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【事件名】「三国志V」事件
【年月日】平成7年7月14日
 東京地裁 平成5年(ワ)第13071号 著作者人格権侵害差止請求事件

判決
原告 株式会社光栄
右代表者代表取締役 X
右訴訟代理人弁護士 森本紘章
同 遠藤秀幸
被告 株式会社技術評論社
右代表者代表取締役 Y
右訴訟代理人弁護士 志村新
同 藤田康幸


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請 求
 被告は、別紙物件目録記載の記憶媒体を製造頒布してはならない。
第2 事案の概要
一 本件は、被告の製造頒布するフロッピーディスクに記憶されているプログラムが、原告の著作物であるプログラムについての同一性保持権を侵害するとして、原告が被告に対し、著作権法20条1項、112条1項に基づき、プログラムが記憶されたコンピュータ用記憶媒体の製造頒布の差止めを請求する事案である。
二 争いのない事実
1 原告は、平成4年2月4日、「三国志V」と題するコンピュータ用シミュレーションゲームプログラム(本件著作物)を創作し、本件著作物に関する著作者人格権を有する。
2 被告は、平成5年2月25日以降、商品名「三国志V非公式ガイドブック」と題する書籍を発売しているが、右書籍には、別紙物件目録記載のプログラム(被告プログラム)が入ったフロッピーディスクが添付されている。
3(一)本件著作物中には、出荷時において、登場人物として約500名の既成君主、既成武将が設定されているが、これらについては、中国の古書「三国志演義」から得た思想、感情をもとに登場人物像を分析し、その能力を六つの要素に分け、1から100までの範囲で、各登場人物毎にその能力を数値(以下、数値化された能力を「能力値」という。)で表現して設定してある。また、本件著作物においては、既成君主、既成武将のほかに、ユーザーが、データ登録用プログラムを用いて68名の登場人物(新君主8名、新武将60名。以下「新武将等」という。)を作り出し、その能力値を新たに設定できるようになっている。
(二)原告は、本件著作物中にユーザーによる新武将等の登録用ファイルとして「NBDATA」という名称のファイルを含ませ、「NBDATA」中に能力値を書込むため、データ登録用プログラムを内蔵させたが、右データ登録用プログラムは、
@ キーボードからの情報を読み取るプログラム
A キーボードから読み取った情報を能力値としてメモリー上に書き込むプログラム
B メモリー上に書き込んだ能力値をフロッピーディスク上の「NBDATA」の能力値として書き込むプログラム
C ユーザーがメモリー上に書き込める能力値を1から100までとするチェックルーティンプログラム を含んでいる。
4(一)被告プログラムは、本件著作物に含まれるデータ登録用プログラムに代わる別個のプログラムで、前記チェックルーティンプログラムを含まないデータ登録用プログラムであり、前記68名の新君主、新武将につき、ユーザーが100を超える能力値を設定できるものである。
(二)被告プログラムは、ユーザーがこれを用いることにより、目的データがどのフロッピーディスクのどのファイルに記憶されているかを捜す作業及びデータの構造を解析する作業を行うことなく、フロッピーディスク上の「NBDATA」に能力値を書込む作業が行えるようにしたプログラムである。
(三)被告プログラムを使用して、ユーザーが新武将等を登録し100を超える能力値を設定しても、原告著作物のメインプログラム、データ登録用プログラム、チェックルーティンプログラムが改変されるものではない。
三 争 点
1 被告プログラムは本件著作物を改変するものといえるか
(一)原告の主張
(1)本件著作物においてユーザーが書き込む「NBDATA」中の能力値は、すべて1から100までに限られ、それ以外の能力値を書き込まれた「NBDATA」が本件著作物中に含ませられることはない。なお、アイテムと称する道具等を保有することにより見かけ上の能力値が100を超える場合もあるが、登場人物の六つの能力それ自体について100を超える能力値を持つ者はいない。
 これに対し、ユーザーが被告プログラムを使用して「NBDATA」に100を超える能力値を与えて本件著作物によるゲームをプレイするときには、原告の予定した範囲外の展開になるものであるから、被告プログラムによってフロッピーディスク上の「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むことは、本件著作物の同一性を侵害する改変行為である。
