であり、前記オのとおり、本件記事13−1は、原告X1の社会的評価を低下させる記事である。
ク 本件記事13−2・3の摘示事実の概要は、『原告らが、口腔底癌によりi病院に入院していたaを、強引に同病院からj医院に転院させた上、aの転院先をfやその他の親族に知らせず、aから携帯電話を取り上げる等してaと親族との接触を遮断したこと(以下「本件摘示事実11」という。)』の外、本件摘示事実3と同様である。
 本件記事13−2・3は、月刊現代2の記事の一部であり、記事全体の文脈を考慮すると、前記アで述べたところと同様、原告らの人格や原告X1の相撲部屋の親方としての適格性に問題があるとの印象を一般読者に与えるものと認められる。したがって、本件記事13−2・3は、原告らの社会的評価を低下させる記事である。
ケ 本件記事13−4の摘示事実の概要は、『aとkの間で、山響名跡の譲渡が合意されていたところ、原告X1が、これを一方的に破棄させた上、kに対し、上記合意の2倍の高額で藤島名跡の譲渡を申し入れたこと(以下「本件摘示事実12」という。)』である。
 本件記事13−5の摘示事実の概要は、『aが原告らに対する激しい非難の言葉を書き残したメモや原告らとaとの口論などが録音された録音テープが存在すること(以下「本件摘示事実13」という。)』である。
 本件摘示事実12及び13は、月刊現代2の記事の一部であり、その全体の文脈を考慮すると、原告X1が私利私欲のために行動し、相撲部屋の親方としての適格性に問題があるとともに、原告らが権利証を無断で持ち出したことなどについてaから厳しく非難され、本件摘示事実3のほか、同11及び12が真実であるとの印象を一般読者に与えるものと認められる。したがって、本件摘示事実12及び13にかかる各記事は原告らの社会的評価を低下させる記事である。
2 争点(2)(本件各記事の摘示事実が公共の利害に関する事実に係わり、専ら公益を図る目的があったといえるか。)について
 前記1で認定した本件各記事の摘示事実は、aの相続財産の帰趨や原告らの親族間の対立状況など、原告らの私生活上の行状というべき事項を多く含んでいることは否定できない。しかしながら、私人の私生活上の行状であっても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、公共の利害に関する事実にあたる場合があると解される(最高裁判所昭和56年4月16日第1小法廷判決・刑集35巻3号84頁参照)。そして、前記第2の2の前提事実(1)ア、前記1(2)の各認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、日本のいわゆる国技として、古くからの伝統をもち、広く国民に親しまれている相撲において、大相撲の最高位である第65代横綱を務めて引退した後、b会から一代年寄xを寄贈されて、x部屋の親方(師匠)として力士の指導、育成を行うともに、b会の審判部に所属して、大相撲の興行、相撲競技の指導・普及、相撲に関する伝統文化の保持等のための活動に従事していること、原告X2は、原告X1の妻であり、原告X1が親方を務めるx部屋のおかみさんとしての立場にあることが認められる。このような原告X1の大相撲における実績や原告らの相撲界における立場などに照らせば、原告らの社会的活動の公共性やその言動が社会に及ぼす影響は、軽視できないものがあると解するのが相当である。
 そうすると、本件各記事は、b会における理事職や年寄名跡の帰属、相撲部屋の土地建物の相続など、相撲界における原告X1の地位や相撲部屋の継承、原告らの相撲部屋の運営などに関わる事項を対象とするものであり、相撲部屋の土地建物の権利証に関する原告らの犯罪行為をも示していることに照らせば、本件各記事の各摘示事実は、いずれも、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で掲載されたと認めるのが相当である。
3 争点(3)(本件各記事の摘示事実は、真実か。また、被告らには、摘示事実が真実であると信じるにつき、相当な理由があるか。)について
(1)本件摘示事実1について
ア 本件摘示事実1のうち、平成15年10月ころ、aが、口腔底癌によりi病院に入院しており、同病院での手術に同意していた事実、原告X1が、i病院に対し、手術を前提とした抗ガン剤治療を開始したことを抗議した事実、aが、同病院から原告X1の主治医のいるj医院に転院した事実は真実である(争いがない。)。
