裁判の記録 line
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1995年
(平成7年)
 
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1月31日 永禄建設事件(2)
   東京高裁/判決・取消(上告)
 控訴人(原告)Xは広告の企画制作等を行う業者、被控訴人(被告)YはXに会社案内の制作を依頼した建設会社であり、XがYの依頼の下に提出した企画案をYがXに発注することなく、その企画案に類似した会社案内を別途作成出版したことがXの編集著作権の侵害に当たるかどうかが争われた事案である。控訴審は、請求を棄却した原審の判断を取り消し、Xの請求した出版差し止め、損害賠償を認容した。
 本件では、記事の配列順序、記事に配当されたページ数、記事のつなぎ目に写真が用いられていること、その写真も企画案に類似していることなどを認定したうえ、選択と配列におけるかかる共通性はアイデアにとどまるとするのは相当ではないとして、編集著作物性を認め、かつX企画案に依拠していると認めて複製権侵害を認容した。
判例全文
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2月21日 東日流外三郡誌関係書籍事件
   青森地裁/判決・請求一部認容、一部棄却(控訴)
 原告Xも、被告Y1、Y2も古代史等に関心を持つ市民、本件で問題となったのはXが撮影した石垣の写真をY1、Y2が無断でそれぞれ複製した行為である。
 判決は、Xが紀伊熊野の石垣に歴史的観点から疑問を持ち、それを探求する目的で石垣の現状を分かりやすく保存するための撮影をしていた事実を認定し、撮影における創作性があるとして写真の著作物性を認めた。
 そのうえで、その無断利用した事実について被告Y1のさまざまな弁解を検討し、Y1の利用した写真が、Xから提供されたものであり、熊野の写真を青森の石垣であるかのように使用することをXが許諾していた事実はない旨を認定して、Y1に対する複製差し止めと損害賠償を認めた。Y2に関しては、Y1の写真と信じて掲載した経緯から損害賠償責任の根拠となる故意過失がなく、かつ当該出版物が絶版状態にありかつ再販の際には写真を削除する旨を述べていることについては、前記事情に照らし差し止めの必要がないとした。有名な古文書偽書事件に関連した著作権侵害事件である。
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2月22日 「UNDER THE SUN」事件
   東京地裁/判決・請求棄却
 原告は、標章「UNDER THE SUN」の商標権者であり、被告は音楽CD等の製造販売を業として行うものである。本件は、被告がシンガーソングライターAのアルバムに「UNDER THE SUN」のタイトルを付して製造・販売した行為に対して原告がこれを商標権侵害であるとして提訴した事件である。
 本件商標権侵害では、アルバムに登録商標と類似のタイトルを付した行為が、「商標の使用」すなわち、自他識別機能を果たすために用いられているか否かが問題となった。
 判決は、シングルCDの表面等には収録曲名、歌唱、演奏する者の名称等が付せられるものであり、アルバムの場合には収録曲中のいずれかが記載されたりあるいはコンセプトやイメージに基づくタイトルが標記されているという実情を検討したうえで、アルバムタイトルの標記は、製造や発売元にかかわりなくつけられているものであること、製造発売元の標記はそれとは別に付されているものであること、本件でもそのように記載されていることに鑑み、商標の使用ではないと判断した。
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3月10日 事務処理プログラム事件
   名古屋地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件は、原告会社の元取締役Y1と従業員Y2等が退職後のライバル会社(被告会社)を立ち上げたことに伴う紛争において、様々な理由に基づく損害賠償請求が行われているが、その一つが著作権に基づくものである。
 問題となっている著作物は、在庫管理用プログラムである。被告会社は、Y2が原告会社において業務として開発した本件在庫管理用プログラムを複製して使用した。
 本件の主要な論点は、第一に職務著作の要件としての「法人名義による公表」の解釈である。企業内で使用するプログラムにおいて通常は、外部への公表が考えられないためこの要件を欠くのか。しかし裁判所は、「仮に公表するとすれば法人名義を付す」と想定しうる場合には同要件を満たすとした。
 しかし、本件プログラムの成立は、Y2が原告会社入社前に訴外会社において職務上作成していたプログラムに基づいて作成されたとの事実が認定され、その結果、本件プログラムは二次的著作物とされ、原告会社は、その権利を有するとした。が、その損害に関しては、原告会社が原著作物の複製権を有すると認められない以上、二次的著作物の使用による損害をすべて二次的著作権者の損害とすることはできないとして請求を棄却した。
