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【事件名】ラストメッセージ事件 【年月日】平成7年12月18日 東京地裁 平成6年(ワ)第9532号 書籍発行等差止請求事件 判決 主文 一 被告は、別紙目録(2)記載のうち、同1―4、2―3、4―2、4―3、6―5、7―2及び10―1を除くその余の各部分のいずれかを含む別紙目録(1)記載の書籍を発行し、販売等頒布してはならない。 二 被告は、各原告に対し、左の金額及びそれぞれに対する平成6年5月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 1 原告株式会社学習研究社に対し、金6万円 2 原告株式会社講談社に対し、金12万円 3 原告株式会社集英社に対し、金6万円 4 原告株式会社主婦と生活社に対し、金4万5000円 5 原告株式会社主婦の友社に対し、金3万円 6 原告株式会社小学館に対し、金7万5000円 7 原告株式会社誠文堂新光社に対し、金6万円 8 原告株式会社ダイヤモンド社に対し、金3万円 9 原告文芸春秋情報出版株式会社に対し、金1万5000円 10 原告株式会社マガジンハウスに対し、金7万5000円 三 原告らのその余の請求を棄却する。 四 訴訟費用はこれを10分し、その7を被告の負担とし、その3を原告らの負担とする。 五 この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求めた裁判 一 請求の趣旨 1 被告は、別紙目録(2)記載の各部分のいずれかを含む別紙目録(1)記載の書籍を発行し、販売し、又は頒布してはならない。 2 被告は、各原告に対し、左の金額及びそれぞれに対する平成6年5月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (一)原告株式会社学習研究社に対し、金31万3400円 (二)原告株式会社講談社に対し、金33万3400円 (三)原告株式会社集英社に対し、金30万8400円 (四)原告株式会社主婦と生活社に対し、金31万3400円 (五)原告株式会社主婦の友社に対し、金29万8400円 (六)原告株式会社小学館に対し、金31万8400円 (七)原告株式会社誠文堂新光社に対し、金31万3400円 (八)原告株式会社ダイヤモンド社に対し、29万8400円 (九)原告文芸春秋情報出版株式会社に対し、金29万3400円 (一〇)原告株式会社マガジンハウスに対し、金31万8400円 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行宣言 二 請求の趣旨に対する答弁 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 当事者の主張 一 請求原因 1 原告らの著作権 (一)別表「本件記事の被告書籍における掲載状況等」(以下「別表」という。)の「出版元等」欄記載の各原告は、かつて、別表「雑誌名」欄記載の各雑誌を出版、発行していたが、それらの雑誌の休刊又は廃刊前の最終号に、別紙目録(2)中の、別表「別紙目録(2)の該当番号」欄記載の番号の記事(以下個別に指称する場合には、別表の「通し番号」欄記載の番号を付して「本件記事1」あるいは「1の記事」のようにいい、その全部を指称する場合には「本件記事」という。また、各原告の出版等にかかる記事を指称する場合には「各本件記事」という。なお、以下において、原告らの「株式会社」の表示は省略する。)を掲載した。 (二)本件記事のうち、本件記事12の「BOB GUCCIONE」の訳文以外の記事は、掲載された雑誌の出版元ないし発行元(以下「出版元等」という。)である各原告の従業員が、各原告の発意に基づいて職務上作成した著作物であって、同社の名義の下に公表したものであるから、各原告が著作者であり著作権者である。 また、本件記事12の「BOB GUCCIONE」の訳文は、原告講談社の従業員であった編集長の千田正洋が同社の発意に基づいて職務上翻訳し、同社の名義の下に公表したものであるから、原告講談社が日本語訳文という二次的著作物についての著作者であり著作権者である。 (三)仮に、本件記事のうち、本件記事7、9ないし11、12、16、18、20、23、26、30、33、36、37、39、43、44及び48について、著作権法15条所定の要件が満たされず、各担当者又は編集長がそれぞれの記事の著作者であるとしても、各担当者又は編集長と出版元等である各原告との間の契約によって、著作物の創作と同時に各原告に著作権が譲渡され、各原告がそれぞれ著作権を有している。 2 被告の著作権侵害行為 (一)被告は、別紙目録(1)記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を平成5年9月25日ころから発行し、販売頒布している。 被告書籍は、昭和61年から平成5年までの間に休刊又は廃刊となった各雑誌の最終号の表紙、休廃刊に際し出版元等の会社やその編集部、編集長等から読者宛に書かれた文章(以下「記事」という。)あるいはイラスト等を集めた書籍であって、被告は、右各雑誌の表紙、記事、イラスト等を電子複写機器により機械的に複製した上で休廃刊の年毎にまとめ、写真製版の方法により印刷し、被告書籍を製本した。 被告書籍は、冒頭の目次部分と末尾のあとがき部分の外は、全て右複製により構成されている。 被告書籍に複製された記事の中には、別紙目録(2)のとおりの原告らが発行又は出版した雑誌に掲載された本件記事が含まれている。 (二)被告は、本件記事を著作権者である各原告に無断で右のとおり複製し、これにより各原告の著作権を故意に侵害した。 3 原告らの損害 (一)著作権使用料 出版物の販売価格や複製部数の如何を問わない著作権使用料(承諾料)として一定の金額の支払いを受けることは、出版社や新聞社等の業界において通常行われているところであり、その最低額は金5000円を下ることはない。 したがって、原告らは、仮に各本件記事の転載使用を被告に許諾するとすれば、著作権使用料として少なくとも1点あたり5000円を受領するところであるから、被告に対し、各点数の記事の著作権の利用により通常受けるべき金銭として、以下の金額をそれぞれ賠償請求する。
(1)原告らは、原告ら訴訟代理人に委任して、被告書籍の発行、販売及び頒布の差止めを求める仮処分の申立てを東京地方裁判所に行い(平成6年ヨ第22005号)、平成6年4月6日、原告らの申立てを認める仮処分決定が発令された。 原告らは、右仮処分申立事件について、原告ら訴訟代理人に対し、着手金7万円及び報酬金7万円(別途消費税各2100円)をそれぞれ支払った。 (2)原告らは、本件訴訟の遂行を原告ら訴訟代理人に委任し、着手金7万用及び報酬金7万円(別途消費税各2100円)をそれぞれ支払うことを約した。 (3)各原告が支払い又は支払うことを約した1社当たりの弁護士費用28万円(別途消費税8400円)は、被告の不法行為による損害として被告が負担すべきものである。 4 よって、原告らは、被告に対し、著作権法112条、113条に基づき被告書籍の発行、販売等頒布の差止めを求めるとともに、民法709条、著作権法114条2項に基づき、請求の趣旨第2項の(一)ないし(一〇)記載の金員及びこれに対する不法行為の後で、訴状送達の日の翌日である平成6年5月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 二 請求原因に対する認否 1(一)請求原因1(一)の事実は認める。 (二)請求原因1(二)中、本件記事21、22、32及び42については、その著作物性を争う。 右各記事は、「事実の伝達にすぎない雑報」であり、著作物に該当しない。 (三)(1)本件記事1ないし6、8、13、14、17、19、24、27ないし29、31、34、35、38、40、41、46及び47について、各原告の従業員が各原告の発意に基づいて職務上作成したとの点は知らない。 (2)また、本件記事7、9、11、16、18、20、23、30、33、36、37、39、43、44及び48については、各原告の従業員が各原告の発意に基づいて職務上作成したとの点は知らない。各原告の名義の下に公表したものであるとの点は否認する。 右各記事の著作者は、記事の最後等に記された各執筆者である。 (3)本件記事10及び26並びに本件記事12の「BOB GUCCIONE」の訳文以外の部分は、各原告の従業員が各原告の発意に基づいて職務上作成したとの点は知らない。各原告の名義の下に公表したとの点は、個人の執筆者であることが明らかな部分に関して否認する。 (4)本件記事12の「BOB GUCCIONE」の訳文についての主張は知らない。 (四)請求原因1(三)は知らない。 2 請求原因2(1)は認め、同2(二)は否認する。 3(一)請求原因3(一)の主張は争う。 原告らは、それぞれの雑誌を休廃刊させ、自ら既にその商品的価値を消滅させている上、休廃刊の告知等は、その本来の性質上独立した著作物商品としての価値はなく、原告らが将来、休廃刊の告知等を雑誌全体から切り離して著作物商品として利用することも全くありえない。 したがって、被告が被告書籍を発行したことによって、原告らに財産的損害は生じておらず、このような場合にまで、著作権法114条2項に基づく損害の賠償を求めることはできない。 (二)請求原因3(二)のうち、原告らが、仮処分申立て及び本件訴訟の遂行を原告ら訴訟代理人に委任した事実は認めるが、弁護士費用の金額及びその支払いについては知らない。その余は争う。 4 請求原因4は争う。 三 抗弁 1 公正使用(フェア・ユース) 我が国の著作権法は、「引用」に関する32条1項を除き、「フェア・ユース」に関連する一般的条項を持たないが、我が国においてもアメリカ合衆国著作権法107条が定めるものと同様の「フェア・ユース」の法理が適用されるべきである。 そして、右条項において、著作物の使用が公正使用となるか否かを判定する場合には、 @ 使用の目的及び性格(使用が商業性を有するか否か、又は非営利の教育を目的とするか否かの別を含む。) A 使用される著作物の性質 B 使用される著作物全体と対比した使用部分の量及び実質 C 使用される著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響 の各要素を考慮すべきであるとされるが、以下のとおり、被告による被告書籍の出版は本件記事の公正使用であって、仮に各本件記事の著作権が各原告に帰属しているとしても、その著作権を侵害するものではない。 (一)使用の目的及び性格 被告が、被告書籍中に本件記事を使用した目的は、「雑誌の新陳代謝」という近年の社会現象を報道・批評し、右現象に関する資料を収集・保存することにあり、被告書籍の基本的性格は、報道、批評、学術を目的とする資料集である。 もっとも、アメリカ著作権判例上、原作品をその本来の目的のために使用すべく複製する場合にはフェア・ユースとはならないとされているが、被告は、本件記事をその本来の目的のために使用したものではなく、また、実用的な「休廃刊告知等の文例集」として本件記事を本来の目的に即して収録したものでもないから、本件記事の本来の目的と被告書籍の目的とは全く異質である。 なお、被告書籍が定価1000円(別途消費税30円)で市販される商品であることは事実であるが、合衆国著作権法が「商業性」を否定的例示として挙げているのは、他人の著作物を商業的に利用することは、著作権者に排他的に帰属する独占権の不公正な利用となるものと推定されるからであって、被告の行為が原告らの商業的利益を何ら侵害するものでないことは、後記(四)のとおりである。 (二)使用される著作物の性質 アメリカ著作権判例上、フェア・ユースの抗弁は、フィクションの作品より事実に関する作品についてより多く適用されている。本件記事は、基本的には後者の中の「事実の伝達にすぎない雑報」ないし「時事の報道」であり、本件記事の中には著作物に該当しないものも含まれているが、著作物性を有するものの大半も、新聞の社説あるいは雑誌の巻頭言と同質のものであり、著作権法39条1項によって、「他の新聞若しくは雑誌」に自由に転載することができる著作物である。被告書籍は「他の新聞若しくは雑誌」ではないが、少なくともフェア・ユースの法理の適用の上では、「書籍」と「新聞・雑誌」を区別すべき合理的な理由はない。 さらに、本件記事を掲載した最終号を見逃した読者は、その雑誌が消えた事情どころか終刊したという事実そのものを知らぬままになってしまうという現実があり、ある作品が絶版になり、通常の経路によって求めることが不可能となった場合には、複製利用する側がフェア・ユースを主張しうる余地は大となる。 (三)原著作物全体と対比した使用部分の量及び実質 アメリカ著作権判例上、一般に著作物全体の複製利用はフェア・ユースを構成しないとされているが、本件を考察する上での「著作物全体」とは、1冊の雑誌全体を指すものである。 