判例全文 line
line
【事件名】事務処理プログラム事件
【年月日】平成7年3月10日
 名古屋地裁 昭和63年(ワ)第1224号 損害償請求事件

判決
原告 ファンシーツダ株式会社
右代表者代表取締役 X
右訴訟代理人弁護士 伊藤典男
右訴訟復代理人弁護士 伊藤倫文
被告 株式会社オムニツダ
右代表者代表取締役 Y1(ほか二名)
右三名訴訟代理人弁護士 高須宏夫
同 水野聡
同 奥村哲司
同 山本秀師
同 伊神喜弘


主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して金二二一二万五四〇〇円及びこれに対する昭和六三年四月二八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
 主文と同趣旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
(一)原告は、昭和二三年九月二九日に設立された会社であり、その目的は、@突板及び合板の製造及び販売、A特殊木材の加工及び販売、B一般木材の販売及び輸出入業務、C不動産の売買及び賃貸業、D山林の経営、E右@ないしDに付随する一切の業務である。
(二)被告Y1は、昭和六〇年七月八日任期満了により退任するまで原告の取締役をしていた者であるが、同年一〇月一六日、被告株式会社オムニツダ(以下「被告会社」という。)を設立して、その代表取締役となった。被告会社は、@原木及び木材の輸入販売業、A木材の加工及び木材資材の輸入販売業、B民芸品、家具類等の木製品の輸入販売業、C損害保険代理業及び自動車損害賠償保険法に基づく保険代理業、D右@ないしCに付帯する一切の事業等を目的としている。
(三)被告Y2は、昭和五一年四月に原告に入社し、昭和六一年に退社したころには、コンピューター・プログラムの作成及び管理並びにコンピューター内のハードディスク又はフロッピーディスクに記録されている顧客、仕入先、仕入原価、販売単価等の重要データの管理を一人で行っていた。
2 事務引継ぎの不履行
(一)被告Y2は、昭和六一年四月三日、原告に対して退職届を提出し、翌四日に有給休暇届を提出して同日から三〇日間有給休暇を取った上、同年五月三日に原告を退職したが、このような場合、原告のコンピューター部門を一人で管理していた被告Y2としては、その担当業務の引継ぎを後任者に対して適切に行い、原告の業務に支障が生じないようにすべき義務があるにもかかわらず、被告Y2は、右義務を怠り、かえって、原告のコンピューター業務に支障を生じさせることを目的として、あえて引継ぎを一切行わなかった(被告Y2の右不作為を、以下「本件不作為」という。)。
(二)被告Y1は、被告会社の代表取締役として、同社と競業関係にある原告の業務を混乱させ、その間に被告会社の経営を軌道に乗せようと企て、被告Y2に対し、原告を退社して被告会社に入社するよう勧誘し、かつ、本件不作為を教唆した。
(三)したがって、被告Y2及び被告Y1は、共同不法行為者として、また、被告会社は、民法四四条一項により、本件不作為により原告が被った損害を連帯して賠償する責任がある。
(四)損害
 本件不作為により原告のコンピューターは停止の状態となり、事務が停滞した。そのため、原告は、右業務管理上の支障に対処するため、昭和六一年四月から昭和六二年四月までの間、株式会社東海電子計算機センター(以下「東海電子計算機センター」という。)に対して、コンピューター技術者の派遣を要請することを余儀なくされ、その対価として、同社に対し、別表2(支払明細書)記載のとおり合計一〇八万九〇〇〇円を支払い、同額の損害を被った。
3 著作権侵害
(一)著作物
@ 別紙物件目録記載のコンピューター・プログラム(以下「本件プログラム」という。)は、売掛金、買掛金及び在庫の管理等を行うためのコンピューター・プログラム合計一三九個であり、互いに連動して事務処理を行今ものである。したがって、本件プログラムは、一三九個の個々のプログラムとしても、また、全体を一個のプログラムとしても、著作権法(以下「法」という。)二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たる。
A 法二条一項一号にいう「創作性」の要件は、作者自身の思想(感情)が表現されていること、つまり、他人の模倣をしていないという程度の意味にすぎず、他に例を見ないような独創的なものである必要はない。
 本件プログラムは、木材の輸入、販売等の業務を行い、海外との取引が多いなどの原告の業務の特殊性を考慮し、当該業務の事務処理をいかに合理的に処理するかという観点から工夫がされており、個々のプログラムは、いずれも数十ないし数百という多数の指令の組合せによって構成されている。したがって、本件プログラムは、原告にとって必要な独自の思想を表現するものとして、「創作性」が認められる。
B よって、本件プログラムは、一三九個の個々のプログラムとしても、また、全体を一個のプログラムとしても、著作物と認められる。
(二)著作権者
@ 原告は、原告の経理事務をコンピューターにより行うために被告Y2を雇用し、被告Y2に命じて本件プログラムを作成させた。
A 昭和六〇年法律第六二号による改正前の著作権法(以下「旧法」という。)一五条の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」という要件は、実際に法人等の著作名義で公表されたり、そのような公表が予定されているものだけではなく、公表が予定されていないものであっても、仮に公表するとすれば法人等の著作名義の下に公表することになると考えられるものまで含むと解すべきである。
 本件プログラムは、原告の事務処理を合理化するために原告代表者の最終的判断の下に作成されたものであるから、仮にこれを公表するとすれば、原告の著作の名義の下に公表することとなるべきものである。
B 一三九個の本件プログラムのうち、FTJ012及びFTJ013の二個のコンピューター・プログラムは、昭和六一年一月一日以降に作成された。右の二個のコンピューター・プログラム以外の一四三個のコンピューター・プログラムは、昭和六一年一月一日より前に作成された。また、本件プログラム全体は、昭和六一年一月一日より前に作成されたということができる。
C したがって、本件プログラムのうち、FTJ012及びFTJ013の二個のコンピューター・プログラムは、現行の法一五条により、それ以外の一四三個のプログラム及び本件プログラム全体は、旧法一五条により、原告が著作権者である。
(三)被告らの著作権侵害行為
@ 被告Y2は、原告に無断で、以下のとおり本件プログラムを複製した(以下「本件複製行為」という。)。
イ 被告Y2は、昭和六一年一月一〇日ころから同年三月三一日ころまでの間、名古屋市中区所在の原告事務所内において、同所に設置されていたコンピューター(NEC一〇〇/八五)を利用して、ハードディスクに電磁的に記録されていた本件プログラムを予め用意していたフロッピーディスク数枚に複写した(以下、この行為を、「本件複製行為イ」という。)。