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3月28日 商品カタログ事件
   大阪地裁/判決・請求棄却
 原告は、カーテン用副資材等に関する本件カタログを企画制作した者であり、被告は、カーテン用副資材等を販売する業者として自社のカタログをデザイン会社に制作させ頒布している者である。
 原告は、被告カタログの中の写真、説明文、図表等の一部およびカタログ全体についての著作権を侵害されたとして提訴した。
 判決は原告の写真について著作物性を認め、説明図については他者の図の複製であること、その説明文には著作物性なしとした。また、カタログの配列における素材の選択や創作性を認めて編集著作物とした。
 この点、原告は、編集著作物であると同時に一つの著作物でもあると主張したが、判決は一つの表現物を異なる性格を持つ著作物として評価することを一般論として認めつつも、本件カタログを一個独立の思想または感情の創作物とは認められないとした。
 そして、被告の写真と原告の写真を比較し、それが異なるものであることを認定したうえで、かつ編集著作物においては、選択や配列におけるアイデアが保護されるわけではなく、当該素材ないし配列の具体的な表現形式が保護されるのであるとして、原告の請求を退けた。
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4月4日 海賊版ビデオの頒布行為事件(刑)(3)
   最高裁(三小)/決定・上告棄却(確定)
 本件は、著作権侵害に対する刑事告訴の有効性が問題となった事案である。映画著作物の著作権者から権利の一部を譲り受けていた著作権者ではなく、独占的な許諾を受けたに過ぎない者であっても、違法に複製されたビデオについては「犯罪により被害を被った者」に該当するので、告訴権者になりうるという判断をした。
 本件は、著作権侵害の刑事事件が親告罪とされ、その主体が著作権者等に限定されていることとの関係において、有効な告訴かという疑義が出された事件である。
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4月28日 図書館における非営利複製事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件は、ある自治体の図書館において原告が或る書籍全部の複製を求めて拒否されたことを不服として起こした訴訟であるが、本人訴訟であるためか、法的構成がかなり特異である。
 例えば、著作権の制限規定の一つである図書館における複製に関する31条1項の規定を「法定複製権」としているのはその典型例である。裁判所は、同条の趣旨は、所定の場合に権利者たる著作権者の許諾がいらないとするだけであって、図書館利用者の権利を認めた規定ではなく、また図書館に複製物提供の義務を認めたものではないとして、関連する5項目の請求を全部退けた。
 また、原告はこのほかにも、図書館に「利用者の方へ」と題するお知らせが貼付されていることが利用者に対する図書館からの複製の申し込みであると構成し、利用者が「複写申込用紙」に所定事項を記載して提出することをもって利用者による承諾とし、このとき複製契約が成立していると主張したが、裁判所は、お知らせの性質は申し込みの誘引にすぎないとして契約の成立を否定し、いずれの意味においても違法性がないから、損害賠償も認めず全部の請求を棄却した。
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5月16日 「出る順宅建」事件(2)
   東京高裁/判決・変更
 本件控訴人(一審被告)も被控訴人(一審原告)も宅建主任試験等の資格試験の受験指導、出版等を行う会社である。
 被控訴人が「出る順宅建」という書籍を出版し、控訴人は被告書籍ないし問題集を出版した。そこに用いられた内容が著作物であるか、複製権侵害、同一性保持権侵害、氏名表示権侵害があるかが争われた。
 裁判所は、各著作物性の認定に当たり、法令に基づく手続きに要約を付した程度のものについては著作物性を認めないなど個別的な考察を加えて、一部の著作物性を否定している。
 また、複製権侵害の有無についても個別に相違点に注目しつつ、本質的な部分の類似性を認定して侵害を認めている。同一性保持権侵害と氏名表示権侵害をも認めた。
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5月31日 「ぐうたら健康法」事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 原告は、医師であり、スポーツ医学関係でも名の知られた者であり、1991年7月号の月刊誌「宝石」に「33歳からのぐうたら健康法」と題する本件著作物を発表した。
