判例全文 line
line
【事件名】法政大学懸賞論文事件(2)
【年月日】平成3年12月19日
 東京高裁 平成2年(ネ)第4279号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁昭和61年(ワ)第2867号)

判決
控訴人 X
右訴訟代理人弁護士 大口昭彦
被控訴人 学校法人法政大学
右代表者理事 Y
右訴訟代理人弁護士 小谷野三郎
同 武内更一
同 芳賀淳


主文
 原判決を次のとおり変更する。
 被控訴人は控訴人に対し、金6万円及びこれに対する昭和61年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 控訴人のその余の請求及び当審における予備的請求を棄却する。
 訴訟費用は第1、2審を通じてこれを10分し、その9を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実
第1 当事者の求めた裁判
一 控訴人(第1審原告)
 「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し金220万円及びこれに対する昭和61年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は、その費用をもって、控訴人のために、株式会社朝日新聞社東京本社発行の朝日新聞全国版朝刊社会面広告欄に、2段抜き、幅5センチメートルの大きさで、原判決別紙記載の内容の謝罪広告を1回掲載せよ。訴訟費用は第1、2審共被控訴人の負担とする。」との判決及び第2項について仮執行の宣言
二 被控訴人(第1審被告)
 「本件控訴を棄却する。控訴人の当審における請求を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決
第2 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次に附加するほか、原判決記載のとおりであるから、これをここに引用する(なお、原判決別表番号1、5、8、9、11、15、16、29、52及び53に係る不法行為に基づく損害賠償請求は、第1審判決に基づく損害賠償金の受領を理由として取り下げられた。)。
一 控訴人の主張
1 複製権の侵害に関する請求について
(一)控訴人の黙示的承諾を肯定した原判決の認定判断の誤り
 原判決は、昭和58年1月20日に行われた被控訴人大学懸賞論文授賞式及び受賞祝賀会の席上における被控訴人職員Aからの掲載申入れに対する控訴人の黙示の承諾により、控訴人執筆に係る主題を「栢野晴夫先生追悼論文・・過疎地域青年のUターン行動と生活意識の変容」とする研究論文(以下「本件論文」という。)を被控訴人発行の雑誌「法政」(以下「本件雑誌」という。)へ掲載する合意が成立したと認定しているが、右認定は事実の評価を誤るものである。すなわち、右席上におけるやりとりは、前記Aの証言からも明らかなように、掲載許諾においては通常必ず同意されるところの校正のスケジュール等に関する内容などの事項は全くなく、ただ前記Aからの一方的な申入れがあっただけにすぎないのである。控訴人としては、祝賀会という性格の場で、本件論文の掲載という重要な話題が持ち出されるなどということは、全く予想すらしていなかったところであるから、黙示の承諾が成立する余地はないのであり、原判決の前記認定は失当である。控訴人が被控訴人に送付した乙第10号証の1ないし3は、本件論文が一方的に掲載されるおそれがあったため、送付したものであり、黙示の承諾の根拠となるものではない。
(二)不当利得返還請求(当審における予備的新請求)
 仮に、複製権の侵害による不法行為責任が認められないとしても、控訴人は、以下に述べるように、被控訴人に対して不当利得返還請求権を有する。
 すなわち、控訴人が本件論文の掲載を被控訴人に対して許諾するに当たっては、本件論文が正確に掲載、刊行されることが許諾に当たっての動機となっていたのであり、そして、かかる動機が表示されていたことは、前記乙第10号証の3の記載内容に照らして明らかなところである。しかるところ、かかる動機と異なり不正確な論文が掲載、刊行されたものであるから、掲載許諾は錯誤により無効というべきである。ところで、掲載許諾が無効である以上、無償で本件論文を掲載するという受益を受けた被控訴人には原状回復義務としての不当利得返還義務が発生するものであり、しかも、前記錯誤の原因は被控訴人において作出したものであるから、被控訴人は悪意の受益者というべきであるところ、被控訴人の受益と因果関係を有する控訴人の受けた損害は前記不法行為に基づく損害賠償請求における損害額と同額である。
