裁判の記録 line
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1992年
(平成4年)
 
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1月16日 チューリップ事件(3)
   最高裁(一小)/判決・上告棄却(確定)
 本件は、音楽協会会長にあった原告(及び原告死亡後の訴訟承継人(控訴人・上告人))が、被告に対し、「チューリップ」の楽曲・作詞双方著作権が原告に帰属することの確認を求めた事案である。
 東京地裁は、(1) 原告が大正11年にチューリップの楽曲を創作したことを証明する証拠として提出した楽譜に、大正時代には使用されることが極めて稀であった「50周年」(当時は「50年」と表記するのが通常)という語句が用いられていること、(2) 五線下の歌詞の記載方法として、戦後相当期間が経過した時点では通常の方式だが、大正11年当時のものとすれば異例の方式が採用されていたこと、(3) 楽譜の中に当時では異例ともいうべき略字が見られること、(4) 長期間多数の出版物にチューリップは被告の作曲であることが公にされていたことなどから、チューリップの楽曲が原告の創作であるとはいえないとした。また、作詞についても同様に、証拠及び証人尋問の結果を踏まえ、原告の創作であるとはいえないと判断した。
 控訴審も原判決を支持したので、控訴人は上告したが、証拠関係及び証拠に照らし原審の判断を正当として是認することができるとして上告を棄却した。
判例全文
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1月21日 「智惠子抄」事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却(上告)
 原審原告(被控訴人)は、高村光太郎の著作権を相続により取得した者である。
 原審被告(控訴人)は、高村光太郎の詩集「智惠子抄」の企画を行った編集者(控訴審中に死亡し相続人が承継)である。
 当事者間において「智惠子抄」の編集著作権が高村光太郎、原審被告のいずれに帰属するかが争われた。
 判決は、「著作者が企画案ないし構想を提供する第三者の進言により、はじめて著作を決意し、その協力により著作物を完成するという経過をたどることは、決して稀ではなく、その場合進言をした第三者が当然に著作権者となるものではない。著作物をもととして完成される編集著作物について、第三者が進言した場合でも同様である。編集物で著作物として保護されるのは、「その素材の選択又は配列によって創作性を有する」ことが必要であるから(著作権法12条1項)、控訴人が「智惠子抄」の編集著作権者であるというためには、その素材となった智恵子に関する高村光太郎の作品を自ら選択し配列したと認められることが必要である。すなわち、控訴人の編集著作というためには、「荒涼たる歸宅」のように後日制作された作品を除き、可能な限り、智恵子に関する作品全てを認識し把握したうえで、これら作品について必要な取捨選択を経て配列を完成するという作業が控訴人自身によりなされることが何よりも先ず必要であって、それによってはじめて控訴人らが主張する高村光太郎と智恵子の愛を浮き彫りにした創作性ある編集著作がなされたと認め得る余地があるのであり、かかる作業がなされないまま、高村光太郎の作品の一部を集めても、それは高村光太郎と智恵子の愛を浮き彫りにするという編集著作という観点からは、企画案ないし構想の域にとどまるにすぎないものというべきである。」と述べ、光太郎に収録を指示されて初めて控訴人が存在を知った作品があること、控訴人がそもそも取捨選択の対象としていない作品があること、制作年代順の配列という編集方針が光太郎によって決定されたこと、制作年代順の配列になっていない例外の作品は光太郎の指示で追加収録され配列されたものであること、不明であった制作年代の確定は光太郎によって行われたこと等の事実から、「智惠子抄」の編集著作権は高村光太郎に帰属すると判断した。
判例全文
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1月24日 装飾窓格子事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件は、一級建築士である原告が、装飾窓格子、フェンス、門扉、手すり等の建築物の外装用資材を製造販売している被告に対して、被告製品は原告の製作した図面に従って製作されたものであり、原告図面の著作権(複製権)を侵害するとして、被告製品の製造等の差止めを求めた事案である。判決は、原告図面は、建築物の外装用資材として使用される被告製品の設計図等として大量生産に適するような考慮も払われて製作されたものであり、また現にこれに基づいて被告製品が大量に製造・販売されているのであって、産業用に利用されるものとして製作され、現にそのように利用されているものであるから、文芸、学術、美術又は音楽の範囲(著作権法2条1項一号)に属しないものであり、著作権法にいう著作物に該当しないとして、原告の請求を棄却した。
