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【事件名】ベトナム報道批判評論事件(2)
【年月日】平成5年12月1日
 東京高裁 平成4年(ネ)第765号 反論文掲載等請求控訴事件
 (原審・東京地裁昭和59年(ワ)第3358号、昭和59年(ワ)第7553号)

判決
控訴人 X
右訴訟代理人弁護士 尾崎陞
同 尾山宏
同 雪入益見
同 小笠原彩子
同 桑原宣義
同 浅野晋
同 渡辺春己
同 加藤文也
被控訴人 株式会社文藝春秋
右代表者代表取締役 Z
被控訴人 Y1
被控訴人 Y2
被控訴人 Y3
右4名訴訟代理人弁護士 植田義昭
同 佐藤博史


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(一)原判決を取り消す。
(二)被控訴人株式会社文藝春秋(以下「被控訴人文藝春秋」という。)、被控訴人Y2(以下「被控訴人Y2」という。)及び被控訴人Y3(以下「被控訴人Y3」という。)は、控訴人に対し、連帯して金1100万円及びこれに対する昭和59年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(三)被控訴人文藝春秋、被控訴人Y2及び被控訴人Y3は、控訴人に対し、共同して月刊雑誌「諸君!」に、9ポイント活字を使用して別紙(1)記載の謝罪文(以下「本件謝罪文(1)」という。)を1回掲載せよ。
(四)被控訴人文藝春秋は、控訴人に対し、月刊雑誌「諸君!」に、その目次に控訴人作成の題名を記載し、かつ、本文に8ポイント活字3段組で別紙(3)記載の反論文(以下「本件反論文」という。)を1回掲載せよ。
(五)被控訴人文藝春秋及び被控訴人Y1(以下「被控訴人Y1」という。)は、控訴人に対し、連帯して金1100万円及びこれに対する昭和59年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(六)被控訴人文藝春秋及び被控訴人Y1は、控訴人に対し、共同して月刊雑誌「諸君!」に、9ポイント活字を使用して別紙(2)記載の謝罪文(以下「本件謝罪文(2)」という。)を1回掲載せよ。
(七)訴訟費用は、第1、2審ともに被控訴人らの負担とする。
(八)仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する答弁
二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示(「第2当事者の主張」)のとおりであるから、ここにこれを引用する。
1 原判決4枚目表5行目〈「速報」3頁左7行目〉の「編集委員の職にある記者」を「記者(編集委員)であった者(ただし、本件控訴係属後の平成3年11月に同社を退職)」に改める。
2 同5枚目裏10行目〈「速報」3頁右28行目〉末尾の次に行を改めて以下のとおり加える。
 「すなわち、被控訴人Y2は、本件評論部分において、『本多記者は……「堕落と退廃の結果」であるといっている。』と記載して本件著作部分に存在しない言葉を控訴人の言葉として改竄引用した。また、同被控訴人は、控訴人が本件著作部分の導入部及び末尾において二重に発表ものであることを明らかにしているのに、導入部の『ハオ師自身が事件の現場調査をした結果を以下のように明らかにした。』という部分を意図的に欠落させることにより、控訴人がA師の語った内容として記載した部分をあたかも控訴人自身の見解であると読者が誤解してしまうように作り変えてしまったばかりでなく、末尾の『ティエン・ハオ師は以上のように語った。』という部分の直前に二重括弧(『・』)で括られたA師の直接話法による言葉を掲記し、A師の述べたことはこの二重括弧で括られた部分のみであると理解されるように変造したり、控訴人がA師の言葉として紹介している『焼身自殺などというものとは全く無縁の代物です』という部分を控訴人が述べているかのように引用し、記述主体をすり替えた。更に、情報の客観性と信頼性を判断する際に重要な事柄であることから控訴人が特に記載したA師の立場及び愛国仏教会の性格、A師の語った内容と全く異なる従前の新聞報道の存在、控訴人自身が現場に赴いて取材できないため発表ものとして報道するにとどまる旨記載した箇所等の重要部分を意図的に欠落させた。被控訴人Y2は、このようにして本件著作部分を恣意的に引用することによって本件著作部分における報道内容が控訴人自身の見解であると作出した上で、これに対して非難、中傷を加えているのである。」