 よって、控訴人は、被控訴人に対して、予備的請求として、不当利得返還請求権に基づき、前記の不法行為に基づく損害賠償請求におけると同額の損害賠償金の支払いを求める。
2 同一性保持権の侵害に関する請求について
 原判決は、本件論文と本件雑誌の記載との間に客観的相違があることは認めながら、その一部分について「この変更によって原告論文の当該部分の意味内容に格別の違いが生ずるものとは認められず、著作物の同一性を実質的に害するものとはいえない」と判示し、被控訴人による改変行為の違性法、有責性を否定しているが、以下に述べるように誤っている。
 すなわち、原著作と出版物との間に客観的な相違が存在する場合には、原著作者の人格権に対する侵害がなされたものと評価すべきであり、かかる侵害が許容されるのは、著作権法が限定列挙している教科書への掲載などの一定の社会的相当性が明白に認められる場合に限られるのである。そして、本件においては、以下に述べるように、何ら被控訴人の侵害行為を合理化するに足りる理由はない。
(一)被控訴人は送り仮名変更の正当化理由として、前記変更が国語審議会の見解に準拠していることを根拠として主張しているが、かかる見解に拘束力を認めるべきかについては多くの議論のあるところであるのみならず、同審議会の用法自体においても変遷があり必ずしも一定していないのであるから、かかる見解に国民が従わなければならない義務は全くなく、右主張は失当である。
(二)読点の切除についてみると、被控訴人主張のような読点を切除した「……等……」との表記の方が一般的であるとはいえても、控訴人の採用した「……、等……」の表記が誤りであるとはいえず、また、表記上の効果としても、後者の表記法を採用することにより挙示されたものの個別性を印象づけるという効果が期待できるものであるから、前記の切除は正当ではない。
(三)被控訴人は改変の正当性を根拠付けるために、本件雑誌における表記統一の必要性を主張するが、右雑誌の掲載記事相互間には作者、記事の内容、趣きにおいて全て異なるのであり、むしろこれらの種々の態様の記事を含めて読者に提供するのが本件雑誌の使命であるともいえることからすると、右主張は何ら根拠がない。
 以上のように、原判決が同一性保持権の侵害を否定した部分についても、違法な侵害に当たることは明らかであるから、右判断が誤りであることは明らかである。
3 原状回復措置について
 原判決は、一定額の慰謝料の請求を認容したが、原状回復措置についてはこれを否定した。しかし、控訴人の真意は損害賠償請求にあるのではなく、低下した社会的評価の回復であり、この意味で謝罪広告の掲載こそが研究者を目指していた控訴人にとって、その被害を回復する上での不可欠な措置であるから、これを否定した原判決は失当である。
二 被控訴人の主張
 控訴人の当審における予備的請求は以下に述べるとおり理由がない。すなわち、控訴人は本件論文掲載契約は、本件論文が正確に掲載、刊行されることを動機として締結され、右動機は契約締結時点において表示されていたと主張するが、原判決が正当に認定した黙示の承諾が成立した時点において、かかる動機が表示されていたものとは認められないのであるから、右主張は失当である。
 また、不当利得返還請求権の発生要件である損失は、利得と直接的因果関係を有することを要するところ、被控訴人は本件論文を営利を目的としていない学内機関誌としての本件雑誌に掲載したものであるから、これによって、被控訴人に利得が生じたものとはいえず、したがって、利得がない以上、これと因果関係を有する損失が控訴人に生じたとは認め難いところである。また、控訴人は、被控訴人は悪意であると主張するが、前記のように被控訴人は本件掲載契約が錯誤により無効となることを認識していたものではないことは明らかであるから、悪意であるとはいえない。
 したがって、いずれにしても、控訴人の当審における予備的請求は理由がない。
第3 証拠関係
 原審及び当審の証拠目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由
一 原判決30頁3行目ないし31頁1行目までを引用する。
二 複製権の侵害を理由とする請求について
1 原判決34頁末行「右1(三)認定の」ないし35頁6行目」ことができる。」までを以下のように訂正するほか、31頁2行目ないし36頁4行目までを引用する。
