判例全文 | ||
【事件名】「クレヨンしんちゃん」消しゴム事件(刑) 【年月日】平成6年3月10日 仙台地裁 平成5年(わ)第402号、同第405号 著作権法違反被告事件 判決 被告人(1) 本店の所在地 東京都墨田区 法人の名称 今野産業株式会社 代表者の住居 東京都墨田区 代表者の氏名 A・K 被告人(2) 本籍 東京都墨田区 住居 同 墨田区東向島 会社役員 A・K 被告人(3) 本店の所在地 東京都墨田区 法人の名称 株式会社 共同 代表者の住居 東京都墨田区 代表者の氏名 H・T 被告人(4) 住居 同 墨田区 会社役員 H・T 右の者らに対する著作権法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田口忠男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。 主文 被告人今野産業株式会社を罰金100万円に、被告人A・Kを懲役10箇月に、被告人株式会社共同を罰金50万円に、被告人H・Tを懲役6箇月にそれぞれ処する。 被告人A・K及び被告人H・Tに対し、この裁判確定の日から3年間それぞれ右の各刑を執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実) 第1 被告人今野産業株式会社(以下、「今野産業」という。)は、玩具の製造・販売などを営むもの、被告人A・Kは、「今野産業」の代表取締役としてその業務全般を統括するものであるが、被告人A・Kは、「今野産業」の業務に関し、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けていないのに、別紙(1)記載のとおり、平成5年3月5日ころから同年4月7日ころまでの間、前後45回にわたり、東京都墨田区の株式会社共同ほか1か所において、株式会社共同ほか2名に対し、臼井義人(筆名臼井儀人)と株式会社双葉社が著作権を共有する漫画「クレヨンしんちゃん」の主人公である「野原しんのすけ」の姿態を複製したシールが貼られたケース付きの消しゴムをカプセルに入れた子供向け商品合計46万9、800個を、これらが著作権を侵害する行為(法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けずに著作物を複製する行為)によって作成された物であることの情を知りながら、代金合計1、581万9、600円で販売して頒布し、もって右の臼井らの著作権を侵害した。 第2 被告人株式会社共同(以下、「共同」という。)は、玩具の販売などを営むもの、被告人H・Tは、「共同」の業務に関し、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けていないのに、別表(2)記載のとおり、平成5年3月5日ころから同年4月5日ころまでの間、前後28回にわたり、東京都墨田区の株式会社共同ほか1か所において、株式会社S・N商店ほか4社に対し、臼井義人(筆名臼井儀人)と株式会社双葉社が著作権を共有する漫画「クレヨンしんちゃん」の主人公である「野原しんのすけ」の姿態を複製したシールが貼られたケース付きの消しゴムをカプセルに入れた子供向け商品合計19万7、400個を、これらが著作権を侵害する行為(法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けずに著作物を複製する行為)によって作成された物であることの情を知りながら、代金合計730万3、800円で販売して頒布し、もって右の臼井らの著作権を侵害した。 (証拠の標目) 全部の事実につき 一 司法警察員作成の平成5年4月28日付け捜査報告書2通(臼井義人〔又は臼井儀人〕と株式会社双葉社との間の契約書の写し添付のもの)と領置報告書 一 臼井義人の申述書と前畑忠孝の司法警察員に対する供述調書 一 司法警察員作成の平成5年5月18日付け捜査関係事項照会書(謄本)と株式会社双葉社代表取締役S・K作成の「捜査関係事項回答について」と題する書面 一 司法警察員作成の捜査報告書(平成5年7月2日付けと同月8日付けで今野産業株式会社作成の納品書〔控〕の写し添付のもの) 一 司法警察員作成の写真撮影報告書(平成5年5月19日付け、同月20日付けと同月21日付けで有限会社オバタ印刷に関する分) 一 K・K、K・O(2通)、A・T(平成5年10月22日付け)の司法警察員に対する各供述調書 一 被告人A・Kの司法警察員に対する供述調書(平成5年10月14日付けと同月17日付け) 