裁判の記録 line
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1994年
(平成6年)
 
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1月31日 パックマンもどき事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は,被告が書籍に付属するフロッピーディスクに収納して頒布したゲームのプログラム「Chomp」の影像が、原告が著作権を有するビデオゲーム「パックマン」の影像の複製であるとして、原告が被告に対し、損害賠償及び謝罪広告を求めている事案である。
 判決は、「パックマン」を映画の著作物と認めた。そして「Chomp」の影像が「パックマン」影像の複製であることから、被告の複製権及び頒布権侵害を認めた。
 更に両影像間には相違点も存することから同一性保持権侵害を認め、氏名表示権侵害も認めた。
 損害額については、「パックマン」の従前の使用料例を基に1個当たり少なくとも500円を下ることはないと判断し、書籍販売数が8000冊と認定されることから400万円と算定した。
 謝罪広告については、損害が重大なものとは言えないとの判断により、認めなかった。
判例全文
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2月18日 日経新聞要約翻案・コムライン事件
   東京地裁/判決・請求認容(控訴)
 原告は、日刊新聞を発行する株式会社である。
 被告は、定期購読サービスとして、オンライン、ファクシミリ、印刷物の方式により経済情報等の提供を行っている。
 被告は、被告文章の作成に当たり、原告記事を要約・英訳した。
 判決は、被告文章はその内容において、原告記事の内容の一部が省略され、表現が短縮され、叙述の順序が変更されてはいるが、原告記事の主要な部分を含み、原告記事の表現している思想、感情の主要な部分と同一の思想、感情を表現しているものと認められることから、被告文章は原告記事を翻案したものであると判断し、印刷について複製権侵害を、ファクシミリ・オンラインでの送信について有線送信権を侵害したと認めた。
 損害額については、過去の原告の使用料例から1記事について少なくとも900円と認め、訴訟の対象となった原告記事が11本だったことから9900円と算定した。
判例全文
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2月25日 脳波数理解析論文事件(2)
   大阪高裁/判決・控訴棄却
 被控訴人(被告)が発表した学術論文に対し、控訴人(原告)が、過去に控訴人と被控訴人らが共同で執筆した別の学術文献と命題の解明過程等を共通にするもので、共同著作物の複製権、氏名表示権等を侵害すると主張して損害賠償や謝罪広告を請求し、第一審で請求が認められず控訴した事件である。
 控訴審裁判所は、対象文献が思想を創作的に表現したものであり、学術の範囲に属する共同著作物であることは疑いないとしながらも、その著作物に表現された、数学の方程式の展開を含む命題の解明過程は、その著作物の思想(アイデア)そのものと考えられるから、命題の解明過程の表現形式に創作性が認められる場合に、そこに著作権法上の権利を主張することは別としても、解明過程そのものは著作権法上の著作物に該当しないとした。そして、対象文献と被控訴人の発表した論文とは創作性のある表現形式において共通する部分はないとして、第一審同様、控訴人の請求を棄却した。
判例全文
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3月10日 「クレヨンしんちゃん」消しゴム事件(刑)
   仙台地裁/判決・有罪
 A1とA2は玩具の製造販売会社、A3とA4はそれぞれの代表取締役である。Aらは、Aらが取り扱う消しゴムのケースの装飾として、人気漫画「クレヨンしんちゃん」(以下「本件漫画」という。)の主人公である「野原しんのすけ」の姿態を無断複製したシールが貼られていたことを知りながら、これを販売して頒布し、本件漫画の著作権の共有者である作者および出版社の著作権を侵害したとして著作権法違反で起訴された。
 裁判所は、Aらの犯行は著作権侵害を認識したうえでの職業上のものであること、商品の単価は高くないものの頒布個数がそれぞれ46万9800個、19万7400個と多数であることからAらの行為は悪質である、としつつ、A3A4が反省を深め、民事責任をとる態度を見せていることなどから、A1に罰金100万円、A3に懲役10月(執行猶予3年)、A2に罰金50万円、A4に懲役6月(執行猶予3年)をそれぞれ言い渡した。
判例全文
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3月10日 北アルプス鳥瞰図事件
   長野地裁/判決・請求棄却
 原告は、長野県内の航空会社であり、北アルプス鳥瞰図原画(本件原画)の著作権者である。被告は、デザイン制作会社、長野県内の3つの地方自治体である。原告は、被告らが (1)昭和59年以降、原告に無断で本件原画をポスターやパンフレットに使用した、として著作権に基づく使用差止および損害賠償請求 (2)ポスターやパンフレットに原告の氏名が表示されておらず、無断で記載が付加された、として著作者人格権に基づく損害賠償請求を行った。
