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【事件名】ポパイネクタイ事件
【年月日】平成2年2月19日
 東京地裁 昭和59年(ワ)第10103号 著作権侵害差止等請求事件

判決
原告 キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッド
右代表者 X1
原告 ザ ハースト コーポレーション
右代表者 X2
原告 株式会社マガジンハウス
右代表者代表取締役 X3
原告 有限会社アメリカン、フィーチャーズ
右代表者取締役 X4
原告4名訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 神谷巌
被告 大阪三恵株式会社
右代表者代表取締役 Y1
被告 株式会社松寺
右代表者代表取締役 Y2
被告 株式会社ポパイ
右代表者清算人 Y1
被告3名訴訟代理人弁護士 三山峻司

 右当事者間の昭和59年(ワ)第10103号著作権侵害差止等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。


主文
1 被告大阪三恵株式会社及び被告株式会社ポパイは、別紙第1目録(1)ないし(4)表示の図柄を付した腕カバーを販売してはならない。
2 被告大阪三恵株式会社及び被告株式会社松寺は、別紙第1目録(5)表示の図柄を付したマフラー及び別紙第1目録(5)又は(6)表示の図柄を付したネクタイを販売してはならない。
3 被告大阪三恵株式会社及び被告株式会社ポパイは、その所有する腕カバーから別紙第1目録(1)ないし(4)表示の図柄を抹消せよ。
4 被告大阪三恵株式会社及び被告株式会社松寺は、その所有するマフラーから別紙第1目録(5)表示の図柄を、その所有するネクタイから別紙第1目録(5)又は(6)表示の図柄を抹消せよ。
5 被告大阪三恵株式会社は、原告キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッドに対し、28万8697円及びこれに対する昭和59年10月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッドのその余の請求及び原告株式会社マガジンハウスの請求を棄却する。
7 訴訟費用は、これを10分し、その5を原告キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッドの負担とし、その4を被告大阪三恵株式会社と被告株式会社松寺の連帯負担とし、その余を原告株式会社マガジンハウスと被告株式会社ポパイの各負担とする。
8 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実
第1 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文1ないし4と同旨。
2 被告大阪三恵株式会社(以下「被告大阪三恵」という。)及び被告株式会社ポパイ(以下「被告ポパイ」という。)は、原告キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッド(以下「原告キング フィーチャーズ」という。)に対し、連帯して、600万円及びこれに対する昭和59年10月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告大阪三恵及び被告株式会社松寺(以下「被告松寺」という。)は、連帯して、原告キング フィーチャーズに対し、3000万円、原告株式会社マガジンハウス(以下「原告マガジンハウス」という。)に対し、100万円及びこれらに対する昭和59年10月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
5 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第2 当事者の主張
〔ポパイの漫画の著作権に基づく請求〕
一 請求の原因
1 訴外アメリカ合衆国法人キング フィーチャーズ シンジケート インコーポレーテッド(以下「旧キング フィーチャーズ」という。)は、1929年1月17日以降1938年までその社員であった訴外A並びに1938年以降その社員であったB、C及びDが職務上創作し、かつ、アメリカ合衆国においてニューヨーク イブニング ジャーナル紙及び別紙第2目録(1)記載の新聞又は単行本に逐次連載ないしは掲載された、ポパイ等の登場人物を有する漫画(以下「本件漫画(一)」という。)について同国において著作権(以下「本件著作権(一)」という。)を有していた。その後、本件著作権(一)は、旧キング フィーチャーズが原告ザ ハースト コーポレーション(以下「原告ハースト」という。)に吸収合併されたことにより、原告ハーストに承継され、次いで、1943年12月31日、原告キング フィーチャーズが設立され、原告ハーストから原告キング フィーチャーズに譲渡された。また、原告キング フィーチャーズは、1944年以降1950年代半ばまでは前述のB、C及びD、1950年代半ばから1959年まではその社員であるE、1959年から1986年1月まではその社員であるF、同年1月26日から現在(1989年4月28日)まではその社員であるG及びFをして、ポパイを主人公とした漫画(以下「本件漫画(二)」という。)を職務上創作させ、これを新聞又は単行本に逐次連載ないしは掲載したものであって、本件漫画(二)についてアメリカ合衆国において著作権(以下「本件著作権(二)」という。)を有する。したがって、原告キング フィーチャーズは、本件漫画(一)及び(二)(以下、本件漫画(一)と本件漫画(二)を総称して「本件漫画」という。)についてアメリカ合衆国において著作権を有しているが、本件漫画は、万国著作権条約により、わが国においても著作物として保護されるので、原告キング フィーチャーズは、わが国においても、本件漫画について著作権(以下「本件著作権」という。)を有する。なお、旧キング フィーチャーズは、1938年2月25日、アメリカ合衆国において、本件漫画(一)のうちニューヨーク イブニング ジャーナル紙に掲載された別紙第2目録(2)記載の漫画1篇について、クラスK―5第36345号をもって著作権登録を了し、原告キング フィーチャーズは、1956年2月10日、右著作権登録を同人名義で更新登録した。
2 被告大阪三恵と被告ポパイは、昭和45年ころから、意思を通じて、別紙第1目録(1)ないし(4)表示の図柄(以下順次「被告図柄(1)ないし(4)」という。)を付した腕カバーを販売している。被告大阪三恵と被告松寺は、昭和56年ころから、意思を通じて、別紙第1目録(5)表示の図柄(以下「被告図柄(5)」という。)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は別紙第1目録(6)表示の図柄(以下「被告図柄(6)」という。)を付したネクタイを販売している。
3(一)被告図柄(1)ないし(6)は、本件漫画の主人公ポパイの名称、姿態を表したものであって、本件漫画の主人公であるポパイのキャラクター(水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にマドロスパイプをくわえ、腕には錨を描き、ほうれん草を食べると超人的な強さを発揮する船乗りであって、ポパイ又はPOPEYEの名称を有するもの。以下同じ。)の著作物を複製したものである。被告らは、キャラクターは著作物たりえない旨主張するが、本件漫画は、長期間連載され、その間に多数の絵が描かれているのであるが、多数の絵が関連性なく描かれるのではなく、その登場人物の姿態、容貌、性格等が一貫性を持って描かれ、読者もまた、これを期待して個々の漫画に接するのである。
 したがって、本件漫画には、その登場人物のキャラクターが表現されているものと考えざるをえない。もっとも、著作物としての表現には、様様な態様があり、メモリーに内蔵されたコンピュータープログラムやVTRに録画された信号のように、直接肉眼で確知し難い抽象的な表現もあるが、キャラクターも、どちらかといえば、抽象的に表現されているものというべきである。また、被告らは、ポパイという名称には著作物性がない旨主張するが、名称は、キャラクターの一態様として保護されるべきである。確かに、小説や漫画の題名や登場人物の名称については著作物性がないとする考え方もあるが、この考え方は、これらは比較的簡単なものであるから、これらが特定人に独占されるときは、第三者の題名等の選択範囲が狭まって困るという実際的な考慮に基づくものであるところ、ポパイの名称は、これまでに人物の名称として使われたことのなかった新しい名称であって、その独特の容貌と痛快な活躍と結びついて、広く世人に親しまれており、現在では、英和辞典においても、「POPEYE」の語が本件漫画の主人公を示すものとして紹介されるに至っているのであり、このような名称については、これを著作権者に独占させたところで実際上の不都合は何ら生じないのであるから、名称一般について著作権法上の保護が与えられるか否かを別として、少なくとも、ポパイの名称については、著作権法上の保護が与えられるべきである。また、ポパイのように、その名称を聞けばその姿態が直ちに浮かんでくる場合には、名称は、絵と一体をなしているのであり、仮に名称自体には著作物性が認められないとしても、絵についての著作権の一部として、著作権法による保護が与えられるべきである。
(二)仮に、キャラクターそのものを著作物として認めえないとしても、ある図柄が特定の著作物における人物、動物などの特徴を備え、一見して当該人物、動物を表現したものとみられる場合は、その著作物の複製物に当たると解すべきである。被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵は、本件漫画におけるポパイの特徴を備え、一見して本件漫画におけるポパイを表現したものとみることができるから、具体的に本件漫画のどの絵に似ているかを問題とすることなく、本件漫画におけるポパイの絵を複製したものというべきである。
4 被告らは、故意又は過失により、原告キング フィーチャーズの本件著作権を侵害したものであり、これにより、原告キング フィーチャーズが被った損害を賠償すべき義務を負担した。
 被告大阪三恵及び被告ポパイは、昭和46年3月から昭和58年末までの間に、被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバーを1枚150円で1日当たり42枚、合計で20万枚販売し、その総売上高は、3000万円に達するが、その利益率は、20パーセントを下らないから、被告両社が右腕カバーの販売行為により得た利益の額は、600万円を下らない。したがって、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵と被告ポパイに対し、右600万円の損害の賠償を求める。次に、被告大阪三恵は、被告松寺に対し、昭和57年5月31日から同59年5月31日までの間、被告図柄(5)及び(6)の使用を年間300万円の使用料で許諾し、被告松寺をして、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売させ、被告松寺から合計600万円の使用料を取得した。被告松寺は、右の使用許諾を得て、右2年間に、1枚1800円の右マフラーを年間3万3000枚、1本2000円の右ネクタイを年間5000本販売し、その総売上高は、右マフラーについては1億1880万円、右ネクタイについては2000万円であるところ、被告松寺の右販売利益の利益率は、20パーセントを下らないから、被告松寺が右マフラー及び右ネクタイの販売行為により得た利益の額は、マフラーについて2376万円、ネクタイについて400万円を下らない(なお、ネクタイを一定のデザインを定めて製作する以上、1本2000円以上で年間最低5000本を販売しないと採算がとれないことは、業界の常識であるから、被告松寺は、少なくとも右のとおりネクタイを1本2000円以上、年間5000本販売したものである。)。したがって、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵及び被告松寺に対し、右使用料600万円並びに右マフラーについての利益の額の内金2000万円及び右ネクタイについての利益の額400万円の合計3000万円の損害の賠償を求める。
5 よって、原告キング フィーチャーズは、本件著作権に基づき、被告大阪三恵及び被告ポパイに対し、被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバーの販売の差止め及び右被告らが現に所有する腕カバーからの被告図柄(1)ないし(4)の抹消、並びに前記損害金600万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和59年10月2日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを、被告大阪三恵と被告松寺に対し、被告図柄(5)を付したマフラーと被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイの販売の差止め及び右被告らが現に所有する右マフラーからの被告図柄(5)、右ネクタイからの被告図柄(5)又は(6)の抹消、並びに前記損害金3000万円ならびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和59年10月2日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。
二 請求の原因に対する被告らの認否及び主張
1(一)請求の原因1の事実は、知らない。
(二)同2のうち、被告ポパイが被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーを販売した事実並びに被告松寺が被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売している事実は認め、被告大阪三恵が被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバー、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売したとの事実は、否認する。被告ポパイは、被告大阪三恵より無償で登録第536992号の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)の使用許諾を受け、腕カバーに被告図柄(2)ないし(4)を付して販売していたものであるが、被告図柄(1)については、昭和45年度及び同46年度の職業別電話帳の被告ポパイの広告に各1回使用しただけで、腕カバーに直接付したことはない。なお、被告ポパイは、昭和59年9月20日解散の決議を経て、同年10月3日その旨の登録を了し、以後腕カバーは販売していない。
(三)同3の事実は、否認する。
(四)同4の事実は、否認する。被告ポパイは、被告図柄(1)ないし(4)を本件商標の使用権に基づき、また、被告松寺は、被告図柄(5)又は(6)を本件商標の使用権に基づき使用したものであるから、被告ポパイ及び被告松寺については、仮に著作権侵害行為があったとしても、故意又は過失は存しない。
2 ポパイのキャラクターの複製について