ロ 仮に、本件複製行為イが認められないとしても、被告Y2は、昭和六一年四月二二日ころ以降、コーディングシートに記載された本件プログラムに基づいて、これと同一内容のコンピューター・プログラムを作成した(以下、この行為を、「本件複製行為ロ」という。)。
ハ 仮に、本件複製行為イ及びロが認められないとしても、被告Y2は、昭和六一年四月二二日ころ以降、コーディングシート上に記載されたプログラムに基づいて、それに若干の改変(以下「本件改変」という。)を加えて、被告会社が使用するコンピューター・プログラム(以下「被告プログラム」という。)を作成した(以下、この行為を、「本件複製行為ハ」という。)。本件改変は、本件プログラムの著作物としての同一性を損わない程度の些細なものにすぎない。
A 被告Y1は、被告会社の代表取締役として、本件プログラムを盗用すべく、被告Y2と共謀の上、被告Y2をして本件複製行為をさせた。
B 被告会社は、本件複製行為がされたころ以降、本件複製行為により作成されたコンピューター・プログラムであることを知りながら、これを使用している。
C したがって、被告Y2及び被告Y1は本件複製行為の共同不法行為者として、また、被告会社は、民法四四条一項又は法一一三条二項により、原告が本件複製行為によって被った損害を連帯して賠償する義務がある。
(四)損害
 原告は、法一一四条二項により、被告らに対し、本件プログラムの著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができるが、その額は、次のとおり、三一四九万円を最高額とし、二〇七〇万三三六〇円を最低額とするものである。
@ 本件プログラムを新たに作成する場合の開発費用は、三一四九万円である。
A 本件プログラムの使用を許諾された者は、すぐに本件プログラムを使用することができるが、新たに本件プログラムと同様のプログラムを作成するとなると、その開発に時間を要するから、右@の本件プログラムの開発費用の額を支払ってもその使用許諾を得ることを希望することが考えられ、その場合には、右@の本件プログラムの開発費用の額が本件プログラムの使用許諾料の額となる。
B もっとも、原告は、他の者に本件プログラムの使用を許諾したからといって、著作権を失うわけではないから、右@の本件プログラムの開発費用の額よりも低い額で本件プログラムの使用を許諾することも考えられる。その場合であっても、本件の被告会社のような使用形態を前提とする限り、使用を許諾された者は、プログラムの内容を変更する権利まで持つことが必要であるから、原告と同様の権利を持つことになり、そのことやすぐにプログラムを使用することができる利益を考慮すると、使用許諾料の額は、右@の本件プログラムの開発費用の額の半額に、すぐにプログラムを使用することができる。利益に相当する額を加えた額を下回ることはない。
 ところで、本件プログラムを開発するには約七・六四箇月を要するから、他の同規模のプログラムを借り受ける場合の一箇月のリース料の額六四万九〇〇〇円に七・六四を掛けた四九五万八三六〇円が、すぐにプログラムを使用することができる利益に相当する額であるということができ、これに、右@の本件プログラムの開発費用の額の半額を加えた二〇七〇万三三六〇円が本件プログラムの使用許諾料の最低額ということになる。
4 弁護士費用
 原告は、被告らの右2、3の各不法行為により被った損害の賠償を請求するために、原告訴訟代理人両名に本件訴訟の提起及び遂行を依頼し、同人らに対し、弁護士費用として一五〇万円を支払い、同額の損害を被った。
5 よって、原告は、被告らに対し、不法行為による損害賠償として、右2の損害一〇八万九〇〇〇円、右3の損害のうち一九五三万六四〇〇円及び右4の損害一五〇万円の合計二二一二万五四〇〇円及びこれに対する不法行為による結果発生後である昭和六三年四月二八日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 第1項(当事者)について
(一)(一)及び(二)の事実は認める。
(二)(三)の事実のうち、被告Y2が昭和六一年ころ原告の重要データの管理を一人で行っていたことは否認し、その余は認める。
2 第2項(事務引継ぎの不履行)について
(一)(一)の事実のうち、被告Y2が昭和六一年四月三日原告に対して退職届を提出したこと、翌四日に有給休暇届を提出したことは認め、その余は否認する。
(二)(二)の事実は否認する。
(三)(三)は争う。
(四)(四)(損害)の事実のうち、被告が東海電子計算機センターに金員を支払ったことは知らず、その余は否認する。
3 第3項(著作権侵害)について
(一)(一)(著作物)について
@ @の事実のうち、本件プログラムが売掛金、買掛金及び在庫の管理等を行うためのコンピューター・プログラム合計一三九個であることは認め、これらが互いに連動して事務処理を行うものであることは否認し、@の主張のうち、本件プログラムが全体として法二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たること及び本件プログラムのうちDDTEGA、PPTEGA、SCR001ないし015の合計一七個のプログラムが法二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たることは争い、その余の個々のプログラムが法二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たることは認める。
 本件プログラムのうち、扱う業務が異なるプログラムは、何ら連動していないし、同一の業務を扱うプログラムでも、必ずしも連動していない。
 DDTEGA及びPPTEGAは、手形のサイト計算のためのものであって、プログラムの一部にすぎず、また、SCR001ないし015は、画面制御ユーティリティ・プログラムに入れるパラメーター(変数)が表示されているにすぎず、いずれもコンピューターを機能させて一の結果を得ることができない。
A Aの事実は否認し、主張は争う。
B Bの主張は争う。
(二)(二)(著作権者)について
@ @の事実のうち、被告Y2がFTJR03及びFTJ777以外のプログラムを作成したことは認め、その余は否認する。FTJR03及びFTJ777の二個のプログラムは、被告が原告を退社した後に、原告がFTJ003及びFTJ007を改変して作成したものである。
A Aの事実は否認し、主張は争う。
B Bの事実のうち、FTJO12及びFTJO13の二個のコンピューター・プログラムが昭和六一年一月一日以降に作成されたこと、FTJR03及びFTJ777の二個のプログラムが昭和六一年一月一日より前に作成されたこと並びに本件プログラム全体が昭和六一年一月一日より前に作成されたことは否認し、その余は認める。FTJ012及びFTJ013の二個のコンピューター・プログラムは、昭和五九年に作成された。
