裁判の記録 line
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1989年
(平成元年)
 
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2月10日 チューリップ事件
   千葉地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件は、原告らが童謡「チューリップ」は原告らの亡父が作詞作曲したものであるとして、被告らに対し著作権の確認を求めた事案である。
 裁判所は、(1)原告が大正11年に「チューリップ」の楽曲を創作したことを証明する証拠として提出した楽譜には、大正時代には使用されることが極めて稀であった「50周年」(当時は「50年」と表記するのが通常)という語句が用いられていること、(2)五線下の歌詞の記載方法として、戦後相当期間が経過した時点では通常の方式だが、大正11年当時のものとすれば異例の方式が採用されていたこと、(3)楽譜の中に当時では異例ともいうべき略字がみられること、(4)長期間多数の出版物に「チューリップ」は被告の作曲であることが公にされていたことなどから、「チューリップ」の楽曲が原告の創作であるとはいえないとし、作詞についても同様に証拠及び証人尋問の結果を踏まえ、原告の創作であるとはいえないと判断した。
判例全文
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3月8日 写植文字盤用書体事件
   大阪地裁/判決・請求棄却
 原告は、台湾等東南アジア向け写真植字用文字盤に搭載する書体を製作した写植印字機メーカーである。文字の元になったのは明朝体等の在来の書体であるが、これに縦横の先の割合(線率)、偏と旁のバランス、骨格の構成等において、主として東南アジア圏で使用することを想定して工夫を凝らしている。同書体を用いた文字盤は、原告の販売する写真植字機の文字補充用として販売される。被告は、外注先を通じて、書体の製作を依頼し、被告書体を製作した。
 原告は、被告の文字書体と原告の文字書体とをつぶさに比較し、その特徴を挙げるとともに、被告の外注先の企業規模及び製作期間等からして被告書体が原告書体の模倣に過ぎないことは明らかであるとし、これを著作権侵害として提訴した。
 判決は、書体の同一性につきまず判断し、酷似している文字が多いことは認めつつも、それを模倣といわないまでも参考にしたという疑いはあるとした。同時に明らかに異なる書体もあることをも認定した。
 そのうえで、ひるがえって書体の著作物性を論じ、これを否定した。しかしそこには、文字書体の著作物性を認めうる余地をも残したものである。すなわち「本件書体のような文字の書体であって、なお、著作権法の保護の対象になるものがあるとすれば、それは当該文字が持っている本来の情報伝達機能を失わせるほどのものであることは必要ないが、当該文字が本来の情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさだけでなく、それとは別に、書体それ自体が、これを見る平均的一般人の美的感覚を呼び起こし、その審美眼を満足させる程度の美的創作性を持ったものでなければならないと解するのが相当」とした。
 そのうえで、本件書体が以前からある書体に比較して、そのような美的創作性を持たないことは明らかとした。すなわち、実用性を持つ書体における著作物性成立要件に高いハードルを設けた。
判例全文
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3月27日 五角筒柱幼児用知育玩具事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件は、五角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載しこれをセットにした知育玩具である原告製品「ぺんたくん」を創作した原告が、六角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載しこれをセットにした知育玩具を製造販売した被告に対し、翻案権に基づいて被告製品の製造販売の差止め廃棄及び損害賠償を求める事案である。
 判決は、原告が五角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載しこれをセットにした点については著作物性を認めたが、被告製品は原告製品に依拠しておらず類似もしていないとして著作権侵害を認めなかった。
判例全文
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3月31日 システムサイエンス仮処分事件
   東京地裁/決定・申請却下(抗告)
 債権者のプログラムの複製権・翻案権侵害を理由に、債務者のプログラムの製造販売等の差し止めを求めた仮処分事件である。裁判所は、債務者のプログラムの内一部は新規プログラムに変更されていること、及び債務者のプログラムの内別の一部については債権者のプログラムの表現と同一または類似な部分はあるが同部分は創作性を有する表現部分ではないとして本件仮処分申請を却下した。
判例全文
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5月23日 神奈川県公文書公開条例事件
   横浜地裁/判決・請求棄却(控訴)
 県の公文書公開条例に基づきマンションの建築確認申請書と添付図面の公開請求がなされ、知事がその一部の公開拒否処分をしたところ、同行政処分の取消しを求めて提訴された事件。
 裁判所は、設計図書は著作物と認定したが著作者の公表権を理由に未公表の設計図書のすべての公開が禁止されると解することは相当ではない、とした。その上で、条例の条項である(公開が)「明らかに不利益を与えると認める」かの判断をし、これを否定して請求を棄却した。
判例全文
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6月15日 佐賀錦袋帯模倣事件
