裁判の記録 line
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1993年
(平成5年)
 
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1月25日 ブランカ写真掲載事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、被告らが制作・出版する月刊誌「ブランカ」に、カメラマンである原告が撮影した写真208点が掲載されたことについて、原告が被告に対し、主位的には著作権侵害の損害賠償を、予備的に使用許諾契約に基づく使用料支払いを求める事案である。
 判決は、被告らの法人著作・著作権譲渡の主張を認めなかった。しかし、相当な使用料の支払いを条件とする黙示の使用許諾の合意の成立は認めた。
 使用料は、表紙使用の1点が1万円、その余の207点は1点当たり5000円が相当と認めた。
 また、氏名表示権侵害の慰謝料35万円を認めた。
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3月16日 「チューリップ」・「コヒノボリ」事件(2)
   東京高裁/判決・一部変更、一部控訴棄却、附帯控訴棄却
 本件は、唱歌「チューリップ」及び「コヒノボリ」の歌詞は昭和6年頃に日本教育音楽協会の募集に応じて原告が作詞したものであるとして、日本音楽著作権協会及び同協会がこれら唱歌の作詞者として登録し著作権使用料を支払っている者らを被告として、著作者が原告であることの確認や本来受け取れるはずだった著作権使用料分の損害賠償、氏名表示権に基づく慰謝料等を請求した事案である。一審判決は、原告が各歌詞を創作した詳細な経過と被告らの主張に信用性が認められないこと等から原告を著作者と認め、ただし著作権については歌詞を募集した前記音楽協会に帰属しているとして、著作者の確認と氏名表示権侵害に基づく慰謝料として300万円を認めた。双方が控訴した控訴審は、あらためて著作者の認定を検討し、大筋において一審判決を支持したうえで、慰謝料については合計150万円が相当として賠償額を減額した限度で控訴を認めた。
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3月23日 TBS事件
   大阪地裁/判決・請求棄却
 山口組組長の地位を承継し、襲名したことを示す山口組五代目承継式の様子を撮影したビデオを、TBSのニュース番組で約4分間放送したことが、原告である五代目組長の本件ビデオに対する著作権(放送権)を侵害するとしてTBSを相手に提訴した事件。
 裁判所は、本件ビデオは映画の著作物でその製作に発意と責任を有する映画製作者は本件ビデオの撮影、編集にあたった映像会社であるとし、原告が事後に同映像会社から著作権の譲渡を受けたとしても、本件放送の時点では原告は本件ビデオの著作権者ではなかったとして本件請求には理由がないとした。さらに、本件ビデオの放送は、時事の事件報道のための適法利用(著作権法41条)の抗弁をみたすとし、この点からも理由はないとして、本件請求を棄却した。
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3月30日 「智惠子抄」事件(3)
   最高裁(三小)/判決・上告棄却(確定)
 原告(被上告人)は、高村光太郎の著作権を相続により取得した者である。
 被告(上告人)は、高村光太郎の詩集「智惠子抄」の企画を行った編集者(控訴審中に死亡し相続人が承継)である。
 当事者間において「智惠子抄」の編集著作権が高村光太郎、被告のいずれに帰属するかが争われた。
 判決は、「本件編集著作物である「智惠子抄」は、詩人である高村光太郎が既に公表した自らの著作に係る詩を始めとして、同人著作の詩、短歌及び散文を収録したものであって、その生存中、その承諾の下に出版されたものであることは、原審の適法に確定した事実である。そうすると、仮に光太郎以外の者が「智惠子抄」の編集に関与した事実があるとしても、格別の事情の存しない限り、光太郎自らもその編集に携わった事実が推認されるものであり、したがって、その編集著作権が、光太郎以外の編集に関与した者に帰属するのは、極めて限られた場合にしか想定されないというべきである。」と述べ、原審認定事実を改めて検討した上で、「智惠子抄」の編集著作権は高村光太郎に帰属すると判断した。
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4月15日 コンベヤベルトカバー設計図事件(2)
   大阪高裁/決定・変更
 Xはコンベヤベルトカバーの製造販売を行う会社である。Xは、元従業員であるYが、退職後Xと競業関係となるコンベヤベルトカバーの製造販売の営業を始めたため、不正競争防止法(平成2年法律第66号による改正後のもの)1条3項柱書一号又は四号(営業秘密に係る不正行為)及び民法709条に基づきコンベヤベルトカバーの製造販売の差止を求め、また、著作権法112条1項、2項に基づきコンベヤベルトカバー設計図の複製の差止と設計図の廃棄を求めた。原審がXの請求を却下したためXが抗告した。