C Cの主張は争う。
(三)(三)(著作権侵害行為)について
@ @ないしBの事実は否認する。
A Cの主張は争う。
(四)(四)(損害)の事実は否認し、主張は争う。
4 第4項(弁護士費用)の事実は否認する。
5 第5項の主張は争う。
三 被告らの主張
1 退社及び事務引継ぎについて
(一)被告Y2は、原告に対し、昭和六一年四月三日に退職届を提出したところ、原告は、同月七日に、被告Y2に対し、引継ぎをしなくてもよい、私物を持って帰れと言ったのであるから、被告Y2は、同月七日をもって原告を退社したというべきである。
(二)被告Y2は、右退職届を原告に提出したころ、原告に対し、自己の事務の引継ぎを行う旨の申し出をしたが、原告は、これを拒絶した。それにもかかわらず、被告Y2は、原告の女性事務員からの電話での照会に応じたり、東海電子計算機センター取締役Aと連絡を取り合うなどした上、昭和六一年四月一〇日、同人とともに原告事務所に赴いた際、原告従業員に対し、経理事務及びコンピューター関連事務につき引継ぎを行った。なお、当時本件プログラムは有効に機能していて、そのメインテナンスや分析の必要はなかった上、年末調整の処理、決算処理、決算後の新年度への繰越処理等はメニュー画面に登録されていたのであるから、これを使用してこのような事務処理をすることは単なるオペレーションであり、コンピューターに関する専門的知識のない者であっても可能であった。
2 著作物性の不存在
(一)次のようなコンピューター・プログラムの特殊性を考慮すると、法によるコンピューター・プログラムの保護範囲を考えるに当たり、創作性の程度を問題とすべきであり、平均的プログラマーであれば容易に作成することができるような創作性のレベルの低いプログラムは、「創作性」の要件を欠き、著作物性が認められないと解すべきである。
@ コンピューター・プログラムは、コンピューターに対する指令であり、それによってコンピューターを動かすものであるから、小説、絵画、楽曲等のようにその表現自体に意味があるのではなく、それによってコンピューターをどのように動かせるかという機能面が圧倒的な重要性を有する。
A コンピューター・プログラムは、他の著作物と異なり、ハードウェアによって規制されているプログラム言語の制約を強く受ける上、専ら効率の向上という機能面を目標に作成されるものであるから、機能させるべきハードウェア及びアルゴリズム(解法又は問題処理の論理手順)が同一であるならば、誰が作成しても表現(指令の組み合わせ方)が類似のものにならざるを得ない。
B コンピューター・プログラムについては、一九七〇年代以前の著作権の保護を受けるかどうか分らなかった時代に膨大なコンピューター・プログラム群が作成され、エンジニアらは、これらのコンピューター・プログラム又はモジュール(コンピューター・プログラムを一つの意味を待った最小の単位又は部分に分けて考えた場合のその単位又は部分)に依拠してコンピューター・プログラムを作成しているのであるから、そのようなコンピューター・プログラム群は、平均的プログラマーであれば容易に作成することができる一種の文化遺産であり、法の保護の外にある公共財として扱うべきものである。
(二)本件プログラムは、いずれも企業会計原則に基づく会計処理をコンピューターに処理させるためのものであり、従来経理担当者が自ら行っていた作業をコンピューターに行わせようとするものにすぎず、そのアルゴリズムは、誰でも考えることができるものである。そして、そのアルゴリズムに従って行うプログラミングも、本件プログラムの内容が単純な計数処理に関するものであることからすると、平均的プログラマーが容易に行えるものである。したがって、本件プログラムは、平均的プログラマーが容易に作成することができるものであるから、法による保護に値する創作性を欠くものである。
3 著作権者
(一) 一五条にいう「法人等の発意」とは、一般に法人等が一定の意図の下に著作物の作成を構想し、その具体的な製作を法人等の業務従事者に命ずることをいうが、本件プログラムに関しては、コンピューターの原告への導入、機種選定から本件プログラムの作成に至るまで、すべて被告Y2自身の判断において行ったものであり、原告が本件プログラムの作成を被告Y2に期待したり、命じたりしたものではない。すなわち、被告Y2は、原告の従業員としてその会計処理の業務を行うに当たり、アプリケーション・プログラム(特定の用途に適するよう作成されたコンピューター・プログラム)の作成を外注することもできたが、被告Y2自身の判断により、好意的に原告の経費節減を考えて、自ら本件プログラムを作成したものであり、原告の業務命令により作成したものではない。
(二)本件プログラムは、以下に述べるとおり、原告の業務に従事する者が職務上作成したものではない。
@ 被告Y2は、原告に勤務する以前に株式会社三進製作所(以下「三進製作所」という。)に勤務していた時期に、本件プログラムの基礎となるコンピューター・プログラム(以下「三進プログラム」という。)を作成していたところ、これに若干の改変を加えて本件プログラムを作成し、更にそれに同程度の本件改変を加えて被告プログラムを作成したのであるから、仮に、被告プログラムと本件プログラムの間に同一性が認められるのであれば、本件プログラムと三進プログラムの間にも同一性が認められることになり、本件プログラムは、原告入社前に原告とは無関係に作成したものということになる。
A 被告Y2の職務は経理事務であり、本件プログラムの開発作成は、被告Y2が職務を離れて好意的に行ったものである。実際の作成も、勤務時間外に行うことが多かったし、その作成につき、原告は、開発研究費等の負担も、被告Y2に対する手当等の支給も行っていない。
(三)本件プログラムは、原告が自己の著作の名義の下に公表したものではなく、また、そのような公表の予定もないのであるから、旧法一五条により原告が著作権者となる余地はない。
 仮に、旧法一五条に関し、原告主張(右一3(二)A)のように解されるとしても、本件プログラムは、右(二)の作成経緯、各プログラムのステップ0003に、被告Y2が著作者である旨の記載があること、本件プログラムには企業秘密に属するものはないこと等に照らすと、公表されるとすれば、被告Y2の著作の名義の下に公表されるべきものである。したがって、原告は、著作権者ではない。
(四)被告Y2と原告は、被告Y2が本件プログラムを作成した際、その著作権者を被告Y2とする旨黙示的に合意した。このことは、右(二)の作成経緯及び次の各事実から明らかである。@ 仮に、原告の発意が肯定されるとしても、それは、事務処理をコンピューター化せよという、きわめて一般的かつ包括的なものにすぎず、作成すべきプログラムの範囲及び細目は、専ら被告Y2一人の裁量で決定された。
A 本件プログラムの作成に当たったのは被告Y2一人だけで、他の者の協力を得たことはない。