 前記1(三)に認定したように、控訴人は昭和58年1月20日に開催された第5回被控訴人大学懸賞論文授賞式及び受賞祝賀会において、右懸賞論文の事務を担当していた同大学学務部学務課職員のAから本件論文を本件雑誌へ掲載することになった旨の申入れを受けたのに対して何らの異議を述べていない上、その後、前記1(四)に認定したように、本件論文の本件雑誌への掲載を前提とした内容の書簡を被控訴人大学宛に送付していることからすると、控訴人は、前記の受賞祝賀会の席におけるAからの論文掲載の申入れに対して、黙示の承諾をしたものと推認するのが相当というべきである。控訴人は、前記Aとの話においては、掲載許諾において通常は必ず同意されるところの校正のスケジュール等に関する内容などの事項は全くなく、ただ前記Aからの一方的な申入れがあったにすぎないと主張するが、かかる内容が確定されなければ掲載許諾の合意が成立し得ないものとは解されないから、右主張は採用できないし、控訴人は前記受賞祝賀会における掲載許諾を前提とした書簡を被控訴人に送付していることは前述のとおりである以上、前記Aからの一方的な申入れがあったにすぎないとすることはできず、控訴人の前記主張は採用できない。
2 予備的(不当利得返還)請求について
 控訴人は、本件論文の掲載を被控訴人に対して許諾するに当たっては、本件論文が正確に掲載、刊行されることがその動機となっていたのであり、そして、かかる動機は表示されていたところ、不正確な論文が掲載されたものであるから、錯誤があったとして、本件論文の掲載許諾は無効であり、掲載により利得を得た被控訴人に対し不当利得返還請求権が発生すると主張する。
 そこで、右請求について検討するに、本件論文の掲載許諾は、前記の受賞祝賀会の席における前記Aとの話の中で成立したものであることは前記認定のとおりであるところ、右席上においては、本件論文の掲載方法等に関する話が一切されていないことは原審証人Aの証言及び同控訴人本人尋問の結果から明らかである。
 ところで、論文等の著作物の雑誌等への掲載許諾に当たっては、特段の合意がない以上、当該著作物の内容を正確に掲載することを内容とするものであることは、当事者の合理的な意思解釈として当然のことというべきであり、本件においても、これを別異に解釈する特段の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。このことは、現実に掲載された内容が、結果的に正確性を欠いていたからといって、これにより債務不履行等の問題が生ずるのは格別、かかる事情により左右されるものでないことはいうまでもないところである。
 そうすると、本件論文の正確な掲載を掲載許諾の前提とした控訴人の意思に何らの錯誤はないから、控訴人の主張はその前提を欠いており、その余の点について判断するまでもなく、当審における予備的請求は失当というべきである。
三 同一性保持権の侵害を理由とする請求について
1 原判決36頁5行目ないし40頁末行まで及び42頁5行目ないし45頁5行目までを引用する。
2 原判決41頁1行目ないし42頁4行目までを以下のように訂正する。
 原判決別表番号3、28、35及び50は、いずれも送り仮名の変更であり、同2、4、7、10、13、14、18、19、30、34、44、45及び49はいずれも「……、等」とある部分の読点の切除であり、同23ないし25、38、39、41及び42はいずれも中黒「・」を読点に変更したものであり、同20、22及び37は改行の省略であることは当事者間に争いがない。
 ところで、著作権法20条1項は著作者はその著作物及び題号について同一性を保持する権利を有するとして、いわゆる同一性保持権を規定しているものであるが、同項にいうところの、著作物及び題号についてのその意に反する「変更、切除その他の改変」とは、著作者の意に反して、著作物の外面的表現形式に増減変更を加えられないことを意味するものと解するのが相当であるところ、かかる見地からみると、被控訴人の前記各行為が本件論文の外面的表現形式に増減変更を加えたものであることは、明らかというべきである。
 そこで進んで、被控訴人のかかる行為が著作権法(昭和60年法律第62号による改正前のもの)20条2項3号の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らして〈「て」は不要?〉やむを得ないと認められる改変」に当たるか否かについて検証することとする。
