判例全文 | ||
【事件名】木目化粧紙事件(2) 【年月日】平成3年12月17日 東京高裁 平成2年(ネ)第2733号 木目化粧紙発行差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁昭和60年(ワ)第1527号) 判決 控訴人(原告) 大日本印刷株式会社 右代表者代表取締役 X 右訴訟代理人弁護士 相馬功 同 井上玲子 被控訴人(被告) 竹林商事株式会社 右代表者代表取締役 Y 右訴訟代理人弁護士 吉元徹也 主文 一 原判決を次のとおり変更する。 二 被控訴人は控訴人に対し、金1,454万3,200円及び内金285万7,185円に対する昭和62年7月9日から、内金398万1,530円に対する同年8月1日から、内金770万4,485円に対する平成3年4月1日から各支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払をせよ。 三 控訴人のその余の請求を棄却する。 四 訴訟費用は第1、2審を通じてこれを3分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 五 この判決は、第2項に限り、仮にこれを執行することができる。 事実 第1 当事者が求める裁判 一 控訴人 「原判決を取り消す。被控訴人は、原判決別紙目録(一)に表示されている木目化粧紙を製造、販売又は頒布してはならない。被控訴人は控訴人に対し、金1,454万3,200円及びこれに対する昭和62年7月9日から右支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言。 二 被控訴人 「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決 第2 当事者の主張 左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。 一 控訴人 1 本件原画は、著作物性を有する。 すなわち、木目化粧紙を貼った構造材において、建材としての機能は構造材によって果たされることはいうまでもない。したがって、木目化粧紙には実用的機能は求められておらず、木目化粧紙は、専ら、高級感のある美感を与えることを企図して製作される。このためにこそ、木目デザイナーは、特定のコンセプト(概念。例えば、わび、さび、ノスタルジー)を設定し、このコンセプトの表現に相応しい基本トーンとなる原稿(天然木の部分)を選択した上、アクセントとして節や斑を使用することによってリズム感を変化させ、併せて、寄木あるいは象眼等の技法を施すなどの工芸工夫を凝らしつつ、木目化粧紙の図案の創作を行う。したがって、同一の天然木を使用しても、木目デザイナーの個性によって全く異なる原画が製作されることになるのであって、木目化粧紙が思想又は感情を創作的に表現した美術の範囲に属することは明らかである。現に、控訴人の木目デザイナーが製作した木目化粧紙は、ショールームに展示され、美的観賞の対象になっている。 この点について、原判決は、本件原画の模様が天地切れ目なく連続するようにエンドレス化され、かつ、製品である化粧紙の色調を多様になし得るよう彩色されていないことを指摘している。すなわち、原判決は、このように実用品特有の制約が多いことを、本件原画の著作物性を否定する理由としているものと理解される。 しかしながら、エンドレス化は、ロールを用いて実用品を大量生産する場合に必要とされる技法であるが、例えば布地のデザイン(テキスタイルデザイン)は、オリジナルデザイナーとは別のスタッフによって、模様が天地切れ目なく連続するように、通常二インチ程度の部分についてエンドレス化の作業が行われる。これに対し、本件原画のエンドレス化は、オリジナルデザイナー自身が、基本単位である原画が製品である化粧紙にどのように展開するかを考え、独創性を最も発揮しなければならない複雑な工程であり、同じ天然木目材料を用いても個々のオリジナルデザイナーが駆使するエンドレス化の技法によって全く別の原画が製作されるのであるから、エンドレス化されている点を本件原画の著作物性を否定する理由とするのは誤りである。 また、本件原画に対しては、特定の顧客による色調の指示が何回も繰り返され、色調の修正が何回も繰り返された結果、ただ一つの色調の化粧紙が製品化されるのであって、本件原画から種々の色調の化粧紙が製品化されるのではない。そして、木目化粧紙のデザインが無彩色で行われるのは、木目模様による特定のコンセプトの表現を、色に邪魔されることなくより的確に追求するためであるから、無彩色である点を本件原画の著作物性を否定する理由とすることも誤りである。 2 仮に、本件原画について著作権が認められず、かつ、本件原版の所有権に含まれる無体物の側面から生ずる間接的排他的な支配権能が認められないとしても、原告製品を写真撮影しそのまま製版印刷して製造された被告製品を販売する被控訴人の行為は、不法行為に該当する。 