3 同6枚目表7行目の「評論」から同9行目末尾まで〈「速報」4頁左9行目から11行目末尾まで〉を以下のとおり改める。「控訴人のジャーナリストとしての本質的部分に対し最大級の非難を加えたものであり、評論、批判の範囲を逸脱し、最大限の悪罵(非難、中傷)を竄しているものである。
 なお、被控訴人Y2による非難の対象は、改竄引用・恣意的引用という手法によって作出したそもそも存在しない控訴人の見解であり、控訴人の執筆姿勢を批判したというようなものでは決してない。」
4 同7枚目表1行目から同裏7行目まで〈「速報」4頁左30行目から右25行目まで〉の全文を以下のとおり改める。
 「著作権法20条1項は『著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。』と規定し、著作者に対し著作者人格権の一つとしていわゆる同一性保持権を保障しているところ、被控訴人Y2は、本件評論を執筆するに際して本件著作部分を引用するに当たり、控訴人の意に反して改変を加えているので、控訴人の本件著作物に関する同一性保持権を侵害するものである。なお、同条2項によれば、『著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変』に該当する場合には同条1項の規定は適用しないものとされている(ただし、この事由についての主張・立証責任は、原著作物を改変する者の側にあると解すべきである。)ところ、被控訴人Y2は前記のとおり改竄引用・恣意的引用をしており、本件評論部分における引用が右の『やむを得ないと認められる改変』に該当しないことは明らかである(被控訴人らは、右事由の存在について何らの主張・立証もしていない。)。
 また、同法32条1項によれば、『公表された著作物は、引用して利用することができる』と規定されているけれども、他方、『この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行〈「な」が欠落〉われるものでなければならない。』とされている(この点についての主張・立証責任も、原著作物を引用する者の側にあると解すべきである。)ところ、本件における引用は改竄引用・恣意的引用というべきものであって、右の『引用の目的上正当な範囲内で行〈「な」が欠落〉われるもの』でないことは明白である(もっとも被控訴人らは、この事由の存在についても主張・立証をしていない。)。著作物は著作者の精神的創造行為の外部的表現であって、この精神的創造行為が正確に伝達されることを要するから、引用の正確性は著作者の持つ同一性保持権の一内容ともいえるものである。したがって、著作者の精神的創造行為を誤って伝達するような引用は、著作者人格権の侵害行為といわなければならない。
 次に、同法113条3項は『著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。』と規定する。本件評論部分は、前記のとおり本件著作部分を改竄引用・恣意的引用することにより控訴人の名誉を害しているものである。
 以上によれば、被控訴人Y2は本件評論を執筆することにより控訴人の著作者人格権を侵害したことに基づく責任を負うというべきである。」
5 同11枚目裏4行目の「別紙反論文」から次行末尾まで〈「速報」6頁右28行目から29行目まで〉を「本件反論文記載のとおりである。」に、同9行目〈「速報」7頁左3行目〉の「又は」を「及び」に、同12枚目表1行目の「別紙謝罪文(1)」から次行末尾まで〈「速報」7頁左7行目から9行目まで〉を「本件謝罪文(1)記載のとおりである。」に、同7行目の「別紙謝罪文(2)」から次行末尾まで〈「速報」7頁左16行目から18行目まで〉を「本件謝罪文(2)記載のとおりである。」にそれぞれ改める。
6 同12枚目裏8行目〈「速報」7頁右2行目〉の「名誉を毀損され」の次に、「また、本件著作部分についての著作者人格権を侵害され、」を加え、同13枚目表4行目〈「速報」7頁右12行目〉の「又は」を「及び」に、同裏2行目〈「速報」7頁右26行目の「1000万円」を「100万円」にそれぞれ改める。
7 同13枚目裏7行目〈「速報」8頁左3行目〉の「原告の求めた裁判1」を「控訴の趣旨(四)」に、同9行目から次行にかけて〈「速報」8頁左7行目〉の「請求の趣旨2(一)」を「控訴の趣旨(三)」に、同14枚目表4行目〈「速報」8頁左14行目〉の「請求の趣旨3(一)」を「控訴の趣旨(六)」にそれぞれ改める。
