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【事件名】「原色動物大図鑑」挿絵事件(2) 【年月日】平成元年6月20日 東京高裁 昭和62年(ネ)第308号 損害賠償等請求控訴事件 判決 控訴人 株式会社北隆館 右代表者代表取締役 Y 右訴訟代理人弁護士 草葉隆義 同 村上直 亡X1訴訟承継人 被控訴人 X2 右訴訟代理人弁護士 渡部照子 同 浜口武人 主文 原判決を取り消す。 被控訴人の請求はいずれもこれを棄却する。 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 一 控訴人 主文同旨の判決 二 被控訴人 「控訴棄却、控訴費用は控訴人の負担」との判決 第2 当事者の主張 一 請求の原因 1 亡X1(以下「X1」という。)は、日本画家であり、控訴人は、書籍、雑誌、新聞の出版等の業を目的とする会社である。 2 X1と控訴人とは、昭和28年ころ左記内容の出版権設定契約(以下「本件出版権設定契約」という。)を締結した。 (一) X1が作製する原画の所有権はX1にある。 (二) 控訴人は出版権を有する。 (三) 控訴人は、印刷、出版の後各原画をX1に返還することを原則とする。 ただし、控訴人が責任をもってこれを保管することを通例とする。 (四) 控訴人が右原画を他に使用する場合には、事前にX1の承諾を得て妥当な掲載料を支払う。 X1は、本件出版権設定契約の趣旨に沿って昭和32年までに別紙著作物目録記載の各画(以下「本件各著作物」という。)を著作し、その著作権(以下「本件著作権」という。)を取得し、その各原画(以下「本件各原画」という。)を控訴人に引き渡し、現に控訴人が占有している。 3 控訴人は、本件各著作物を複製して、別紙図書目録記載の各図書(以下「本件各図書」という。)の初版を製作し、第1巻については昭和32年12月、第2巻については昭和33年12月、第3巻については昭和35年10月、第4巻については同年2月それぞれ発行した。 4 本件出版権設定契約は、設定のときから満3年の経過により消滅した。 5 しかるに、控訴人は本件出版権設定契約消滅後、本件各図書中、第2巻については第12版まで、第1、第3、第4巻については第13版までそれぞれ出版、販売をした。 6 控訴人の右行為は、X1の有する本件著作権を侵害するものである。 7 控訴人は、右行為が本件各著作物に関してX1の有する本件著作権を侵害するものであることを知り、又は過失により知らないで、右行為をしたものであるから、これによってX1が被った損害を賠償すべき義務がある。 8 X1は、控訴人の右侵害行為によって次のとおりの損害を被った。 すなわち、本件各著作物の1点当たりの使用料は、着色図につき1125円、白黒線画につき300円が相当である(右は、初版時の使用料が着色図1点1500円白黒線画400円であること、再版使用であること及びその後の値上がりを考慮したものである。)。 (一) 本件各図書の第1巻については、着色図320点が使用されているので、 1125円 320点 12版 432万0000円 (二) 本件各図書の第2巻については、着色図359点が使用されているので、 1125円 359点 11版 444万2625円 (三) 本件各図書の第3巻については、着色図107点、白黒線画114点が使用されているので、 1125円 107点 12版 114万4500円 300円 114点 12版 41万0400円 (四) 本件各図書の第4巻については、白黒線画208点が使用されているので、 300円 208点 12版 74万8800円 以上合計 1136万6325円 9 X1は昭和62年3月20日死亡し、被控訴人は同日遺贈により本件著作権及び本件各著作物に関する権利を承継取得した。 10 よって被控訴人は控訴人に対して、 一 本件各著作物の著作権に基づき、本件各図書の出版行為の差止、 二 本件各原画の所有権に基づき、本件各原画の引渡し、 三 前記損害金1136万6325円の内金500万円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和58年12月15日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払、 をそれぞれ求める。 