 抗告裁判所は、Xのコンベヤベルトカバーに関する設計図は「秘密トシテ管理セラレル」ものであったことの疎明がないとして「営業秘密」に当たらないとし、不正競争防止法に基づく差止請求を否定した。また、民法709条は損害賠償請求権が発生するにすぎないとして差止請求は否定した。
 これに対し、コンベヤベルトカバー設計図の著作物性は認め、著作権に基づく設計図の複製禁止及び廃棄の請求は認めた。
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4月28日 岩田書体事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 Xは、岩田書体文字を一定区画内に記載したX作成の文字設計図について著作権を有するとして、本件設計図によってワープロ用の文字を複製し、第三者に譲渡しているYに対し、同行為の差止めを求めた。Yは、本件設計図の著作物性を争った。
 本件設計図は、フォント用紙に正方形の文字枠が細線で設定され、その枠外の上下左右の4箇所に文字枠の中心を示す短い線が枠に接して記載され、文字枠内に文字が墨で記載されているものである。
 裁判所は、正方形の文字枠や中心を示す線は、書体や一定区画における文字の配置の思想を表現する方法としてごく普通に用いられるものであって、正方形の文字枠や中心を示す線に創作性があると認めることはできないとした。また、設計図中の文字についても、通常行われる範囲の手法で記載したものであり、以前から存在している同種の文字に比べて顕著な特徴を有するものと認めることはできないとして、著作物性を否定した。
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6月25日 モリサワタイプフェイス事件
   東京地裁/決定・申立却下(抗告)
 
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8月30日 「ウォール・ストリート・ジャーナル」事件
   東京地裁/決定・変更(控訴)
 債権者は、日刊紙ウォール・ストリート・ジャーナルを発行する米国法人である。債務者は、英字新聞の抄訳文書を会員に有料で配布するサービスを提供する株式会社である。
 債務者は債権者の発行する新聞に依拠し、その記事を簡略化した文書を作成し、債権者新聞の記事とほぼ対応する順序で掲載して会員に提供していた。
 決定は、債務者文書の各項目が伝達しようとしている出来事はいずれも債権者新聞の記事に掲載された出来事であり、債権者新聞の記事に掲載されていない出来事が債務者文書に記載されていることはなく、またその配列もほぼ同一であることから、債務者文書は債権者が債権者新聞に対して有する編集著作権の翻案権を侵害するものであると判断した。そして、日々発行される債権者新聞について今後も同種侵害行為が予想されるため、債権者新聞が発行されることを条件に債務者文書の作成・頒布行為の予防を求めることができるとして、債務者文書の発行の差止めを認めた。
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8月30日 目覚め事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 本件は、「目覚め」と題する原告著作物のドラマ化をいったん企図した被告ら(テレビ局、製作会社、ドラマ脚本家)が、原告にドラマ化を断られた後に原告著作物のストーリーを改変し結末を変えてドラマ化しテレビ放送したことに対し、原告から翻案権、放送権、同一性保持権侵害等に基づき損害賠償及び謝罪広告を請求した事案である。裁判所は、原告著作物と被告らのドラマは、基本的なストーリー、登場人物やその性格等が共通しており、後半のストーリーは異なるものの、前半の類似点、共通点からすれば、原告著作物を読んだことがある一般人が被告らのドラマを視聴すれば、原告著作物をテレビドラマ化したもので、テレビドラマ化にあたり後半のストーリーを変えたものと容易に認識できる程度に類似しており、原告著作物の表現形式上の本質的特徴を直接感得し得るものであるとして、翻案権等の侵害を認め、損害賠償及び被告らが誠意ある措置を取っていないとして謝罪広告まで認めた。
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9月9日 三沢市勢映画事件(2)
   東京高裁/判決・取消(上告)
 本件は、青森県三沢市の市勢映画製作について同市から監督の委託を受けた原告が、結局完成しなかった同映画の製作のために撮影されたフィルムの著作権は原告に帰属すると主張して同市を被告として著作権の確認を求めた事案である。著作権法29条は映画の著作権について、映画の著作者(同法16条より映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者。一般的には監督)の映画製作への参加約束を条件として映画製作者に帰属することを定めているところ、一審東京地裁は、映画製作のいかなる段階、いかなる部分かを問わず未編集フィルムも29条の映画の著作物に当たり、著作権は映画製作者(三沢市)にあるとして原告の請求を棄却した。これに対して控訴審東京高裁は、映画の著作物と認められるためには映画が完成することが必要として、映画製作過程を経ないまま未編集の状態にある本件フィルムに収録された「映像著作物」の著作権は監督として撮影に関わった原告に帰属するとして、一審判決を取り消し、原告の請求を認めた。