8 同14枚目裏8行目末尾〈「速報」8頁右2行目〉の次に「なお、本件著作部分は、単なる発表ものではなく、それを越えて控訴人自身の見解を示したものである。」を、同10行目末尾〈「速報」8頁右5行目〉の次に「本件評論部分における控訴人に対する批判の核心は、自ら直接調査をして『足で書く』記者だった控訴人が事実を確かめないまま重大な事柄を活字にしたことに向けられているのであり、被控訴人Y2は控訴人のこのような執筆姿勢を批判したのである。」を、同15枚目裏1行目末尾〈「速報」8頁右24行目〉の次に「(民法上の不法行為及び著作権法上の著作者人格権侵害についての違法性阻却事由)」をそれぞれ加える。
9 同16枚目表7行目末尾〈「速報」9頁左18行目〉の次に行を改めて以下のとおり加える。
 「本件評論部分は、控訴人が自らの調査結果でない事柄を活字にしたという執筆姿勢を批判しているものであり、そのために『本多記者が紹介する話』、『政府御用の仏教団体の公式発表を活字にしているのである。』、『本多記者はこの部分を全て伝聞で書いている。彼自身のコメントはいっさい避けている。』という表現を用いているのであって、通常の読者がこれを控訴人自身の直接の調査結果であると読み誤ることはない。したがって、本件評論部分を全体としてみれば、引用の方法に不当な点はない。そして、引用又は要約がその一部において原文と相違していても、全体として主要な点においてその趣旨を伝えている場合には、真実性の証明があった場合と同様に、違法性が阻却されるものというべきである。」
10 同16枚目裏10行目末尾〈「速報」9頁右7行目〉の次に行を改めて以下のとおり加える。
 「控訴人は、本件著作部分において、『前章に出てくるファム・ヴァン・コー(フェ・ヒェン師)の事件とはどういうことであろうか』と問題提起した上、これを無理心中とする愛国仏教会の見解を詳細に紹介していること、本人著作物中の末尾付録部分において本件事件を抗議自殺とする見解を『西側で宣伝された事件』と表現する一方、無理心中とする見解を『サイゴン当局の調査』と表現し、かつ、『悪意ある反動側のベトナム攻撃・中傷』という表現を用いていることなどに照らせば、通常の読者は、本件著作物はいわゆる発表ものではなく、控訴人は愛国仏教会の調査結果に好意的であり、だからこそ控訴人はこれを活字にしたと理解するのであり、被控訴人Y2がこれと同様の理解の下に本件著作部分を控訴人の見解を示したものとして引用したことは正当である。」
三 証拠
 証拠関係は、本件記録中の原審及び当審の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由
一 当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する本件請求はいずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。
 その理由は、次のとおり加除、訂正するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
1 原判決中の理由中の別紙(4)字句訂正表(1)欄の字句を同(2)欄記載のとおり改める。
2 原判決18枚目裏1行目末尾〈「速報」10頁左20行目〉の次に行を改めて以下のとおり加える。
 「この点に関し控訴人は、本件評論部分は控訴人の執筆姿勢を批判したものではない旨主張する。
 しかしながら、本件評論部分の記載内容に即して考察すれば、本件著作物の引用及びこれに基づく論評の適否はともかくとして(この点は後に判示する。)、被控訴人Y2は、『何より問題なのは、本多記者がこの重大な事実を確かめようとしないで、また確かめる方法もないままに、断定して書いていることである。』、『本多記者は現場に行かず、行けずにこの12人の僧尼の運命について政府御用の仏教団体の公式発表を活字にしているのである。』、『本多記者はこの部分を全て伝聞で書いている。彼自身のコメントはいっさい避けている。』、『取材の事由がないところでは確かめようがないから何でも書くことができると考えているのであれば、』と論じており、同被控訴人の理解する控訴人の従前の執筆方法と異なり、本件著作部分は控訴人自身の直接の調査結果に基づいていないことを指摘している部分が存すること自体は否定できない(この指摘が正鵠を得〈「得」は「射」の誤?〉ているか否かは別論である。)。