 しかし、本件摘示事実1のうち、重要部分であると解される、「原告らが、aの意に反して独断で治療方針を変更し、強引にaをj医院に転院させたこと」については、当時、意識がはっきりしていたaを、その意思に反して強引に治療方針を変更させて、転院させること自体想定し難い事態であり、また、j医院を一旦退院したaが同医院の院長らに感謝の書状を送付していること(甲43、44)を考え併せれば、aの意思に反して原告らが転院等を強行したとの事実は認められない(aの転院が原告らの発案であったとしても、その事実がaの意思に反して転院を強行したことの根拠にはならない。)。
 したがって、本件摘示事実1はその重要部分において真実とは認められない。
イ 被告らは、上記重要部分について、被告Y2が、aの近親者A及び近親者C、aの友人Bに対する取材結果に基づくものであり、真実であると信じるにつき相当な理由がある旨主張し、被告Y2もこれに沿う陳述(乙28(10、11頁))又は供述(被告Y2(3ないし5頁))をする(なお、被告Y2の陳述では、「aの友人のD」から聞いたとされており、被告らの準備書面における主張にも同様の部分があるが、同陳述(8頁)及び供述(38頁)では、「B」は元スポーツ新聞記者とされており、被告Y2が上記のように陳述する「aの友人のD」はaの友人Bを示すものと解される。)。
 しかし、被告Y2は、取材源とする近親者Aらについて、aの近親者あるいは友人と説明するのみで、具体的にどのような人物で、aの転院の経緯の詳細を知る立場にあった根拠を明らかにしない。そして、被告Y2が聞いたとする近親者Aらの発言自体、いずれもaの内妻Mやaからの伝聞であり、近親者Aらが直接体験した事実ではなく、その内容も、原告らが、aを強引に転院させたという想定し難いものであったにもかかわらず、被告Y2は、原告らや内妻M、i病院、j医院等に対して、事実を確認するなどの的確な裏付け取材を行っておらず、これについて合理的な説明はない(被告Y2(23、24、58ないし61頁))。
 なお、被告Y2は、aと古くからの知り合いである九州のpからも、親方から「おれは光司に殺される」と電話で聞いたということを聞いたと供述する(5頁)が、この内容も伝聞であって、その内容について的確な裏付け取材は行われていない。
 以上によると、被告Y2の上記陳述及び供述は信用することができず、他に被告らの上記主張を認めるに足りる証拠はないので、被告らの同主張は採用することができない。
(2)本件摘示事実2について
ア 本件摘示事実2のうち、原告らがaの転院先を親族らに知らせなかった事実、原告X1がaの携帯電話を保管していた事実については、真実である(争いがない。)。
 しかし、本件摘示事実2の重要部分であると解される、「原告らがaの財産や理事の座を奪い取る目的で、aの意に反して、aと外部との接触を遮断したり、aをフランスに追いやろうとしたこと」については、これを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、本件摘示事実2はその重要部分において真実であるとは認められない。
 この点、被告らは、近親者Aが被告Y2の取材で回答した内容に照らし、当該事実は真実である旨主張し、被告Y2もこれに沿う陳述(乙28(5ないし7、15、16頁)又は供述(被告Y2(5ないし7頁))をする。しかし、前記1(1)イのとおり、取材源とされる近親者Aが具体的にどのような立場の者であるか明らかでないこと、被告Y2の陳述や供述によっても、近親者Aの発言内容は、内妻M又はaからの伝聞に基づくものであることに照らし、上記重要部分の事実を的確に裏付けるものとは解し難く、被告らの上記主張は認められない。
イ 上記アのとおり、近親者Aの発言は、内妻M又はaからの伝聞であり、本件摘示事実2の重要部分を裏付ける的確な資料とは言い難く、さらなる裏付け取材を行うのが執筆者として自然な態度であると解されるところ、証拠(被告Y2(23、24、58ないし61頁))によれば、被告Y2は、内妻Mや原告らに対して事実を確認するなどの裏付け取材を何ら行っておらず、この点について合理的な説明はない。したがって、被告らが当該事実を真実であると信じるにつき相当な理由があったとは認められない。
(3)本件摘示事実3について
ア 前記第2の2前提事実(1)ア、証拠(甲35(1頁))及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、平成16年、aからd部屋を継承し、同部屋の土地建物を使用してx部屋を運営しており、aの生前から原告X1が上記土地建物を使用していたことが認められる。そして、aが、その生前、文書をもって原告らに土地建物の権利証の返還を求めたり、窃盗などの被害申告を行った形跡はないことに照らせば、原告らがaに無断で権利証を持ち出したとの本件摘示事実3を、真実であるとは認められない。