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11月18日 岩田書体事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却、拡張請求棄却
 Xは、岩田書体文字を一定区画内に記載したX作成の文字設計図について著作権を有するとして、本件設計図によってワープロ用の文字を複製し、第三者に譲渡しているYに対し、同行為の差止めを求めた。Yは、本件設計図の著作物性を争った。
 本件設計図は、フォント用紙に正方形の文字枠が細線で設定され、その枠外の上下左右の4箇所に文字枠の中心を示す短い線が枠に接して記載され、文字枠内に文字が墨で記載されているものである。
 原審は、正方形の文字枠や中心を示す線は、書体や一定区画における文字の配置の思想を表現する方法としてごく普通に用いられるものであって、正方形の文字枠や中心を示す線に創作性があると認めることはできないとし本件設計図の著作物性を否定し、また、設計図中の文字についても、通常行われる範囲の手法で記載したものであり、以前から存在している同種の文字に比べて顕著な特徴を有するものと認めることはできないとして、著作物性を否定した。
 これに対して、Xが控訴したが、控訴裁判所も原審を概ね肯定し控訴を棄却した。
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12月1日 ベトナム報道批判評論事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却(上告)
 本多勝一氏(一審原告・控訴人)がベトナムに関する自著の中で紹介したベトナム愛国仏教会副会長の「談話」を、本多氏自身の認識・判断であるかのように要約し一部引用した上で批評した月刊誌「諸君!」の記事が、著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、名誉を棄損する等として、本多氏が出版社文芸春秋・執筆者らに対して、同誌への反論文・謝罪文の掲載と2200万円の損害賠償を求めた事件の控訴審。
 東京高裁は、「諸君!」の評論記事の前提となる引用が、その一部において原著作物と相違していても、全体的に考察してみて主要部分において原著作物の趣旨から逸脱していないと認められるときには、当該引用は著作権法32条1項の公正な慣行に合致しかつ引用の目的上正当な範囲内にあるとして、被控訴人による引用の抗弁を認めた。また、このように引用が公正な慣行に合致する場合は、著作者人格権侵害の関係では、「やむを得ない改変」20条2項として違法性が阻却されるとし、さらに名誉棄損についても一審を支持し違法性が阻却されるとして控訴を棄却した。
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12月7日 「三国志V」差止請求事件(2)
   東京高裁/判決・取消
 本件は、コンピュータ用ゲームソフト「三国志V」を製作販売する原告が、同ゲームソフトの登場人物の能力値を自由に改変できるプログラムを製造販売している被告に対し、同一性保持権侵害に基づき同プログラムの製造販売の差止めを求め訴訟提起するに際し、その訴訟の目的物の価格(それにより訴状に貼る印紙代が決まる)について、原告と裁判所の間で見解が相違した事案である。一審東京地裁は、差止対象となる被告プログラムの1年間の製造販売により被告が得るべき利益として480万円とみて、それに対応する収入印紙2万3400円の納付を命ずる訴状の補正命令を出し、補正に応じなかった原告の訴状を却下した。これに対し抗告審東京高裁は、同一性保持権は名誉権あるいは思想・表現の自由等に類する人格権であるということができ、これに基づく差止請求は直接経済的利益を受けるものではないとして、法律の規定する非財産権上の請求にあたり目的物の価格は95万円(印紙代8200円)であるとして、一審の却下命令を取り消した。
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12月24日 モリサワタイプフェイス事件(2)
   東京高裁/決定・取消(確定)
 Xは、書体の開発及びその開発した書体を使用した電算写植機の製造販売等を行う会社である。
 Yは、デジタルフォント化したY書体をフロッピーディスクに入れて、これを販売していたところ、Xは、Y書体はX書体に類似しておりX書体と誤認混同を生じるとして不正競争防止法1条1項一号(平成5年改正前)に基づき、フロッピーディスクその他の記録媒体の製造、販売の差止めを求める仮処分を申し立てた。
 原審は、X書体が同条にいう「商品」及び「他人の商品たることを示す表示」に当たらないとして仮処分申請を却下したため、Xが抗告した。
 東京高裁は、X書体は無体物であって経済的な価値を有するものとして独立した取引の対象とされていることを理由に同条の「商品」に当たるとし、Y書体との同一性や誤認混同のおそれも肯定して、同条に基づく差止請求を認めた。
判例全文
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