B 本件プログラム作成の目的は、専ら原告の事務処理の便宜のためであって、他に売却するなどの営利的な目的は一切なかった。
C 本件プログラムには企業秘密に属するものはない。
D 被告Y2は、原告にプログラマーとして入社したのではない。
E 被告Y2が本件プログラムを作成したころは、プログラムといったソフトウェアの価値はきわめて低く、重要視されていなかった。
F 被告Y2は、原告に勤務していた間、本件プログラムを自由に複製改変していた。
4 黙示の承諾
 原告は、被告Y2が原告に在職していたころ、被告Y2に対し、本件プログラムの複製を行うことにつき黙示の承諾を与えていた。このことは、右3(二)の作成経緯及び右3(四)の各事実から明らかである。
5 私的使用のための複製
 被告Y2が本件プログラムを複製することは、商業的目的を有さず、プログラマーの技術の修得と従前の自己の技術保持の必要性に基づくものであり、右3(四)の各事実を考慮すると、法三〇条にいう私的使用のための複製として許されるべきものである。
6 公正な使用
 プログラマーが他人の作成したプログラムを複製するなどして解析し、そこから技術内容を探り出すこと(いわゆるリバース・エンジニアリング)は、プログラムの公正な使用として、当該プログラムの著作権侵害にならないというべきであるところ、プログラマーが、自ら作成したプログラムを複製するなどして検討することも、技術の修得と従前の自己の技術保持のため必要不可欠であるから、たとえ当該プログラムの著作権が使用者等の第三者に帰属するものであるとしても、やはり公正な使用として違法性を欠くものと解すべきである。したがって、仮に、本件プログラムが原告が著作権を有する著作物であるとしても、これを作成したプログラマーである被告Y2が本件プログラムを複製するなどして検討し、従前の自己の技術的成果として、利用できるものを利用することも、公正な使用として許されるものというべきである。
7 本件プログラムと被告プログラムの非類似等
(一)本件プログラムのような平均的なプログラマーであれば誰でも作成できるような基本的なコンピューター・プログラムには、独自性や個性的な表現が乏しいので、これに対する著作権による保護は厳格に限定されなければならないところ、本件プログラムと被告プログラムとは、そのセンテンス及び機能において顕著な相違が存するのであるから、到底同一の著作物であるということはできない。
(二)本件プログラムと被告プログラムの内容に同一又は類似と見える部分があったとしても、それは、各プログラムのユーザーである原告と被告会社の業務内容がほとんど同一であること、企業の会計事務の普遍性、並びに本件プログラムの特徴的表現と思われるものが、いずれもプログラマーである被告Y2において従前から技術者として習慣的に採用してきた表現にほかならないことによるものであり、著作権侵害というべきではない。
(三)被告プログラムが本件プログラムを基本として作成されたものであるとしても、被告プログラムの作成過程で独自の創作性が加えられた結果、通常人の観察するところにおいて、本件プログラムの特徴が被告プログラムの創作性の陰に隠れて認識されない状態になっているというべきであるから、被告プログラムは、本件プログラムの複製でも二次的著作物でもなく、本件プログラムの自由な利用により創作された独自の著作物である。
四 被告らの主張に対する認否及び反論
1 第1項(退社及び事務引継ぎ)について
(一)(一)の主張は争い、(二)の事実は否認する。
(二)被告らの退社の経緯は次のとおりであった。
 被告Y2は、他の一一名とともに、原告に対し、いっせいに退社届を提出し、いわゆるのれん分け及び円満退社の要求を受け入れなければ、翌日から全員がいっせいに有給休暇を取って出社せず、事務引継ぎもしない旨述べ、原告が右要求を拒絶したところ、事務の引継ぎを拒絶して退社したものである。
 原告においては、被告Y2らがいっせいに退社するころまで、データ入力等の日常的事務処理を女性事務員が行うことはあったが、年末調整、決算等については、すべて被告Y2が処理しており、他の者には、その事務処理はできない状況にあった。また、コンピューター・プログラムについては、その処理を誤った場合等には常にメインテナンスが必要になるし、本件プログラムには、各項目にかなによる表示がなく、ほとんどすべてが符号での表示になっており、かつ、それについて説明した付随資料等もなかったため、そのメインテナンスや修正を行うための分析も容易ではなかった。
2 第2項(著作物性)について
(一)(一)の主張は争う。
(二)(二)の事実は否認し、主張は争う。
3 第3項(著作権者)について
(一)(一)ないし(三)の事実は否認し、主張は争う。
(二)(四)の事実は否認する。
4 第4項(黙示の承諾)について
(一)同項の事実は否認する。
(二)原告は、被告Y2に対し、本件プログラム作成の過程でその複製を黙示的に承諾していたとしても、それは、本件プログラム作成のために認めていただけのことであり、右目的以外の目的で複製することは認めておらず、まして原告と競争関係にある被告会社で使用するために盗用する際の複写行為を認めることはあり得ない。
5 第5項(私的使用のための複製)について
(一)同項の事実は否認し、主張は争う。
(二)本件プログラムは、会社の事務処理のために作成されたものであるから、被告らによる私的な使用は認められない性質のものである。また、営利目的の会社である被告会社のために使用するという目的は商業的目的であることが明らかである。
 そもそも私的使用は、当該著作物を利用する権原を有する者の使用について問題となるのであって、本件プログラムを利用する権原を有しない被告らの本件プログラム複製行為が私的使用のための複製と認められる余地はない。
6 第6項(公正な使用)について
(一)同項の事実は否認し、主張は争う。
(二)プログラム著作物については、他の著作物と同様に一定の場合には複製が認められる(法三〇条ないし三六条、四二条参照)ほか、プログラムの著作物の複製物の所有者がプログラムを電子計算機において使用するために必要な限度で複製、翻案ができる旨規定されている(法四七条の二)が、被告らの主張するようなリバース・エンジニアリングに伴う複製を認める規定はなく、そのような複製は現行法上認められていない。
 また、仮に、リバース・エンジニアリングに伴う複製を認める余地があるとしても、その対象となるのは、公表されている他人の著作物や市販の製品と解すべきであるから、被告Y2が、原告に著作権を帰属し、かつ、原告が管理している本件プログラムを、被告会社で利用するために原告に無断で入手して複製することまで許されるいわれはない。
7 第7項(本件プログラムと被告プログラムの非類似等)について
(一)(一)ないし(三)の事実は否認し、主張は争う。