すなわち、原告製品は、専ら高級感のある美感を与えることを企図し製作されたものであり、控訴人の原告製品の後記販売価格はその財産的価値に基づいて形成された公正な価格である。しかるに、被控訴人は、原告製品を完全に模倣した被告製品を製作し、これを原告製品と競合する販売地区において廉価で販売することによって原告製品の販売価格の値下げを余儀なくさせてその公正な価格による販売を阻害し、もって控訴人の営業を侵害したものである。 なお、被控訴人代表者は陳述書(乙第21号証)において、木目化粧紙はヒット作が出たら相互に真似し合うのが業界の慣習である、と述べている。したがって、被控訴人が、控訴人が有する右の法的保護に値する利益を侵害することについて故意を有していたことは明らかである。 原告製品を模倣した被告製品を被控訴人が販売したことによって控訴人が被った損害は、左記のとおりある。 原告製品は、福岡県大川市所在の訴外株式会社オーケイファイバー(旧商号・株式会社オーケイ紙店。以下「訴外会社」という。)の注文によって製造され、控訴人の卸売先である訴外大日本商事株式会社(以下「大日本商事」という。)を通じて訴外会社に販売されているものであって、控訴人と訴外会社との間で、家具以外に使用する場合は原告製品を何人に販売してもよいが、家具に使用する場合は訴外会社のみに販売すること(このように特定の者以外に販売しない柄を「とめ柄」という。)が合意されていた。しかるに、被控訴人が大川地区において被告製品を廉価で販売したため、化粧紙の価格が値崩れし、控訴人は、訴外会社の強い要求によって、原告製品の大日本商事に対する卸売価格を別紙A表記載のように値下げせざるを得なかった(単価は1メートル当たり。以下同じ) しかしながら、被控訴人による被告製品の販売がなければ、控訴人は原告製品の販売を本来の販売価格で継続することができ、それによって別紙B表記載の総販売高を得たはずである。したがって、控訴人は、別紙B表の総販売高とA表の総販売高の差である金2,051万0,715円相当の得べかりし利益を失ったものというべきである。 被控訴人の被告製品の販売によって原告製品の価格が値崩れした経過は、左記のとおりである。 @ コート紙 訴外会社は、大日本商事から仕入れたコート紙を、大川地区の家具メーカーに対し、三尺巾を単価57円、4尺巾を単価70円で小売りしていた。しかるに、被控訴人が、昭和59年11月ころから、同地区の家具メーカーに対し、3尺巾を単価43円、4尺巾を単価51円で小売りするに至った結果、訴外会社は、昭和60年2月以降、3尺巾を単価44円、4尺巾を単価55円に値下げすることを余儀なくされた。 A チタン紙 訴外会社は、大日本商事から仕入れたチタン紙を、大川地区の家具メーカーに対し、3尺巾を単価200円、4尺巾を単価240円で小売りしていた。しかるに、被控訴人が、昭和59年11月ころから、同地区の家具メーカーに対し、3尺巾を単価165円、4尺巾を単価185円で小売りするに至った結果、訴外会社は、昭和60年2月以降、3尺巾を単価170円、4尺巾を単価190円に値下げすることを余儀なくされた(被控訴人が主張する別紙C表記載のチタン紙の単価(3尺巾が190円、4尺巾が210円)は、事実に反する。)。 二 被控訴人 1 控訴人は、本件原画のエンドレス化の作業はオリジナルデザイナー自身が独創性を最も発揮せざるを得ない複雑な工程であるから、エンドレス化されている点を本件原画の著作物性を否定する理由とするのは誤りである、と主張する。 しかしながら、木目化粧紙のエンドレス他は、いわゆる木目原稿の継目部分の模様及び材質感が近似していなければ不可能である。したがって、エンドレス化の作業は、何人が行ってもほぼ同一の結果にならざるを得ないから、控訴人の右主張は失当である。 また、控訴人は、本件原画からはただ一つの色調の化粧紙が製品化されるのであって、本件原画から種々の色調の化粧紙が製品化されるのではないから、無彩色である点を本件原画の著作物性を否定する理由とするのも誤りである、と主張する。 しかしながら、木目化粧紙の版が三原色版でなく特色版で作られるのは、同一模様で様々な色調の化粧紙を製造するためであるから、控訴人の右主張も失当である。 2 控訴人は、仮に本件原画について著作権が認められず、かつ、本件原版の所有権に含まれる無体物の側面から生ずる間接的排他的な支配権能が認められないとしても、原告製品を写真撮影しそのまま製版印刷して被告製品を製造する被控訴人の行為は不法行為に該当する、と主張する。 しかしながら、木目化粧紙の模倣製作販売が不法行為であるとするならば、大企業が多大の経費を投じて開発した分野には中小企業が全く進出し得ない結果になり、取引の自由な競争の観点から不当というべきである。 そして、木目化粧紙の市場には原告製品及び被告製品のほかにも膨大な量の木目化粧紙が存在する。したがって、被控訴人による被告製品の販売と、原告製品の販売価格の値下げとの間に、直接の因果関係はない。 なお、昭和59年12月から平成3年3月までの被告製品の販売実績は別紙C表記載(同表における「薄紙」は控訴人主張の「コート紙」と同一であり、「厚紙」は控訴人主張の「チタン紙」と同一である。)