   京都地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 原告は帯を主とした各種織物の製造販売を業とする会社であり、被告も同業である。原告と被告は、西陣織工業組合に加入している。原告は、垂梅丸紋散らしの図柄(本件図柄)を創作し、昭和59年ころから、本件図柄を用いた佐賀錦袋帯(本件袋帯)を製造販売したが、被告が本件図柄を模倣した帯(被告帯)を製造販売したことから、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求及び謝罪広告、並びに不正競争防止法1条1項一号及び著作権法112条により製造販売の差し止めを求めた。
 裁判所は、差し止め請求については、本件袋帯が周知性を獲得したとまで言えないから不正競争防止法の適用がなく、また本件図柄は、帯の図柄としてはそれなりの独創性を有するものとはいえるけれど、帯の図柄としての実用性の面を離れてもなお一つの完結した美術作品として美的鑑賞の対象となりうるほどのものとは認めがたいため著作物とはいえないとして著作権法に基づく差し止め請求を否定した。しかし、被告が本件図柄をスケッチして被告の図柄を作成したこと、被告帯にクラフト加工糸を使用している旨の証紙が貼付されていないこと、被告帯の販売単価が安いことにより問屋から原告が類似した品質の劣る袋帯を別途販売していると誤解されて多数の苦情を受け信用を侵害されたことなどから、被告による被告帯の製造販売は不法行為を構成すると認定し、謝罪広告のみを認めた。
判例全文
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6月20日 システムサイエンス仮処分事件(2)
   東京高裁/決定・変更
 抗告人(原審債権者)のプログラムの複製権・翻案権侵害を理由に、相手方(原審債務者)のプログラムの製造販売等の差し止めを求めた仮処分事件の抗告審である。
 抗告審は、相手方のプログラムの一部は既に新規のプログラムに変更済みであると認定して著作権侵害を否定した原審の認定を翻して、同部分についての複製権、翻案権侵害を肯定し差し止めを認めた。プログラムの残部については原審の判断を維持し、両者のプログラムに類似部分はあるが類似部分の抗告人のプログラムの表現には創作性はないとして、著作権侵害を否定した。
判例全文
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6月20日 「原色動物大図鑑」挿絵事件(2)
   東京高裁/判決・取消
 図鑑の挿絵画家として著名な被控訴人(一審原告)が、控訴人の依頼を受け原色動物大図鑑の動物の図を著作したが、控訴人が出版権の消滅にも拘らず本件図鑑の重版を繰り返し行っているとして、本件各図の出版差止と原画の引き渡し及び損害賠償の請求を求めた事案の控訴審。
 裁判所は、被控訴人が、本件各図の引渡後20年以上にわたり、控訴人が版を重ねて発行しているのを知っていたにも拘らず印税の支払や本件各図の返還を請求しなかったこと、本件各図の引渡当時、出版社が画家に図書の挿絵を依頼する場合、著作権及び所有権を買い取るのが通例であり、被控訴人もそれを承知していたこと、本件図鑑の本文執筆者と控訴人との間では印税に関する取決めがあるのに対し、被控訴人は印税対象から除外されていること、控訴人から被控訴人に支払われた対価は、著作権使用料と認めるには著しく高額であること等の事情を勘案すると、控訴人、被控訴人間には本件各図の著作権及び所有権を譲渡する合意があったと認定し、原告の請求を認める原判決を取り消した。
判例全文
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6月30日 商品広告用写真の雑誌掲載事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件の原告は、広告写真家、被告は広告代理業を営む者である。
 原告は被告の依頼を受けて或る商品を広告するための写真を撮影した。撮影後現像済みフィルムとこれを焼き付けた紙焼き写真とを引き渡したが、撮影料その他の条件に関しては、その後協議して決定するということになっていた。被告はこの写真を雑誌に掲載した。原告は、被告が撮影料等を支払うことなく掲載したことにつき、複製権侵害および公表権侵害と主張した。
 判決は、もともと広告用の写真撮影という依頼であったこと、原告が被告に対してその現像済みフィルムとこれを焼き付けた紙焼き写真とを引き渡した時点で、公表の許諾があったというべきであるから、公表権侵害は認められず、また広告用掲載という限りで、写真の複製も許諾していたものとした。後日合意した代金額については争いがないが、写真に瑕疵があるか否かの争いがあり減額すべきか否か争いが生じていたものの、その支払い時期を既に徒過していることは被告も認めていた。判決は代金を減額するほどの写真の瑕疵とは言えないと認定し、複製権、公表権侵害の主張を退け、合意した金額の支払いを命じた。
判例全文
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8月16日 「チューリップ」・「コヒノボリ」事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 唱歌「チューリップ」及び「コヒノボリ」の歌詞の著作者は誰かが争われた事案。原告は、昭和6年頃、日本教育音楽協会が歌詞を公募した際、同協会から作詞依頼を受けた原告の父から指示され原告が作詞したと主張し、これまで日本音楽著作権協会及び同協会がこれら唱歌の作詞者として登録し著作権使用料を支払っている者らを被告として、著作者が原告であることの確認、氏名表示権に基づく慰謝料、過去の著作権使用料分の損害賠償等を請求した。
 判決は、原告が各歌詞を創作した過程の説明は具体的かつ詳細で信用できるとし、他方、被告らの主張は当時の客観的資料に照らすと信用できないとして原告を著作者と認めた。ただし著作権については歌詞を公募した日本教育音楽協会に譲渡されたと認定し、著作者の確認と氏名表示権侵害に基づく慰謝料のみ合計300万円を認めた。