(一)キャラクターとは、漫画や小説などに登場する架空の人物、動物などの名称、姿態及び役割を総合した人格をいうところ、漫画の著作物について複製権の対象となるのは、当該著作物において表現された漫画であって、キャラクターではない。すなわち、著作物とは、精神的労作の所産である人の思想又は感情が、絵画、小説、楽曲等一定の表現形式をもって外部に具体化されたものであり、客観的存在を有しなければならないとされているところ、キャラクターそのものは、抽象的な存在であって、思想又は感情が客観的に知覚される媒介物を通じて表現されているものとはいえず、また、原著作物を離れて別個の独創性を有する精神的創作物ともいえないものであるから、著作権法2条1項1号の規定にいう著作物ではない。また、著作権制度は、元来、文化の発展に寄与することを目的として精神的創作物を保護するものであり、大量生産される商品の販売促進という産業の発達のために著作物を保護するものではない。そのため、著作権は、何らの方式を必要とせず、著作物の創作と同時に自動的に発生するものとされ、また、その使用の有無、態様に何らの法的チェックもされず、その存続期間も、工業所有権に比し、著作物の創作時から創作者の死後50年間という著しく長期間とされているのである。これに対して、商標制度は、商標の使用を通じ、当該商標に化体された業務上の信用を保護するものであり、商標の使用期間が長くなればなるほど、商標権者のグッドウィルは、当該商標に蓄積されるのであり、それ故に、現実に商標の使用の実績のない場合は、更新登録の出願は拒絶すべきものとされており、また、不使用取消審判の制度も認められているのである。このような次元を異にする各制度の保護の相違を全く無視して、キャラクターを著作権に基づいて保護し、漫画のキャラクターの姿態、名称、役柄のすべてについて、いつ、いかなる商品についても、いかなる態様での商標的使用も可能になるとするならば、既に数多く登録されている他のキャラクター商標は全く無意味な存在となって、自他商品識別機能を通じて商品の取引秩序維持を図ろうとする商標法の目的が達せられなくなることは明らかである。すなわち、著作権に基づけば、34類存在する現行の商品区分を問うことなく、著作権の保護期間中はいつでも、キャラクターの名称、図柄についてどのような態様の使用も可能となるとすれば、商標図柄を特定し指定商品に限定して商標の登録を認めている現行の商標制度を根底から破壊することになるのである。更に、キャラクターを著作物として認めることは、種々の困難な問題、例えば、(1)いかなる程度に達すれば、個々の漫画の登場人物等がキャラクター性を取得するに至るのか、(2)当該キャラクター自体の保護領域は、どこまでか、(3)キャラクターの著作権と各別に成立した個々の漫画の著作権との関係はどうなるのか、(4)キャラクター自体の著作権法上の保護期間は、どうなるのか等の問題をいたずらに生じさせることになる。
 原告キング フィーチャーズは、コンピュータープログラムやVTRに録画された信号を著作物の抽象的な表現であるとして、キャラクターの表現と対比して主張するが、プログラムやVTRにおいて他人に知覚されうる媒介物としての著作物と考えられているのは、プログラム言語や映像物であって、信号や電波は、右媒介のための素材にすぎないのであるから、プログラムやVTRにおいても、著作物の表現は、具体的に知覚することができる客観的存在を有しているのであり、したがって、これを抽象的表現と把握する同原告の主張は、誤りである。また、原告キング フィーチャーズは、「ポパイ」又は「POPEYE」の名前にも著作物性があり、これを複製することは、ポパイのキャラクターの複製に当たる旨主張する。しかし、ポパイのキャラクターに著作物性がないことは前述のとおりであり、そして、キャラクターの名称である「ポパイ」又は「POPEYE」という言葉は、単に3音の組合せの羅列にすぎず、その中に何かを表現しようとする意図があるか否かにかかわらず、これは、「思想又は感情」が創作的に表現された精神的創作物とは到底言い難く、いかなる意味においても「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とはいえない。したがって、著作物に登場する主人公の氏名は、著作物中にその名が出てくるか否かにかかわらず、著作物性を有するとはいえない。更に、原告キング フィーチャーズは、著作権による保護を「ポパイ」又は「POPEYE」の名称に及ぼすべきであるとする理由の一つとして、当該名称がこれまでに人物の名称として使われたことのなかった新しい名称であること、右名称が広く世人に親しまれていることなどを挙げるが、著作権法による保護は、著作物の新規性、斬新性又は著名性に与えられるものではなく、思想又は感情を創作的に表現したものに与えられるものである。更にまた、原告キング フィーチャーズは、ポパイのように、これまでに人物の名称として使われたことのなかった新しい名称を著作者に独占させたところで、第三者の題名等の選択範囲が狭まって困るというような実際上の不都合は何ら生じない旨主張するが、例えば、わが国においても「ポパイ」と表示した喫茶店は数多く存在しているのであり、原告キング フィーチャーズの主張によれば、これらはすべて著作権侵害行為となり、極めて不都合な結果をもたらすことになる。
(二)原告キング フィーチャーズは、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)は、本件漫画におけるポパイの特徴を備え、一見して本件漫画におけるポパイを表現したものとみることができるから、具体的に本件漫画のどの絵に似ているかを問題とすることなく、本件漫画におけるポパイの絵の複製に当たると主張するが、本件漫画について具体的な画面を特定して、本件漫画の複製権侵害を主張すべきである。原告キング フィーチャーズがアメリカ合衆国において著作権登録を了したと主張する別紙第2目録(2)記載の漫画と被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵とを対比するに、右各図柄の絵は、いずれも右漫画の複製に当たらないことが明らかである。更に、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵は、いずれも原告らが証拠として提出した本件漫画におけるポパイの図柄、姿態とも、外観上相違しており、右の漫画の再製ということはできない。
三 抗弁
1 黙示の許諾
 原告キング フィーチャーズから本件著作物の独占的利用権を与えられている原告ハーストの極東代表の地位にあり、日本国内において本件著作物についての利用権設定の代理権を有するX4(以下「X4」という。)は、昭和35、36年ころ、本件商標権を有していた訴外H(以下「H」という。)に対し、本件商標を使用すること、つまり、本件著作物の利用として被告図柄(2)ないし(4)を使用することを許諾した。そして、被告大阪三恵は、Hから本件商標権及び本件商標を使用した腕カバーの営業を譲り受け、本件著作物を利用する権利を取得した。すなわち、Hは、昭和30年ころから、株式会社丸善商店を経営し、本件商標の連合商標である登録第326206号商標権の登録商標(以下「本件連合商標」という。)を腕カバーに使用し、関西を中心として、全国約120社の取引先に右商品を卸販売していたものであるが、昭和35年ころ、同社の製造するエプロンに本件漫画のポパイの顔姿を装飾として大きく表し、それによって販路の拡大を図るべく、X4に対し、本件漫画の使用許諾を受けたい旨申入れ、X4と交渉したところ、結局、右交渉はまとまらなかったものの、X4は、その交渉過程において、X4が当時本件商標権者であったことを了知し、Hが従前どおり本件商標、すなわち、被告図柄(2)ないし(4)、(6)を各種繊維製品に使用することについては、別に異論を述べなかったのである。また、原告キング フィーチャーズは、本訴に至るまで、被告らに対し、被告らが被告図柄(1)ないし(6)を使用することについて異議を述べたことはない。更に、X4は、大阪地方裁判所昭和49年(ワ)第393号事件(以下「旧ポパイ事件(1)」という。)についての同裁判所昭和51年2月24日言渡しの判決以降、本件商標権を侵害するとの問題を避けるため、原告ハーストから本件漫画の使用許諾を受けている各ライセンシーに対し、ポパイの名称の商標的な使用を避けるように強く指導し、被告大阪三恵及び被告ポパイによる本件商標、すなわち、被告図柄(2)ないし(4)、(6)の使用を認めることを前提としてポパイの商品化事業を遂行してきたのである。以上によれば、原告キング フィーチャーズは、被告らに対し、本件著作物の利用として被告図柄(1)ないし(6)を使用することを黙示的に許諾したものである。なお、原告キング フィーチャーズは、(1)X4による使用許諾は、Hに対するものであって、被告らに対するものではなく、また、腕カバーに限定されていた、(2)原告キング フィーチャーズは、昭和55年に至るまで、被告大阪三恵及び被告ポパイによる本件商標、すなわち、被告図柄(1)ないし(4)の使用の事実を知らなかった旨主張するが、(1)X4による使用許諾は、あくまでも本件商標についての使用許諾であって、対人的な使用者の限定はなく、また、商品の範囲も腕カバーに限定されていなかった、(2)原告ハーストが、自ら「POPEYE」の文字商標について指定商品を第21類として商標登録出願をした際に、本件商標が引用され、同出願が拒絶されたのは、昭和42年であり、また、被告ポパイは、遅くとも昭和45年には職業別電話帳に被告図柄(1)を使用した広告をしており、更に、東京地方裁判所昭和48年(ワ)第7060号事件(以下「旧ポパイ事件(2)という。)及び旧ポパイ事件(1)は、いずれも、被告大阪三恵が原告ハーストから本件漫画の使用許諾を受けているライセンシー、又は右ライセンシーから商品を仕入れて販売していた者を相手に提起した訴訟であり、このことからすると、原告らの前記(2)の主張は、信じることができない。
2 消滅時効
 原告キング フィーチャーズは、前1のとおり、被告図柄(1)ないし(4)が、長年腕カバーに使用されてきたことを知りながら、最近までこれを放置してきたものであって、右事実を知りたるときより3年を経過していることは明らかであるから、被告大阪三恵及び被告ポパイは、腕カバーの販売についての原告キング フィーチャーズの損害賠償請求に対し、本訴が提起された昭和59年9月7日から遡って3年より前の分については、本訴において、消滅時効を援用する。
3 権利失効の原則又は権利の濫用
 仮に、使用許諾の主張が認められないとしても、原告キング フィーチャーズの本訴請求は、次のとおり、権利失効の原則により、又は権利の濫用として許されない。
(一)原告キング フィーチャーズは、被告らの被告図柄(1)ないし(6)の使用、すなわち、本件商標の使用について、次のとおり、本件著作権を侵害するものであることを主張しうる機会が度々あったにもかかわらず、長年本件商標の使用を黙認してきたものである。
(1)原告キング フィーチャーズは、本件商標の商標登録出願について出願公告がされたとき、商標登録異議の申立ての機会があったにもかかわらず、右申立をしなかった。
(2)前述のとおり、原告ハーストの極東代表のX4は、昭和35年又は36年ころ、Hが本件商標、すなわち、被告図柄(2)ないし(4)、(6)を使用していたことを了知していながら、別に異議を述べなかった。また、原告キング フィーチャーズは、本訴に至るまで、被告らの被告図柄(1)ないし(6)の使用を容認している。
(3)原告キング フィーチャーズは、旧ポパイ事件(1)の判決言渡し後に、被告大阪三恵に対し、度々本件商標権を譲り受けたい旨申し入れてきたことはあるが、本件著作権侵害を問題としたことはない。
(二)被告らは、本件商標権の前主であるHらの本件商標及び本件連合商標の使用を含め、約45年間以上の期間にわたり、ポパイ又はPOPEYEの文字を重要な構成要素とする本件商標を使用し、その長年の営業努力により、本件商標の顧客吸引力を高めてきたものである。これに対して、原告キング フィーチャーズは、仮に、本件商標、すなわち、被告図柄(1)ないし(6)の使用が本件著作権に触れるとするならば、この侵害行為の防止に対し適切な措置を講じなければならないところ、長年これを放置し、最近になって、別紙保護期間計算書のとおり、保護期間も残すところ4年余りとなった本件著作権を盾に、被告らに対し、本件著作権に基づく差止請求権を行使しているものである。
 以上によれば、原告キング フィーチャーズは、被告らの被告図柄(1)ないし(6)の使用について長期間にわたり本件著作権の侵害を問題としなかったのであり、この間被告らの努力によりグッドウィルが化体された被告図柄(1)ないし(6)について、今になってこれを本件著作権侵害であるとする本訴請求は、権利失効の原則により、又は権利の濫用として許されない。なお、原告キング フィーチャーズは、昭和55年に至るまで被告らの本件著作権侵害行為を知らなかった旨主張するが、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵が昭和53年12月15日に本件商標権の存続期間の更新登録の出願をした後、被告大阪三恵に対し、「貴社所有の登録第536992号「POPYE、ポパイ及図形」の件」と題する書簡(乙第30号証)を送付しているのであり、この事実からすると、原告キング フィーチャーズの右主張は、信用しがたい。
四 抗弁に対する原告キング フィーチャーズの反論
1 抗弁1について
 X4が、Hに対し、本件商標、すなわち、被告図柄(1)ないし(4)を腕カバーに使用することを認めたことはあるが、これは、Hの懇願によりHに対して全くの厚意からしたものであって、H以外の第三者である被告らに対して使用を認めたことはない。すなわち、被告らのような第三者は、その当時現れておらず、また、Hに対する許諾は、あくまでHに対するものにすぎず、H以外の第三者の権利侵害行為までをも許すものではない。このことは、使用許諾契約が成立した場合であっても、その契約当事者たる地位を第三者に移転するには相手方の承諾を要すること、著作物を利用しうる権利の譲渡についても、著作権者の承諾を要すること(著作権法63条3項)等からも明らかであるが、本件のように、正式な使用許諾契約もなく、単なる厚意に基づいて無償で黙認する旨述べたような場合は、その黙認した際の具体的な事実関係を前提とした法律関係が発生するにすぎず、その当時予想されていなかった第三者との関係にまで黙認の効果が及ぶものではない。また、原告キング フィーチャーズは、昭和55年に至るまで、被告大阪三恵及び被告ポパイが被告図柄(1)ないし(4)を使用することについて異議を述べたことはないが、それは、その時までその事実を知らなかったためである。
2 抗弁2について
 被告らの主張事実は否認する。原告キング フィーチャーズは、前1のとおり、昭和55年に至るまで、被告大阪三恵及び被告ポパイが被告図柄(1)ないし(4)を使用しているとの事実を知らなかったものである。
3 抗弁3について
 原告キング フィーチャーズは、本件商標の商標登録出願について出願公告がされた当時、ポパイのキャラクターは、著作権で保護され、何人もこれを商標として使用することはできないと考えていたので、商標権については何の興味もなく、そのため、商標登録異議の申立て等の手続を採る必要はなかったのである。また、X4は、H又は株式会社丸善商店による被告図柄(1)ないし(4)、すなわち、本件商標の使用を認めたことがあるので、H又は株式会社丸善商店に対しては、本件著作権を侵害するものとして対処すべくもなかった。更に、X4は、被告大阪三恵及び被告ポパイの被告図柄(1)ないし(4)、すなわち、本件商標の使用の事実を知った際に、被告大阪三恵に対し、本件著作権侵害の事実を示したうえ、円満解決のために本件商標権を譲渡してくれるよう申し込んだのであるが、原告キング フィーチャーズは、右の申込みに至るまで被告大阪三恵及び被告ポパイの本件著作権侵害行為を知らなかったのであるから、被告大阪三恵及び被告ポパイの被告図柄(1)ないし(4)の使用を黙認したことはなく、したがって、本訴請求が権利失効の原則により、又は権利の濫用として禁じられるということはない。また、本件著作権の存続期間は、被告らが主張するように短くはない。すなわち、被告らは、別紙保護期間計算書において、本件漫画が昭和4年1月17日に公表されたものとして本件著作物の保護期間を計算しているが、本件漫画は、毎回完結するものとして、現在まで継続的に刊行されているのであり、その保護期間は各連載漫画ごとに計算されるべきであるから、例えば1985年に発表されたものの保護期間は、2035年まで存続するのである。更に、原告キング フィーチャーズは、原告ハーストをして、ポパイのキャラクターの無断使用者を発見する度に、その時々に応じて、消費者に対する注意を出したり、無断使用者に警告して「お詫び」の広告を出させたり、告訴したりしているのであって、被告大阪三恵及び被告ポパイの被告図柄(1)ないし(4)の使用の事実を知っていたとすれば、速やかに手を打っていたはずである。