 すなわち、本件著作物は、登場人物の能力値を100を超えては入力できないよう、チェックルーティンプログラムを内蔵させ、これにより能力値設定範囲を限定し、能力値の組合せも当然その範囲内のすべて原告の予定した組合せに限定して思想、感情の同一性を保持しているのであって、フロッピーディスク上の「NBDATA」に右限度を超えた能力値を書き込むことは原告の意に反する本件著作物の変更である。
 被告プログラムは、右のような結果を得ることのみを目的としたプログラムであり、これをコンピュータ上で実行することも改変行為である。
 なお、「NBDATA」は出荷時に何も書き込まれていないのではなく何の能力値も設定されていないことを示すデータが書き込まれている。
(2)そして、被告が、ユーザーがこれを利用することによって右(1)のように本件著作物を改変する結果を得ることのみを目的とする被告プログラムを記憶させたフロッピーディスクを製造頒布する行為も改変行為に該当する。
(二)被告の主張
(1)「NBDATA」はプログラム著作物ではない。また、被告プログラムは、本件著作物にすでに設定されている能力値を書き換えるものではなく、新たな能力値を書き込むことができるプログラムにすぎず、本件著作物に変更、切除その他の改変を加えるものではない。本件著作物においては、シミュレーションゲームプログラムとしての性質上、既成君主、既成武将、新君主及び新武将ともに登場人物の能力値はゲーム中にさまざまに変動し、また、新武将等については1から100の範囲内においてであってもユーザーが能力値を自由に設定できる。さらに、種々のツールにより本件著作物中の「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むことは可能である。これらの能力値の組合せは無限に等しいのであるから、チェックルーティンプログラムを内蔵させることによって思想、感情の同一性を保持することはできない。
(2)被告プログラムは、本件著作物の改変を目的としたものではない。被告プログラムは、本件著作物中のデータ登録用プログラムの、
@ 新武将等の能力値が乱数で決まってしまい、ユーザーの意思が充分反映されないこと
A 設定できる能力値に限界があること
B 漢字入力が不便であること
などの欠点を補うことを目的とするものである。100以下であれ、100を超えるものであれ、いかなる能力値を入力するかは全くユーザーの意思に委ねられている。
(3)被告プログラムを記憶させたフロッピーディスクの製造頒布行為は、本件著作物の改変行為とはいえない。
2 著作権法20条2項3号、4号の適用の有無
(一)被告の主張
 被告プログラムは、本件著作物のデータ登録用プログラムの欠点を補いより効果的に利用できるようにするために必要な便宜をユーザーに提供するもので、著作権法20条2項3号、4号により、また47条の2の趣旨からしても、同一性保持権の侵害とはいえない。
(二)原告の主張
 便宜の提供と著作権法20条2項3号にいう効果的利用とは全く別の概念である。そもそも被告の主張する欠点ないし不便は、ゲーム性に由来するものであり、コンピュータ利用上の欠点ないし不便に当たらない。
3 侵害行為の主張
(一)原告の主張
 ユーザーは、被告作成のマニュアル及び画面上の操作方法に関する指示説明にしたがって、100を超える能力値を入力し、コンピュータの実行キーを押す等の作業をするだけで、これ以外の作業はすべて被告プログラムが行って、「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むのであるから、侵害行為の主体は被告である。
(二)被告の主張
 仮に、被告プログラムをコンピュータ上で実行することが本件著作物の改変にあたるものであるとしても、その主体は、ユーザーであって、被告ではない。
第3 争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠と前記争いのない事実によれば、以下のとおり認められる。
(一)本件著作物には、プログラムとして、メインプログラム、データ登録用プログラム及びチェックルーティンプログラムが含まれ、データとして、原告が作成した既入力のデータファイル及びユーザーが作成するデータファイルが含まれているところ、ユーザーが作成するデータは「NBDATA」というファイルに書き込まれる仕組みになっている(乙13)。