他方、被告は、原告らが発行した雑誌の最終号の全部を被告書籍中に複製したのではなく、各雑誌の最終ページに掲載された休廃刊の告知等のみを使用しているにすぎず、しかも、各雑誌の実質的部分は掲載された各記事であって、社告や編集後記は何ら実質的な部分ではなく、量的にみても全体の100分の1にも満たないのであるから、被告が、休廃刊の告知等の全文を被告書籍中に収録したことは、フェア・ユースの成立を何ら妨げるものではない。 (四)潜在的市場又は価格に対する使用の影響 被告書籍の発行は、原告らの潜在的市場や原告らの商品の価値に一切の影響を及ぼすものではない。 原告らは、原告らの雑誌を休廃刊させて自らその商品的価値を消滅させており、また、本件記事は、それを雑誌全体から切り離して商品として利用することが全くあり得ないものであるから、その将来の使用に関する潜在的市場について論じること自体は無意味である。 前記(一)のとおり、本来の目的とは全く異なった報道、批評、学術の目的で本件記事を使用する被告の行為は、原告らに何らの財産的損害を発生させるものではない。 (五)右に述べた諸般の事情を総合考慮すれば、被告が被告書籍において本件記事を使用したことは、フェア・ユースとして正当である。 2 引用による利用 仮に、本件において一般法理としてのフェア・ユースの法理が適用されないとしても、被告の行為は、本件記事を著作権法32条1項所定の「引用して利用」したものであり正当である。 (一)被告書籍の制作にあたり、編者は雑誌の種類、休廃刊のいきさつ、その告知や挨拶の文言、出版元の大小、雑誌の寿命、読者の読みやすさ等を勘案した上で、被告の編集意図にもっともふさわしい配列を決定したものであり、被告書籍は編集著作物である。 そして、書籍等の編集行為は、他人の文章等を自分の文章中に引いて説明に用いるという古典的な引用行為と異なることは事実であるが、法32条1項にいう「引用して利用する」行為の範囲から、自己の編集著作物中に素材として他人の著作物の一部を取り入れる行為を除外すべき合理的な理由はない。 (二)引用が許される範囲については、@引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明確に区別して認識することができること、A両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合であること、Bその引用が、引用される側の著作者人格権を侵害するような態様でなされるものではないこと、の3要件が必要とされる。 被告書籍には、原告ら10社を含む200社の出版元等から発行された286誌の休廃刊の告知等が収録されているが、右@の要件に従えば、このうち被告に対し明示又は黙示の許諾を与えた約180社(約240誌)の収録分によって構成される部分が「引用して利用する側の著作物」であり、その余の不許諾部分が「引用されて利用される側の著作物」である。被告は、被告書籍を構成する素材については一切手を加えず、切り抜きスタイルで、かつそれぞれについて出所を明確に表示して収録しており、「引用して利用する側の著作物」と「引用されて利用される側の著作物」とは明確に区別して認識することが可能である。 また、被告書籍の素材中、許諾が得られたものは、得られなかったものの約6倍であり、Aの要件にいう両者の主従関係は明らかである。 さらに、被告書籍における引用が、Bの要件にいう「引用される側の著作者人格権を侵害するような態様でなされるものではないこと」も多言を要しない。 (三)著作権法32条1項は、引用が許容されるための要件として、引用が公正な慣行に合致するものであること、引用の目的上正当な範囲内で行われるものであることを挙げているが、これらの要件については、前記1の公正使用(フェア・ユース)の主張を援用する。 四 抗弁に対する認否及び反論 1 公正使用(フェア・ユース)の主張は争う。 (一)我が国の著作権法は、著作権とその公正な利用とを調整するために、著作権の制限に関する規定を具体的かつ詳細に設けており、これらに加えて一般法理として著作権を制限する法理論を付加する必要性は全くない。 原告らは、被告書籍があとがき部分を除いて全編他人の著作物の複写からなる書籍であることから、アメリカ合衆国著作権法においても合法性をもつことはあり得ないと考えるものであるが、同法の解釈論は本件訴訟と無関係であるので、被告の主張のうち、我が国の著作権法に関連する部分についてのみ言及する。 (二)被告は、本件記事の基本的性格は「事実の伝達にすぎない雑報」又は「時事の報道」であり、本件記事21、22、32及び42は著作物性を有しないと主張する。 