〔別紙第2目録(3)表示のロゴタイプの著作物の著作権に基づく請求〕
一 請求の原因
1 原告マガジンハウスは、昭和48年ころ、「POPEYE」という誌名の雑誌を刊行するため、原告ハーストの許諾を得て、訴外Iに依頼して、別紙第2目録(3)表示のPOPEYEの名称についてハイライト(白抜き。光が当たったように見え、立体性を強調する手段。)を付した特別のロゴタイプ(以下「本件ロゴタイプ」という。)を制作させ、そのころ、右Iから本件ロゴタイプの著作物についての著作権を譲り受けた。なお、文字は、意思伝達の手段であり、これを特定人に独占させるのは好ましくないという配慮の下に、文字の字体には著作物性が存しないという考え方があるが、本件ロゴタイプは、意思伝達の手段ではない。また、文字にハイライトを付したのは、鑑賞を目的とするからである。したがって、書や花文字に著作物性が肯定されているように、本件ロゴタイプも、著作物として保護されるべきである。
2 被告大阪三恵及び被告松寺は、昭和56年ころから、意思を通じて、被告図柄(5)を付したマフラー及びネクタイを販売している。
3 被告図柄(5)は、本件ロゴタイプを複製したものである。
4 被告大阪三恵と被告松寺は、故意又は過失により、原告マガジンハウスの本件ロゴタイプについての著作権を侵害したものである。
 本件ロゴタイプについての著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額は、商品の売上高の1パーセントであるところ、被告大阪三恵及び被告松寺による被告図柄(5)を付したマフラー及びネクタイの売上高は、前述のとおり、それぞれ1億1880万円及び2000万円であるから、原告マガジンハウスがその損害の額として請求しうる通常受けるべき金銭の額に相当する額は、右マフラーについて118万8000円、右ネクタイについて20万円である。
5 よって、原告マガジンハウスは、被告大阪三恵と被告松寺に対し、前記損害の合計額138万8000円の内金100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和59年10月2日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。
二 請求の原因に対する被告大阪三恵及び被告松寺の認否及び主張
1(一)請求の原因1のうち、本件ロゴタイプが著作物であることは否認し、その余の事実は知らない。
(二)同2のうち、被告松寺が被告図柄(5)を付したマフラー及びネクタイを販売していることは認め、その余の事実は否認する。
(三)同3、4の事実は否認する。
2 本件ロゴタイプの著作物性について
 本件ロゴタイプは、「POPEYE」の文字のみを唯一の構成要素とし、ロゴタイプ風の肉太な文字が、順次右側の文字の一部が左側の文字の下方へ少しずつ隠れるような綴り体となって、やや図案化されているものの、通常一般に見受けられる欧文字で表されている。このようなデザインされた文字の書体は、純粋美術とはいえず、著作物性を有しないことが明らかである。
〔不正競争防止法に基づく請求〕
一 請求の原因
1 原告キング フィーチャーズは、新聞等に発表された文芸、美術関係の作品の著作権を譲り受け、これを管理することを業とするアメリカ衆国ニューヨーク州の法人であり、原告ハーストは、新聞発行業その他の多種の事業の遂行を業とするアメリカ合衆国デラウェア州の法人であり、原告マガジンハウスは、雑誌及び書籍の出版を業とする会社であり、原告有限会社アメリカン、フィーチャーズ(以下「原告アメリカン フィーチャーズ」という。)は、外国ニュース、ニュース映画、ニュース写真等の取次販売を業とする会社である。
 被告大阪三恵は、繊維制〈「制」は「製」の誤?〉品の製造販売を業とする会社であり、被告ポパイは、繊維製品の製造卸を業とする会社であり、被告松寺は、ネクタイの製造販売を業とする会社である。
2(一)本件漫画は、1929年1月17日以降、ニューヨーク イブニング ジャーナル紙に連載され始めるや、主人公であるポパイの正義感や痛快無比の腕力が人気の的となり、その後も1929年から1938年までの期間に限っても、別紙第2目録(1)記載の新聞、雑誌、単行本に連綿として掲載され続け、また1932年には訴外Jの手によって映画化され、その後は更にテレビ化されたりして、ポパイのキャラクターは、世界中の人々に受け入れられ、親しまれるに至った。わが国においても、右のポパイ映画のほか、雑誌や単行本の形で多数の本件漫画が紹介された結果、ポパイのキャラクターは、広い人気を集めていたが、昭和34年6月からは、TBSテレビを通じて、株式会社不二屋がスポンサーとなって本件漫画の一部が放映され、これが高い視聴率を誇り、空前の人気を博した。
 原告ハーストは、原告キング フィーチャーズから、本件著作権について独占的利用権の設定を受け、原告ハーストの一部門であるキング フィーチャーズ シンジケート ディビィジョンをして、本件漫画の主人公のポパイ等について商品化事業を遂行させているが、わが国においては、昭和33年10月に設立された原告アメリカン フィーチャーズをして、右商品化事業、すなわち、各企業に対し、その販売する商品にポパイという人気キャラクターを付して販売することを許諾し、一定の許諾料を得る事業を遂行させてきた。なお、ライセンシーたる企業は、ポパイのキャラクターを使用することによって商品の顧客吸引力を高め、その売上を伸ばすことができ、これを購入した消費者は、ポパイのキャラクターを付した商品を取得することにより、人気者との親近感、一体感を得ることができるのである。原告アメリカン フィーチャーズは、右の商品化事業の広告をし、ライセンシーとなることを希望する企業の中から、商品の品質及び財務体質が優れ、このような商品化事業を大切に育てていこうとする熱意を持った企業を選択し、ライセンシーとなった企業のその後の商品化事業展開上の問題について相談に乗り、契約条件の履行、商品の品質の面についてその事業を指導監督し、また、ライセンシーから徴収したロイヤルティーを原告ハーストに送金し、更に、ポパイのキャラクターを侵害する者があるときは、必要に応じ適宜、警告や告訴等の手段を採る等の活動を行っているが、法律上は、原告ハーストとライセンシーとの仲介者の立場をとっており、契約書に署名することはしていない。また、原告アメリカン フィーチャーズは、原告ハーストに支払うロイヤルティーの25パーセントを、その対価として取得している。
 原告ハーストと原告アメリカン フィーチャーズは、ライセンスを受けた企業グループ全体の結束と発展を図り、顧客に対するポパイのキャラクターの持つ品質保証機能を確保維持するため、1業種につき1社を原則として許諾しているほか、許諾契約には次の条項を含ませている。
(1)商品に付する絵又は文章は、ライセンサー(原告ハースト)により承認されたものでなければならない。ライセンサーは、商品の絵又は文章及び品質について、管理監督する権利を留保する。
(2)ライセンシーは、その商品に「by King Fealures Syndicate・Inc・」等と明記するものとする。
(3)ライセンシーは、商品の見本12個を無償でライセンサーに提供する。
(4)ライセンシーの希望により、商品に貼付するための証紙を交付する。
(5)ライセンシーが契約後3か月以内に商品の製造販売を開始しないときは、ライセンサーは、契約を解除しうる。
(6)ライセンシーが、契約条項を遵守したときは、ライセンシーの希望により契約期間を1年間ずつ延長しうる。
 訴外株式会社不二屋は、右の契約により、原告ハーストの許諾を最初に得たのであるが、同社がチューインガムやキャラメルにポパイのキャラを付して発売したところ、爆発的に売れ、以後、多数の企業が、この商品化事業を希望するようになり、原告ハーストは、昭和45年ころには、別紙第3目録記載の15の企業とライセンス契約を結ぶに至った。更に、ポパイをキャラクターとする商品化事業は、その後も大いに発展し、昭和59年11月1日現在のライセンシーは、別紙第4目録(1)記載のとおりであるが、そのうち繊維製品についてみると、別紙第4目録(2)記載の9社が、ライセンシーとなっている。
 原告ハースト及び原告アメリカンフィーチャーズが、このように1業種につき1社と定めて、本件漫画のキャラクターの使用を許諾し、厳しい品質管理を通じて同キャラクターを付した商品の品質維持に努め、広告宣伝にも力を注いだ結果、ポパイのキャラクターは、遅くとも昭和45年ころには、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品化事業を示す表示、すなわち、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として、わが国において広く認識されるに至った。
(二)原告マガシンハウスは、昭和48年ころから、原告ハーストの許諾を得て、本件ロゴタイプをその雑誌に使用するようになったが、この雑誌の評判が極めて高く、毎月数十万部も販売され、人気がでてきたので、原告ハーストからポパイのキャラクターの使用許諾を得ている他のライセンシーたちも、本件ロゴタイプの使用を希望するようになった。そこで、原告ハーストは、原告アメリカン フィーチャーズを介して原告マガジンハウスと協議し、その結果、他のライセンシーは、原告アメリカン フィーチャーズの許可を得れば、本件ロゴタイプを使用しうることになり、現在は、ほとんどのライセンシーが本件ロゴタイプを使用している。したがって、本件ロゴタイプは、遅くとも昭和56年ころには、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品化事業を示す表示、すなわち、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として、また、原告マガジンハウスの商品表示として、わが国において広く認識されるに至った。
3 被告大阪三恵及び被告ポパイは、昭和45年ころから、意思を通じて、被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバーを販売している。被告大阪三恵及び被告松寺は、昭和56年ころから、意思を通じて、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売している。
4 被告図柄(1)ないし(6)は、ポパイの観念及び称呼を生ずる点で、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの周知商品表示たるポパイのキャラクターと類似しており、被告らが被告図柄(1)ないし(6)をその商品に付して販売すると、一般消費者をして被告図柄(1)ないし(6)を付した腕カバー、マフラー及びネクタイが、右原告らとライセンシーのグループに属する企業の商品であるかのごとく混同されるおそれがある。したがって、被告らの前記3の行為は、原告ハースト、原告アメリカン フィーチャーズ及び原告マガジンハウスの営業上の利益を害する。
5 被告大阪三恵及び被告松寺は、故意又は過失により、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売したものであり、原告マガジンハウスは、被告大阪三恵と被告松寺の右マフラー及びネクタイの販売行為により、少なくとも100万円の損害を被った。
6 よって、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズは、不正競争防止法1条1項1号の規定に基づき、被告大阪三恵と被告ポパイに対し、被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバーの販売の差止め及び同被告らが現に所有する腕カバーからの右図柄の抹消を、被告大阪三恵と被告松寺に対し、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイの販売の差止め並びに同被告らが現に所有しているマフラーとネクタイからの右図柄の抹消を求め、原告マガジンハウスは、同条1条ノ2第1項の規定に基づき、被告大阪三恵及び被告松寺に対し、前記損害金100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和59年10月2日から〈「支払済みに至るまで」が脱落?〉民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する被告らの認否及び主張
1(一)請求の原因1のうち、被告らの各営業内容については認め、その余の事実は知らない。
(二)同2のうち、わが国において、昭和34年6月から本件漫画の一部がテレビで放映された事実は認め、「原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズが、このように1業種につき1社と定めて、本件漫画のキャラクターの使用を許諾し、厳しい品質管理を通じて同キャラクターを付した商品の品質維持に努め、広告宣伝にも力を注いだ結果、ポパイのキャラクターは、遅くとも昭和45年ころには、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品化事業を示す表示、すなわち、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として、わが国において広く認識されるに至った」こと及び「本件ロゴタイプは、遅くとも昭和56年ころには、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品化事業を示す表示、すなわち、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として、わが国において広く認識されるに至った」との事実は否認し、その余の事実は知らない。
(三)同3のうち、被告ポパイが被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーを販売した事実並びに被告松寺が被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売している事実は認め、被告大阪三恵が右腕カバー、マフラー及びネクタイを販売したとの事実は否認する。被告ポパイは、被告大阪三恵より無償にて本件商標の許諾を受け、被告図柄(2)ないし(4)を付して腕カバーを販売していたものであるが、被告図柄(1)については、昭和45年及び46年度の職業別電話帳の被告ポパイの広告に各1回使用しただけで、腕カバーに直接付したことはない。なお、被告ポパイは、昭和59年9月20日、解散の決議を経て、同年10月3日その旨の登記を了し、以後被告腕カバーを製造販売していない。
(四)同4、5の事実は、否認する。被告ポパイは、被告図柄(1)ないし(4)を本件商標の使用権に基づき、また、被告松寺は、被告図柄(5)又は(6)を本件商標の使用権に基づき使用したものであるから、被告ポパイ及び被告松寺については、仮に不正競争防止法違反の行為があったとしても、故意又は過失は存しない。
2 原告アメリカン フィーチャーズについて
 不正競争防止法1条1項1号の規定に基づく差止請求をしうる者は、周知商標の使用につき固有かつ正当な利益を有する者でなければならず、原告アメリカン フィーチャーズは、次の点からみて同利益を有しない。