 裁判所は、著作権侵害の主張につき、原告と3地方自治体の間で昭和54年3月6日に締結された契約書の「一切の版権が譲渡される」の文言から著作権譲渡の合意があったとし、著作者人格権侵害の主張については、上記契約締結時に3地方自治体が原告の氏名表示がなく記載が付加されたパンフレットを原告に示したところ異議を述べなかったことから、黙示の許諾があった、として原告の請求をいずれも棄却した。
判例全文
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3月17日 カラオケリース業者共同不法行為事件
   大阪地裁/判決・請求認容(控訴)
 本件の原告は、音楽著作権の管理団体である。カラオケの演奏が作詞者・作曲者の演奏権の利用であることはいうまでもないが、原告の許可なく行われるカラオケ演奏の主体が誰かについては大いに議論があり、判例はカラオケ装置を設置して客に歌唱させているスナック等が主体となるとしている。いわゆるカラオケ法理である。
 本件の被告もスナック経営者である。同法理により、無断演奏の主体とされた。
 問題は、カラオケ等の音響機器をリースしている業者も演奏主体と言えるかが、本件の争点であった。
 判決は、本件リース業者の商売の実情のうち売上金を店側と折半している点をとらえ、スナック経営者と同様に歌唱演奏の主体とし共同不法行為者とした。前記カラオケ法理の延長線上にある。
判例全文
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3月23日 「ぼくのスカート」事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 原告は、NHK大阪放送局が放送したラジオドラマ「ぼくのスカート」の脚本(原告脚本)を著作した脚本家である。被告Y1は、関西テレビが放送したテレビドラマ「4月4日に生まれて」(被告作品)の制作会社であり、被告Y2はその脚本家である。原告は、原告脚本と被告作品とは、ゲイバーに勤める女装の主人公が、以前の主人公を良く知る副主人公の年配の男性と出会うが、副主人公は主人公が本当は男性であることを知ることなく別れるという設定において類似しているなどと主張し、原告脚本の翻案権侵害に基づき、被告らに対し、損害賠償金1500万円の支払を求めた。
 裁判所は、両者の内容、相違点を認定し、基本的な内容において類似しているとは認められないとして、原告の請求を棄却した。
判例全文
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3月28日 Asahiロゴマーク事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 酒類等を販売する原告は、原告標章「Asahi」を昭和61年頃から使用して全国的に周知であり、また同標章を酒類、清涼飲料等を指定商品として商標登録し商標権を有しているところ、米穀等を販売する被告が平成3年に「アサックス株式会社」に商号変更し、被告標章「AsaX」を営業用施設や名刺、包装袋などに表示して使用したことに対して、原告標章と被告標章は類似するとして不正競争防止法違反又は商標権侵害と主張して使用差止めを求めた事件である。
 裁判所は、原告標章は「あさひ」の称呼を生じ、被告標章は「あさっくす」の称呼を生じ、前半の「あさ」の部分においては共通であるけれども、「あさひ」は三音節、「あさっくす」は五音節で、特に「っくす」の部分は促音を含み強い印象を与え、全体としては両者の称呼は類似しない。原告標章からは「朝日」、「旭」等の観念を生じるのに対して、被告標章は造語であって特段の観念を生じない。両者の外観は、最初の三文字の「Asa」までの部分は、各文字の形態、配置が極めて類似しているが、原告標章の「hi」の部分と被告標章の「X」の部分は、外観の印象が大きく異なるなどとして、称呼、観念及び外観のいずれにおいても類似しないから原告標章と被告標章は類似しないとして、いずれの請求も棄却した。
判例全文
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3月30日 永禄建設事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 広告の企画立案を業とする原告は、被告の会社案内としてパンフレット(原告パンフレット)を作成して被告に提出したが、被告は会社案内の作成を原告に対しては発注しないと通知しつつ、他方でパンフレット(被告パンフレット)を出版配布した。原告は、被告パンフレットは原告パンフレットを他業者に交付して作成されたものであると主張し、編集著作物である原告パンフレットの複製権侵害、不法行為を理由に損害金127万1000円の支払を求めた。
 裁判所は、原告パンフレットが編集著作物であることは認めたが、被告パンフレットが原告パンフレットとは全く異なる素材を用いていることなどを理由に複製ではないと判断し、不法行為に基づく請求も否定した。
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4月12日 大阪カラオケリース事件(刑)
   大阪地裁/判決・有罪