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2月25日 ベトナム報道批判評論事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本多勝一氏が自著にベトナム愛国仏教会副会長の談話を含む記述をしたところ、これを批評した記事が月刊誌「諸君!」に掲載された。本多氏は、「諸君!」の記事は、「談話」を本多氏自身の認識や判断であるかのように要約して一部引用しており著作者人格権(同一性保持権)侵害にあたり、また、その内容は本多氏の名誉を棄損する等として、出版社や執筆者らに対して同誌への反論文等の掲載と損害の賠償を求めた。裁判所は、被告による引用には正確性を欠く部分もあるが原文の要点をはずしたものではなく、引用や要約の正確性は言論の自由な広場で読者の判断に委ねられるものであり、本件の引用は社会的に許容された範囲を逸脱したものとは言えないとして同一性保持権侵害を否定した。また、名誉棄損の成立も否定して本多氏による請求を退けた。
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3月18日 ポパイ漫画パチンコ立看板事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、パチンコ店を経営する被告がその店頭看板に漫画ポパイの図柄を使用したことに対し、漫画ポパイの著作権者である原告が、著作権(複製権)侵害に基づき差止め及び通常使用料相当額の損害賠償を求めた事案である。原告は、損害額として、ポパイのキャラクター商品化事業における通常使用料は対象商品の売上高の5%ないし7%としているから本件においても被告パチンコ店の売上高の5%ないし7%が相当であると主張した。判決は、およそキャラクターの使用の有無と売上高の増減とが結びつかない場合には、対象商品の販売価格に一定率を乗じた使用料とすることは相当でなく、侵害の態様、使用期間等の諸事情を考慮して、客観的に相当な通常使用料相当額を算定することができると述べ、本件では被告パチンコ店の売上と看板にポパイを使用したこととの結びつきは明らかでないとして、諸事情から通常使用料相当額を200万円と認定した。差止めについては、被告が訴状送達後に看板からポパイの図柄を削除したことをもって、今後使用するおそれもないとして認めなかった。
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3月30日 三沢市勢映画事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件は、青森県三沢市の市勢映画の監督である原告が、映画製作会社である被告に対し、同映画のために撮影した未編集フィルムや編集残フィルムの著作権が原告に帰属することの確認を求めた事案である。
 東京地裁は、被告が三沢市と映画製作委託契約を締結し、三沢市に対して映画製作を完成させる責務を負っていたこと、契約代金が被告に支払われ、被告が映画製作費を全て負担したことから「映画製作者」(著作権法2条1項十号)は被告であるとした。
 そして、著作権法29条1項は、映画の著作物の著作者が映画製作に参加約束したときは映画の著作物の全ての著作権を当然に映画製作者に移転させる趣旨であるから、映画の製作のために撮影されたフィルムの著作物は、映画製作のいかなる段階であるか、映画のいかなる部分であるかを問わず映画製作者に帰属する、とした上で、本件の場合、映画の著作物の著作者である原告が本件映画製作に参加約束していることは明らかであるから、未編集フィルムおよび編集残フィルムの著作権は被告に帰属するとして、原告の請求を棄却した。
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3月31日 「IBFファイル」事件(2)
   東京高裁/決定・抗告棄却(確定)
 本件は、コンピューター関連のソフトウエア等の開発会社である債権者らが、自らが開発した電子ファイル(本件ファイル)が著作権法第10条第1項第九号のプログラムの著作物であることを理由に、債務者らが製造販売した電子ファイルが債権者らの著作権を侵害していると主張し、債務者らに対し、製造販売等の差し止めを求めた仮処分抗告事件である。原裁判所(東京地方裁判所)は、本件ファイルの表現に創作性がないことを理由として債権者らの申し立てを却下したため、債権者らが抗告した。抗告裁判所(東京高等裁判所)は、著作権法第2条第1項第十号の二で定義される「プログラム」とは、電子計算機に対する指令の組合せであり、それにより電子計算機を作動させ一定の処理をさせるものでなければならず、そのようなプログラムで創作性を有するものが、同法第10条第1項第九号の「プログラム」として同法の保護を受けるのであり、電子ファイルとして記録媒体に電磁的に記録され、電子計算機がそれを読み取ることができるようなものであっても、右の機能を有しないものはプログラムとはならない、と判断した。そして、本件ファイルの記述内容は、単なるデータにすぎず、電子計算機を機能させるものではないから、本件ファイルは著作権法上のプログラムとは認定できないとした。