 この点、被告らは、近親者A及び元記者Dの被告Y2の取材に対する回答内容に照らし、真実である旨主張し、被告Y2もこれに沿う陳述(乙28(7、8頁))又は供述(被告Y2(12、37、38、40頁))をする。
 しかし、取材源とされる近親者A及び元記者D(なお、被告Y2の陳述書(乙28(8頁))では、元スポーツ記者Bと陳述しており、元記者Dと元スポーツ記者Bは同一人物と理解される。)が、どのような者で、本件摘示事実3の事実を知り得る立場にあったのかは具体的に明らかでないし、その内容自体、伝聞に過ぎない。また、被告Y2は、aと古くからの知り合いであるpからも、土地建物の権利証のやり取りを聞いていると供述する(被告Y2(5、12頁))が、その内容自体も、伝聞にすぎない。以上によれば、被告Y2の上記陳述や供述は、直ちに信用することはできない。
 なお、被告らは、原告らとaの口論や、原告X2がaに念書の作成を迫った様子が録音された録音テープが存在すると主張するが、後記(6)のとおり、その存在を認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 前記アのとおり、被告らが本件摘示事実3の取材源と主張する近親者A、元記者D、pの各発言は、当該事実の的確な裏付けとは言い難い。また、証拠(甲1、6、13、被告Y2(23、24、58ないし60頁))によれば、原告らが権利証を持ち出した状況についての取材結果に変遷や矛盾が存在していたにも関わらず、被告Y2は、さらなる裏付け取材を行っておらず、この点について合理的な説明はない。
 したがって、被告らが本件摘示事実3を真実であると信じるにつき相当な理由があったとは認められない。
(4)本件摘示事実4について
ア 本件摘示事実4のうち、原告らがaに対して親を親とも思わないような態度をとったとの事実は、本件摘示事実1ないし3などの事実を示すものであり、前記(1)ないし(3)で判示したとおり、当該事実は、真実であるとは認められない。また、被告らにおいて、上記事実を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
イ 本件摘示事実4のうち、原告X1が国技館の花道でfに対して暴言を吐いた事実、原告らがaの病室から締め出された事実、原告らが親方衆から無視された事実は、これを認める的確な証拠はない。
 この点、被告らは、近親者A及び近親者Gの被告Y2の取材に対する回答により、上記事実は真実である旨主張し、被告Y2もこれに沿う陳述(乙28(14、15頁))又は供述(被告Y2(9、13頁))をする。
 しかし、取材源とする近親者A及び近親者Gがどのような人物で、上記事実を知り得る立場にあったかは具体的に明らかでない。また、被告らが主張する近親者A及び近親者Gの回答内容自体伝聞にすぎない部分も存しており、いずれにせよ、直ちに信用することはできない。なお、被告Y2は、本人尋問において、近親者Gは原告X1の母親eである旨供述する(被告Y2(53頁))が、原告らから取材源を明らかにするよう求められていたにもかかわらず、匿名としていた近親者Gについて、本人尋問の場において、突然実名を公表したこと自体不自然であり、この点について合理的な説明もない上、被告Y2自身、eには本件各記事に関して取材していない旨の矛盾した供述をしていること(被告Y2(24頁))に照らして、上記被告Y2の供述も信用することができない。
 したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
ウ 前記イのとおり、取材源である近親者A及び近親者Gに対する被告Y2の取材の内容は、当該各事実を的確に裏付けるものとは解されず、直接の関係者である原告X1、f及び一門の親方衆に事実確認をするなどの裏付け取材を行うのが執筆者として自然な態度であるというべきところ、被告Y2は、そのような裏付け取材を行っておらず、この点について合理的な説明はない。したがって、被告らが本件摘示事実4のうちのfに対する暴言等の前記イの各事実を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(5)本件摘示事実5について
ア 本件摘示事実5は、いずれもこれらの事実が真実であるとは認められない。