二 請求の原因に対する認否 1 請求の原因1及び3の事実は認める。 2 同2の事実中、X1が昭和32年までに本件各著作物を著作してその著作権を取得し、その原画を控訴人に引き渡し、現に控訴人がこれを占有していることは認め、その余の事実は否認する。 もっとも、控訴人は、昭和33年8月16日X1との間で挿絵原画の所有権等について合意し覚書を作成したことはあるが、その相手方はX1個人ではなく、X1が代表者となって設立した日本理科美術協会であり、右合意は、今後の新たな企画に適用する一般条項的約定であり、本件各図書に掲載する挿絵について適用されるものではない。 3 同4の事実中、控訴人が本件各図書の第2巻については第12版まで、第1巻については第13版まで出版、販売したことは認め、その余の事実は否認する。 控訴人の本件各図書の出版明細は、別紙「原色動物大図鑑出版明細」記載のとおりである。 4 同9の事実中、X1が昭和62年3月20日死亡したことは認め、その余の事実は否認する。 5 その余の請求原因事実はいずれも否認する。 三 控訴人の反論 1 控訴人とX1とは、昭和28年ころ左記内容の本件著作権譲渡及び本件各原画買取契約(以下「本件著作権等譲渡契約」という。)を締結した。 (一) X1は、本件各著作物を著作する。 (二) 控訴人は、X1から本件各著作物を、着色図については1点1,500円、白黒線画については1点400円をもって買い取り、その著作権及び所有権を取得する。 X1は、本件著作権等譲渡契約の趣旨に沿って、本件各著作物を著作し、本件各原画を控訴人に引き渡し、控訴人は右約定の代金を支払った。 したがって、本件著作権及び本件各原画の所有権は控訴人が有しており、控訴人は右権利に基づいて本件各図書を出版し、現に本件各原画を占有しているものである。 2 仮に、本件出版権設定契約が成立したとしても、本件各著作物は図鑑の挿絵であって本文に付随する程度のものであるから、その出版権の存続期間については本文に係る出版権の存続期間に準ずるというのが当事者の合意であったと考えるのが相当である。ところで、本文の著作者と控訴人との間では、本文に係る出版権の存続期間は本文の著作権者と控訴人との間では、本文に係る著作権の存続期間と同一であると合意されているから、本件各著作物に係る出版権も消滅していない。 そして、本件各著作物に係る出版権が現に存続している限り、被控訴人の本件各原画の所有権に基づく返還請求は許されないというべきである。すなわち、出版社による原画の保管は、再版の際これを使用することを目的とするものであり、著作権者もこれを予定して預けており、X1、控訴人間には出版権が存続する限りこれを返還しない合意があるから、被控訴人はその返還を求めることができない。 3 仮に、被控訴人主張の不法行為が成立するとしても、控訴人には、次に述べる限度において損害賠償義務はない。 (一) X1が控訴人の本件各図書の出版行為を不法行為として損害賠償請求権を行使したのは、昭和58年6月25日付け内容証明郵便によってであって、右郵便は同月26日控訴人に送達された。 したがって、被控訴人は控訴人に対し、昭和58年6月26日を遡る20年の期間内に出版されたものについては損害賠償請求することができるが、別紙「原色動物大図鑑出版明細」記載中のそれ以前の出版行為、すなわち第1巻については昭和37年7月発行の第5巻まで、第2巻については昭和38年5月発行の第5版まで、第3巻については昭和37年ころ発行の第4版まで、第4巻については昭和37年12月発行の第4版までのそれぞれの出版行為については、民法第724条後段に定める20年の除斥期間が経過しているから、損害賠償請求をすることができない。 (二) 原判決は、本件各著作物についての1点当たりの著作権使用料は当初の合意の約2分の1の金額、すなわち、着色図につき金700円、白黒線画につき金200円を下回らない、と認定しているが、当初に定めた本件各著作物の画料自体が本件各図書の本文著作権者と控訴人との合意により定められた本文著作権者の印税(初版発行7,000部は定価の1割、6,000部は定価の8分、したがって、その印税は第1巻より第4巻までの平均1点当たり金2,095円)に比して著しく高額であり、挿絵の再版印税を当初に定めた画料の2分の1とする合理的根拠はない。 