裁判の記録 line
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1990年
(平成2年)
 
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2月19日 ポパイネクタイ事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 漫画ポパイの著作権者等である原告らが、ポパイの図柄を腕カバー、マフラー、ネクタイに付して製造販売する被告らに対し、著作権(複製権)侵害及び不正競争防止法違反に基づき差止め及び損害賠償を求めた。争点は、ポパイのキャラクターの著作物性、連載漫画の著作権保護期間の始期、被告の商標権と原告の著作権の優劣と不正競争防止法の適用関係など。
 判決は、ポパイのキャラクターは個々の具体的な漫画を超えたいわばポパイ像とでもいうべき一定の「思想又は感情」それ自体であって、外面的な表現形式をとっているものではないから、著作物とは言えないとし、具体的な漫画の図柄の複製と認められるものについてのみ複製権侵害を認めた。連載漫画の保護期間の起算日は各漫画の発表の時から起算すべきとした(なお、この点は後に本件の最高裁判決により異論が示された)。被告が有するポパイの図柄の商標権については、商標登録出願前の他人の著作物と抵触するもの(商標法29条)であり商標権を行使できないから、被告らの行為は不正競争行為に該当するとした。
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2月28日 クイズ「究極の選択」不正競争事件
   東京地裁/決定・申請却下
 債権者1は、ラジオ番組中の1コーナーにおいて、どちらも選択したくない二つの事柄を設問し、相手にその一つを無理に選ばせて会話を楽しむという趣向の言葉遊びを「究極の選択」という名称で放送し、債権者2・3がその放送を元に書籍を出版していた。本件は、債権者らが、究極の選択の遊びを題材として「究極の大選択」、「究極の選択ゲーム」、「超・究極の選択」という題号の書籍を出版した債務者らに対し、「究極の選択」は不正競争防止法1条1項一号又は二号(ただし、平成5年改正前。)の周知営業表示又は周知商品表示であるとして出版物の販売の差止め、出版物の回収の仮処分を求めた事件。
 裁判所は、究極の選択という名称は、言葉遊びそのものを意味するものとして一般的に用いられている一般名称として社会に定着していったものであり、本件番組のコーナーのタイトルとしては一般に認識されておらず、周知営業表示・周知商品表示に当たらないとして、債権者らの仮処分申請を却下した。
判例全文
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3月29日 ドンキーコング・ジュニア事件(刑)
   大阪地裁堺支部/有罪
 被告人有限会社ドリームはゲーム機械の製造販売を目的とする会社、同Eは同会社の代表取締役であるが、同EはWと共謀の上、被告人有限会社ドリームの業務に関し、法定の除外事由がないのに、任天堂株式会社が映像と音声とについて著作権を有するテレビゲーム機ドンキーコング・ジュニアのコンピューターシステム(基板)の記憶装置に収納された同ゲーム機のソフトウエア・プログラムを複製し、その基板を製造して販売しようと企て、昭和57年8月18日頃から同年11月27日頃までの間、右ゲーム機の複製基板6886台位を製造した上、同年8月18日頃から同年12月29日頃までの間、前後151回にわたり、19名に対し、右基板6871台を合計4億5625万8000円で販売した。
 判決は、侵害の対象となる著作物は映画の著作物とプログラムの著作物の2つであると判断する一方で、告訴した任天堂が著作権者であるか不明であるプログラムの著作物については告訴の効力が及ばないと判断した。
 被告人有限会社ドリームは罰金30万円、被告人Eは懲役3月、1年間の執行猶予に処された。
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4月27日 「樹林」事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 芸術家である原告は、昭和59年7月、レリーフ「樹林」を創作した。
 被告Y1は、千葉大学工学部工業意匠学科に在学中、卒業研究として「タイポグラフィカルアート・凹凸をもった文字たち」を製作したが、同作品のうちの一点は、木を部首にもつ文字50文字を使用し、木を素材とした作品である。両作品は、ともに、木偏のつく各種の木を表意する漢字を、偏と旁を別々に、それぞれ大きさや字体を変えて各種の木材を切り抜いて製作し、更に凹凸の差をつけて、右の切り抜き文字を縦横に組合せ長方形の枠内に納めたレリーフである。
 判決は、被告Y1が被告作品を製作した行為について翻案権・同一性保持権侵害を、写真撮影した行為について複製権侵害を認めた。