(二)本件改変の内容は、プログラム名の変更、作成年月日の変更、代金振込先の銀行名及び口座番号が売上伝票に表示されるようにしたこと、漢字印刷の選択ができるようにしたこと、系列会社の有無、会社の部門構成等の原告と被告会社との組織、営業等の相違による若干の手直し等であり、各プログラムに加えた修正箇所は、各プログラムの命令数からすれば、ごく一部にとどまるものであるから、本件改変により本件プログラムは別の著作物になったものではなく、本件プログラムと被告プログラムは同一の著作物というべきものである。
第三 証拠<略>

理由
一 当事者
 請求原因第1項(当事者)のうち、(一)及び(二)の事実は、当事者間に争いはない。また、同項(三)の事実のうち、被告Y2が昭和六一年ころ原告の重要データの管理を一人で行っていたこと以外の事実も当事者間に争いがない。
二 事務引継ぎの不履行について
1 請求原因第2項(事務引継ぎの不履行)の(一)の事実のうち、被告Y2が昭和六一年四月三日原告に対して退職届を提出したこと、翌四日に有給休暇届を提出したことは当事者間に争いがない。この争いがない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。
(一)原告の経理業務は、後記三1認定のとおり被告Y2が作成したプログラムによって、コンピューターで処理されていた。日常の業務は、被告Y2の部下である他の従業員が行い、被告Y2は、トラブルが生じたときに対応したり、プログラムを変更する必要があるときにプログラムを変更したりしていた。そのような場合に対応することができる原告の従業員は、被告Y2のみであった。
(二)被告Y2は、昭和六一年四月三日に、他の一一名の従業員とともに、原告に退職届を提出した。それに対し、原告代表者は、会社に止まるよう求めたが、被告Y2ら一二名は、退職の意思を変えなかった。被告Y2は、その翌日(四日)、コンピューターの操作を担当していた部下の従業員に対し、分からないことはないかと尋ね、質問された事項についてはその従業員に教えた。そして、被告Y2ら一二名は、同日、原告に有給休暇届を提出した。
(三)同年四月一〇日、被告Y2は、原告に出向き、二時間ほど滞在した後、私物を持ち帰った。その際、被告Y2は、コンピューターの操作を担当していた部下の従業員に対し、分からないことはないか尋ねた。被告Y2は、同月五日以降は、右の同月一〇日を除いては、原告に出勤していない。
2 右1認定の事実からすると、被告Y2は、原告を退職するに当たり、コンピューターの操作を担当していた部下の従業員に対し、分からないことはないかと尋ね、質問された事項について教えたほかは、コンピューターに関して特段の引継ぎを行わなかったことが認められる。
 しかしながら、原告においては、コンピューターに関する日常の業務は、被告Y2の部下の従業員が行っていたのであるから、被告Y2の退職により、直ちにコンピューターが使用不能になったものと認めることはできない。
 もっとも、コンピューターに重大なトラブルが生じた場合や、プログラムを変更する必要が生じた場合には、被告Y2の部下の従業員では専門的知識がないため対応できない状態であったものと認められるが、それは、原告が、そのような場合に対応できる従業員を被告Y2以外に配置しておかなかったことによるものであって、そのような状況下においては、原告において後任として専門的知識を有する者を配置し、その者への引継ぎを求めたにもかかわらず、それを拒否したといった特段の事情のない限り、専門的知識に基づいた処理に関する引継ぎを行わなかったとしても事務引継ぎを怠ったとすることはできない。
3 <証拠略>によると、原告は、東海電子計算機センターに対し、別表2(支払明細書)記載の金員を支払ったこと、このうち、別表2(支払明細書)記載の1、2、3のうち五万六〇〇〇円、4のうち五万六〇〇〇円、5ないし8、9のうち一四万円、10のうち六万円の各支払は、東海電子計算機センターにおいて、原告のコンピューター・プログラムを解析して、トラブルに対処するなどした際の費用であることが認められるが、それは、右2で述べたとおり、被告Y2が退職したにもかかわらず、原告が適切な後任者を配置しなかったことによるものであって、被告Y2が事務引継ぎを怠ったことによるものとはいえない。
 もっとも、<証拠略>によると、東海電子計算機センターにおいて、原告のコンピューター・プログラムを解析した際、プログラム仕様書が存在しなかったため、これがある場合に比べてプログラムの解析に時間を要したことが認められるが、<証拠略>によると、プログラム仕様書がないとプログラムの解析が不可能になるというわけではないこと、不明な点があれば、被告Y2に問い合せることもできたこと(現に東海電子計算機センターの担当者であったBは被告Y2に尋ね、回答を得ている。)が認められるから、退職に際し、新たに仕様書を作成してそれを残さなかったことをもって、被告Y2において事務引継ぎを怠ったとすることはできない。
 なお、別表2(支払明細書)記載のその余の支払、すなわち、3のうち二〇万円、4のうち六万円、9のうち四万八〇〇〇円、10のうち一一万一〇〇〇円の各支払については、被告Y2が事務引継ぎを行わなかったために原告が右費用の支出を余儀なくされたと認めるに足りる証拠はない。
4 したがって、事務引継ぎに関し被告Y2が不法行為を行ったとすることはできない。また、被告Y1において被告Y2に不法行為を教唆したとすることもできない。
三 著作権侵害について
1 事実関係等
(一)<証拠略>によると、次の事実が認められる。
@ 被告Y2は、昭和四五年九月ころ、三進製作所に入社し、昭和四六年初めころから、コンピューター関係の業務に従事した。当初は、売上げ等のデータを東海電子計算機センターヘ持って行き、同社のコンピューターにより処理させていたが被告Y2は、本を読んだり、東海電子計算機センターの従業員から教えを受けるなどして、コンピューター・プログラミングの知識を修得し、COBOL言語によってコンピューター・プログラムを作成することができるようになった。その後、被告Y2は、三進製作所のために、売上げ及び仕入れの管理、在庫管理、手形の管理、給与計算、減価償却の計算等の事務を処理するためのプログラムを作成し、東海電子計算機センターのコンピューターを利用して、経理事務を行っていた。なお、被告Y2は、三進製作所在職中の昭和四八年に第二種情報処理技術者試験に合格した。
A 被告Y2は、昭和五一年四月に、コンピューターと経理事務を担当するということで、原告に入社したが、当時、原告にはコンピューターがなかった。そこで、被告Y2は、原告代表者に対し、外部のコンピューターを借りて使うよりも、コンピューターを購入して、それを利用することを勧め、ソフトウェアは、三進製作所在職中に作ったプログラムをもとに自分が作る旨述べたところ、原告代表者は、それを了承し、被告Y2に、プログラムの作成を命じた。そして、同年八月に、原告は、コンピューター(NEACシステムー〇〇F)を、日本事務器株式会社から購入した。被告Y2は、三進製作所在職中に作ったプログラムをもとに原告において事務処理に使用するプログラムを作成し、右コンピューターを利用して、経理事務を処理するようになった。