判例全文
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10月6日 「レオナール・フジタ展」カタログ事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 レオナール・フジタの相続人である原告が、被告が原告に無断でレオナールの絵画、彫刻及び模型等を複製して書籍に掲載し頒布したとして、その差止と損害賠償を請求した事案。被告は、本件書籍は展覧会用のカタログであり、著作権法47条の「小冊子」として著作権者の許諾なく利用可能と主張し、また、原告の拒否は権利濫用であると主張した。
 裁判所は、著作権法47条にいう「小冊子」とは、著作物の解説又は紹介を目的とする小型のカタログ等を意味し、実質的に見て観賞用の豪華本や画集のようなものは含まれず、また、書籍の構成において著作物の解説が主体となっているか、著作物に関する資料的要素が多いことを必要とし、カタログの名を付していても、紙質、規格、複製形態等により観賞用の書籍として市場で取引される価値を有するものは「小冊子」には該当しないとした上で、本件書籍は、紙質、規格、作品の複製形態等からして実質的に見て市場で取引されている画集と異ならないから同条の適用はないとした。
 また権利濫用については、著作権者は利用を許諾するかどうかの自由を有するから、何ら権利濫用にはあたらないとした。
判例全文
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10月6日 タロットカード解説書無断翻訳事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 米国のタロット占法に関する著名な著述家である原告が、原告の著作したタロットカードの使用法に関する書籍(著作物1)及びカードの並べ方を説明した折畳みシート(著作物2)について、日本の遊戯玩具輸入業者である被告らが無断で翻訳、販売しているとして、使用料相当損害金、氏名表示権及び同一性保持権侵害に基づく慰謝料等を請求した事案。被告らは、原告が代表者であるA社がカードの印刷等を発注しているB社から翻訳の許諾を得た、一般に輸入玩具販売のための使用説明書を翻訳することについて著作権者の許諾を得る必要はない慣行が存在する、著作物2は著作物性がない、など主張した。
 判決は、許諾の事実及び被告らの主張する慣行は認められないとし、使用料相当損害金及び前記慰謝料として合計約108万円を認めた。著作物2については、著作物性が認められるとしつつ、カードとセットで無償販売されるものであるから使用料相当損害金は認められないとして著作者人格権侵害に基づく慰謝料のみ認めた。
判例全文
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11月10日 “動書”書体事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 書家である原告が、被告らが使用している看板の文字が、原告が著作し、雑誌に掲載された書に類似するものであり、複製権及び氏名表示権を侵害するとして、損害賠償を請求した事案。
 裁判所は、本件書は原告の思想感情を創作的に表現したものであり、美術の範囲に属する著作物であると認めつつ、本件書は文字をもって表現されているものであるから字体が最も大きな要素を成すが、文字の字体には本来著作物性はなく、また、書の字体は同一人が書したものでも多くの異なったものとなり得るから、単にこれと類似するからといってその範囲にまで独占的な権利を認めることはできず、単にその字体に類似するからといって直ちに複製権侵害ということはできないとした。その上で、本件では、各字体の間に一見して明らかな相違があるか、せいぜい字体が類似するに過ぎず、字体以外の要素、墨の濃淡、かすれ具合、筆の勢い等の点で類似していると認めることもできないので、著作権侵害にはあたらないとした。
判例全文
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12月25日 五角筒柱幼児用知育玩具事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却
 本件は、五角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載しこれをセットにした知育玩具である控訴人製品「ぺんたくん」を創作した控訴人が、六角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載しこれをセットにした知育玩具を製造販売した被控訴人に対し、翻案権に基づいて被控訴人製品の製造販売の差止め廃棄及び損害賠償を求める事案である。
 判決は、一審と同様に控訴人が五角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載しこれをセットにした点については著作物性を認めたが、被控訴人製品は控訴人製品に依拠しておらず類似もしていないとして著作権侵害を認めなかった。尚、以下の控訴人の著作物性主張は認めなかった。「控訴人らは、ブロツクを回転させたり、着脱させて、平仮名の記載されたブロツクを組み合わせて任意の言葉を作るとか、いくつかの絵の部分の記載されたブロツクを組み合わせて一つの絵を完成させることによつて、幼児の知能を向上させる教育的玩具という、教育的、即ち広い意味では学術的、文芸的な思想が具現されて、具体的に表現されたものが『ぺんたくん』であり、そのような思想の表現に着目すれば、『ぺんたくん』には著作物性がある旨主張する。しかし、控訴人らが思想の表現と主張しているものは、結局は『ぺんたくん』の形状及び構造が果たす機能であつて、著作権法第2条第1項第一号にいう、『思想又は感情を表現したもの』には当たらない。」
判例全文
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