(一)不正競争防止法1条1項1号の規定の立法趣旨は、商品主体の混同行為を防止することによって、いわゆる周知表示に化体された商品主体の信用の冒用、毀損を規制するとともに、併せて公正な競業秩序を維持、形成することにあり、右規定により保護されるのは、商品の製造販売等の業務に従事する商品主体であることを要するところ、原告アメリカン フィーチャーズは、ポパイの漫画が付された商品の製造販売の業務に従事する者ではなく、また、自己の名において商品化事業を営むものでもない。したがって、原告アメリカン フィーチャーズは、ポパイのキャラクターについて、自己の商品を示す主体とはなりえないから、右規定により保護される主体とはなりえない。また、ポパイのキャラクターの商品化権許諾業務において、ライセンシーの選別、ポパイのキャラクターの使用態様のチェックや品質管理を含めた業者の指導、監督及び広告活動並びにロイヤルティーの集金等を中心となって行っているのは、原告ハーストの極東代表であるX4個人であって、原告アメリカン フィーチャーズではない。原告アメリカン フィーチャーズは、X4が代表を勤める会社として、その指示に従って行動するだけであって、独自の立場からポパイのキャラクターの商品化事業を行うものではなく、不正競争防止法によって保護を受ける周知商標の使用につき固有かつ正当な利益を有するものではない。
 仮に、原告アメリカン フィーチャーズが、原告ら主張のごとく商品化事業の諸活動をしているとしても、それは、原告ハーストの単なる手足としての活動にすぎず、法的には、原告アメリカン フィーチャーズ固有の活動とみられるべきものではない。現に、商品化権許諾契約の当事者は、原告ハーストであり、原告アメリカン フィーチャーズば契約書に署名することはなく、また、ポパイの漫画が付された商品に関して、新聞紙上を通じて謹告等を掲載するに当たっても、掲載行為の主体は、個別のライセンシーや納入業者であり、このことからも、原告アメリカン フィーチャーズが商品化事業の主体となっていないことは明らかである。
(二)原告アメリカン フィーチャーズは、商品化事業に必要な諸活動について対価を得ている旨主張するが、右は、原告アメリカン フィーチャーズの業務に対する原告ハーストから得られる利益にとどまり、不正競争防止法1条1項の規定にいう「営業上の利益」には当たらない。すなわち、原告アメリカン フィーチャーズが得ている対価は、代理店(媒介代理商)手数料に類似するものであり、その収入の減少は、原告ハーストの営業成績が低下することによって反射的に生じるものであって、自らの営業上の利益が害された結果によるものではない。また、原告ハーストとの契約に基づいて業者の選択、指導監督、ロイヤルティーの徴収という商品化事業における最も重要な諸活動の任に当たっているのは、X4個人であるところからみて、右対価を受け取るべき者はX4個人であると考えられるところ、原告ハーストとX4は、税法上の対策から、単に右対価の受取人を原告アメリカン フィーチャーズとする契約を交わしているにすぎないものと解される。
3 ポパイのキャラクターの周知性について
 ポパイのキャラクターは、次に述べるとおり、原告ハースト及びアメリカン フィーチャーズとそのライセンシーのグループの商品表示として広く認識される表示とはなっていない。
(一)原告ハーストは、ポパイのキャラクターに商品の出所表示機能があることを当然のように主張するが、キャラクターの著名性と商品の出所表示としての周知性とは混同されてはならない。キャラクターの著名性は、顧客に対し注意喚起力を発揮するが、これは、不正競争防止法が保護している商品の出所表示機能とは異なるものである。すなわち、取引者又は需要者は、「ポパイの商品」を「ポパイの絵柄のついた商品」と認識しているだけで、「ポパイの絵柄のついた絵は特定の者の製造販売に係る商品」と認識しているわけではない。
(二)原告ハーストは、周知表示として、単にポパイのキャラクターと主張するだけで、具体的な標章を何ら主張していないが、実際にも、原告ハーストのライセンシーは、個々に異なるポパイの絵や文字を、ときには商標的に、ときには装飾的に、全く野放図に使用しているだけである。このように、各ライセンシーの標章の使用態様に一定性がないのに、ときどきのファッション感覚に合わせて「ナウな感じ」「カッコよさ」「おもしろい感じ」等の審美的効果を狙って、ポパイのキャラクターが使用されているためであり、取引者又は需要者も、単に右表示を本件漫画の主人公であるポパイとしてのみ認識し、その嗜好ないし趣味感から商品を購入するのである。また、X4は、少なくとも昭和51年2月24日に言い渡された大阪地方裁判所の旧ポパイ事件(1)の判決以降、ポパイ又はPOPEYEの文字について、商標的な使用はしないように各ライセンシーに対し指導してきているのである。更に、原告ハーストのライセンシーは、ポパイのキャラクターに加えて、他の商標を使用しており(例えば、靴下につき上部ラベルの黒地に赤く大きな字でMr・Playの商標が使用されている例がある。)、このような商標については、各ライセンシー間で統一的な使用がされておらず、この点からも、ポパイのキャラクターについて出所表示機能は生じえない。
(三)原告ハーストのライセンシーは、異業種の多数社に及び商品の種類は多岐にわたり、一定の商品との間に出所関連性を生じる余地はない。原告ハースト主張のライセンシーグループを構成する個々のライセンシーは、たびたび変動しており、ライセンシー間の結合も希薄で、商品化事業に係る各ライセンシーの取り扱う商品全体とポパイのキャラクターとの間に商品の出所関連性が生じる余地はない。例えば、帽子を取り扱っているライセンシーは、株式会社シャポーハウス三矢であったが、同社は、昭和58年8月11日付けで不渡手形を出して事実上倒産し、有限会社ヤング販売にライセンシーが変わっている。また、手袋は、最近までラパン・トレーディング株式会社が扱っていたところ、同社は、昭和58年7月7日大阪地方裁判所より破産宣告の決定を受け、その後、ローズニッティング株式会社にライセンシーが変わっている。更に、マフラーを扱っていたライセンシーであるコンセプト株式会社も、不渡手形を出し、現在では廃業している。
(四)原告アメリカン フィーチャーズは、商品化事業に必要な諸活動をなしうる人的体制を備えておらず、現実に右活動を行っているのは、X4個人である。様々な業種、業態の企業が参加するグループの商標が自他識別機能を獲得して不正競争防止法上の保護を受けるためには、集団的な管理体制による統率が不可欠であるところ、ポパイのキャラクターの商品化事業の場合、右管理体制が明らかではなく、統率がとれていない。また、X4は、ライセンシーの商品の中身をチェックすることはあるものの、小売段階の吊り札、織ネームにおけるポパイのキャラクターの使用態様については、指導監督を一切行っておらず、ライセンシーに任せている状況にある。
(五)ポパイのキャラクターのライセンサーは、原告ハーストだけではなく、同原告の外にも、パラマウント・ピクチャーズ・コーポレーション(以下「パラマウント」という。)及びウォルトディズニー・プロダクション(以下「ウォルトディズニー」という。)があり、同社より許諾を受けた日本のライセンシーの商品が現実に市場に出回っているのであって、ポパイのキャラクターを使用した商品は、必ずしも原告ハースト及びそのライセンシーのグループの商品と連想されるものでもない。
(六)仮に、ポパイのキャラクターが原告らの商品表示として周知性を獲得したとしても、ライセンシーによるポパイのキャラクターの使用の多くは、右周知性獲得前に商標登録出願された本件商標権を侵害する態様でなされたものであり、そのような表示は、不正競争防止法による保護を受けえない。
(七)本件ロゴタイプは、原告ハースト及びアメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品表示とはいえない。すなわち、文字の書体は、線の一定の配列により特定の音又は意味内容を伝達するものであるから、当然一定の形態をとることになる。したがって、そのような一定の形態をとる一つ一つの文字自体における個個の形態ないしその創作について法律上の保護に値する利益があり、これを保護しなければならないとすれば、無限に存する書体自体の私有化を認めるに等しい結果となり、本来、国民共有の財産たるべきはずの文字は、僅かな者の独占的使用に委ねられ、国民による文字の自由使用は不可能になってしまうのであって、帰結するところは明らかに不当である。仮に、原告ハーストらが主張するとおり、本件ロゴタイプが昭和56年ころに原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として周知性を獲得していたとしても、本件商標の商標登録出願は昭和33年であり、本件ロゴタイプは、本件商標権を侵害するものであるから、周知性を得ることがあっても、不正競争防止法による保護を受けえない。
(八)原告らは、本件ロゴタイプについて、他の類似書体のものと区別して周知性を主張するが、原告らの主張によれば、本件ロゴタイプは、ライセンシーの希望があれば、原告アメリカン フィーチャーズの許諾により使用することができるものであり、他の類似書体と比べて、本件ロゴタイプについてのグッドウィルを高めるという努力はされていないのである。また、本件ロゴタイプは、使用期間が短く、使用実績も少ない。したがって、本件ロゴタイプは、周知とはいえない。
三 被告らの主張に対する原告ハーストらの反論
1 原告アメリカン フィーチャーズについて
(一)不正競争防止法1条1項1号に基づき差止め又は損害賠償請求をなしうる者は、周知表示の使用につき固有かつ正当な利益を有する者であることを要し、かつ、それで足りる。なぜならば、不正競争防止法は、請求権者として、単に「之ニ因リテ営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アル者」であることを要求するだけで、それ以上のものは何ら要求していないからである。そして、原告アメリカン フィーチャーズは、正に原告ハーストと共同してポパイのキャラクターの商品化事業を展開している者であって、ポパイのキャラクターの使用について、固有かつ正当な利益を有するものである。
(二)X4が原告ハーストの極東代表とされているのは、専念義務を負わせるためであって、本来的には、原告ハーストと原告アメリカン フィーチャーズが連係している。X4は、その業務を原告アメリカン フィーチャーズに遂行させるという形をとっているのであり、結局、原告ハースト、原告アメリカン フィーチャーズ及びX4個人が、三者一体となって商品化事業を行っているのである。
2 ポパイのキャラクターの周知性について
(一)被告らは、原告ハーストのライセンシーが使用するポパイのキャラクターは、意匠的に商品に使用されているにすぎず、出所表示機能を有しない旨主張するが、商品の意匠的効果を狙って付された図柄であっても、その二次的効果として出所表示機能を有しうることは否定することができない。すなわち、ポパイのキャラクターは、商品化事業に使用される以前から周知著名であり、これを意匠的に使用した場合、消費者の関心を強く惹き、そして、これが厳重な商品管理の下に1業種につき1社と定めて盛大に使用されているので、ポパイのキャラクターのついた商品は良い商品だという認識、すなわち、二次的効果としての出所表示機能を生ずるに至った、ということである。したがって、ポパイのキャラクターが商品に付されている場合、一般消費者は、「ポパイのシャツ」「ポパイの靴」等と認識し、再び、「ポパイのシャツ」「ポパイの靴」を買い求めるのであり、ポパイのキャラクターが、出所表示機能を有することは明らかである。
(二)被告らは、原告ハーストのライセンシーが使用するポパイの絵や文字の不統一性について論じるが、商標権の禁止権は、登録商標と同一性のある範囲内の商標のみならず、類似性のある範囲内の商標にまで認められるのであるが、その根拠は、類似性のある商標を使用することにより、商品の出所を混同するという点にあり、本件においても、原告ハーストのライセンシーが、類似性の範囲内でポパイの絵や文字を使用していれば、その絵や文字によりポパイの称呼、観念が生じ、正に自他商品識別機能を果たしているのである。
 また、原告ハーストのライセンシーが、ポパイのキャラクターとともにそれ以外の商標も使用しているとしても、その商品で一番強く消費者の関心を引くのはポパイのキャラクターであり、したがって、消費者は、これを原告ハーストらを中核とする、同原告らとライセンシーのグループのポパイの商品と認識するのである。ポパイの商品化事業に参加を求める業者も、ポパイのキャラクターの有するこの作用に着目しているのであって、その故にこそ、あえてライセンス料を支払ってまで原告ハーストと契約しているのである。
(三)被告らは、原告ハースト以外にもライセンサーが存在する旨主張するが、被告ら主張のもう一方のルートのライセンサーによる商品化事業は、原告ハーストによる既存の商品化事業に混乱をもたらしたので、1年で中止している。
(四)本件商標権は、後述の五1のとおり無効とされるべきであり、このような商標権の禁止権の及ぶ範囲は、一般の商標権に比べ格段に狭く、出願したとおりの構成と全く同一の構成を有する標章に限られるべきであり、したがって、原告ハーストのライセンシーグループが使用するポパイのキャラクターは、本件商標権を侵害するものではない。
四 抗弁
1 本件商標権の行使
 原告ハーストらは、ポパイのキャラクターは、遅くとも昭和45年ころには、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として周知になった旨主張するが、本件商標は、昭和33年6月26日に商標登録出願されているのであって、被告らが、本件商標権の指定商品に属する商品について、本件商標を使用する行為は、不正競争防止法6条の規定にいう商標法による権利の行使に当たる。この点に関して、原告ハーストらは、後述の五1において、商標法29条の規定に基づいて反論するが、同条は、昭和35年4月1日から施行されており、本件商標が商標登録出願された当時、存在していない。
2 消滅時効
 原告マガジンハウスは、被告図柄(5)がマフラーに、被告図柄(5)又は(6)がネクタイに使用されてきたことを知りながら、最近までこれを放置してきたのであるから、被告らは、原告マガジンハウスの損害賠償請求に対し、本訴が提起された昭和59年9月7日から遡って3年より前の分については、本訴において、消滅時効を援用する。
3 権利失効の原則又は権利の濫用
 〔ポパイの漫画の著作権に基づく請求〕の三抗弁3権利失効の原則又は権利の濫用の主張と同旨。
五 抗弁に対する原告の反論
1 抗弁1について
 本件商標は、その商標登録出願の日前に生じている原告らの本件著作権と抵触するものであって、使用することができないものである(商標法29条)から、本件商標の使用をもって不正競争防止法6条の規定にいう「商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為」ということはできない。また、本件商標権は、その商標登録出願の日前に創作され、アメリカ合衆国及びわが国において絶大な人気を博するに至ったポパイのキャラクターが有する顧客吸引力に只乗りしようとして、しかも、その使用が著作権侵害であることが明らかであったにもかかわらず、商標登録出願されたものであって、他の法律により使用が禁止され、かつ、アメリカ合衆国との国際信義に反するものであるから、正に公序良俗に反し、無効なものというべきである。
2 抗弁2について
 被告らの主張事実を否認する。
3 抗弁3について
 〔ポパイの漫画の著作権に基づく請求〕の四抗弁に対する原告キング フィーチャーズの反論の3の主張と同旨。
第3 証拠関係
 本件記鉄中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由
第1〔ポパイの漫画の著作権に基づく請求〕について