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4月30日 丸棒矯正機設計図事件
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(確定)
 本件は、原告会社が作成した丸棒矯正機の設計図に類似した被告設計図の作成及び被告設計図に基づく被告矯正機の製作が原告の複製権を侵害するものであるとして、原告が被告に対し、設計図の複製差止め、被告矯正機の製作差止め、被告設計図の廃棄、金3000万円の損害賠償を求める事案である。
 判決は、原告設計図の著作物性及び被告設計図の複製権侵害を認めた。しかしながら、被告設計図に基づく被告矯正機の製作について著作権法2条1項十五号ロを類推適用して複製権侵害を認めるべきという原告主張については、「原告矯正機の如き実用の機械は、建築の著作物とは異なり、それ自体は著作物としての保護を受けるものではない」ことを理由に認めなかった。
 また、著作権侵害ないし不法行為の損害賠償として100万円を認めた。
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5月14日 ポパイネクタイ事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却、附帯控訴一部認容、一部棄却(上告)
 本件は、漫画ポパイの著作権者等である原告らが、ポパイの図柄を腕カバー、マフラー、ネクタイに付して製造販売する被告らに対し、著作権(複製権)侵害及び不正競争防止法違反に基づき差止め及び損害賠償を求めた事案である。争点は、ポパイのキャラクターの著作物性、連載漫画の著作権保護期間の始期、被告の商標権と原告の著作権の優劣と不正競争防止法の適用関係など多岐に及ぶ。一審は原告らの請求を一部認容し、被告らが控訴、原告らも附帯控訴した。本判決は一審判決を概ね踏襲し、ポパイのキャラクターは、個々の具体的な漫画を超えたいわばポパイ像とでもいうべき一定の「思想又は感情」それ自体であって、外面的な表現形式をとっているものではないから、著作物とは言えないとし、具体的な漫画の図柄の複製と認められるものについてのみ複製権侵害を認めた。ただし、一審判決よりも複製の範囲を広く認めた。また、連載漫画の保護期間の起算日は各漫画の発表の時から起算すべきとした(なお、この点は後に本件の最高裁判決により異論が示された)。控訴人(被告)が有するポパイの図柄の商標権については、商標登録出願前の他人の著作物と抵触するもの(商標法29条)であり商標権を行使できないから、不正競争法(当時)上許される商標権の行使に当たらず、控訴人らの行為は不正競争行為に該当するとした。
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7月22日 長崎・町勢要覧事件
   長崎地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、長崎県下の7町村から観光用パンフレット等の製作を受注した訴外会社が、当該パンフレット等に掲載するために訴外会社の代表取締役である原告が撮影した写真のうち16枚を、被告長崎県が企画して被告長崎振興協会発行による書籍に掲載して8000冊を発行したため、原告が複製権侵害、氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害であることを理由に損害賠償を求めた事案である。裁判所は、複製権侵害を認めた上、複製権侵害における損害賠償額については、無断使用者に対する使用料は5倍とする原告の主張を退け、「通常うけるべき金銭の額」とは通常徴する著作権使用料を指称するものであるとして、原告の写真使用基準料金表に基づきカラー写真1枚につき4万円を徴してきたことを理由に64万円の賠償を認めた。また、同一性保持権侵害として30万円、弁護士費用として10万円の賠償を認めた。
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7月24日 「医療講演会」事件
   東京地裁/判決・請求棄却(確定)
 米国人による講演の通訳者が、通訳内容の雑誌掲載による複製権侵害を訴えた事件。裁判所は、同講演会は米国医療業界へのビジネス進出を勧める内容の書籍の販促目的で行われたものであり、原告は被告を含む医療関係の報道機関に対して予め講演会を記事として取り上げてほしい旨記載した文書を送付し、講演内容を記載したイラスト付き文書(スライドコピー)を講演会で配布し、さらに講演自体も書籍の触りのみを紹介したものであること等から、原告は本件講演と通訳内容を記事として掲載することを予め許諾しているとして、原告の請求を棄却した。