 被告会社は出版者であり、被告Y1を筆者とする被告書籍「明日天気になあれ Dr.Y1のやさしい医学」を出版し、その中には「私のぐうたら健康法」と題する文章が含まれていた。原告は、Y1、被告会社に対して、複製権侵害、同一性保持権侵害、氏名表示権侵害を理由として損害賠償、謝罪広告等を請求した。
 被告らは、当該健康法は、医学の分野では常識になっている考え方にすぎないし、原告とY1とがかつて共同で著作した書籍の中でも取り上げており原告固有の考えではないと主張した。
 判決は、両表現を詳細に比較し、項目の立て方及び数、その展開の順、項目内部における表現等を比較し、同一の統計や医学的知見に基づくとはいえ多様な表現がありうるにもかかわらず表現がほとんど一致していること、その相違点が微細な部分にとどまっており表現の同一性を失っていないとして、Y1による複製権侵害を認め、同一性保持権侵害と氏名表示権侵害も認めて、原告の請求を認容した。被告会社に対する請求は棄却した。
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7月14日 「三国志V」事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 原告のゲームソフトプログラム「三国志V」には、ユーザーが任意に登場人物の戦闘能力を1〜100の範囲で設定して保存できるデータ収納ファイルが含まれていた。被告は、その戦闘能力を100より高く設定して原告の前記データファイルに収納できるプログラムを頒布した。
 これに対して原告が、同一性保持権侵害であるとして訴えたが、裁判所は、原告の請求を棄却した。
 判決は、本件著作物をコンピュータに対する指令を組み合わせた部分とデータ部分とに分け、「能力値を1〜100までに制限することはプログラムの仕様またはアイデアの領域に属するもの」にすぎないとし、当該データが「プログラム表現としてあらわれてくるのは…チェックルーティンプログラム」によるものであり、指令の組み合わせたるチェックルーティンプログラムを改変していない被告プログラムは、原告の同一性保持権を侵害していないとした。
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7月31日 映画「スウィートホーム」二次的使用契約事件
   東京地裁/判決・請求棄却(控訴)
 本件の原告は本件映画の脚本家であり監督であった者、被告は、本件映画の製作会社と配給会社である。映画公開後、被告らがビデオを製作販売したところ、それに対する追加報酬請求権があるとして、その不履行を理由として原告は契約を解除し、それを前提として原告の許諾なくビデオの販売が行われていることを理由として追加報酬相当額の損害賠償等を求めるとともに、放映、ビデオ化に際しての改変が著作者人格権侵害であるとして、ビデオテープの販売等の差し止めを求めたものである。
 判決は、本件契約が二次的利用に関する合意を明示していないとしたうえで、明示がなくとも二次的利用における追加報酬請求権が慣行に基づいて発生するかについて判断し、これを認めなかった。
 また改変については事実を認めたうえで、やむを得ざる改変に当たると判断した。
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10月17日 建築材料カタログ分類リストの著作物性事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却、新請求認容
 本件控訴審において追加されたJAMICシステムの著作権確認を求めた新請求が著作権法に関連する。一審の中心論点であった貸金請求についてはここでは略し、JAMICシステムについて述べる。
 同システムは、建築工事の種類別に工事用材料、そのメーカー等とカタログとを対応させて整理し、コンピュータデータベース化しやすくしたものであるが、その分類番号に基づくカタログは、段ボールのボックスに収納されたものであって、コンピュータ上のものではない。
 これにつき、裁判所は、このシステム全体を著作物とは認められないとしつつも、取引の対象となりうる財産的価値を有するとし、そのうえで、分類の選択・配列に創作性があるので、編集著作物であると認定した。
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10月19日 アンコウ行灯事件
   京都地裁/判決・請求棄却
 本件はアンコウと題する行燈を創作した原告が被告創作の行燈を類似品であるとして著作権侵害を主張した事件である。