しかしながら、右4点の記事は短い文章で構成されているとしても、その短い中にも筆者の思いが個性的に表現されており、その他の記事も含め、本件記事は事実を客観的に記述した雑報とは明確に区別されるものであって、著作権法10条2項の「事実の伝達にすぎない雑報」とは異なる著作物である。 (三)被告は、本件記事は、著作権法39条1項によって自由に転載することができる著作物であると主張する。 しかしながら、本件記事の休廃刊のメッセージは、同項に規定する「政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説」とは全く異なる著作物である上に、同項は、報道的態様による利用について規定したものであって、被告書籍への複製がこれに含まれないことは明白である。 (四)被告は、本件記事が既に休廃刊になった雑誌の記事であり、本件記事を雑誌全体から切り離して商品として利用することが全くあり得ないものであるから、原告らに何らの財産的損害も発生しないとして、本件著作権侵害行為が適法になるかのごとき主張をするが、被告書籍は、本件記事を雑誌全体から切り離して商品として利用したものに外ならず、被告の主張自体矛盾している。 2 引用による利用の主張は争う。 (一)著作権法32条1項の「引用」と認められるためには、社会通念上、引用される著作物の著作権を制限することが妥当と認められる実態を備えていることが必要である。 被告書籍に編集著作権が認められるか否かは別として、被告書籍は最後の2ページの「あとがき」以外は全て他人の著作物を集めただけの書籍であり、このような中に、「引用」として無許諾で他人の著作物を利用することは社会通念上是認されるところではない。 したがって、被告書籍における本件記事の利用は「公正な慣行」に合致しない。 (二)また、被告書籍における本件記事の利用は「正当な範囲内」で行われたものとはいえない。 「正当な範囲内」ということの一つの意味は、引用分が本文よりも高い存在価値をもってはならないということにあるが、被告書籍は、前記のとおり、最後の2ページの「あとがき」以外は全て他人の著作物を集めただけの書籍であり、転載された個々の休廃刊の告知等こそ価値があるのであり、それこそが被告書籍の存在価値そのものである。 したがって、被告書籍における個個の休廃刊の告知等の利用は、正当な範囲内で行われたものとはいえない。 (三)そもそも、被告の主張に従えば、他人の著作物を集めた編集著作物の場合には、その内の多数の著作物について許諾を受けさえすれば、一部の著作物について許諾を受けなくとも「引用」として編集著作物の中に利用することができることになるが、このような解釈が不当であることは明らかである。「他人の著作物を集めた編集著作物」自体を主たる著作物とし、「その編集著作物の素材となる他人の著作物」を従たる著作物として、その間に主従の関係を認めて引用として従たる著作物の著作権を制限することは、著作権法32条1項の予定するところではない。 第3 証拠 本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。 理由 一 請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。 二 本件記事の著作物性について 1 ある著作が著作物と認められるためには、それが思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であり(著作権法2条1項1号)、誰が著作しても同様の表現となるようなありふれた表現のものは、創作性を欠き著作物とは認められない。 本件記事は、いずれも、休刊又は廃刊となった雑誌の最終号において、休廃刊に際し出版元等の会社やその編集部、編集長等から読者宛に書かれたいわば挨拶文であるから、このような性格からすれば、少なくとも当該雑誌は今号限りで休刊又は廃刊となる旨の告知、読者等に対する感謝の念あるいはお詫びの表明、休刊又は廃刊となるのは残念である旨の感情の表明が本件記事の内容となることは常識上当然であり、また、当該雑誌のこれまでの編集方針の骨子、休廃刊後の再発行や新雑誌発行等の予定の説明をすること、同社の関連雑誌を引き続き愛読してほしい旨要望することも営業上当然のことであるから、これら五つの内容をありふれた表現で記述しているにすぎないものは、創作性を欠くものとして著作物であると認めることはできない。 