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7月28日 商標“別冊フレンド”審決取消事件(2)
   東京高裁/判決・請求認容
 原告は、「別冊フレンド」の文字を横書きしてなる商標(本件商標)につき「雑誌」(第26類)を指定商品として商標登録出願したところ、特許庁(被告)から、「フレンド英和辞典」の文字を横書きしてなり「辞典」(旧第66類)を指定商品として既に登録されている商標(引用商標)を理由に拒絶査定を受けた。これに対する不服審判においても、特許庁は、両商標はともに「フレンド」の称呼を生じ類似するとして不服を認めない審決をしたため、同審決の取り消しを東京高等裁判所に求めた。判決は、商標の類否はその商品の取引の実情に基づいて判断すべきところ、原告発行の本件雑誌は、昭和41年から「別冊少女フレンド」として創刊し、その後「別冊フレンド」と改題され、主に女子高校生を読者層として、全国の書店のほかコンビニエンスストア等で販売されており、平均発売部数は毎号40万部に達しており、その結果、書店等や読者の間で雑誌の題号として周知のものとなっているから、専ら本件商標のとおり「別冊フレンド」の一連の称呼で取引されることが通常であると認定し、よって、引用商標とは称呼が共通することはなく商品の出所に誤認混同をきたすおそれはないとして、原告の主張を認め、特許庁の審決を取り消した。
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7月31日 商標“HAPPY WEDDING”侵害事件
   名古屋地裁/判決・請求棄却(控訴)
 結婚式の引き出物を持ち帰るための紙袋の正面左上部分に貼付されたシールの一部分に記載された「HAPPY WEDDING」の文字が、登録された原告の文字商標HAPPY WEDDINGの商標権を侵害するとして争われた事件。裁判所は、「HAPPY WEDDING」と並んで「HAPPY LIFE」と記載された言葉の意味内容やシールの形状(円形の花弁の中に上記の各言葉が円弧を描いて記載されており、中心には男女の顔、脇にはハートが描かれている等)から見て右表示は新郎新婦に対するお祝いの言葉であるとし、また、袋の底部に被告の商号が表示されその出所を明示しており、被告標章は自他商品の識別機能を有する態様で使用されているものでなく商標権侵害に当たらないとして、請求を棄却した。
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8月27日 「静かな焔」事件
   大阪地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 原告らは、肝硬変に罹患した為に肝臓移植手術を受けた男性の両親であり、男性の相続人である。
 被告1は当該男性の婚約者であり、同居して看病していた。被告2は当該男性に闘病記の出版を働きかけ、後に出版した出版社である。
 男性と被告1は、闘病記を共同して制作した。争点は、闘病記の著作者は男性か被告1かである。
 判決は、闘病記をABCの3部分に分け、AB部分は両人が共同して創作した著作物であって各人の寄与を分離して個別的に利用することができない共同著作物と認定した。他方、C部分は被告1の単独著作物と認定した。
 従って判決は、原告らがAB部分の著作権の共有持分2分の1を有することを確認し、被告2に闘病記の出版差止めを命じた。
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9月24日 「サンジェルマン殺人狂騒曲」事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却(上告)
 仏文学の翻訳文についての複製権等侵害が争われた事件。地裁は二つの翻訳文の一部の一致は偶然の一致と認定して原告の請求を棄却したが、高裁は、被控訴人は控訴人翻訳原稿を一部無断使用したと認定した。しかし、高裁は、二つの訳書全体を対比すると、無断使用部分は、両訳文間の基本的構造、語調、語感における大きな相違に埋没してしまう結果、本件訳書が控訴人翻訳原稿を全体として、内容および形体において覚知せしめるものとまではいえない、として著作権侵害を否定し控訴を棄却した。
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9月30日 装飾窓格子事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却