 これによれば、本件評論部分においては、『執筆姿勢』という言葉を使っていないものの、控訴人が執筆する上での方法論ないし基本的態度(その前提としての取材方法を含む。)を問うている部分が含まれており、かつ、それが主要なテーマとなっているとみて差し支えない。そして、引用及びこれに基づく評論の適否を判断するには、前提問題としてこのような評論の趣旨を把握しておくことは重要なことである。そこで、以下の判示においては、報道記事ないしそれから派生した著作物を執筆する上での方法論ないし基本的態度(その前提としての取材方法を含む。)という意味で『執筆姿勢』という言葉を用いることとする。」
3 同18枚目裏6行目から次行にかけて〈「速報」10頁左28行目〉の「これを争うので、」を「これを争い、民法上の名誉毀損及び著作権法上の著作者人格権侵害の双方について、本件著作部分の引用方法に違法な点はなく、正当な評論として違法性が阻却されるものと主張するので、」に改め、同10行目末尾〈「速報」10頁右4行目〉の次に「第125号証、」を加え、同19枚目表1行目から次行にかけて〈「速報」10頁右7行目〉の「原告、被告Y2各本人尋問の結果」を「原審及び当審における控訴人並びに原審における被控訴人Y2各本人尋問の結果」にそれぞれ改める。
4 同24枚目裏8行目から25枚目裏9行目まで〈「速報」13頁右1行目から14頁左3行目まで〉の全文を以下のとおり改める。
 「本件のように専ら公表された他人の著作物を評論の対象とする場合には、当然のことながらその対象とされる著作物(以下「原著作物」という。)を引用した上で、これに対して自己の意見ないし見解を表明することとなるのであり、したがって、評論者の引用に係る原著作物が評論の前提事実のうち主要な部分を構成することになる。この場合における引用は、原著作物をその著作者名で登載又は転載するのではなく、あくまでも評論の前提として取り上げるだけであるから、原著作者の同意を要するものではないし、また、どのように引用するかは一応評論者の判断に委ねられることになる。すなわち、著作権法32条1項によれば『公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行〈「な」が欠落〉われるものでなければならない。』とされているから、公正な慣行に合致し、かつ、評論という引用の目的に照らしてみて正当な範囲内にある限りは、原著作物をどのように引用するかは評論者が決し得ることである。そして、一般的に「引用」という中には、原形のままその全体を引用すること(全部引用)、その一部のみを引用すること(一部引用)、その大意を把えて簡潔に示すこと(要約)が含まれるから、どのような形式で引用するかということも、評論者の判断に任されることになる。問題は、どのような条件を具備すれば、前記の公正な慣行に合致し、かつ、評論という引用の目的に照らしてみて正当な範囲内にあるといえるかという点にあるが、その基準を一義的に定立することは困難であり、要は、具体的な事案において、評論の趣旨・目的、対象となる原著作物の取り上げ方、原著作物と引用文との相違の程度等を総合考慮し、社会通念に照らして判断するほかない。もっとも、他人の著作物に対する評論は、その性質上、対象となる原著作物を批判的に取り上げることが多く、しかも、自己の見解との相違点を際立たせる必要がある場合も存することは否定できない。また、引用の許される基準をあまりに厳格に定立すると、事実上評論の自由が制約を受ける結果となるおそれもある。この種評論が現代民主社会において果たしている役割にかんがみると、萎縮効果を生じさせるような基準は避ける必要がある。そこで、前述の判断の際に考慮すべき諸要因に評論の特質として掲記した諸点を併せて考察すれば、評論の前提となる引用が、その一部において原著作物と相違している場合であっても、全体的に考察してみて主要部分において原著作物の趣旨から逸脱していないと認められるときには、当該引用は、公正な慣行に合致し、かつ、正当な範囲内にあるというべきである。
 そして、評論者の意見を形成する前提となった引用が右の意味で公正な慣行に合致し、かつ、正当な範囲内にあるときは、評論の前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったものとして、評論としての域を逸脱したという事情のない限り、名誉毀損の不法行為としての違法性を阻却されるものというべきである。」