2 右観点からすると、本件記事4、8、21、22、32、35及び42(別紙目録(2)の1―4、2―3、4―2、4―3、6―5、7―2、及び10―1)は、いずれも短い文で構成され、その内容も休廃刊の告知に加え、読者に対する感謝(4、8、21、32、35及び42の記事)、再発行予定の表明(4、21、22及び35の記事)あるいは、同社の関連雑誌を引き続き愛読してほしい旨の要望(4の記事)にすぎず、その表現は、日頃よく用いられる表現、ありふれた言い回しにとどまっているものと認められ、これらの記事に創作性を認めることはできない。 3 他方、右7点を除くその他の本件記事については、執筆者の個性がそれなりに反映された表現として大なり小なり創作性を備えているものと解され、著作物であると認められる。 三 本件記事の著作権の帰属について 右7点の記事を除くその余の本件記事(以下において、「本件記事」という場合)には、右7点の記事を除いたものを指し、各原告の出版等にかかる記事を指称する場合には「各本件記事」という。)について、著作権法15条所定の要件を備え、その著作権が、各原告に帰属するか否かを検討する。 1 本件記事が掲載された各雑誌を休刊又は廃刊することを決定したのは出版元等である各原告であり、本件記事は、かかる休刊又は廃刊に伴いその旨を読者に告知する必要から掲載されたものであるから、本件記事自体も原告らの発意に基づいて作られたものであると認められる。 また、成立に争いのない甲第52号証ないし甲第54号証、甲第56号証ないし甲第59号証、甲第65号証、甲第67号証ないし甲第70号証、甲第72号証、甲第73号証、甲第102号証、甲第108号証ないし甲第120号証、甲第128号証、甲第129号証及び甲第131号証ないし甲第135号証、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第60号証ないし甲第64号証、甲第66号証、甲第71号証、甲第74号証ないし甲第85号証、甲第88号証ないし甲第101号証、甲第103号証ないし甲第107号証及び甲第121号証ないし甲第127号証によれば、本件記事は同12の訳文部分も含め、各雑誌の編集長あるいは編集スタッフが執筆したものと認められるから、各原告の従業員が雑誌の編集製作という職務上作成した著作物であると認められるとともに、各雑誌は出版元等である各原告の名義の下に公表され、本件記事が当該雑誌の一部であることは明らかであるから(なお、10の記事の一部及び34の記事については、当該原告名が表示されている。)、各本件記事は各原告の名義の下に公表された著作物であると認められる。 もっとも、前掲甲第61号証、甲第89号証ないし甲第101号証、甲第105号証及び甲第106号によれば、本件記事9、23及び26に関しては、各原告の社員ではない外部のフリーランサー等が編集スタッフとなり、これらの者が本件記事を分担執筆したものであることが認められるが、雑誌の編集作業において、正規の社員でなくとも編集スタッフとして参加している以上、各原告の指揮監督に服しているものと認められるのであるから、これらの者も当該原告の業務に従事する者であると解され、かつ、右各証拠によれば、右正規の社員でない執筆者も、各自の執筆部分の著作権が各原告に帰属していることを認めていることが認定できる。 2 本件記事のうち、7、9ないし11、12、16、18、20、23、26、30、33、36、37、39、43、44及び48の記事については、執筆者名等(似顔絵や肩書だけの場合もある。)が表示されていることから、被告は、これらの記事は各原告の名義の下に公表されたものではなく各執筆者が著作者であると主張する。しかしながら、本件記事は、当該雑誌の休刊又は廃刊にあたっての挨拶文であり、会社の機関ないし一部門として当該雑誌の編集作業に携わった者が会社を代弁して挨拶するために、これらの者が法人内部の職務分担として執筆したものと認めるのが相当であり、このことは、44の記事を除き、「編集長」という肩書や「編集部」、「スタッフ」等の表示が付されていることからも明らかである。したがって、右各記事の著作者が各執筆者であるとする被告の主張は理由がない。 3 よって、本件記事の著作者は、別表の「出版元等」欄に記載された各原告であると認められる。 