のとおりであって、厚紙の単価は原告製品(チタン紙)よりも高額である。 第4 証拠関係<略> 理由 一 請求原因1(控訴人及び被控訴人の業務内容)は、当事者間に争いがない。また、請求原因2のうち控訴人が原告製品を販売していることは当事者間に争いがなく、請求原因2のその余の事実は、<証拠略>によって認めることができる。 二 控訴人は、本件原画が著作物性を有することを前提として、請求の原因4記載の被控訴人の行為(被控訴人が昭和59年11月中旬ころから、原告製品をそのまま写真撮影し、製版印刷して被告製品を製作し、これに「カジアルウッド」という商品名を付して販売している行為)は控訴人が本件原画に対して有する複製権を侵害するものであり、仮に右権利侵害が認められないとしても、被控訴人の右行為は控訴人の本件原版の所有権に含まれる無体物としての側面から生じる間接的排他的な支配権能を侵害する旨主張し、主位的に著作権侵害に基づき、予備的に本件原版の所有権に基づき、被告製品の製造、販売及び頒布の差止め並びに損害賠償を請求する。 しかしながら、当裁判所も、本件原画は、産業用に量産される実用品の模様であって、著作権法第2条第1号にいう「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とはいえないから著作物性を有しないこと、有体物である本件原画に対する所有権は、有体物としての排他的な支配権能にとどまるものであり、被控訴人の前記行為は所有権侵害に当たらないから、控訴人の前記請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その点に関する認定、判断は次のとおり付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、ここに原判決第11丁表第8行ないし第16丁裏第9行の記載を引用する。 著作権法は、第2条第1項第1号において著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定した上、同条第2項において「この法律にいう美術の著作物には、美術工芸品を含むものとする。」と規定している。右第2項に規定は、いわゆる応用美術、すなわち実用品に純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美の表現)の技法感覚などを応用した美術のうち、それ自体が実用品であって、極少量製作される美術工芸品を著作権法による保護の対象とする趣旨を明らかにしたものである。著作権法は、応用美術のうち美術工芸品以外のものについては、それが著作権法による保護の対象となるか否かを何ら明らかにしていないが、応用美術のうち、例えば実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものは、本来、工業上利用することができる意匠、すなわち工業的生産手段を用いて技術的に同一のものを多量に生産することができる意匠として意匠法によって保護されるべきであると考えられる。けだし、意匠法はこのような意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(同法第1条)ものであり、前記の品の形状、模様、色彩又はそれらの結合は正に同法にいう意匠(同法第2条)として意匠権の対象となるのに適しているからである。もっとも、実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものであっても、例えば著名な画家によって製作されたもののように、高度の芸術性(すなわち、思想又は感情の高度に創作的な表現)を有し、純粋美術としての性質をも肯認するのが社会通念に沿うものであるときは、これを著作権法にいう美術の著作物に該当すると解することもできるであろう。 この点に関連して、控訴人は、木目化粧紙は実用的機能は求められておらず、専ら高級感のある美感を与えることを企図して製作されるのであり、同一天然木目材料を使用してもデザイナーの個性によって全く異なる原画が製作されるから、原判決が実用品特有の制約があることを理由に本件原画の著作物性を否定したのは誤りである旨主張する。 しかしながら、本件原画の製作過程は原判決第11丁裏第7行ないし第14丁表第8行記載のとおりであって、これらの工程には、実用品の模様として用いられることのみを目的とする図案(デザイン)の創作のために工業上普通に行われている工程との間に何ら本質的な差異を見いだすことができず、その結果として得られた本件原画(検甲第2号証)の模様は、まさしく工業上利用することができる、物品に付せられた模様というべきものである。そして、検甲第2号証を子細に検討しても、本件原画に見られる天然木部分のパターンの組合わせに、通常の工業上の図案(デザイン)とは質的に思なった高度の芸術性を感得し、純粋美術としての性質を肯認する者は極めて稀であろうと考えざるを得ず、これをもって社会通念上純粋美術と同視し得るものと認めることはできない。