 この点、被告らは、本件摘示事実5は、元記者D、元記者E及び元記者Fに対する被告Y2の取材の回答内容から真実である旨主張し、被告Y2は、これに沿う陳述(乙28(12頁)。もっとも、被告Y2は、元スポーツ紙記者Bから聞いたと陳述し、被告らが主張する元記者Dと元スポーツ記者Bは同一人物と理解される。)ないし供述(被告Y2(13、14頁。)ただし、近親者A、b会の関係者及び相撲担当記者から聞いたと供述する。)をする。しかし、取材源とされる元記者Dらは、いずれもどのような人物であるか具体的に明らかでない上、その内容も伝聞であるから、被告Y2の上記陳述又は供述は信用することができず、他に被告らの上記主張を認めるに足りる証拠はないので、被告らの上記主張は、直ちに採用することができない。
イ 証拠(甲1、6、12、13、原告X1(8頁)、被告Y2(47ないし49頁))によれば、被告Y2は、原告X1がkに譲渡を申し入れたとする年寄名跡についての取材結果の内容が齟齬しており、また、当時山響名跡は原告X1名義であり、取材結果の正確性を疑う事情を認識していたにもかかわらず、原告X1やkに対して事実を確認するなどの裏付け取材を行っておらず、この点について合理的な説明もない。
 したがって、被告らが本件摘示事実5を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(6)本件摘示事実6について
ア 本件摘示事実6にいうメモ、録音テープなどは、証拠提出されていない。
 そして、前記第2の2の前提事実(1)ア、証拠(甲35(1頁))及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、aの生前である平成16年ころ、d部屋を継承し、同部屋の土地建物においてx部屋の運営を開始しているところ、aが、原告X1に対し、文書をもって、相撲部屋の継承や土地建物の使用に異議を申し入れたり、原告X1に一切相続させない旨の遺言書を作成したなどの形跡は窺われないことなどを考え併せれば、本件摘示事実6にいう原告X1に相続させないこと等の言動が記録されたメモや録音テープ等が存在するとは認められない。
 したがって、本件摘示事実6が真実であるとは認められない。
 この点、被告らは、近親者Aが、録音テープを確認しているし、m親方がテレビ番組でICレコーダーの存在について言及していると主張し、被告Y2は、これに沿う陳述(乙28(8、9頁))ないし供述(被告Y2(15、16頁))をする。しかし、近親者Aが具体的にどのような人物で、録音テープ等の存在を知る立場にあった根拠を明らかにしていない上、その内容も伝聞であるから、被告Y2の上記陳述ないし供述は信用することができず、また、被告らの上記主張を裏付ける客観的な証拠はないので、被告らの上記主張は、採用することはできない。
イ 証拠(被告Y2(43、45、46頁))及び弁論の全趣旨によれば、被告Y2は、本件摘示事実6にいうメモや録音テープ等を実際に見たことはなく、また、これらの所在すら具体的に把握していないにもかかわらず、m親方にICレコーダーの存在や所在を確認するなどの裏付け取材を一切行っておらず、この点について合理的な説明もない。したがって、被告らが本件摘示事実6を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(7)本件摘示事実7について
ア 本件摘示事実7にいうa作成の文書は、証拠提出されていない。また、被告Y2は、同摘示事実について、元スポーツ紙記者B及びaの当時の代理人であったn弁護士に電話で確認したと陳述(乙28(12頁))ないし供述(被告Y2(17頁))をするが、これを裏付ける証拠はないので、その陳述ないし供述はにわかに信用することができない。そして、a又は代理人弁護士作成の「山響株を原告X1に譲りたくない」旨が記載された文書の提出を求める旨の別件訴訟での文書提出命令申立事件において、b会は、当該文書は存在しない旨を回答しており(甲45の1・2)、その他、b会又はh理事長が、山響名跡の名義などについて何らかの措置を講じた事情も窺われないことからすれば、本件摘示事実7が真実であるとは認められない。
 この点、被告らは、当該文書の内容については噂の域を出ないものであるが、噂の存在については元記者Dの取材に対する回答から真実と認められる旨主張する。しかし、本件摘示事実7の重要部分は、aがh理事長に提出したとされる文書の内容自体であると解すべきであり、文書の内容に関する噂の存在が摘示事実であるとする被告らの主張は理由がない。