 一 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第1号証、第2号証の1、2、第5号証、第59号証、第60号証及び成立に争いのない甲第3号証、第4号証の1、2、第23号証並びに書籍(英語コミック文庫)「ポパイ=ザ=セイラーマン」1、2であることに争いのない検甲第1号証の1、2及び書籍「ポパイ和英大旋風」であることに争いのない検甲第2号証によれば、〔ポパイの漫画の著作権に基づく請求〕の請求の原因1の事実が認められ、右認定の事実によれば、原告キング フィーチャーズは、本件漫画についてアメリカ合衆国において著作権を有しているところ、本件漫画は、万国著作権条約によりわが国においても著作物として保護されるものであるから、同原告は、本件漫画についてわが国において本件著作権を有しているものと認められる。
二 請求の原因2の事実のうち、被告ポパイが過去において被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーを販売した事実、被告松寺が被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売している事実は、当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第15号証、第19号証の1ないし3、マフラー及びネクタイを撮影した写真であることに争いのない甲第16、第17号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第52号証、第54号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告大阪三恵は、遅くとも昭和45年ころから、腕カバー又はその包装紙に被告図柄(2)ないし(4)を付して、腕カバーを販売し、被告ポパイは、同じころから、被告大阪三恵から無償にて本件商標の使用許諾を受け、腕カバー等の販売についての電話帳の広告に被告図柄(1)を使用し、かつ、被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーを販売したこと、被告大阪三恵は、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売し、更に、被告松寺に対し、昭和57年5月から、本件商標の使用を許諾し、その許諾の対価として、年間300万円の使用料を2年分600万円得ていること、被告松寺は、右の許諾に基づき、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売していること、以上の事実が認められる。なお原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵と被告ポパイは、意思を通じて、右腕カバーを販売した旨主張するところ、被告ポパイが、被告大阪三恵から本件商標の使用許諾を受け、腕カバーを販売したことは、前認定のとおりであるが、被告大阪三恵の腕カバーの販売について、これに加担するなど何らかの形で客観的に関連共同する行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 右認定の事実によれば、被告大阪三恵及び被告ポパイは、被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーを、被告大阪三恵及び被告松寺は、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売していたものであって、今後もそのおそれがあるものと認められる。また、右認定の事実によれば、被告大阪三恵は、被告ポパイに対し、本件商標の使用許諾をし、被告ポパイは、右使用許諾に基づき、腕カバー等の販売についての電話帳の広告に被告図柄(1)を使用したというのであるから、被告大阪三恵及び被告ポパイは、被告図柄(1)についても、腕カバーの販売に当たりこれを付して使用していたものであり、また、今後もそのおそれがあるものと認められる。なお、本件記録中の被告ポパイの昭和63年9月5日付登記簿謄本によれば、被告ポパイは、昭和59年9月20日に株主総会の決議により解散し、その旨を同年10月3日に登記し、同61年5月31日に清算結了した旨を同年6月25日に登記していることが認められるが、清算結了の登記がある場合でも、実質的に清算が結了していない場合は、清算手続が結了したということはできず、そして、本件の原告キング フィーチャーズの被告ポパイに対する損害賠償請求権が存在しないことが判決等により確定するまでは、実質的に清算が結了しないことは明らかであり、更に、清算手続が結了するまでは、株主総会の特別決議により、会社を継続することは法的にも可能であるところ、前認定の事実に照らし、被告ポパイについて、今後被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバーを販売するおそれがないとまでいうことはできない。
三 原告キング フィーチャーズは、(1)被告図柄(1)ないし(6)は、本件漫画の主人公であるポパイのキャラクターの著作物を複製したものである、(2)仮に、キャラクターそのものを著作物として認めえないとしても、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵は、本件漫画におけるポパイの絵を複製したものである旨主張するので、審案するに、(1)著作権法2条1項1号は、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定しているところ、前掲甲第1号証、第23号証、第60号証、検甲第1号証の1、2、第2号証によれば、本件漫画は、特定のストーリーが登場人物の特定の言葉、表情及び体の動きなどによって具体的に表現されたものであることが認められ、右認定の事実によれば、原告キング フィーチャーズが主張するポパイのキャラクター(水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にマドロスパイプをくわえ、腕には錨を描き、ほうれん草を食べると超人的な強さを発揮する船乗りであって、ポパイ又はPOPEYEの名称を有するもの)というのは、本件漫画の主人公であるポパイに一貫性を持って付与されている姿態、容貌、性格、特徴等であって、右定義規定にいう思想又は感情を構成する重要な要素ではあるが、本件漫画の表現自体ではなく、それから抽出された思想又は感情にとどまるものであるから、思想又は感情を「表現したもの」ということはできず、したがって、右規定にいう著作物と認めることはできない。換言すれば、右キャラクターを著作物であるとすることは、著作物の要素の一つである思想又は感情自体を著作物として保護するということを意味し、右規定に反する結果を招来するものといわざるをえない。また、これを別の側面からみるに、若しも、ポパイのキャラクターが本件漫画の著作物とは別個の著作物として成立するとするならば、ポパイのキャラクターは、本件漫画の創作的な表現とは別個の創作的な表現として存在しなければならないことになるが、原告キング フィーチャーズのいうポパイのキャラクターというのは、本件漫画の主人公であるポパイがどのような人物であるかを説明したものにすぎず、それ自体、創作的な表現として存在するものではないから、本件漫画と離れて別個の著作物を構成するものとみることはできないものというべきである。したがって、ポパイのキャラクターが本件漫画とは別個の著作物であることを前提とする原告キング フィーチャーズの主張は、その前提を欠き、採用することができない。この点に関して、原告キング フィーチャーズは、本件漫画は、長期間連載され、その間に多数の絵が描かれているのであるが、多数の絵が関連性なく描かれるのではなく、その登場人物の姿態、容貌、性格等が一貫性を持って描かれるのであるから、本件漫画には、その登場人物についてキャラクターが表現されており、したがって、キャラクターは著作物たりうるものである旨主張するが、本件漫画は、その登場人物の姿態、容貌、性格、特徴等が一貫性を持って描かれ、本件漫画から、その登場人物についてキャラクターが抽出されるとしても、ポパイのキャラクターをもって本件漫画の著作物とは別個の著作物を構成するものと認めえないことは、前説示のとおりであるから、原告キング フィーチャーズの右主張は、採用の限りでない。また、原告キング フィーチャーズは、ポパイの名称もキャラクターの一態様として保護されるべきであると主張するが、ポパイのキャラクターをもって本件漫画とは別個の著作物を構成するものと認めえない以上、原告キング フィーチャーズの右主張も、採用しえないものといわざるをえない。(2)次に、別紙第1目録(1)、(2)、(4)及び(6)及び前掲甲第23号証、検甲第1号証の1、2、検甲第2号証によれば、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)における絵は、本件漫画の主人公であるポパイを表したものであることが明らかであることが認められ、右認定の事実によると、本件漫画のどの画面のポパイの絵であるかを特定するまでもなく、本計〈「計」は「件」の誤り?〉漫画のポパイの絵を複製したものと認めるのが相当である。被告らは、原告キング フィーチャーズは、本件漫画について具体的な画面を特定して、本件漫画の複製権侵害をいうべきである旨主張するが、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵は、前認定のとおり、本件漫画の主人公であるポパイを表したものであることが明らかであって、本件漫画の主人公であるポパイの絵を複製したものと認められるから、それ以上に本件漫画について具体的な画面を特定して主張する必要はないものというべきであり、したがって、被告らの右主張は、採用することができない。また、被告らは、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵は、いずれも原告らが証拠として提出した本件漫画におけるポパイの図柄、姿態とも、外観上相違しており、ポパイの絵の再製ということはできない旨主張するところ、たとえ、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵が、原告らが証拠として提出した本件漫画におけるポパイの図柄、姿態と外観上相違するところがあるとしても、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)の絵は、前認定のとおり、本件漫画の主人公であるポパイの絵を表したものであることが明らかであって、本件漫画の主人公であるポパイの絵を複製したものと認められるのであるから、被告らの右主張も、採用の限りでない。
 以上によれば、被告図柄(1)、(2)、(4)及び(6)における絵は、本件漫画におけるポパイの絵を複製したものと認められる。なお、別紙第1目録(3)及び(5)によれば、被告図柄(3)及び(5)には、「ポパイ」又は「POPEYE」の文字の記載があるところ、前認定の事実によれば、右文字は、本件漫画の主人公であるポパイの名称を意味するものであることが明らかであるが、本件漫画の主人公であるポパイの名称は、単にそれだけでは思想又は感情を創作的に表現したもの、すなわち、著作物ということはできないから、被告図柄(3)及び(5)は、著作物を複製したものということはできず、したがって、被告らが被告図柄(3)及び(5)を付した商品を販売した行為は、本件著作権侵害を構成しないものというべきである。
四 次に、被告らの黙示の許諾の抗弁について判断するに、前掲甲第5号証、第19号証の3、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第11号証、成立に争いのない甲第33号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第20号証によれば、次の事実が認められる。
(1)原告キング フィーチャーズは、原告ハーストに対し、本件著作権について独占的利用権を与えているのであるが、X4は、原告ハーストの極東代表の地位にあって、日本国内において本件著作権の利用許諾契約締結の代理権を有するものである。(2)Hは、昭和35、36年ころ、本件商標権を有していたので、同人経営の株式会社丸善商店をして被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーを販売させていたところ、右以外の態様でもポパイのキャラクターを腕カバーに使用したいと考え、X4と面談のうえ、X4に対し、その使用許諾の申込みをしたものの、Hは、X4から提示された使用許諾料の年間最低保証料を支払う程の販売をしていなかったため、X4から右使用許諾を受けることを諦めたのであるが、その際、X4は、Hの経営する右会社の腕カバーの販売数量が少なかったこともあって、H松本が、原告ハーストに使用許諾料を支払うことなく、従来どおり右会社をして被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーを販売することを黙示的に承諾した。(3)Hは、昭和46年、被告大阪三恵に対し、腕カバーの営業とともに本件商標権を譲渡したが、その際、同被告に対しては、X4との面談、X4の黙示的承諾等については何も伝えていない。(4)Xは被告大阪三恵の代表者等と直接面談して、ポパイのキャラクターの使用を許諾したことは一切ない。
 右認定の事実によれば、X4がHに対して被告図柄(2)ないし(4)を付した腕カバーの販売を無償で黙示的に承諾したのは、あくまでも、H個人に対する限定的なものにすぎないから、右承諾が本件著作物の利用の許諾に当たるとしても、右利用の許諾の効力は、Hに対してのみ生じたものといわざるをえない。また、右認定の事実によれば、Hは、被告大阪三恵に対し、右の本件著作物を利用する権利を譲渡したものとは認められないが、仮に、右認定の本件商標権の譲渡が本件著作物を利用する権利の譲渡を伴うものであったとしても、許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができないものである(著作権法63条3項)ところ、原告キング フィーチャーズが右の本件著作物を利用する権利の譲渡を承諾したことを認めるに足りる証拠はないから、被告大阪三恵は、同原告に対し、右利用する権利の取得をもって対抗しえないものというべきである。したがって、被告らの黙示の許諾の抗弁は、採用しえない。この点に関して、被告らは、原告キング フィーチャーズが、本訴に至るまで、被告らに対し、被告らが被告図柄(1)ないし(6)を使用することについて異議を述べなかったことを黙示の許諾を理由付ける事実として主張するが、たとえ、右主張のとおりであったとしても、そのことから直ちに黙示の許諾があったとすることは困難であるから、被告らの右主張も、採用することができない。また、被告らは、X4は、旧ポパイ事件(1)の判決以降、原告ハーストから本件漫画の使用許諾を受けている各ライセンシーに対し、ポパイの名称の商標的使用を避けるように強く指導し、被告大阪三恵及び被告ポパイによる本件商標、すなわち、被告図柄(2)ないし(4)、(6)の使用を認めることを前提としてポパイの商品化事業を遂行してきたことを黙示の許諾を根拠付ける事実として主張するところ、原本の存在及び成立に争いのない乙第4号証及び前掲乙第20号証によれば、右主張事実が認められるが、他方、右乙第20号証によれば、X4は、旧ポパイ事件(1)の判決を尊重し、これに抵触しないように右の指導をしたものであることが認められ、そうすると、X4が右の指導をしたことは、被告らの黙示の許諾の主張を何ら根拠付けるものではないから、被告らの右主張もまた、採用の限りでない。