四 被告の侵害行為について 請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。 五 公正使用(フェア・ユース)の抗弁について 被告は、「フェア・ユース」に関する一般的条項を持たない我が国においても、「フェア・ユース」の法理が適用されるべきである旨主張する。 しかしながら、我が国の著作権法は、1条において、「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産としての著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」と定めていることからも明らかなように、文化の発展という最終目的を達成するためには、著作者等の権利の保護を図るのみではなく、著作物の公正利用に留意する必要があるという当然の事理を認識した上で、著作者等の権利という私権と社会、他人による著作物の公正な利用という公益との調整のため、30条ないし49条に著作権が制限される場合やそのための要件を具体的かつ詳細に定め、それ以上に「フェア・ユース」の法理に相当する一般条項を定めなかったのであるから、著作物の公正な利用のために著作権が制限される場合を右各条所定の場合に限定するものであると認められる。そして、著作権法の成立後今日までの社会状況の変化を考慮しても、被告書籍における本件記事の利用について、実定法の根拠のないまま被告主張の「フェア・ユース」の法理を適用することこそが正当であるとするような事情は認められないから、本件において、著作権制限の一般法理としてその主張にかかる「フェア・ユース」を適用すべきであるとの被告の主張は採用できない。 六 引用による利用の抗弁について 1 著作権法32条1項所定の引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうものであり、また、引用に該当するためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められることを要するものと解される。 そして、編集物の素材として他人の著作物を採録する行為は、引用に該当する余地はないものと解するのが相当である。即ち、著作権法32条1項の第1文は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。」と定めているから、引用した側の著作物の複製等の利用の際に必然的に生ずる引用された著作物の利用に、その引用された著作物の著作権は及ばないことは明らかである。 これに対し、同法12条は、1項において、データベースに該当するものを除く編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する旨を定めた上、2項において、「前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。」と定めているから、1項の要件を充足し著作物として保護されるいわゆる編集著作物の複製等の利用の際に必然的に生ずる編集物の部分を構成している素材の利用に、その素材の著作物の著作権が及ぶことを意味することも明らかである。してみると、編集物の素材として他人の著作物を採録する行為を引用にあたるものとして、編集物の複製等の利用の際の素材の著作物の利用に、その著作権が及ばないものとする余地はないものというべきである。 2 被告書籍は、昭和61年から平成5年までの間に休刊又は廃刊となった各雑誌の最終号の表紙、休廃刊に際し出版元等の会社やその編集部、編集長等から読者宛に書かれた記事あるいはイラスト等を集めた書籍であって、被告は、右各雑誌の表紙、記事、イラスト等を電子複写機器により機械的に複製した上で休廃刊の年毎にまとめ、写真製版の方法により印刷したものであり、被告書籍は、冒頭の目次部分と末尾のあとがき部分の外は全て右複製により構成されていることは、前記のとおり争いがない。 また、成立に争いのない乙第12号証及び被告書籍であることについて当事者間に争いがない検乙第1号証によれば、被告書籍に収録された286誌の出版元等は200社にのぼること、被告は、被告書籍を出版するに際し、右200社に対し、記事等を被告書籍へ掲載することの許諾を求めたところ、許諾しないと回答したものが原告中の6社を含む20社、許諾するとの回答をしたものが50数社、その余の120社余りからは回答がなかったことが認められる。 