イ 証拠(被告Y2(51頁))によれば、被告Y2は、b会やh理事長に対して本件摘示事実7にいう文書について事実を確認するなどの裏付け取材をしておらず、この点について合理的な説明もない。したがって、被告らが本件摘示事実7を真実であると信じるにつき相当な理由があったとは認められない。
(8)本件摘示事実8について
ア 本件摘示事実8の事実は、いずれもこれを真実であると認める的確な証拠はない。
 この点につき、被告らは、近親者A、近親者G、元記者D及び芸能レポーターHの被告Y2の取材に対する回答から真実である旨主張し、被告Y2は、これに沿う陳述(乙28(13、14頁)。元スポーツ記者はBと陳述し、元記者Dと元スポーツ記者Bは同一人物と理解される。)ないし供述(被告Y2(18、19頁))をするが、近親者Aらがどのような人物であるか、また、原告X1の経済状態や原告らの子供に関する事情を具体的に知り得る立場にあったのか明らかでないし、被告Y2の陳述ないし供述によっても、近親者A及び元記者D(B)の回答自体、原告X1の具体的な経済状態について言及しておらず、また、近親者G及び芸能レポーターHの回答自体は、いずれも伝聞であるなど、被告Y2の上記陳述ないし供述は、にわかに信用することができないし、他に被告らの上記主張を裏付けるに足りる的確な証拠はないので、被告らの同主張は、採用することができない。
イ 前記アのとおり、近親者A、元記者D、近親者G及び芸能レポーターHの取材に対する回答は、いずれも本件摘示事実8を的確に裏付けるものとは解されない。被告Y2は、原告らの子供の同級生などに事実を確認するなどの裏付け取材を行っておらず、この点について何ら合理的な説明もない。したがって、被告らが本件摘示事実8を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(9)本件摘示事実9について
ア 本件摘示事実9は、真実であるとは認められない。
 この点、被告らは、原告X1のテレビ番組における発言や近親者Gの被告Y2の取材に対する回答から真実である旨主張し、被告Y2もこれに沿う陳述(乙28(13頁)) 又は供述(被告Y2(17、18、53頁))をする。
 しかし、証拠(乙18)によれば、被告らが主張する原告X1の発言は、平成7年の優勝決定戦に関して、aの遺産問題等の軋轢が生じた原点を上記優勝決定戦に求める見方は間違っていない旨を述べたものであり、同決定戦が八百長であったことを認める発言であるとは解されない。
 また、取材源とする近親者Gがどのような人物であるかは明らかでないし(被告Y2は、本人尋問において、近親者Gは原告X1の母親eである旨供述する(被告Y2(53頁))が、原告らから取材源を明らかにするよう求められていたにもかかわらず、匿名としていた近親者Gについて、本人尋問の場において、突然実名を公表したこと自体不自然であり、この点について合理的な説明もない上、被告Y2自身、eには本件各記事に関して取材をしていない旨の矛盾した供述をしていること(被告Y2(24頁))に照らし、被告Y2の上記供述はにわかに信用することができない。)、近親者Gの取材に対する回答自体、直接、八百長の事実を述べるものではないので、被告Y2の前記陳述又は供述は信用することができないし、他に被告らの前記主張を認めるに足りる証拠はないので、被告らの同主張は、採用することができない。
イ 証拠(被告Y2(23、60頁))によれば、被告Y2は、原告X1やfに対する事実確認などの裏付け取材を行っておらず、この点につき合理的な説明もない。したがって、被告らが本件摘示事実9を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(10)本件摘示事実10について
ア 本件摘示事実10は、真実であるとは認められない。
 この点、被告らは、近親者Aの被告Y2の取材に対する回答内容から真実である旨主張し、被告Y2もこれに沿う陳述(乙28(13頁))又は供述(被告Y2(18頁))をする。しかし、取材源とする近親者Aが具体的にどのような人物であり、八百長の事情を知り得る立場にあったか明らかでなく、その回答内容自体、八百長の理由も全く明らかにされていないなど、非常にあいまいなものであって、被告Y2の上記陳述又は供述は信用することができないし、他に被告らの前記主張を認めるに足りる証拠はないので、被告らの同主張は、採用することはできない。