B 被告Y2は、右事務処理に当たり、手形の管理、給与計算等のどの会社でも共通するものについては、三進製作所在職中に作ったプログラムをそれほど手直しすることなく利用することができた。しかし、売上げ、仕入れ、在庫等の業務については、原告が木材を扱っていることや輸入業務を行っていること等に伴い、三進製作所在職中に作ったプログラムを手直しして利用したものもあった。被告Y2は、他の従業員から原告の業務について説明を受け、それをもとに、プログラムを手直しした。
C 原告では、その後、二度、コンピューターの機種を変更した。コンピューターの機種を変更した場合などには、被告Y2は、必要に応じてコンピューター・プログラムに修正を加えた。そして、被告Y2は、原告を退社したときまでに、本件プログラム(FTJR03及びFTJ777を除く。)を完成しており、これらは、原告のコンピューター(NEC一〇〇/八五)のハードディスク内に保存されていた。
(二)なお、被告Y2が、原告に勤務していた間に、本件プログラムのうちFTJR03及びFTJ777の二個のプログラムを作成したと認めるに足りる証拠はない。したがって、被告Y2がこれらのプログラムを原告の職務上作成することはあり得ず、また、被告Y2において、これらのプログラムを複製したと認めることはできない。
2 右1において判示したところに基づき、本件プログラム(FTJR03及びFTJ777を除く。以下、同じ。)の著作権侵害に関する被告らの責任について判断する。
(一)著作物性について
@ 請求原因第3項(一)の@の事実のうち、本件プログラムが売掛金、買掛金及び在庫の管理等を行うためのコンピューター・プログラム合計一三七個であることは、当事者間に争いがない。
A 本件プログラムのうちDDTEGA、PPTEGA、SCR001ないし015の合計一七個のプログラム以外の個々のプログラムが法二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たることも、当事者間に争いがない。
 <証拠略>によると、本件プログラムのうちDDTEGA、PPTEGAの各プログラムは、手形のサイト計算のためのプログラムであって、手形の振出日と支払日の間の日数を計算し、その結果を得ることができるものと認められるから、法二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たる。
 また、<証拠略>によると、本件プログラムのうち、SCR001ないし015の合計一五個のプログラムは、別表3の下段記載の各プログラムによって業務を処理する際に画面に表示する内容を指示するためのプログラムであることが認められ、少なくとも、別表3の下段記載の各プログラムと一体となって一の結果を得ることができるから、別表3の下段記載の各プログラムと一体となって法二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たるものということができる。
 弁論の全趣旨によると、本件プログラムの個々のプログラムは、同じデータを用いるなどしているものがあることが認められるが、別表1記載のとおり、異なる業務を処理するためのプログラムであり、本件プログラム全体が、一体として法二条一項一〇号の二の「プログラム」に当たるとすることはできない。
B 右1で認定したとおり、本件プログラムは、被告Y2が、原告に勤務していた間に、三進製作所に勤務していたときに作成したプログラム(三進プログラム)をもとに作成したもので、被告Y2が原告に勤務していた間に付け加えた部分に創作性があれば、被告Y2は、原告に勤務していた間に、二次的著作物として本件プログラムを作成したということができる。
 そこで、被告Y2が原告に勤務していた間に付け加えた部分が問題となるが、これについては、右1認定のとおり、売上げ、仕入れ、在庫等の業務を扱うプログラムについては、原告が木材を扱っていることや輸入業務を行っていること等に伴う変更を加えたことが認められる。<証拠略>によると、これは、具体的には、例えば、材積や船名といった項目を設け、それを表示することができるようにしたことや金額、品名等を表示する際の桁数を変更するなどしたことであると認められる。そして、これらの変更によって、プログラムは、原告の業務に適合し、それを合理的に処理することができるものとなり、原告は、その業務処理のために長年にわたってこれを使用してきたのであるから、変更した点に創作性を認めることができ、本件プログラムのうち、少なくとも一部のプログラムについては、被告Y2が原告に勤務していた間に作成した二次的著作物であるということができる。
 しかしながら、本件においては、本件プログラム中、被告Y2が原告に勤務していた間に行った改変により二次的著作物になったと認められるプログラムがどれか、また、そのうち、どの部分が修正付加された部分であるか、さらに、被告Y2が新たに作成したプログラムがあるか、あるとすればどれかを明らかにする証拠はない。
 なお、被告は、コンピューター・プログラムの著作物としての特殊性から、平均的プログラマーが容易に作成することができるものは創作性を欠くと主張する(被告らの主張2)が、コンピューター・プログラムについての創作性を、このように限定的に解すべき合理的根拠はなく、本件プログラムが平均的プログラマーであれば容易に作成することができるとしても、創作性を欠くとすることはできない。
 そこで、以下、本件プログラムのうち被告Y2が原告に勤務していた間に作成した二次的著作物と認められるものについて、著作権者、侵害行為等につき判断する(以下、この二次的著作物(新たに作成されたものがある場合にはそれを含む。)を「本件二次プログラム」という。)。
(二)著作権者について
@ 右1認定の事実からすると、本件二次プログラムは、被告Y2の提案を原告代表者が受け入れて、原告の業務に使用するために作成を命じ、被告Y2がそれを受けて作成したものと認められ、使用者である原告の発意に基づき、原告の業務に従事する者が職務上作成したものと認められる。なお、証拠(被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によると、被告Y2は勤務時間外にも本件二次プログラムの作成作業を行ったこと及び原告は被告Y2に対してプログラムの開発研究費やプログラム開発に関する特段の手当の支給をしていないことが認められるが、そのことは、右認定を左右するものではない。
A 本件二次プログラムは、右1認定のとおりもっぱら原告の経理事務のために作成されたもので、公表を予定したものではない。
 しかし、本件二次プログラムのうち昭和六一年一月一日より前に作成されたものについては、旧法一五条が適用されるが、旧法一五条は、公表を予定しない著作物であっても、仮に公表するとすれば法人の名義で公表されるべきものについては、同条が適用されるものと解することができる。