 著作権法は、著作物は、著作者の人格の反映であることから、前述のように、著作者の意に反する著作物に対する変更、切除、改変等の行為を禁止し、著作物の同一性を保持することにより著作者の人格権の保護を図っているものである。しかしながら、他方、かかる同一性保持権を厳格に貫いた場合には当該著作物の利用上支障が生じ、かつ、著作権者〈「著作権者」は「著作者」の誤?〉においても同一性保持権に対する侵害を受忍するのが相当であると認められる場合については、同条2項において、著作権者〈「著作権者」は「著作者」の誤?〉の意思に係らしめず、その同意を得ることなく変更、切除、改変等の行為が許容される例外的場合を規定しているところである。これによれば、同項1号においては、用字、用語等において多くの教育的配慮が要請される教科用図書、すなわち、小学校、中学校又は高等学校その他これらに準ずる学校における教育の用に供される検定済図書等に著作物を利用する場合及び著作物を学校向けの放送番組において放送する場合又は当該放送番組用の教材に掲載する場合を、同項2号においては、主として居住という実用的目的に供される建築物の増築、改築、修繕又は模様替えの場合を、それぞれ限定しているところである。
 そこで、同項3号における「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らして〈「て」は不要?〉やむを得ないと認められる改変」の意義についてみると、同条2項の規定が同条1項に規定する同一性保持権による著作者の人格的利益保護の例外規定であり、かつ、例外として許容される前記の各改変における著作物の性質(主として前記2号の場合)、利用の目的及び態様(前記1号、2号)に照らすと、同条3号の「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、利用の目的及び態様において、著作権者〈「著作権者」は「著作者」の誤?〉の同意を得ない改変を必要とする要請がこれらの法定させられた例外的場合と同程度に存在することが必要であると解するのが相当というべきである。
 以上の観点から被控訴人のした本件改変の正当性に関する前記主張をみると、前記送り仮名の変更については、日本新聞協会の新聞用語懇談会が取り決めた方式に準拠したもので、広く一般に通用する用語法に従ったものであるとし、同読点の切除については、一般的な用例に準拠したものであるとし、また、前記中黒「・」の読点への変更については論述内容の誤解の防止及び他の論文との表記の統一の観点から行ったものであり、さらに、前記改行については当該箇所においては改行の必要性が認められず、行数の削減にもなるとの観点から行ったものであるとするもので、いずれも前記の3号にいうところのやむを得ない改変に当たると主張するものである。
 しかしながら、本件論文は大学における学生の研究論文であり、また、本件雑誌が大学生を対象としたものであることは、弁論の全趣旨により明らかであることからすると、利用の目的において、教科用の図書の場合と同様に前記のような改変を行わなければ、大学における教育目的の達成に支障が生ずるものとは解し難いし、また、前記のような性格の論文において、他の論文との表記の統一がいかなる理由で要請されるのかも明確ではない。
 そうすると、被控訴人の主張するところからは、かような著作物の利用の目的及び態様に照らし、本件論文の掲載に当たって、前記の著作権者〈「著作権者」は「著作者」の誤?〉の同意を得ない改変の必要性が例外的に許容されている1号及び2号の場合と同程度に存したものと解することは到底困難というべきであるから、かかる改変が著作権法20条2項3号の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らして〈「て」は不要?〉やむを得ないと認められる改変」に当たるとすることはできない。そして、このことは、仮に、前記のような改変により、当該部分の実質的意味内容を害するものではないとしても、同一性保持権が外面的表現形式に係るものであることからすると、何ら異なるところではないというべきである。
3 原判決45頁5行目「いえない。」の次に、以下のとおり附加する。
 なお、原判決別表番号17は中黒「・」の切除、同31は読点の加入、同40、41は読点の切除であるが、いずれも前記のように本件論文の原稿において、中黒「・」、読点について複数の共通した表現形式が用いられている箇所を改めたものとは異なり、その前後の文章の脈絡からみて単なる誤植であって改変とまで認めるのは相当ではない。また、同番号35は本件論文の原稿に「決って」とあるのを「決まって」と掲載したものであるが、同番号32によれば、右原稿の他の箇所では「決まって」と表現されているから、右35はこれに合わせ送り仮名の表現を統一したものと解せられるのであり、もとより改変と認めることはできない。