イ 証拠(被告Y2(23、54ないし56頁))によれば、被告Y2は、原告X1やoに対して事実確認をするなどの裏付け取材を行っておらず、この点について合理的な説明もない。したがって、被告らが本件摘示事実10を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(11)本件摘示事実11について
 本件摘示事実11は、本件摘示事実1及び2の事実と重複しており、前記(1)及び(2)判示のとおり、原告らがaを強引に転院させた事実、aと親族との接触を遮断した事実は真実であるとは認められず、被告らが、かかる事実を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(12)本件摘示事実12について
 本件摘示事実12は、本件摘示事実5の事実と重複しており、前記(5)判示のとおり、aとkの間で、山響名跡の譲渡が合意されていた事実、原告X1が、kに対し、上記合意の2倍の高額で藤島名跡の譲渡を申し入れた事実は、真実であるとは認められず、被告らが、かかる事実を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(13)本件摘示事実13について
 本件摘示事実13は、本件摘示事実6の事実と重複しており、前記(6)判示のとおり、aが原告らに対する激しい非難の言葉を書き残したメモが存在するとの事実、原告らとaとの口論などが録音された録音テープが存在するとの事実は、真実であるとは認められず、被告らが、かかる事実を真実であると信じるにつき相当な理由があるとは認められない。
(14)被告らは、原告X1の主張や供述が、別件訴訟における尋問、テレビ番組における発言と著しく変遷しており、信用できない旨主張するが、前記(1)ないし(13)で判示したとおり、本件各摘示事実の真実性は、いずれも的確な裏付けを欠くと言わざるを得ないのであって、原告X1の供述の信用性自体は、前記各認定を左右しない。
 また、被告らは、週刊文春に、本件各摘示事実が真実であることを裏付ける原告X1の発言等に関する記事が存在すると主張するが、証拠(乙2、3)によれば、週刊文春の記事は、原告X1が本件各摘示事実自体を認めているものとは解されず、また本件各摘示事実と同様の事実を掲載するものとも言い難い上、記事自体の正確性は必ずしも明らかでない。したがって、上記週刊文集の記事の存在は、本件各摘示事実の真実性を裏付けるものとは認められない(なお、他の週刊誌等に記載があることが、当該事実を真実と信じることの相当の理由となるものでもない。)。
(15)以上によれば、被告会社が発行した週刊現代及び月刊現代に掲載された本件各記事は原告らの名誉を毀損すると判断される。
4 争点(4)(被告Y3が取締役として責任を負うか。)について
(1)被告Y3は、出版業を営む被告会社の代表取締役であり、業務全般の執行責任者として、被告会社における出版物の発行に当たって、名誉毀損等の権利侵害を防止するための実効性のある体制を整備すべき義務を負うと解するのが相当である。
 証拠(甲15、16)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社編集部は、原告X1代理人弁護士から送付された、本件記事4及び5に対する抗議や今後根拠のない事実を掲載しないように求める通告文に対する回答として、記事は真実と信じるに足りる情報に基づくものであるが、今後は原告X1に対する取材の機会をもちたいとの平成17年6月17日付けの回答書を送付しているのであって、遅くとも同日時点においては、被告会社の業務執行責任者である被告Y3は、自社の発行する出版物の掲載記事について、原告X1に対する名誉毀損の権利侵害の危険があることを具体的に認識し得たというべきである。
 そして、前記3で判示したとおり、本件各摘示事実については、その一部が真実であったものの、その大半は、真実とは認められず、かつ、真実であると信じるにつき相当な理由も認められないものであって、その原因は、掲載された記事の内容について、必要とされる原告らや直接の関係者に対する裏付け取材が全くされていないことにある。これによれば、被告会社において、本件各記事掲載当時、名誉毀損等の権利侵害の発生を防止するための実効性のある体制が取られていたとは到底窺えず、原告X1代理人弁護士から送付された前記通告文に対しても、速やかに防止策を講じた形跡も窺えないのであって、以上のような事情に照らせば、被告Y3には、前記通告文に対する回答がされた平成17年6月17日以降において、代表取締役としての職務執行について、重大な過失による任務懈怠があったと言わざるを得ない。