 裁判所は、両当事者の行燈を比較したうえで、両者には行燈の内部に液体を入れ、その上にろうそくを浮かべて空洞内で温められた空気の変化によって不規則に浮遊しうるようにしたという共通点はあるものの、原告作品の行燈の場合には、容器の素材が天然石ないし天然石様の素材あるいは漆黒の陶器であって、その壁面中央部に横長の半円形の明かり窓が開いており、あるいは陶器製の場合には内部に凹凸をつけ表面に釉薬を塗って内部の乱反射による光の効果を上げているという本質的な特徴を持つものであるが、被告作品の場合には、陶器の容器である点で原告の一部作品とさらに共通点が増すことはあるものの、明り取りの形状が松の形をかたどったものであり、容器内部の加工もない点で本質的な特徴における類似性がないから、著作権侵害にも人格権侵害にもならないとした。
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10月30日 システムサイエンス事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、培地上の発育体や阻止円等種々の物質の数、面積、直径等を自動的に認識測定するとともに、検体の力価計算を自動的に行うなどして最少発育濃度を自動的に測定する装置のプログラムの著作権の帰属が主たる争点となった事件であるが、別件の争いがあったことも加わって、被告3会社代表取締役の個人責任の追及(旧商法の261条3項)など論点は多岐にわたる。
 裁判所は計測装置の著作権が原告会社に帰属することを認め、被告3社中2社への複製・翻案の差し止め、およびその代表者への損害賠償請求を認めた。
 本件判決は、故意過失の認定に当たり、プログラムの著作物性についての法改正前については、過失を否定している。
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11月8日 図書館における非営利複製事件(2)
   東京高裁/判決・控訴棄却、追加請求棄却
 多摩市立図書館に対して朝倉書店の「土木工学事典」の全部についての複製を求め、拒否された図書館利用者が、これを不服として地裁に提訴したが、請求を退けられた事件の控訴審。
 利用者の主張は控訴審で付加されたものも含めて多岐にわたり、事実についても利用者は全部の複写を求めたのではないなどと主張したが、申込書に照らしてこれを退けたうえ、要は、法31条1項一号が「一部分の複製」と限定していることに関連して全部複製を求められた際の図書館側の対応に関する解釈論上の判断をした判決である。部分複製に限り許容される旨があらかじめ示されていた事実、本件利用者が内心は一部複製で良かったという場合には、その部分を特定して複製許可を求めるのは、利用者の責任に属することであるから、利用者自らそれをしていない以上複製を拒絶した図書館の措置に瑕疵はない、とした。
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11月24日 「韓国の歌」編集著作権確認等請求事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 原告Xと被告Yは、韓国語の歌詞に日本語のルビを振った歌詞集および楽譜集(以下、併せて「歌詞集等」という。)を共同出版することに合意し、途中紆余曲折はあったものの歌詞集等も出版されたが、その編集著作権者が誰であるかに争いが生じた。そのほかに、歌詞集等代金精算の請求およびそれらをめぐる紛争過程で生じた言動に対する慰謝料請求がなされたが、裁判所は慰謝料請求の点を除いて原告の請求を認容した。
 歌詞集等の編集著作権に関しては、いずれの奥付にも「編集X」と明記されていた事実、日本語の歌詞が元々ある曲および30曲の日本の曲も含まれているが被告は日本語を読めない事実、一部の曲は被告から提供されたものではあるが大半を原告が収集している事実、歌詞集と楽譜集との配列を統一し、かつ1曲分を1または見開き2頁に収めることができるよう順序を調整したのが原告である事実を理由として上記結論を導いている。
判例全文
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12月18日 ラストメッセージ事件
   東京地裁/判決・請求一部認容、一部棄却
 本件は、昭和61年から平成5年までの間に休刊ないし廃刊となった雑誌の出版社、編集部、編集長等から読者宛に書かれた挨拶文(記事)を最終号の表紙等とともに各出版社に断りなく出版した、ラストメッセージ事件として知られている事件の判決である。
 判決は、大半の記事について著作物性を認めた。認められなかった記事は、休廃刊が残念であることの表明、当該出版社の他の関連雑誌への愛読の要望、再発行の予定の表明等の最終号ならではの内容をありふれた言い回しで表現したものと評価している。
 また、出版社が著作権者であると認定している(外部のフリーランサーによるものも職務著作と認定している)。
 被告は、第一次的には、フェアユースの法理の抗弁として主張し、二次的に引用の抗弁を主張している。しかし、前者については、引用等の実定法上の抗弁事由以外の法理を認めるべき事情はないとして退け、後者についても引用に該当する余地はないと判断した。
判例全文
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