五 更に、被告らの権利失効の原則及び権利濫用の抗弁について審案するに、前掲乙第4号証、第20号証、成立に争いのない甲第14号証、前掲甲第15号証、第52号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第24、第25号証、第42、第43号証、第45号証の1、2、第46号証、第55号証、第58号証、乙第29号証の1ないし6、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第45号証の3、成立に争いのない乙第1、第2号証の各1、2、第30号証、第37号証ないし第39号証、第40号証ないし第42号証の各1、2、第54号証によれば、次の事実が認められる。
(1)Hは、昭和33年6月26日、本件連合商標を連合商標とし、指定商品を36類(被服、手巾等)として、本件商標登録出願をし、昭和34年6月12日、その設定の登録を受けた。(2)X4は、昭和35、36年ころ、Hと会談し、Hが本件商標権を有していることを知った。(3)X4は、昭和37年には、原告ハーストのために、自己の名義で、指定商品を30類(菓子、パン)として、ポパイの商標について商標登録出願をし、更に、原告ハーストは、その後、昭和40年には、指定商品を4類(せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類)、24類(釣具、楽器等)として、ポパイの商標について商標登録出願をした。また、原告ハーストは、昭和40年10月27日には、指定商品を21類(装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具)として、ポパイの商標について商標登録出願をしたが、同42年11月25日、右出願に係る商標が本件商標に類似し、かつ、本件商標に係る指定商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当するとの拒絶理由通知を受け、同43年2月20日、指定商品の範囲を21類(頭飾品、かばん類、袋物、造花、化粧用具)に減縮する手続補正をし、同年10月24日登録査定を受けた。更に、原告ハーストは、昭和45年には、訴外Kが有していた指定商品を31類(乳製品)、46類(獣乳その製品及びその模造品)とするポパイの商標権を譲り受けた。(4)被告ポパイは、昭和45年及び46年の大阪市の職業別電話帳に、その「株式会社ポパイ」との商号を明示した上で、被告図柄(1)を使用して、腕カバーその他の商品の広告宣伝をした。(5)原告ハーストの極東代表であるX4は、ポパイのキャラクターが無断で商品に使用されているか否かを、随時、市場を調査して監視していたものであるところ、例えば、訴外株式会社テスコノ(以下「テスコノ」という。)が、昭和47年12月13日のセンイ・ジャアナル紙に本件商標を使用したカジュアル・ウェア等の衣服を販売するとの計画を発表したことを知り、同48年1月には、テスコノに対し、本件商標の使用は本件著作権の侵害に当たる旨の警告書を送付して、同年2月には、同社をしてポパイに関する一切の商標の使用を中止させた。テスコノは、その前に、本件商標権を有していた被告大阪三恵から本件商標の使用許諾を受け、ロイヤルティを支払う旨約束していたのであるが、原告ハーストの警告を受けて本件商標の使用を中止したことにより、被告大阪三恵に対し、右以降のロイヤルティは支払えない旨通知した。(6)被告大阪三恵は、昭和48年には、本件商標に基づき、原告ハーストのライセンシーが製造したアンダーシャツを販売していた商社を相手方として、ポパイの商標の使用の差止めを求める訴えを東京地方裁判所に提起し(旧ポパイ事件(2))、同49年4月19日、請求認容の判決を得、更に、同年には、当時、原告ハーストから、ポパイのキャラクターの使用許諾を受け、アンダーシャツにポパイの絵を使用して販売していたオックス株式会社に対し、ポパイのキャラクターを使用したアンダーシャツの製造販売等の差止めを求める訴えを大阪地方裁判所に提起したが(旧ポパイ事件(1))、同51年2月24日、請求棄却の判決を受けた。(7)被告大阪三恵は、昭和53年12月15日、特許庁に対し、本件商標権の存続期間の更新登録の出願をし、その際、腕カバーに本件商標、すなわち、被告図柄(2)ないし(4)を使用している旨の登録商標の使用説明書を添付し、同54年11月29日更新登録を受けた。(8)X4は、昭和54年3月、日経流通新聞紙上に、原告キング フィーチャーズの名前をもって、同社が本件漫画について本件著作権を有しており、ポパイのキャラクターを使用した衣料品、繊維製品を日本で製造販売しうるのは、原告キング フィーチャーズからライセンスを受けているアダム・ブラザーズ株式会社だけであり、右会社以外の会社がポパイのキャラクターを使用した衣料品、繊維製品を製造販売すると、原告キング フィーチャーズの著作権を侵害することになる旨の警告文を掲載した。(9)X4は、被告大阪三恵が腕カバーに被告図柄(2)ないし(4)を使用していたとの事実を、被告大阪三恵が本件商標権の存続期間の更新登録出願の手続を経たことにより明確にこれを知り、その後の昭和55年6月2日、被告大阪三恵に対し、いたずらに紛争を好むものではないので、この機会に、本件商標権を適当な対価で譲り受けたい、その代りに、被告大阪三恵が腕カバーその他の商品に本件商標を使用することを無償で認める旨の申入れをしたが、本件商標権譲渡の対価等の条件が折合わなかったため交渉は決裂した。
 右認定の事実によれば、原告キング フィーチャーズは、昭和35、36年ころ、原告ハーストの極東代表であるX4がHと会談の機会を持ったことから、Hが本件商標権を有していたことを知り、更に、被告大阪三恵が、昭和47年末にテスコノに対し、本件商標権の使用許諾をしたうえ、同48、49年には、原告ハーストの日本におけるライセンシー又はそのライセンシーの製品を販売していた者に対し、本件商標権に基づく差止めの訴えを提起したことから、遅くともその頃には、被告大阪三恵が本件商標権を譲り受けたことを知っていたものと認められる。しかしながら、原告キング フィーチャーズから本件著作権について独占的利用権の設定を受けている原告ハーストの極東代表であるX4は、ポパイのキャラクターが無断で商品に使用されているか否かを、随時、市場を調査して監視していたところ、昭和48年1月には、被告大阪三恵から本件商標権の使用許諾を受けて衣服を販売しようとしたテスコノに対し警告書を送付して、直ちにこれを阻止し、更に、昭和54年3月には、日経流通新聞紙上に、原告キング フィーチャーズの名前をもって、本件漫画について本件著作権を有している原告キング フィーチャーズのライセンスを受けていない会社がポパイのキャラクターを使用した衣料品等を製造販売すると、右著作権を侵害することになる旨の警告文を掲載する等、必要に応じ適宜本件著作権に基づく差止請求権を行使していたのであって、本件著作権に基づく差止請求権の行使を怠っていたとは到底いえない。なお、原告キング フィーチャーズは、前認定のとおり、昭和48、49年ころには、被告大阪三恵が本件商標権を譲り受けたことを知っていたが、被告大阪三恵が本件商標を使用しているとの事実は、被告大阪三恵が昭和53年12月に本件商標権の存続期間の更新登録の出願をし、同54年11月29日に更新登録を受けたことにより明確に知りえたというのであるから、この点からも、同原告が本件著作権に基づく差止請求権の行使を怠っていたということはできない。この点に関して、被告らは、原告キング フィーチャーズは、被告らの被告図柄(1)ないし(6)、すなわち、本件商標の使用について、本件著作権を侵害するものであることを主張しうる機会がたびたびあったにもかかわらず、長年本件商標の使用を黙認してきたものであり、また、被告らが長年の営業努力により、本件商標の顧客吸引力を高めてきたのに対し、原告キング フィーチャーズは、長年侵害行為を放置してきた旨主張するが、X4は、ポパイのキャラクターが無断で商品に使用されているか否かを、随時、市場を調査して監視し、本件著作権に基づき適切な措置を採ってきたことは、前認定のとおりであって、原告キング フィーチャーズが、長年被告大阪三恵による本件商標の使用を黙認し、又は長年侵害行為を放置してきたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告らは、本件著作権の保護期間は、別紙保護期間計算書のとおり、あと僅かである旨主張するが、前一認定のとおり、本件漫画は、1929年1月17日から現在に至るまで、連続して著作され、新聞紙等に継続的に連載されているのであるから、その保護期間は、新聞等に掲載された各漫画ごとに、個別に起算されるべきものであるところ、被告らは、1929年1月17日に新聞に掲載された別紙第2目録(2)記載の漫画を基準にして本件漫画の保護期間を計算するものであって、計算の基礎を誤るものといわざるをえない。以上の認定判断によれば、原告キング フィーチャーズの本訴請求は、権利失効の原則により、又は権利の濫用として許されないとの被告らの主張は、採用するに由ないものといわざるをえない。
六 以上によれば、原告キング フィーチャーズの本件著作権に基づく被告大阪三恵及び被告ポパイに対する被告図柄(1)、(2)、(4)を付した腕カバーの販売の差止め及び右腕カバーからの被告図柄(1)、(2)、(4)の抹消並びに被告大阪三恵及び被告松寺に対する被告図柄(6)を付したネクタイの販売の差止め及び右ネクタイからの被告図柄(6)の抹消請求は理由があり、原告キング フィーチャーズの本件著作権に基づくその余の請求は理由がない。
七 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第6号証の1及び3並びに成立に争いのない甲第6号証の2によれば、本件漫画は、昭和34年6月から同40年7月まで、毎週日曜日の夜7時30分から8時まで、TBSテレビから、当初は10局以上、後には20局以上のネットワークで全国的に放映され、極めて高い視聴率を挙げたことが認められ、右認定の事実によれば、被告大阪三恵及び被告ポパイは、本件漫画の存在を知りながら、被告図柄(1)、(2)及び(4)を付した腕カバーを販売し、被告大阪三恵及び被告松寺は、本件漫画の存在を知りながら、被告図柄(6)を付したネクタイを販売したものであって、少なくとも過失により原告キング フィーチャーズの本件著作権を侵害したものと認められる。被告らは、被告ポパイは、被告図柄(2)ないし(4)を本件商標の使用権に基づき、また、被告松寺は、被告図柄(6)を本件商標の使用権に基づき使用したものであるから、被告ポパイ及び被告松寺については、仮に著作権侵害行為があったとしても、故意又は過失は存しないと主張するが、仮に、右被告らにおいて自己の行為が適法であると誤信していたとしても、前認定の事実に照らせば、違法であることを知らなかったことについて過失があるものと認められるから、被告らの右主張は、採用することができない。
八 以上の認定判断によると、原告キング フィーチャーズは、被告らに対し、損害賠償請求権を取得したものというべきであるから、被告らの消滅時効の抗弁について判断するに、前五認定の事実によれば、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵が本件商標権の存続期間の更新登録出願の手続を経た後の昭和55年6月2日には、被告大阪三恵が腕カバーその他の商品に本件商標を使用することを無償で認める代りに、本件商標権を適当な対価で譲り受けたい旨申し入れたのであるから、遅くともその頃には、被告大阪三恵及び同被告から本件商標の使用許諾を受けた被告ポパイが、腕カバーに被告図柄(1)、(2)、(4)を使用していたとの事実、すなわち、損害及び加害者を確知したものと認められる。そして、本件記録によれば、本訴が当裁判所に提起されたのは、昭和59年9月7日であることが明らかである。そうすると、原告キング フィーチャーズの本訴損害賠償請求権のうち、本訴が提起された昭和59年9月7日より遡って3年より前の分、すなわち被告大阪三恵、同ポパイが同56年9月6日以前に販売した分については、時効消滅したものと認められる。
九 まず、被告大阪三恵及び被告ポパイに対する腕カバーについての請求に関する損害の額について判断するに、前掲甲第19号証の1ないし3、乙第1号証の1、2によれば、被告大阪三恵は、昭和46年3月4日にHから本件商標権を譲り受けてから昭和58年10月14日までの間に、被告図柄(1)及び(4)を付した腕カバーを1枚150円で少なくとも15万枚以上販売したことが認められ、右認定の事実によれば、被告大阪三恵は、右腕カバーを1日平均32.5枚販売したことが認められる(15万枚÷4608日=32.5枚)。そして、被告大阪三恵は、特段の反証のない限り、昭和56年9月7日から昭和58年末までの間においても、右枚数の腕カバーを販売したものと認めるのが相当であるところ、特段の反証はないから、右期間における被告大阪三恵の右腕カバーの販売数量は、2万7495枚(32.5枚×846日=2万7495枚)と認められる。ところで、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵は、腕カバーを販売したことにより、売上額の20パーセントの利益を得た旨主張するが、被告大阪三恵が腕カバーの販売行為により得た利益の額を認めるに足りる証拠はない。しかしながら、前掲甲第11号証によれば、原告キング フィーチャーズがポパイの漫画の使用許諾を与える場合の使用料は、標準的な場合でライセンシーの卸値の7パーセントであることが認められ、右認定の事実によれば、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額は、ポパイの漫画を使用した商品の売上額の7パーセントと認めるのが相当であるから、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵に対し、被告大阪三恵の前認定の期間における腕カバーの売上額の7パーセントの額である28万8697円(150円×2万7495枚×0.07=288697.5円)を損害の額として、その賠償を請求することができるものといわなければならない。次に、被告ポパイが被告図柄(1)、(2)及び(4)を付した腕カバーを販売したことは、前認定のとおりであるが、被告ポパイが販売した腕カバーの数量、値段、売上額等を認めるに足りる証拠はなく、したがって、被告ポパイの右腕カバーの販売を理由とする原告キング フィーチャーズの被告大阪三恵及び被告ポパイに対する損害の主張は、理由がない。また、被告ポパイが、被告大阪三恵の右腕カバーの販売について、これに加担するなど何らかの形で客観的に関連共同する行為をしたことを認めるに足りる証拠がないことは、前説示のとおりであるから、被告ポパイが被告大阪三恵の行為に加担したことを前提とする原告キング フィーチャーズの被告ポパイに対する損害の主張も、理由がない。
