| 判例全文 | ||
| 【事件名】金沢ケーブルへの発信者情報開示命令異議申立事件 【年月日】令和7年9月26日 東京地裁 令和7年(ワ)第70047号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件 (口頭弁論終結日 令和7年7月15日) 判決 原告 金沢ケーブル株式会社 同訴訟代理人弁護士 林正人 被告 株式会社du78 同訴訟代理人弁護士 杉山央 主文 1 東京地方裁判所令和6年(発チ)第11178号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年12月19日原告に対し別紙発信者情報目録記載の情報を被告に開示することを命じた決定を認可する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 東京地方裁判所令和6年(発チ)第11178号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年12月19日にした決定を取り消す。 2 被告の上記発信者情報開示命令の申立てを却下する。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、被告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)により、別紙侵害著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)に係る被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことを理由に、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和6年法律第25号による改正後の題名は、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」であり、以下「法」という。)5条1項に基づき、東京地方裁判所に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める申立て(令和6年(発チ)第11178号発信者情報開示命令申立事件)をしたところ、同裁判所がこれを認める決定(以下「本件決定」という。)をしたことから、同申立ての相手方であり電気通信事業を営む原告が、被告に対し、法14条1項に基づく異議の訴えを提起し、本件決定の取消し及び同申立ての却下を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(枝番を含む)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、有線テレビジョン放送施設を利用した電気通信事業等を目的とする事業者である。 イ 被告は、映像制作、動画配信業務、タレントマネージメント等を目的とする株式会社である。 (2)ビットトレントの仕組み(乙4〜6、9、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコルである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ビットトレントを利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)に参加している端末(ピア)同士の間で当該ピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする者は、インデックスサイトと呼ばれるインターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに係るトレントファイルをダウンロードする。端末にインストールしたソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。 上記の手順によってピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、当該他のピアがこれに応答することを確認した上(以下、この当該他のピアとの通信を「ハンドシェイクの通信」という。)、当該他のピアが当該ピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースをダウンロードする。 (3)調査会社による調査(乙1、7〜9) 株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)は、別紙発信者情報目録記載の日時、IPアドレス及びポート番号を以下の方法により特定した。 本件調査会社は、@インデックスサイトにおいて、本件動画のタイトル、品番等を基に検索し、トレントファイルをダウンロードし、A調査に用いるPC(以下「本件端末」という。)において、ビットトレントの製作会社によって管理されているビットトレントクライアントソフト「●(ギリシア文字。ミュー)Torrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)を起動し、上記トレントファイルから、上記で検索した本件動画に係るデータのダウンロードを開始し、Bその間、本件ソフトウェアにより、本件端末の画面上に、本件端末に対して上記データを送信しているピア(本件発信者)に割り当てられたIPアドレスを表示させ、Cその画面を、画面上に表示した時間(日本標準時(JST))と共にキャプチャー画像として記録し、D本件発信者のポート番号を取得し、別紙発信者情報目録記載のポート番号を記録し、E本件端末にダウンロードした本件ファイルを再生して本件動画と比較し、同一であることを確認した。 上記キャプチャー画像をプリントアウトした詳細ログには、別紙発信者情報目録記載の日時及びIPアドレスが記載されている。 (4)本件発信者情報の保有 上記(3)の本件発信者と本件ソフトウェアとの間の通信は、本件発信者が原告のインターネット接続サービスの提供を受けて行ったものであり、原告は本件発信者情報を保有している。 (5)本件発信者情報に係る開示命令の申立て及び本件決定 被告は、本件発信者により、本件動画に係る被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことを理由に、法5条1項に基づき、東京地方裁判所に対し、本件発信者情報の開示を求める申立て(令和6年(発チ)第11178号発信者情報開示命令申立事件)をしたところ、同裁判所は、令和6年12月19日、原告に対し本件発信者情報を被告に開示することを命じる本件決定をした。 3 争点及びこれに関する当事者の主張 本件の争点は、被告が本件動画の著作権を有するか否かである。 (被告の主張) 本件動画のパッケージには、特定非営利活動法人適正映像事業者連合会(以下「IPPA」という。)の認証マークとIPPAの会員番号が記載されているところ、同番号は、株式会社シエスタ(以下「シエスタ」という。)のものであるから、著作権法14条により、本件動画の著作者はシエスタであることが推定される。 被告は、シエスタからアダルトコンテンツの事業を移転させるために設立された会社であり、設立と同時にシエスタから本件動画に係る著作権の譲渡を受けたから、被告は本件動画の著作権を有する。 なお、本件動画のパッケージには「企画・制作NON」と表示されているが、これは、被告(シエスタ)が、アダルト動画製品の販売に際して利用しているレーベル名である。 (原告の主張) 否認する。 本件動画のパッケージに記載された「NON」と被告の関係は不明である。 第3 当裁判所の判断 1 争点(被告が本件動画の著作権を有するか否か)について (1)後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア シエスタは、平成19年3月23日に設立された、映像の撮影、編集等を業とする株式会社である。(乙23) イ 本件動画は、平成30年2月2日、AVメーカー「NON」のレーベルから発売された。(甲1、乙27) ウ 本件動画のパッケージには、「企画・制作NON」との表示のほか、シエスタのIPPAにおける会員番号(030012)を併記したIPPAの審査済証が表示されている。(乙2、21、22、弁論の全趣旨) エ シエスタは、令和元年11月14日をもって、同日付けで設立された被告に対し、本件動画の著作権を譲渡した。(乙24、26、弁論の全趣旨) (2)上記(1)で認定した事実によれば、本件動画はシエスタの申請によりIPPAの審査済証を受けたことが認められるところ、シエスタが、著作者ではないにもかかわらず、IPPAに審査を申請したと認めるべき事情は見当たらないから、「NON」とのレーベル名は、シエスタがアダルト動画を販売するに当たり用いた別名であり、本件動画の販売に当たっても、シエスタは、自己を表すものとして、パッケージに「企画・制作NON」と表示したことが認められる。また、弁論の全趣旨によれば、著作者がアダルト動画を販売するに当たり、動画のパッケージ等に社名を表示するのではなく、それに代えて別の名称をレーベル名として用いる場合があることがうかがわれる。 以上を併せ考慮すれば、本件動画は、公衆に提供されるに際して、シエスタを表す名称が、本件動画の著作者名として通常の方法により表示されているということができるから、シエスタは、著作権法14条により、本件動画の著作者と推定され、同推定を覆すに足りる事情はうかがわれない。 したがって、シエスタは、本件動画の著作者と認められ、その後、被告は本件動画の著作権の譲渡を受けているから、被告は本件動画の著作権を有していると認められる。 2 被告の請求について (1)権利侵害の明白性 前提事実(2)のとおり、ビットトレントは、ビットトレントネットワークを形成している不特定のピアとの間で、特定のファイルに係るデータを細分化したピースを転送又は交換し合うことで、特定のファイルを共有するプロトコルであり、各ピアが自身のピースを転送する通信は、不特定の公衆によって直接受信されることを目的とする通信の送信を行うものといえる。 そして、前提事実(2)及び(3)並びに上記1によれば、本件発信者は、ビットトレントネットワークを介して、本件ソフトウェアに対し、本件動画を複製して作成された本件ファイルの一部であるピースを転送し、もって本件動画の一部を自動公衆送信(著作権法2条1項9号の4)したものと認められるから、当該通信により被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 (2)開示関係役務提供者 上記(1)で説示したところによれば、本件発信者が本件ソフトウェアに対して本件ファイルの一部であるピースを送信した通信は、法2条1号の「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」であるといえるから、「特定電気通信」に該当する。そして、前提事実(4)のとおり、上記通信は、本件発信者が原告のインターネット接続サービスの提供を受けて行ったものであるから、原告は同条11号の「開示関係役務提供者」に当たる。 (3)開示を受けるべき正当な理由 弁論の全趣旨によれば、被告は、本件発信者に対し、本件動画に係る著作権侵害を理由とする損害賠償請求等を準備していることが認められることから、法2条10号の「発信者情報」である本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。 (4)小括 以上によれば、被告は、原告に対し、法5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。 第4 結論 よって、原告に本件発信者情報の開示を命じた本件決定は相当であるから、これを認可することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 澁谷勝海 裁判官 本井修平 裁判官 浅川浩輝 (別紙)発信者情報目録 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス (以下省略) (別紙侵害著作物目録 省略) |
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