裁判の記録 line
line
1991年
(平成3年)
 
line

 
line
1月29日 無断生演奏事件
   高松地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 音楽著作権管理団体であるXは (1)Y1経営店舗におけるピアノ生演奏、レコード演奏、ビデオディスク及びオーディオカラオケの再生 (2)Y1・Y2共同経営店舗におけるピアノ生演奏、オーディオカラオケの再生が、X管理著作物に関するXの演奏権及び上映権を侵害するとして、Y1に対し、差止(著作権法112条1項)、ピアノ及びカラオケ装置の撤去(同条2項)を求めるとともに、Y1・Y2両名に対し損害賠償を求めた。
 主な争点はオーディオカラオケによる客の歌唱が著作権侵害にあたるかである。
 裁判所は、被告らによるオーディオカラオケの利用は、カラオケ装置及びテープを店舗に設置し、客に歌唱を勧め、伴奏を付けて他の客の前で歌唱させるなど店の雰囲気作りをして集客し、利益を上げることを意図しているから、客による歌唱についても経営者が主体として演奏権を侵害しているとした上で、侵害期間及び使用楽曲数をXの著作物使用料規程に当てはめて損害を算出し、原告の請求を認容した。
判例全文
line
1月30日 スナック「シャルマン」仮処分事件
   旭川地裁/決定・申請認容
 音楽著作権管理団体である債権者の仮処分申し立てを受け、裁判所は、債務者に対し (1)カラオケ装置を操作して、伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させ若しくは自ら歌唱すること (2)カラオケ装置を操作して、カラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽を再生(上映)することの方法による音楽著作物の演奏を禁止した。また、裁判所は、債務者のカラオケ装置に対する占有を解いて執行官に保管することを命じた。
判例全文
line
1月30日 スナック「手のひら」仮処分事件
   旭川地裁/決定・申請認容
 音楽著作権管理団体である債権者の仮処分申し立てを受け、裁判所は、債務者に対し (1)カラオケ装置を操作して、伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させ若しくは自ら歌唱すること (2)カラオケ装置を操作して、カラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽を再生(上映)することの方法による音楽著作物の演奏を禁止した。また、裁判所は、債務者の債務者が経営する店舗内にビデオカラオケ装置等一切のカラオケ機械の設置も併せて禁じた。
判例全文
line
2月27日 「サンジェルマン殺人狂騒曲」事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 仏文学の翻訳文についての複製権等侵害が争われた事件。裁判所は、被告翻訳原稿の完成に至る経緯から、被告翻訳原稿は原告翻訳文に基づいて再製されたものではないとして「依拠性」を否定し、原告の請求を棄却した。また裁判所は、原被告双方の翻訳原稿の文体及び語調は非常に異なるとし、原告による独創性ある訳文について同一の表現がとられていると原告が主張した表現についてはその独創性を否定した。
判例全文
line
2月27日 「IBFファイル」事件
   東京地裁/決定・申請却下(抗告)
 本件は、コンピューター関連のソフトウエア等の開発会社である債権者らが、自らが開発した電子ファイル(本件ファイル)が著作権法第10条第1項第九号のプログラムの著作物であることを理由に、債務者らが製造販売した電子ファイルが債権者らの著作権を侵害していると主張し、債務者らに対し、製造販売等の差し止めを求めた仮処分申請事件である。
 裁判所は、仮に本件ファイルが著作権法にいうプログラムであるとしても、本件ファイルの構成は著作権法第10条3項一号のプログラム言語に該当するため著作権法の保護が及ばず、また、本件ファイルの書式の選択には選択の余地がなく創作性はないとした。さらに、本件ファイルの表現内容についても、その表現は大部分が選択の余地のないものであり、また、選択の余地があるものも、選択の幅は極めて小さく、その選択によってその表現に創作性が生じるものとは認められず、さらには本件ファイルの表現を全体に考察しても、その表現に創作性があるとは認めることはできない、と判断した。
判例全文
line
3月28日 ニーチェアー事件(3)
   最高裁(一小)/判決・上告棄却(確定)
 ニーチェアとは、ニューヨークの近代美術館にも所蔵されている著名な椅子である。
 この椅子のデザイナーである原告が、そのデザインのコピー製品を台湾から日本に輸入した被告に対し、著作権法違反を理由に製造販売禁止等を求めた事案で、一審で敗訴した原告が控訴し最終的に上告した。
 一・二審とも本件椅子のデザインは意匠であって、著作権法上保護される「美術工芸品」には当たらないとした。理由としては、それが椅子のような実用品であっても、美術工芸品となる場合を認めつつ、美術工芸品とは実用面及び機能面を離れて、それ自体として専ら美的鑑賞の対象とされるものをいうとし、本件椅子のデザインは実用的機能面を美的にデザインしたものにすぎないから「美術工芸品」に該当せず、また10条1項四号の「その他の美術の著作物」ともいえないとした。要するに、意匠法による保護を受けるならともかく(意匠法による登録を要する)、著作権法による保護を否定した。
 原告は上告したが、最高裁は上告を棄却して、結論を維持した。

