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【事件名】「智惠子抄」事件(3)
【年月日】平成5年3月30日
 最高裁(三小) 平成4年(オ)第797号
 (一審・東京地裁昭和41年(ワ)第12563号、昭和42年(ワ)第1635号、二審・東京高裁昭和63年(ネ)第4174号)

判決
上告人 Y2
上告人 株式会社 龍星閣
右代表者代表取締役 Y2
右両名訴訟代理人弁護士 渡辺卓郎
同 藤原寛治
同 坂東司朗
被上告人 X

 右当事者間の東京高等裁判所昭和63年(ネ)第4174号著作権登録抹消等請求本訴、同反訴事件について、同裁判所が平成4年1月21日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

判決


主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

理由
 上告代理人渡辺卓郎、同藤原寛治、同坂東司朗の上告理由について
 本件編集著作物である「智惠子抄」は、詩人である高村光太郎が既に公表した自らの著作に係る詩を始めとして、同人著作の詩、短歌及び散文を収録したものであって、その生存中、その承諾の下に出版されたものであることは、原審の適法に確定した事実である。そうすると、仮に光太郎以外の者が「智惠子抄」の編集に関与した事実があるとしても、格別の事情の存しない限り、光太郎らもその編集に携わった事実が推認されるものであり、したがって、その編集著作権が、光太郎以外の編集に関与した者に帰属するのは、極めて限られた場合にしか想定されないというべきである。
 そもそも本件において、光太郎以外の者が「智惠子抄」の編集に携わった事実が存するかをみるのに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、この認定したところによれば、(1) 収録候補とする詩等の案を光太郎に提示して、「智惠子抄」の編集を進言したのは、上告人Y2の被承継人であり、龍星閣の名称で出版業を営んでいたY1(以下、単に「Y1」という。)であったが、「智惠子抄」に収録されている詩等の選択は、同人の考えだけで行われたものではなく、光太郎も、Y1の進言に基づいて、自ら、妻の智惠子に関する全作品を取捨選択の対象として、収録する詩等の選択を綿密に検討した上、「智惠子抄」に収録する詩等を確定し、「智惠子抄」の題名を決定した、(2) Y1が光太郎に提示した詩集の第1次案の配列と「智惠子抄」の配列とで一致しない部分があるが、すなわち、詩の配列が、第1次案で、光太郎が前に出版した詩集「道程」の掲載順序によったり、雑誌に掲載された詩については、その雑誌の発行年月順に、同一の雑誌に掲載されたものはその掲載順に配列されていたのに対し、「智惠子抄」では、「荒涼たる歸宅」を除いては制作年代順の原則に従っている、(3) Y1は、第1次案に対して更に2、3の詩等の追加収録を進言したことはあるものの、光太郎が第1次案に対して行った修正、増減について、同人の意向に全面的に従っていた、というのである。
 右の事実関係は、光太郎ら「智惠子抄」の詩等の選択、配列を確定したものであり、同人がその編集をしたことを裏付けるものであって、Y1が光太郎の著作の一部を集めたとしても、それは、編集著作の観点からすると、企画案ないし構想の域にとどまるにすぎないというべきである。原審が適法に確定したその余の事実関係をもってしても、Y1が「智惠子抄」を編集したものということはできず、「智惠子抄」を編集したのは光太郎であるといわざるを得ない。したがって、その編集著作権は光太郎に帰属したものであり、被上告人が、光太郎から順次相続により右編集著作権を取得したものというべきであって、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第3小法廷
 裁判長裁判官 坂上壽夫
 裁判官 貞家克己
 裁判官 園部逸夫
 裁判官 佐藤庄市部
 裁判官 可部恒雄
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