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【事件名】ポパイ漫画パチンコ立看板事件
【年月日】平成4年3月18日
 東京地裁 平成2年(ワ)第14615号 著作権侵害排除等請求事件

判決
原告 キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッド
右代表者 X
右訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 神谷巌
同保佐人弁理士 菊地栄
被告 株式会社山和
右代表者代表取締役 Y
右訴訟代理人弁護士 浜四津尚文
同 浜四津敏子
同 大塚章男


主文
1 被告は、原告に対し、金200万円及びこれに対する平成2年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実および理由
第1 原告の請求
一 被告は、別紙目録記載のポパイの図柄を用いてはならない。
二 被告は、原告に対し、金2000万円及びこれに対する平成2年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、パチンコ店を経営する被告が、その店頭看板に別紙目録記載のポパイの図柄(本件図柄)を使用したため、ポパイ漫画の著作権を有する原告が、被告に対し、被告の右行為が著作権の侵害に当たるとして、本件図柄の使用の差止めを求めるとともに、被告の右行為により著作権法114条2項所定の通常使用料相当額の損害を被ったとして、その損害の賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 被告は、パチンコホール等を業とする会社であり、東京都渋谷区(以下略)所在のパチンコ店舗「ポパイ」(本件店舗)を経営し、平成2年2月26日から同年12月22日までの間、同店舗の店頭看板に本件図柄を使用したが、本件訴状が送達されて間もなく右店頭看板から本件図柄を抹消し、同月23日以後は、本件図柄を右看板に使用していない。
2 本件図柄はポパイ漫画を複製したものである(この点は、被告において明らかに争っていない。)。
三 争点
1 原告は、ポパイ漫画の著作権を有しているか。
2 本件における通常使用料相当額の損害額をどのように算定すればよいか。
 この点に関し、原告は、原告は訴外者を通じてポパイのキャラクターについて商品化事業を展開しているが、その場合の通常使用料は売上高の5ないし7パーセントであるから、本件においても、原告の被った通常使用料相当額の損害額は被告の売上高の5ないし7パーセントである旨主張し、これに対し、被告は、本件図柄の入った店頭看板の使用と被告の売上高及び収益との間には何らの因果関係がないことが明らかであるから、原告主張のような売上高の一定割合という形での通常使用料は考えられず、パチンコ業界での客観的に相当な使用料が考えられるべきである旨主張している。
第3 争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(甲1、2の1・2、3、4の1・2、5)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一)Aは、アメリカ合衆国法人キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッド(旧キング フィーチャーズ)の従業員であった。Aは、旧キング フィーチャーズの職務上、ポパイ等の登場人物を有する別紙漫画を創作し、1929年(昭和4年)1月17日、作品の正式名称を「シンプル シタター」として、これを新聞「ニューヨーク イブニング ジャーナル」紙において公表した(別紙漫画)。以後、ポパイが主人公として登場する漫画(ポパイ漫画)は読者の好評を博し、新聞又は単行本に逐次連載ないしは掲載された。
(二)旧キング・フィーチャーズは、1943年(昭和18年)12月31日、ザ ハースト コーポレーション(ハースト)に吸収合併され、別紙漫画を含むポパイ漫画の著作権もハーストに承継された。原告は、1943年(昭和18年)12月31日、設立され、ハーストは、原告に別紙漫画を含むポパイ漫画の著作権を譲渡した。
(三)Aは、1938年(昭和13年)に死亡したが、旧キング フィーチャーズは、その後も、その従業員をしてポパイ漫画を創作させた。原告もまた、現在におけるまで、従業員であるB等をしてポパイ漫画の創作を継続させ、新聞又は単行本に逐次連載ないしは掲載した。
(四)なお、旧キング フィーチャーズは、1938年(昭和13年)2月25日、別紙漫画の法人著作権者として著作権登録をし、原告は、1956年(昭和31年)2月10日、別紙漫画の法人著作権者として著作権更新登録をした。
2 右認定事実によれば、原告はアメリカ合衆国においてポパイ漫画について著作権を有しているところ、ポパイ漫画は、万国著作権条約により我が国においても著作物として保護されるものであるから、原告は、ポパイ漫画についてわが国において著作権を有しているものと認められる。