本件各図書における挿絵の著作権使用料を本文著作権者と分け合うとすれば、右印税(定価の1割又は8分)を2対8の割合で分け合うのが相当であり、例えば、別紙「原色動物大図鑑出版明細」に基づいて昭和56年中に出版された本件各図書の被控訴人の取得すべき印税額は次のとおりである。 第1巻15,000円×1,000部×(320÷1,014)×2%=94,675円 第2巻15,000円×1,000部×(359÷1,146)×2%=93,979円 第3巻15,000円×1,000部×(107÷1,406)×2%=22,831円 15,000円×1,000部×(114÷1,406)×1%=12,162円 第4巻15,000円×1,000部×(208÷1,320)×1%=23,636円 したがって、控訴人の被控訴人に支払うべき損害賠償額は、右計算方法により算出された額を越えるものではない。 四 控訴人の反論に対する被控訴人の認否及び主張 1 請求の原因に対する認否2における控訴人の主張は時機に後れた攻撃防禦方法の提出であるから、却下されるべきである。 2 控訴人が反論において主張する事実はすべて否認する。 X1は、控訴人から昭和28年より順次本件各原画の執筆を依頼されたが、そのころ著作権法があることを知り、控訴人に対して著作権法に基づいた権利を保障するよう申し入れ、控訴人と口頭で請求の原因2記載の本件出版権設定契約を締結し、さらにその後X1が中心となって設立した日本理科美術協会の会員に対してもその効力が適用されるものを要求した結果、昭和33年8月16日本件出版権設定契約と同一内容の覚書(甲第1号証)が作成されるに至ったものである。 仮に、X1が控訴人から本件各原画の執筆を依頼された時期に本件出版権設定契約が締結されなかったとしても、昭和32年ころX1と控訴人の間に、将来はもちろん、それまでに控訴人に引渡し済みの本件各図書に掲載される原画をも含めて本件各原画につき、請求の原因2記載と同一内容の出版権設定契約が締結された。 3 控訴人が本件各図書を再版する都度X1に対してその旨を通知していれば、その段階でX1は控訴人に本件出版権設定契約の履行を求めることができたのにかかわらず、控訴人に右契約を誠実に履行する意思がなく、意図的に右通知をしなかったのであるから、控訴人の除斥期間経過の主張はクリーンハンドの原則に反し許されない。 第3 証拠関係 証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。 理由 一 X1は日本画家であり、控訴人は書籍、雑誌、新聞の出版等の業を目的とする会社であること、X1は昭和32年までに本件各著作物を著作してその著作権を取得し、その原画(本件各原画)を控訴人に引き渡し、現に控訴人がこれを占有していること、控訴人は本件各著作物を複製して本件各図書の初版を製作し、請求の原因3記載のとおり発行したことは、当事者間に争いがない。 そして、成立に争いのない甲第20号証の1ないし15、原審におけるX1本人尋問の結果によって成立の認められる甲第2ないし第6号証、原審におけるX1本人尋問の結果、及び本件各図書であることにつき争いのない検甲第1ないし第4号証によれば、X1は、日本画家であって、昭和4年以来京都帝国大学理学部に勤務し、生物画を描く傍ら、出版社の依頼により辞典、図鑑その他の図書に掲載する生物画等の理科学関係の挿絵を描き、昭和24年ころには、その方面で著名な画家の一人であったこと、X1は昭和24年ころ控訴人から本件各図書である原色動物大図鑑に掲載する動物の図について依頼を受けこれを承諾し、原画の執筆を開始したこと、本件各図書は、第1巻脊椎動物に関する図鑑、第2巻脊椎動物及び原索動物に関する図鑑、第3巻棘皮動物、毛顎動物、前肛動物、軟体動物に関する図鑑、第4巻節足動物その他の動物に関する図鑑をもって構成されていること、X1は本件各図書が専門的な図書であることから実物の克明、詳細な描写を原則として執筆し、昭和28年ころから昭和32年ころまでの間順次原画を控訴人に引き渡したことが認められ、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。 二 被控訴人は、X1と控訴人との間に本件出版権設定契約が成立した旨主張するのに対し、控訴人は両者間に本件著作権等譲渡契約が成立した旨主張するので、この点について検討する。 