line
4月9日 建築の著作物の複製事件
   福島地裁/決定・申請却下(抗告)
 本件は、建築士である債権者が、同人の作成にかかる設計図にしたがって建築物を建築することが複製権侵害にあたるとして、建築物を建築中の債務者に対して、建築工事の中止を求めた事案である。
 裁判所は、「建築の著作物」とは、設計図に表現されている観念的な建物自体をいうのであり、それには単に建築物というだけでなく、いわゆる建築芸術とみられるものでなければならず、建築芸術といえるためには、使い勝手のよさ等の実用性、機能性などではなく、もっぱら、文化的精神性の表現としての建物の外観を中心に検討すべきであるとした上、債権者設計図に表現されている観念的な建物は「建築の著作物」に該当しない、と判断した。
判例全文
line
5月22日 英語教科書準拠朗読テープ事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 裁判所は教科書の出版会社である原告を、中学生英語の教科書の共同著作者にあたると認め、かつ、原告が他の共同著作者らから同教科書の録音テープの製作販売に関する独占的権利を取得したと認定した上、無断で録音テープを製作し補助教材として販売した被告に対して、1350万円の損害の賠償を命じた。
判例全文
line
5月31日 神奈川県公文書公開条例事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却
 神奈川県の公文書公開条例に基づいて、ライオンズマンション逗子海岸の建築確認申請書と添付図面の公開請求がなされ、神奈川県知事がその一部につき公開拒否処分をしたところ、同処分の取消訴訟が提起された。高裁は、原審と同様、各設計図面(建物の立面図、断面図、平面図等)の公開義務を否定した。その理由として、設計図面が著作物にあたり、確認申請時の行政への提出等は公開先が極めて限定されていることから、これを公開条例に基づき公開することは著作者人格権の公表権の侵害にあたることを示した。
判例全文
line
8月7日 クラブ「順子」事件
   那覇地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、音楽著作権管理団体Xが、Y1ないしY3が共同経営する飲食店におけるピアノ生演奏およびオーディオカラオケの再生(上映)が、X管理著作物についてのXの上演権、演奏権及び上映権を侵害するとして、Y1ないしY3に対し、損害賠償を求めた事案である。
 主な争点は(1)著作物の利用主体である飲食店の経営主体がだれか、(2)リース業者から借り受けたカラオケ機器の利用が著作権侵害にあたるかである。
 裁判所は、Y1が営業許可を取得し従業員を採用していたこと、Y2が店舗を賃借し、対外的に代表者として活動していたことから、経営主体はY1・Y2であるとした上で、所有権を有するリース業者が複製権に基づく使用料を支払っているからといって、Y1・Y2の演奏権等の侵害の責任を免れるものではないとしてY1・Y2に対する請求を認容した。
 他方、Y3については、Y1・Y2への営業譲渡後、営業内容を知らず、利益の分配も受けていないことから経営主体とはいえないとして請求を棄却した。
判例全文
line
8月27日 住宅地図入電話帳事件
   岡山地裁/判決・請求棄却
 住宅地図の作成業者である原告は、N町商工青年会から依頼を受けて住宅地図及び広告の入った電話帳を作成したと主張し、同電話帳は編集著作物であり、住宅地図部分は地図の著作物であって、いずれも著作者は原告であると主張して、被告N町商工会及び被告印刷業者が原告の許諾なくその後も同電話帳を複製、頒布したことについて、著作権侵害に基づき損害賠償を求めた。
 判決は、住宅地図部分、電話帳部分及び広告部分に分けたうえで、それらの選択、配列に創作性はないとして編集著作物性を否定し、また電話帳部分及び広告部分に創作性はなく、著作物には当たらないとした。これに対して住宅地図部分は、素材となる建物の位置関係、名称及び居住者名を調査した結果に基づき、これらを適宜に選択、配列し、図面上に正確かつ簡明に表現した点に創作性があるとした。しかし、その著作者はその創作的作業に主体的役割を果たした者というべきであり、住宅地図部分はN町商工青年会の会員らが現地調査するなどして原稿に表現したものであって、原告はその補助的役割を果たしたにすぎないから著作者ではない、として請求を棄却した。