 次いで、被告大阪三恵及び被告松寺に対するネクタイ及びマフラーについての請求に関する損害の額について判断するに、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵は、被告松寺に対し、昭和57年5月31日から同59年5月31日までの間、被告図柄(5)及び(6)を年間300万円の使用料で許諾し、被告松寺をして、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売させ、被告松寺から合計600万円を取得したとして、右600万円も、本件著作権の侵害により同原告が受けた損害の額と推定される被告大阪三恵が得た利益の額である旨主張するところ、被告大阪三恵の被告松寺に対する右許諾行為は、被告松寺に対する本件著作権侵害行為の教唆に当たるものと認められるから、被告大阪三恵は、被告松寺の本件著作権侵害行為による損害の賠償については、被告松寺と連帯して責任を負担すべきものであるが、被告大阪三恵の右許諾行為自体は、本件著作権の侵害を構成するものではなく、したがって、右許諾行為によって取得したという右600万円は、本件著作権の侵害により同原告が受けた損害の額と推定される被告大阪三恵が得た利益の額であると認めることはできない。そうすると、原告キング フィーチャーズの被告大阪三恵に対する右600万円の損害の主張は、理由がないものといわざるをえない。そこで続いて、被告松寺の本件著作〈「権」が脱落?〉侵害行為による損害の額について検討するに、被告松寺が被告図柄(6)を付したネクタイを販売したことは、前〈「説」が脱落?〉示のとおり当事者間に争いがないが、被告松寺の被告図柄(6)を付したネクタイの売上額については、これを認めるに足りる証拠はない。この点に関して、原告キング フィーチャーズは、ネクタイを一定のデザインを定めて製作する以上、1本2000円以上で年間最低5000本を販売しないと採算がとれないことは、業界の常識であるから、被告松寺は、少なくともネクタイを1本2000円以上で年間5000本販売したものであると主張するが、右の業界の常識が存在すること及び被告松寺が右の業界の常識に従ってネクタイを販売したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告大阪三恵が被告松寺に対して被告図柄(5)及び(6)の使用を許諾したことを前提とする原告キング フィーチャーズの被告大阪三恵に対する損害の主張も、理由がないものというほかはない。更に、被告松寺に対する請求に関する損害の額について判断するに、原告キング フィーチャーズは、被告大阪三恵が被告松寺から取得したという使用料額600万円を損害として主張するが、右600万円は、本件著作権の侵害による損害といえないこと前説示のとおりであるから、同原告の被告松寺に対する右600万円の損害の主張は、理由がない。また、被告松寺の被告図柄(6)を付したネクタイの販売による損害の主張の理由がないことは、前説示のとおりである。
一〇 以上によれば、原告キング フィーチャーズの本件著作権に基づく損害賠償請求は、被告大阪三恵に対する腕カバーの販売行為についての損害金28万8697円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和59年10月2日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は、理由がない。
第2〔本件ロゴタイプの著作物の著作権に基づく請求〕について
一 原告マガジンハウスは、本件ロゴタイプは著作物である旨主張するが、別紙第2目録(3)によれば、本件ロゴタイプは、「POPEYE」の文字を丸みのある字体にし、かつ、その文字に白抜きのハイライト(光が当たったように見え、立体性を強調する手段)を付したものであることが認められるが、ポパイ又は「POPEYE」の名称自体は、著作物として保護しえないものであることは、前第1、三に説示するとおりであり、また、本件ロゴタイプは、丸味のある字体にし、かつ、その文字に白抜きのハイライトを付したものであって、文字に装飾という美的表現を施したものではあるが、書の著作物のように、専ら観賞の対象として美を表現しようとするいわゆる純粋美術ではなく、「POPEYE」の文字の意味するところを伝達するための手段としての実用的なものと認められるから、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものということはできず、したがって、本件ロゴタイプは、著作権法にいう著作物と認めることはできない。原告マガジンハウスは、文字にハイライトを付したのは、鑑賞を目的とするからであって、書や花文字に著作物性が肯定されているように、本件ロゴタイプも、著作物として保護されるべきである旨主張するが、本件ロゴタイプは、書のように専ら鑑賞用の意図をもって創作されたものではなく、前〈「説」が脱落?〉示のとおり、あくまで文字自体の意味するところを伝達するための手段としての実用的なものと認められるから、書のように美術の著作物ということはできず、したがって、原告の右主張は、採用することができない。
二 以上によれば、原告マガジンハウスの請求は、本件ロゴタイプが著作物であることを前提とするものであるから、その前提を欠き、理由がないものというべきである。
第3〔不正競争防止法に基づく請求〕について
一1 前掲甲第5号証、第6号証の1、2、第11号証、第24、第25号証、第42、第43号証、第45号証の1ないし3、乙第20号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第9号証の1ないし11、第21号証の7、14、16、17、20、29、33、34及び45、成立に争いのない甲第10号証、乙第45号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第44号証、弁論の全趣旨により原告ハーストの日本におけるライセンシーの商品の写真であることが認められる甲第21号証の1ないし6、8ないし13、15、18、19、21ないし28、30ないし32及び35ないし44、原告ハーストの日本におけるライセンシーの商品の写真であることに争いのない甲第41号証の1ないし4、第50号証の1ないし3、5及び6によれば、次の(一)、(二)の事実が認められる。
(一)本件漫画は、その一部が昭和34年6月から同40年7月までの間、毎週日曜日の夜7時30分から8時まで、TBSテレビから、当初は10局以上、後には20局以上のネットワークで全国的にテレビ放映され、平均で30パーセント、高いときで40ないし50パーセントの高視聴率を挙げた。
(二)(1)株式会社不二家は、右のテレビ放映のスポンサーであったが、本件漫画の人気が非常に高かったことから、昭和35年ころ、原告キング フィーチャーズから本件著作権について独占的利用権の設定を受けていた原告ハーストと本件漫画の使用許諾契約を締結し、ポパイのキャラクターをチューイングガムやキャラメル等に使用して売出したところ、爆発的な売行きを示し、その結果、原告ハーストと本件漫画の使用許諾契約を締結する企業が急増した。(2)X4は、原告ハーストが日本を含む極東地域において本件漫画の使用許諾契約を締結するについての代理権を有している者であって、日本における本件漫画の使用許諾契約の相手方の選択を一任されていたのであるが、本件漫画の使用許諾契約を締結する相手方としては、商品の品質が優れており、代表者に熱意がありポパイのキャラクターを大切にしてくれる企業のみを選択する方針で、数多くの企業の中から1業種につき1社を原則としてライセンシーを厳選して、原告ハーストと使用許諾契約を締結させ、また、本件漫画について使用許諾契約を締結したライセンシーには、その商品に、「by King Features Syndicate・ Inc・」等と明記させたうえ、原告らのライセンシーであることを示す所定の証紙を貼らせて、原告ハーストからライセンスを受けている企業の商品であることを明示させ、かつ、許諾を受けずにポパイのキャラクターを商品に使用する者がいた場合には、これに対して、直ちに警告書を発送して、その使用を中止させ、謝罪広告等の措置を採らせるなどして、ポパイのキャラクターを使用した商品の品質を維持し、原告ハーストからライセンスを受けている企業の商品表示としてポパイのキャラクターを管理し保護育成してきた。その結果、原告ハーストは、昭和45年ころには、別紙第3目録記載の企業15社との間において、同目録記載の商品について本件漫画の使用許諾契約を締結するに至り、更に、昭和60年2月ころには、株式会社福助、シチズン商事株式会社等33社との間においても、本件漫画の使用許諾契約を締結している。(3)X4は、原告ハーストから委ねられている日本における本件漫画の商品化事業に必要な業務を遂行するために、原告アメリカン フィーチャーズを設立し、自ら同社の代表取締役となって、原告アメリカン フィーチャーズをして日本における商品化事業に必要な業務、すなわち、前述の使用許諾契約締結の相手方の選択と原告ハーストとの同契約締結の媒介、ポパイのキャラクターの管理及び保護育成のほか、ライセンシーからのロイヤルティーを集め、これを原告ハーストに送金する業務も遂行させている。なお、原告アメリカン フィーチャーズは、原告ハーストに送金する際には、右業務に対する自己の手数料を差引いた金額を原告ハーストに送金している。
(三)右(一)、(二)認定の事実によれば、ポパイのキャラクターは、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとポパイのキャラクターの使用許諾を受けている企業のグループの商品であることを示す表示として、遅くとも昭和45年以降においては、日本国内において広く認識されていたものと認めるのが相当である。
(四)被告らは、ポパイのキャラクターの著名性は、不正競争防止法が保護している商品の出所表示機能とは異なるものである、すなわち、取引者又は需要者は、「ポパイの商品」を「ポパイの絵柄のついた商品」と認識しているだけで「ポパイの絵柄のついた商品は、特定の者の製造販売に係る商品」と認識しているわけではない旨主張するが、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズは、ポパイの漫画を無断で使用する者に対し、警告書を発する等厳格に対処する一方、原告ハーストのライセンシーには、その商品に原告らのライセンシーであることを示すために証紙を貼らせ、かつ、「by King Features Syndicate・ Inc・」等と表示させ、原告ハーストからライセンスを受けている企業の商品であることを明示させていることは、前認定のとおりであって、右認定の事実によれば、ポパイのキャラクターが漫画として著名であるだけでなく、本件漫画の著作権者からライセンスを受けている企業を含む前示グループの商品表示としても著名であることを示すものである。また、被告らは、原告ハーストのライセンシーは、個個に異なるポパイの絵や文字を、ときには商標的に、ときには袋飾的に、全く野放図に使用しているだけであり、取引者又は需要者も、単に右表示を本件漫画の主人公であるポパイとしてのみ認識し、その嗜好ないし趣味感から商品を購入しているにすぎない旨主張するが、たとえ、原告ハーストのライセンシーが、ポパイの絵を種々の表情、姿態でその商品に表示していたとしても、それが本件漫画の主人公であるポパイの絵であると認識しうる限り、取引者又は需要者は、その商品をポパイの商品表示が付された商品と認識しうるのであるから、原告ハーストのライセンシーが使用しているポパイの絵が図柄として統一されていないとしても、その図柄は商品表示としての出所表示機能を有しないものということはできない。更に、被告らは、X4は、少なくとも昭和51年2月24日に言渡された大阪地方裁判所の旧ポパイ事件(1)の判決以降、ポパイ又はPOPEYEの文字について、商標的な使用はしないように各ライセンシーに対し指導してきている旨主張するところ、前掲甲第21号証の1ないし45、第41号証の1ないし4、第50号証の1ないし3、5及び6、乙第4号証、第20号証によれば、X4は、旧ポパイ事件(1)の判決以降、原告ハーストのライセンシーに対し、ポパイ又はPOPEYEの名称をポパイの絵と併用して使用し、これを単独では使用しないように指導し、ライセンシーも概ねこの指示に従っていることが認められるが、右認定の事実によれば、原告ハーストのライセンシーは、ポパイの絵及びその絵と併用してポパイ又はPOPEYEの文字を使用しているのであるから、ポパイ又はPOPEYEの文字の単独での使用を控えているからといって、ポパイのキャラクターの商品表示としての周知性が否定されるべき理由はない。更にまた、被告らは、原告ハーストのライセンシーは、ポパイのキャラクターに加えて、他の商標も使用しており、このような商標については、各ライセンシー間で統一的な使用がされておらず、この点からも、ポパイのキャラクターについて出所表示機能は生じえない旨主張するが、仮に、他の商標も使用されているとしても、一つの商品に複数の商標が使用されるのは決して珍しいことではなく、しかも、その場合でも、それぞれの商標が出所表示機能を有するのであるから、同一商品に他の商標も使用されているということは、ポパイのキャラクターが出所表示機能を有しないとする根拠とはなりえない。なお、被告らは、原告らのライセンシーは、異業種の多数社に及び商品の種類は多岐にわたり、一定の商品との間に出所関連性を生じる余地はない旨主張するが、たとえ、ポパイのキャラクターが異業種の多数社に及び商品の種類が多岐にわたっているとしても、ポパイのキャラクターは、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとポパイのキャラクターの使用許諾を受けている企業のグループの商品表示として周知性を取得していること前認定のとおりであって、原告らのライセンシーが異業種の多数社に及び商品の種類が多岐にわたっていることが、ポパイのキャラクターの出所表示機能を減殺するものとは認められない。なおまた、被告らは、原告ハースト主張のライセンシーグループを構成する個々のライセンシーは、倒産等の理由でたびたび変動しており、各ライセンシー間の結合も希薄で、商品化事業に係る各ライセンシーの取り扱う商品全体とポパイのキャラクターとの間に商品の出所関連性が生じる余地はない旨主張するところ、成立に争いのない乙第13号証の1、2、第16号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第15号証の1ないし3、弁論の全趣旨により株式会社シャポーハウス三矢の商品の写真であることが認められる乙第12号証の1ないし8、ラパントレーディング株式会社の商品の写真であることに争いのない乙第14号証の1ないし4、7ないし16によれば、原告ハーストのライセンシーであった株式会社シャポーハウス三矢は、昭和58年8月11日に不渡手形を出して事実上倒産し、他にライセンシーが変わっていること、同じくライセンシーであったラパン・トレーディング株式会社は、昭和58年7月7日、大阪地方裁判所より破産宣告を受け、その後他にライセンシーが変わっていること、更に、原告ハーストのライセンシーであったコンセプト株式会社も不渡手形を出し、現在は廃業していること、以上の事実が認められるが、たとえ、右のようにライセンシーを構成する個々の企業に変動があったからといって、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとポパイのキャラクターの使用許諾を受けているライセンシーのグループが解体するということでもない限り、右グループの取り扱う商品とポパイのキャラクターとの間の商品の出所関連性が失われるものとは認められないところ、原告ハーストのライセンシーは、前認定のとおり、昭和45年においては15社、同60年においては33社もあったのであるから、右に認定した程度のライセンシーの変動があったとしても、現に、ポパイのキャラクターは、右グループの商品表示として周知性を有しているとの前認定が左右されるものとは認められず、したがって、被告らのいうように、商品の出所関連性が生じる余地がなくなったということはできない。なお更に、被告らは、原告アメリカン フィーチャーズは、商品化事業に必要な諸活動をなしうる人的体制を備えておらず、現実に右活動を行っているのは、X4個人であって、ポパイのキャラクターの商品化事業の場合、集団的な管理体制が明らかではなく、統率がとれておらず、また、X4は、小売段階の吊り札、織ネームにおけるポパイのキャラクターの使用態様については、指導監督を一切行っておらず、ライセンシーに任せている状況にある旨主張するが、原告アメリカン フィーチャーズは、X4を代表者として、ポパイのキャラクターの使用許諾業務を行っていること、X4及び原告アメリカン フィーチャーズは、ライセンシーには許諾商品であることを明示させ、かつ、無断でポパイのキャラクターを使用する者に対しては、これに厳しく対処し、これによりポパイの商標を管理し保護育成してきたことは、前認定のとおりであって、ポパイのキャラクターについて集団的な管理体制が明らかでなく、統率がとれていないということはできず、他に被告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも、前掲乙第20号証によれば、X4及び原告アメリカン フィーチャーズは、ライセンシーの小売段階におけるポパイのキャラクターの具体的な使用態様についてまでは十分に調査し把握していないことが認められるが、そうであるからといって、ポパイのキャラクターが商品表示として周知であるとの前認定が左右されるものとは認められない。