 しかるところ、右@のような本件二次プログラム作成の経緯からすると、本件二次プログラムは、仮に公表するとすれば、原告の名義で公表されるべき性質のものということができる。なお、<証拠略>によると、本件二次プログラムには、「AUTHOR.Y2.」という記載があることが認められるが、前示のような作成経過からすると、そのような表記があることをもって、本件二次プログラムが被告Y2の名義で公表されるべきものであるとすることはできない。
 本件二次プログラムのうち、昭和六一年一月一日以降に作成されたものがあれば、現行の法一五条が適用され、誰の名義で公表するかは問題とならない。
B 被告らは、被告Y2と原告は、被告Y2が本件二次プログラムを作成した際、その著作権者を被告Y2とする旨黙示的に合意したとの主張をする(被告らの主張3(四))が、そのような黙示的な合意が成立したとすべき事情は、本件全証拠によるも認められない。被告らは、被告らの主張3(四)@ないしFの事情があると主張するが、それらの事情が認められるとしても、それによって黙示的な合意があったものと認めることはできない。
C よって、本件二次プログラムの著作権者は、原告と認められる。
(三)著作権侵害行為について
@ <証拠略>によると、被告会社は、別表4の中段記載の各プログラムが記録されたハードディスクを被告会社のコンピューターに設置していたこと、これらのプログラムと別表1記載の各プログラムのうち同じ機能を有する別表4の下段記載の各プログラムとを対比したところ、次のイないしヘに記載した点において一部異なるものの、それ以外の部分はほぼ同じであること及び別表4の中段記載の各プログラム(次のイないしヘ記載の当時のもの)のリビジョン番号(各プログラムが有する番号で、プログラムを修正する度に数字が増える。)は、別表4の下段記載の各プログラム(次のイないしへ記載の当時のもの)の番号と比べた場合、次のとおり、同じか二又は四を加えたものであることが認められる。
イ TTA001(昭和六一年九月一七日当時のもの)が、FTA001(昭和六三年三月一九日当時のもの)と異なっている主な点は、次のとおりであり、リビジョン番号は同じである。
 プログラム名、作成日、使用するファイル名が異なっている。
 プリンターに漢字で印字することができる。
 運賃支払方法の先払、元払を、文字を打つことなく、数字を選択することによって入力することができる。
 支払条件欄に1を入力すると、ゲンキンと表示する。
 金利の率が異なっている。
 一部の商品について処理する部分がない。
ロ TTB001(昭和六一年四月二四日当時のもの)が、FTB001(昭和六三年三月一九日当時のもの)と異なっている主な点は、次のとおりであり、TTB001のリビジョン番号は、FTB001の番号に四を加えたものである。
 プログラム名、作成日、使用するファイル名が異なっている。
 プリンターに漢字で印字することができる。
 入金、支払された金員が戻された場合、金額自体をマイナス表示にしている。
 系列会社について処理する部分がない。
ハ TTB004(昭和六三年三月八日当時のもの)が、FTB004(昭和六三年三月二三日当時のもの)と異なっている主な点は、次のとおりであり、TTB004のリビジョン番号は、FTB004の番号に二を加えたものである。
 プログラム名、作成日、使用するファイル名が異なっている。
 原告で使用していた部門名が削除されている。
ニ TTB012(昭和六三年三月八日当時のもの)が、FTB012(昭和六三年三月二三日当時のもの)と異なっている主な点は、次のとおりであり、TTB012のリビジョン番号は、FTB012の番号に二を加えたものである。
 プログラム名、作成日、使用するファイル名が異なっている。
 系列会社について処理する部分がない。
 小計を打ち出す処理をやめた部分がある。
ホ TTE001(昭和六三年三月八日当時のもの)が、FTE001(昭和六三年三月二三日当時のもの)と異なっている主な点は、次のとおりであり、TTE001のリビジョン番号は、FTE001の番号に二を加えたものである。
 プログラム名、作成日、使用するファイル名が異なっている。
へ TTE006(昭和六三年三月八日当時のもの)が、FTE006(昭和六三年三月二三日当時のもの)と異なっている主な点は、次のとおりであり、TTE006のリビジョン番号は、FTE006の番号に二を加えたものである。
 プログラム名、作成日、使用するファイル名が異なっている。
 仕入れ時の一覧表を作成することができる。
 プリンターに漢字で印字することができる。
A <証拠略>によると、別表4の中段と下段記載の各プログラムを対比したところ、次の事実が認められる。
イ FTA001、FTB001、FTB004、FTE006には、段落名を付けながらプログラム中のどこからも呼ばれていない無意味な段落名が存するが、TTA001、TTB001、TTB004、TTE006にも、同じ名称のプログラム中のどこからも呼ばれていない無意味な段落名が存する。
ロ TTB004とFTB004、TTB012とFTB012、TTE001とFTE001をそれぞれ対比すると、文法的には一個でよい文字と文字の間の空白が二個空いている部分が一致している。
ハ FTA001、FTE001には、定義されているがプログラム中で使用されていないデータ名が存するが、TTA001、TTE001にも、向じ名称の定義されているがプログラム中で使用されていないデータ名が存する。
B <証拠略>によると、被告会社が日本事務器株式会社からコンピューター(NEC一〇〇/八五)の引渡しを受けたのは、昭和六一年四月二二日であるが、その二日後の四月二四日午前九時二一分には、右下TB001のプログラムが、右コンピューターから打ち出されていたことが認められる。
C 右@、Aで認定した事実からすると、別表4の中段と下段記載の各プログラムは、その内容が酷似しているばかりか、普通であれば同じであるはずがない非合理的な部分までも同じであるということができる。また、リビジョン番号も右認定のとおりであるところ、<証拠略>によると、これは、電子的に複写すれば同じ番号になり、その後修正するたびに番号が増えていくものと認められる。そして、これらの事実に、電子的に複写すればキーボードから人力して同じものを作るよりもはるかに早く複写することができること、右B認定のとおり被告会社がコンピューターの引渡しを受けた二日後には別表4の中段記載のプログラムの一つが右コンピューターから打ち出されていたこと及び被告Y2は、別表4の下段記載の各プログラムの作成者であり、原告においてコンピューター部門を担当していたことから、これらのプログラムを原告のコンピューターのハードディスクからフロッビーディスクに容易に複写し得る立場にあったことを併せ考慮すると、被告Y2は、原告を退社するまでの間に、原告に無断で、原告事務所内に設置されていたコンピューター(NEC一〇〇/八五)を利用して、別表4の下段記載の各プログラムをフロッピーディスクに複写したこと、その後、そのフロッピーディスクを用いて、被告会社のコンピューターのハードディスクに複写し、被告会社用に修正したこと、以上の事実を推認することができる(被告Y2本人は、自分が所持していたプログラムのコーディング用紙を参考にして別表4の中段記載の各プログラムを作成した旨供述するが、右供述は、信用することができない。)。