5 同27枚目表10行目〈「速報」14頁右20行目〉の「記述し、」の次に「本件事件が焼身自殺とは無縁の代物で、堕落と退廃の結果であるとの言葉も控訴人が自己の見解として述べているかのように記載し、」を加える。
6 同28枚目裏9行目末尾〈「速報」15頁右3行目〉の次に行を改めて以下のとおり加える。
 「6 なお、本件著作部分においては、A師が副会長を務めているという愛国仏教会についての説明部分である『愛国知識人会と同様に、革命政権に協力するための仏教界での組織であって、これまでに仏教界の17派が加わっている。』との記述(176頁11行目から13行目)、本件事件についての従前の報道の紹介である『日本では「朝日新聞」の場合パリ発のロイター電として……新政権の宗教政策に抗議して集団自殺したと伝えている。』との注記(178頁8行目から10行目)が存するが、本件評論部分にはそれがない。また、本件著作物の末尾付録部分には、控訴人が『自由に現場へゆき、その周辺の人人から自由に話をきく必要がある。そうでなければ、「当局によれば」として「発表モノ」をそのまま報道するにとどまる。それはそれで意味はあるものの、私自身の直接的ルポとするわけにはゆかない。』との部分(268頁11行目から14行目)があるが、本件評論部分にはそれが存しない。」
7 同29枚目裏3行目末尾〈「速報」15頁右23行目〉の次に行を改めて以下のとおり加える。
 「なお、三6については、愛国仏教会の性格及び従前の報道の存在に関する記述は、本件事件についてA師が語った内容の客観性及び信頼性を検討するに資するものではあるけれども、これを欠いた場合に引用が不正確として許されないほど重要な内容とまではいうことができない。また、付録部分における発表ものにとどまるとの記述については、被控訴人Y2は、控訴人が直接調査した結果でない事柄を活字にしたことを批判しているのであるから(もとよりこの批判の当否は別論である。)、この記述を取り上げなかったことはその論旨に照らしてみてやむを得ない面があり、評論の方法として不相当であったとまではいうことはできない。したがって、いずれについても本件評論部分における引用の適否を判断するについて、その記述の不存在を殊更に重要視する必要はないというべきである。」
8 同30枚裏6行目〈「速報」16頁左27行目〉の「甲第1号証及び原告本人尋問の結果」を「甲第1号証及び第125号証並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果」に、同31枚目表1行目〈「速報」16頁右6行目〉から次行にかけての「不正確であり、やや軽率であった」を「不正確の誹りを免れず、この点は引用の適否を判断するに際して軽視できない」に改め、同裏7行目〈「速報」16頁右30行目〉の「過ぎず」の次に「(本件著作部分においても、厳密な意味で引用に係る部分を示す括弧で括っているのは、本件評論部分において二重括弧で括られた部分ほか2箇所だけであり、A師の発言の紹介のうち重要部分には括弧は付されていない。)」を加え、同32枚目裏8行目〈「速報」17頁右2行目〉の「認められ、」から同33枚目表2行目末尾〈「速報」同10行目〉までを「認められること、」に改め、同6行目〈「速報」17頁右16行目〉の「上、」から同8行目の〈「速報」同19行目〉の「現にしている」までを削る。
9 同33枚目裏6行目〈「速報」17頁右31行目〉の「明らかであって、」から同34枚目表6行目末尾〈「速報」18頁左16行目〉までを次のとおり改める。
 「明らかである。また、本件評論部分における本件著作部分の引用には、原文と若干異なって正確を欠く部分があるが(そして、この点は、本件評論部分の冒頭に位置し、その表現に照らしても軽視できないけれども)、引用された文言のほとんどが原文のままであり、その評論の趣旨からみて、原文の要点を外したものとはいえないし、しかも、被控訴人Y2の引用に根拠がないとはいえない。これら諸事情に基づいて前記二の観点から考察すると、本件において評論の前提とされている引用は、これを全体的に考察してみて主要部分において原著作物の趣旨から逸脱していないと認められる。したがって、右引用は、公正な慣行に合致し、かつ、正当な範囲内にあるということができるから、評論の前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったものであり、しかも、前記の諸点に徴すると、本件評論は、報道記者としての控訴人の執筆姿勢を批判することに主眼があり、表現において措辞やや適切を欠く部分が見受けられるけれども、単なる人身攻撃というものではないと認められ、その他評論としての域を逸脱していることを窺わせる事情も存しないから、名誉毀損の不法行為における違法性を阻却されるものというべきである。」