(2)被告Y2は、被告会社の編集長や法務部が、記事の裏付けの有無や名誉毀損に当たるかをチェックしている旨供述する(被告Y2(21、22頁))が、その具体的な内容等は明らかでなく、上記供述のみによって、被告会社において実効性のあるチェック体制が整備されていたとは認め難い。
 また、被告らは、被告Y3の代表取締役としての責任は、経営と編集の分離という制度設計を行うことにより果たされている旨主張する。
 当裁判所も、被告ら主張の経営と編集の分離の意義を否定するものではない。しかし、被告らの主張によっても、経営と編集の分離という制度それ自体は、第三者に対する権利侵害の防止を目的とするものではなく、前記(1)に判示した実効性のある防止体制は、経営者が個々の出版物の内容や編集方針に関与せずとも構築可能なものであり、かつ、構築しなければならないものであると解されるから、出版を業とする株式会社の代表取締役は、経営と編集の分離の制度設計の下であっても、上記防止体制が十分に整備されていない場合には、なお実効性のある防止体制を整備するための適切な措置を講じるべきであって、前記(1)認定のとおり、原告X1に対する名誉毀損の権利侵害の危険性を具体的に認識し得た後も、何らの措置も講じないまま、原告らに関する記事の掲載を継続させたという被告Y3の対応や上記防止体制についての具体的な主張立証がないことも考え併せれば、被告らの前記主張は、採用することができない。
(3)以上によれば、被告Y3については、原告X1に対する名誉毀損の権利侵害の危険があることを具体的に認識し得た平成17年6月17日以降に発刊された週刊現代に掲載された本件記事7ないし11及び月刊現代に掲載された本件記事13(以上の各雑誌の発刊日については、甲7ないし11及び甲13の各雑誌表紙の国立国会図書館の受付印等の日付から認定した。)について取締役としての責任を負うべきである。
5 争点(5)(損害等)について
(1)損害額について
 以上のとおり、被告会社が本件各記事を掲載したことは、原告ら又は原告X1に対する名誉毀損の不法行為に該当し、原告らは、これにより以下の損害を被ったことが認められる。
ア 週刊現代の連載記事による損害
本 件記事1ないし11は、その内容として、原告らがa所有の不動産の権利証を無断で持ち去ったとの犯罪行為に当たりうる事実をはじめ、原告らがaの財産や理事の座を狙ってaの病状を軽視した強引な行動をとったことや原告X1が複数回に亘り八百長相撲をしたことなどを摘示していること、これらの記事が掲載された週刊現代1ないし11は、1年余りの間に計11回に亘って全国に発刊され、反復的に原告らの社会的評価を低下させたこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件記事1ないし11の掲載により原告らに生じた精神的損害は、原告X1につき500万円、原告X2につき100万円と認めるのが相当である。
イ 月刊現代の各記事による損害
(ア)月刊現代1の本件記事12の内容、月刊現代が全国で販売されたことによる影響、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件記事12の掲載により原告X1に生じた精神的損害は50万円と認めるのが相当である。
(イ)月刊現代2の本件記事13の内容、月刊現代が全国で販売されたことによる影響、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件記事13の掲載により原告らに生じた精神的損害は、原告X1につき100万円、原告X2につき20万円と認めるのが相当である。
ウ 弁護士費用
 原告らが本訴提起及び訴訟追行を代理人弁護士に委任したことは本件記録上明らかであり、前記ア及びイの各損害額、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、前記各不法行為と相当因果関係のある損害としては、週刊現代の連載記事に関しては、原告X1につき50万円、原告X2につき10万円、月刊現代1の記事に関しては、原告X1につき5万円、月刊現代2の記事に関しては、原告X1につき10万円、原告X2につき2万円の限度で、それぞれ認めるのが相当である。
エ 原告らは、前記弁護士費用以外の財産的損害についても主張するが、本件各記事の掲載による名誉毀損の権利侵害行為と原告ら主張の弁護士費用を除く財産的損害との間に相当因果関係があると認めるべき的確な証拠はない。したがって、原告らの上記主張は理由がない。
(2)謝罪広告について