 また、被告作品写真を雑誌に掲載して頒布した出版社被告Y3については複製権侵害を認めた。同複製権侵害について被告Y1単体での不法行為は認めなかったが共同不法行為の成立は認めた。
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5月23日 映画用シナリオ「ザ・心臓」事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 本件は、Xが、「主人公がクイズ番組の優勝賞品として家族の心臓移植手術を希望し、家族と渡米してバブーンの心臓移植手術を受けさせる」というXの企画に基づく脚本家Y作成の映画用シナリオが、X作成の映画用シナリオの翻案権を侵害するとして、Yに対し、損害賠償を求めた事案である。
 主な争点は、翻案権侵害の成否である。
 裁判所は、両シナリオの基本的ストーリーは共通しているが、サブテーマが相違し、ストーリー展開もかなり異なっており、登場人物のキャラクターにも不自然な類似点がない、とした。その上で、Xが、Xの企画に基づくYシナリオ作成に同意しており、Yシナリオが映画のシナリオに決定した場合Xに原作料が払われる予定だったこと、XがYシナリオの取材旅行に同行したことから、Yシナリオのうち、Xシナリオとの類似部分についてはXの許諾があり、独自部分についてはXシナリオとは別個独立に執筆されたものである、として翻案権侵害を否定し、Xの請求を棄却した。
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6月13日 薬学書事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、書籍の改訂版を出版する際に、旧版の執筆者の関与を排除した場合に関する争いである。原告は、大学の薬学部の助教授であり、「薬理学」等の著作物を他の者と分担して執筆し創作した。被告Y1は後出のY3から執筆者の選定等を委託された薬理学の教授であり、被告Y2は、同著作物を出版した会社であり、被告Y3は、出版者からの委託により著作物の編集等を目的とする会社であった。
 前記著作物を出版した被告らは、改訂版を出すに当たり、原告をその執筆陣に入れなかった。しかし改訂版には、旧版に類似ないし同一性を有する記述があった。原告は、当該部分が原告の単独著作物であると主張し、被告らは、複数の執筆者による共同著作物であると主張した。
 判決は、著作物の成立過程を認定し、原告の単独著作物であることを認め、類似性ある箇所を逐一比較して、複製権侵害を認め、また勝手に旧版に手をいれた部分については、同一性保持権侵害を認め、またそこに原告の名を表示していないことを氏名表示権侵害とした。
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7月20日 ポパイ ワンポイントマーク事件(3)
   最高裁(二小)/判決・破棄自判(確定)
 「POPEYE」及び「ポパイ」の文字と漫画ポパイの主人公に似た人物画を結合した商標の商標権者である原告(被上告人)が、マフラーのワンポイントマークとして「POPEYE」の文字あるいはこれに同様の人物画を併記して製造販売した被告(上告人)に販売差止め及び損害賠償を請求した。第一審及び控訴審は原告の請求を一部認めたが、最高裁は、本件商標出願当時すでに漫画ポパイは広く大衆の人気を得て日本国内を含む全世界に定着していたから、本件商標はポパイの人物像の著名性を無償で利用しているものに外ならず、本件商標権の侵害を主張することは客観的に公正な競業秩序を乱すものであって権利の濫用であるとして、原判決を取り消し原告の請求を棄却した。
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7月20日 木目化粧紙事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件は、木目化粧紙を製作し家具用化粧板(原告製品)として販売している印刷会社である原告が、原告製品をそのまま写真撮影して製作したデッドコピイである被告製品を販売した被告らに対し、被告製品の製造・販売・頒布の差止及び損害賠償を求める事案である。
 判決は、原告製品の原画を応用美術と判断し、専ら美の表現を追及して製作されたものではなく産業用に利用されるものとして製作され現にそのように利用されているというのであるから純粋美術と同視することはできないと判示した。
 また、予備的に主張された所有権侵害の主張も認めなかった。
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11月16日 法政大学懸賞論文事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 本件は、私立大学Yの学生Xが、X執筆の懸賞論文のY発行雑誌への掲載出版および出版の際の(1)送り仮名の変更 (2)読点の切除 (3)中黒点から読点への変更 (4)統計数値の修正 (5)目次、あとがき中の日付、調査票など論文の一部の切除 (6)注記内の改行の省略等の改変が、それぞれXの複製権、同一性保持権を侵害するとして、Yに対し、損害賠償及び謝罪広告を求めた事案である。