 一級建築士である控訴人(原告)は、装飾窓格子、フェンス、門扉、手すり等の建築物の外装用資材を製造販売している被控訴人(被告)に対して、被告製品は原告の製作した図面に従って製作されたものであり、原告図面の複製権を侵害するとして、被告製品の製造等の差止めを求めた。一審で請求棄却され、原告が控訴した。控訴審判決は、産業上利用されることを目的とする応用美術についても、絵画、彫刻等の純粋美術の創作物に匹敵する美的創作物、すなわち本来の実用的目的から制約を受けつつも専ら美の表現を追求したものという純粋美術の本質的特徴を合わせ有すると客観的に評価できるものは、美術工芸品(著作権法2条2項)と並んで美術の著作物として保護されるが、原告図面はその本来の目的である建築用資材として使用される製品の形状を示すという目的に専ら奉仕するものであるから、仮に応用美術であるとしても著作権法にいう著作物に該当しないとして、控訴人の控訴を棄却した。
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10月30日 タクシー・タリフ事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 原告は、「第6号 観光ハイヤー」(以下、「本件書籍」という)という、各観光地における観光タクシーの手配、予約、利用等を案内するタクシー業者向け書籍を発行するとともに、各観光地のタクシー業者と契約して集客等のサービスを提供している者である。
 被告は、ハイヤー運送業を経営している者であり、本件出版物を原告から購入し、また原告との間に集客業務等を委託していた者である。被告は、ある時この契約を破棄するとともに、類似書籍を発行した。
 論点は、本件書籍の著作物性の有無と損害額である。このほかに、業務委託契約の存在が原告の書籍に関する被告の地位に何らかの影響を及ぼすかという点も争われてはいるが、法的に整理構成された論点ではなく、実質的な論点は著作物性である。
 裁判所は、本件書籍が、各地の観光コースを選択し、時間、料金等を調査して掲載し、お迎え場所等の案内図を入れるなどしており、それらには著作物性があると認定した。そして被告書籍には省略等によって相違を生じたと思われる点はあるが、本件書籍の特徴をなす事項ないし図の取捨選択に関しては相当数が同一であり、異なる部分はむしろ同一性保持権侵害であり、氏名表示権も侵害しているとした。
 また、被告が原告の本件書籍を被告事務員に書き写させた事実を認めているから、本件書籍への依拠した事実も認められるとして、著作権侵害を認め、損害賠償請求、差し止め請求、廃棄請求を認めたが、謝罪広告は認めなかった。
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11月25日 暖簾「山の民家」事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 民家の素描画(本件著作物)を描いた画家の子である原告は、被告らが製造販売した布製暖簾の下絵(被告絵画)は本件著作物の複製であり、相続した原告の複製権を侵害し、また原告に固有の精神的苦痛を与えたものであるとして、損害賠償等を求めた。判決は、本件著作物と被告絵画とは、線の太さや画風、背景等の重要でない部分において若干の相違があるが、同一の対象物を同じ角度から同じ構図で写実的に描いたもので、表現の中心である建物や近傍の樹木、畑の状況は、窓の開閉状況や道具類の位置等写生の時期が違えば変化しているはずの細部に至るまで一致していること、本件著作物は絵葉書セットやスケッチ画集等に複製されて相当多数販売されていること、被告絵画は現地調査を行わず資料を参考に約2週間で製作したものと認められることなどから、本件著作物を複製して一部改変したものと推認されるとして複製権侵害を認めた。また、原告が生前の父(画家)の写生旅行のほとんどに同行し、その作品の創作・頒布に深くかかわって父の作品にひとしおの愛着を有していたと認定し、原告固有の精神的損害に対する慰謝料請求を認めた。
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12月16日 中国塩政史研究論文事件
   東京地裁/判決・本訴請求棄却・反訴請求一部認容、一部棄却
 本件は、塩政史を研究していた学者が、同一テーマを研究し論文を発表した学者Y1とその指導教授Y2に対し、原告の研究発表の先行権(プライオリティー)を否定し原告の研究者としての学問的名誉権を傷つけ、かつ原告の論文を盗作したとして、名誉棄損及び著作権侵害を理由に損害賠償を求めた事案である。なお、被告らは、訴訟提起前に原告が行った被告らへの誹謗中傷に関して、反訴を提起し損害賠償等を請求した。裁判所は、原告の請求を棄却したが、その理由の中で著作権侵害に関しては、学説それ自体の保護は、著作権法の保護の範疇に属するものではないとし、原告著述部分と被告著述部分が類似した部分がないわけではないが、論述の趣旨又は目的、その対象、論述の内容、論述の基礎となった史料の異同、論述の構成等表現内容及び表現形式において全く相違し、両者の表現内容及び表現形式が同一又は類似するとは到底認められないと判断した。
判例全文
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