 本件は、飲食店を営む被告人が、JASRACの許諾を得ることなく、店内に備え付けたレーザーカラオケ装置を利用して客にカラオケを歌唱させた行為につき、店舗の経営者である被告人が演奏権を侵害する実行行為者に該当するかどうかが問題とされた事案である。
 判決は、店(経営者)は、カラオケ店の雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図しているのであって、著作権法が、音楽著作物などを利用し、公に演奏する経済活動から生じる経済的利益を著作権者に還元することを目的としているという趣旨をも併せ考えると、カラオケ伴奏による客の歌唱も著作権法上の規律の観点からは店の経営者による歌唱と同視し得るとした上、本件における店の経営者が、客及び店の従業員等にカラオケを歌唱させていることからすると、演奏権の侵害行為の実行行為者は、店の経営者であると考えるのが相当であるとして、経営者である被告人を有罪とした。
判例全文
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4月25日 城の定義事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、原告X1が執筆し原告出版社X2が発行した城についての総合的な解説書「日本の城の基礎知識」について、原告X1が30年以上の研究成果を総合して初めて城の定義をしたとして、本件定義とほぼ同一の定義を用いて書籍出版した被告に対し、本件定義等に関する著作権侵害を理由として、損害賠償を求めた事案である。
 判決は、本件定義は、城の学問的研究のための基礎としての城の概念の不可欠の特徴を簡潔に言語で記述したものであり、本件定義のような簡潔な学問的定義では、城の概念の不可欠の特性を表す文言は、思想に対応するものとして厳密に選択採用されており、原告の学問的思想と同じ思想に立つ限り同一又は類似の文言を採用して記述する外はなく、全く別の文言を採用すれば、別の学問的思想による定義になってしまうものと解されるとした上、本件定義には学問的思想に創作性はあっても、表現形式に創作性は認められないとして、本件定義の著作物性を否定した。
判例全文
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4月27日 商標“気功術”侵害事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 原告は、「氣功術」という商標権を有している。被告は、「気功術実践講座」と称する通信講座を行い、その講座において6冊のテキスト教材を販売していた。テキスト教材の表紙には、「気功術」、「実践講座」と縦書きで二行にわたって記載されており、とびらには「気功術実践講座」と表示されていた。
 原告は、「気功術」の表示の使用が商標権を侵害するとして損害賠償を求めた。
 裁判所は、「気功術」は中国古来の健康法、治療法、鍛練法である気功のしかた、方法を表す普通名称であり、被告商品であるテキスト教材の内容を端的に表すものとして付された書籍の題号であるとし、書籍の題号はテキスト教材の内容すなわち商標法26条1項二号所定の商品の品質を普通に用いられる方法で表示しているにすぎないとして、商標権侵害を否定した。
判例全文
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7月1日 「101匹ワンチャン」事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 本件は、原告がディズニー映画「(邦題)101匹ワンチャン」のビデオカセットを米国から輸入し日本国内で販売しようとしていたところ、著作権者であるザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーから日本国内の販売ライセンスを取得していた被告らが海外から並行輸入された映画のビデオカセットの販売は違法である旨の文書を販売店等に配布したため、同文書の配布は原告の販売活動の妨害であるとして被告らに対して損害賠償を求めた事案である。原告が販売しようとしていた本件ビデオカセットは米国内において著作権者の許諾のもとに適法に製造、販売されたものであるが、原告は日本内における販売許諾を受けておらず、原告のいわゆる並行輸入が著作権侵害行為であるか否かが主な争点となった。
 判決は、映画の複製物であるビデオカセットも頒布権の保護の対象であり、日本国内において著作権者から許諾を得ることなくビデオカセットを頒布する行為は頒布権侵害である、並行輸入であることによって適法になる理由はない、として、原告の行為を著作権侵害と認定し、原告の請求を認めなかった。
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7月25日 「出る順宅建」事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 宅建試験を含む国家試験の受験指導等を業とする原告が、同業である被告らに対し、被告らが出版販売する宅建試験用の書籍に掲載されている8つの表が、原告の出版販売する書籍に掲載されている表の複製権及び著作者人格権を侵害しているとして、謝罪広告の掲載、損害賠償を求めた事案である。