4 原判決45頁6行目「被告の行為のうち、」の次に「原審が同一性保持権を侵害すると認めた」を加え、同頁7行目「については、」とある部分を、「のほか、別表番号2ないし4、7、10、13、14、18ないし20、22ないし25、28、30、34、35、37ないし39、41、42、44、45、49及び50に関する部分も」と訂正するほか、右6行目ないし同頁8行目までを引用する。
5 原判決45頁9行目ないし46頁8行目までを次のように訂正する。
 当審が前記三2により認定した著作者人格権に対する侵害行為の内容は、送り仮名の付し方の変更、読点の切除、中黒の読点への変更及び改行の省略であるところ、著作物における送り仮名の付し方、読点の種類・位置、改行の要否等については、これを規制する法令の定めはなく、また、常に厳格な文法上の約束事があるとは限らず、広く著作者の個性に委ねられ、他人がみだりに容喙することが相当でない分野であるといわなければならない。しかしながら、これらの改変の結果により、当該部分の実質的な意味内容が変更したと認めることはできない上、被控訴人の改変行為においては、一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることからすると、右改変行為により本件論文の客観的価値が毀損されたものとは認め難い。また、侵害行為の態様においても被控訴人において控訴人が前記のような表記方法を厳守していることを知りながら、殊更にこれを無視して前記改変を行ったものと認めるに足りる証拠はなく、かえって、かかる事情を知らないまま読者により分かり易い表現にするとの観点から一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることは既に認定したとおりである。加えて、被控訴人の前記改変により控訴人の社会的評価が著しい影響を受けたものと認めるに足りる証拠は全くない。
 以上のような、侵害行為が本件論文の実質的な内容及び控訴人に対する社会的評価に及ぼした影響の程度、侵害行為の態様及びその動機等の諸事情を総合勘案すると、被控訴人の前記改変行為により、控訴人が被った精神的損害に対する慰謝料は5万円が相当であり、また、控訴人の弁護士費用のうち被控訴人の侵害行為と相当因果関係がある損害として被控訴人の負担すべき額は1万円が相当であると認められる。
 したがって、控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求は金6万円及びこれに対する不法行為後の日であることが明らかな昭和61年3月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるというべきである。
6 控訴人は、本件改変行為により控訴人の低下した社会的評価を回復するためには、謝罪広告が不可欠であると主張するところ、原判決別表番号1、5、8、9、11、15、16、29、52及び53に係る部分については、前記認定の侵害行為の内容、その程度及びその態様に加えて、本件雑誌の学内誌としての性格及びその配布状況等に照らすと、損害賠償に加えて謝罪公告〈「公告」は「広告」の誤?〉の掲載まで必要とするとは認め難く、また、原判決別表番号2ないし4、7、10、13、14、18ないし20、22ないし25、28、30、34、35、37ないし39、41、42、44、45、49及び50に係る部分については、前項に述べた諸事情に照らせば、かかる請求の必要性が認められないことは明らかというべきである。
四 以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は金6万円及びこれに対する昭和61年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める限度において認容すべきであり、その余は当審における予備的請求も含めて失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更し、仮執行の宣言については相当ではないからこれを付さないこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、92条を適用して主文のとおり判決する。

東京高等裁判所民事第18部
 裁判長裁判官 松野嘉貞
 裁判官 田中信義
 裁判官 杉本正樹
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/