3 右事実によれば、被告書籍は、休刊又は廃刊された雑誌の最終号の表紙、出版元等や編集長等から読者宛の記事、イラスト等の素材を編集した編集物であるところ、編集物の素材として他人の著作物を採録する行為は引用に該当する余地はないから、被告書籍中に本件記事を採録複製したことをもって引用であるとして、被告書籍の発行の際の本件記事の複製利用は原告らの著作権の侵害にあたらないとの被告の主張は採用できない。 被告は、被告書籍に掲載された記事等のうち、約180社(約240誌)が被告に対し明示又は黙示の許諾を与えたものであるから、許諾を得た雑誌の収録分によって構成される部分が「引用して利用する側の著作物」であり、その余の不許諾部分(本件記事)が「引用されて利用される側の著作物」であると主張する。しかし、被告の主張に従えば、編集著作物において、その素材としてある著作物を選択する場合、他の多数の素材となる著作物の著作権者の許諾があれば(許諾に対し対価が支払われる場合もある。)、許諾のあった素材群と許諾を得られない素材群との間に主従の関係が認められる限り、許諾を得られない著作物を無償で自由に利用することが可能となるが、許諾を得られた著作物は、許諾の範囲外の増刷、翻訳等の利用について著作権者の権利が及ぶことになり、このような結論は、同じ編集著作物の素材として採録された著作物の著作権者であるのに許諾のないまま利用される著作物の著作権者の権利を無視する不当な結果となる。 七 差止請求について 被告の抗弁はいずれも理由がなく、被告による被告書籍の発行は、本件記事について原告らがそれぞれ有する著作権(複製権)を侵害するものであると認められるから、原告らは被告に対し、著作権法112条1項に基づき、各原告が著作権を有する各本件記事部分を含み不可分の1冊の書籍である被告書籍の印刷、製本(著作権法3条所定の発行行為の中の複製に相当する部分)の差止めを求めることができる。 また、弁論の全趣旨によれば、原告らを債権者とし被告を債務者とする仮処分申立事件において、当裁判所は、平成6年4月6日、本件記事等の著作権の侵害を理由として、被告書籍の発行、販売、頒布の差止めを命ずる仮処分決定をし、右決定はその頃被告に送達されたことが認められ、被告は、被告書籍が原告らの著作権を侵害する行為によって作成されたものであるとの情を知っているものと認められるから、原告らは、被告に対し、著作権法113条1項2号、112条1項に基づき、被告書籍の販売等の頒布行為(発行行為の一部)の差止めを求めることができる。 八 損害賠償責任について 前記六2のとおり、被告は、被告書籍に掲載した記事について出版元200社に対し掲載の許諾を求めておきながら、原告らから本件記事の掲載を許諾するとの回答を得ないのみか、原告らの6社からは許諾しないとの回答を受けながら被告書籍の出版に踏み切った事実が認められるのであるから、被告は少なくとも過失により原告らの著作権を侵害したものと認められ、民法709条に基づき、被告は各原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。 九 原告らの損害について 1 著作権使用料相当額 (一)弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第136号証及び成立に争いのない甲第137号証によれば、本件記事を使用する際に通常支払われるべき使用料の額は、1点あたり5000円と認めるのが相当であり、各原告の侵害された記事の点数と損害額は、以下のとおりとなる。
2 原告らが、本件訴訟及びこれに先立つ仮処分の申立てを原告ら訴訟代理人に委任したことは当事者間に争いがなく、本件訴訟ないし仮処分申立ての内容、結果、本件紛争の性質、右認容額その他一切の事情を考慮すると、各原告の負担する弁護士費用の内、各原告につき、左の金額が被告の行為と相当因果関係にある損害であると認めるのが相当である。
よって、原告らの請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条本文、93条1項本文を、仮執行宣言につき同法196条を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官 池田信彦 |
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