 「NBDATA」は出荷時に何も書き込まれていないのではなく何の能力値も設定されていないことを示すデータが書き込まれており(甲8、乙13)、そのデータは、新武将等を設定することを望むユーザーにより1から100までの能力値に書換えることが予定されているものである(弁論の全趣旨)。
(二)本件著作物において、登場人物に関し能力要素毎に設定される能力値には予め記憶、蓄積されたものもあるが、これはコンピュータに対する指令を組み合わせたものではなく、ゲームそれ自体のプログラムにしたがって処理されるデータである(甲6、乙2)。
 「NBDATA」において、新武将等の能力値は、ユーザーが設定するものであり、原告が各登場人物毎の能力を能力値として表現しているとはいえず、またその能力値はプログラムの表現として表されたものとはいえない(弁論の全趣旨)。
(三)本件著作物において、新武将等の能力値を1から100までと制限することは、プログラムの仕様またはアイデアの領域に属するものであり、そのような仕様またはアイデアからはいくつかのプログラム表現が可能であり、これがプログラム表現として表れてくるのは、新武将等の能力値を1から100までと制限するための記述がなされているデータ登録用プログラムに内蔵されているチェックルーティンプログラムにおいてである。
(四)被告プログラムは、本件著作物に含まれるデータ登録用プログラムに代わる別個のプログラムで、ユーザーに提供されるデータ登録用プログラムである(争いがない。)。
 被告プログラムは、ユーザーが「NBDATA」に能力値を書込む作業が行えるようにしたもので、被告プログラムを使用して、ユーザーが新武将等を登録し100を超える能力値を設定しても、原告著作物のメインプログラム、データ登録用プログラム、チェックルーティンプログラムが改変されるものではない(争いがない。)。
2 以上の事実を前提に改変行為の有無を検討するに、本件において原告は、被告プログラムがフロッピーディスク上の「NBDATA」に100を超える能力値を与えて「三国志V」をプレイするときに原告が予定した範囲外の展開となるところから、「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むことをもって改変行為と主張する。
 他方、被告プログラムを使用して、ユーザーが新武将等を登録し100を超える能力値を設定しても、それによって、本件著作物に含まれるプログラム(メインプログラム、データ登録用プログラム及びチェックルーティンプログラム)が改変されるものでないことは前記のとおり争いがなく、「NBDATA」そのもののデータは、前記のとおりユーザーにより書換えが予定されているものであり、原告も「NBDATA」ファイルに100を超える能力値を書き込むことを「NBDATA」ファイルの改変として同一性保持権の侵害を主張するものでない。
 被告プログラムにより、チェックルーティンプログラムの規則外の能力値が設定されれば、原告が本件著作物を作成したときに設定した能力値の意味が変わり、ゲーム展開やストーリーが原告の当初予定した範囲を越える場合があることは当然予想されるところである。また、能力値自体は、それがゲームの進行において、原告が予定した範囲を越えてその展開を変えるものとしての意味を有していても、データであると考えられる。
 ところで、著作権法においては「プログラムの著作物」とは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう」(同法2条1項10号の2)とされている。したがって、本件著作物のプログラムを実行してプレイした結果展開されるストーリーは、指令を組み合わせたものとしてのプログラムの著作物ということはできないし、データもプログラムの著作物ではないから、被告プログラムを使用してフロッピーディスク上の「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むことをもって、本件著作物の同一性を侵害する改変行為であるということはできない。
3 右のとおり、被告プログラムを使用して「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むことはプログラムの著作物である本件著作物の同一性を侵害する改変行為であるということができない以上、その余の争点につき判断するまでもなく原告の請求は理由がない。

 東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 西田美昭
 裁判官 部眞規子
 裁判官 池田信彦
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