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【事件名】五角筒柱幼児用知育玩具事件(2)
【年月日】平成元年12月25日
 東京高裁 平成元年(ネ)第1224号 実用新案権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁昭和62年(ワ)第844号)

判決
控訴人(原告) ブックローン株式会社<ほか1名>
被控訴人(被告) 株式会社アガツマ


主文
 本件控訴をいずれも棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決添付別紙第二目録及び同第三目録(これを引用する。)記載の六角筒柱の連結によるかな文字、絵模様、数字等の知育玩具を製造販売してはならない。
3 被控訴人は、前項記載の各物件を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人ブックローン出版株式会社に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
6 右4、5につき仮執行宣言
二 被控訴人
 主文同旨
第二 当事者の主張及び証拠
 当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり加除訂正する外、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
一 原判決四枚目表一行目から同九行目までを、「(四)(1) 「ぺんたくん」と被控訴人製品一及び二とを比較してみれば、「ぺんたくん」が五角筒柱であるのに対し、被控訴人製品一及び二は六角筒柱という違いがあるだけであり、いずれも筒柱の角筒面に平仮名や数字、絵模様を記載していること、各平仮名文字の背景の図形が、円、八角、六角、五角、四角の五種類であり、これらの色彩も同一であること、平仮名文字が白抜きであること、筒柱に絵模様を分解して描いていること等物件の表現形態は基本的に何ら変わりがないものである。
 著作物の複製とは、著作物を印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうが(著作権法第二条第一項第一五号)、これは、原著作物と全く同一のものを再製する行為だけでなく、その枝葉において多少の修正増減を加えてもその趣旨が同一の程度のものを作成する場合も含まれるものである。
 本件において、被控訴人製品一及び二は、「ぺんたくん」と比較して五角と六角の相違はあるものの、その余の形態(外形及び形状)については「ぺんたくん」の表現をそのまま踏襲しているものである。被控訴人の右行為は、「ぺんたくん」の内面形式に依拠しながら単に外面的にその枝葉の一部に修正を加えているに過ぎず、その本質的特徴をそのまま維持したものを作成したものにほかならない。
 したがって、被控訴人の右行為は、控訴人ブックローン出版の有する本件著作権の複製権を侵害するものである。
(2) 仮に、被控訴人製品一及び二が「ぺんたくん」をそのまま複製したものではなく、被控訴人の行為が複製権の侵害にあたらないとしても、被控訴人製品一及び二は、「ぺんたくん」とは形状において基本的に何ら変わりがなく、原判決別表(これを引用する)のとおり「ぺんたくん」に酷似しているから、「ぺんたくん」に依拠し、その外面的表現形式の一部を変えたに過ぎないことが明白である。したがって、被控訴人が被控訴人製品一及び二を製造販売することは、控訴人ブックローン出版の有する「ぺんたくん」の著作権の翻案権、改作利用権を侵害するものである。」と訂正する。
二 原判決四枚目表一一行目及び同五枚目表三行目に、各「著作権(変形権及び翻案権)」とあるを、各「著作権(複製権又は翻案権及び改作利用権)」と訂正する。
三 原判決九枚目裏八行目の「突起12、13、」とあるを削る。
四 原判決一七枚目表一〇行目の「変形権及び翻案権」とあるを「複製権又は翻案権及び改作利用権」と訂正する。
五 原判決一七枚目裏八行目の「その創作性は、」から同一八枚目表三行目までを、「その創作性は、「ぺんたくん」の構成を五角筒柱にして、一つの五角筒面に一行の文字(例えば、あいうえお)を記載し、五角筒柱のブロックに動物や迷路の絵の各部分を描き、また、数字や動物の絵などで数を表示し、更に、これらを一つのセットにした表現内容にあるというべきである。したがって、「ぺんたくん」の著作物としての内容は、原判決の別表(これを引用する。)の上欄記載のとおり要件化される。これに対し、被控訴人製品一及び二は、いずれも六角筒柱の構成であり、それに描かれた絵も数字を表す絵を含めて、二、三の例外を除き、描かれている対象が「ぺんたくん」とは異なり、同一の対象を描いたものも、その表現は全く異なっており、更に、「ぺんたくん」にある迷路のブロックに相当するものがない。よって、被控訴人製品一及び二は、「ぺんたくん」の創作性の範囲外のものであり、かつ、「ぺんたくん」とは外面的表現形式及び内面的表現形式を異にすることが明らかであるから、被控訴人製品一及び二を製造販売する行為が、「ぺんたくん」の複製権、翻案権、改作利用権を侵害するものではない。」と訂正する。
六 原判決一八枚目表七行目の「変形権及び翻案権」とあるを「複製権又は翻案権及び改作利用権」と訂正する。
七 原判決二七枚目裏六行目の次に「「ぺんたくん」は、ブロックを回転させたり、着脱させて、平仮名の記載されたブロックを組み合わせて任意の言葉を作るとか、いくつかの絵の部分の記載されたブロックを組み合わせて一つの絵を完成させることによって、幼児の知能を向上させる教育的玩具である。そのような教育的、即ち広い意味では学術的、文芸的な思想が具現されて、具体的に表現されたものが「ぺんたくん」であり、控訴人らはそのような思想の表現に着目して、「ぺんたくん」に著作物性があると主張するものである。したがって、「ぺんたくん」は、特許権、実用新案権が保護するとされる技術的思想の範囲内にとどまるものではない。(むろん、技術思想をとらえて、実用新案等の保護を受けることはあり得るもので、その限度で二つの権利が併存することは充分可能である。)」と付加する。
八 原判決二八枚目裏五行目及び同裏一〇行目に、各「変形権及び翻案権」とあるを、各「複製権又は翻案権及び改作利用権」と訂正する。

理由
一 当裁判所は、控訴人らの本件請求は理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正する外、原判決の理由のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決三三枚目裏一行目の「更に、」から同四行目までを「更に、数字遊び用ブロック二個には各面に0から9までの数字が一つあて記載され、絵と数字が記載されたブロック四個には、各面に1から10までの数字が1つあて又は1から10までの数の動物等が記載され、それに対応する数が表現されているものである。」と訂正する。
2 原判決三四枚目表三行目の「できない。」とある次に、「控訴人らは、ブロックを回転させたり、着脱させて、平仮名の記載されたブロックを組み合わせて任意の言葉を作るとか、いくつかの絵の部分の記載されたブロックを組み合わせて一つの絵を完成させることによって、幼児の知能を向上させる教育的玩具という、教育的、即ち広い意味では学術的、文芸的な思想が具現されて、具体的に表現されたものが「ぺんたくん」であり、そのような思想の表現に着目すれば、「ぺんたくん」には著作物性がある旨主張する。しかし、控訴人らが思想の表現と主張しているものは、結局は「ぺんたくん」の形状及び構造が果たす機能であって、著作権法第二条第一項第一号にいう、「思想又は感情を表現したもの」には当たらない。」と付加する。
3 原判決三四枚目表一〇行目に「右法案」とあるを、「右法条」と訂正する。
4 原判決三六枚目裏九行目から同一〇行目に「変形権及び翻案権」とあるを「複製権又は翻案権及び改作利用権」と訂正する。
5 原判決四一枚目裏一行目に「絵が数字を表す絵を含めて全く異なっていること、」とあるのを、「絵とは、二、三の例外を除き、数字を表す絵を含めて描かれている対象が異なっており、同一の対象を描いたものもその表現は全く異なっていること、」と訂正する。
二 よって、本件請求をいずれも棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所
 裁判官 秋吉稔弘
 裁判官 元木伸
 裁判官 西田美昭
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