判例全文
line
9月26日 おニャン子クラブ事件(2)
   東京高裁/判決・取消(上告)
 本件の被控訴人(原告)は、おニャン子クラブの名称のもとに集められたタレントメンバーであり、控訴人(被告)は、カレンダーに被控訴人ら肖像等を当該タレントらの許諾なしに使用した者である。
 著名人の肖像等に関する権利がパブリシティ権と呼ばれ、法的保護に値するものとしての判例はすでにこの当時から集積されているが、権利の性質に関しては財産権とする説が圧倒的であった。すなわち、パブリシティ権とは、顧客吸引力を中核とした肖像の持つ財産的権利であるとしていた。こうした考えからは、財産権侵害に対する損害賠償請求権は認めうるものの、差し止め請求権等が発生するのは著作権その他の実定法による定めを要し、かつそれは多くの場合人格権侵害を伴う場合とされてきた。
 本判決は、財産権侵害だけでなく人格権侵害の側面をも有することを明示し、差し止め請求権をも肯定した。が、両権利の関係に関しては詳細な言及を避けており、今後の課題とされている。
判例全文
line
11月28日 クルーザー写真無断掲載事件
   神戸地裁伊丹支部/判決・請求一部認容、一部棄却
 原告は本件クルーザーの所有者であり、経営するホテルのシンボルとして利用客の観光用などに使用していた。被告は本件クルーザーを輸入し、原告の前の所有者に販売した業者であり、その許可を得て同艇の写真を撮影し、被告の宣伝広告のためクルーザー専門雑誌に掲載した。これに対して原告は、本件クルーザーの写真が船名入りで専門誌に掲載されたことにより、本件クルーザーが売りに出されている、原告のホテルも経営悪化で売りに出される、といった噂が広まり、原告の営業上の名誉が毀損されたとして550万円の損害賠償を請求した。
 判決は、「原告は、本件クルーザーの所有者として、同艇の写真が第三者によって無断でその宣伝広告等に使用されることがない権利を有していること明らかである。」「被告は、(原告が買ったことを知った時点で)新所有者である原告に対し、あらためて写真の雑誌掲載についてその承諾を取るべき義務があった」「写真の掲載に当たってはその所有者名も明示すべきであった」などと判示する一方、掲載誌には中古艇の販売記事が別にあり被告の広告である本件クルーザーの写真とは区別できたとしても、現に原告のホテルに読者から問い合わせがあったから名誉が侵害されたことは明らかとして、100万円の損害賠償を認めた。
判例全文
line
12月17日 木目化粧紙事件(2)
   東京高裁/判決・控訴一部認容、一部棄却(確定)
 本件は、木目化粧紙を製作し家具用化粧板(原告製品)として販売している印刷会社である控訴人が、原告製品をそのまま写真撮影して製作したデッドコピイである被告製品を販売した被控訴人らに対し、被告製品の製造・販売・頒布の差止及び損害賠償を求める事案である。
 判決は、原審同様、原告製品の著作物性を認めず著作権に基づく請求は認めなかった。しかし、控訴審において追加された不法行為(民法709条)の成立を認容し、差止請求は認めなかったものの損害賠償請求を認めた。
 損害額は、被告製品の販売により控訴人が行なった値下額の合計2051万715円と算定した。
判例全文
line
12月19日 法政大学懸賞論文事件(2)
   東京高裁/判決・控訴一部認容、一部棄却
 本件は、私立大学Yの学生Xが、X執筆の懸賞論文のY発行雑誌への掲載出版および出版の際の(1)送り仮名の変更 (2)読点の切除 (3)中黒点から読点への変更 (4)統計数値の修正 (5)調査票など論文の一部の切除 (6)注記内の改行の省略等の改変が、それぞれXの複製権、同一性保持権を侵害するとして、Yに対し、損害賠償及び謝罪広告を求めた事案である。
 主な争点は、出版許諾の有無及び上記改変が「やむを得ない」改変(著作権法20条2項四号)にあたるかである。
 控訴審は、原判決同様、Xの黙示の出版許諾を認め複製権侵害を否定した。そして「やむを得ない」改変にあたるには、利用の目的及び態様において改変の必要性が20条2項1号二号と同程度に存することが必要として厳格解釈し、原判決が「やむを得ない」とした(1)(2)(3)(6)も「やむをえない」改変とはいえないとして、同一性保持権侵害を認めた。
 その上で、改変による論文内容等への影響等を勘案し、原判決認容額30万円を6万円に減額した。
判例全文
line


 

日本ユニ著作権センター TOPページへ