10 同34枚目表7行目から同裏2行目まで〈「速報」18頁左17行目から同26行目まで〉の全文を以下のとおり改める。
 「4 更に、控訴人は、本件評論部分における引用が控訴人の著作者人格権を侵害する旨主張するので、この点について判断する。
(一)まず、弁論の全趣旨によれば、被控訴人Y2が本件評論部分を執筆するため本件著作部分を引用するに際し、これをそのまま引き写したものでないことは明らかであるから、これを形式的にみれば一応著作権法20条1項所定の『改変』に当たるがごとくである。しかしながら、他方、同条2項によれば、『著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変』に該当する場合には同条1項の規定は適用しないものとされている。そこで、右引用が『やむを得ないと認められる改変』に該当するか否かを検討することとする(被控訴人らの主張1は、右の条項を明示していないけれども、著作者人格権侵害の関係では、この『やむを得ないと認められる改変』に当たるための諸事情を主張するものと理解される。)。
 ところで、評論の前提として他人の著作物を引用する場合において、それが忠実な全部引用又は一部引用でない限り、原著作物との関係においては改変に該当することが多いと考えられる。しかしながら、評論の対象となる原著作物の紹介がすべて改変に当たるものとして許容されないというのでは、表現の自由の保障を保し難いことになるであろう。そこで、右の改変が引用の形式をとって行われる場合においては、同法32条1項により公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内で行われたと認められ、かつ、その他評論としての域を逸脱するような事情が存せず、その違法性が阻却されるときには、著作者人格権(同一性保持権)との関係においても、同法20条2項所定の『著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変』に該当し、違法性が阻却されるべきものと解すべきである。したがって、この限りでは名誉毀損の不法行為としての違法性阻却と著作者人格権侵害行為としての違法性阻却とは一致するものと考えられる。被控訴人らが右両者の違法性阻却について同一の主張をしているのも、この見地からみれば、肯認できるところである。そして、この点に関する当裁判所の判断は、先に示したとおりであって、本件評論部分における原著作物の引用は、公正な慣行に合致し、かつ、正当な範囲内にあるということができ、しかも、評論としての域を逸脱しているような事情も存しないから、著作者人格権侵害との関係においても違法性を阻却されるものということができる。
(二)次に、控訴人は、同法113条3項を援用して、本件評論部分は、控訴人の名誉を侵害する方法において本件著作部分を利用しているので、著作者人格権を侵害する行為とみなされる旨主張する。
 しかしながら、本件評論部分における原著作物の引用は、公正な慣行に合致し、かつ、正当な範囲内にあるので、名誉毀損の不法行為としての違法性が阻却されることは前判示のとおりである。このような場合には、そもそも右条項にいわゆる『著作者の名誉……を害する方法』には当たらないものというべきであるから、控訴人の主張は理由がない。」
11 同36枚目裏7行目〈「速報」19頁右3行目〉の「説明を受け、」の次に「その後、同年10月ころにB師から送付された」を加え、同44枚目表11行目〈「速報」23頁右1行目〉の「とおりである。」の次に「また、本件評論部分については、著作権法上の著作者人格権侵害との関係においても違法性を欠くことも前判示のとおりである。」を加える。
二 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。
 
東京高等裁判所第17民事部
 裁判長裁判官 丹宗朝子
 裁判官 新村正人
 裁判官 齊藤隆
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