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翻訳権の戦後史
 

『翻訳権の戦後史』

著者:宮田 昇
発行:みすず書房
定価:4,600円(+税)
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 【第21回 日本出版学会賞 受賞】

[東京新聞 99/3/14より]
 本書は、月刊「みすず」に連載されていた「翻訳権十年留保の戦後」に筆を加え、単行本としたものである。著作権の本ではあるが、法律書ではなく、「翻訳権十年留保」を切り口として、翻訳出版の戦後史を検証・証言した書である。
 翻訳権十年留保とは、外国で原著作物が発行されてから十年の間にその翻訳物が出版されなかったときは原著作物の翻訳権が消滅し、以後自由に翻訳することができるとした旧著作権法の規程をさす。著作権保護の多国間条約であるベルヌ条約の認めた規程である。日本は、今からちょうど百年前に、この規程の適用を前提として同条約に加盟している。
 著者の宮田昇氏は、元編集者であり、児童文学者であり、海外著作権エージェントの大手、日本ユニエージェンシーの創業者であり、今も大・小出版社の編集者達の相談相手として出版界に知られている。
 著者は、翻訳権十年留保を廃止すべしという海外の要求の誤解を指摘する。日本は、三十年前に現在の著作権法を制定して以来、翻訳権にも他の著作権と同様に著作者の死後五十年の保護を与えているからである。したがって、廃止論の実質は、現在の著作権法制定までに翻訳権十年留保の規程によって消滅した権利を復活させない、という大原則がある。この二つを踏まえて、著者は安易な廃止論にはくみしない。
 著者は、翻訳権十年留保に対する諸外国の誤解の根強さが占領政策その他に反映していることを一つ一つ解き明かす。そして一定の過渡期を設けて翻訳権十年留保を廃止すべきであるとしつつ、連合国の著作権の保護を約十年分延長させている「戦時加算」がその誤解の上に乗っていることを指摘し、この廃止と十年留保の廃止を交換条件にすべしと提示する。リアルな提案である。あるときはテレコを担いで長老達を訪ね、あるときは国会図書館に籠り、あるときは人的ネットワークを頼りに膨大な資料の山を渉猟し、占領下の検閲制度から今日のWTO Trips協定に至るまで、貴重な事実を掘り起こした渾身の書である。(北村行夫)

[北海道新聞 99/4/18より]
 日本ユニエージェンシーという版権売買の会社を起こし、現在はユニ著作権センターの代表である宮田昇氏が『翻訳権の戦後史』(428ページ、みすず書房)を出版した。宮田氏は海外出版物の翻訳権の仲介の仕事を戦後一貫して続けている。その経験をもとに、米軍占領時代とその後の混乱期の翻訳権の歴史を丹念に書き込んでいる。日本の文化は海外の翻訳文化であるともいわれるが、現在でも日本の出版物の約10%は翻訳書である。戦後の翻訳に関する重要な文献である。

[京都新聞 99/5/16より]
 我が国の近代化を支えた翻訳。しかしそこには常に翻訳権の問題がからんだ。出版社で長く翻訳に関わり海外著作権エージェントとしても活躍した元編集者が語る戦後の翻訳権をめぐる歩み。占領下から平和条約調印後。万国著作権条約への加盟。そして旧著作権法にもとづく「翻訳権十年留保」問題…。ことにこの「十年留保」問題は戦後の翻訳界でもっとも錯綜した事態を引き起こした問題で、このへんを軸に翻訳から見たもう一つの戦後史。
 
<目次より>
 忘れられた翻訳権十年留保/占領下「五十年フィクション」による統制/入札と占領後期の攻防/平和条約調印後/万国著作権条約加入と錯綜する保護期間/著作権法改正作業と十年留保保持権の運動/新著作権法施行と十年留保の問題
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