 被告会社は、週刊現代において本件記事1ないし11を、月刊現代において本件記事12及び13をそれぞれ掲載し、全国に流通させており、本件各記事の内容等に照らせば、その名誉毀損の程度は著しいと言わざるを得ない。
 したがって、原告らの名誉を回復するためには、被告会社に対し、週刊現代に別紙1の1記載の謝罪広告を別紙1の2記載の掲載要領により、月刊現代に別紙2の1記載の謝罪広告を別紙2の2記載の掲載要領により、それぞれ1回掲載させるのが相当である。
6 まとめ(被告らの責任原因及び各自の賠償額)
(1)以上によれば、被告会社は、民法715条に基づき、被告Y4、被告Y5、被告Y7及び被告Y6の使用者として本件各記事の掲載により生じた損害につき、被告Y3は、旧商法266条の3第1項に基づき、被告会社の代表取締役として本件記事7ないし11及び13の掲載により生じた損害(具体的な損害額は後記(2)のとおり)につき、被告Y4及び被告Y5は、民法709条及び民法719条1項に基づき、週刊現代の編集長として本件記事1ないし11の掲載により生じた損害(具体的な損害額は後記(2)のとおり)につき、被告Y7は、民法709条及び民法719条1項に基づき、月刊現代1の編集長として本件記事12の掲載により生じた原告X1の損害につき、被告Y6は、民法709条及び民法719条1項に基づき、月刊現代2の編集長として本件記事13の掲載により生じた損害につき、被告Y2は、民法709条及び民法719条1項に基づき、本件各記事の執筆者として本件各記事の掲載により生じた損害につき、それぞれ連帯して賠償する責任を負う。
(2)なお、被告Y3については、前記(1)のとおり本件記事7ないし11及び13の掲載により生じた損害を賠償すべきところ、本件記事7ないし11に関し、その内容等を考慮して、原告X1につき330万円、原告X2につき66万円、本件記事13に関し、その内容等を考慮して、原告X1につき110万円、原告X2につき22万円と認めるのが相当である。
 また、被告Y4及び被告Y5については、各自の編集長在任期間及び在任期間中に掲載された記事の内容等を考慮して、被告Y4が賠償すべき損害の範囲は、原告X1につき440万円、原告X2につき88万円、被告Y5が賠償すべき損害の範囲は、原告X1につき110万円、原告X2につき22万円と認めるのが相当である。
第4 結論
 以上によれば、原告らの請求は、被告会社及び被告Y2に対し、原告X1につき715万円(ただし、440万円の限度で被告Y3と、440万円の限度で被告Y4と、110万円の限度で被告Y5と、110万円の限度で被告Y6と、55万円の限度で被告Y7とそれぞれ連帯して)及び原告X2につき132万円(ただし、88万円の限度で被告Y3と、88万円の限度で被告Y4と、22万円の限度で被告Y5と、22万円の限度で被告Y6とそれぞれ連帯して)、被告Y3に対し、被告会社、被告Y2と連帯して、原告X1につき440万円(ただし、330万円の限度で被告Y4と、110万円の限度で被告Y6と連帯して)及び原告X2につき88万円(ただし、66万円の限度で被告Y4と、22万円の限度で被告Y6と連帯して)、被告Y4に対し、被告会社、被告Y3(ただし、原告X1につき330万円の限度、原告X2につき66万円の限度)及び被告Y2と連帯して、原告X1につき440万円及び原告X2につき88万円、被告Y5に対し、被告会社及び被告Y2と連帯して、原告X1につき110万円及び原告X2につき22万円、被告Y6に対し、被告会社、被告Y3及び被告Y2と連帯して、原告X1につき110万円及び原告X2につき22万円、被告Y7に対し、被告会社及び被告Y2と連帯して、原告X1につき55万円、並びにこれらに対する平成18年1月18日(不法行為の後の日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を、また、被告会社に対し、民法723条に基づき、別紙1の1記載の謝罪広告を別紙1の2記載の掲載要領により被告会社の発行する「週刊現代」に1回掲載すること及び別紙2の1記載の謝罪広告を別紙2の2記載の掲載要領により被告会社の発行する「現代」に1回掲載することを、それぞれ求める限度で理由があるから、これを認容し、その余については理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第42部
 裁判長裁判官 大段亨
 裁判官 本多智子
 裁判官 伊藤吾朗


別紙(省略)
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