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【事件名】“関ケ原検定事業”事件B(2)
【年月日】令和7年10月8日
 知財高裁 令和7年(ネ)第10036号 著作権侵害(不法行為)による損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70582号)
 (口頭弁論終結日 令和7年8月27日)

判決
控訴人 X
被控訴人 関ケ原町
被控訴人 Y1(以下「被控訴人Y1」という。)
被控訴人 Y2(以下「被控訴人Y2」という。)
被控訴人 Y3(以下「被控訴人Y3」といい、被控訴人Y1及び同Y2と併せて「被控訴人Y2ら」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士 池田智洋


主文
1 控訴人の被控訴人Y2らに対する本件控訴を却下する。
2 その余の本件控訴を棄却する。
3 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決主文第3項を次のとおり変更する。
2 被控訴人関ケ原町は、控訴人に対し、138万1000円及びこれに対する令和5年10月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等(略称等は、新たに用いるもののほか、原判決に従う。)
1 事案の要旨
 本件(原審)は、控訴人が、被控訴人関ケ原町が実施していた地域振興企画である「関ケ原検定」(関ケ原検定)において、被控訴人らが、原判決別紙著作物目録記載の各デザイン(本件各デザイン)及び原判決別紙商標目録記載の各登録商標(原告各商標)を控訴人の許可を得ることなく使用しており、この行為は本件各デザインに係る著作権(複製権又は翻案権、公の伝達権)及び原告各商標に係る商標権を侵害するものであると主張して、被控訴人関ケ原町に対し、@国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金347万4000円(著作権法114条3項により算定される額)及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和5年10月26日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払、及び、A著作権法115条に基づき、控訴人の名誉を回復するための措置を求めるとともに、被控訴人らに対し、B著作権法112条1項及び2項に基づき、本件各デザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄、並びに、C商標法36条1項に基づき、原告各商標の使用の差止めを求める事案である。
 原審は、原判決別紙著作物目録記載2〜5の各デザインについての著作権侵害を理由として、被控訴人関ケ原町に対し、その複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め及び同物品の廃棄並びに損害賠償金20万円及び遅延損害金の支払を認め、その余の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が、原判決主文第3項につき、損害賠償金159万1000円のうち138万1000円及び遅延損害金の支払への変更を求めて控訴した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第2の2、3及び第3(3頁12行目〜10頁13行目)のとおりであるから、これを引用する(ただし、当審において控訴人が不服を申し立てていない事項に係る第2の2(3)、3(1)、(3)、(5)、第3の1、3、5を除く。)。
3 当審における控訴人の補充主張
(1)控訴人が被控訴人らに令和3年6月17日に送付した「商標権侵害通知」に対し、被控訴人Y2が控訴人に対して宛てた「ライセンス契約手順書」(甲25)において、不法行為を詫びる書面と共にその付加価値を認めている点を考慮すべきである。
(2)本件において、著作権法114条3項に基づいて算定される損害額は、以下の計算の合計金額が相当である。
ア 原判決別紙著作物目録記載2のデザイン(本件ポスター)
@ 創作対価 12万円
A ライセンス使用料(年) 20万4000円
B 基本使用料 15万6000円
C 慰謝料 10万円
D 売上損害 5万6000円
E 小計 63万6000円
イ 同目録記載3のデザイン(本件実施概要)
@ 創作対価 8万円
A ライセンス使用料(年) 13万6000円
B 基本使用料 10万4000円
C 慰謝料 7万円
D 売上損害 3万7000円
E 小計 42万7000円
ウ 同目録記載4のデザイン(本件賞状)
@ 創作対価 5万円
A ライセンス使用料(年) 8万5000円
B 基本使用料 6万5000円
C 慰謝料 4万円
D 売上損害 2万4000円
E 小計 26万4000円
エ 同目録記載5のデザイン(本件合格カード)
@ 創作対価 5万円
A ライセンス使用料(年) 8万5000円
B 基本使用料 6万5000円
C 慰謝料 4万円
D 売上損害 2万4000円
E 小計 26万4000円
オ 合計159万1000円のうち138万1000円を請求する。
第3 当裁判所の判断
1 当審は、被控訴人Y2らに対する控訴は控訴の利益を欠き不適法であり、また、被控訴人関ケ原町に対する控訴については、原審と同様の理由により、控訴人の被控訴人関ケ原町に対する請求は、控訴人が著作権(複製権)侵害による損害賠償請求として20万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。その理由は以下のとおりである。
2 被控訴人Y2らに対する控訴について
 控訴人は、被控訴人Y2らに対して控訴したが、同人らに対する請求をいずれも棄却した原判決に対して不服を申し立てていないから、被控訴人Y2らに対する控訴は控訴の利益を欠き、不適法である。
3 被控訴人関ケ原町に対する控訴について
(1)後記(2)のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第4の2及び4(11頁9行目〜14頁8行目、同24行目〜16頁4行目)のとおりであるから、これを引用する。
(2)当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は、被控訴人Y2が控訴人に対して宛てた「ライセンス契約手順書」(甲25)において、不法行為を詫びる書面と共にその付加価値を認めている点を考慮すべきである旨を主張する。
 しかし、著作権法114条3項により算定される損害額として20万円が相当であることは、引用に係る原判決「事実及び理由」第4の4において判示したとおりであるところ、上記「ライセンス契約手順書」(甲25)は、その表題のとおり、ライセンス契約を締結するに当たっての手順を定めたものにすぎず、ライセンス契約の内容について定めたものではないから、被控訴人の上記主張の趣旨を考慮したとしても、上記認定判断を左右するものとはいえない。
イ また、控訴人は、原判決別紙著作物目録記載2〜5の各デザインに、創作対価、ライセンス使用料(年)、基本使用料、慰謝料、売上損害を算定し、その合計額が相当である旨を主張する。
 しかし、著作権法114条3項により算定される損害額として20万円が相当であることは上記判示のとおりであるところ、控訴人が主張する算定項目は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を定めるについて、その根拠や妥当性が明らかではないから、被控訴人の上記主張の趣旨を考慮したとしても、上記認定判断を左右するものとはいえない。
ウ したがって、控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。
4 結論
 以上のとおりであるから、被控訴人Y2らに対する本件控訴は不適法であるからこれを却下するとともに、被控訴人関ケ原町に対する本件控訴については、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 伊藤清隆
 裁判官 天野研司
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