一 被告人H・Tの司法警察員に対する供述調書(平成5年10月13日付けと同月14日付け」 第1の事実につき 一 司法警察員作成の平成5年7月5日付け捜査報告書(今野産業株式会社の売上帳の写し添付のもの) 一 司法警察員作成の平成5年7月9日付け捜査報告書2通 一 T・K(10枚綴りのもの)、Y・S(平成5年7月1日付けで謄本)、M・M(平成5年7月7日付けで謄本)の司法警察員に対する各供述調書 一 被告人A・Kの当公判廷における供述 一 登記官疋田雄二作成の履歴事項全部証明書(被告人今野産業株式会社についてのもの) 第2の事実につき 一 司法警察員作成の捜査報告書(平成5年5月24日付けと同年7月5日付けで株式会社共同の売掛台帳の写し添付のもの) 一 Sa・N(謄本)、F・O(謄本)、H・K(平成5年7月1日付けで28枚綴りのもの)、T・S(謄本)、Hi・T(謄本)の司法警察員に対する各供述調書 一 被告人H・Tの司法警察員に対する供述調書(平成5年10月12日付けで65枚綴りのもの、同月17日付けで40枚綴りのもの) 一 被告人H・Tの当公判廷における供述 一 登記官疋田雄二作成の履歴事項全部証明書(被告人株式会社共同についてのもの) (法令の適用) 被告人A・Kと被告人今野産業株式会社の判示第1の各行為は包括して著作権法113条1項2号、119条1号、124条1項に該当するので、被告人A・Kについては所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で懲役10箇月に処し、被告人今野産業株式会社については所定罰金額の範囲内で罰金100万円に処する。 被告人H・Tと被告人株式会社共同の判示第2の各行為は包括して著作権法113条1項2号、119条1号、124条1項に該当するので、被告人H・Tについては所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で懲役6箇月に処し、被告人株式会社共同については所定罰金額の範囲内で罰金50万円に処する。 被告人A・Kと被告人H・Tに対し、それぞれ情状により刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間の右の各刑の執行を猶予する。 (量刑の事情) 被告人A・Kと同H・Tは、代表取締役としてそれぞれ、被告人今野産業株式会社と同株式会社共同の経営を主宰し、これら会社の業務として、自動販売機に100円程度の代金を投入して購入することができるカプセル入りの商品(中身は玩具など子供向けの物で、「カプセル玩具」とか、「ガチャ」と呼ばれている。)の販売、流通に携わる中で本件各犯行に至ったのであるが、被告人らの犯行は著作権侵害(被告人らの言葉では版権侵害)の問題を十分に認識したうえでの職業上の犯行であり、商品1個の単価はそれほど高くないものの、その頒布個数はかなりの数にのぼる。したがって、知的財産権としての著作権の内容、重要性が広く認識されてきている昨今の社会情勢も考慮に入れた場合、被告人らの行為は悪質で、その責任を軽視することはできない(なお、被告人A・Kは、著作権を侵害する本件商品の企画、流通についての中心的人物であるから、同H・Tよりも重い責任を負うべき立場にある)。 しかしながら、被告人A・Kと同H・Kは本件刑事手続きの進展に従い反省の態度を深め二度とこのようなことを繰り返さないと誓っていること、民事責任についても解決に向け誠実に対処する姿勢でいること、本件はすでに新聞報道されていて被告人らは相当の社会的制裁を受けていること、道路交通法違反などのほか両名には格別の前科前歴がないことなど、被告人らには情状面で有利な諸事情もある。 そこで、その他諸般の事情も総合して考慮し、被告人らにはそれぞれ主文の刑を科すこととするが、被告人A・Kと同H・Tについては、その各刑の執行を猶予するのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑 被告人今野産業株式会社・罰金100万円、同A・K・懲役10月、同株式会社共同・罰金50万円、同H・T・懲役6月) 平成6年3月10日 仙台地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官 小野貞夫 裁判官 合田智子 裁判官 佐藤和彦 |
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