 裁判所は、6つの表について創作性を認め、そのうち4つの表については複製権侵害及び著作者人格権侵害を肯定し、損害賠償請求を一部認容した。
 謝罪広告の請求については、必要性を認めず棄却した。
判例全文
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7月29日 「女優貞奴」と「春の波涛」事件
   名古屋地裁/判決・請求棄却(控訴)
 原告は著述業にある者で「女優貞奴」(以下「原告作品」という。)の著作者である。
 被告日本放送協会は昭和60年度の大河ドラマとして女優川上貞奴に関する「春の波濤」を被告Y3の脚本に基づいて制作した(以下「本件ドラマ」という。)。被告株式会社日本放送出版協会は、本件ドラマの梗概の記載を中心とする「NHK大河ドラマ・ストーリー春の波濤」なる書籍(以下「本件書籍」という。)を制作し、昭和60年1月10日付けで出版したが、その52頁から112頁までには被告Y3の構成による「NHK大河ドラマ・ストーリー春の波濤」(以下「ドラマ・ストーリー」という。)が、208頁から214頁までには「エピソード人物事典」がそれぞれ掲載され、右エピソード人物事典中の210頁には「川上貞奴」なる項目があり、貞奴に関する記述がなされている(以下、右エピソード人物辞典中の貞奴に関する記述部分を「人物事典」という。)。
 本件は、被告らの本件ドラマの制作及び本件書籍の出版が、原告作品の著作権(法21条・27条・28条)及び著作者人格権(法19条)を侵害するとして、原告が損害賠償及び謝罪広告掲載を求める事案である。
 判決は、本件ドラマ、ドラマ・ストーリー、人物事典のいずれについても侵害を認めなかった。
判例全文
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8月12日 「湘南文学」事件
   横浜地裁横須賀支部/決定・申立却下
 学校法人である債務者は「湘南文學」と題する文芸誌の発行を発案し、債務者が設置した編集委員会で編集し、債務者の費用で発行した。出版社である債権者は、編集委員会に参加し、同誌の第1号から第5号を制作販売した。その後、債務者が編集委員会を解散し、独自に「湘南文學」第6号を発行したところ、「湘南文學」の商標登録を受けていた債権者が、債務者に対し、商標使用差止の仮処分を申し立てた。
 裁判所は、「湘南文學」が債権者名義で登録されたのは、同名の紀要を発行していた東海大学と債務者との紛争を避けるためであり、債権者が登録後も「湘南文學」発行を承認しているから、商標を使用して「湘南文學」を発行し続けることを前提に商標が取得されており実質的な権利者は債務者とみることもできるから債権者は債務者に対し商標権を主張できない、として債権者の申立を却下した。
判例全文
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10月17日 ポパイベルト事件
   東京地裁/判決・請求認容
 本件は、被告が「POPEYE」「ポパイ」の文字と漫画ポパイの主人公の絵を組み合わせた標章を商標登録し、ベルトやジョギングパンツに付して製造販売したことに対し、漫画ポパイの著作権者らである原告らが著作権(複製権)侵害や不正競争防止法違反に基づき差止め、損害賠償を求めた事案である。著作権の保護期間、複製権の時効取得、商標権の行使の抗弁などが争点となった。
 判決は、連載漫画の著作権保護期間は個々の漫画ごとに個別に定まるとして、1932年以前に公表されたものは日本の著作権法の保護期間が終了しているが、1933年以後に公表されたものは保護期間が終了していないとし、複製権の時効取得も可能であるが、1個のストーリーの漫画のうち一部の絵画の複製権の譲渡・移転は認められないとし、商標法29条から商標出願前の他人の著作物が優先するから被告の商標権に基づく抗弁は認められないとして、原告の請求を認めた。
判例全文
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10月27日 「ウォール・ストリート・ジャーナル」事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却(上告)
 控訴人は、英字新聞の抄訳文書を会員に有料で配布するサービスを提供する株式会社である。
 被控訴人は、日刊紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」を発行する米国法人である。
 控訴人は被控訴人の発行する新聞に依拠し、その記事を簡略化した文書を作成し、被控訴人新聞の記事とほぼ対応する順序で掲載して会員に提供した。
 判決は、控訴人作成の文書の各記述のほとんどが、対応する被控訴人新聞の記事等に具現された情報の核心的事項を把握し得る内容となっていること、被控訴人新聞において用いられている表題と同様の表題に基づき区分され、被控訴人新聞とほぼ同様の順序に配列されていることなどを認定し、控訴人作成の文書は被控訴人新聞の編集著作権を侵害するものであると判断した。
 そして、被控訴人は、将来の給付請求として、被控訴人新聞が発行されることを条件に控訴人文書の作成・頒布行為の予防を求めることができるとして、控訴人作成文書の発行の差止めを認めた原決定を支持した。
判例全文
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