 なお、この点に関し、被告は、原告の別紙漫画の著作権は保護期間が満了していると主張するが、右に認定したとおり、ポパイ漫画が1929年(昭和4年)1月17日から現在に至るまで連続して著作され、新聞等に継続的に連載されているのであるから、別紙漫画も含め、その保護期間は、新聞等に掲載された各漫画ごとに、個別に起算されるべきものであるところ、被告の右主張は、1929年(昭和4年)1月17日に新聞に掲載された別紙漫画のみを基準にして保護期間を計算するものであって、採用することができない。
二 争点2について
1 証拠(甲8)によれば、原告の関連会社が、昭和62年5月24日、日本の会社に対し、「ポパイのキャラクター」をクレヨンの外箱に使用することを許諾したが、その使用料として、1箱当たりの卸売価格の6パーセントの割合による金員の支払いを受けるものとしたことが認められる。
2 証拠(甲6、8、乙の2、3の1ないし26、4の1ないし48、5の1ないし40、6、11、12の1ないし7、14の1ないし10の各1・2、同15)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一)本件図柄が付された看板は、本件店舗の店頭(歩道上)に置かれる立看板であって、土台部分と看板部分とからなり、右看板部分は、装飾用の電球が周囲に多数配列された看板表示面を3面有するものであり、右3面の看板部分の1表示面に、店名を表す「ポパイ」の文字が記載され、その上部に、幅約25センチメートル、縦約35センチメートルの大きさで、本件図柄が描かれていた。
(二)被告の本件店舗における平成元年1月から平成3年5月までの間の売上高は、別紙売上高一覧表のとおりである。
 被告は、本件店舗において、平成元年10月26日、平成2年2月21日、同年5月17日、同年9月11日、同年11月26日、平成3年3月12日の6回にわたり、同店舗内のパチンコ台の入替えをし、いわゆる新装開店として営業を行っているが、別紙売上高一覧表のとおり、右新台の入替えに伴い、その翌月は、概ね売上高がその前月に比して増加し、その後は売上高が漸減していくという傾向を示している。
 本件図柄の使用が開始された後の平成2年3月の売上高はその前月より増加し、また本件図柄の使用を中止した後の平成3年1月の売上高はその前月より減少しているが、本件図柄の使用開始とともに新台入替えがあり、右平成3年1月は新台入替えから既に2か月が経過しているものであって、本件図柄の使用の有無と売上高の増減との結びつきは明らかでない。
(三)ポパイ漫画の主人公であるポパイのキャラクターは、年少者を対象とすることが比較的多いところ、パチンコ店の顧客は、一般に、年令的には18歳以上であり、パチンコの遊戯としての性格上、店頭看板の図柄よりも、パチンコ玉の出具合、パチンコ台の斬新さ、景品交換率のよし悪し等のサービスの内容をより重視して店を選ぶ傾向があり、パチンコ店の経営者も、顧客数の増減もしくは売上高の増減の要因として、当該店舗の立地条件、パチンコ玉の出具合の調節、パチンコ台の斬新さ、景品の交換比率などが重要であると考えており、店頭看板の図柄等はさほど重視していない。
3 ところで、原告の関連会社が本件ポパイ漫画のキャラクターである「ポパイ」の使用料を、対象商品の販売価格に一定率を乗じたものとする許諾契約を締結したことがあることは前記1のとおりであるが、このような使用料を定めた許諾契約が締結されるのは、一般に商品にキャラクターを使用することが商品の販売に資し、キャラクターの使用の有無と売上高の増減とが結びついていると考えられるからであって、キャラクターの無断使用という態様の著作権侵害事件において、キャラクターの使用の有無と売上高の増減とがおよそ結びつかない場合にも、売上高に一定率を乗じて得られる金額を通常使用料相当額と考えることは相当でないといわなければならない。右のような場合には、売上高に一定率を乗ずるという算定方法によらず、侵害の態様、使用期間等の諸事情を考慮して、当該場合に具体的に客観的に相当な通常使用料相当額を算定することができるものというべきである。
 そこで、本件においてこれを検討するのに、右に認定した事実によれば、本件のような場合には一般的にキャラクターの使用の有無と売上高の増減とが結びつかないものといわざるを得ないから、原告主張のように、本件店舗の売上高に一定率を乗じて得られる金額を通常使用料相当額と考えることは相当でなく、右認定の事実、物に本件図柄の内容、使用態様、使用期間、本件店舗の規模、業種等の諸事情を考慮すると、本件の場合には、通常使用料相当額は、金200万円と認めるのが相当である。
第4 結論
 以上によれば、原告の本訴請求のうち、差止請求は、前記第1、二、1の事実によれば、被告において現在本件図柄を使用していないし、今後使用するおそれもないから理由がなく、損害賠償請求は、右のとおり金200万円の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がない。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 一宮和夫
 裁判官 足立謙三
 裁判官 長谷川浩二
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