成立に争いのない甲第7号証、原審における控訴人代表者本人尋問の結果により原本の存在及び成立の認められる乙第1号証、同尋問の結果により成立の認められる乙第2号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第7号証の1、当審証人Aの証言、原審におけるX1及び控訴人代表者本人尋問の結果並びに前掲検甲第1号証ないし第4号証によれば、次の事実が認められる。 1 控訴人は、X1から前記のとおり順次本件各原画の引渡しを受けるに際し、X1に対し着色図については1点当たり1,500円、白黒線画については1点当たり400円を支払っている(本件各著作物に関する著作権等譲渡代金であるか、その使用料であるかは、しばらくおき、右の額の金員が支払われたことは、当事者間に争いがない。)。 2 X1は、控訴人に本件各原画の引渡しを了した昭和32年以降昭和58年ころまでの間、控訴人が本件各図書を再版、3版と版を重ねて発行していることを知っていたのにかかわらず、控訴人に対し本件各著作物について著作権を主張したり、使用料(印税)の支払や本件各原画の返還を請求したことが全くなかった。 3 控訴人がX1に本件各原画の執筆の依頼をした昭和24年ころはもちろん、X1が控訴人に本件各原画の引渡しを開始した昭和28年からその引渡しを了した昭和32年当時も、出版社が画家に図書の挿絵を依頼する場合、出版社(控訴人を含む)が画家から挿絵の著作権及び所有権を買取るのが通例であり、X1もこのことを承知していた。 X1らが中心となって、理科美術家の社会的地位の向上と確立等を目的として日本理科美術協会が創立されたのはその後の昭和33年7月25日であり、理科美術家の美術著作権確立の気運が高まり、出版社に対し画家の著作権保護を求めるようになったのは、そのころからである。 4 控訴人と本件各図書の本文執筆者らとの間では、右図書の著作、校正に関する費用は本文執筆者の負担、著作費用の内原色版、挿画の画料に関する費用及び写真撮影に関する費用、並びに出版、広告、宣伝に関する費用は控訴人の負担とすること、右図書の原図版、発行権は控訴人の所有とし、控訴人は本文執筆者らに対し印税として発行部数5,000部は定価の6分、5,001部より10,000部までは定価の8分、10,001部以上は定価の1割を支払うこと等の合意が成立し、各巻発行のころその旨の書面が作成されており、X1を含む本件各図書の挿画を描いた者は印税対象から除外されている。 5 控訴人からX1に対して支払われた前記1の金額は、本件各著作物の著作権使用料と認めるには著しく高額である。すなわち、本件各原画につき着色図1点当たり1,500円、白黒線画1点当たり400円の割合でX1に支払われた金員を合計すると、着色図786点117万9,000円、白黒線画322点12万8,800円、総計130万7,800円に及び、本件各原画の引渡し当時の物価水準からみて、X1の生物画家としての社会的地位や本件各原画が克明かつ正確な写実性を持つことを考慮に入れても相当高額である。原審におけるX1本人尋問の結果中には、控訴人との間では、当初から昭和33年8月16日付け覚書(甲第1号証)に記載されているような合意がなされており、控訴人からは本件各著作物について右約定に従ったX1の請求どおりの稿料が支払われ、控訴人がこれを買取ったのではない、とする趣旨の供述が存する。 しかしながら、成立に争いのない甲第1号証によれば、北隆館の事業に協力する画家の代表者としてのX1を甲とし、控訴人を乙として締結された昭和33年8月16日付け覚書には、「乙が甲に依頼し作製せる原画の所有権は甲に、その出版権は乙にある事を確認し、印刷出版の後その原画は甲に返済する事を原則とするも通例として乙が責任を以てこれを保管する事」等X1の著作物と控訴人が右著作物を使用して行う出版についての一般的な約定が記載されているものの、その記載文言を検討しても、これが遡及的にすでに控訴人に対し引渡済みの本件各著作物に適用されることを推認できる文言は全く存しないことが認められる。