したがって、本件原画に著作物性を肯認することは、著作権法の予定していないところというべきである。 以上のとおりであるから、本件原画は著作物性を有するという控訴人の主張は採用できない。 三 控訴人は、本件原画について著作権が認められず、かつ、本件原版の所有権に含まれる無体物の側面から生ずる間接的排他的な支配権能が認められないとしても、原告製品を写真撮影しそのまま製版印刷して製造された被告製品を販売する被控訴人の行為は、不法行為に該当する旨主張するので、この点について判断する。 民法第709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。そして、人が物品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造販売することによって営業活動を行っている場合において、該物品と同一の物品に実質的に同一の模様を付し、その者の販売地域と競合する地域においてこれを廉価で販売することによってその営業活動を妨害する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。 これを本件についてみると、<証拠略>によれば、原告製品は、木目を寄木風に組んで天然の木目を幾何学化し、ところどころに天然木目のパターンをモンタージュ構成して作り出した本件原画を原版として着色・印刷したものであることが認められる。 そして、控訴人が被告製品を製作し、これに「カジュアルウッド」という商品名を付して販売していることは当事者間に争いがないところ、被告製品である検甲第42号証、検乙第1号証、同第26号証及び同第32号証と原告製品である前掲検甲第41号証、検乙第2号証、同第25号証及び同第31号証とを対比すると、被告製品の模様は、色調の微妙な差異を除けば、原告製品の模様と寸分違わぬ、完全な模倣(いわゆるデッドコピイ)であることが明らかである。 さらに、<証拠略>によれば、控訴人は、福岡県大川市所在の訴外会社との間において原告製品を家具に使用する場合は訴外会社のみに販売する(いわゆる「とめ柄」とする)ことを合意し、右合意に基づき卸売先の大日本商事を通じて訴外会社に原告製品を販売していたところ、被控訴人が、昭和59年11月中旬から右大川地区において、原告製品の完全な模倣品である被告製品を訴外会社の販売価格より安い価格で販売したため、当初の販売価格を維持することが困難となり、その結果、控訴人の大日本商事に対する卸売価格を値下げせざるを得ない事態を招来したことが認められる。そして、<証拠略>を総合すると、被控訴人は、原告製品の完全な模倣品である被告製品を右大川地区において販売することにより控訴人の営業活動を妨害する結果となることを予見しながら、あえて右販売行為を行ったものであり、被控訴人の自認する昭和59年12月から平成3年3月までの被告製品の販売数量は別紙C表記載のとおりであって、その合計数量は164万3,450米に及ぶことが認められる。 右認定事実によれば、控訴人は、原告製品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造販売することによって営業活動を行っているものであるが、被控訴人は、原告製品の模様と寸分違わぬ完全な模倣である被告製品を製作し、これを控訴人の販売地域と競合する地域において廉化で販売することによって原告製品の販売価格の維持を困難ならしめる行為をしたものであって、控訴人の右行為は、取引における公正かつ自由な競争として許されている範囲を甚だしく逸脱し、法的保護に値する控訴人の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。 <証拠略>には、本件のような海賊行為は控訴人自身が行ってきたところであり、化粧紙印刷業界において木目化粧紙の複製行為は慣習として認められてきた旨の記載が存するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はなく、これをもって被控訴人の前記行為が不法行為を構成しないとすることはできない。 したがって、被控訴人は控訴人に対し前記不法行為により控訴人が被った損害を賠償する責任を免れない。 控訴人は、被控訴人に対し、前記不法行為に基づき、損害賠償のほか被告製品の製造、販売及び頒布の差止めを請求する。 しかしながら、相手方の不法行為を理由に物の製造、販売及び頒布を差止める請求は、特別にこれを認める法律上の規定の存しない限り、右不法行為により侵害された権利が排他性のある支配的権利である場合のみ許されるのであって、本件のように不法行為による被侵害利益がこのような権利ではなく、取引社会において法的に保護されるべき営業活動にとどまるときは、相手方の不法行為を理由に物の製造、販売及び頒布を差止める請求をすることはできないというべきである。 したがって、控訴人の右差止請求は理由がない。 そこで、前記不法行為により控訴人が被った損害額について検討する。 <証拠略>によれば、昭和59年11月中旬ころ控訴人は大日本商事に対し原告製品を@コート紙3尺巾(1米当たり、以下同じ。)47円、A同4尺巾50円、Bチタン紙3尺巾140円、C同4尺巾155円で卸売りし、大日本商事は訴外会社に対し@を52円、Aを62円、Bを160円、Cを175円で卸売りし、訴外会社は福岡県大川地区において家具加工業者に@57円、Aを70円、Bを200円、Cを240円で販売していたこと、ところがそのころ被控訴人が原告製品の完全な模倣品である被告製品を右大川地区において訴外会社の販売価格より安い価格、すなわち@を43円、Aを51円、Bを165円、Cを185円で家具加工業者に販売したため、訴外会社は当初の販売価格で販売を継続することが困難となり、控訴人に対して強く値引きを要請し、控訴人もこれを受け入れざるを得なかったこと、その結果、控訴人は以後別紙D表「大日本印刷出値」欄記載のとおり原告製品の卸売価格を値下げして大日本商事に販売したこと、昭和59年1月から平成3年3月までの控訴人の原告製品の販売数量及び販売価格は別紙A表記載のとおりであり、これを昭和59年11月中旬ころの価格で販売した場合の総販売高は別紙B表「総販売高」欄記載のとおりであって、右値引きをすることなく当初価格で販売した場合との差額は@につき1,342万3,660円、Bにつき542万9,855円、Cにつき165万7,200円合計2,051万0,715円であること、右値引きは被控訴人の被告製品の廉価販売によるものであって、この他の要因により右値引きを余儀なくされたような事情は存しないことが認められる。 <証拠略>には、被告製品の販売価格は前記認定の価格を含むが、平均すると、@43.7円、A49.1円、B173円、C197円であるとの記載が存するが、その記載どおりであるとしても、被告製品の廉価な販売により控訴人が原告製品の卸売価格を値下げせざるを得なかったとの認定を左右するものではない。また、<証拠略>には海賊版でなくとも類似柄が出現すれば単価は下落するのが通常であり、控訴人の卸売価格の値下げの原因が被告製品の販売によるとはいえないとする趣旨の記載があるが、前記認定事実に照らし、その原因が原告製品の販売地区において完全な模倣品である被告製品を廉化で販売したことによることは明白であり、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。 右認定事実によれば、控訴人の原告製品の総販売高と昭和59年11月中旬ころの価格で販売した場合の総販売高との差額合計2,051万0,715円は、被控訴人による前記侵害行為がなかったならば維持することができたであろう販売価格を維持できなかったことによる損害であって、控訴人は被控訴人に対し右得べかりし利益の喪失による損害賠償を請求できるというべきである。 したがって、被控訴人は控訴人に対し前記不法行為により控訴人が被った損害として2,051万0,715円を賠償する義務があるから、その内金1,454万3,200円及びこれに対する右不法行為による損害発生の日以後の遅延損害金を支払うべき義務がある。 控訴人は、右遅延損害金として控訴人の昭和62年4月3日付け「請求の趣旨及訴変更の申立書」が本件口頭弁論期日において陳述された日の翌日(右書面が同年7月8日の原審第15回口頭弁論期日において陳述されたことは、記録上明らかである。)から右支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による金員を請求するが、別紙A表及びB表によれば、同年7月8日までに発生したことが明らかな損害額は285万7,185円、同年7月31日までに発生したことが明らかな損害額は285万7,185円、同年7月31日までに発注したことから明らかな損害額は398万1,530円であり、その余の損害は平成3年3月31日までに発生したことが明らかな損害であるから、控訴人が本訴において請求し得る遅延損害金は、内金285万7,185円に対する昭和62年7月9日から、内金398万1,530円に対する同年8月1日から、内金770万4,485円に対する平成3年4月1日から右支払済みに至るまで年5分の割合による金員である。 四 以上のとおり、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は主文第2項掲記の範囲において理由があるから、これを全部棄却した原判決は一部失当である。よって、控訴人の本訴請求は主文第2項掲記の限度において認容し、その余の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言について民事訴訟法第96条、第92条、第196条第1項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所 裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市 |
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