 また、本件プログラム中、別表4の下段記載の各プログラム以外のものについても、別表4の下段記載の各プログラムと同様に、被告Y2が作成したもので、別表4の下段記載の各プログラムとともに原告において使用されていたのであるから、被告Y2において別表4の下段記載の各プログラム以外は複写しなかったとすべき特段の事情を認めるに足りる証拠がない本件においては、被告Y2は、本件プログラムのうち別表4の下段記載の各プログラム以外のものも、原告事務所内において、同所に設置されていたコンピューター(NEC一〇〇/八五)を利用して、ハードディスクからフロッピーディスクに複写したものと推認することができる。
D 被告らは、原告は、被告Y2が原告に在職していたころ、被告Y2に対し、本件プログラムの複製を行うことにつき黙示の承諾を与えていた旨主張する(被告らの主張4)ので、次に判断する。
 被告会社は、右@ないしC判示のとおり、別表4の中段の六個のプログラムの複製物(ハードディスク)を有していたと認められるところ、<証拠略>によると、別表4の中段の六個のプログラムのうちTTEO12は、プログラムを改変途中で、昭和六三年三月八日当時のプログラムのままでは使用できなかったことが認められる。しかし、<証拠略>によると、他の五個のプログラムについては、被告会社においてその業務上使用していたものと認められる。また、右Cで判示したとおり、被告Y2は、別表4の下段の六個のプログラム以外の本件プログラムも、複写したと推認することができること、これらのプログラムは、原告と同種の業務を行っていた被告においても役立つものであったと認められること及び右の五個のプログラムを現に被告会社においてその業務に使用していたことからすると、被告会社は、別表4の中段の六個のプログラム以外にも、本件プログラムを複製したもの、あるいはそれを改変したものをその業務に使用していたものと推認することができる(ただし、本件プログラムのうち、右の六個以外にどのプログラムを使用していたかは明らかではない。)。
 そして、右C認定の複製行為の後、右のとおりプログラムが修正され、被告会社においてその業務に使用されていることからすると、右C認定の複製行為の目的は、フロッピーディスクを持ち出して被告会社において使用することであったものと認められるが、原告が、被告Y2に対し、そのような目的での複製について黙示的な承諾を与えていたとすべき事情は、本件全証拠によるもこれを認めることはできない(被告らは、被告らの主張3(四)@ないしFの事情があると主張するが、これらの事情が認められるとしても、黙示的な承諾があったものとすることはできない。)。
E したがって、右C認定の複製行為は、本件二次プログラムについての原告の著作権を侵害するものであるということができる。
(四)私的使用のための複製及び公正な使用(被告らの主張5及び6)
 右(三)C認定の複製行為の目的は、右(三)Dで認定したとおりであり、法三〇条にいう私的使用のための複製に当たらないことは明らかである。また、被告らが主張するような公正な使用なるものが認められるかどうかはともかく、それが認められるとしても、右(三)D認定の複製行為の目的からすると、右(三)C認定の複製行為が許容されるものでないことは明らかである。
(五)被告Y1及び被告会社の責任について
 被告Y1が、被告Y2と共謀の上、右(三)C認定の複製行為をさせたことを認めるに足りる証拠はない。
 被告会社は、右(三)認定のとおり、被告Y2の違法な複製行為によって作成された複製物によりハードディスク内に作成された本件二次プログラム(その一部)の複製物を、その業務に使用していたことが認められる(本件二次プログラムが被告会社における修正によって別個のプログラムになったと認めるに足りる証拠はない。)。そして、<証拠略>によると、被告Y2は、被告会社において、経理及びコンピューター部門を任されていたことが認められるところ、右ハードディスク内のプログラムは、被告Y2が違法に作成した複製物によって複製されたものであり、その際、被告Y2において、その事情を知っていたことは明らかであるから、被告会社がこれを使用する行為は、法一一三条二項により、著作権を侵害する行為とみなされる。
3 損害について
 原告は、本件プログラムの使用許諾料相当額が損害である旨主張するが、本件においては、右2(一)Bにおいて判示したように、本件プログラムのうち、原告がどのプログラムについて二次的著作権を有するか、二次的著作権を有するものについてどの部分にどの程度の新たな創作性があるかは明らかではない(一次的著作物として新たに作成されたものがあるとしてもそれも特定できない。)。
 そうすると、本件プログラムについて、原告の主張するように一括して使用許諾料相当額を認定することはできない。また、仮に、個々のプログラムについて使用許諾料相当額を認定することができたとしても、本件のように二次的著作物の権利者が原著作物につき複製権を有することを認めることのできない場合には、その二次的著作物の使用許諾料相当額が直ちに二次的著作物の権利者において被った損害額であるとすることはできないから、本件においては、その点においても、損害額を認定することができないことになる。
 さらに、原告は、本件プログラムの使用許諾料を新たな開発費用を根拠に算定すべき旨主張するが、開発費用全額あるいはその半分というような算定方法で本件プログラムにつき権利者が通常受けるべき金銭の額を算定することに合理性があるとすることはできない。
 したがって、本件においては、被告Y2及び被告会社に著作権侵害行為があったとはいえるが、それによる損害については、証明がないといわざるを得ない。
4 結論
 以上の次第で、著作権侵害による不法行為については、その立証があったとすることはできない。
四 弁護士費用の損害
 以上判示したように、本件においては、事務引継ぎ義務違反の不法行為が成立せず、また、著作権侵害の不法行為の成立要件の立証があったとすることができないので、本件訴えのための弁護士費用についても、これを不法行為による損害と認めることはできない。
五 総括
 よって、本件請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

名古屋地裁第9民事部
 裁判長裁判官 岡久幸治
 裁判官 森義之
 裁判官 田澤剛


別紙 物件目録<略>
別表
 1 プログラム一覧表<略>
 2 支払明細表<略>
 3・4<略>
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/