しかも、X1の前記本人尋問の結果中には、従前挿絵は出版社が買取っており、本件各図書の挿絵を依頼されたときもそうであったこと、X1が著作権という権利があることを知ったのは昭和30年ころであり、それまでは挿絵は買取られるものと思っていたこと、X1はそのころから著作権法に関心を抱き始め、美術著作権確立のために昭和33年7月25日日本理科美術協会を設立し、その活動の一環として控訴人と著作権に関する交渉をするようになったこと等の供述が存し、前掲各証拠に照らすとX1の右供述部分には信憑性があるから、X1が控訴人に本件各原画の引渡しを開始した昭和28年ころ又はその引渡しを了した昭和32年ころに右覚書と同一内容の約定が口頭で成立していたとは到底認めることができない。そして、X1の右供述と、前掲甲第1号証によれば、右覚書には、「北隆館の事業に協力する画家の代表者X1を甲とし、株式会社北隆館取締役社長Yを乙とし左の如く定める」と記載されていることとを総合すれば、右覚書は、その作成日(昭和33年8月16日)より将来に向けて控訴人の事業に協力するX1を含む日本理科美術協会の会員の著作物を控訴人が出版する場合において両者間に締結される個別的な契約の指針となる条項を確認したものと認めるのが相当であって、これをもって当時すでに控訴人に引渡済みの本件各著作物についてのX1と控訴人との約定を記載したものと認めることはできない。 当審証人Bの証言中、同人が出版社から受額した挿絵の画料に関する供述部分は、控訴人とは別の出版社が本件各図書とは書籍としての用途、発行部数等を全く異にする教科書、子供向け絵本等の挿絵に関するものであり、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第39号証(C作成の鑑定書)に記載された鑑定結果及び理由は、前記認定の諸事実に基づかないで同文書作成の見解を述べたにとどまるものであるから、これらをもって前記認定を左右できるものではなく、ほかに前記認定を覆えすに足りる証拠はない。 なお、被控訴人は、控訴人が当審において前記覚書について、その相手方はX1個人ではなく、X1が代表者となって設立した日本理科美術協会であり、右合意は今後の新たな企画に適用する一般的事項であり、本件各図書に掲載する挿絵について適用されるものでないと主張している点について、時機に後れた攻撃防禦方法であり却下されるべきであると主張するが、一件記録によれば、控訴人は原審において本件各著作物は控訴人が著作権を譲り受け、本件各原画を買取ったものであり、右覚書によってX1に本件著作権が存することを確認したものでない旨主張していることが認められ、当審においてこの主張を維持しながら新たに前記の主張をしても何ら訴訟の完結を遅延せしめるものではないから、時機に後れた攻撃防禦方法の提出とはいえない。 以上の認定事実によれば、X1と控訴人との間には、X1が控訴人に本件各原画の引渡しを開始した昭和28年ころX1が本件各著作物を著作し、控訴人はX1から本件各著作物を着色図については1点1,500円、白黒線画については1点400円をもって買取り、その著作権及び所有権を取得する合意が成立したものであって、X1は右約定に従い、本件各著作物を著作して本件各原画を控訴人に引き渡したものと認めるのが相当であり、被控訴人主張の本件出版権設定契約が締結されたものとは到底認めることができない。 したがって、控訴人はX1の本件著作権等譲渡契約の履行により本件著作権及び本件各原画についての所有権を取得し、その権限に基づいて本件各著作物を複製して本件各図書を出版し、本件各原画を占有しているものであって、X1が本件著作権及び本件各原画の所有権を有すること及び被控訴人がX1から遣贈により右権利を承継取得したことを前提として、控訴人に対し本件各図書の出版行為の差止、本件各原画の引渡し並びに損害賠償を求める被控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。 三 よって、被控訴人の請求はいずれも失当として棄却すべきところ、これと結論を異にする原判決は不当であり本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第386条の規定により原判決を取り消し、被控訴人の請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第89条、第96条の各規定を適用して主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 竹田稔 裁判官 岩田嘉彦 |
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