 主な争点は、出版許諾の有無及び上記改変が「やむを得ない」改変(著作権法20条2項四号)にあたるかである。
 裁判所は、Xの黙示の出版許諾を認め複製権侵害を否定した。その上で、(1)(2)(3)(4)(6)については「やむを得ない」改変であるが、(5)については、Yの主張する理由は論文応募上の制限や予算の都合などであり、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし「やむを得ない」とはいえないとして、同一性保持権侵害を認め、30万円の支払をYに命じた。
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11月28日 脳波数理解析論文事件
   京都地裁/判決・請求棄却(控訴)
 大学研修員の原告が、同大学助教授である被告が発表した学術論文に対し、過去に原告と被告らが共同で執筆した別の学術文献と命題の解明過程等を共通にしているので、共同著作物の複製権、氏名表示権等を侵害すると主張して損害賠償や謝罪広告を請求した。判決は、対象文献は思想を創作的に表現したものであり、学術の範囲に属する共同著作物ではあるが、被告の論文と対象文献とは表現形式も実質的内容も異なり、複製または翻案と認められず、一部に表現をほぼ同一にする部分があるものの、その部分については引用が成立するから複製権侵害にならない、として原告の請求を棄却した。
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12月18日 チューリップ事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却(上告)
 本件は、原告らが童謡「チューリップ」の作詞作曲は原告らの亡父が作詞作曲したものであるとして、被告らに対し著作権の確認を求めた事件である。原告らは、原告らの父の遺品から、チューリップ曲と同一の旋律の楽譜を発見したことを主たる証拠として提出した。本件楽譜は、原告らの父が鉄筆を用いてガリ版で筆記したものを謄写印刷したことに争いはなく、「赤坂尋常小学校創立50周年記念日の歌」という標題が付されている。原審は、鑑定によっても楽譜の素材やインクが赤坂尋常小学校創立50年にあたる大正11年のものであるかが判然としないこと、他方、楽譜が大正11年当時に作成されたと認定するには不自然な点が複数あることなどを指摘し、原告の請求を棄却したため原告らが控訴したが、控訴審も同様の理由により控訴を棄却した。
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12月21日 おニャン子クラブ事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 原告は、おニャン子クラブの名称のもとに集められたタレントメンバーであり、被告はカレンダーに原告らの肖像等を当該タレントらの許諾なしに使用した者である。
 本件は、パブリシティ権に関する著名な事件であるが、その経済的な権利としての性格から損害賠償請求権を認めうるとしたうえで、そこから進んで差し止め請求権を認めうるかが大いに問題とされた。
 判決は、損害賠償請求権を認め、かつ商品の製造・販売の差し止めと違法商品の廃棄とを認めた。差し止め請求権も認めているが、財産的損害の拡大を防ぐためとしているらしいほかは、特に理由らしきものは示されていない。判決では、財産的損害賠償と慰謝料の両方を認めたうえで、両者を比較して、より高額である慰謝料額をもって損害額としている。いずれの点でも理由不足の感の否めない判決である。
 のちに控訴され、パブリシティ権を侵害したとされる控訴人(一審被告)は、この点について著作隣接権との対比を行い、「芸能人の社会的評価の低下」をもたらさない態様による使用については人格的利益を棄損していないことを理由として、差し止め請求権の認容に対して鋭く批判をしている。
 原告は、財産的な権利に基づいて第三者との関係で排他的効力を認めることができることについてかなり慎重に理論構成をしている。
 本判決は、その点の意識が希薄であり、控訴審も前記財産的権利が「排他的支配権を有するものと認めるのが相当」と特段の理由もなく前提として差し止め請求権を認めるにすぎず、その意味で、控訴審でもこの問題に肩透かしを食わせた内容となっている。本判決・控訴審判決を読む際には差し止め請求権の理由が不完全というほかないことに注意を払って読む必要があろう。
判例全文
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