また、被告らは、ポパイのキャラクターのライセンサーは、原告ハーストだけではなく、同原告の外にも、パラマウント及びウォルトディズニーがあり、同社より許諾を受けた日本のライセンシーの商品が現実に市場に出回っているのであって、ポパイのキャラクターを使用した商品は、必ずしも原告ハースト及びそのライセンシーのグループの商品と連想されるものではない旨主張するところ、前掲乙第20号証並びにパラマウント及びウォルトディズニーからライセンスを受けた商品の写真であることに争いのない乙第21号証の1ないし3によれば、原告キング フィーチャーズは、右両社に対し、ポパイのキャラクターの利用権を与え、右両社は、日本において、久米繊維工業株式会社に対し、ポパイのキャラクターの使用についてサブライセンスを与え、同社は、トレーナー等にポパイのキャラクターを使用してこれを販売したが、このように原告ハーストと異なる会社からもライセンスがされ、業界に混乱が生じたので、約1年位でパラマウント及びウォルトディズニーによるライセンス業務は中止されたことが認められ、右認定の事実によれば、パラマウント及びウォルトディズニーによるライセンスは、短期間で中止されたのであるから、被告ら主張の事実は、ポパイのキャラクターが原告ハーストらを中核とする、同原告らとランセンシーのグループの商品表示として周知であるとの前認定を左右するものではない。更に、被告らは、仮に、ポパイのキャラクターが原告らの商品表示として周知性を獲得したとしても、ライセンシーによるポパイのキャラクターの使用の多くは、右周知性獲得前に商標登録出願された本件商標権を侵害する態様でなされたものであり、そのような表示は、不正競争防止法による保護を受けえないと主張するが、商標法29条は、「商標権者は、指定商品についての登録商標の使用がその使用の態様により……その商標登録出願前に生じた他人の著作権と抵触するときは、指定商品のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。」と規定しており、そして、前掲乙第1号証の1、2によれば、本件商標権は、昭和33年6月26日に商標登録出願されたものであることが認められ、これに対して、本件著作物の第1作は、アメリカ合衆国において1929年1月17日に公表され、その後連続して公表され続けていることは、前第1、一の認定のとおりであるところ、前掲乙第1号証の1、2により認められる本件商標と被告図柄(6)とを対比すると、被告図柄(6)は、本件商標と同一の商標と認められるが、被告図柄(6)のポパイの絵の部分が本件著作物の複製と認められることは、前認定のとおりであって、本件商標のうち少なくともその絵の部分は、本件著作権に抵触するものであるから、商標法29条によりこれを使用することができず、ひいては、本件商標権に基づく禁止権は、本件著作権に基づく本件著作物の利用に対しては及ばないものといわざるをえず、したがって、本件著作権について独占的利用権を有する原告ハーストからライセンスを受けたライセンシーグループによるポパイのキャラクターの使用は、本件商標権を侵害するものではないというべきである。以上のとおりであって、被告らの主張は、すべて採用することができない。
2 次に、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズは、本件ロゴタイプは、遅くとも昭和56年ころには、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品化事業を示す表示、すなわち、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として、また、原告マガジンハウスの商品表示として、わが国において広く認識されるに至った旨主張するので、審案するに、別紙第2目録(3)によれば、本件ロゴタイプは、POPEYEの文字に白抜きのハイライトを付したものであって、POPEYEの文字に装飾を付したものであることが認められ、また、前掲甲第21号証の13、14、20、24ないし26、31、33ないし36、40及び41、第41号証の1、3及び成立に争いのない甲第22号証及び弁論の全趣旨によれば、原告マガジンハウスは、原告ハーストのライセンシーとして、その雑誌の題号に本件ロゴタイプを使用し、更に、原告ハーストのその余のライセンシーも、ポパイの絵と一緒に本件ロゴタイプをその商品に使用していることが認められる。右認定の事実によれば、原告ハーストのライセンシーは、本件ロゴタイプを本件漫画の主人公であるポパイを指すものとして使用しているものであって、それ以外の意味を有するものとして使用しているものではないことは明らかであり、かつ、ポパイのキャラクターは、前認定のとおり、原告ハーストらを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品表示として、遅くとも昭和45年には、日本国内において広く認識されていたものであるから、本件ロゴタイプは、単に右周知の商品表示の一態様を構成する特定の装飾的な字体の文字として、その後に追加されたものにすぎないものであるから、これをもってポパイのキャラクターとは別個独立の周知の商品表示であると認めることは困難であるというほかはない。したがって、本件ロゴタイプは、原告ハーストらを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの周知の商品表示の一態様であるとはいえても、それとは別個独立の原告マガジンハウスの商品表示であると認めるのは相当ではない。
二 第1、二に認定したところによれば、被告大阪三恵及び被告ポパイは、被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバーを、被告大阪三恵及び被告松寺は、被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイを販売するおそれがあるものと認められる。
三 被告図柄(1)、(2)、(4)、(6)のポパイの絵及び被告図柄(1)ないし(6)におけるポパイ又はPOPEYEの文字が、前認定の周知の商品表示であるポパイのキャラクターを意味するものであることは明らかであるから、被告図柄(1)ないし(6)は、いずれもポパイのキャラクターと同一ないし類似の図柄であると認められる。
四 前三認定のとおり、被告図柄(1)ないし(6)は、いずれも原告らの周知の商品表示であるポパイのキャラクターを意味するものであるから、被告らが被告図柄(1)ないし(6)のいずれかをその商品に対して販売した場合、被告らが販売している商品は、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズを中核とする、同原告らとライセンシーのグループの商品であると誤認混同されるおそれがあるものと認められる。
五 前説示のとおり、商品の出所について混同のおそれがある以上、特段の事情がない限り、ポパイのキャラクターのライセンサーである原告ハースト及び日本におけるポパイのキャラクターの管理業務を行っている原告アメリカン フィーチャーズは、被告らの行為により営業上の利益を害されるおそれがあるものというべきところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠は存しない。
 被告らは、不正競争防止法1条1項1号の規定により保護されるのは、商品の製造販売等の業務に従事する商品主体であることを要するところ、原告アメリカン フィーチャーズは、ポパイの漫画が付された商品の製造販売の業務に従事する者ではなく、また、自己の名において商品化事業を営むものでもないから、同規定により保護される主体とはなりえない旨主張するが、不正競争防止法1条1項1号の規定に基づき差止めを請求しうる者は、営業上の利益を害されるおそれのある者であれば足りるところ、原告アメリカン フィーチャーズは、前認定のとおり、原告ハーストの日本における代理人であるX4の手足となって、日本においてポパイのキャラクターを管理し、保護育成することをその業務として遂行し、その業務について原告ハーストから対価を受領しているのであるから、同法条にいう営業上の利益を害されるおそれのある者に当たることは明らかである。また、被告らは、ポパイのキャラクターの商品化権許諾業務において、ライセンシーの選別、ポパイのキャラクターの使用態様のチェックや品質管理を含めた業者の指導、監督及び広告活動並びにロイヤルティーの集金等を中心となって行っているのは、原告ハーストの極東代表であるX4個人であって、原告アメリカン フィーチャーズではなく、また、原告アメリカン フィーチャーズは、X4が代表を勤める会社として、その指示に従って行動するだけであって、独自の立場からポパイのキャラクターの商品化事業を行うものではなく、不正競争防止法によって保護を受ける周知商標の使用につき固有かつ正当な利益を有するものではないと主張するが、原告アメリカン フィーチャーズがポパイのキャラクターの商品化事業に必要な業務を遂行していることは、前認定のとおりであり、他に被告らの主張事実を認めるに足りる証拠はなく、また、X4は、原告アメリカン フィーチャーズの代表者であるから、同社がX4の指示に従って行動するとしても、それは、同社の業務として行動することを意味し、したがって、同社が営業上の利益が害される者に当たらないとすることはできない。更に、被告らは、原告アメリカン フィーチャーズの活動は、原告ハーストの単なる手足としての活動にすぎず、法的には、原告アメリカン フィーチャーズ固有の活動とみられるべきものではないとして、原告アメリカン フィーチャーズが契約書に署名することはないこと、新聞紙上を通じて謹告等を掲載するに当たっても、掲載行為の主体は、原告アメリカン フィーチャーズではないことなどを主張するが、原告アメリカン フィーチャーズが、ポパイのキャラクターの商品化権許諾業務について、契約書や新聞での謹告等の掲載の名義人となっていないからといって、原告アメリカン フィーチャーズのライセンス契約締結に関する媒介行為、ポパイのキャラクターの管理行為が、法的には、原告アメリカン フィーチャーズ固有の活動とみられるべきものではないとする根拠はないから、被告らの右主張事実を理由として、原告アメリカン フィーチャーズが営業上の利益を害される者に当たらないということはできない。更にまた、被告らは、原告アメリカン フィーチャーズが、商品化事業に必要な業務について対価を得ているとしても、右は、原告アメリカン フィーチャーズの業務活動に対する原告ハーストから得られる利益にとどまり、原告アメリカン フィーチャーズが得ている対価は、代理店(媒介代理商)手数料に類似するものであり、その収入の減少は、原告ハーストの営業成績が低下することによって反射的に生じるものであって、自らの営業上の利益が害された結果によるものではない旨主張するが、前認定のとおり、原告アメリカン フィーチャーズは、ポパイのキャラクターの商品化事業の遂行に必要な諸活動をなし、その対価として収入を得ているのであるから、被告らの行為がポパイの商品化事業に対し悪影響を持つ以上、原告アメリカン フィーチャーズも、原告ハーストと同様に被告らの行為により営業上の利益を害される者に当たるものということができる。なお、被告らは、原告ハーストとの契約に基づいて商品化事業における最も重要な諸活動の任に当たっているのは、X4個人であるところからみて、右対価を受け取るべき者は根本個人であると考えられるところ、原告ハーストとX4は、税法上の対策から、単に右対価の受取人を原告アメリカン フィーチャーズとする契約を交わしているにすぎないものと解される旨主張するが、原告アメリカン フィーチャーズが、被告ら主張のように、単に形式上存在するだけであり、何ら企業としての実体を備えていないとする事実を認めるに足りる証拠はない。以上のとおりであって、被告らの主張は、すべて採用しえないものである。
六 抗弁1について判断するに、前一1(四)に説示するとおり、本件商標権は、その商標登録出願前に生じた本件著作権と抵触するものであって、被告らは、商標法29条の規定により、その登録商標の使用をすることができないのであるから、被告らの本件商標の使用は、不正競争防止法6条にいう「商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為」に当たるということはできない。被告らは、商標法29条は、昭和35年4月1日から施行されており、本件商標が昭和33年6月26日に商標登録出願された当時、存在していないと主張するが、商標法施行法3条1項本文の規定に照らし、商標法29条は、本件商標権について適用あるものと解されるから、被告らの右主張は、採用しえない。
七 被告らの抗弁3権利失効の原則又は権利の濫用の主張は、前第1、五の認定判断と同一の理由により、採用することができない。
八 以上によれば、原告ハースト及び原告アメリカン フィーチャーズの不正競争防止法1条1項1号の規定に基づく被告大阪三恵及び被告ポパイに対する被告図柄(1)ないし(4)を付した腕カバーの販売の差止め及び同腕カバーからの右図柄の抹消並びに被告大阪三恵及び被告松寺に対する被告図柄(5)を付したマフラー及び被告図柄(5)又は(6)を付したネクタイの販売の差止め及び右マフラー、右ネクタイからの右図柄の抹消請求は、理由があり、原告マガジンハウスの損害賠償請求は、理由がない。
第4 結語
 以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、主文掲記のとおり、一部を認容し、その余は、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条、92条、93条1項、仮執行宣言について同法196条1項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清永利亮
 裁判官 設楽隆一
 裁判官 長沢幸男


第一目録、第二目録(二)(三)、第三、四目録(省略)

第二目録(一)
新聞
 アフトンブラデット
 ニューヨーク イブニング ジャーナル
 エル ユニバーサル
 フィラデルフィア インクワイアラー
 シカゴ イブニング アメリカン
 オークランド ポスト インクワイアラー
 ロス アンジェルス ヘラルド(ヘラルド エクスプレス)
 インディアナポリス ニューズ
 Ny ティッド
 ザ ポートランド テレグラム
 ザ バルティモア イブニング アメリカン
 エクスポネント テレグラフ
 タイデンズ Tegn
 トロールハットン ティドニング
単行本
 ポパイ 九四四号
 ポパイと深海の謎(ザ ベリー リトル ブック 一四九九号)

保護期間計算書
1 著作物 「THE THIMBLE THEATER」(甲第一号証)
2 著作権者 キング・フィーチャーズ・シンジケート・インコーポレーテッド=団体名義(甲第二号証)
3 公表年月日 一九二九年(昭和四年)一月一七日(甲第二号証)
4 保護期間 著作物の公表後五〇年(著作権法五三条一項)
5 戦時加算 昭和一六年一二月八日ないし昭和二七年四月二八日の前日(三七九四日)(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律、昭和二七年法律第三〇二号)
6 保護期間計算の起算点 昭和四年一月一七の属する年の翌年=昭和五年一月一日(著作権法五七条)
7 期間計算及び満了日 昭和五年一月一日+五〇年+三七九四日=昭和六五年五月二一日
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日本ユニ著作権センター
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